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公益社団法人日本生化学会
Journal of Japanese Biochemical Society 96(5): 676-679 (2024)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2024.960676

みにれびゅう

E3ユビキチンリガーゼによる神経コンパートメント除去の時空間制御メカニズム

東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻脳機能学分野 ◇ 〒113–0033 東京都文京区本郷7–3–1

発行日:2024年10月25日
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1. はじめに

ニューロンは,神経コンパートメント(シナプス・軸索・樹状突起など)と呼ばれる,複数の細胞構造を有する.生後発達の過程において,これら神経コンパートメントは,ダイナミックに形成および除去を繰り返すことにより,秩序だった神経回路を構築する1, 2)

.この神経回路の構造変化に貢献する因子として,ユビキチン修飾系が報告されている3, 4).ユビキチン修飾系とは,E1(ユビキチン活性化酵素)・E2(ユビキチン結合酵素)・E3(ユビキチンリガーゼ)と呼ばれる3種類の酵素群を介して,ユビキチンを標的タンパク質へと段階的に付加する翻訳後修飾系である5, 6).特に,E3は哺乳類において約600種類を超える膨大な数が存在することから7, 8),複数の異なる神経コンパートメントのダイナミックな構造変化には,多様なE3による厳密な制御メカニズムが寄与することが推定される.しかし,どのようにE3が時間的・空間的に機能することによって,各神経コンパートメントの構造変化が誘導されるのかは依然として理解されていない.研究が進まない理由として,実験技術面における困難さが考えられる.この問題に取り組むためには,①単一ニューロン内において,②複数の異なる神経コンパートメントの構造変化を,③同様の時間枠において,観察できる実験モデルを用いる必要がある.

ショウジョウバエのクラスIV感覚ニューロン(C4daニューロン)は,自身の樹状突起を体表に張り巡らせ,軸索を腹側神経索へ伸ばしシナプスを形成する.幼虫期に形成された樹状突起は,蛹期の前半において完全に除去された後,蛹期の後半において成虫用の樹状突起を再構築するという,ダイナミックな構造変化を示す9)

.そこで我々は,樹状突起に加えて,シナプスも蛹期の前半において除去される可能性について検証したところ,樹状突起と同様の時間枠において,シナプスも大規模に除去されることを発見した10)図1A, B).この結果から,我々はC4daニューロンを実験モデルとして用いることにより,E3による神経コンパートメント(シナプス・樹状突起)除去の時空間制御メカニズムを検証できると考えた.本稿では,C4daニューロンを用いることにより明らかにした筆者らの最新の研究成果を中心に解説する.

Journal of Japanese Biochemical Society 96(5): 676-679 (2024)

図1 ショウジョウバエのクラスIV感覚ニューロン(C4daニューロン)におけるE3(ユビキチンリガーゼ)による神経コンパートメントの選択的除去メカニズム

(A)上:幼虫期において,C4daニューロンは,樹状突起を体表に張り巡らせ,軸索を腹側神経索へ投射する.下:腹側神経索へ投射した軸索は,軸索末端においてシナプスを形成する.(B) C4daニューロンは,蛹形成後24時間以内に,樹状突起に加えてシナプスも除去する.(C) Uba1は,シナプス除去と樹状突起除去の双方に必要である.Uba1の下流において,Ube3aはシナプス除去を誘導し,Cullin1は樹状突起除去を誘導する.

2. 神経コンパートメント除去を誘導する因子の同定

まず,C4daニューロンにおいて,各神経コンパートメント(シナプス・樹状突起)の除去に,ユビキチン修飾系が必要であるのかを確認した.E1であるUba1の機能欠失において,シナプス除去と樹状突起除去の両方が強く阻害されることから,この双方において,ユビキチン修飾系が必要であることがわかった.次に,E1の下流因子であるE3を探索した.すでに,樹状突起除去に必要なE3として,Cullin1が報告されていたことから11)

,Cullin1がシナプス除去にも必要なのかを検証したところ,興味深いことにCullin1の機能欠失においてシナプス除去は正常だった.この結果は,樹状突起除去にはCullin1が必要である一方で,シナプス除去にはCullin1以外の何らかのE3が必要であることを示唆する.そこで,シナプス除去に必要なE3を同定するために,遺伝子ノックダウンによるE3のスクリーニングを行ったところ,Ube3aと呼ばれるE3がシナプス除去に必要であることを突き止めた.また,樹状突起除去については,Ube3aの機能欠失において正常だったことから,Ube3aはシナプス除去に選択的に必要であることがわかった.これらの結果から,E1であるUba1はシナプス除去と樹状突起除去の双方に必要であるが,その下流のE3はシナプス除去と樹状突起除去において使い分けられており,シナプス除去にはUbe3aが必要である一方で,樹状突起除去にはCullin1が必要であることが明らかになった(図1C).

3. Ube3aがシナプス除去を誘導する時空間制御メカニズム

1)Ube3aはシナプスにターゲティングする

それでは,いかにしてUbe3aはシナプスを選択的に除去するのだろうか? 一つの可能性として,Ube3aがシナプスにターゲティングされるということが考えられる.そこで,この可能性を検証するために,細胞体・軸索・樹状突起・シナプスなどの各神経コンパートメントにおいて,Ube3aの発現量を比較した.結果として,Ube3aはシナプスに強く局在していたことから,シナプスのUbe3aがシナプス除去を誘導することが示唆された.次に,Ube3aのシナプス局在メカニズムを検証するために,生体ライブイメージングによりUbe3aの軸索輸送を観察したところ,Ube3aはシナプス方向へと順行性輸送されることがわかった.さらに,Ube3aがキネシンモータータンパク質依存的にシナプスへ輸送されるのかを検証した.キネシンモータータンパク質の機能欠失においてUbe3aのシナプス局在が阻害されたことから,細胞体で合成されたUbe3aは,キネシンモータータンパク質によってシナプスへと順行性輸送されることにより,シナプスにターゲティングされることが明らかになった.

2) Ube3aのシナプスターゲティングはシナプス除去に必要である

次に,キネシンモータータンパク質と相互作用するUbe3aの領域を同定するために,複数のUbe3a欠損変異体を作製し(図2

),これらとキネシンモータータンパク質の共局在を観察した.その結果,Ube3a配列の中央領域に存在する極性アミノ酸の集積配列を欠損させた場合,Ube3aとキネシンモータータンパク質の共局在が阻害された.注目すべきことに,このUbe3a欠損変異体のシナプス局在は完全に消失していた.このことから,Ube3aにおける極性アミノ酸の集積配列が,Ube3aとキネシンモータータンパク質との相互作用に必要であることがわかった.さらに,このシナプスに局在しないUbe3a欠損変異体(シナプス非局在型Ube3a変異体と呼ぶ)を用いることによって,Ube3aのシナプスターゲティングがシナプス除去に必要なのかを検証した.具体的には,Ube3a機能欠失におけるシナプス除去の異常が,シナプス非局在型Ube3a変異体の発現によってレスキューされるのかを解析した.その結果,Ube3a機能欠失におけるシナプス除去の異常は,野生型Ube3aの発現によってレスキューされる一方で,シナプス非局在型Ube3a変異体の発現によってはレスキューされなかった.このことから,Ube3aのシナプス局在がシナプス除去に必要であることが明らかになった.

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図2 本研究で検証したUbe3a欠損変異体

3)シナプス除去を誘導するUbe3a下流経路の検証

次に,シナプス除去を誘導するUbe3aの下流経路を検証した.これまで,複数のタンパク質が,Ube3aによってユビキチン–プロテアソーム経路依存的に分解されることが報告されている12, 13)

.仮に,Ube3aが標的基質の分解を介してシナプス除去を誘導するとしたら,その基質を過剰発現させた場合,シナプス除去は阻害されることが想定される.そこで,実際にさまざまなUbe3aの基質候補をC4daニューロンに過剰発現させたところ,ショウジョウバエBMP受容体であるThickvein (Tkv)の過剰発現下においてシナプス除去が阻害された.さらに,Tkvの発現量を経時的に解析したところ,シナプス除去の進行に伴い減少することに加え,この発現量の減少はUbe3a機能欠失において抑制されることがわかった.この結果は,Ube3aはTkvを分解することによってシナプス除去を誘導する可能性を示唆する.さらに,Tkvの機能欠失もしくはTkvの下流因子であるMadの機能欠失により,Ube3a機能欠失のシナプス除去阻害がレスキューされたことから,Ube3a機能欠失におけるBMPシグナリングの上昇がシナプス除去の阻害を引き起こすことが示唆された.これらの結果から,Ube3aはキネシンモータータンパク質依存的にシナプスへと輸送された後,BMPシグナリングの下方制御を介してシナプス除去を誘導することが明らかになった(図3).

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図3 Ube3aによるシナプス除去メカニズム

Ube3aはキネシンモータータンパク質によってシナプスへと輸送され,BMP受容体の分解を介してシナプス除去を誘導する.

4. おわりに

C4daニューロンは,複数の神経コンパートメント(シナプス・樹状突起)の構造変化を誘導する時空間制御メカニズムを検証するための非常に適した実験モデルである.実際に我々は,シナプス除去にはUbe3aが機能し,樹状突起除去にはCullin1が機能するという異なるE3による神経コンパートメント除去メカニズムに加えて,Ube3aがシナプス除去を誘導する時空間制御メカニズムを明らかにした.しかし,我々はそのメカニズムの一端を明らかにしたにすぎない.たとえば,C4daニューロンの樹状突起除去には,内因性シグナル(ユビキチン修飾系など)に加え,外因性シグナル(周辺組織による細胞構造の貪食など)も必要であることから9, 14)

,外因性シグナルから内因性シグナルへの連動によって神経コンパートメント除去が調節されていると考えられる.実際に我々は,C4daニューロンの周辺組織が,外因性シグナルを介した神経コンパートメント除去に寄与することを明らかにしつつある.今後は,C4daニューロンを実験モデルとして存分に活用することにより,神経コンパートメント構造変化の時空間制御メカニズムを理解したいと考えている.

謝辞

本稿で紹介した筆者らの研究は,榎本和生研究室の皆様や,多くの共同研究者のご尽力の賜物です.この場をお借りして,厚く御礼申し上げます.

引用文献

1) Faust, T.E., Gunner, G., & Schafer, D.P. (2021) Mechanisms governing activity-dependent synaptic pruning in the developing mammalian CNS. Nat. Rev. Neurosci., 22, 657–673.

2) Vanderhaeghen, P. & Cheng, H.J. (2010) Guidance molecules in axon pruning and cell death. Cold Spring Harb. Perspect. Biol., 2, a001859.

3) Hamilton, A.M. & Zito, K. (2013) Breaking it down: The ubiquitin proteasome system in neuronal morphogenesis. Neural Plast., 2013, 196848.

4) Pinto, M.J., Tomé, D., & Almeida, R.D. (2021) The ubiquitinated axon: Local control of axon development and function by ubiquitin. J. Neurosci., 41, 2796–2813.

5) Nandi, D., Tahiliani, P., Kumar, A., & Chandu, D. (2006) The ubiquitin-proteasome system. J. Biosci., 31, 137–155.

6) Kwon, Y.T. & Ciechanover, A. (2017) The ubiquitin code in the ubiquitin-proteasome system and autophagy. Trends Biochem. Sci., 42, 873–886.

7) Li, W., Bengtson, M.H., Ulbrich, A., Matsuda, A., Reddy, V.A., Orth, A., Chanda, S.K., Batalov, S., & Joazeiro, C.A. (2008) Genome-wide and functional annotation of human E3 ubiquitin ligases identifies MULAN, a mitochondrial E3 that regulates the organelle’s dynamics and signaling. PLoS One, 3, e1487.

8) Toma-Fukai, S. & Shimizu, T. (2021) Structural diversity of ubiquitin E3 ligase. Molecules, 26, 6682.

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10) Furusawa, K., Ishii, K., Tsuji, M., Tokumitsu, N., Hasegawa, E., & Emoto, K. (2023) Presynaptic Ube3a E3 ligase promotes synapse elimination through down-regulation of BMP signaling. Science, 381, 1197–1205.

11) Wong, J.J., Li, S., Lim, E.K., Wang, Y., Wang, C., Zhang, H., Kirilly, D., Wu, C., Liou, Y.C., Wang, H., et al. (2013) A Cullin1-based SCF E3 ubiquitin ligase targets the InR/PI3K/TOR pathway to regulate neuronal pruning. PLoS Biol., 11, e1001657.

12) Sell, G.L. & Margolis, S.S. (2015) From UBE3A to Angelman syndrome: A substrate perspective. Front. Neurosci., 9, 322.

13) Khatri, N. & Man, H.Y. (2019) The autism and Angelman syndrome protein Ube3a/E6AP: The gene, E3 ligase ubiquitination targets and neurobiological functions. Front. Mol. Neurosci., 12, 109.

14) Furusawa, K. & Emoto, K. (2021) Spatiotemporal regulation of developmental neurite pruning: Molecular and cellular insights from Drosophila models. Neurosci. Res., 167, 54–63.

著者紹介

古澤 孝太郎(ふるさわ こうたろう)

東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻脳機能学分野 特任助教.博士(理学).

略歴

東京都立大学大学院理学系研究科にて日本学術振興会特別研究員(DC2)(2016~18年)を経て博士(理学)を取得(18年).その後,東京大学理学系研究科脳機能学分野にて日本学術振興会特別研究員(PD)(18~21年)を経て現職.

研究テーマと抱負

様々なコンテクストにおいて起こる神経回路再編の分子細胞メカニズム,及びその生物学的意義について解明したいと考えている.

趣味

スポーツ全般,音楽鑑賞.

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