クロマチンタンパク質PHF6による造血幹細胞の制御
島根大学医学部生化学講座 ◇ 〒693–0021 島根県出雲市塩冶町89-1
造血幹細胞(hematopoietic stem cell:HSC)は正常血液細胞のみでなく,白血病の発生母地であり,白血病の発症頻度は加齢とともに増加する.クロマチンの構造変換を介した遺伝子発現制御は,細胞増殖と分化の制御に重要な役割を果たす.近年の白血病ゲノムのハイスループットシークエンス解析から,クロマチンタンパク質の高頻度の体細胞変異が見つかっている.このうち,TET2,DNMT3A,ASXL1, PHF6などはHSCの機能制御に関わる因子であり,その機能欠失型変異は白血病を誘導しないものの,他の変異と協調的に働く.本稿では,我々が研究しているPHF6を中心として,クロマチンタンパク質によるHSCの機能制御と,その制御異常に起因する造血器腫瘍の発症について概説する.
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本稿では,ヒト遺伝子を斜体の大文字3文字(PHF6),マウス遺伝子は斜体で頭文字のみ大文字(Phf6),タンパク質は生物種にかかわらず大文字(PHF6)で表記する.ヒトPHF6タンパク質は,365アミノ酸から構成される約41 kDaのクロマチンタンパク質であり,そのアミノ酸配列は脊椎動物の間で高度に保存されている1, 2)
.PHF6は,extended plant homeodomain(ePHD)を二つ有する(図1).このePHDは,N末端側のPre-PHD(C2HCタイプのZnフィンガー)とC末端側のnon-canonical PHDフィンガー(C4HC2HタイプのZnフィンガー)から構成される1).典型的なPHDフィンガーは未修飾のヒストンH3およびに4番目のリシンがメチル化されたヒストンH3(H3K4me)のリーダー(Reader)として機能する.しかし,PHF6のePHDは,in vitroでは二重鎖DNAへ塩基配列非特異的に結合するが,ヒストンには結合しない3).一方で,ヒストンH3のメチル化酵素KMT2D(MLL2),KMT2C(MLL3)もePHDを二つ持つことから4),ePHDもヒストンH3の化学修飾や認識に関わる可能性が示唆される.細胞内でPHF6は,細胞質と核の両方に局在し,核内では一部が核小体に存在する.この局在は,二つの核局在配列[nuclear localization signal(NLS)1, NLS2]と核小体局在配列(nucleolar localization signal:NoLS)により制御される1).
PHF6タンパク質は,二つのextended PHD(ePHD)を特徴とする.ePHDは,Pre-PHDとnon-canonical PHDフィンガーから構成される.文献1より改変.
PHF6の発現の細胞特異性は低く,多くの組織で恒常的に発現する.造血組織ではリンパ球および造血幹・前駆細胞において高発現する5).胎生14.5日の中枢神経系でのPHF6の発現は,皮質板および中間帯で高いのに対して,胎生16.5日では脳室帯および脳室下帯に限局される6).PHF6 mRNAは,3′非翻訳領域に3か所のマイクロRNA(miR-128)結合部位を持ち,発生過程で起こる皮質板でのPhf6の発現低下はmiR-128により制御される7).同様に,T細胞性急性リンパ性白血病(T-cell acute lymphoblastic leukemia:T-ALL)でもmiR-128がPHF6の発現制御に関わり,その過剰発現は恒常活性型NOTCH1で誘導されるT-ALLの発症を促進する8).
PHF6の分子機能に関しては,いくつか論文が発表されているものの,いまだ十分に理解されていない.ここでは,これまで同定されているPHF6の結合因子に関して概説する.
Toddらは,PHF6をベイトとしてタンデムアフィニティー精製を行い,NURD複合体の構成因子(CHD3/4, HDAC1およびRBBP4/7)を同定した(図2)9).NURD複合体はATP依存的なクロマチンリモデリング活性とヒストン脱アセチル化活性を有し,クロマチン高次構造の変換に働く.この複合体は,多様な組織で細胞分化や発がんに関与するが,特に,神経系の発生・機能に重要な役割を果たす10).造血系でのMi-2β欠損は,造血幹細胞(hematopoietic stem cell:HSC)の分化プライミングに働くことが明らかにされている11, 12)
.
PHF6の一部は核小体に局在することから,リボソームRNA(rRNA)の転写制御に関与することが想定されていた.実際,Wangらは,PHF6とUBFの物理的相互作用を報告した13).UBFはRNA polymerase I(Pol I)によるrRNAの転写制御に関与する転写因子である.PHF6はrRNAの転写に抑制的に作用し,PHF6の機能阻害は過剰の転写化を引き起こし,これがrDNA領域のDNA損傷さらにはゲノム不安定性を誘導することを報告した(図2)13).この知見は,PHF6の細胞内での局在と一致するが,その後,この結果を支持する報告はない.また,rRNAの転写制御異常やrDNA領域のDNA損傷が造血器腫瘍の発症に関わるかは不明である.
PHF6とPAF1複合体(PAF1c)との相互作用が報告されている(図2)14).PAF1cはPAF1, LEO1, CDC73, CTR9から構成される複合体であり,転写伸長の制御に関わる15).Zhangらは,in uteroエレクトロポレーション法を用いて,Phf6およびPaf1の個体レベルでの機能阻害実験を行い,いずれの因子の機能阻害も胎生期のニューロンの移動を阻害することを示した.さらに,発現解析からニューログリカンC/コンドロイチン硫酸プロテオグリカン5を下流標的遺伝子として同定し,その過剰発現がPhf6の機能阻害で引き起こされるニューロンの移動異常をレスキューすることを明らかにした14).したがって,少なくともPHF6の一部は,PAF1cを介して機能すると予想される.しかし,PHF6が転写伸長の制御に関わるかは,今後の課題である.他方で,Cdc73は造血幹・前駆細胞の維持およびMLL融合遺伝子で誘導される急性骨髄球性白血病(acute myeloid leukemia:AML)細胞の増殖に必須の役割を果たす16).
MorganらはPHIP/BRWD2複合体の解析を行い,PHF6を同定した(図2)17).PHIP/BRWD2は,WD repeatとbromodomainを有するクロマチン結合タンパク質であり,CryptoTudor domainを介して4番目のリシン残基がメチル化されたヒストンH3(H3K4me)でマークされた転写活性の高い遺伝子のプロモーターに局在する18).PHF6も遺伝子プロモーター上のH3K4meと共局在する19).したがって,PHIP/BRWD2がPHF6のクロマチンへのリクルートに働く可能性が示唆される.一方で,PHIPはCullin–RING ubiquitin ligase complex 4(CRL4c)の基質受容体として機能する(PHIPを基質受容体とするCRL4cをCRL4cPHIPと表記する)20).Nakagawaらは,HSCの制御因子であるTET2のクロマチンへの結合が,CRL4cVprBPによるモノユビキチン化により制御されること,造血器腫瘍で見つかるTET2K1299変異がモノユビキチン化欠損変異であることを報告した21).同様に,PHF6がCRL4cPHIPによりモノユビキチン化され,標的にリクルートされる可能性が示唆される.
HIFは低酸素応答を制御する転写因子であり,血管新生,エネルギー代謝や幹細胞性の維持などさまざまな生命現象に関わる.HIFはHIF-1αとHIF-1βサブユニットから構成され,それぞれのサブユニットはbHLH-PASと呼ばれるDNA結合と二量体形成に関わるドメインを有する.通常,細胞内には過剰量のHIF-1βが存在し,HIF-1α量がHIF活性の律速となる.HIF-1αの量はユビキチン-プロテアソーム経路により制御される22).この精密な量的制御はHSCの維持に重要な役割を果たす.すなわち,HIF-1αの減少のみでなく,その増加も幹細胞性の喪失を引き起こす23).Gaoらは,免疫沈降法によりPHF6とHIFの結合を報告している24)(この結合の役割に関しては,下記4節3項を参照).
2019年から2020年にかけて,我々を含む四つのグループが独自にPhf6遺伝子の造血組織特異的なノックアウトマウスに関する論文を発表した25–28)
.Wendorffらは,胎生期の造血細胞からPhf6遺伝子を欠損させ(Vav1-iCre;Phf6Δ/y),成体造血への影響を検討した.この結果,Phf6欠損はHSC数には影響しないものの,X線照射により骨髄破壊したレシピエントを用いた競合的骨髄移植実験では,Vav1-iCre;Phf6Δ/yHSC由来の造血細胞の割合(キメリズム)は対照であるVav1-iCreのそれと比較し高く,経時的に上昇した.つまり,骨髄再構築能(HSCの自己複製能力)が亢進していた.さらに,タモキシフェン誘導性にCreリコンビナーゼを発現するRosaCreERTマウス系統を用いて成体でPhf6遺伝子を欠損させた場合(RosaCreERT;Phf6Δ/y)にも,骨髄再構築能の亢進が認められた25).MacRaeらも,造血細胞と血管内皮細胞でPhf6遺伝子を欠損するTie2-Cre;Phf6Δ/yを用いて同様の結果を報告している26).一方,我々はRosaCreERT;Phf6f/yを用いて競合的骨髄移植を行い,骨髄再構築が確認されてからタモキシフェンによりPhf6遺伝子を破壊する実験を行った.この結果,RosaCreERT;Phf6Δ/yのキメリズムはRosaCreERTと同程度であったが,このレシピエントの骨髄細胞を次のレシピエントに移植(二次移植)した場合には顕著な上昇が認められた.三次移植では,RosaCreERTのキメリズムが著減するのに対して,RosaCreERT;Phf6Δ/yのキメリズムはさらに上昇した27).これらの結果は,Phf6欠損は定常状態のHSCには影響しないものの,骨髄移植等のストレス造血時には明らかなHSCの機能亢進を引き起こすことを示している.Hsuらは,加齢Vav1-iCre;Phf6f/yマウスが脾腫,血小板減少,巨核球の異形成などの骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome:MDS)様の表現型を呈することを報告した28).MDSはHSCの機能異常により引き起こされる造血器腫瘍で,前白血病状態と捉えられる.MDS患者の約1/3は急性骨髄性白血病(acute myeloblastic leukemia:AML)に移行するが,Vav1-iCre;Phf6f/yマウスの明らかなAMLへの移行は観察されていない.したがって,Phf6の単独欠損は前白血病状態を誘導するものの,がん化を引き起こすには不十分である.我々は,Phf6欠損によるHSCの機能亢進の分子基盤を明らかにするために,RNAシークエンス,ChIPシークエンスなどを行い,1)TNFα存在下で,PHF6がTNFα経路のエフェクター転写因子NR4A1のエンハンサーに結合し転写を活性化すること,2)ストレス造血のメディエーターであるTNFαシグナルが,Phf6Δ/yHSCで減弱していること,3)Phf6Δ/yHSCではNr4a1の発現が著減すること,4)Phf6Δ/yHSCがTNFαによるHSCの増殖抑制に抵抗性を示すことを見いだした27).したがって,Phf6欠損によるNr4a1の発現低下が,TNFαによるHSCの増殖抑制に対する抵抗性,すなわち,Phf6Δ/y HSCの競合優位性の原因であると考えられる(図3).一方で,MacRaeらは,Tie2-Cre;Phf6Δ/yHSCでインターフェロンシグナルが亢進しており,HSCの表現型がインターフェロン受容体の欠失によりレスキューされることを見いだした26).したがって,これら複数のサイトカイン経路の異常がPhf6Δ/yHSCの機能亢進に寄与していると考えられる.
造血ストレスで誘導されるTNFαシグナルの存在下で,Phf6はNr4a1遺伝子の転写を活性化する.この転写活性化されたNr4a1はHSCの増殖を抑制する.
HSCは加齢とともにリンパ球系への分化能と骨髄再構築能の低下,エピゲノム異常などが顕在化する.これらが代表的な造血組織の老化表現型である.Wendorffらは,これらの老化表現型がPhf6欠損により抑制されること,さらに老化HSCからのPhf6欠損がHSCを若返らせることを報告した29).この若返りがPhf6欠損により引き起こされるHSCの機能亢進に伴う二次的な影響か,直接的な影響かは不明であり,今後の解析が待たれる.
Börjeson–Forssman–Lehmann syndrome(BFLS, MIM#301900)はまれなX連鎖性疾患であり,進行性に中等度から重度の精神遅滞やてんかんを発症する.また,性腺機能低下症,代謝低下症などの内分泌異常と口蓋裂などの先天的奇形も認められる30).2002年に,BFLSの責任遺伝子座であるXq26-q27のPHF6が原因遺伝子として同定された31).患者では,C末端に欠失変異が,遺伝子全体にフレームシフトおよびナンセンス変異が認められる.また,いくつか点突然変異が同定されている.このうち,ePHDドメイン中のシステイン変異(C45YとC99F)はPHF6タンパク質の立体構造に影響を与え,タンパク質の安定性が著減する.したがって,PHF6の機能低下がBFLSの原因であると考えられる.Chengらは,C99F変異PHF6を発現するマウス系統を作製し,C99Fが認知機能障害,感情障害や社会性の低下を引き起こすことを報告した32).また,ニューロンの過興奮やてんかんも観察されることから,このマウスはBFLSの発症機構を解明するために有用なモデルであると考えられる.BFLSと類似の症状を呈する疾患であるコフィン・ローリー症候群(Coffin-Lowry syndrome:CLS)でもPHF6変異が報告されている33).
3節で述べたコンディショナルノックアウトマウスで認められるHSCの骨髄再構築能の亢進と造血器腫瘍患者で同定された機能欠失型変異から,PHF6はがん抑制遺伝子として働くと想定されていた.しかし,最近の白血病モデルマウスの解析結果では,Phf6の機能は細胞特異的に制御されており,腫瘍細胞における役割も細胞種により異なり5, 24, 34, 35)
,他のクロマチンタンパク質と同様に,一概にがん遺伝子または抑制遺伝子に分類することはできないようである36).ここでは,造血器腫瘍におけるPHF6の役割に関する知見を紹介する.
造血器腫瘍におけるPHF6の体細胞変異は,T-ALL患者で初めて報告された34).Van Vlierbergheらは種々のALL患者サンプルのシークエンス解析を行い,小児T-ALL患者の16%と成人T-ALL患者の38%でPHF6の体細胞変異を報告した.このT-ALLは,がん遺伝子であるホメオボックス型転写因子TLX1またはTLX3を高発現していた.さらに,PHF6変異は,代表的なT-ALL変異であるJAK1変異,SET-NUP214転座や恒常活性型NOTCH1変異とも共存する37, 38)
.欧州急性白血病分類グループ(EGIL)の分類基準では,幼弱なT細胞の表現型を持つPre T-ALLまたはT細胞の分化マーカーであるCD4とCD8を共発現するCortical T-ALLに分類される.一方で,PHF6変異はB細胞性急性リンパ性白血病(B-cell acute lymphoblastic leukemia:B-ALL)では見つかっていない34).T-ALLで認められる変異タイプは,BFLSと同様にフレームシフトやナンセンス変異であり機能欠失型変異である.さらに,T-ALLではPHF6プロモーター領域がDNAメチル化を介してサイレンシングされることも報告されている39).これらの結果から,PHF6はがん抑制遺伝子であると考えられていた.実際に,MacRaeらはPhf6+/−マウスを1年以上長期観察し,多様な系統の造血器腫瘍を発症することを報告している9).しかし,発症には長期間を要することから,加齢に伴い自然発生する体細胞変異が協調的に働いた可能性が考えられる.Wendorffら21)とHsuら24)は,恒常活性型NOTCH1で誘導されるT-ALL発症におけるPhf6の役割を解析し,Phf6欠損が白血病幹細胞の自己複製を促進することにより,T-ALL発症を著しく促進することを明らかにした.また,MacRaeらは,Phf6欠損によりTLX3過剰発現により誘導される造血器腫瘍の進展およびに発症率が劇的に上昇することを報告した22).したがって,恒常活性型NOTCH1などのT-ALL1変異とPHF6の機能欠失型変異が協調的に悪性度の高いT-ALLを誘導すると考えられる.
Moriらは大規模な骨髄球性白血病患者のシークエンス解析を行い,高リスクの骨髄異形成症候群(High risk myelodysplastic syndrome:High risk MDS)(5.3%),MDS変化を伴うAML(AML with MDS related changes:AML/MRC)(15.4%)で高頻度のPHF6体細胞変異を報告した40).PHF6変異を有する成人患者の生存率は低く,PHF6変異は造血系の転写因子[RUNX1(AML, AML/MRC, MDS)],スプライシング因子[U2AF1(MDS)],クロマチンタンパク質[SMC1A(AML/MRC),EZH2(AML/MRC),ASXL1(MDS)]をコードする遺伝子の変異との間に相関が認められる.上述のように,Vav1-iCre;Phf6f/yマウスはMDS様の表現型を呈することが報告されているが,他の遺伝子変異と協調的にAMLを誘導するかは検証されていない.一方で,AML(3.2%)でのPHF6変異はHigh risk MDSやAML/MRCのそれと比較し高くない.Houらは,マウスモデルを用いて,白血病融合遺伝子(RUNX1-ETO9aおよびMLL-AF9)で誘導されるAMLにおけるPhf6の役割を解析し,Phf6欠損により芽球と白血病幹細胞の頻度が低下し,AMLの発症が遅延することを報告した41).分子レベルでは,PHF6がTNFαシグナルのメディエーターであるNFκB(p65/p50)のp50サブユニットと結合し,NFκBの核移行を制御する41).このため,Phf6欠損AML細胞ではNFκBの核移行が減弱し,下流標的遺伝子であるBcl2の転写が低下するためにアポトーシスが誘導され,AMLの発症が阻害される.したがって,PHF6の欠損は,MDSに促進的に働くのに対し,AMLには抑制的である.
MPALは2系統以上の分化傾向を示す急性白血病であり,2系統の芽球が混在する場合と芽球が2系統の表面形質を併せ持つ場合がある.MPALの頻度は全白血病の約4%とまれであり,BCR-ABLとMLL融合遺伝子が代表的な染色体異常である.MPALにおいても高頻度のPHF6変異が報告されている42).Xiaoらは,B細胞系統とT細胞系統のMPAL(B/T-MPAL)において約22%のPHF6変異を同定し,この変異がBCR-ABLやMLL融合遺伝子とは排他的であることを報告した.また,PHF6変異は早期のイベントであり,そのVAFsはほぼ100%であった42).Soto-Felicianoらは,マウスB-ALL細胞の移植モデルを用いて,Phf6欠損が白血病の発症を著減させること報告した.さらに,Phf6欠損B-ALL細胞は,遺伝子発現や分化能力においてT細胞の性質を有することを報告した19).B-ALL細胞において,Phf6はB細胞およびT細胞分化関連遺伝子のプロモーター領域のchromatin accessibilityを制御している.このため,Phf6欠損によりT細胞関連遺伝子プロモーター領域の凝集したクロマチン構造が弛緩し,転写活性化が起こる.これらの結果は,B/T-MPALの発症機構をよく説明しているようにみえる.つまり,B-ALLが発症した後に,T細胞分化関連遺伝子が脱抑制されB/T-MPALへと進行する.Soto-Felicianoらは,BCR-ABLで形質転換した細胞をB-ALLモデルとして使用している19).しかし,上述のようにBCR-ABLとPHF6変異は同一患者では共存しない.したがって,今後,より臨床に即したモデルシステムを用いた検証が必要であろう.
種々の固形腫瘍で,PHF6の高発現が報告されている.肝細胞がん(hepatocellular carcinoma:HCC)でのPHF6の発現は正常組織と比較して高く,PHF6のノックダウンはHCC細胞株の増殖,移動,転移を阻害する35).同様に,Gaoらは,機能阻害実験からPHF6が乳がん細胞の増殖に必要であること,反対に,その過剰発現が細胞増殖,コロニー形成を著しく増強することを報告した.さらに,分子レベルでは,PHF6は転写因子HIFと結合し,クロマチンリモデルリング複合体をHIF標的遺伝子座にリクルートし,その転写活性化に働く24).つまり,PHF6はHIFのコアクチベーターとして作用する.以上の所見より,固形腫瘍ではPHF6はがん細胞の増殖や発症に必須の因子のようである.
健康と病気の境界は,明確に区別できるものではなく,生理状態は連続的に変化する.この発病には至らないものの健康な状態から離れつつある状態は未病と定義される.超高齢社会の現代日本においては,健康寿命を延長するため未病を改善する取り組みが必要とされる.造血系では,健常者においても加齢とともに遺伝子変異を有するHSCクローンが拡大し,これが造血器腫瘍の発症リスクを上昇させる.この現象はクローン性造血(clonal hematopoiesis:CH)と呼ばれ,血液疾患以外の心筋梗塞や脳卒中のリスクも上昇させる.TET2, DNMT3A, ASXL1等のクロマチン制御因子の体細胞変異がCHを引き起こす43, 44)
.これら遺伝子変異を有するHSCは,造血ストレス(炎症,加齢,化学療法等)に曝露されたときに,正常HSCに対して競合優位性を示す.この競合優位性の獲得には,単なる増殖能力の亢進ではなく,ストレスにより悪化した骨髄微小環境への変異HSCの適応能力(Fitness)の向上が重要な役割を果たす.すなわち,変異HSCは正常HSCの生存・増殖に不利な環境にも適応しクローンを拡大させる.たとえば,TET2やDNMT3A変異は,HSCにIFNγ, TNFα, IL-6などの炎症性サイトカインに対する抵抗性を付与することにより,変異クローンの拡大に寄与する45).しかし,HSCは多様な経路を利用し,炎症性サイトカインに対する抵抗性を獲得するために,その分子基盤は十分には理解されてない.この経路の解明は,未病の改善に向けた戦略を構築する上で重要なステップであり,造血組織特異的Phf6欠損マウスは重要モデルとなると想定される.
我々の研究は,文部科学省科学研究費補助金(2022–2024, 基盤研究C),2020年度日本白血病研究基金助成金,日本血液学会研究助成(2020年,2023年),2023年先進医薬研究振興財団血液医学分野一般研究助成により遂行されたものです.この場を借りて深く御礼申し上げます.
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