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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 97(1): 57-60 (2025)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2025.970057

みにれびゅうMini Review

光によるPLC活性制御ツールの開発と神経可塑性調節への応用Development of optogenetic tools for controlling PLC activity and their application in modulating neural plasticity

山梨大学医学部生化学講座第一教室Department of Biochemistry, Faculty of Medicine, University of Yamanashi ◇ 〒409–3898 山梨県中央市下河東1110 ◇ 1110 Shimokato, Chuo, Yamanashi 409–3898, Japan

発行日:2025年2月25日Published: February 25, 2025
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1. はじめに

光遺伝学は光と光感受性タンパク質を用いて細胞活動を時空間的に制御する有用な技術である.チャネルロドプシンや光感受性酵素,さらには植物や微生物由来の光感受性ドメインと哺乳類の酵素を融合させたキメラタンパク質など,多様な光遺伝学的ツールが開発され,神経活動制御および細胞生物学的研究に幅広く応用されている1).特に,シグナル伝達の制御において,光遺伝学は,シグナル伝達経路をきわめて高い時間分解能と空間分解能で操作し,特定のシグナル伝達経路が細胞の振る舞いに与える影響を詳細に解析することを可能にする.これにより,従来の薬理学的アプローチでは困難であった,特定の細胞種や神経回路におけるシグナル伝達を操作し,その機能を解明することが可能になった.

最近,我々は光遺伝学的技術を利用してホスホリパーゼCβ(phospholipase Cβ:PLCβ)の活性を時空間的に制御する新しいツールを開発し,神経可塑性研究への応用を試みた2).本稿では,まず光遺伝学的PLC活性制御ツールの原理と特徴を説明し,次に神経可塑性研究への応用事例を紹介する.

2. 光遺伝学による細胞シグナルの制御

シグナル伝達における光制御には二つの主な戦略がある.シグナル伝達において主導的役割を果たす機能タンパク質(リン酸化・脱リン酸化酵素や低分子量Gタンパク質など)を直接改変し,光による制御を可能にする戦略である.もう一つは,セカンドメッセンジャーの産生を制御する因子(Gタンパク質共役型受容体,三量体Gタンパク質およびその標的酵素など)を改変し,光による制御を可能にする戦略である.

セカンドメッセンジャー制御系においては,環状アデノシン一リン酸(cyclic adenosine monophosphate:cAMP),イノシトール1,4,5-三リン酸(inositol 1,4,5-triphosphate:IP3),環状グアノシン一リン酸(cyclic guanosine monophosphate),ジアシルグリセロール(diacylglycerol:DAG)などのセカンドメッセンジャーを産生する受容体および酵素に,光に反応して立体構造が変動する光誘導スイッチをタンパク質工学的技術に基づき導入する.これにより新たな改良タンパク質を作製し,さまざまな細胞応答を引き起こすことが可能となる.

たとえば,cAMPの産生はBeggiatoa属の細菌由来光活性化アデニル酸シクラーゼ(bPAC)3)や光制御Gs共役型受容体(opto-β2AR)4)によって制御できる.しかし,IP3とDAGの産生は光制御Gq共役型受容体(opto-α1AR)4)にのみ依存していた.これらの光制御Gタンパク質共役型受容体は,ロドプシンの骨格と哺乳類Gタンパク質共役型受容体(G protein-coupled receptor:GPCR)の細胞内ループから構成され,GqまたはGsシグナルを制御する.

しかしながら,レチナールクロモフォアを持つロドプシンベースのGPCRには,いくつかの問題点が指摘されている.多くの場合,試験管内および生体内での適切な機能にcis-レチナールの補充を必要とする点,非視覚細胞における速やかな受容体不活性化に必要なロドプシンキナーゼやアレスチンの欠如により遅いオフ動態を示す点,さらにロドプシンの広い吸収スペクトルがほかの光ベースの技術との同時適用に制限を与える点などである.

3. PLCの構造と活性制御

PLCは生体膜において重要な役割を果たす酵素群である.これらの酵素は,形質膜に存在するホスファチジルイノシトール4,5-二リン酸(phosphatidylinositol 4,5-bisphosphate:PIP2)のエステル結合を加水分解し,DAGとIP3を生成する.IP3は小胞体からのカルシウム放出を誘導し,DAGはカルシウムイオンとともにPKCを活性化することで,細胞内のさまざまな生理的プロセスを制御する重要な役割を担う.これらのセカンドメッセンジャーは,細胞増殖,分化,免疫反応,神経伝達など,多岐にわたる細胞機能の調節に関与する.

PLCは構造と活性化機構の違いにより,β, γ, δ, ε, ζ, ηの六つのファミリーに分類される(図1).その中で,PLCβとPLCγが最も詳細に研究されている.PLCβはGPCRの活性化による活性型三量体Gタンパク質のGqαサブユニット(Gq-GTP)を介したシグナル伝達経路により,形質膜に動員され活性化する.一方,PLCγは,自己リン酸化された受容体型チロシンキナーゼ(receptor tyrosine kinase:RTK)にPLCγ自身のSH2ドメインを介した相互作用により活性化される.

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図1 PLCファミリーのドメイン構造

PLC共通的にPH, EF, X–Y, C2ドメインで構成されている触媒コアを有する.PLCεはグアニンヌクレオチド交換因子(guanine nucleotide exchange factor)のCDC25ドメインとRas結合ドメイン(Ras-association domain:RA)を持つ.

PLCファミリーは,共通してプレクストリン相同(pleckstrin homology:PH)ドメイン(ζを除く),EFハンドドメイン,XドメインとYドメイン[triosephosphateisomerase(TIM)バレル構造],C2ドメインの構造を有し,触媒コアを構成する(図1).PLCβではX–Yリンカーが,PLCγではSH2ドメイン,SH3ドメイン,およびスプリットPHドメインで構成される制御アレイがXドメインとYドメインをつなぎ,活性中心を覆っている.これらX–Yリンカーと制御アレイは,PLCの自己抑制(autoinhibition)と活性化において重要な役割を担う.PLCβのX–Yリンカーは,PLCγの制御アレイとは異なり,天然変性領域である.特に,そのC末端側は負の電荷を帯びており,形質膜との相互作用から反発を受けることで,PLCβの活性中心が露出し,酵素の活性化が引き起こされると推測されている5)

4. 光駆動型PLCβの開発とその利点

PLCβのX–Yリンカーを欠失させると,細胞レベルにおいても恒常的活性を観察できる.したがって,X–Yリンカーの構造を制御できれば,人為的なPLC活性制御も可能であろう.しかし,X–Yリンカーは天然変性領域であり,構造変動を引き起こすことはきわめて困難である.前述したように,上流因子であるGPCRと共役したGqは内在性のPLCβを形質膜に動員し,その後の立体構造変化が活性の最適な制御に不可欠である.このことは,PLCと形質膜との相互作用が活性化に向けた立体構造変動において重要な駆動力となることを示唆している.これらの知見に基づき,我々は,光誘導二量体モジュール(light-induced dimer module:iLID)を用い,青色光を照射することでPLCβ3を形質膜に移行させる戦略で,光駆動型PLCβを開発した(図22).iLIDは,SsrA配列が遮蔽されたオーツ麦(Avena sativa)光感受タンパク質であるフォトトロピンの光酸素電圧感知ドメイン(AsLOV2)と,SsrA配列に特異的に相互作用するSspBドメインで構成され,光依存的にSsrA配列を露出させることでSspBドメインとの相互作用を可能とした技術である6).iLIDのC末端にKRas4BのCAAXモチーフを付加し,形質膜に局在させ,SspBドメインはPLCβ3のX–Yリンカーに置換し,光駆動型PLCβを構築した(図22).興味深いことに,SspBには負に荷電された領域がないにもかかわらず,光駆動型PLCの自己抑制が観察された.さらに,負の荷電領域がなくても,光依存的PLC活性に影響はみられなかった.これらのことから,細胞膜へのPLCβの動員は,シグナル伝達の開始に不可欠であり,膜標的化された光感受性iLID–CAAXを用いることで,膜への動員から,PIP2の分解,DAGとIP3の産生,カルシウムイオンの上昇などの下流シグナルに与える影響を検証することが可能となった.

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図2 光駆動型PLCβのデザインと作動機序

光駆動型PLCβはPLCパーツとiLIDパーツで構成される.PLCパーツはX–YリンカーをSspBドメインに置換した.iLIDパーツにはCAAX配列を付加し,形質膜局在を誘導した.光照射によりiLIDのSsrA配列が曝露され,SspBドメインを持つPLCを形質膜に動員する.

このように開発された光駆動型PLCβは,前述したロドプシンベースのGPCRであるOpto-α1ARに比べていくつかの利点がある.このシステムは,高い時空間分解能でPLCの活性を制御できる点で優れており,従来のGqタンパク質を介したPLC活性化システムと比較して,迅速な可逆性と特異的な吸収スペクトルを有している(図3).さらに,クロモフォアの補充が不要であるため,試験管内および生体内での応用が容易となる.

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図3 主要光遺伝学ツールの活性化波長および蛍光タンパク質の励起波長

チャネルロドプシンとして,ChR2およびChrimsonを表示した.光活性化酵素bPACと光駆動型PLCβは主に青色光波長により活性化される.反面,ロドプシンとアドレナリン受容体のキメラタンパク質であるOpto-α1およびβ2ARは幅広い活性化波長を示す.

さらに,光駆動型PLCβは,生細胞でのリアルタイムイメージングに特に適しており,光依存的にDAG, PIP2,ホスファチジン酸(phosphatidic acid)などの脂質動態を人為的に誘導することが可能である2).培地への作動薬添加が不要なため,生細胞を用いたタイムラプスイメージングに理想的なツールとなり,PLCシグナル伝達に関連する細胞内プロセスの詳細な観察を可能にしている.

5. 神経可塑性の光制御

記憶・学習と神経可塑性は,シナプスでのシグナル伝達や遺伝子発現の変化を通じて調整される複雑なプロセスである.神経可塑性は,経験や刺激に応じて神経細胞が形態や機能を変える能力を指し,この変化はシナプスの可塑性によって支えられている.シナプス可塑性は,シナプス前およびシナプス後の神経細胞間でのシグナル伝達を調節する一連の分子メカニズムに依存する.特に,長期増強(long-term potentiation:LTP)と長期抑圧(long-term depression:LTD)は,学習と記憶に重要である.長期増強は,シナプス伝達効率が長期間にわたり増強される現象であり,神経ネットワークの適応や記憶形成に中心的な役割を果たす.

恐怖記憶に関与する神経回路は,扁桃体,海馬,前頭前野など,複数の脳領域で構成される.恐怖条件づけにおける基本的な神経経路は,感覚刺激が視床および皮質を経由して扁桃体に伝達され,扁桃体がそれに応じて感情反応を調整する.これまでの研究では,扁桃体外側核(basolateral amygdala:BLA)への視床入力におけるLTPが,代謝型グルタミン酸受容体mGluR5を介したPLCシグナル伝達によって促進されることが明らかとなっていた7).そこで,我々は恐怖記憶の形成に重要なBLAにおけるLTPに焦点を当て,光駆動型PLCβを発現するアデノ随伴ウイルスをBLAに両側注入した.注入後4週間以上経過したマウスから急性脳スライスを作製し,通常ではLTPを誘導できない弱いシナプス刺激(weak pairing)を与えたところ,光照射との組み合わせにより興奮性シナプス後電位(excitatory postsynaptic potential:EPSP)の持続的な増強が観察された2).このことは,光駆動型PLCβの活性化が弱いシナプス入力をLTPへと変換できることを示している.さらに,生体内において,BLAに光駆動型PLCβを発現させ,LEDカニューレを埋め込み,光照射に並行し恐怖学習試験を実施した.条件づけでは,マウスに音と嫌悪性フットショックを与え,LEDで刺激した.翌日,マウスを音に再曝露し,行動を記録した結果,光駆動型PLCβマウスの音依存性フリージング頻度は対照群より有意に高かった2).これは,光駆動型PLCβの活性化により連合恐怖記憶が増強されたことを示した.

一方,同時期にPLCβ1骨格の光駆動型PLCが開発され,恐怖記憶における海馬・歯状回でのPLC機能が解析されている8).報告によると,歯状回でPLCβ1を欠損させたマウスは,恐怖反応の亢進と記憶の消失障害を示すが,この過剰な恐怖反応は,PLCβ1の過剰発現や光駆動型PLCを用いた光活性化によって抑制されることを示し,歯状回のPLCβ1が記憶抑制因子として機能していることを明らかにしている.

これらの研究から,PLCβはBLAで恐怖記憶を促進し,歯状回では過剰な恐怖反応を抑制する役割を持つことが示唆された.この違いは,BLAが恐怖記憶の形成,歯状回が記憶の精緻化や文脈弁別に関与する,脳領域特異的なPLCβの役割を反映していると考えられる.今後の研究により,脳領域ごとのPLCβ依存的な長期増強や長期抑圧の詳細な分子メカニズムを含め,PLCβの全体的な機能がさらに明らかになることが期待される.

6. おわりに

本稿では,光遺伝学的手法を用いた新規PLCβ活性制御ツールの開発とその応用について概説した.PLCシグナル伝達経路は神経可塑性および記憶形成においてきわめて重要な役割を果たしており,光駆動型PLCβ技術はこれらの経路を時空間的に精密に制御する強力なツールを提供する.この技術により,従来の手法では困難であった細胞シグナルの詳細な解析が可能となり,特に神経科学や細胞生物学において新たな知見が得られることが期待される.さらに,このシステムの応用範囲は広く,神経生物学や細胞生物学のみならず,免疫応答やがん,心血管生理学などの分野,さらには植物学など,多彩な分野での応用が可能であり,基本的な細胞プロセスとその生理学的影響の理解を深めることにつながり,今後の生命科学研究に大きく貢献することが期待される.

引用文献References

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著者紹介Author Profile

金 然正(きむ よんじょん)

山梨大学医学部 助教.博士(医学)(東京大学).

略歴

1970年韓国,安城市に生まれる.97年来日し,東京大学大学院医学系研究科にて博士学位を取得(清水孝雄教授),理化学研究所・脳神経科学研究センター研究員.2019年より現職.

研究テーマと抱負

タンパク質化学と脂質生化学を専門とし,神経細胞プレシナップスにおける活性帯構成タンパク質の超分子複合体形成メカニズム,液-液相分離およびこれらの変容による神経ダイナミックスの変動を研究しています.

趣味

ランニング.

大塚 稔久(おおつか としひさ)

山梨大学医学部 教授.博士(医学)(大阪大学).

略歴

1969年長崎県対馬に生まれる.94年鹿児島大学医学部卒業後,大阪大学大学院博士課程入学(高井義美教授).高井研でポスドクを経た後,2000年よりカン研究所主幹研究員.05年から富山大学医学部准教授.09年より現職.

研究テーマと抱負

大学院時代から一貫して細胞内のシグナル伝達機構の生化学に興味を持ってきました.神経科学分野に参画して,個体レベルの研究も多くなりましたが,引き続き生化学・タンパク質化学を軸にした研究を目指したいと考えています.

ウェブサイト

https://www.med.yamanashi.ac.jp/basic/bioche01/

趣味

散歩.

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