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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 96(6): 845-848 (2024)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2024.960845

みにれびゅうMini Review

Cdc42 C末端異常症における炎症病態Inflammatory pathology of Cdc42 C-terminal disease

京都大学大学院医学研究科 子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)京都ユニットセンターJapan Environment and Children’s Study Kyoto Regional Center, Kyoto University Graduate School of Medicine ◇ 〒606–8507 京都市左京区聖護院川原町53 分子生物実験研究棟121号室 ◇ Molecular Biology Research Bldg. Rm121, 53 Shogoin-Kawahara-cho, Sakyo-ku, Kyoto 606–8507, Japan

発行日:2024年12月25日Published: December 25, 2024
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1. インフラマソームとCdc42 C末端異常症

自然免疫応答は感染病原体の認識と炎症反応の惹起を通じて獲得免疫を誘導する役割を果たすが,さまざまな病原体に対応するために複数の炎症惹起機構を備えており,その代表的なものにインフラマソームがあげられる.インフラマソームは細胞内に侵入してきた細菌毒素やペプチドに反応して形成される巨大なタンパク質複合体であり,病原体成分を認識するセンサー分子,アダプター分子であるASC(apoptosis-associated speck-like protein containing a CARD),およびタンパク質切断分子前駆体であるpro-caspase 1から構成される.病原体センサー分子としては,nucleotide-binding domain leucine-rich repeat(NLR)familyタンパク質に属するNLRP3やNLRC4の他,the protein absent in melanoma 2(AIM2),pyrinなどが知られており,それぞれ特定の病原体成分に反応してインフラマソーム(それぞれセンサー分子名を冠してNLRP3インフラマソーム・pyrinインフラマソームなどと呼ばれる)を形成し,自己切断により活性化したcaspase-1がinterleukin(IL)-1βやIL-18の前駆体を切断して活性型のIL-1βとIL-18に変換するとともにGasdermin D(GSDMD)前駆体を切断し,切り出されたGSDMD断片は細胞膜に孔を開けてパイロトーシス(pyroptosis)と呼ばれるプログラム細胞死を誘導する.これによりIL-1βやIL-18が細胞外に放出されて炎症が惹起される(図11)

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図1 インフラマソーム形成による炎症誘導機構

インフラマソーム(inflammasome)は細胞内に侵入してきた病原体成分や毒素などに反応して形成されるタンパク質複合体であり,病原体成分を認識するセンサー分子,アダプター分子であるASC, pro-caspase 1から構成される.病原体センサー分子が特定の病原体成分に反応・活性化してインフラマソームが形成されると,自己切断により活性化したcaspase-1がIL-1βやIL-18の前駆体を切断して活性型に変換するとともにGasdermin D(GSDMD)前駆体を切断し,切り出されたGSDMD断片は細胞膜に孔を開けてパイロトーシス(pyroptosis)を誘導する.

さて,インフラマソームの形成は細胞質内に侵入した感染病原体の制御に重要である.たとえば,pyrinは定常状態においてsmall GTPaseであるRhoAの下流でリン酸化され不活性化されているが,病原体毒素によるRhoA活性の低下により脱リン酸化して活性化することが示されている.一方,インフラマソームの過剰形成により発熱や関節炎,皮疹などを特徴とする炎症性疾患が引き起こされることが知られており,インフラマソーム異常症として自己炎症性疾患に分類されている1, 2).代表的な遺伝性インフラマソーム異常症として,pyrinをコードするMEFV遺伝子の変異を原因とする家族性地中海熱が知られているが,pyrin活性化以降のインフラマソーム形成機構は謎であり,MEFV遺伝子変異による炎症病態誘導機構も未解明である.

2018年,筆者は出生直後から発熱と皮疹が持続し,高度の炎症により生後3か月で亡くなった症例を京都大学医学部附属病院小児科で担当した.患者血清中のIL-18が著増していたことよりインフラマソームの過剰活性化が示唆されたが,既知疾患に当てはまるものはなかった.両親と患者の検体を用いたトリオエクソーム解析により患者CDC42遺伝子のC末端領域にde novoのCdc42R186C変異を検出したが,Cdc42分子の異常は奇形症候群の原因となることが報告されていたものの3),本患者に奇形は認められず,炎症病態との因果関係も不明であった.しかし,同年に開催された先天性免疫異常症の研究会において類似症例の報告があり,まったく同じ変異が同定されたことからCdc42R186C変異が炎症病態の原因であることが確定的となり,本格的な解析が始まった.病態を示唆する結果が出始めた矢先の2019年,Cdc42分子のC末端領域に位置する三つの変異(R186C/C188Y/*192C*24)を原因とする炎症性疾患として海外からケースシリーズが報告され4),続いてCdc42R186C変異体の機能異常についての解析も報告されたが5),患者におけるIL-18の上昇を説明しうるインフラマソームの過剰活性化機構は未解明のままであった.

2. Cdc42R186C変異体はGolgi体に集積してpyrinインフラマソーム形成を促進する

報告された三つのCdc42 C末端変異体のうち,Cdc42R186C変異を保有する症例は特に重症であり,本邦の2症例も乳児期早期に亡くなられている.患者細胞を用いた解析は不可能であるため,保存されていた患者末梢血単核球からiPS細胞を樹立し,単球系細胞株(iPS-ML),およびそれをマクロファージに分化させた細胞(iPS-Mϕ)を用いて解析を行った6)

まず,患者細胞において過剰に活性化しているインフラマソームを特定するため,種々のインフラマソーム刺激物質を用いて患者iPS-ML/Mϕを刺激したところ,Cdc42R186C変異細胞はpyrinの刺激物質であるClostridium difficile毒素A(TcdA)特異的にIL-1βとIL-18を過剰産生し,この作用はpyrinインフラマソーム形成の特異的阻害剤により抑制されることが判明した.加えて,単球系細胞株THP-1にpyrinやNLRP3などのインフラマソームセンサー分子を導入してpyroptosisを誘導する実験において,Cdc42R186C変異体はpyrin特異的に細胞死を亢進させることが判明した.Cdc42分子のC末端領域は細胞内局在を制御する部位であるため7)COS1細胞を用いて変異体の局在評価を行ったところ,野生型Cdc42は形質膜に広く分布するが,Cdc42R186C変異体はGolgi体に集積することが判明した(図2).これは変異部位である186番目のシステインに異常なパルミトイル化が生じることが原因であり,パルミトイル化阻害薬である2-ブロモパルミチン酸(2-bromopalmitate:2BP)処理によりGoigi体への集積は解除され(図2),同時にiPS-ML/Mϕにおけるpyrin依存性IL-1βの過剰産生も抑制された.さらに,Cdc42R186C変異体はpyrin分子の脱リン酸化と活性化には直接的な影響を与えず,その下流においてインフラマソーム重合体の形成を促進することが示唆された.興味深いことに,この作用にCdc42のGTPase活性は直接関係せず,分子の高次構造が影響していることが示唆される結果が得られた.以上の結果より,Cdc42R186C変異体は異常なパルミトイル化を受けてGolgi体に集積し,立体構造的作用によりpyrinインフラマソームの形成を促進することが示唆された.

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図2 Cdc42 C末端変異体の細胞内局在

Cdc42変異体(緑)をCOS1細胞に発現させ,細胞内分布を評価した(核:青,GM130:赤).野生型Cdc42分子は広く形質膜に分布するが,R186C変異体と*192C24*変異体はGolgi体に集積し,この集積は2BP処理により解除される.C188Y変異体は形質膜に集積せず,細胞質に分布する.文献6より引用改変.

3. Cdc42*192C*24変異体はCdc42R186C変異体と同様の挙動を示す

Cdc42 C末端異常症の原因として,Cdc42R186Cに加えてCdc42C188YとCdc42*192C*24の二つの変異が報告されている.これらの変異体について解析を行ったところ,Cdc42*192C*24変異体はCdc42R186C変異体と同様に異常なパルミトイル化によりGolgi体に集積してpyrinインフラマソーム形成を促進することが判明し(図2),その程度はCdc42R186C変異体に比較して弱く,これは患者における臨床像と相関する結果であった(Cdc42R186C変異保有患者の炎症病態はCdc42*192C*24変異保有患者より重症である).一方,Cdc42C188Yは形質膜に局在せず広く細胞質に分布し(図2),その原因は野生型Cdc42で認められるゲラニルゲラニル化の障害と推定された.しかし,Cdc42C188Y変異細胞はpyrinを含む各種インフラマソーム刺激に対して過剰反応せず,その炎症病態の解明には至らなかった.

4. Cdc42 C末端変異体に誘導される炎症病態の多様性

Cdc42 C末端変異体による炎症病態には,pyrinインフラマソーム形成促進以外の機序も関与していることが報告されている(図3).造血細胞移植を受けて長期生存しているCdc42R186C変異保有患者において移植後長期経過後の皮膚炎発症が報告されており,これにはNF-κB経路の亢進が関与するとされている8).実際,Cdc42R186C患者由来iPS-ML/MϕにおいてもNF-κB経路の亢進を確認しているが,IL-6やTNFなどの産生亢進は認められず,患者の全身性炎症にどの程度関与するかについては不明である.最近では,Cdc42 C末端変異体によってI型interferon(IFN)の産生が亢進し,一部患者に対するJAK阻害剤の有効性が報告されている9).この報告では,Cdc42R186C変異体によってミトコンドリアのホメオスターシス破綻が生じ,細胞質の核酸濃度が上昇することがI型IFN産生に関与するとされている.我々もCdc42R186CとCdc42*192C*24変異体によってI型IFNの産生が亢進することを確認しており,これには変異体のGolgi体集積により小胞体とGoigi体の輸送機構が障害され,stimulator of interferon gene(STING)分子がGolgi体に集積して活性化することと小胞体ストレスの亢進が関与していることを確認している10)

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図3 Cdc42 C末端変異体(R186C/*192C*24)により誘導される炎症病態

野生型Cdc42分子は広く形質膜に分布するが,R186C/*192C24*変異体はGolgi体に集積してpyrinインフラマソームの形成を促進すると同時に,STING分子をGolgi体に集積・活性化させてI型IFN産生を誘導する.

5. 今後の展望

以上のとおり,Cdc42 C末端変異体のうち,Cdc42R186CとCdc42*192C*24変異体についてはGolgi体への集積によりIL-1β・IL-18,およびI型IFNの過剰産生を生じることが確認されている.一方,Cdc42C188Y変異体については細胞内局在異常が確認されているものの,患者に認められる炎症病態は細胞レベルで再現されておらず,その機構も未解明である.最近,我々はCdc42分子のC末端領域以外の1アミノ酸置換変異体によってpyrinインフラマソームの過剰活性化が生じる症例を経験し,この変異による炎症誘導機構はCdc42R186C変異体とは異なることを確認している(未発表データ).今後,さまざまなCdc42変異体により誘導される炎症機構の解析を通じて,pyrinインフラマソーム形成に必須とされるCdc42分子11)の役割が解き明かされ,患者における炎症病態を特異的に阻害する治療法の開発につながることを期待するものである.

謝辞Acknowledgments

本稿で紹介した研究においては,京都大学 伊佐(西谷)真彦博士,東北大学 向井康二郞博士,田口友彦博士,笹原洋二博士をはじめ多くの研究者にご協力いただきました.深く御礼申し上げます.

引用文献References

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著者紹介Author Profile

八角 高裕(やすみ たかひろ)

京都大学大学院医学研究科 子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)京都ユニットセンター 特定教授.博士(医学).

略歴

1993年京都大学医学部卒業.2011年京都大学大学院医学研究科発達小児科学講師.19年同准教授.24年4月より現職.

研究テーマと抱負

過剰炎症を主要病態とする先天性免疫異常症(Inborn Errors of Immunity)を中心に,小児免疫疾患全般の診療と研究に携わっています.

ウェブサイト

https://pediatrics.kuhp.kyoto-u.ac.jp/shinryo_group/immunology/

https://ecochil-kyoto.jp/

趣味

スキー,釣り.

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