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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 96(6): 854-858 (2024)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2024.960854

みにれびゅうMini Review

RAD51によるクロマチン上での相同組換え開始機構Molecular mechanism of RAD51-mediated homologous recombination initiation on chromatin

1東京大学定量生命科学研究所クロマチン構造機能研究分野Laboratory of Chromatin Structure and Function, Institute for Quantitative Biosciences, The University of Tokyo ◇ 〒113‒0032 東京都文京区弥生1‒1‒1 生命科学総合研究棟B棟303 ◇ Life Sciences Research Building B303, 1–1–1 Yayoi, Bunkyo-ku, Tokyo 113–0032, Japan

2東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻Department of Biological Sciences, Graduate School of Science, The University of Tokyo ◇ 〒113–0033 東京都文京区本郷7–3–1 ◇ 7–3–1 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo 113–0033, Japan

発行日:2024年12月25日Published: December 25, 2024
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1. はじめに

ゲノムDNAの二重鎖切断(double-strand break:DSB)は,細胞にとって深刻なDNA損傷であり,細胞のがん化の一因ともなる.相同組換えはDSBを修復する主要な経路の一つである.この修復経路では,ゲノムDNAの相同配列情報を利用して損傷部位が正確に修復されるため,遺伝情報を失うことなく維持できる.相同組換えでは,まずDSBが生じた部位からDNAの片側の鎖が削り込まれ,一本鎖DNA(single-strand DNA:ssDNA)が生成される.その後,RAD51タンパク質がこのssDNA上に集積し,フィラメント構造を形成する.形成されたRAD51-ssDNAフィラメントは,ゲノム中から相同配列を探索し,相同鎖の中に侵入してssDNAを相同なゲノムDNA配列と対合させることで相同組換えを進行させる(図1A).このように,RAD51は真核生物における相同組換えの中心的な役割を果たしている.しかしながら,真核生物のゲノムDNAはクロマチン構造として核内に収納されているため,RAD51による相同組換えはクロマチン上で進行する必要がある.クロマチンは,ヒストン複合体にゲノムDNAが巻きついたヌクレオソームを基盤として形成され,さまざまなタンパク質のDNAへの結合を制御している.RAD51による相同組換え修復とクロマチンとの関連は,長年にわたって研究されてきた.本稿では,筆者らが明らかにしたクロマチン上におけるRAD51の相同組換え開始の分子機構について紹介する.

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図1 RAD51の機能と構造

(A)真核生物における相同組換えのモデル図.DSBが生じると,その部位からDNAの片側が削り込まれ,ssDNAができる.ssDNA上にRAD51が集積し,RAD51-ssDNAフィラメントを形成し,これがゲノムの中から相同配列を探索する.RAD51-ssDNAフィラメントが相同配列と対合すると,相同配列を鋳型にしたDSBの修復が進行し,元のDNA配列を正確に修復できる.(B)RAD51とRecAのドメインアラインメント.RAD51のC末端に存在するATPaseドメインはRecAにも共通しているが,NLDはRAD51特有のドメインである.(C)RAD51の結晶構造(PDB ID:5NWL)2).L2ループはディスオーダーな領域であり,構造が一意に定まらないため,図中では点線で示している.

2. RAD51のドメイン構成

RAD51やそのホモログは,大腸菌からヒトに至るまで,ほぼすべての生物に保存されているタンパク質である.大腸菌におけるRAD51のホモログはRecAであり,ATPaseドメインが共通している(図1B, C).RAD51のATPaseドメインには,L1およびL2ループと呼ばれるDNA結合ループ領域が存在する.特にL1ループは,RAD51のDNA結合や鎖交換反応に重要であることが明らかにされている1).RAD51フィラメント構造において,隣接するRAD51の間のATPaseドメイン界面にはATPが結合する部位が存在する(図1C).この部位にヌクレオチドが結合することにより,RAD51フィラメントのピッチの長さが変化し,これが相同鎖の鎖交換に機能すると考えられている2).一方で,RAD51のN末端ドメイン(N-terminal lobe domain:NLD)はRecAには存在しない特有のドメインであり,NMRおよび生化学的な変異体実験により,弱いDNA結合活性を有することが示されている3)

3. クロマチン上での相同組換え反応

相同組換え反応は基質となるプラスミドと,その一部と相同な配列を持つssDNAを利用することで生化学的に検出が可能である.また,用いるプラスミドにヒストン複合体を結合させてクロマチン化させることで,クロマチン上で進行する相同組換え反応を試験管内で再現することができる.筆者らのグループは,試験管内クロマチン相同組換え反応により,RAD51がヒストンシャペロンNap1やクロマチンリモデラーRAD54と協働することで,クロマチン上において相同組換え反応を進行できることを明らかにしている4).この反応は,核内に豊富に存在するリンカーヒストンH1が結合したクロマトソームにおいても進行する4).さらに,RAD51フィラメントは,減数分裂期で特異的に機能するRAD51パラログであるDMC1のフィラメントよりも,強固にヌクレオソームと結合することを示している5).減数分裂期においては,相同染色体のヌクレオソーム占有率の少ない領域にDMC1が優先的に結合し,相同組換えのホットスポットが形成されると考えられる5).一方で,RAD51はクロマチン上に効率的に結合することで,クロマチン上で広範囲にわたってDNA修復に機能することができる.また,RAD51には,クロマチンの構造を変化させる機能があることが複数報告されている6–8).このようにRAD51のクロマチン上での役割が生化学的解析から徐々に明らかになっていくにつれ,ヌクレオソームとRAD51の結合様式解明の必要性が高まっていた.

4. RAD51とヌクレオソームの複合体構造

RAD51によるクロマチン上における相同組換えの分子機構を明らかにするため,筆者らはRAD51とヌクレオソームからなる複合体の立体構造解析を行った.RAD51はATP加水分解活性を持つため,それぞれATP, ADP, AMP-PNP(加水分解されないATPの構造アナログ)の存在条件下で調製した試料の構造解析を実施することで,ATP加水分解状態と複合体構造との関係を解析した.クライオ電子顕微鏡構造解析の結果,複数のRAD51がリング構造を形成して,ヌクレオソーム上に集積することが明らかになった(図2A, B).このうち,ヌクレオソームから伸びるDSB末端を含むリンカーDNAとは反対側の位置でヌクレオソームに結合したRAD51リング構造は,ADPの存在下で調製した試料の解析で観察された(図2A).このことから,この構造は不活性型のRAD51がヌクレオソーム上で相同組換えの開始を待機している状態の構造であると考えられる.一方,RAD51リングがDSBを含むリンカーDNAと結合している構造では,リンカーDNAがRAD51リング構造の中心孔に捕捉されていた(図2B).この構造では,RAD51のL1およびL2ループがリンカーDNAの末端部分(DSB部位を模倣したssDNA-dsDNAジャンクション部分)と結合しており,この構造はRAD51がDSBを認識するための構造であることが示唆された(図2D).さらに,ヌクレオソームのリンカーDNA部位に結合したRAD51リングは8~10量体であった.特に,リンカーDNAと結合している10量体のRAD51リング構造は,8量体,9量体のリング構造よりもヌクレオソーム側に大きく傾いて結合しており,次の過程であるフィラメント状の構造へ移行する中間状態であると考えられた(図2F).AMP-PNPによって活性型のRAD51を維持した条件で調製した試料の解析では,RAD51がヌクレオソームからDNAを引き剥がし,フィラメント状の構造を形成している様子が観察された(図2C).

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図2 RAD51とヌクレオソームからなる複合体構造群

(A)リンカーDNAの反対側に10量体RAD51リングが結合した構造.(B)リンカーDNAの末端を捕捉するように8量体RAD51リングが結合した構造.(C)RAD51がヌクレオソームDNAを引き剥がしてフィラメント状に結合した構造.(D)リンカーDNA末端と結合しているRAD51のL1およびL2ループ.(E)ヌクレオソームDNAと結合しているRAD51のNLD.(F)クロマチン上で相同組換えを開始するRAD51の構造変化.

5. RAD51のヌクレオソーム結合におけるNLDの重要性

RAD51-ヌクレオソーム複合体構造群において,RAD51のNLDとヌクレオソームDNAとの結合はすべての構造に共通して観察された(図2E).そこで,RAD51のNLDにおいて,DNAとの結合に機能していると推測されるリシンの変異体を作製し,生化学的な試験を行ったところ,ヌクレオソーム結合能の低下がみられた.一方で,DNA結合能は有意に低下しなかった.DNA上のRAD51フィラメントにおいては,DNAとの結合は主にRAD51フィラメントのらせん軸に向かって位置するL1およびL2ループが担っている1).RAD51フィラメントでは,NLDはらせん軸の外側に向かって配置されるため,らせんの内側に位置するDNAとは離れている(図1C).そのためRAD51フィラメントにおけるDNA結合では,NLDは重要ではないと考えられる.一方で,ヌクレオソームDNAとの結合に対しては,NLDが非常に重要な役割を果たしていることが示された.このことから,NLDはヌクレオソーム結合ドメインとして,ヌクレオソームに巻きついたDNAに結合するモジュールとして機能していることが考えられた.また,酵母におけるRAD51のNLD変異株はDSBに対する感受性が増加することが明らかになった.このことから,実際の細胞内においてもRAD51のNLDがクロマチン結合に重要なドメインであり,このクロマチンの認識とRAD51によるヌクレオソームリモデリングが,細胞内におけるDSB修復に必要であることが示された.

以上のように,RAD51はクロマチンにNLDを介して結合し,相同組換え修復を進行させることが示された.さらに,クロマチン構造を持たない原核生物である大腸菌のRecAには,RAD51のNLDに相当するドメインが存在しないことと併せて考えると,RAD51のNLDは真核生物がクロマチン構造を獲得する際に共進化したドメインであると考えられる.

6. RAD51によるクロマチン上での相同組換えの開始

RAD51-ヌクレオソーム複合体の構造解析によって得られた多様な構造を基に,クロマチン上での相同組換えにおけるRAD51の分子動態を考察した.まず,RAD51はリンカーDNAと反対側の位置にリング構造で結合して,相同組換え修復の待機状態でクロマチン上に結合する.DSBが生じると,DSB部位からの末端消化によって生じたDNA末端を,RAD51がリング構造で捕捉するようにして結合する.その後,クロマチン上にRAD51がさらに集積することで,RAD51リング構造が変化していく.このようにして集積したRAD51が相同組換えの活性型であるフィラメント状構造に変換することで,ヌクレオソームからDNAを引き剥がし,相同組換え修復を進行すると考えられる(図2F9)

7. おわりに

今回,筆者らは相同組換えの中心的酵素RAD51がクロマチン上で相同組換え修復を進行させる分子機構の一端を解明することに成功した.過去にDNA結合能があることが示されていたRAD51のNLDが,ヌクレオソームDNAへ結合するために存在するドメインであることが示された.このNLDの変異はがん患者で多く報告されており10),将来的にNLDの機能不全によって引き起こされるがんの検出や治療に発展することを期待している.また,今回の研究ではRAD51がクロマチン上で相同組換えを開始する詳細な分子機構は明らかにできたが,RAD51がクロマチンに収納されたゲノムDNAの中から相同配列を探索し,対合させるメカニズムについては明らかになっていない.真核生物の相同組換えは多くの相同組換え因子が関与しているため,それらの因子を含めたさらなる構造解析によって,RAD51を中心とした相同組換えの分子機構の全貌が明らかになることが期待される.

謝辞Acknowledgments

ヌクレオソームとRAD51の複合体構造に関する研究は,東京大学定量生命科学研究所クロマチン構造機能研究分野およびゲノム再生研究分野,ならびに東京大学大学院医学系研究科疾患生命工学センター放射線分子医学部門との共同研究によって遂行されたものです.小林武彦先生,大屋恵梨子先生,細谷紀子先生の多大なるご助力に深く感謝申し上げます.

引用文献References

1) Matsuo, Y., Sakane, I., Takizawa, Y., Takahashi, M., & Kurumizaka, H. (2006) Roles of the human Rad51 L1 and L2 loops in DNA binding. FEBS J., 273, 3148–3159.

2) Brouwer, I., Moschetti, T., Candelli, A., Garcin, E.B., Modesti, M., Pellegrini, L., Wuite, G.J., & Peterman, E.J. (2018) Two distinct conformational states define the interaction of human RAD51-ATP with single-stranded DNA. EMBO J., 37, e98162.

3) Aihara, H., Ito, Y., Kurumizaka, H., Yokoyama, S., & Shibata, T. (1999) The N-terminal domain of the human Rad51 protein binds DNA: structure and a DNA binding surface as revealed by NMR. J. Mol. Biol., 290, 495–504.

4) Machida, S., Takaku, M., Ikura, M., Sun, J., Suzuki, H., Kobayashi, W., Kinomura, A., Osakabe, A., Tachiwana, H., Horikoshi, Y., et al. (2014) Nap1 stimulates homologous recombination by RAD51 and RAD54 in higher-ordered chromatin containing histone H1. Sci. Rep., 4, 4863.

5) Kobayashi, W., Takaku, M., Machida, S., Tachiwana, H., Maehara, K., Ohkawa, Y., & Kurumizaka, H. (2016) Chromatin architecture may dictate the target site for DMC1, but not for RAD51, during homologous pairing. Sci. Rep., 6, 24228.

6) Dupaigne, P., Lavelle, C., Justome, A., Lafosse, S., Mirambeau, G., Lipinski, M., Piétrement, O., & Le Cam, E. (2008) Rad51 polymerization reveals a new chromatin remodeling mechanism. PLoS One, 3, e3643.

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8) Senavirathne, G., Mahto, S.K., Hanne, J., O’Brian, D., & Fishel, R. (2017) Dynamic unwrapping of nucleosomes by HsRAD51 that includes sliding and rotational motion of histone octamers. Nucleic Acids Res., 45, 685–698.

9) Shioi, T., Hatazawa, S., Oya, E., Hosoya, N., Kobayashi, W., Ogasawara, M., Kobayashi, T., Takizawa, Y., & Kurumizaka, H. (2024) Cryo-EM structures of RAD51 assembled on nucleosomes containing a DSB site. Nature, 628, 212–220.

10) Tate, J.G., Bamford, S., Jubb, H.C., Sondka, Z., Beare, D.M., Bindal, N., Boutselakis, H., Cole, C.G., Creatore, C., Dawson, E., et al. (2019) COSMIC: the Catalogue Of Somatic Mutations In Cancer. Nucleic Acids Res., 47(D1), D941–D947.

著者紹介Author Profile

塩井 琢郎(しおい たくろう)

東京大学大学院理学系研究科博士課程.

略歴

1998年千葉県生まれ.2021年早稲田大学先進理工学部卒業.23年東京大学大学院理学系研究科修士課程修了.同年より現職.

研究テーマと抱負

相同組換えは生命の根幹をなす重要な機構の一つである.ヒトの核内に存在する複雑なクロマチン上で,精緻かつダイナミックな相同組換えが進行するメカニズムを解明したい.

ウェブサイト

https://www.iqb.u-tokyo.ac.jp/kurumizakalab/

趣味

音楽.

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