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公益社団法人日本生化学会
Journal of Japanese Biochemical Society 96(3): 386-389 (2024)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2024.960386

みにれびゅう

脂質誘導型小胞体ストレスと細胞応答機構小胞体型糖脂質産生の意義

1理化学研究所脳神経科学研究センター ◇ 〒351–0198 埼玉県和光市広沢2–1

2理化学研究所・開拓研究本部 ◇ 〒351–0198 埼玉県和光市広沢2–1

3順天堂大学環境医学研究所 ◇ 〒279–0021 千葉県浦安市富岡2–1–1

発行日:2024年6月25日
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1. はじめに

糖(グルコース)で修飾された脂質は生物界で普遍的に存在し,生体膜の必須成分の一つである.動物細胞では,主にグルコシルセラミド(GlcCer),コレステリルグルコシド(GlcChol),ホスファチジルグルコシド(PtdGlc)の3種類がグルコシル化脂質として存在し,共通して生体膜の脂質ミクロドメイン(脂質ラフト)の形成に関わっている1)

.3種の中で小胞体(ER)で合成される糖脂質であるPtdGlcは,グルコースのβ配位で修飾された飽和脂肪酸を特徴的に含むホスファチジン酸[飽和型ホスファチジン酸(sPA)]を有し,ヒト白血病細胞株HL60と臍帯血細胞で最初に検出された希少な糖脂質である2)図1).ほとんどのスフィンゴ糖脂質と同様に,PtdGlcは細胞膜上でミクロドメイン(図2)を形成している.しかし,この糖脂質の特徴はスフィンゴ糖脂質と異なり,容易に脱アシル化されてリゾホスファチジルグルコシド(LPG)に転換される点にある.LPGは細胞外に遊離され近傍の細胞に発現している脂質センサーであるGPR55受容体を極微量で活性化し,細胞移動を制御している3, 4).GPR55は,リゾホスファチジルイノシトールをはじめとして複数のリガンドが存在し,多様な生理機能を有していることが報告されている5, 6).複数のリガンドの存在とGPR55の多様な生理機能との関連は,よくわかっていない.LPG/GPR55軸の生理機能を理解する上で,その元となるPtdGlcが,いつ,どこで,どのような機構で生合成されるかを明らかにすることはGPR55機能の実体を知る上でも重要である.

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図1 PtdGlcの生合成とリゾ体産生

Journal of Japanese Biochemical Society 96(3): 386-389 (2024)

図2 PtdGlcの輸送経路

基礎的条件下では,PtdGlcはERで合成され,その後ゴルジ装置を通して細胞膜に輸送されると考えられる(①).低酸素条件下では,酸素依存性酵素のstearoyl-CoA desaturase 1(SCD1)活性が阻害され,ER膜の1価不飽和脂肪酸(オレイン酸)産生が減少し,その結果,飽和脂肪酸を含むsPAが増加する.sPAはPERKの自己リン酸化を促しその下流にあるeIF2α-ATF4経路を経てUPR遺伝子の発現を発動する.さらに,UGGT2は選択的にsPAのグルコシル化を触媒し,PtdGlcを生成する.PtdGlcに富むER膜のミクロドメインは,外向きの出芽を開始してER由来の小胞を形成し,その後リソソームと融合すると考えられる(②).PtdGlcリッチなミクロドメインは,オートファジー機構(ATG遺伝子)をリクルートし,オートファゴソームの形成を開始するプラットフォームとして,さらにはオートファゴゾームの構成要素として機能していると考えられる(③).

糖転移反応に関わる多くの酵素はゴルジ体に存在していることが示されているのに対して,PtdGlc合成に関わる転移酵素はERに存在しているグルコース転移酵素によって生合成されることが示されてきた.ERで生合成されたPtdGlcは,ERからゴルジ体に,さらにゴルジ体から細胞膜に輸送され,そこで加水分解されてリゾ体化糖脂質として放出されると考えられている(図2

,①).さらに,PtdGlcはERからリソソームへも輸送され,基礎的条件下で酵素分解される(図2,②).脂質糖化反応の生物学的意義を理解するためには,糖化反応に関わる合成遺伝子を明らかにすることは重要である.しかし,PtdGlc合成に関わると考えられてきたβ-グルコース転移酵素遺伝子の本体は長い間不明であった.最近の研究により意外なことに,それはERに存在するαグルコース転移酵素であるUGGT2であり,脂質性のERストレス応答と深く関係していることが明らかとなった7).本稿では,ER型糖脂質の生合成機構と機能に関して最近の成果を中心に紹介する.

2. UGGTの一般的特徴

UGGT(UDP-glucose:glycoprotein glucosyltransferase)には,UGGT1とUGGT2の二つのパラログ遺伝子が広く生物界に存在している8)

.生化学的な特徴は両者でよく似ている.C末端側にある糖転移反応に関与する配列はきわめてよく保存されていて,かつ,糖脂質,グルコシルセラミド合成酵素UGCG(UDP-glucose ceramide glucosyltransferase)にも保存された配列が存在しており(UGCGと異なりUGGTには膜貫通領域はない),進化的にかなり古い時期に地球上に誕生したと想像される.UGGTは複数のN型糖鎖修飾部位を持つ糖タンパク質でありERの内腔側に局在している.UGGTは進化の過程でよく保存されている遺伝子であることから,その重要性がうかがわれる.実際にUGGT1のノックアウト(KO)マウスは,胎生致死である.一方,UGGT2は線虫から脊椎動物に至るまで存在し,UGGT1と同様の機能を有していると推定されている.しかし,UGGT2のKOマウスは外見上,特に異常が認められない.また,UGGT2の糖タンパク質に対する転移酵素活性は,化学合成したオリゴ糖鎖を基質とした場合UGGT1に比べると5分の1程度であり,UGGT2の基質の本体や機能ははっきりしていなかった.最近になり,Adamsらは,いくつかのリソソーム酵素に特異的に作用していることを主張した9).しかし,UGGT2が特定のリソソーム酵素の糖鎖に作用していることを示す実験的証拠は示されていない.

UGGT1, 2は,セレン含有タンパク質,SELENOFと1 : 1で複合体を形成している.SELENOFはUGGTタンパク質の安定化や基質認識に貢献していると考えられている10)

.なお,SELENOFのKO細胞は,PtdGlcの発現が減少している(未発表).

3. ER型糖脂質合成とER膜ストレス応答

PtdGlcの生合成酵素の同定は簡単ではない.極微量に合成される糖脂質の同定・定量には,高感度の質量分析システムを導入する必要がある.糖化反応はUDP-グルコース依存的であり,ERに局在しているUGGT2にその産生能がある.in vitroの転移酵素活性の測定では飽和型のPA(sPA)に特異的であり,不飽和脂肪酸を含むPAには活性を示さない(図1

7).UGGTはα結合でグルコースをオリゴ糖鎖に転移する酵素として同定されてきたが,基質がホスファチジン酸のようにリン酸基が露出しているケースでは,アノマー反転型反応によりβ結合でPtdGlcが合成されてくると考えられる.

細胞内のタンパク質や脂質の生合成の大部分はERで行われている.ERの恒常性は,タンパク質と脂質代謝を正しく行う高度な管理機構よって維持されていて,その維持機構が損なわれるとERストレスを引き起こす.ERストレスは糖尿病,アルツハイマー病,パーキンソン病,がんなど,多くの疾患の病因に関わっているので,その管理機構を理解することは大変重要であり,今までに数多くの研究結果が報告されてきている.とりわけ,UGGT1は,タンパク質品質管理(protein quality control:PQC)システムの中心となるコンポーネントであり,不良品N型糖タンパク質を糖化することで,その蓄積を抑制している.すなわち,UGGT1は糖タンパク質のフォールディングセンサーとして機能しており,糖鎖の重要性を示す代表例として広く知られている11)

.タンパク質と同様にERは多様な構造を持つ膜脂質を厳密に制御された機構で生合成しており,PQCに相当する脂質の品質管理(lipid quality control:LQC)の機構が存在していると考えられている.後述するように,生体膜脂質を構成する不飽和脂肪酸の比率が減少すると,その情報がPERKからeIF2A, ATF4の経路で核内に伝達され(図2),ERストレス応答(unfolded protein response:UPR)を引き起こす12)

PtdGlcの構成脂肪酸は飽和型であり,この糖脂質の機能が脂質性ERストレスと深く関係していると予想される.実際,細胞傷害活性を有している飽和型ホスファチジン酸(sPA)をUGGT2が糖化してPtdGlcを産生することで,脂質性ERストレスを回避するシステムが存在する7)

.飽和脂肪酸stearoyl-CoAは,ERに存在している酸素要求性の酵素である脂肪酸不飽和化酵素(SCD1)により不飽和脂肪酸oleoyl-CoAに代謝変換される.この酵素は,過剰な飽和脂肪酸蓄積を抑制することにより,生体膜の恒常性維持に必須な働きを演じている12, 13).SCD1の特異的阻害剤の一つであるCAY10566をUGGT2欠損細胞に添加すると,sPAが上昇し3種類のERストレスセンサー,ATF6, IRE1a, PERKの中で,PERKが選択的に活性化される(図27).欠損細胞はPERKの下流のシグナル系であるCHOPの活性化により細胞死が引き起こされる.

4. ER型糖脂質産生とオートファジー

LC3の脂質化は,オートファジーの初期過程での重要な反応ステップである14)

.UGGT2がLQCの重要な構成要素であることを考えると,UGGT2 KO MEFにおいて基礎的条件下でのオートファゴソーム形成が減少していることは驚くべきことではない.ER膜上でのPtdGlcリッチなミクロドメインは,オートファゴソーム(図2,③)の形成を開始するためのオートファジー機構(ATGタンパク質群)をリクルートし,オートファゴソーム膜の構成要素としてとして働いている可能性がある.

化学的低酸素誘導剤(コバルト塩)添加は,細胞内(ER)のSCD1活性を阻害し,飽和型脂肪酸含有PtdGlc産生を促す.この低酸素ストレス誘導で生じたPtdGlcは,オートファゴソーム形成時に特異的なLC3陽性小胞に共局在しているので,低酸素環境下で合成されるPtdGlcはオートファゴソーム-リソソーム融合に関与している可能性が考えられる7)

.しかし,その分子機能の詳細は不明であり今後の研究課題である.

5. UGGT2と疾患

UGGT2のKOマウスに高脂肪食負荷をかけると肥満傾向を示すので,インスリンシグナル系への関与が示唆される7)

.統合失調症,アルツハイマー病との関連も疾患組織のプロテオミクス解析などの情報から示唆されているが,UGGT2の欠損あるいは機能障害による具体的な症例報告は現在までない.

6. おわりに

UGGT2は,UGGT1と同様に糖タンパク質に作用すると考えられてきたが,意外にも低酸素ストレス下で産生される細胞傷害性脂質分子を選択的に認識しER型糖脂質を合成することが示された.細胞外に由来する飽和脂肪酸(パルミチン酸)は,セラミド分子を含むスフィンゴ脂質(スフィンゴミエリンや糖脂質)にも取り込まれるが,その細胞応答は細胞膜で行われており,グリセロ型脂質とは独立したシステムであると考えられる15)

.ERで合成されたPtdGlcは,その物理化学的特性から特異的なミクロドメインをER膜上で形成する.PtdGlcミクロドメインにどのような膜タンパク質が分配されリソソーム膜に輸送されるか興味深い.また,UGGTは本来αグルコース転移酵素であり,基質の末端にリン酸基がないフリーの水酸基であればα結合した糖脂質が合成される可能性は否定できない.高性能質量分析計とLCシステムの発達により,今後も未知の脂質や糖鎖の発見が続くことを期待したい.

謝辞

長期間にわたり本研究を行ってきた長塚靖子博士(現・日大医学部)に感謝いたします.研究を行うにあたりRIKEN CPR・佐甲靖志博士,およびRIKEN CBSの上口裕之博士をはじめとして,多くの方々から支援をいただきました.また,東京大学薬学部の河野望博士からERストレスに関して貴重なご助言をいただきました.ここに厚くお礼申し上げます.

引用文献

1) Ishibashi, Y., Kohyama-Koganeya, A., & Hirabayashi, Y. (2013) New insights on glucosylated lipids: Metabolism and functions. Biochim. Biophys. Acta Mol. Cell Biol. Lipids, 1831, 1475–1485.

2) Nagatsuka, Y., Horibata, Y., Yamazaki, Y., Kinoshita, M., Shinoda, Y., Hashikawa, T., Koshino, H., Nakamura, T., & Hirabayashi, Y. (2006) Phosphatidylglucoside exists as a single molecular species with saturated fatty acyl chains in developing astroglial membranes. Biochemistry, 45, 8742–8750.

3) Guy, A.T., Nagatsuka, Y., Ooashi, N., Inoue, M., Nakata, A., Greimel, P., Inoue, A., Nabetani, T., Murayama, A., Ohta, K., et al. (2015) Glycerophospholipid regulation of modality-specific sensory axon guidance in the spinal cord. Science, 349, 974–977.

4) Shimai, R., Hanafusa, K., Nakayama, H., Oshima, E., Kato, M., Kano, K., Matsuo, I., Miyazaki, T., Tokano, T., Hirabayashi, Y., et al. (2023) Lysophosphatidylglucoside/GPR55 signaling promotes foam cell formation in human M2c macrophages. Sci. Rep., 13, 12740.

5) 山下純,岡沙織,谷川尚,中島圭佑,杉浦隆之(2018)LPI受容体としてのGPR55.生化学,90, 621–636.

6) Alhouayek, M., Masquelier, J., & Muccioli, G.G. (2018) Lysophosphatidylinositols, from cell membrane constituents to GPR55 ligands. Trends Pharmacol. Sci., 39, 586–604.

7) Hung, H.H., Nagatsuka, Y., Soldà, T., Kodali, V.K., Iwabuchi, K., Kamiguchi, H., Kano, K., Matsuo, I., Ikeda, K., Kaufman, R.J., et al. (2022) Selective involvement of UGGT variant: UGGT2 in protecting mouse embryonic fibroblasts from saturated lipid-induced ER stress. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 119, e2214957119.

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14) Chino, H. & Mizushima, N. (2020) ER-Phagy: Quality control and turnover of endoplasmic reticulum. Trends Cell Biol., 30, 384–398.

15) Kim, Y.J., Greimel, P., & Hirabayashi, Y. (2018) GPRC5B-mediated sphingomyelin synthase 2 phosphorylation plays a critical role in insulin resistance. iScience, 8, 250–266.

著者紹介

洪 慧馨(ほん ほぇいしん)

博士(生物科学).

略歴

1986年台湾生まれ.2008年台湾大学生物科学部生物科学科卒業.16年同大学院博士課程修了.16年より理化学研究所(RIKEN)研究員.22年退職(育児中).

研究テーマと抱負

小胞体脂質の品質管理—脂質誘導小胞体ストレス下におけるUGGT2依存性グルコース化脂質合成の役割.

趣味

旅行,思考.

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