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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 97(2): 116-122 (2025)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2025.970116

特集Special Review

ペリオスチンによるアトピー性皮膚炎における痒みの機序Mechanism of itch in atopic dermatitis by periostin

1アレルギー学分野Division of Allergy, Department of Biomolecular Sciences, Saga Medical School ◇ 〒849–8501 佐賀県佐賀市鍋島5–1–1 ◇ 5–1–1 Nabeshima, Saga 849–8501, Japan

2佐賀大学医学部分子生命科学講座分子医化学分野Division of Medical Biochemistry, Department of Biomolecular Sciences, Saga Medical School ◇ 〒849–8501 佐賀県佐賀市鍋島5–1–1 ◇ 5–1–1 Nabeshima, Saga 849–8501, Japan

発行日:2025年4月25日Published: April 25, 2025
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痒みはアトピー性皮膚炎患者の日常生活の支障になるだけでなく,アトピー性皮膚炎の悪化要因ともなる.アトピー性皮膚炎の起痒物質としていくつかの2型サイトカインが同定されているが,それ以外にも起痒物質が存在すると考えられている.ペリオスチンは2型サイトカインであるIL-4やIL-13によって誘導されるマトリセルラータンパク質である.我々は,新規のアトピー性皮膚炎モデルマウスであるFADSマウスを確立し,ペリオスチン遺伝子の欠損,ならびにαVβ3インテグリン阻害剤であるCP4715の投与により,マウスの痒みが著明に改善されることを見いだした.これより,ペリオスチンは知覚神経へ作用して痒みを伝達することが明らかとなった.今後,CP4715を含めたαVβ3インテグリン阻害剤をアトピー性皮膚炎に対する創薬として開発することが期待される.

1. はじめに

日本皮膚科学会発行の『アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021』において,アトピー性皮膚炎は,「増悪と軽快を繰り返す瘙痒のある湿疹を主病変とする疾患であり,患者の多くは「アトピー素因」を持つ」と定義されている(https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/ADGL2021_230728.pdf).つまり,痒みはアトピー性皮膚炎を定義する必須な症状であるといえる.痒みは集中力の低下や不眠を引き起こすなど日常生活の支障になるだけでなく,皮膚を引っ掻くことにより皮膚のバリア機能を障害させてアレルゲンを侵入しやすくさせ,結果的にアトピー性皮膚炎の悪化要因ともなる.このため,痒みのコントロールは,アトピー性皮膚炎患者の病態を改善する上できわめて重要であるといえる.

アトピー性皮膚炎の病態においては,他のアレルギー疾患と同様に2型炎症が主体となっていることが知られている1).2型炎症によって産生,放出されるIL-4, IL-13, IL-31, IL-33, TSLP(thymic stromal lymphopoietin)などの2型サイトカインは皮膚炎症を引き起こすのみならず,知覚神経上の受容体に結合して痒みを引き起こす2).このため,これらのサイトカインの一部の中和抗体がアトピー性皮膚炎に対する治療薬として開発され,痒みに対しても効果を示している.それについては,本特集の他の総説を参考にしていただきたい.しかし,すべてのアトピー性皮膚炎患者がこれらの分子標的薬に効果を示すわけではなく,治療に抵抗性を示す患者も存在する.それはアトピー性皮膚炎患者の痒みの機序は複雑,かつ不均質であり,まだ知られていない起痒物質が存在するためだと考えられている.

我々は,痒みによる激しい引っ掻き行動を示すアトピー性皮膚炎モデルマウスを確立して,新規の起痒物質としてペリオスチンを最近同定した.さらに,その阻害物質も見いだし,現在アトピー性皮膚炎に対する創薬となるか検討を行っている.本稿ではその発見の経緯と今後の展望についてご説明したい.

2. ペリオスチンの同定とその特徴

2型サイトカインであるIL-13は喘息の発症に重要であることが,1990年代に動物モデルによって示された3, 4).その機序に基づいて,IL-4とIL-13の共通な受容体コンポーネントであるIL-4受容体α鎖に対する中和抗体であるデュピルマブが,現在では喘息をはじめとするいくつかのアレルギー疾患に対する治療薬として用いられている.IL-13による喘息発症機序を明らかにしようと考え,我々は,気道上皮細胞をIL-13で刺激した際に誘導される遺伝子を,DNAマイクロアレイを用いて網羅的に同定した5).IL-13により非常に強く誘導される遺伝子の中に,ペリオスチンが含まれていた.その後,ペリオスチンの主な産生細胞は上皮細胞ではなく,線維芽細胞であることが明らかとなった6)

ペリオスチンは二つの特徴を持ったタンパク質である(図17).一つは細胞外マトリックスタンパク質としての役割である.ペリオスチンは,コラーゲン,フィブロネクチン,テネシンCなどの他の細胞外マトリックスタンパク質と結合して,組織や器官の構造維持や病的な状態では線維化の形成に関与している.もう一つの特徴はマトリセルラータンパク質としての役割である.一部の細胞外マトリックスタンパク質はサイトカインのように細胞表面上の受容体に結合して細胞内にシグナルを伝達することが知られており,ペリオスチンもマトリセルラータンパク質の一つである.ペリオスチンの主な受容体は,αVβ3,あるいはαVβ5インテグリンである.我々は,マトリセルラータンパク質としてのペリオスチンの機能が,アトピー性皮膚炎を含めたアレルギー疾患の発症に重要であることを示してきた8)

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図1 ペリオスチンの特徴(文献7を改変)

ペリオスチンは一般的な細胞外マトリックス(ECM)タンパク質とマトリセルラータンパク質としての特徴を持っている.前者は組織・器官の構造維持と線維化に関わっており,後者は細胞の活性化を引き起こしている.

3. アトピー性皮膚炎の発症機序におけるペリオスチンの重要性

アトピー性皮膚炎の発症機序においてペリオスチンが重要な役割を果たしていることを,我々は10数年前に報告した6).その要旨は以下のとおりである.

  1. 1) アトピー性皮膚炎患者の真皮においてペリオスチンが強く発現するとともに,患者血中においてペリオスチンレベルが上昇していた.アトピー性皮膚炎患者の血中でのペリオスチン上昇については,その後横浜市立大皮膚科教室の山口由衣先生らとの共同研究においても示している9)
  2. 2) ダニ抽出物をマウスの耳介に塗布することにより,アトピー性皮膚炎のモデルマウスを作製した.ダニ塗布マウスでは,耳介の腫脹,表皮の肥厚,好酸球やマスト細胞などの炎症細胞の浸潤,2型サイトカイン発現の上昇,ペリオスチン発現の上昇などの特徴がみられた.ペリオスチン欠損マウスにダニ塗布したところ,これらのアトピー性皮膚炎様所見がほぼすべて消失した.
  3. 3) 線維芽細胞において産生されたペリオスチンの角化細胞への作用を解析するために,3次元共培養システムを構築した.このシステムでは,コラーゲンゲル内に線維芽細胞を埋没させ,その上に角化細胞を置く.これにより,角化細胞は,上面は空気に接し,下面はコラーゲンゲルに接して極性を持って培養できるとともに,互いの細胞が産生する液性因子がコラーゲンゲルを介して作用することが可能となる.ペリオスチンを産生できる野生型の線維芽細胞をコラーゲンゲル内に埋没させ,IL-13を添加したところ,角化細胞は増殖するともに,最終的には角層細胞へと分化した.また,NF-κBが活性化されてTSLPなどの炎症性サイトカインの産生も誘導された.しかし,ペリオスチンを欠損した線維芽細胞を使用した場合には,角化細胞の分化・増殖,ならびにNF-κBの活性化や炎症性サイトカインの産生は著明に抑制されていた.以上より,アトピー性皮膚炎の病態においては,IL-4/IL-13刺激により線維芽細胞からペリオスチンが産生され,ペリオスチンは角化細胞に作用してNF-κBを活性化し,分化・増殖とともに炎症性サイトカインの産生を誘導し,それがさらに2型炎症を増幅していると考えられた(図2).つまりペリオスチンはアトピー性皮膚炎の増悪因子として作用していることを示した.
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図2 最初明らかになったアトピー性皮膚炎の病態形成におけるペリオスチンの役割(文献6を改変)

2型サイトカインであるIL-4/IL-13により線維芽細胞で産生されたペリオスチンは,角化細胞にαVβ3インテグリンを介して作用し,TSLPなどのサイトカインの産生を誘導することにより皮膚炎症を増悪させることが,最初に明らかとなった.

しかし,この時点では,1)ペリオスチンがアトピー性皮膚炎の皮膚炎症に重要だとしても,痒みに関連しているかは不明である,2)ペリオスチンはアトピー性皮膚炎に対する治療標的となりうると考えられるが,その作用を抑制する物質は見つかっていないといった課題が残っていた.これらの課題を解決するのに,約10年の月日を必要とした.

4. 新規アトピー性皮膚炎モデルマウスの確立

我々が確立したダニ抽出物塗布のアトピー性皮膚炎モデルマウスにおいては,痒みに伴う引っ掻き行動はほとんどみられず,痒みの評価モデルとしては適さなかった.そのため,アトピー性皮膚炎の痒みの機序,あるいは阻害剤の評価のためには,より痒みによる引っ掻き行動を示すマウスが必要であると考えていた.そうしたところ,富山大学の北島勲先生より,自身で作られた遺伝子改変マウスが激しい引っ掻き行動を示すので共同で解析したいと相談を受けた.このマウスは,Cre-loxPシステムにより,NF-κB活性化経路のcanonical pathwayに関与しているIkk2が,ラットnestin遺伝子プロモーター領域の制御下で欠損する遺伝子構成となっていた(図310).Nestinは神経系細胞などに発現している分子であるが,生まれてきたマウスは,顔面だけに限定して皮膚炎症を起こすとともに,激しい引っ掻き行動を示した(図4).我々は,このマウスの皮膚炎の特徴として,1)表皮の肥厚や角化の亢進,2)好酸球やマスト細胞などの浸潤,3)2型サイトカイン発現の上昇,3)血中IgEの上昇,4)組織・血中でのペリオスチン発現の上昇などを認め,新規のアトピー性皮膚炎モデルマウスであると結論づけた.そして,その特徴からFacial Atopic Dermatitis with Scratching(FADS)マウスと名づけた.どうしてnestin遺伝子プロモーター領域の制御下でIkk2が欠損するとこのような表現型となるのかは,まだよくわかっていない.ただ,顔面の線維芽細胞の一部は神経堤細胞由来であり,nestinを発現しており,このnestin発現線維芽細胞がプライマリな原因となっていると考えている.皮膚炎症が顔面に限定されていることも,このことより説明しうる.また,このFADSマウスは,飼育を続けていると,増殖性の角膜・結膜病変を発症し,その病変がヒトのアトピー性角結膜炎に似ていることから,アトピー性角結膜炎のモデルマウスともなることも明らかにしている11).さらに,痒みの評価も含めて広くアトピー性皮膚炎モデルマウスとしてビタミンDアナログであるMC903の塗布マウスが用いられているが,我々の解析では,痒みによる引っ掻き行動はFADSマウスの方が圧倒的に強く,しかも通常のマウス飼育環境下で必発するので,アトピー性皮膚炎の解析,特に痒みの解析において,FADSマウスが非常に有用であると考えている.

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図3 FADSマウスの確立(文献10を改変)

FADSマウスの遺伝子構成(左図)ならびにその交配図(右図)を示す.

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図4 FADSマウスの皮膚炎症

FADSマウスの顔面における皮膚炎症を示す.眼の周囲および頬部に炎症が認められる.

5. ペリオスチン阻害剤の発見

ペリオスチンを創薬の標的として考えるのであれば,ペリオスチンとその受容体であるαVβ3,あるいはαVβ5インテグリンとの結合を阻害する化合物がリード化合物として望ましいと考えた.これまでにもいくつかの化合物がαVβ3インテグリン阻害剤として報告されているが,我々はMeiji Seikaファルマ株式会社より自社で開発された化合物について提供を受けた.Meiji Seikaファルマ株式会社では,心筋梗塞に対する創薬候補としてαVβ3インテグリン阻害剤を探索していたところ,いくつかの化合物を同定,開発することに成功した12–15).これらの化合物のコアな構造は同じであり,化合物によって修飾基が異なっていた(図516).我々は,阻害効果の強さ,あるいは動物実験に基づく安全性の観点から,同定された化合物の中からCP4715に焦点を当てて,in vitro, in vivoでの阻害効果の評価を行った.

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図5 CP4715ならびにその周辺化合物の構造(文献16を改変)

CP4715ならびにその周辺化合物の構造を示す.Adapted with permission of the American Thoracic Society. Copyright © 2024 American Thoracic Society. All rights reserved. Cite: Author(s)/Year/Title/Journal title/Volume/Pages. The American Journal of Respiratory Cell and Molecular Biology is an official journal of the American Thoracic Society. Readers are encouraged to read the entire article for the correct context at https://www.atsjournals.org/doi/full/10.1165/rcmb.2019-0245OC. The authors, editors, and The American Thoracic Society are not responsible for errors or omissions in adaptations.

まず,in vitroで,ペリオスチンをプレートにコーティングし,ヒト結腸がん由来株化細胞であるSW480細胞にβ3インテグリンを強制発現させた細胞株の結合に対する阻害作用を評価した16)図6).SW480細胞は内因性にαVとβ5インテグリンを発現しているが,β3インテグリンは発現していない.このため,β3インテグリンを強制発現させたSW480細胞と元のSW480細胞の結合を比較することにより,αVβ3インテグリンとペリオスチンとの特異的な結合を観察することができる.この評価系を用いてCP4715とその周辺化合物の阻害作用を評価したところ,CP4715はIC50が0.001 µM未満と非常に強い阻害効果を示した.また,CP4715と同程度の強い阻害効果を示した化合物もいくつか存在した.

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図6 ペリオスチンとαVβ3インテグリンとの結合に対する阻害活性の測定方法

まずELISAプレートにペリオスチンをコーティングし,β3インテグリンを強制発現させたSW480細胞を結合させる.そこに阻害剤を添加して阻害活性を測定する.

次にin vivoでの評価としてブレオマイシン投与による間質性肺炎マウスモデルを用いた.我々は,特発性肺線維症患者の肺組織,ならびに血中においてペリオスチンの発現が増強するとともに,ペリオスチンを欠損したマウスではブレオマイシン投与による間質性肺炎が軽減することから,間質性肺炎の発症においてもペリオスチンが重要であることをすでに見いだしていた17, 18).このブレオマイシン投与による間質性肺炎モデルマウスにCP4715を投与すると,肺の線維化が軽減して,生存が延長することを示した16).このことから,CP4715は生体内においてもペリオスチンの作用を阻害しうると考えた.

6. FADSマウスの皮膚炎症におけるペリオスチンの重要性

FADSマウスの皮膚炎症におけるペリオスチンの重要性を検証するために,ペリオスチンを欠損したFADSマウスを作製した.ペリオスチン欠損FADSマウスでは,明らかに肉眼的に皮膚炎症が軽減した19).組織学的には表皮の肥厚や角化亢進が改善された.炎症細胞の浸潤においては,好中球,マスト細胞,M2マクロファージは減少したが,興味深いことに好酸球の浸潤には変化はなかった.遺伝子プロフィールにおいては,IL-1b, IL-24, IL-33をはじめとしたNF-κBにより制御されているサイトカインやケモカインの産生が抑制される一方で,IL-4, IL-5, IL-13などの2型サイトカインの産生には変化はみられなかった.この結果は,10年前に発表したダニ塗布マウスでの結果と同じように,ペリオスチンは角化細胞のNF-κBを活性化し,角化細胞の増殖・分化を引き起こすとともに,炎症性サイトカインの産生を誘導することを示していると考えられた.

FADSマウスにCP4715を投与したところ,ペリオスチンの欠損と同じように肉眼的・組織学的に炎症を改善した19).それだけでなく,有意差はつかなかったものの好酸球浸潤を抑制する傾向を示し,2型サイトカインの産生も抑制され,ペリオスチン欠損よりも強い炎症抑制作用が認められた.その理由としては,ペリオスチン以外のαVβ3インテグリンのリガンドの作用も抑制したためである可能性が考えられる.

7. FADSマウスの痒みにおけるペリオスチンの重要性

ペリオスチンを欠損したFADSマウスでは,皮膚炎症とともに痒みによる引っ掻き行動が著明に減少した19).特に,生後4週齢ではほとんど引っ掻き行動は認められず,ペリオスチンを発現しているFADSマウスとの差はより明確であった.共同研究者である富山大学の歌先生らは,FADSマウスの脊髄後角に電極を刺し,痒みによる知覚神経の自然発火を観察した.その結果,通常のFADSマウスでは自然発火が増加しているのに対し,ペリオスチンを欠損したFADSマウスでは自然発火が著明に減少していた.このように,FADSマウスの痒みにおけるペリオスチンの重要性は,神経生理学的手法によっても確認された.

次にCP4715を投与した際のFADSマウスの引っ掻き行動を検討した19).投与方法としては,腹腔内に毎日2週間投与して観察する方法と,腹腔内に単発で投与してその直後の変化を観察する方法の2通りを行った.前者の連日投与では,8日目と投与終了した15日目において,ともに引っ掻き行動が著明に減少していた.また,単発投与においても,投与後1時間以内に知覚神経での自然発火が減少するとともに,それに符合して引っ掻き行動も減少した.これより,CP4715はFADSマウスにおける痒みを抑制するとともに,その効果が速効性であることから,直接知覚神経に作用していると考えられた.実際,ペリオスチンが直接知覚神経に作用して痒みを引き起こしているとの別の報告もあり20),我々のFADSマウスを用いた結果と一致している.

以上の結果より明らかになったアトピー性皮膚炎の病態形成におけるペリオスチンの役割を示す(図7).IL-4/IL-13刺激により,線維芽細胞からペリオスチンが産生される.産生されたペリオスチンの役割としては,角化細胞への作用と知覚神経への作用の二つが考えられる.角化細胞への作用は,NF-κBを活性化して炎症性サイトカインの産生を誘導するとともに,角化細胞の増殖・分化を誘導することである.知覚神経への作用は,痒みを伝達して引っ掻き行動を引き起こすことである.ともに,αVβ3インテグリンに結合してその作用を起こしていると考えられる.

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図7 現在明らかになっているアトピー性皮膚炎の病態形成におけるペリオスチンの役割(文献19を改変)

ペリオスチンは,角化細胞にαVβ3インテグリンを介して作用して皮膚炎症を増悪させることに加えて,直接知覚神経に作用して痒みを伝達し,引っ掻き行動を誘発している.

8. 今後の展望

今回の研究結果は,FADSマウスにおいてペリオスチンが起痒物質の一つであることを明らかにしたものである.さらに,CP4715を含めたαVβ3インテグリン阻害剤がアトピー性皮膚炎における皮膚炎症と痒みの両方に対する治療薬となりうる可能性を示したものである.今後の課題としては次のような項目が考えられる.まずは,痒みの分子機序についてである.これまで2型サイトカインを含めていくつかの起痒物質が同定されているが,これらは同じ知覚神経において痒みを引き起こしているのか,またその場合,それぞれの起痒物質の役割,あるいは活性化経路はどのようになっているのかという点である.あるいはそれぞれの起痒物質に反応する知覚神経が異なっている可能性も考えられる.これは免疫–神経連関の領域における重要な課題であるといえる.さらに,痒みの分子機序をヒトに反映させた場合,FADSマウスを含めたマウスモデルでの知見がどこまで当てはまるのかがポイントとなる.一方で,創薬の開発については,CP4715を含めて数多くのαVβ3インテグリン阻害剤の存在が知られているが,その中でアトピー性皮膚炎の治療薬として最適な化合物はどれなのか,その場合,投与の剤型としては,経口,外用,注射のいずれが適切なのかといったことがあげられる.このように,今後さらにアトピー性皮膚炎における痒みの分子機序を明らかにするとともに,アトピー性皮膚炎に対する創薬の開発を進めていく必要がある.

謝辞Acknowledgments

本研究に貢献して下さった研究室のスタッフや大学院生,共同研究者に感謝申し上げます.特に,FADSマウスを作製し,解析を行っていただいた富山大学の北島勲先生,FADSマウスの神経生理学的解析を行っていただいた富山大学の歌大介先生には心より深謝申し上げます.

引用文献References

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著者紹介Author Profile

出原 賢治(いずはら けんじ)

佐賀大学医学部分子生命科学講座アレルギー学分野 特任教授.医学博士.

略歴

1958年広島県生まれ.84年に九州大学医学部を卒業し,同大学第一内科入局.91年から94年まで米国DNAX分子生物学研究所免疫学部門に留学.国立遺伝学研究所,九州大学医学部を経て2000年から佐賀大学医学部分子生命科学講座分子医化学分野教授.24年4月より現職.

研究テーマと抱負

アレルギー疾患の発症機序を解明するとともに,得られた知見を元に診断薬・治療薬の開発を目指している.最近では,特にアトピー性皮膚炎の痒みに関心を持っており,その機序解明と治療薬の開発に取り組んでいる.

ウェブサイト

https://www.biomol.med.saga-u.ac.jp/medbiochem/

趣味

テニス.

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