エンドサイトーシス経路の使い分けと生理機能
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生体内において,個々の細胞どうしは互いに情報をやり取りしながら協調して機能している.適切に情報をやり取りするためには,受容体とリガンドとの結合あるいは細胞–細胞間接着や細胞–細胞外基質間接着などを通して細胞外の情報を受け取ることが必要であり,これらに関わる膜貫通型受容体や細胞接着分子などの膜タンパク質の細胞膜局在が,細胞外環境に応じて正しく制御されることが必須となる(図1A).特定の細胞膜領域における膜タンパク質の表面量の調節には,主にエンドサイトーシスとエキソサイトーシスが関わることが知られている.特に,エンドサイトーシス経路と呼ばれるエンドサイトーシスを起点とした細胞内輸送経路は多数の経路が存在しており,細胞膜タンパク質の局在を決めるために重要な役割を果たす.本稿では,多様なエンドサイトーシス経路が生体内で果たす機能について,特に神経細胞に焦点を当て,我々が最近提唱した新しいモデルとともに概説する.
(A)受容体とリガンドの結合,細胞–細胞間接着,あるいは細胞–細胞外基質接着を通して細胞は細胞外の情報を受け取る(点線矢印).またそれらを受容する細胞膜タンパク質の局在は,エンドサイトーシス経路などによって制御されている(実線矢印).(B)さまざまなエンドサイトーシス経路で取り込まれた小胞は主にRab5によって初期エンドソームでいったん集約された後,必要な領域に輸送されると考えられていた.Rab21は補助的に働くと考えられていた.(C)我々の研究により,Rab5とRab21は異なるエンドサイトーシス経路を独立に制御し,生理機能も異なることが示唆された.
細胞膜タンパク質はエンドサイトーシスによって細胞内へ取り込まれ,初期エンドソームを経た後に,多様な輸送経路を使って別の細胞膜領域,オルガネラ,あるいは分解の場となるリソソームなど適切な場所に運ばれる.エンドサイトーシスは,クラスリン依存性,カベオリン依存性,ファゴサイトーシス,マクロピノサイトーシスなどが存在しているが,これらを起点とするエンドサイトーシス経路はすべて初期エンドソームでいったん集約されると考えられてきた(図1B).
クラスリン依存性経路は主要なエンドサイトーシス経路であり,その生理機能について多くの研究がなされてきている.一方,クラスリン非依存性経路はクラスリン依存性経路を阻害したときに観察されることが多く,主にクラスリン依存性経路を補完するために働いていると考えられていることから,これらが実際に生体内で機能しているかについては議論が分かれている1, 2).さらに個々のエンドサイトーシス経路を特異的に制御する因子は明確ではなく,生体内でそれぞれの経路がどのように協調して働いているのかに関してはいまだ理解が進んでいない.
エンドサイトーシス経路の制御には,Rabファミリー低分子量Gタンパク質が関わっており,これらはエフェクター分子と結合して輸送を制御するあるいは輸送先を決めるなどの役割を果たす3).Rab5はほとんどすべてのエンドサイトーシス経路を制御すると考えられており,初期エンドソームの形成に必要であることが報告されてきた3).しかし発生期マウス大脳皮質由来の初代培養神経細胞を用いた我々の研究において,内在性Rab5と初期エンドソームマーカーであるEEA1(early endosome antigen 1)の局在は完全には一致しておらず,Rab5が存在しないEEA1陽性初期エンドソームが多数観察された.一方,Rab5と同じサブファミリーに属するRab21は,EEA1との部分的な共局在が観察され,かつ,興味深いことにRab5とRab21はほとんど共局在しなかった4).これらのことから,Rab5陽性あるいはRab21陽性の,少なくとも2種類の初期エンドソーム集団が存在することが示唆された(図1C).
我々はさらに,Rab5とRab21がそれぞれどの輸送経路を制御しているのかを調べるために,Rab5あるいはRab21を発現抑制した初代培養神経細胞を用いて輸送アッセイを行った.その結果,Rab5発現抑制細胞では,クラスリン依存性経路で取り込まれるトランスフェリンの輸送が阻害された一方で,Rab21発現抑制細胞では大きな影響がなかった.また,主にカベオリン依存性経路で取り込まれるコレラ毒素Bサブユニット(CTxB)もしくはラクトシルセラミド(LacCer)に関しては,Rab5発現抑制細胞ではこれらが正常に輸送されたのに対し,Rab21発現抑制細胞では輸送が阻害された.したがって,クラスリン依存性経路はRab5によって,カベオリン依存性経路はRab21によってそれぞれ制御されると考えられ,これらの経路を特異的に制御する因子を同定することができた4).
これまで,さまざまなエンドサイトーシス経路によって取り込まれた小胞はRab5によって輸送され,初期エンドソームでいったん集約されると考えられてきた.しかし,クラスリン依存性経路はRab5によって,カベオリン依存性経路はRab21によってそれぞれ制御され,かつ,Rab5陽性あるいはRab21陽性の初期エンドソームが別々に存在することを踏まえると,これらのエンドサイトーシス経路は初期エンドソームで集約されることなく独立して働くと考えられる(図1C).
高い相同性を持つRab5とRab21は,過剰発現させた条件で局在が一致すること,同じエフェクター分子を使うこと,あるいはともにインテグリンの輸送に関与することなどがこれまで報告されており,機能はほぼ同じであると考えられてきた5, 6)
.しかし近年,Rabタンパク質結合分子の網羅的解析から,Rab5とRab21が部分的に異なるエフェクターを使い分けることが明らかになっている7).エフェクター分子は輸送先の決定に必要であることから,これはRab5とRab21が別々の経路を制御するという我々のモデルを支持する結果である.このようにそれぞれの経路に特異的な制御因子が明らかになったことにより,エンドサイトーシス経路が独立して働く可能性が示された.
これまで,クラスリン非依存性経路はクラスリン依存性経路を補完するように働くと考えられてきたが,前述のとおりRab5あるいはRab21発現抑制細胞を用いた輸送アッセイの結果が異なることから,少なくとも初代培養した大脳皮質神経細胞では,これらは独立して機能すると考えられる.そこで我々は,in vivo神経細胞成熟モデル8, 9)
(図2A)を用いて,生体内でそれぞれの経路がどのように機能しているのかを調べた.神経細胞は極性細胞であり,発生期の大脳皮質においてはその形態をダイナミックに変化させて多段階で成熟していく.脳室側で誕生した新生神経細胞は未成熟突起を形成するが(図2A-i),ある時点でその突起を一気に刈り込みながら表層側に先導突起を伸ばす(図2A-ii).その後,神経前駆細胞から伸びる放射状突起に沿って表層側まで長距離移動を行い(図2A-iii),移動の最終段階において先導突起から樹状突起を形成する(図2A-iv)10, 11)
.
(A)多段階で起こる神経細胞の成熟過程において,それぞれの段階に関わるエンドサイトーシス経路は異なる.特定のエンドサイトーシス経路を阻害した表現型はそれぞれ形態的に明確な違いがあることから,発生期大脳皮質における神経成熟過程は,エンドサイトーシス経路の生理機能を解析する上で機能補完が起きにくいモデルであると考えられる.(B)長距離移動のときにはRab5依存的にN-カドヘリンを取り込み前方へ輸送する.(C)未成熟突起を刈り込むときはRab21依存的にN-カドヘリンを細胞内へ取り込む.
我々は,簡便に個体への遺伝子導入ができるin vivoエレクトロポレーション法12)を用いて,Rab5あるいはRab21をそれぞれ発現抑制したときのマウス大脳皮質における神経細胞の成熟過程を観察した.その結果,Rab5を発現抑制すると,顕著に神経細胞移動(図2A-iii)が阻害され,また未成熟突起の形成(図2A-i)も阻害された8, 13)
.一方Rab21を発現抑制すると未成熟突起の刈り込み(図2A-ii)が起こらず,先導突起が短くなった4).なお興味深いことに,Rab21を発現抑制した結果はカベオリン依存性経路の主要分子であるCaveolin-1を発現抑制した表現型とほとんど一致した4, 14)
.これらの結果から,生体内においてRab5によって制御されるクラスリン依存性経路とRab21によって制御されるカベオリン依存性経路は,神経成熟の各段階においてそれぞれ独立して機能し,個体において使い分けられていることが示唆された(図2A).
独立して機能するそれぞれのエンドサイトーシス経路が細胞内でどのように協調して働くかを理解するために,我々は内在性の積荷分子としてN-カドヘリンに着目した.細胞–細胞間接着に関わる膜タンパク質N-カドヘリンは,大脳皮質のほとんどすべての領域に発現しており,神経細胞移動や未成熟突起の形成など多段階で機能することを我々はすでに報告している8, 14)
.前述のとおり,Rab5の発現抑制は主に移動を阻害し,Rab21の発現抑制は未成熟突起の刈り込みを阻害したが,このときいずれの細胞においてもN-カドヘリンは細胞膜表面に過剰に発現していた.そこで,Rab5に加えてN-カドヘリンを弱く発現抑制してその細胞膜表面量を正常に近づけたところ,神経細胞は正常に移動した.同様にRab21とN-カドヘリンを同時に発現抑制した神経細胞では未成熟突起が正常に刈り込まれた4, 8)
.すなわちN-カドヘリンは,神経細胞が移動するときにはRab5によって制御されるクラスリン依存性経路を介して輸送され(図2B),また未成熟突起を刈り込むときにはRab21によって制御されるカベオリン依存性経路を介して輸送されることで細胞内局在が制御されていることが考えられる(図2C).これらの結果から,それぞれの成熟段階でN-カドヘリンが異なるエンドサイトーシス経路を使って輸送されることが明らかとなり,積荷分子が輸送経路を明確に使い分けていることが示唆された.
In vivo神経細胞成熟モデルを用いた実験から,各段階でエンドサイトーシス経路が使い分けられていることが考えられた.Rab21によって制御されるカベオリン依存性経路は未成熟突起を刈り込むときに機能することが明らかになったが,この段階を経ることで先導突起が形成され,それが最終的に樹状突起形成につながる.実際,カベオリン依存性経路がこの時期に機能しないと,その先の成熟が正常に進まない.このように神経細胞の成熟は多段階で起こり,そのときに必要な分子を適切な場所へ運びながら,各段階を正常に経ていくことが必須である.その過程の中で,定常状態ではクラスリン依存性経路を用いてN-カドヘリンを輸送することで未成熟突起形成や移動が調節されているが,未成熟突起を一気に刈り込むときにはカベオリン依存性経路を用いて迅速にN-カドヘリンを取り込むことが必要となるのではないかと予想される.実際に未成熟突起刈り込みの時期にはカベオリン依存性経路に必要なCaveolin-1の発現が上昇することを確認している.したがって,各成熟段階でエンドサイトーシス経路が使い分けられることは,神経細胞が段階的に成熟し大脳皮質が正常に形成されていく過程において非常に重要であると考える.
本稿では,クラスリン依存性経路とカベオリン依存性経路がそれぞれ独立して機能し,さらにこれらを生体内で適切に使い分けることが,発生期大脳皮質の神経細胞の成熟過程に必要であることを述べた.これまで,複数存在するエンドサイトーシス経路は,初期エンドソームで集約され,かつそれぞれが補い合って機能していると考えられてきたが,我々の提唱する新しいモデルは,それぞれが独立して働くというものである(図1C).
なお驚くべきことに,これらは神経細胞特異的ではなく,マウス由来線維芽細胞NIH3T3などを用いた実験でもRab5とRab21が別の経路を制御していることが示唆されている4).エンドサイトーシス経路はすべての細胞に備わっている機能であり,分子を必要な場所に運ぶだけではなく,外来性の細菌やウイルスの感染にも使われることから,感染防御という点でも重要な役割を果たす.たとえば,コレラ毒素やシミアンウイルス40(SV40)などはカベオリン依存性経路で細胞内に入ると考えられており15),外来性の異物も経路を使い分けている可能性が考えられる.今後はエンドサイトーシス経路の使い分けがどのように制御されているのかについて,細胞外情報との関連と併せて明らかにすることで,細胞を維持し守る仕組みが解明されていくことを期待したい.
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