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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 97(2): 123-128 (2025)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2025.970123

特集Special Review

IL-33-ST2-CGRP経路を介した記憶型Tpath2細胞による「免疫–神経連関」と痒みの病態形成機構Immune–neuronal interaction in the pathogenesis of itch by memory-type pathogenic Th2 (Tpath2) cells via the IL-33-ST2-CGRP pathway

1千葉大学大学院医学研究院免疫発生学Department of Immunology, Graduate School of Medicine, Chiba University ◇ 〒260–8670 千葉市中央区亥鼻1–8–1 ◇ 1–8–1 Inohana, Chuo-ku, Chiba-shi, Chiba 260–8670, Japan

2順天堂大学医学部附属浦安病院眼科Department of Ophthalmology, Juntendo University Urayasu Hospital ◇ 〒279–0021 千葉県浦安市富岡2–1–1 ◇ 2–1–1 Tomioka, Urayasu-shi, Chiba 279–0021, Japan

発行日:2025年4月25日Published: April 25, 2025
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生体は,神経系,内分泌系,代謝系,免疫系などを介して外界や生体内部のさまざまな環境変化をすばやくかつ確実に捉える.これらの精緻な生体システムが巧妙に働くことで,生体の恒常性は保たれている.しかし,免疫系が神経系に作用することが,さまざまな難治の病態の形成にどのように働くかについては,いまだに不明な点が多い.

今回,我々は,上皮性サイトカインの一種であるIL-33刺激によって活性化した記憶型病原性Th2(pathogenic T helper 2:Tpath2)細胞が産生するIL-4, IL-13といった2型サイトカインが炎症局所における末梢神経の伸長と病的痒みを誘導することを見いだした.さらに,活性化した記憶型Tpath2細胞神経ペプチドの一種であるCGRPも病的痒みを誘導する.以上,記憶型Tpath2細胞による病的痒みの誘導について,文献的考察とともに紹介する.

1. Tpath2細胞は重症アレルギー疾患の病態形成に重要である

アレルギー性疾患は,元来は病原性微生物などの外界から生体を防御するための免疫反応が,そのバランスを崩すことによって生じる.獲得免疫系および自然免疫系の免疫担当細胞がさまざまに作用し合って病態形成に関与しているが,その中でも「免疫記憶」を担う中心となるT細胞は,分化の過程においてそれぞれ異なる役割を担う.

T細胞の中でもナイーブCD4陽性T細胞は,T細胞受容体を介して病原体由来の抗原を認識しTh1細胞,Th2細胞,Th17細胞,制御性T細胞などの異なる機能を有するさまざまなヘルパーT細胞に分化する.その中でもTh2細胞を中心とした2型免疫応答がアレルギー病態において重要な役割を担っており,気管支喘息やアトピー性皮膚炎,好酸球性食道炎などのアレルギー疾患において,大量のIL-5を産生し好酸球を誘導する記憶型Th2細胞は記憶型病原性Th2(pathogenic Th2:Tpath2)細胞と呼ばれ,気道粘膜などの炎症組織に存在し,アレルギーの病態悪化や慢性化に深く関与する1).Tpath2細胞は,上皮から分泌されるサイトカインであるIL-33に対する受容体ST2を高発現しており,IL-33刺激によって下流のシグナル伝達経路であるp38-MAPKが活性化されることで,IL-5産生が誘導される2).さらに,IL-33刺激を受けたTpath2細胞は,Th2サイトカインだけでなく,上皮成長因子の一種であるAmphiregulinも産生する.Amphiregulinは,アレルギー炎症環境下では,炎症組織に浸潤した好酸球を活性化することで,組織の線維化を誘導する3).以上,記憶型Tpath2細胞は,慢性アレルギー性炎症疾患の病態形成に深く関与している.

2. 免疫系と神経系の相互連関

1)神経系による免疫系の制御

全身性に張り巡らされた神経系のうち,感覚ニューロンは末梢組織においてさまざまな生理活性物質を介して外部環境の変化を感知し,中枢神経系へ情報を伝える.一方で,軸索反射により自身が受けた情報を免疫系に伝え制御する役割を持つことも近年明らかとなってきた.

たとえば,皮膚には電位依存性ナトリウムチャネル(Nav1.8)や一過性受容体電位カチオンチャネルサブファミリーVメンバー1(TRPV1)を発現する感覚侵害受容器ニューロンが存在する.この感覚侵害受容器ニューロンが,アレルゲンや微生物によって直接刺激されると,脱分極した神経細胞から,サブスタンスP,CGRP(calcitonin gene-related peptide),VIP(vasoactive intestinal peptide),NMU(neuromedin U)などさまざまな神経伝達物質が分泌される.組織に分泌されたこれらの神経伝達物質は,それぞれに対する特異的な受容体を発現した免疫細胞を活性化する4).黄色ブドウ球菌とその毒素であるα-ヘモリジンによって活性化された神経細胞の一部はCGRPを分泌し,痛みを伝達すると同時に,好中球などの顆粒球の連鎖球菌に対する殺菌効果を抑制する5, 6).一方で,真菌の一種であるCandida albicans(カンジダ・アルビカンス)の侵入に反応して分泌されるCGRPは皮膚の樹状細胞からのIL-23産生を促進することでγδT細胞のIL-17A分泌を促し,Th17を活性化させることで防御に働くと報告されている7–9).また,アレルゲンの刺激で活性化した一部の神経細胞は,サブスタンスPを分泌することでMRGPRA1を介したCD301b陽性真皮樹状細胞のリンパ節への遊走や,MRGPRB2を介したマスト細胞の活性化を誘導する10, 11).さらに,Clostridioides difficile(クロストリディオイデス・ディフィシル)菌の毒素であるTcdBは,FZD1, FZD2, FZD7などの受容体を介して,神経細胞からのサブスタンスPやCGRPの分泌を誘導する.この際,CGRPは,ペリサイトからのIL-8分泌などを誘導することで神経原性炎症を引き起こす12).またTcdBは,ペリサイトのCSPG4を介してサイトカインの分泌を誘導し,血管浮腫を引き起こす.その他,肺においてはNav1.8陽性またはTRPV1陽性ニューロンがアレルゲンの刺激により活性化されVIPを産生し,自然リンパ球の一種であるILC2を活性化することでIL-5産生を亢進させ炎症増悪に働くことが知られている13).また腸管においては,コリン作動性ニューロンにより分泌されたNMUがILC2を活性化させて寄生性蠕虫のNippostrongylus brasiliensisへの防御を高める一方,腸管ニューロンから分泌されるCGRPはILC2の増殖を抑制しサイトカイン産生を抑える働きがあることが報告されている14–18)

以上のように,病原体やアレルゲンの情報を捉えた神経系が危険信号を迅速に伝え,免疫を活性することが,生体防御反応に深く関与する.

2)免疫系による神経系の制御

神経系が免疫系を制御するメカニズムとは対照的に,免疫系が神経系に働きかける機構も存在する.痒みを生じる疾患として代表的なアトピー性皮膚炎における強い痒みは,掻き行動を引き起こし,これが皮膚のバリアに損傷をもたらし,アレルゲンや刺激物の侵入を助長する結果,炎症の悪化を招く「itch-scratch-cycle」を生じさせる.このような痒みのほかに,末梢知覚の種類としてはほかにも触覚,温痛覚,慢性的な痛みが含まれる.痒みを伝達する一次求心性感覚神経は,顔面や口腔部では三叉神経節に,体のほかの部位では脊髄後根神経節に細胞体を持ち,標的器官へ向かう軸索を延ばしている.痒みの伝達は,主に速度が遅く小型の無髄神経であるC線維を介して行われる19).末梢の感覚神経は脊髄後角の二次突起とシナプスを形成し,その信号は対側の視床脊髄路を上昇し,大脳のさまざまな部位に伝わる20, 21).末梢神経と脊髄後角の間に存在するgastrin-releasing peptide receptor(GRPR)やnatriuretic polypeptide B(Nppb)は痒み特異的な経路を構成する重要な分子として報告されている19, 20, 22).痒みを誘導する物質としては,ヒスタミンは,古くから非常に多くの研究がなされている.炎症組織において,ヒスタミンはマスト細胞や好塩基球から分泌され,ヒスタミンH1, H4受容体やTRPV1を介して痒みを伝達する.

一方で,抗ヒスタミン薬が痒みに対して万能でないことは臨床上広く知られており,近年では,ヒスタミン非依存的な痒み誘導経路が注目され,研究が進められている23).たとえば,脊髄後根神経節(腰部)の検体を用いてsingle-cell RNA sequenceで解析したこれまでの研究では,痒みを感知する感覚神経細胞は発現遺伝子の特徴からNP1~3に分類されている24).NP1はリゾホスファチジン酸に反応する集団であり胆汁性疾患に関連する.NP2はクロロキンに反応する集団でヒスタミンやクロロキンによって起こる急性の痒みに関与する一方,NP3はIL-31やシステインロイコトリエンに反応する集団で慢性炎症による痒みに関与している可能性がある24).また,末梢の感覚神経はtransient receptor potential ankyrin 1(TRPA1),TRP vanilloid 1(TRPV1),Nav1.7, Nav1.8などの受容体を介して痒みや痛みを感知する.TRPチャネルはイオンチャネル型受容体で,温度をはじめさまざまな刺激を感知し,痛みや痒みを引き起こすことによって危険を避けるためのシグナルに重要な役割を果たしている.その中でもTRPV1はカプサイシンの受容体で,一次神経細胞,上皮細胞,樹状細胞,マスト細胞に発現している19, 25).また,最近では,Mas関連Gタンパク質共役受容体(mas-related G protein-coupled receptor:Mrgpr)が痒みに特異的な受容体であると報告されている20).MrgprはGタンパク質共役受容体であり,マウスやラットではMrgprA~H,ヒトではMrgprXのグループに分けられ,マスト細胞や感覚神経細胞に発現している.マスト細胞では従来のIgE-FcεRI-ヒスタミンを介した痒みの経路に加えて,Mrgprb2を介した痒みの経路が報告されている26).さらに,Th2細胞や好塩基球,自然リンパ球から分泌されるIL-4やIL-13は,IL-4受容体とその下流のシグナル伝達物質JAKを介して慢性の痒みを引き起こす27).また,Th2細胞や一部のマクロファージから産生されるサイトカイン,IL-31は,その受容体が神経に発現しており,急性の痒みを引き起こすと同時に,神経伸長を誘導する28–31).さらに最近の報告では,IL-31が神経細胞のIL-31受容体を介してStat3を活性化することが,痒みの病態形成に重要であることが明らかになった32).興味深いことに,末梢神経特異的にIL-31受容体を欠損させたマウスと比較して,末梢神経特異的にStat3受容体を欠損させたマウスはより病的痒みの誘導が減弱した.このため,Stat3はIL-31の下流での働き以外にも,痒みの誘導に重要な働きをしていることが示唆された.また,線維芽細胞や上皮細胞が分泌するペリオスチンも直接神経に作用して痒みを引き起こす31).このようにさまざまな分子が免疫細胞から神経系に作用することによって,痒みの病態が形成されている.

3. アレルギー性結膜炎における痒みの病態形成機構

アレルギー性結膜炎はI型アレルギー反応を主体とした結膜の炎症疾患で,充血,瘙痒感,眼脂,異物感などの自覚症状を伴うものと定義される.原因は花粉,動物の鱗屑や環境物質などであり,罹患率はアメリカでは15~40%,2017年の日本眼科アレルギー研究会有病率調査によると,日本では48.7%である33–36).日本眼科アレルギー学会による「アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第3版)」によると,結膜の増殖性変化,アトピー性皮膚炎の合併,異物などによる機械的刺激の有無により複数の病型に分類される36).季節性アレルギー性結膜炎(seasonal allergic conjunctivitis:SAC),通年性アレルギー性結膜炎(perennial allergic conjunctivitis:PAC),アトピー性角結膜炎(atopic keratoconjunctivitis:AKC),春季カタル(vernal keratoconjunctivitis:VKC),巨大乳頭結膜炎(giant papillary conjunctivitis:GPC)があげられる.結膜が抗原に曝露されると,IgEがFcεRIを介して結膜のマスト細胞の脱顆粒を誘導し,アレルギー性結膜炎が引き起こされる.SACやPACではIgEを介したI型アレルギー反応が主である.一方,AKCやVKCではI型アレルギー反応に加えて,好酸球,線維芽細胞,上皮細胞,マスト細胞,リンパ球などさまざまな細胞を介した2型免疫反応が関与し,重症かつ慢性の経過をたどる37).これらの重症アレルギー結膜炎では,痒みだけではなく,巨大乳頭や角膜瘢痕を合併し,しつこい痒みに伴って眼を掻爬することにより白内障,緑内障,網膜剥離などが続発することで,重篤な視力低下の原因となる33, 38, 39).また,従来の抗ヒスタミン製剤やステロイド製剤の局所点眼のみでは症状のコントロールがつかない症例も散見され,臨床的に問題である.

アレルギー性結膜炎において2型炎症反応およびT細胞が病態形成に重要な働きをしているという報告はあるが,T細胞と痒みの関連については不明な点が多い33).そこで,我々は,アレルギー性結膜炎モデルマウスを独自に作製し,免疫細胞と感覚神経の相互作用の病態形成における役割を解析した40).アレルギー性疾患の原因として重要なハウスダストマイト(house dust mite:HDM)と一緒にアジュバントとしてhydroxypropyl-β-cyclodextrinを皮下注射で1週間おきに2回免疫した後に,週5回のHDMの点眼を3週間繰り返し,引っ掻き行動の測定や結膜の解析を行った.HDMを連続曝露したマウスでは,充血などの臨床所見や好酸球浸潤を伴う結膜炎が誘導された.また,マウスの行動観察を行ったところ,結膜炎を誘導したマウスでは,頻回の引っ掻き行動が観察された.さらに,炎症を誘導した結膜を用いて免疫染色による組織学的な解析を行った結果,CD3ε陽性細胞やB220陽性細胞からなる異所性リンパ組織(tertiary lymphoid structure:TLS)の形成を認めた.このTLSは,眼瞼結膜では結膜関連リンパ組織(conjunctiva-associated lymphoid tissue:CALT)として知られている.CALT構造を免疫染色で解析すると,T細胞領域とB細胞領域が分かれて存在し,MHC class ll陽性細胞,CD11c陽性の樹状細胞細胞,CD21陽性の濾胞性樹状細胞,CD31陽性の微小血管,Lyve-1陽性のリンパ管が存在していた.大変興味深いことに,このCALT周囲には,特異的に著明な末梢神経の伸長が認められた.以上のことから,HDMの反復曝露によって誘導されるマウス慢性アレルギー性結膜炎では,結膜組織に神経伸長を伴った痒み行動が引き起こされることが明らかになった(図1).

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図1 炎症結膜組織ではCALTを取り囲むように末梢神経が伸長する

マウスアレルギー性結膜炎モデルの結膜検体を用いて蛍光免疫染色を行った.矢印で示す細い末梢神経の枝が,CALTに向かって伸長していることがわかる.白色:beta-III tubulin(神経),波線内:CALTを構成する炎症細胞集塊.スケールバーは50 µm.

続いて,痒みの病態形成に関与する免疫系の細胞集団を解析するために,慢性アレルギー性結膜炎のモデルマウスの結膜検体を用いて1細胞あたりの網羅的な遺伝子発現についてsingle cell(sc)-RNA sequence解析を行った.その結果,CD4陽性T細胞のクラスターにおいて,Th2細胞を制御する転写因子であるGata3が高発現している亜集団に一致して,IL-33受容体のST2をコードする遺伝子Il1rl1が高発現していた.さらに,炎症を誘導した眼瞼結膜では,上皮サイトカインの中でも,IL-33が上昇していた.そこで,IL-33遺伝子欠損マウスを用いて解析すると,野生型マウスと比較して有意に痒みや炎症局所の神経伸長が低下した.同様に,ST2遺伝子欠損マウス由来の記憶型Th2細胞を移入し,結膜炎を誘導した実験では,野生型マウス由来の記憶型Th2細胞を移入した場合と比較して,有意に痒み行動や神経伸長が低下した.以上の結果から,IL-33-ST2受容体経路は,アレルギー性結膜炎における痒みの増悪の病態機構に重要であることが示された.

Tpath2細胞と痒みの相互作用について調べるために,前述のscRNA-seq解析において結膜由来のCD4陽性T細胞について再解析を行った.その結果,ST2陽性Tpath2細胞では,神経伝達物質の一種であるCGRPをコードする遺伝子Calcaが高発現することを見いだした.実際に,ST2陽性記憶型Tpath2細胞へin vitroでIL-33刺激を加えるとCalcaの発現が上昇した.さらに,マウスの結膜にCGRPを投与すると,炎症を誘導していないマウスでは痒み行動は誘導されなかったのに対し,HDMにより慢性アレルギー性結膜炎を誘導したマウスでは非常に強い痒み行動が誘導された.そこで,記憶型Th2細胞から産生されるCGRPが痒みを誘導するかどうか調べるためにCalcaを欠損した記憶型Th2細胞を移入し,結膜炎を誘導すると,野生型の記憶型Th2細胞を移入した場合と比較して,痒み行動や炎症組織における末梢神経伸長が抑制された.さらに我々は,CGRPを介した痒みの伝達について,末梢神経の解析を行った.具体的には,マウスの三叉神経節由来の神経細胞を用いてscRNA-seq解析を施行した.その結果,痒み関連受容体を発現する神経細胞集団において,CGRPの受容体であるRamp1Calcrlが高発現していた.以上の結果から,慢性アレルギー性結膜炎において,記憶型Tpath2細胞が産生するCGRPが痒みの誘導に関与することが示された.

最後に,マウスの実験により明らかにしたこれまでの細胞-分子機構が,春季カタルやアトピー性角結膜炎などヒトの重症慢性アレルギー性結膜炎患者における病的痒みの病態形成に関与しているかどうかについて解析した.まず患者の結膜巨大乳頭の病理学的解析を行ったところ,重症アレルギー性結膜炎の患者では,炎症結膜にCALT構造が誘導され,末梢神経が伸長していることを見いだした.さらに,結膜巨大乳頭組織を用いたscRNA-seq解析を行い,IL1RL1を発現するCD4陽性T細胞が浸潤しており,同細胞集団は,CALCAを特異的に発現することを見いだした.したがって,重症慢性アレルギー性結膜炎患者の巨大乳頭では,末梢神経の軸索伸長を伴った異所性リンパ組織が存在し,CGRPを産生するST2陽性のCD4陽性T細胞が浸潤していることから,IL-33-ST2-CGRP経路が病的な痒みの病態形成に関与する可能性が示唆された.

4. おわりに

本研究により,慢性アレルギー性結膜炎において,IL-33-ST2経路を介して記憶型Tpath2細胞が活性化し,神経伝達物質CGRPの産生が促進されることによって病的な痒みが引き起こされるという新たな細胞–分子機構が明らかになった(図2).免疫系と神経系のクロストークは,皮膚,肺,腸管など全身のさまざまな臓器で精力的な研究が行われることで,飛躍的に理解が深まっている.本研究においても,皮膚に近い一方で「視覚を担う感覚器を外界から守る」というユニークな機能を有する結膜組織における,免疫系と神経系の相互作用による病態形成機構が明らかになった.本研究では,sc-RNA sequenceという近年広く用いられている解析手法によって,少数の細胞しか取得できない結膜における新たなメカニズム解明が可能になった.同様に,これまでの技術では解析困難であった小さな組織における病態解析の手法としても参考になる可能性があり,また本メカニズムはほかの組織でも同様に生じている可能性があるので,ほかの疾患における病態解明の手がかりになると期待される.

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図2 アレルギー性結膜炎における病的痒みの伝達を示した模式図

アレルゲンの侵入を契機として結膜上皮からIL-33が分泌されると,ST2受容体陽性のTh2細胞の一部は活性化し,記憶型Tpath2細胞へと分化する.この細胞はCALT内部に長期にわたって維持されるとともに,CGRPを産生し,CALT周囲に伸長してきた結膜の知覚神経の末端の受容体に結合することで病的痒みを誘導する.

抗ヒスタミン点眼やマスト細胞スタビライザー点眼では抑制できない難治性の痒みに対して,現在のアレルギー性結膜炎の治療では,ステロイド点眼や免疫抑制薬を使用する.しかし,どちらの治療薬も長期使用により重篤な副作用が生じうることが問題である.今後は,IL-33やCGRPを痒みの治療のターゲットにすることにより,より副作用の少ない治療法開発につながることが期待される.

謝辞Acknowledgments

共同研究者である順天堂大学医学部附属浦安病院眼科教授の海老原伸行先生,千葉大学大学院医学研究院腫瘍病理学教授の池原譲先生および,免疫発生学の大学院生,スタッフの皆様に心から感謝申し上げます.

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著者紹介Author Profile

岡野 美樹子(おかの みきこ)

順天堂大学医学部附属浦安病院眼科 非常勤助教.博士(医学).

略歴

2012年順天堂大学医学部卒業.20年同大学院医学研究科(博士課程)修了.20年同大学環境医学研究所および千葉大学大学院医学研究院免疫発生学協力研究員併任.23年より現職.

研究テーマと抱負

難治の慢性アレルギー性眼症の病態について,免疫学的側面から解析するとともに,その他の生体防御システムとの関連について多角的に調べていきたいと考えています.特に,現在は眼の難治性痒みについて研究を進めています.

趣味

油絵・イラスト作成.

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