Online ISSN: 2189-0544 Print ISSN: 0037-1017
公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 97(1): 25-31 (2025)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2025.970025

総説Review

神経回路による組織特異的な炎症性疾患の制御ゲートウェイ反射を例にRegulation of tissue-specific inflammatory diseases by neural circuitsThe case of the gateway reflex

1北海道大学遺伝子病制御研究所分子神経免疫学分野Division of Psychoimmunology, Institute for Genetic Medicine, Hokkaido University ◇ 〒064–0815 札幌市北区北15条西7丁目 ◇ W-7, N-15, Kitaku, Sapporo 064–0815, Japan

2量子科学技術研究開発機構量子生命研究所量子免疫学チームQuantumimmunology Team, Institute for Quantum Life Science, National Institute for Quantum and Radiological Science and Technology ◇ 〒263–8555 千葉県千葉市稲毛区穴川4–9–1 ◇ 4–9–1 Anagawa, Inage-ku, Chiba-shi, Chiba 263–8555, Japan

3自然科学研究機構生理学研究所分子神経免疫研究部門Division of Molecular Neuroimmunology, Department of Homeostatic Regulation, National Institute for Physiological Sciences, National Institutes of Natural Sciences ◇ 〒444–8585 愛知県岡崎市明大寺町字西郷中38 ◇ 38 Nishigonaka, Myodaiji-cho, Okazaki, Aichi 444–8585, Japan

発行日:2025年2月25日Published: February 25, 2025
HTMLPDFEPUB3

組織特異的な炎症性疾患は複数のステップにて制御されており,その中でも特異的な血管部の状態を制御するゲートウェイ(G)反射は,神経伝達物質と炎症性サイトカインIL-6を介して特定血管部に血液中の免疫細胞の組織侵入口の形成を制御する新しい神経系–免疫系クロストーク機構である.G反射は,それぞれ特異的な神経回路の活性化を介して特定の血管領域に非免疫系細胞でのNF-κB過剰活性化機構であるIL-6アンプを惹起し,ケモカインを産生させることで血管透過性を亢進させて中枢神経系など特定の組織への血液中の免疫細胞の侵入を可能にして炎症状態を誘導する.我々はこれまでに,重力など6種類の環境および人為的要因がG反射を誘導し,中枢炎症を含む疾患の発症に関与することを明らかにしてきた.本稿では,G反射機構の概説に加えて神経反射の最近の知見も議論する.

1. はじめに

神経系と免疫系の連関の分野は近年注目を浴びている.その背景には,研究技術の進歩に加えて,神経科学者と免疫学者の共同研究が増していることがあり,現在では生物学的研究分野の大きな流れの一つとなっている.

1980年代初頭に神経免疫学が独自の学問分野として登場して以来,長年,多発性硬化症や重症筋無力症などの神経系に発生する自己免疫疾患の研究や,視床下部–下垂体–副腎軸を介した全身性のホルモン介在性の免疫制御の研究が神経免疫学分野の中心であった.この当時,中枢神経系(central nervous system:CNS)は免疫系による潜在的な有害作用から物理的に隔離された免疫特権臓器として位置づけられ,血液脳関門(blood-brain barrier:BBB)がCNSへの免疫細胞の侵入を妨げる強固なバリアであり,通常,免疫細胞はCNSには侵入できないと考えられていた.言い換えるとCNSでの免疫系の活性化は病的なものと考えられ,免疫系–神経系の生理学的相互作用を扱った研究はなかった.しかし,この二つのシステムの双方向のクロストークの存在を考えざるをえない現象がいくつかみられた:ストレス負荷が,抗体産生を抑制し,ナチュラルキラー細胞の活性を亢進させること,さまざまなストレス因子が免疫機能の低下と深く関連すること,さらに,臨床の現場でも孤独感の強い患者ではリンパ球の活性化が抑制されることなどである1).しかし,この時点ではストレスが神経系を介して免疫システムを制御するという概念を支える分子機構の実態は推測の域を出なかった.

それから40年ほど経過し,免疫系と神経系の間には複雑なクロストークが存在し,それが宿主の生理や疾患と関連することが次々と明らかになってきた.たとえば,脳には,恒常的な条件下でCNSの免疫監視をサポートする広範な髄膜リンパ網が存在することが実証され2),免疫細胞によって産生されるサイトカインが神経活動を制御し,行動や心因反応に影響を及ぼすことが示された3–5).一方,CNSに常在するマクロファージ様細胞であるミクログリアはシナプスのリモデリングに関与していることがわかった6).現在では,アルツハイマー病,てんかん,自閉症などの神経疾患に,「炎症」の分子基盤が存在することが明らかになっている7).さらに,我々を含むいくつかのグループが明らかにしたG反射,炎症反射(詳細は後述)は特定の神経回路を介した「神経シグナル」による恒常性維持機構であり,これらの機構の研究が進むにつれ,特定の神経回路が末梢の免疫細胞とどのように相互作用し,特定の組織の免疫応答を誘導・抑制するのかが注目されるようになった8–15).これら二つの反射系以外にも,感覚神経,交感神経などを介する炎症反応制御機構が皮膚,肺,腸管,リンパ節などに存在することのほか,自律神経系による免疫系の制御機構として肝–脳–腸,脳–皮下脂肪など複数の臓器にわたる連関機構が報告されている.

本稿では,現在報告されている神経反射として,我々が発見したG反射を中心に,近い将来臨床応用が期待されている炎症反射についての紹介も含めながら,G反射が組織特異的な炎症病態の制御にどのように関わっているか概説したい.

2. 炎症反射

米国Kevin J. Tracey博士は神経シグナル研究のパイオニアであり,炎症反射あるいはコリン作動性抗炎症経路の発見者である16).当該研究グループは迷走神経刺激(vagus nerve stimulation:VNS)がマウスのエンドトキシン(lipopolysaccharide)によって誘発される敗血症ショックを抑制することを証明した13).炎症反射では,迷走神経信号が脾神経に伝達されると,ノルアドレナリン(NA)が放出され,続いてβ2アドレナリン受容体を発現するCD4 T細胞サブセットがNAに応答してアセチルコリンを産生し,α7ニコチン性アセチルコリン受容体を発現する活性化マクロファージを刺激して,敗血症の原因となる炎症性サイトカインの産生を抑制している13, 15, 17).また,Abeらは延髄C1領域のNA作動性神経細胞の活性化が迷走神経回路を介した腎障害抑制作用を誘導することを報告している18).しかし,神経シグナルがどのような機構で全身性に炎症誘導を抑制するかなど,炎症反射の詳細なメカニズムは未解明の部分が多い.

炎症反射は,電気刺激などを用いたVNSによって人為的に誘発することができる.両側の頚部迷走神経を遮断しても遠位側迷走神経からのVNSが抗炎症効果を示したことから,遠心性迷走神経回路が炎症反射を媒介することが示された17).炎症反射がVNSによって誘発されるという事実は,慢性炎症性疾患の臨床応用の可能性を示唆する.実際にTracey博士は,VNSを病気の診断と治療に用いるバイオエレクトリック医学を提唱し19),関節リウマチやクローン病に対する臨床研究では,有望な結果が報告されている20–22).また,炎症反射の誘導は食物アレルギー,喘息,自己免疫性糖尿病など,いくつかの実験モデルにおいてもその有効性が示されている23–25)

3. G反射

G反射は,我々が2012年に発見した新規の神経系と免疫系のクロストークである.環境刺激などで活性化されるG反射の神経回路は,それぞれ特定血管部でNAを放出し,非免疫細胞のIL-6アンプ(非免疫細胞におけるNF-κBとIL-6-STAT3の同時活性化によるNF-κBの過剰な活性化を介した炎症増幅機構)を誘導することを契機として炎症反応が増幅され,血液内の免疫細胞の組織侵入口(血管ゲート)が生じる8–12, 14).当該神経反射は局所的な神経回路依存性の炎症病態を制御することにより,組織特異的な炎症病態に影響を及ぼす.これまでに,G反射を惹起する環境因子として重力9),微弱電気9),痛み10),ストレス11),明所光14),および遠隔炎症12)を報告している.各々の刺激がそれぞれ特異的な神経回路を活性化することにより,その投射先である組織の特定の血管部位でIL-6アンプを誘導あるいは抑制し,血管ゲートの形成を促進あるいは抑制を引き起こす(図126).以下に,重力,微弱電気,痛み,ストレス,関節内炎症の刺激依存的に誘導され,中枢炎症の発症や再発に関与するG反射について概説する.

Journal of Japanese Biochemical Society 97(1): 25-31 (2025)

図1 ゲートウェイ反射による組織特異的な炎症性疾患の誘導

これまでに我々は六つのゲートウェイ反射を発見して発表した.それぞれの環境刺激と人為的な刺激(A)は特異的な神経回路を活性化①し,特異的な血管部位②にてノルアドレナリンの産生からIL-6アンプを活性化して血管ゲート(B)を誘導して炎症病態を引き起こす.最近発見されたストレスと関節内炎症を起点とするゲートウェイ反射ではBの血管ゲート誘導から引き起こされる血管周囲の微小炎症から放出されるATP②′にて血管ゲート周囲の神経回路③が活性化して神経伝達物質③′の放出から遠隔臓器に炎症性疾患④が引き起こされる.

4. 重力G反射

ヒラメ筋は重力に対抗し体重を支える最大の抗重力筋であり,地上ではヒトやマウスはヒラメ筋に関連する感覚神経回路が絶えず刺激されている.重力刺激が,第5腰髄(L5)の後根神経節(dorsal root ganglion:DRG)を通じてL5レベルの交感神経根神経節に伝わると,交感神経の投射先であるL5背側血管部でNAが放出される9).放出されたNAはL5背側血管の血管内皮細胞に作用してNF-κBを活性化させることでIL-6アンプを発動させ,ケモカインの産生を促す.その結果,CNS抗原を認識する自己反応性CD4 T細胞を含む血中の免疫細胞が血管の局所へと動員されると,さらに血管透過性が亢進し,これら細胞がCNSへと侵入するための血管ゲートが形成される(図2).

Journal of Japanese Biochemical Society 97(1): 25-31 (2025)

図2 重力G反射

ヒラメ筋はヒトでもマウスでも最大の抗重力筋であり,L5を起点とする感覚神経回路がヒラメ筋に分布して重力にて活性化されている.その感覚神経回路の活性化はL5の後根神経節近傍の交感神経節の特にL5背側血管に分布する交感神経回路を活性化してL5背側血管周囲にてノルアドレナリンを放出し,当該血管内皮細胞のIL-6アンプが活性化している.血液中に過剰量のミエリンなど中枢神経系抗原を認識する自己反応性T細胞(病原T細胞)が存在すればこの部位から侵入して中枢炎症を誘導する.

具体的な実験としては,CNS抗原であるミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(myelin oligodendrocyte glycoprotein:MOG)由来のペプチドで活性化させたCD4 T細胞(病原T細胞)の静脈内注射によって誘導される多発性硬化症(multiple sclerosis:MS)のtransfer experimental autoimmune encephalomyelitis(tEAE)モデル27)を用いた.

実験を始めるにあたっての疑問は,BBBの存在下に病原T細胞はどのような機構でCNSに侵入して中枢炎症を引き起こすのか?であった.tEAEモデルでは,完全フロイントアジュバントや百日咳毒素によって免疫応答を増強しなくても,病原T細胞が血中に存在するだけで尾の強直消失や後肢麻痺の発症など,活動性EAEモデルと同様のCNS病態形成を呈する.野生型マウスを用いてtEAEモデルをつくると,病原T細胞を移入して5日後にCNS病態発症の前段階に入るが,我々は,この時期に病原T細胞がL5背側血管に集積していることを見いだした9).さらに,当該部位では,L5交感神経回路から放出されるNAに依存して血管内皮細胞で誘導されたIL-6アンプによりケモカインCCL20が放出され,Th17細胞などCCR6発現免疫細胞を血管の局所領域に向かって遊走させることで,中枢炎症病態を形成させることがわかった.それでは,L5交感神経回路を活性化させる刺激は何であろうか.L5交感神経の活性化は,主にふくらはぎにあるヒラメ筋の感覚神経を介して起こることが知られているが,ヒラメ筋は人ばかりではなくマウスの後肢最大の抗重力筋である.これらのことから,重力が刺激となりL5交感神経回路を活性化させる可能性が考えられた.

実際に,tEAE誘導マウスを尾部懸垂法にて後肢部を重力刺激から解放したところ,L5背側血管におけるCCL20産生や病原T細胞浸潤は有意に減弱し,逆に,尾部懸垂を施したtEAEマウスのヒラメ筋に重力を模した人為的な電気刺激を与えると,当該血管部にてCCL20の発現が増強した.

これら一連の神経系-免疫系クロストークは,Tracey博士によって重力G反射と名づけられ,重力刺激を起点とするL5レベルの感覚–交感神経の連係が,特定の血管部でNA依存性にケモカインの産生を促し,血液中の病原T細胞を局所に集積させることで,CNS炎症病態形成に関わることがわかった.

5. 痛みG反射

痛みは,病気,病態にて誘導される組織損傷に関連する不快な感覚・情動である.炎症誘導にて組織が傷害されると,活性化免疫細胞などから産生される因子などが感覚神経の侵害受容器を活性化することで求心性に痛みを感じ,局所的には軸索反射として組織炎症を誘発する炎症性メディエーターの発現を促進する28).tEAEモデルではCNS病態のピークが2週間ほど続き,その後,寛解期となる.興味深いことに寛解時に,感覚神経回路のみからなる三叉神経中枝から疼痛を誘発するとEAE病態が再発した(図310).再発の原因は,発症時に末梢血中からCNSに侵入してきたMHCクラスII(MHCII)単球が寛解後もL5腹側血管周囲にとどまっていることによると考えられ,疼痛刺激はMHCII単球を特定血管に集積させ,G反射を起こす.疼痛刺激がどのようにMHCII単球を特定血管に集積するかというと,まず,痛みの信号が痛覚に関連する神経核である前帯状皮質(anterior cingulate cortex:ACC)へと伝達され,その後,脊髄の腹側血管全域に分布する交感神経回路を活性化する.その結果,脊髄の腹側血管周囲にある交感神経軸索より放出されるNAが,当該血管を刺激してIL-6アンプ依存性に血管内皮細胞からCX3CL1を分泌させる.L5腹側血管周囲に限定してとどまっているMHCII単球はケモカイン受容体であるCX3CR1を発現しているため,CX3CL1に応答してMHCII単球は左右のL5腹側血管に集積する.集まってきた単球が発現するサイトカインによってこの部位の血管内皮細胞のIL-6アンプが活性化し,BBBが緩むと,血中に一定数残存する病原T細胞が緩んだBBB周囲へと遊走され,自己抗原の提示を受けてさらに活性化し,EAEが再発することがわかった.脊髄髄膜末梢に集積する炎症性単球数はEAEの重症度と相関があることが報告されており29),EAE再発に単球の集積が重要であるという我々の知見を裏づけている.また,注目すべきことに,MS患者は周期的な再発とそれに続く寛解という特徴的なパターンを示すことがよく知られており30),我々が見いだした痛みG反射機構は,MS患者の再発と寛解の臨床パターンの一部を説明できる可能性がある.さらに,2023年には,MHCII単球のCNSでの生存に,L5周囲の血管内皮細胞が発現する顆粒球コロニー刺激因子(GM-CSF)が関与することもわかった31).GM-CSFが多発性硬化症を含むCNS炎症の再発抑制のためのターゲットとして有用である可能性がある.

Journal of Japanese Biochemical Society 97(1): 25-31 (2025)

図3 痛みG反射

移入EAE病態の寛解時にはL5脊髄の周囲にはMHCクラスII分子を高発現している末梢血由来の食細胞(MHC IIhigh CNS残存食細胞)が存在している.このとき,痛み刺激が導入されれば,感覚神経回路の活性化から脳の前帯状回にて脊髄の腹側血管に分布する交感神経回路が過剰に活性化され,神経終末からノルアドレナリン(NA)が放出され,IL-6アンプが当該部位の血管内皮細胞にて活性化する.発現されるCX3CL1依存性にMHC IIhigh CNS残存食細胞がL5腹側血管周囲に集積して当該血管の透過性が亢進される.当該食細胞には自己抗原提示能もあり,血液中に存在する中枢神経系抗原を認識する自己反応性T細胞(病原T細胞)がこの部位から侵入して移入EAE病態の再発が引き起こされる.

6. ストレスG反射

慢性的なストレスは,消化管疾患,心血管疾患,自己免疫疾患など多くの疾患の危険因子である.米国の退役軍人コホートでは,不安,うつ病,心的外傷後ストレス障害が炎症性腸疾患のリスクを高めることが報告されている32).慢性ストレスには,視床下部室傍核(paraventricular nucleus:PVN),視床下部背内側核(dorsomedial hypothalamic nucleus:DMH),迷走神経背側運動核(dorsal motor nucleus of the vagus:DMX),迷走神経に向かう神経回路を活性化するものが含まれる33).我々はマイルドでも慢性的なそれ自体では健康被害を誘導しないストレスでもEAE病態を増悪させるという仮説を立て,tEAEモデルを用いて検討した11).この実験では,軽度の睡眠障害ストレス(SD)や心地悪い環境下(床敷を湿らせたケージでの飼育)でのストレスをtEAEモデルマウスに負荷した.その結果,驚いたことに,慢性ストレスに曝露されたtEAEマウスは後肢麻痺などの典型的なEAE症状を示さず,胃や十二指腸の粘液層や上皮の脱落や血便を伴う急性上部消化管不全を呈した.さらに,これを契機に,血中のカリウムイオン(K)濃度が上昇し,急死を伴う致死的な心機能不全を引き起こした(図4).

Journal of Japanese Biochemical Society 97(1): 25-31 (2025)

図4 ストレスG反射

マウスに睡眠不足や心地悪い環境などの軽度のストレスをかけた状態で移入EAEを誘導すると急死した.分子機構としては,ストレス誘導にてストレス中枢であるPVNの交感神経系回路が活性化し,主に分布する脳内の2か所の血管にてノルアドレナリン(NA)が放出され,IL-6アンプが当該部位の血管内皮細胞にて活性化する.もし,血液中に中枢神経系抗原を認識するT細胞(病原T細胞)が過剰量存在すればこの部位から侵入して血管周囲に微小炎症を誘導する.産生されるATPが神経伝達物質として作用し,DMH/AHP-DMXを活性化,最終的に迷走神経回路の上部消化管に分布するものを過剰に活性化して上部消化管炎症から心機能障害を引き起こしマウスは急死した.

慢性ストレス負荷によりEAE病態が観察されなかった知見と一致して,L5腹側血管周囲では重力G反射でみられるはずの自己反応性CD4 T細胞の集積がほとんど観察されなかった.このことから,慢性ストレスは重力G反射で形成されるL5腹側血管ゲートとは異なる部位で血管ゲートの形成を促進することが予想された.実際に,慢性ストレスを負荷したtEAEモデルでは,左右対称性に脳内の特定の血管部位で病原T細胞やMHCII単球が集積していた.その後の解析から,これら免疫細胞の集積は,ストレス中枢の一つであるPVNから当該血管近傍へと分布するドーパミン作動性(チロシン水酸化酵素陽性:TH)ニューロンの活性化により分泌されたNAが,当該血管でIL-6アンプを誘導することにより生じていた.慢性ストレスを与えたtEAEマウスは急性上部消化管不全を呈するため,IL-6アンプの誘導により集積した免疫細胞が消化管を支配する迷走神経回路を活性化する機構の解明が重要であるが,我々は以下のような機序の可能性を示唆した.免疫細胞の集積は当該血管部位で微小炎症を誘導することで非免疫細胞内のATPが細胞外に放出され,続いてATPが神経伝達物質として血管周囲のDMXへつながる神経回路を活性化し,さらに,上部消化管に接続する迷走神経回路が順次活性化されることがわかった.この迷走神経刺激は,アセチルコリン依存性に胃酸の過剰分泌を促し,胃上皮障害による上部消化管の出血と細胞質カリウムイオンの急性上昇を誘発して,最終的に心機能障害による急死を引き起こした.

PVNとDMHは,血圧の調節を含む循環器機能を制御する重要な部位である34).そのため,ストレスG反射では,血圧調整不全も急死を引き起こす病因となることが示唆された11).このように,我々は慢性ストレスが神経系と免疫系による双方向のコミュニケーションを成立させる重要な起点であり,ストレスG反射において脳内の特定血管部位で起こる微小炎症が,急性胃腸疾患や心血管死の重要な予後因子となることを明示した.

7. 遠隔炎症G反射

関節リウマチや乾癬,間質性肺炎などでは,遠隔部位に左右対称的な炎症病変が形成されることがある35).しかし,その分子機構の詳細は明らかになっていなかった.我々は,サイトカイン誘導性関節炎とコラーゲン誘導性関節炎モデルを用いて,左右対称的に形成される炎症病変に両足関節と脊髄を経由する神経回路の活性化(遠隔炎症ゲートウェイ反射)が関与していることを解明した35).関節リウマチの発症にはIL-6シグナルの過剰な活性化が関与するため,IL-6シグナル伝達のブレーキが効かなくなったマウスを作出することから研究が始まった.IL-6シグナル伝達分子gp130にはSTAT3による炎症シグナル伝達に関与するとともに,そのシグナルの抑制に関わるSOCS3が結合するが,gp130の759番目に存在するチロシン残基をフェニルアラニン残基に置換するとSOCS3が結合しなくなりIL-6シグナル伝達のブレーキが効かなくなる.このような変異gp130を持つgp130F759/F759(F759)マウスは,1年ほどで関節リウマチに類似した関節炎を自然発症した21).さらに早期に関節炎を発症させるために,STAT3刺激因子であるIL-6とNF-κB刺激因子であるIL-17AをF759マウスの足関節に投与しIL-6アンプを誘導すると,2週間以内に関節炎を誘導できる22).この実験系を用いて,左右対称的な炎症病変の形成にはストレスG反射と同様に,炎症部位から産生されるATPが関与しており,対側の炎症の引き金となっていることを明らかにした.片足関節に炎症を誘導すると同側の関節内では細胞外にATPが増加する.当該ATPはさらにIL-6アンプを活性化するとともにNav1.8陽性感覚神経回路に神経伝達物質として作用して,対側の足関節にてATPを産生した.片足関節で起きた炎症が対側の足関節に伝わるまでの神経回路の経路は,炎症が誘導された同側の第5腰髄後根神経節(L5DRG)から脊髄内のプロエンケファリン陽性介在神経ネットワークを伝わって下部胸髄まで上行し,その後,対側のL5DRGまで下行するという流れで形成されていた.興味深いことに対側で活性化した感覚神経は通常とは逆の遠心性にATP合成酵素分子を誘導し,最終的に対側の足関節でATPを産生してIL-6アンプ依存性に炎症を誘導していた.左右対称性の炎症として知られる関節リウマチや乾癬,間質性肺炎などの診断マーカー,治療標的として関節内のATP,左右の感覚神経回路,特に,逆行性の感覚神経回路活性化とATP合成酵素分子発現と脊髄内のプロエンケファリン陽性介在神経ネットワークが見いだされた.

8. おわりに

G反射は,刺激特異的に活性化された神経回路が特定の血管の透過性を制御する新規の神経系–免疫系のクロストークであり,この反射により組織特異的な炎症性疾患の起点となる微小炎症が起こる.これまでに,重力や痛み,また心理的ストレスなど6種類の環境刺激,微弱な電気刺激の人為的な刺激を起点とするG反射を我々は報告した.各々の刺激が特定の神経回路を活性化して,CNSやほかの組織の特定の血管部位に血液中の免疫細胞の侵入口(血管ゲート)をつくり出し,組織特異的な炎症性疾患を誘導する.さらに我々は,血管ゲートの形成を抑制するG反射も見つけている.ストレス関連環境刺激として光に着目して発見した.光G反射では,明るい光による過剰な神経回路の活性化により血管ゲートの形成が抑制され,ぶどう膜炎モデルの病態形成が阻害された.さらに,Tracey博士らのグループが行ってきた迷走神経回路の活性化が関節リウマチおよび炎症性腸疾患を抑制したという事実もあり,G反射や炎症反射に関連する神経回路の人為的な制御により,炎症性疾患の発症や増悪を潜在的に抑制できうる可能性がある.

近年,ケモジェネティクス(化学遺伝学)やオプトジェネティクス(光遺伝学)など,神経の活性化を人為的に制御できる技術の進歩が目覚ましい.今後,これら技術を利用してG反射の責任神経回路を人為的に活性化/抑制することにより,特定の組織に誘導された血管周囲の微小炎症を操作できる可能性を考えている.ストレスG反射において,PVNを起点として末梢臓器に投射する迷走神経回路を遮断すること,あるいはPVNから内側前頭前野(mPFC)までの一連の神経シグナル伝達を遮断することは,進行型のMSや精神神経ループスなどのストレス誘発性の重篤な疾患を予防したり治療したりする上で新たな戦略を生み出すかもしれない.

我々は現在,AMED-ムーンショット型研究開発事業 目標7およびAMED-CRESTストレス研究開発領域において,G反射,炎症反射に関連する神経回路を利用した炎症性疾患の新規診断・予防・治療法の確立を試みている.今後は,G反射,炎症反射に関与する詳細な神経系ネットワークを解析し,活性化や抑制の分子機構を解明することが重要であろう.

謝辞Acknowledgments

本総説に記載した内容は,多くの共同研究者の協力のもと北海道大学,QST, 生理研の村上研の研究者が実施したものをまとめたものでここに深謝いたします.

引用文献References

1) Arimura, A. & Katsuura, G. (1989) Recent progress in neuroimmunology research. Nippon Naibunpi Gakkai Zasshi, 65, 1328–1339.

2) Da Mesquita, S., Fu, Z., & Kipnis, J. (2018) The meningeal lymphatic system: A new player in neurophysiology. Neuron, 100, 375–388.

3) Kronfol, Z. & Remick, D.G. (2000) Cytokines and the brain: Implications for clinical psychiatry. Am. J. Psychiatry, 157, 683–694.

4) Miller, A.H. (2009) Norman cousins lecture. Mechanisms of cytokine-induced behavioral changes: Psychoneuroimmunology at the translational interface. Brain Behav. Immun., 23, 149–158.

5) Reichenberg, A., Yirmiya, R., Schuld, A., Kraus, T., Haack, M., Morag, A., & Pollmächer, T. (2001) Cytokine-associated emotional and cognitive disturbances in humans. Arch. Gen. Psychiatry, 58, 445–452.

6) Woodburn, S.C., Bollinger, J.L., & Wohleb, E.S. (2021) The semantics of microglia activation: Neuroinflammation, homeostasis, and stress. J. Neuroinflammation, 18, 258.

7) Amor, S., Puentes, F., Baker, D., & van der Valk, P. (2010) Inflammation in neurodegenerative diseases. Immunology, 129, 154–169.

8) Akabane, K., Murakami, K., & Murakami, M. (2023) Gateway reflexes are neural circuits that establish the gateway of immune cells to regulate tissue specific inflammation. Expert Opin. Ther. Targets, 27, 469–477.

9) Arima, Y., Harada, M., Kamimura, D., Park, J.H., Kawano, F., Yull, F.E., Kawamoto, T., Iwakura, Y., Betz, U.A., Márquez, G., et al. (2012) Regional neural activation defines a gateway for autoreactive T cells to cross the blood-brain barrier. Cell, 148, 447–457.

10) Arima, Y., Kamimura, D., Atsumi, T., Harada, M., Kawamoto, T., Nishikawa, N., Stofkova, A., Ohki, T., Higuchi, K., Morimoto, Y., et al. (2015) A pain-mediated neural signal induces relapse in murine autoimmune encephalomyelitis, a multiple sclerosis model. eLife, 4, e08733.

11) Arima, Y., Ohki, T., Nishikawa, N., Higuchi, K., Ota, M., Tanaka, Y., Nio-Kobayashi, J., Elfeky, M., Sakai, R., Mori, Y., et al. (2017) Brain micro-inflammation at specific vessels dysregulates organ-homeostasis via the activation of a new neural circuit. eLife, 6, e25517.

12) Hasebe, R., Murakami, K., Harada, M., Halaka, N., Nakagawa, H., Kawano, F., Ohira, Y., Kawamoto, T., Yull, F.E., Blackwell, T.S., et al. (2022) ATP spreads inflammation to other limbs through crosstalk between sensory neurons and interneurons. J. Exp. Med., 219, e20212019.

13) Rosas-Ballina, M., Olofsson, P.S., Ochani, M., Valdés-Ferrer, S.I., Levine, Y.A., Reardon, C., Tusche, M.W., Pavlov, V.A., Andersson, U., Chavan, S., et al. (2011) Acetylcholine-synthesizing T cells relay neural signals in a vagus nerve circuit. Science, 334, 98–101.

14) Stofkova, A., Kamimura, D., Ohki, T., Ota, M., Arima, Y., & Murakami, M. (2019) Photopic light-mediated down-regulation of local alpha1A-adrenergic signaling protects blood-retina barrier in experimental autoimmune uveoretinitis. Sci. Rep., 9, 2353.

15) Wang, H., Yu, M., Ochani, M., Amella, C.A., Tanovic, M., Susarla, S., Li, J.H., Wang, H., Yang, H., Ulloa, L., et al. (2003) Nicotinic acetylcholine receptor alpha7 subunit is an essential regulator of inflammation. Nature, 421, 384–388.

16) Pavlov, V.A., Chavan, S.S., & Tracey, K.J. (2018) Molecular and functional neuroscience in immunity. Annu. Rev. Immunol., 36, 783–812.

17) Borovikova, L.V., Ivanova, S., Zhang, M., Yang, H., Botchkina, G.I., Watkins, L.R., Wang, H., Abumrad, N., Eaton, J.W., & Tracey, K.J. (2000) Vagus nerve stimulation attenuates the systemic inflammatory response to endotoxin. Nature, 405, 458–462.

18) Abe, C., Inoue, T., Inglis, M.A., Viar, K.E., Huang, L., Ye, H., Rosin, D.L., Stornetta, R.L., Okusa, M.D., & Guyenet, P.G. (2017) C1 neurons mediate a stress-induced anti-inflammatory reflex in mice. Nat. Neurosci., 20, 700–707.

19) Olofsson, P.S. & Tracey, K.J. (2017) Bioelectronic medicine: Technology targeting molecular mechanisms for therapy. J. Intern. Med., 282, 3–4.

20) Eberhardson, M., Hedin, C.R.H., Carlson, M., Tarnawski, L., Levine, Y.A., & Olofsson, P.S. (2019) Towards improved control of inflammatory bowel disease. Scand. J. Immunol., 89, e12745.

21) Atsumi, T., Ishihara, K., Kamimura, D., Ikushima, H., Ohtani, T., Hirota, S., Kobayashi, H., Park, S.J., Saeki, Y., Kitamura, Y., et al. (2002) A point mutation of Tyr-759 in interleukin 6 family cytokine receptor subunit gp130 causes autoimmune arthritis. J. Exp. Med., 196, 979–990.

22) Pavlov, V.A., Chavan, S.S., & Tracey, K.J. (2020) Bioelectronic medicine: From preclinical studies on the inflammatory reflex to new approaches in disease diagnosis and treatment. Cold Spring Harb. Perspect. Med., 10, a034140.

23) Antunes, G.L., Silveira, J.S., Kaiber, D.B., Luft, C., da Costa, M.S., Marques, E.P., Ferreira, F.S., Breda, R.V., Wyse, A.T.S., Stein, R.T., et al. (2020) Cholinergic anti-inflammatory pathway confers airway protection against oxidative damage and attenuates inflammation in an allergic asthma model. J. Cell. Physiol., 235, 1838–1849.

24) Bosmans, G., Appeltans, I., Stakenborg, N., Gomez-Pinilla, P.J., Florens, M.V., Aguilera-Lizarraga, J., Matteoli, G., & Boeckxstaens, G.E. (2019) Vagus nerve stimulation dampens intestinal inflammation in a murine model of experimental food allergy. Allergy, 74, 1748–1759.

25) Fernandez-Cabezudo, M.J., George, J.A., Bashir, G., Mohamed, Y.A., Al-Mansori, A., Qureshi, M.M., Lorke, D.E., Petroianu, G., & Al-Ramadi, B.K. (2019) Involvement of acetylcholine receptors in cholinergic pathway-mediated protection against autoimmune diabetes. Front. Immunol., 10, 1038.

26) Murakami, M., Kamimura, D., & Hirano, T. (2019) Pleiotropy and specificity: Insights from the interleukin 6 family of cytokines. Immunity, 50, 812–831.

27) Ogura, H., Murakami, M., Okuyama, Y., Tsuruoka, M., Kitabayashi, C., Kanamoto, M., Nishihara, M., Iwakura, Y., & Hirano, T. (2008) Interleukin-17 promotes autoimmunity by triggering a positive-feedback loop via interleukin-6 induction. Immunity, 29, 628–636.

28) Ren, K. & Dubner, R. (2010) Interactions between the immune and nervous systems in pain. Nat. Med., 16, 1267–1276.

29) Ajami, B., Bennett, J.L., Krieger, C., McNagny, K.M., & Rossi, F.M. (2011) Infiltrating monocytes trigger EAE progression, but do not contribute to the resident microglia pool. Nat. Neurosci., 14, 1142–1149.

30) Steinman, L. (2014) Immunology of relapse and remission in multiple sclerosis. Annu. Rev. Immunol., 32, 257–281.

31) Matsuyama, S., Yamamoto, R., Murakami, K., Takahashi, N., Nishi, R., Ishii, A., Nio-Kobayashi, J., Abe, N., Tanaka, K., Jiang, J.J., et al. (2023) GM-CSF promotes the survival of peripheral-derived myeloid cells in the central nervous system for pain-induced relapse of neuroinflammation. J. Immunol., 211, 34–42.

32) Thakur, E.R., Sansgiry, S., Kramer, J.R., Waljee, A.K., Gaidos, J.K., Feagins, L.A., Govani, S.M., Dindo, L., El-Serag, H.B., & Hou, J.K. (2020) The incidence and prevalence of anxiety, depression, and post-traumatic stress disorder in a national cohort of US veterans with inflammatory bowel disease. Inflamm. Bowel Dis., 26, 1423–1428.

33) Ulrich-Lai, Y.M. & Herman, J.P. (2009) Neural regulation of endocrine and autonomic stress responses. Nat. Rev. Neurosci., 10, 397–409.

34) Guyenet, P.G. (2006) The sympathetic control of blood pressure. Nat. Rev. Neurosci., 7, 335–346.

35) Hasebe, R., Murakami, K., Harada, M., Halaka, N., Nakagawa, H., Kawano, F., Ohira, Y., Kawamoto, T., Yull, F.E., Blackwell, T.S., et al. (2022) ATP spreads inflammation to other limbs through crosstalk between sensory neurons and interneurons. J. Exp. Med., 219, e20212019.

著者紹介Author Profile

村上 薫(むらかみ かおる)

北海道大学遺伝子病制御研究所 特任助教.

略歴

北海道大学歯学部卒業後,北海道大学医学院にて博士号を取得した.専門は免疫学,神経免疫学.現在,AMEDムーンショット研究開発の微小炎症制御プロジェクトにてIL-6アンプとゲートウェイ反射,免疫細胞を基盤に3つのプラットホームの構築を行なっている.

田中 宏樹(たなか ひろき)

北海道大学遺伝子病制御研究所 特任講師.

略歴

大阪大学理学部卒,2010年大阪大学大学院生命機能研究科にて博士号(理学)を取得.専門は免疫学,炎症学,自然免疫学,神経免疫学.現在は,AMEDムーンショット研究開発の微小炎症制御プロジェクトにおける,IL-6アンプによる微小炎症増悪機構と神経回路を利用して炎症・免疫応答を人為的に抑制する治療法の開発に従事.

村上 正晃(むらかみ まさあき)

北海道大学遺伝子病制御研究所 所長,教授,量子科学技術研究開発機構量子生命科学研究所 チームリーダー,自然科学研究機構生理学研究所 教授.

略歴

北海道大学獣医学部を卒業後,大阪大学医学研究科にて博士号を岸本忠三先生取得した.専門は免疫学,神経免疫学,炎症学,リウマチ性疾患.2008年に平野俊夫先生(阪大)と共同で非免疫細胞での炎症誘導機構であるIL-6アンプ,2012年に新規の神経系と免疫系のクロストークであるゲートウェイ反射を発見した.それらをもとに現在ムーンショット型研究開発目標7にて微小炎症制御プロジェクトをより実施中.2022年度ノバルティス・リウマチ医学賞受賞.

This page was created on 2025-01-21T13:14:49.509+09:00
This page was last modified on 2025-02-17T10:39:26.000+09:00


このサイトは(株)国際文献社によって運用されています。