Online ISSN: 2189-0544 Print ISSN: 0037-1017
公益社団法人日本生化学会
Journal of Japanese Biochemical Society 96(3): 381-385 (2024)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2024.960381

みにれびゅう

核膜の脂質環境は,両親媒性ヘリックスを介してタンパク質分解を制御する

イェール大学分子細胞発生生物学部門 ◇ 266 Whitney Ave., New Haven, CT 06511, USA

発行日:2024年6月25日
HTMLPDFEPUB3

1. はじめに

真核細胞の細胞小器官(オルガネラ)は,各々が独自の脂質構成を持ち,そのローカルな脂質環境が膜の物性やタンパク質を制御している.例として,ミトコンドリアにおけるカルジオリピンによる呼吸鎖複合体の制御や,細胞膜の脂質ナノドメインにおけるシグナル分子のクラスター形成があげられる.

細胞核の核膜は,脂質生物学において,他のオルガネラ膜とは異なるユニークな問題を提起している.小胞体という細胞内最大のオルガネラの小さなサブドメインであり(細胞構成膜の総面積のおよそ50%が小胞体,一方で核膜はわずか0.2%1)

),しかも脊椎動物などの真核生物では,細胞分裂のたびに小胞体への再吸収と再形成を繰り返す.一方で,核膜はゲノムDNAの保護やクロマチン構造の制御などの独自の役割を担うために,小胞体とは異なった独自のタンパク質群を有している(図1a).たとえば有名なものとして,核膜の裏打ちフィラメントタンパク質であるラミンや,細胞骨格を核に連結するタンパク質複合体であるLINC複合体があげられる.

Journal of Japanese Biochemical Society 96(3): 381-385 (2024)

図1 核膜および両親媒性ヘリックスの概説

(a)核膜は小胞体の一部であるが,独自のタンパク質群を持つ.いまだ不明なのは,脂質についても独自性があるのか,あるならどのように制御されているのかといった点である.(b)両親媒性ヘリックスは,よく,正面から見たアミノ酸配列を模式化して表される.脂質膜特性を認識して,その表面に可逆的に結合する.

こうした独自のタンパク質構成を持つことから,核膜は脂質構成についても小胞体と異なるものを持つのではないかと考えられてきた.しかしその理解は,他のオルガネラの脂質構成と機能に対する理解と比べると,驚くほどに進んでいない.また,核膜の脂質環境が,ローカルなタンパク質に与える影響となると,知見はほぼ皆無といっていい状況である.

最近筆者らは,核膜がジアシルグリセロール(diacylglycerol:DAG)に富んでいること,そしてそれがある一つの酵素によって制御されていることを示した.また,DAGが作る核膜の脂質環境が,ローカルなタンパク質分解を制御しており,それが両親媒性ヘリックスによる直接的な脂質認識によることを示した2)

.ここでその概要を紹介することで,核膜の脂質生物学の現在地を知っていただける契機になればと思う.

2. 核膜脂質構成に関するこれまでの知見

冒頭で述べたように,核膜の脂質構成はほとんど理解が進んでいない.核膜の脂質構成は小胞体と同じなのではないかという考え方もある.実際,1970年代に盛んに行われていた,単離した核膜の生化学的脂質解析では,おおむね核膜は小胞体膜と類似しているという結果を出している3)

.しかし小胞体や核質に存在する脂質の混入の影響は否定できていない4).また,核膜は外膜と内膜の2枚の脂質二重膜で構成されていて(図1a),この二つの膜の間で脂質構成が異なる可能性は十分にあるが,これらを生化学的に分離する手法はない.

生化学的な解析ではなく,イメージングによって核膜の脂質環境を理解しようという動きが,2010年代後半から盛んになっている.先駆けは,Köhlerらが報告した出芽酵母における核内膜DAGとホスファチジン酸(phosphatidic acid:PA)のプローブである5)

.彼らはこれで,DAGが核内膜に恒常的に存在すること,一方でPAは脂質代謝に応答してダイナミックに増減することを示した.また藤本らは,ホスファチジルセリン(phosphatidylserine:PS)プローブを凍結活断した核膜に当ててこれを電子顕微鏡で解析し,哺乳類においてPSが核膜と小胞体に異なって分布することを示した6).さらに核膜のPS量が,脂質スクランブラーゼTMEM16Kに依存して変化することも示している.またJinらは,低分子プローブの光学トモグラフィーを用いて,核膜の物理的特性が小胞体と類似していることを示している7).これはPAやDAGなどの特定の脂質種の分布や濃度ではなく,その総和としての核膜全体の特性を知るという点で,価値のある知見である.

このように近年急速に進展してきたイメージングによる核膜の脂質解析だが,まだまだ黎明期にあるといっていい.エンドソームやゴルジなどの他のオルガネラにおいてプローブにより詳細に調べられているホスホイノシチドについては,核膜ではプローブ作製の報告すらない.また,どのような酵素が各種の脂質を制御しているのかという問いになると,上記のTMEM16Kを除いて,ほとんど知見がない.

3. 核膜脂質のタンパク質による認識:両親媒性ヘリックスが先駆け

核膜の脂質環境のタンパク質による認識機構も,ほぼ未解明の状況である.とはいえその中でも,現在までに最もよく研究が進んでいるのが,両親媒性ヘリックス(amphipathic helix:AH)による脂質膜への結合である.

AHは,親水性のアミノ酸残基と疎水性の残基が,対をなして並んでいるヘリックスのことである(図1b

).この極性ゆえ,脂質膜の表面に可逆的に結合する性質がある.この結合は特定の脂質種に依存せず,脂質膜全体の「バルクな」特性,たとえば表面の電荷や,膜脂質間の間隙の広さに依存する.このためAHはこうした膜の特性のセンサーとして機能することがある.なお膜脂質間の間隙は,リン脂質脂肪酸鎖の不飽和度やDAGのような「コーン型」の脂質の存在により増大する.

興味深いことに,核膜孔の構成タンパク質には,機能的に重要なAHを持つものがいくつかある8)

.また,酵母において核膜オートファジーに関与するAtg39も,その機能に必須なAHを持つ9).ただしこれらのAHが核膜の脂質環境に対するセンサーとして機能しているか否かについては,今後の検証が待たれる.

4. 核内膜はDAGに富み,それはCTDNEP1-Lipin 1により制御される

核膜の脂質を制御する因子として,筆者らのグループは以前から,PAを脱リン酸化してDAGを生み出すLipin 1と,さらにLipin 1を脱リン酸化して活性化するCTDNEP1に着目してきた(図2a

10).Lipin 1は細胞質および核質内に広く存在する脂質ホスファターゼであり,小胞体におけるde novo脂質合成系の一端を担う.一方,CTDNEP1は小胞体にも局在するものの,特に核膜に濃縮して局在する[線虫および哺乳動物(図2b)].また,酵母および哺乳動物細胞においてCTDNEP1やそのホモログを欠損させると,核の形状に異常が生じる10, 11).こうしたことから,CTDNEP1が制御する脂質代謝は,核膜において特殊な役割を持つのではないかと考えられてきた.しかし,CTDNEP1とLipin 1が核膜の脂質を制御している証拠はなく,またCTDNEP1が核膜のタンパク質にどのような影響を与えるのかは不明であった.

Journal of Japanese Biochemical Society 96(3): 381-385 (2024)

図2 CTDNEP1は核膜のDAG量を制御する

(a)CTDNEP1は,PAからDAGを作るLipin 1を脱リン酸化することで活性化する.(b)哺乳動物細胞(U2OS細胞)における内在CTDNEP1-EGFP(EGFP配列をCTDNEP1コーディング領域のC末端に挿入)の核膜への局在(文献2より改変).(c)新しい核膜DAGプローブ.(d)核膜DAGプローブの核膜局在は,CTDNEP1の発現抑制で減弱する(文献2より改変).

筆者らは,DAGに特異的に結合するC1ドメインをタンデムにつなげたものに核局在シグナルを付加して,生細胞内でDAGを可視化するプローブを開発し(図2c

),CTDNEP1発現抑制の影響を調べた.すると,コントロール細胞では核膜に集中しているプローブが,CTDNEP1発現抑制下では,核膜への局在が減弱し,代わりに核膜以外の構造への局在を示した(図2d).同様の結果が,Lipin 1発現抑制下でも得られた.以上の結果は,CTDNEP1とその下流のLipin 1が,核膜でのDAGの生成を行っていることを強く示唆した.

5. DAGが作る核膜の脂質環境は,AHを介してSun2のタンパク質分解を制御する

ではCTDNEP1発現抑制下では,核膜局在のタンパク質にはどのような影響が出るのであろうか.CTDNEP1欠損細胞において種々の核膜タンパク質の発現を調べたところ,Sun2というタンパク質のみが大きく減少していることがわかった(図3

下部).Sun2はLINC複合体の一部をなすタンパク質である.CTDNEP1欠損によるSun2の減少は,Lipin 1の過剰発現により部分的にレスキューされた.また,コントロール細胞で,DAG量を減少させるべくDAGをトリアシルグリセロールに変換し,かつ核内膜に局在することが報告されているacyltransferase12)を過剰発現すると,Sun2の発現が減少した.過去に,Sun2はプロテアソームにより分解されること,それはβ-TRCP1/2というユビキチンリガーゼ(E3リガーゼ)のアダプタータンパク質によることが報告されていた13).これに合致して,CTDNEP1欠損によるSun2の減少は,β-TRCP1/2の阻害により部分的にレスキューされた.以上のことは,CTDNEP1が制御する核膜上のDAGが,Sun2タンパク質のプロテアソーム分解を制御することを示唆している.

Journal of Japanese Biochemical Society 96(3): 381-385 (2024)

図3 両親媒性ヘリックスによる核膜環境の認識が,タンパク質分解を制御するモデル

(左)核膜脂質環境が正常で,DAGに富んでいる場合は,DAGが作る膜間隙にSun2のAHがフィットし,Sun2のE3リガーゼ認識配列のアクセスが悪くなる.結果,Sun2タンパク質は安定化する.(右)核膜からDAGが減るなどして,AHの膜結合が弱くなると,E3リガーゼ認識配列がアクセスされやすくなり,Sun2はプロテアソームにより分解される.下部の写真はコントロール細胞(左)およびCTDNEP1欠損細胞(右)のSun2免疫染色(文献2より改変).

では,Sun2はどのようにして核膜のDAG量を,あるいは脂質環境を感知しているのであろうか.Sun2は,膜貫通ドメインではないが疎水性の高いヘリックスを有しているということが過去に報告されていた14)

.筆者の解析の結果,そのヘリックスの一部がAHと予測されることがわかった.

そこで筆者らは,Sun2のAHが膜の性状を感知するのかを,in vitroのリポソーム共沈降実験により調べた.その結果,Sun2のAHのリポソームへの結合は,膜の間隙が増加するような条件(DAGの付加)では増加し,逆に間隙を減らすような条件(脂肪酸鎖の飽和,あるいはコレステロールの付加)では減弱した.したがって,Sun2のAHは,脂質環境(間隙の大きさ)を感知することが示唆された(図3

上部).

次に筆者らはSun2 AHが,細胞内で核膜の脂質組成を感知しているのかを調べた.AHに核局在シグナルを付加して強制的に核内に局在させることで,AHが核内膜のみに面するようにした.すると,コントロール細胞ではAHは核膜に強く濃縮して局在した.一方で,CTDNEP1欠損細胞では,AHの核膜への濃縮が減弱し,この減弱はLipin 1の過剰発現で部分的にレスキューされた.したがって,Sun2のAHは,CTDNEP1欠損により変化した核膜の脂質組成(DAGの減少)を感知していることが示唆された.

最後に,Sun2が分解されるメカニズムの検証を行った.まず,Sun2のAHを,膜に結合できない型に変異させると,Sun2タンパク質は著しく不安定となった.このことは,AHの膜からの解離がSun2を分解に導くことを示している.また筆者らは,AHのすぐ近傍にβ-TRCP1/2の認識コンセンサス配列があることを見いだした.この配列を変異させると,CTDNEP1欠損細胞下あるいはAHの変異体のいずれにおいても,Sun2の分解は著しく抑制された.

以上から,筆者らは図3

のようなモデルを提唱している.定常条件下では,核膜(核内膜)はDAGの存在などにより,脂質間の間隙が大きいため,Sun2のAHは核内膜に強く結合する.しかし,核内膜の膜間隙が減少すると(たとえばCTDNEP1の変異による核膜のDAGの減少など.CTDNEP1の変異は,脳腫瘍の一種の髄芽腫で高頻度にみられる15)),AHが膜から解離する頻度が増え,β-TRCP1/2に認識されやすくなり,Sun2の分解が促進される.筆者らが知る限り,これは核膜の脂質環境がローカルにタンパク質を制御する初めての例である.

6. 展望:両親媒性ヘリックス研究が導く細胞核脂質への理解

核膜の脂質環境のAHによる感知は,核膜タンパク質に広く存在するメカニズムである可能性が浮上している.筆者らが現在行っているプロジェクトにおいて,バイオインフォマティクスおよび細胞生物学的手法を用いて,200以上ある核膜タンパク質の中から,膜結合AHを持つタンパク質を30ほど見いだすことに成功した.興味深いことに,これらの候補AHのアミノ酸構成および親和性のある膜の種類にいくつかのパターンがあり,そのパターンがAHの核膜との親和性と相関していることがわかった.あくまで推測になるが,核膜タンパク質が多様なAHを有している事実は,核膜の脂質構成が細胞の状況に応じてダイナミックに変化しうることを示唆しているのかもしれない.冒頭に述べたように,核膜タンパク質は,核特有の機能に貢献している.それらの核膜タンパク質のAHの詳細な解析により,核膜脂質の環境が核の機能と連関していくメカニズムが明らかになると期待している.

引用文献

1) Milo, R., Phillips, R., & Orme, N. (2016) Cell biology by the numbers. Garland Science.

2) Lee, S., Carrasquillo-Rodriguez, J.W., Merta, H., & Bahmanyar, S. (2023) A membrane-sensing mechanism links lipid metabolism to protein degradation at the nuclear envelope. J. Cell Biol., 222, e202304026.

3) Harris, J.R. (1978) The biochemistry and ultrastructure of the nuclear envelope. Biochim. Biophys. Acta Rev. Biomembr., 515, 55–104.

4) Hunt, A.N. (2006) Dynamic lipidomics of the nucleus. J. Cell. Biochem., 97, 244–251.

5) Romanauska, A. & Köhler, A. (2018) The inner nuclear membrane is a metabolically active territory that generates nuclear lipid droplets. Cell, 174, 700–715.e718.

6) Tsuji, T., Cheng, J., Tatematsu, T., Ebata, A., Kamikawa, H., Fujita, A., Gyobu, S., Segawa, K., Arai, H., Taguchi, T., et al. (2019) Predominant localization of phosphatidylserine at the cytoplasmic leaflet of the ER, and its TMEM16K-dependent redistribution. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 116, 13368–13373.

7) Zhanghao, K., Liu, W., Li, M., Wu, Z., Wang, X., Chen, X., Shan, C., Wang, H., Dai, Q., Xi, P., et al. (2020) High-dimensional super-resolution imaging reveals heterogeneity and dynamics of subcellular lipid membranes. Nat. Commun., 11, 5890.

8) Drin, G., Casella, J.F., Gautier, R., Boehmer, T., Schwartz, T.U., & Antonny, B. (2007) A general amphipathic alpha-helical motif for sensing membrane curvature. Nat. Struct. Mol. Biol., 14, 138–146.

9) Mochida, K., Otani, T., Katsumata, Y., Kirisako, H., Kakuta, C., Kotani, T., & Nakatogawa, H. (2022) Atg39 links and deforms the outer and inner nuclear membranes in selective autophagy of the nucleus. J. Cell Biol., 221, e202103178.

10) Merta, H., Carrasquillo Rodríguez, J.W., Anjur-Dietrich, M.I., Vitale, T., Granade, M.E., Harris, T.E., Needleman, D.J., & Bahmanyar, S. (2021) Cell cycle regulation of ER membrane biogenesis protects against chromosome missegregation. Dev. Cell, 56, 3364–3379.e3310.

11) Siniossoglou, S., Santos-Rosa, H., Rappsilber, J., Mann, M., & Hurt, E. (1998) A novel complex of membrane proteins required for formation of a spherical nucleus. EMBO J., 17, 6449–6464.

12) Sołtysik, K., Ohsaki, Y., Tatematsu, T., Cheng, J., Maeda, A., Morita, S.Y., & Fujimoto, T. (2021) Nuclear lipid droplets form in the inner nuclear membrane in a seipin-independent manner. J. Cell Biol., 220, e202005026.

13) Loveless, T.B., Topacio, B.R., Vashisht, A.A., Galaang, S., Ulrich, K.M., Young, B.D., Wohlschlegel, J.A., & Toczyski, D.P. (2015) DNA damage regulates translation through β-TRCP targeting of CReP. PLoS Genet., 11, e1005292.

14) Liu, Q., Pante, N., Misteli, T., Elsagga, M., Crisp, M., Hodzic, D., Burke, B., & Roux, K.J. (2007) Functional association of Sun1 with nuclear pore complexes. J. Cell Biol., 178, 785–798.

15) Luo, Z., Xin, D., Liao, Y., Berry, K., Ogurek, S., Zhang, F., Zhang, L., Zhao, C., Rao, R., Dong, X., et al. (2023) Loss of phosphatase CTDNEP1 potentiates aggressive medulloblastoma by triggering MYC amplification and genomic instability. Nat. Commun., 14, 762.

著者紹介

李 尚憲(り しょうけん)

イェール大学分子細胞発生生物学部門Bahmanyar研究室Postdoctoral Associate. 博士(薬科学).

略歴

埼玉県生まれ.2011年東京大学薬学部卒業.16年同大学院薬学系研究科(新井洋由先生/田口友彦先生)にて学位取得.同年より,ボストンコンサルティンググループを経て,19年より現職.

研究テーマと抱負

オルガネラ膜脂質とタンパク質の相互作用.最近は特に両親媒性ヘリックスに注力.核膜はオルガネラ膜の生物学の中でも相当な未開拓領域なので,今後も開拓を続けたい.

ウェブサイト

https://bahmanyarlab.yale.edu/

趣味

野球観戦,バレーボール(観戦,たまにプレー),アメリカの自然巡り.

This page was created on 2024-05-22T09:54:05.524+09:00
This page was last modified on 2024-06-11T11:07:57.000+09:00


このサイトは(株)国際文献社によって運用されています。