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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 96(6): 870-874 (2024)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2024.960870

テクニカルノートTechnical Note

オルガネラコンタクトサイトの新実験ツールCsFiNDComplementation assay using Fusion of split-GFP and TurboIDA novel experimental tool for organelle membrane contact sites: CsFiND (Complementation assay using Fusion of split-GFP and TurboID)

山形大学理学部Yamagata University ◇ 〒990–8560 山形市小白川町1–4–12 ◇ 1–4–12 Kojirakawa-machi, Yamagata, Yamagata 990–8560, Japan

発行日:2024年12月25日Published: December 25, 2024
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1. はじめに

最近の研究によって,異なるオルガネラ膜どうしがタンパク質複合体によって係留されたオルガネラ膜コンタクトサイト(membrane contact site:MCS)が存在し,オルガネラ間で物質や情報をやりとりすることがわかってきた1).MCSの代表的な機能として,脂質やイオンのオルガネラ間輸送がよく知られているが,ミトコンドリアの融合分裂や2–5),ミトコンドリアタンパク質の局在化6)にも関与することが報告されるなど,MCSの機能に注目が集まっている.MCSは発見から日の浅い未開拓の研究分野であるため,今後の研究の進展により,これまで見過ごされてきた新しい生命現象の発見につながることが期待される.

MCS研究を進めるためには,まずMCSを検出する必要がある.1950年代に行われた電子顕微鏡解析からMCSの存在は示唆されてきたが7, 8),電子顕微鏡画像でみられるMCSが,本当に生理的に意味のある領域なのか,それとも偶然膜が近接しただけの領域なのかを判別するすべは長年なかった.このような状況を打開するために我々は,任意のMCSを「生きた細胞」を用いて検出できるSplit-GFPを用いた実験系を構築した9).この実験系では,異なる二つのオルガネラ膜上にSplit-GFPを発現させ,オルガネラ膜間近接依存的にGFPが再構成することでMCS領域を蛍光標識することができる.この実験系を駆使することでさまざまなオルガネラ間にMCSが存在することがわかったため,次のステップとしてMCSに局在するタンパク質を明らかにしようと考えた.スタンフォード大学のTingらはsplit-TurboID(ビオチンリガーゼ)を用いることで,MCSに局在するタンパク質を網羅的にビオチン化し,同定する手法を開発した10).しかしながらこの手法では,再構成したsplit-TurboIDの場所を確認するために,ビオチン化タンパク質を検出するしかない.TurboID によってビオチン化されたタンパク質が拡散してしまえば,Split-TurboIDがMCS領域特異的に再構成したかを判断することは難しい.そこで我々は,split-GFPとsplit-TurboIDをタンデムに融合した人工タンパク質を利用することで,GFPによるMCSの可視化と,TurboIDによるMCS局在タンパク質のビオチン化を同時に可能にした新たなMCS特異的近接ラベリング手法,CsFiND法(Complementation assay using Fusion of split-GFP and TurboID)を開発した11)図1).本稿ではこのCsFiND法を用いてMCSタンパク質を同定するための手法について紹介する.

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図1 CsFiND法

CsFiNDタンパク質を異なるオルガネラ膜上に発現させると,MCS空間特異的にGFPとTurboIDが再構成し,GFP蛍光によるMCSの可視化とTurboIDによるMCS局在タンパク質のビオチン化が可能になる(文献11の図を一部改変).

2. CsFiNDタンパク質の選別

CsFiND法によってMCS局在タンパク質を同定するためにはまず,使用するオルガネラ膜局在配列+Split-GFP+Split-TurboID融合タンパク質(CsFiNDタンパク質と呼ぶ)の選定を行う必要がある.これはMCSの種類や,使用するオルガネラ膜局在配列(の大きさ),タンパク質の発現量(安定性)などの要因によって,CsFiNDタンパク質の再構成の効率が異なることが想定されるためである.GFP, TurboIDを分断したN, C末端断片を融合する組合わせは8通り存在する(図2).これらのコンストラクトを二つのオルガネラ膜上のどちらに発現させるかを考慮すると,場合の数は最大16通りとなる(どのようなオルガネラ膜局在配列を使用するか,オルガネラ膜局在配列をSplitタンパク質のN,C末端のどちらに結合するかまで考慮すると,組合わせの数がより多くなる).理想的にはこの16通りのCsFiNDタンパク質をすべて作製して,確認するのがよいかもしれないが,労力に見合った情報が得られるかは微妙かもしれない.まずは我々の実験で,出芽酵母とHeLa細胞の複数のMCSで機能することが確認できているGFP(1–10)-TurboID-CとTurboID-N-GFP11の組合わせ(図2の#3と#D)を試すのが良いだろう.

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図2 CsFiNDタンパク質の組合わせ

GFP(1–10),GFP(11)はそれぞれ,GFPを構成する11本のβストランドのうち,N末端側の10本と最後の1本のβストランドを示す.分断したTurboIDのN末端断片をIDN,C末端側をTurboID(C)で示す.#1,#2の断片は#Aもしくは#Bの断片と,#3,#4の断片は#Cもしくは#Dの断片とセットで使用するため,組合わせの数は8通りとなる.

本稿では,小胞体(ER)–ミトコンドリア間MCSを対象としたCsFiNDタンパク質,4種類の組合わせを出芽酵母内で発現させた結果を紹介する.オルガネラ膜局在配列としてミトコンドリア外膜タンパク質のTom71と,ER膜タンパク質Ifa38を使用した(図3A).Ifa38はERマーカータンパク質として一般的ではないが,出芽酵母のGFP融合タンパク質局在データベース(https://yeastgfp.yeastgenome.org/)情報から,GFP融合タンパク質が明確なER局在を示し,1細胞あたりの分子数が多かったことから使用した.図3Bに示すように,#4のコンストラクトでのみ,GFPシグナルを明確に確認することができた.このGFPシグナルが,ER–ミトコンドリア間MCSを形成するERMES複合体の構成因子Mmm1と共局在したことから,#4のCsFiNDタンパク質が標的のMCSで再構成したことが確認できる(図3C).出芽酵母のER–ミトコンドリア間MCSのように,明確なMCSマーカータンパク質がない場合は,発現する二つのオルガネラ膜と共染色することで,そのオルガネラ上の一部にGFPシグナルが検出されることを確認すればよい.#4でのみ明確なGFPシグナルが得られた原因が,CsFiNDタンパク質の発現量の違いによるものかを調べるために,CsFiNDタンパク質に付加したFLAG,V5タグの抗体を用いてウェスタンブロッティングを行った(図3A, D).その結果,発現量の多少の違いはあるものの,すべての場合でCsFiNDタンパク質の発現が確認できたことから,CsFiNDタンパク質の発現量がGFPの再構成効率を決める主な要因ではないことが示唆された.解析対象のMCSによって,適切なオルガネラ膜局在配列や,Split-GFPとSplit-TurboIDを結合する順番,組合わせが異なると予想されるため,あらかじめ適切な場所で効率よく再構成するCsFiNDタンパク質の選定が重要となる.

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図3 CsFiNDタンパク質の選別

ER–ミトコンドリア間MCS解析用のCsFiNDタンパク質.ミトコンドリア外膜,ER膜局在化シグナルとしてTom71とIfa38の全長を使用した.(B)出芽酵母に(A)に示した4種類のCsFiNDタンパク質セットをそれぞれ発現させ,蛍光顕微鏡で観察した.ミトコンドリアはMitoTrackerで染色した.(C)既知のMCS局在タンパク質であるERMES複合体の構成因子Mmm1-mScarletを発現する酵母株に#4のCsFiNDタンパク質を発現させ,蛍光顕微鏡下で観察した.(D)(B)に示した酵母株から膜画分を調製し,ウエスタンブロティングで解析した.(A)で示したとおり,CsFiNDタンパク質にはFLAG, V5タグを付加してある.Tom40, Tim23はローディングコントロール(文献11の図を一部改変).

3. ビオチン化タンパク質の精製

適切なCsFiNDコンストラクトを選別した後は,実際に培養液にビオチンを添加して,ビオチン化反応を行う.終濃度50 µMのビオチンを含む培養液で3時間培養した出芽酵母細胞から膜画分を調製し,そこに含まれるビオチン化タンパク質をストレプトアビジン-Cy5で検出した(図4A).膜画分を用いたのは,大量に存在する内在性のビオチン化タンパク質を除去するためである.完全長のTurboIDを用いる場合と比較して,CsFiND (Split-TurboID)を用いる場合はビオチン化されるタンパク質の量も少なくなるため,内在性のビオチン化タンパク質を除去することが,その後のLC-MSMS解析に重要であった(出芽酵母の場合).RIPAバッファーで可溶化した膜画分にストレプトアビジンビーズを加え4°Cで4時間インキュベート後,ビーズを洗浄し,2 mMのビオチンを含むSDSサンプルバッファーでビオチン化タンパク質を溶出した.ビオチンとストレプトアビジンの結合は非常に強いため,ビーズの洗浄は一般的な免疫沈降実験よりも厳しい条件で行うことができる10, 11).ストレプトアビジンCy5を用いたビオチン化タンパク質の検出結果から,CsFiND依存的なタンパク質が多数検出されていることがわかる(図4A).また同様のサンプルをCsFiND (FLAG, V5),既知のMCSタンパク質であるERMES複合体構成因子(Mmm1, Mdm34, Mdm12)の抗体を用いたウェスタンブロッティングで解析したところ,CsFiNDタンパク質自身やERMES複合体構成因子が特異的にビオチン化され,ストレプトアビジンビーズによって濃縮されたことを確認した(図4A).またLC-MSMS解析では,ERMES以外のMCSタンパク質(Lam5/6, Num1, Fmp27)が濃縮されていることも確認できた(図4B).これらの結果は,CsFiNDがMCSタンパク質の同定における強力な実験ツールであることを示している.

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図4 CsFiNDによるER–ミトコンドリア間MCS局在タンパク質の解析

(A)野生型細胞とCsFiND発現細胞から調製した膜画分を可溶化しビオチン化タンパク質を精製した.得られたサンプルをストレプトアビジン-Cy5 (SAv-Cy5)と各種抗体を用いたウエスタンブロティングで確認した.*,**は強くビオチン化されたCsFiNDタンパク質を示す.使用したTom70抗体がTom71も認識するため,CsFiNDタンパク質** (Tom71-TurboID-N-V5-GFP11)が検出されている.ERMESは既知のER–ミトコンドリア間コンタクトサイト,OMMはミトコンドリア外膜,IMMはミトコンドリア内膜,ERはER膜タンパク質を示す.(B) LC-MSMS解析で同定された既知のER–ミトコンドリア間MCS局在タンパク質.

4. CsFiND法を行う際の注意点

CsFINDタンパク質の発現量が多すぎると,Split-GFPの不可逆な結合によって人工的なMCS形成が促進してしまうため,CsFiNDタンパク質の発現量の調節が重要となる12).またCsFiNDタンパク質の発現が本来のオルガネラの機能や構造に影響を与えることも想定される(ミトコンドリア外膜タンパク質の過剰発現が,ミトコンドリアの機能異常を引き起こすことが知られている).出芽酵母の場合はCsFiND遺伝子をプラスミドから発現するのではなく,ゲノムDNAに組み込むことで発現量を抑え,細胞ごとの発現量のばらつきを抑えることができた12).培養細胞を用いる場合も,CsFiNDタンパク質の発現にドキシサイクリン誘導系を用いる方法や,トランスフェクションするDNA量の調節によって最適な条件検討をすることが可能だと考えられる.一般的にMCSは各オルガネラのごく限られた領域であるため,再構成したGFPシグナルを蛍光顕微鏡下で観察し,過剰なMCS形成が起きていないことを確認したうえでの実験が,生理的な条件におけるMCSの解析に重要である.ただし,MCSタンパク質の中には,近接したオルガネラ膜自身を認識して集積するものも存在することが報告されている13).Split-GFPの不可逆な結合を逆手に取って人為的にMCSを増加させ,近接した膜を認識する因子の同定に使用することも可能かもしれない.

5. おわりに

本稿では出芽酵母のER–ミトコンドリア間MCSを例にCsFiND法について概説したが,この手法は,遺伝子操作によって外来遺伝子を発現可能な生物,細胞の任意のMCSに対して適応可能な手法だと考えられる.実際に我々の研究室でも出芽酵母やHeLa細胞を用いたさまざまなMCSに対して現在研究を進めており,興味深い結果が次々に得られている.最近の我々の研究によって,細胞ストレスがMCSの数や程度を大きく変化させることもわかってきた14).細胞ストレスや栄養環境に応じて細胞内のオルガネラ機能が変化する際には,当然MCSの形成や機能の変動が伴うはずである.このようなMCSの動的性質の解明にもCsFiND法が力を発揮するだろう.本稿が国内のMCS研究の進展に少しでも貢献できれば幸いである.

引用文献References

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著者紹介Author Profile

田村 康(たむら やすし)

山形大学理学部 教授.博士(理学).

略歴

1978年群馬県生まれ.2002年名古屋大学理学部化学科卒業.07年同大学大学院理学研究科物質理学専攻博士後期課程修了.07年ジョンズホプキンス大学医学部博士研究員.12年名古屋大学高等研究院助教.13年同大学物質科学国際研究センター准教授.15年山形大学理学部物質生命化学科准教授.19年12月より現職.

研究テーマと抱負

オルガネラ膜コンタクトサイトの視点からオルガネラを構成する脂質,タンパク質の輸送,品質管理機構を解明し,オルガネラ膜の恒常性維持機構を明らかにする.

ウェブサイト

https://www.tamuralab.com/

趣味

バンド活動(昔),子どもと遊ぶこと(現在).

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