高等真核生物におけるDNA複製開始機構Mechanism of DNA replication initiation in higher eukaryote
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DNA複製は長い研究の歴史を持つ分野である.1953年にワトソンとクリックが発見したDNA二重らせん構造では,互いに相補的な塩基配列を持つ2本のDNA鎖がらせん状により合わさっている1).この構造から直ちに,らせんが解かれた後に各々のDNA鎖を鋳型として相補鎖が合成されるという半保存的複製の仕組みが示唆され,それが正しいことはやがて証明された.初期の研究では,主に大腸菌がモデル系として使われ,DNAポリメラーゼやヘリカーゼなどの複製タンパク質が次々と発見された.また,大腸菌の環状ゲノムDNA上で複製起点(レプリケーター)として働くoriC配列,それと結合して複製開始を促進するイニシエーターとしてDnaAが同定され,1984年にはアーサー・コーンバーグが18種類の精製タンパク質とoriCを含む鋳型プラスミドを用いて大腸菌DNA複製の試験管内再構成系を構築した2).こうして原核生物での成果を基にDNA複製の基本的な概念が確立された.
原核生物での研究と平行して,真核生物においてもDNAポリメラーゼやその補助因子などDNA鎖の伸長過程に関わる因子は1990年ごろまでにほぼ同定された(注:後に多種類の損傷乗り越え型ポリメラーゼが発見されたが,それらは通常の複製過程ではほとんど働かない).しかし,環状ゲノム上の単一の複製起点から開始する大腸菌と異なり,真核生物の直鎖状染色体上には多数の複製起点が存在し,複雑な細胞周期制御を受けており,真核生物の複製開始機構の解明にはより長い年月が必要であった.真核生物で最も研究の進んでいる出芽酵母では,2015年にジョン・ディフリーが16種類の精製タンパク質を用いて複製開始から伸長までを試験管内で再現することに成功し3),複製開始必須因子はすべて同定されたと考えられている.一方,ヒトを含めた高等真核生物での再構成系はいまだ実現していない.
このような状況のもと,筆者は最近,ヒト小頭症の原因遺伝子として同定されていたDONSON(downstream of neighbor of SON)が新規のDNA複製開始因子であることを発見した4).本稿では,その経緯や意義について解説し,高等真核生物におけるDNA複製開始モデルのアップデートを図りたい.
出芽酵母では約100 bpからなるARS(autonomously replicating sequence:自律複製配列)が複製起点として働く.ARSには細胞周期を通してORC1~6六量体(origin recognition complex,以下ORC)が結合しており,M期の終わりからG1期にかけてCdc6とCdt1の補助によりMCM2~7六量体(mini-chromosome maintenance,以下MCM)がリクルートされてpre-RC(pre-replication complex)が形成される(図1)5, 6).この過程は複製ライセンス化と呼ばれている.MCMは後にヘリカーゼの中心因子として活性化される(後述).S期へ進行すると,S期CDK(Cyclin-dependent kinase)による複製開始因子Sld2とSld3のリン酸化,DDK(Dbf4/Drf1-dependent kinase)によるMCMのリン酸化が起こり,いくつかの媒介因子間の相互作用を経て,最終的にはARS上で二方向性の複製フォークと複製装置レプリソームが形成される.Sld2がCDKでリン酸化されると,Dpb11, DNA polymerase ε(Polε,リーディング鎖のDNA合成酵素),GINS四量体(Sld5-Psf1-Psf2-Psf3; Go-Ichi-Ni-San,以下GINS,後にヘリカーゼ構成因子として機能)と相互作用して,pre-LC(pre-loading complex)と呼ばれる複合体を核内で形成する.一方,Sld3はSld7およびCdc45(後にヘリカーゼ構成因子として機能)と複合体を形成しており,DDKによるリン酸化を受けたMCMとの結合を介して複製起点上へと呼び込まれ,その後CDKでリン酸化される.pre-LC構成因子Dpb11は4個のBRCTドメイン(リン酸化Ser結合能がある)を持っており,前半2個でリン酸化Sld2,後半2個でリン酸化Sld3と結合する.これによってpre-LCも複製起点へと呼び込まれ,近接したCdc45, MCM, GINSの三者が強固なCMG複合体を形成してヘリカーゼとして活性化され(CMGヘリカーゼと呼ばれる),二重らせんを巻き戻しつつ複製フォークを進行させる.Dpb11とSld2/3/7は,CMGヘリカーゼ形成後は複製起点から解離し,複製進行には関与しない.pre-RC中にはMCM六量体が2個存在するため(MCM-DHと呼ばれる,DH:double hexamer),一つの複製起点から二つの複製フォークを左右両方向へ進行させることが可能となっている.CMGヘリカーゼ形成後は,これを中心に多数の構成因子を持つ複製装置レプリソームが形成されDNA複製進行をつかさどる.最初のプライマーRNAとDNAはPolαが合成し,リーディング鎖ではPolε,ラギング鎖ではPolδが新生鎖の伸長合成を行う.これらの過程は精製因子のみで再構成可能である3).
DNA複製関連因子とその役割は,基本的には酵母からヒトまで真核生物において高度に保存されており,上述の複製開始因子群もSld2以外はほぼ同等の役割を果すオルソログが同定されている.Sld3–Sld7, Dpb11に対応するTreslin-MTBP, TopBP1は一次構造上の差異が大きいため名称が異なるが,それ以外はCdc45, MCM, GINSなど出芽酵母と同じ名称で呼ばれている.
DONSONは,最初ヒト小頭症患者のゲノム解析によって原因遺伝子の一つとして同定され,その遺伝子産物はレプリソーム因子として複製フォークの安定化に必要であることが示された7).ある種のDONSON変異では小頭症の一種であるマイヤー・ゴーリン症候群(MGS)を発症するが,他のMGS原因遺伝子はORC, MCM, CDC6, CDT1, CDC45, GINSなどすべてが複製開始因子であることから,DONSONが複製開始で働く可能性が臨床研究から示唆されていた8).また,ショウジョウバエにおけるDONSON相同遺伝子Humpty Dumpty(HD)は完全欠失では致死となり,点変異体では濾胞細胞における卵殻遺伝子の過剰複製に欠損を示すことから,DNA複製での役割が示唆されていた9).しかし,DONSON相同遺伝子は酵母に存在せず,既知の複製開始因子はすべて酵母に相同遺伝子が存在することもあり,DONSONの複製開始における役割は厳密に検証されたことがなかった.複製フォーク安定化の役割は,患者由来細胞およびsiRNAによるDONSONノックダウン細胞を用いて示されたが,複製開始因子は完全に欠如するとほぼ致死となるため,それらの材料や手法では複製開始における必要性を検知することは困難である.
筆者らは,高等真核生物DNA複製のモデル系として,アフリカツメガエル卵無細胞系(以下,卵無細胞系)を利用してDONSONの役割を検証した(図2)4).卵無細胞系は,卵抽出液と精子核DNAを混合することにより,効率的かつ同調的にDNA複製を試験管内で再現できるというユニークな実験系であり,生化学的研究に適している.DNA複製研究分野では,数多くの複製開始因子がほかに先駆けて卵無細胞系で同定されてきた実績がある.また,脊椎動物であるカエルには,哺乳類で既知の複製関連因子はすべて保存されており,高等真核生物特有の因子も解析可能である.卵無細胞系では通常,精子核投入後10分以内にクロマチン形成と複製ライセンス化が起こり,約15~20分で核膜形成が完了して核内因子の核移行が始まり,約30分で複製開始する.複製阻害剤等を与えない限り,約60分でDNA複製は終了し,レプリソームはクロマチンから解離する.はじめに,抗DONSON抗体結合ビーズを用いて内在性DONSONの免疫除去を行った.その結果,DNA複製活性はほとんど検出されず(図2C),Cdc45とGINSおよびその下流でリクルートされるレプリソーム因子のクロマチン結合はすべて抑制された.DNA複製活性とレプリソーム因子の結合は,大腸菌で発現・精製したツメガエルDONSONの組換えタンパク質を系に加えることで回復した.これらの結果は,DONSONがDNA複製開始におけるレプリソーム形成,特にCMGヘリカーゼ形成に必要であることを明瞭に示している.さらに,組換えヒトDONSONを用いた場合でもツメガエルDONSONと同程度の回復効果があったことから,DONSONの役割は哺乳類でも保存されていると考えられる.なおMCMのクロマチン結合には影響がなく,DONSONは複製ライセンス化には関与していないと考えられる.
(A)ショウジョウバエ,ヒト,ツメガエルにおけるDONSON遺伝子産物の一次構造比較.(B)AlphaFold2によるヒトDONSONの立体構造予想モデル.中央からC末端の領域は球状のコアドメインを形成し,N末端100アミノ酸程度は天然変性領域であり決まった構造をとらない.GINS結合に必要なPGY配列はヒト・ツメガエルともに6~8番目のアミノ酸に相当するが,Polε結合に必要なNPF配列はヒトでは78~80番目,ツメガエルでは68~70番目に位置する.(C)内在性DONSONを免疫除去した卵抽出液(ΔDONSON)に野生型(WT),変異型(PY-2A, NPF-3A)を加えたときのDNA複製活性をCy3-dCTPの取り込みにより可視化した.スケールバー:50 µm.
次に,DONSON結合因子の探索を行った結果,精子核を加えていない卵抽出液中(細胞質環境に相当)においてDONSONがGINS, Cdc45, Polεと強く相互作用することがわかった.これに対して,CMG複合体サブユニット間の相互作用は,複製開始以後の核内クロマチン上でしか検出できない.DONSONの部分断片を作製して解析した結果,N末端天然変性領域内にあるPro6–Gly7–Tyr8(PGY)配列とAsn68–Pro69–Phe70(NPF)配列がそれぞれ独立してGINS, Polεとの直接的な結合に関与することがわかった(注:Cdc45との結合領域は不明)(図2A, 2B).PGYをAGA, NPFをAAAへとアミノ酸置換したDONSON変異体(PY-2A, NPF-3A)はGINSおよびPolεとの結合能を喪失したが,これらがDNA複製開始に機能できるかどうかを免疫除去法により検証した.その結果,PY-2A変異体は複製活性とCMGヘリカーゼ形成をほとんど回復できなかったが,NPF-3A変異体は野生型と同等レベルまで回復させることができた(図2C).これらの配列は哺乳類や鳥類でも保存されており,ヒトDONSONで同様の変異体を作製して検証した結果,ツメガエルDONSONと同じ結果が得られた.これらのことはDONSON–GINS間相互作用がCMGヘリカーゼ形成に重要であることを示している.一方,DONSON–Polε間相互作用はCMGヘリカーゼ形成およびPolεのリクルートには不要と考えられる.ただし,NPF-3A変異体で複製開始させた場合,野生型と比べて複製中のクロマチン結合量が低下しており,Polεとの結合はDONSONをレプリソーム因子として係留する役割があると推測される.
以上の結果を踏まえると,DONSONは複製開始前の段階でGINS, Polε, Cdc45と複合体を形成し,pre-RCへとリクルートする役割を持つと考えられる(図1).これは出芽酵母のpre-LC(Dpb11–Sld2–Polε–GINS)の役割とよく似ている.Dpb11とCdc45が入れ替わっているなど異なる点もあるが,GINSとPolεが共通して含まれることから,高等真核生物におけるpre-LCに相当するものであると考えられる.出芽酵母の複製開始必須因子のうちでSld2のみ高等真核生物でのオルソログがこれまで不明であった.RecQ型ヘリカーゼRecQL4のN末端領域にはSld2に類似の配列が存在するが,RecQL4はCMG複合体形成には不要である10, 11).DONSONとSld2の間にアミノ酸配列の相同性はほとんどないが,DONSONが複製開始においてはSld2相当の役割を持つ因子であると考えられる.
レプリソーム因子と共免疫沈降することや,核内で共局在することからDONSONはレプリソーム構成因子であると考えられていた7).筆者らの研究でも,阻害剤を用いて複製進行を停止させた場合や複製終了後のレプリソーム解離反応(Cullin E3リガーゼとp97の活性に依存)を阻害した場合にDONSONがクロマチン上に蓄積し,GINSやCdc45と挙動が一致したことから,レプリソーム構成因子であると考えられた.しかし,CMGヘリカーゼ形成後DONSONは通常の複製進行には不要であったことから,フォーク安定化などの複製開始以外の役割があると予想される.DNA鎖間架橋(ICL)部位に複製フォークが衝突した際に,CMGヘリカーゼの一時的な再編成が起きてICL部位を乗り越える,いわゆるトラバース反応にDONSONが関与するという報告がある12).前述のDONSON-Polε相互作用はそれらの複製開始以外の役割に関与するのかもしれない.
筆者らは,コロナ禍の少し前ごろからDONSONの研究を独自に開始したが,海外グループ勢との競合が判明したのは,論文投稿準備に取りかかったころであった.筆者らの論文がオンライン版では最も早く公開されたが,海外勢の研究は,線虫,ツメガエル卵無細胞系,ヒト細胞を材料に生化学・構造生物学・遺伝学的手法を駆使したハイレベルなものであった13–15).筆者らのモデルとは多少異なる点もあるが,DONSONがCMGヘリカーゼ形成に必要である点は一致している.こうしてDNA複製研究分野では,DONSONが一躍ホットトピックとなった.DONSONの参入により,ヒトの精製タンパク質を用いた再構成系も近い将来実現され,より精緻なレベルでの脊椎動物DNA複製開始機構の解明が進むと思われる.
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