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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 97(3): 314-317 (2025)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2025.970314

みにれびゅうMini Review

管状組織におけるアクチンナノクラスターによる周方向・等間隔パターン自己組織化機構Actin nanoclusters as organizing centers for circumferential periodic patterns in tubular tissues

東京科学大学総合研究院細胞制御工学センターInstitute of Science Tokyo, Institute of Integrated Research, Cell Biology Center ◇ 〒226–8503 神奈川県横浜市緑区長津田町4259 ◇ 4259 Nagatsutacho, Midori-ku, Yokohama, Kanagawa 226–8503, Japan

発行日:2025年6月25日Published: June 25, 2025
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1. はじめに

管状組織は呼吸器系,循環器系,分泌系など多細胞生物の多様な機能を担う.その形成には上皮細胞の包み込みや陥入,空洞化などさまざまな機構が関与し,幅広いサイズや形状の管状組織が形成される1).一方で,管状組織を支える細胞骨格が「周方向・等間隔」に配向するパターンは,一過的ながらも昆虫の気管,哺乳類の血管,植物の道管など多様な生物に共通して報告されている2–4).この特徴的な細胞骨格のパターンは,内腔の膨張力に拮抗し,さらに内径を均一化する重要な役割を担うことが示唆されている5).しかし,このパターンがいかに自己組織化されるのか,その分子メカニズムは未解明である.

そこで我々は,ショウジョウバエの気管形成時におけるアクチン動態を高解像度・高時間分解能で観察し,周方向・等間隔パターンの自己組織化機構に迫った6).気管は一層の上皮細胞からなる管状組織であり,内腔形成・拡張には気管上皮細胞からの内腔側(頂端膜側)への液体や細胞外マトリクスの大量分泌が重要な役割を果たす7, 8).まさにこの内腔拡張期にアクチンは周方向・等間隔パターンを形成する(図1).このアクチンパターンは数時間で分解されるものの,一時的な足場として機能し,細胞外マトリクスであるChitinの生合成を促すことが知られている9).形成された細胞外マトリクスは外骨格として機能し,後に内腔を満たす液体が気体へ入れ替わり圧力差が生じた際にも,気管を安定して支える役割を果たす.本稿では,管状組織特有のアクチンパターン形成機構に着目し,組織構造が引き起こすアクチン動態について,我々の最近の研究成果を基に概説する.

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図1 気管細胞における周方向・等間隔アクチンパターンの形成過程

ショウジョウバエ胚後期の気管の模式図(左上)と,気管細胞特異的にアクチンプローブであるlifeact::GFPを発現させたときのプロジェクション画像(右上).アクチンが内腔膜下に集積し,周方向・等間隔に配向している.(下)本研究が提唱する,アクチンナノクラスターの自己組織化から周方向・等間隔パターンが形成されるまでの過程を説明するモデル図.

2. 高解像度撮影によるアクチンナノクラスターの発見

我々は,ショウジョウバエ胚の気管拡張期をZeiss社のAiryscanを用いて高速・高解像度で撮影し,内腔側の皮質アクチンを詳細に観察した.その結果,細胞膜直下でアクチンが百数十ナノメートルの分子集合体(以後,アクチンナノクラスター)を無数に形成し,それらがダイナミックに融合と解離を繰り返していることを発見した.個々のアクチンナノクラスターの形態変化を定量すると,初めは楕円形をしてランダム方向に向いていたものが,徐々に長軸が周方向へ向くようになり,約1時間弱で周方向に細長いケーブル状となった.さらに,ナノクラスターの融合方向に偏りがあるかを解析したところ,周方向への融合は,長軸方向などの他方向への融合よりも有意に安定化されていることを見いだした.したがって,気管における周方向・等間隔パターンは,アクチンナノクラスターが前駆体となり,それらが周方向への融合を繰り返していく中で,徐々に形成されることが明らかとなった(図1).すなわち,アクチンナノクラスターは管状組織の周方向–長軸方向という組織構造を感知できることが示唆された.

次に,アクチンナノクラスターの構成分子を遺伝学的に探索した.ショウジョウバエゲノムに含まれるアクチン結合分子をコードする全119遺伝子についてのRNAiを,気管上皮細胞特異的に発現させて表現型を確認した.その結果,発生初期で致死となり,アクチンナノクラスターの周方向への融合に異常を示すRNAi系統が10系統同定された.特に表現型が強いRNAi系統の標的遺伝子として,アクチンどうしを架橋するクロスリンカー(α-ActininZasp52/Cypher),モーターであるミオシン(myosin II),そしてアクチン重合開始因子であるフォルミン(DAAM),に着目してさらなる解析に進んだ.

まず上記の分子の細胞内局在を蛍光顕微鏡による観察で調べたところ,部分的ではあるがアクチンナノクラスターに確かに共局在していることが認められた.さらに,上記の三要素のうちフォルミンの発現を減弱させた場合のみ周方向への融合安定化が損なわれ,ランダムな方向へ融合したことから,フォルミンが管状組織の周方向–長軸方向という組織構造への応答に必要な分子であることが明らかとなった.

これまで,培養細胞の細胞膜の変形にフォルミンファミリータンパク質のマウスホモログであるmDia1が応答し,アクチンの重合を促進することや10),アクチンにかかる張力をフォルミンが感知して張力方向へアクチン重合を正に制御することが報告されており11, 12),フォルミンの機械刺激センサーとしての機能が示唆されている.管状組織の内腔が拡張するときは,物理学でフープ応力といわれる常に周方向>長軸方向の張力が内腔膜にかかる.内腔膜直下に存在する無数のアクチンナノクラスターがそれぞれ,DAAMを通してこの張力の異方性を感知し,周方向への融合を促しているとすれば周方向・等間隔パターニングが可能になると考えられる.ただこの系においてDAAMに機械刺激センサーとしての機能があるかはまだ検証が必要であり,フォルミンにはほかにもアクチン繊維の束化など多様な機能があることが明らかになっているため,組織の軸方向感知機構についてはさらなる研究が必要である.

3. エージェント・ベース・モデルによるパターン形成の再現

以上,アクチンナノクラスターは非常に動的に融合や解離を繰り返すと同時に,複数種類の分子が集積するための足場として働くことが見えてきた.次に,このようなアクチンナノクラスター形成が,アクチンとクロスリンカー,ミオシンのシンプルな分子間相互作用で再現できるのかを検証するため,理論モデルに基づいたシミュレーションを試みた.

まず一つのアクチンナノクラスターに含まれる,α-Actininでクロスリンクされたアクチン繊維の本数をサイズおよび蛍光輝度から概算し,約40本程度と仮定した.次に,エージェント・ベース・モデル13, 14)を構築した.エージェント・ベース・モデルは,個々の要素(ここではアクチン,クロスリンカー,ミオシン)が独立したルールに基づいて行動し,局所的な相互作用を通じて,全体のパターンを形成する過程を解析するのに適している.それぞれの要素が環境変化に応じて動的に適応することで,時間とともに変化するパターンのシミュレーションが可能となる.アクチンおよびクロスリンカーの長さ・ターンオーバー・数量を変化させてシミュレーションを行ったところ,一定の条件下でアクチンナノクラスターによく似たサイズおよび距離の集合体形成が再現された(図2左上).興味深いことにこのシミュレーションから,ナノクラスターの形成にはアクチンとクロスリンカーのターンオーバーが重要であることが示唆された.事実,アクチンの脱重合に関わるcofilin(ショウジョウバエtwinstar)やその制御因子のslingshotは,前述のRNAiスクリーニングでナノクラスターの周方向への融合に必要であることが同定されていた.また,Zasp52/Cypherはアクチンとα-Actininを架橋するとされているため15),クロスリンカーのターンオーバー制御因子として働いていると考えられた.

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図2 エージェント・ベース・モデルによるパターンの再現と推定される分子機能

(上)気管細胞とエージェント・ベース・モデルに基づくシミュレーション結果の画像.アクチンナノクラスター様の集合体を形成するシミュレーション(左上)は,アクチン繊維(青)とクロスリンカーのみの相互作用の結果.これにミオシンモーター(赤)と異方性のある摩擦をアクチン繊維に加えることで,周方向に分子集合体が融合したパターンを形成する(右上).(下)実験およびシミュレーションから想定されるアクチンナノクラスター構成分子それぞれの分子機能.アクチンナノクラスターの自己組織化,融合,周方向優位な動態の三要素が重なると,管状組織に特徴的な周方向・等間隔のパターンが生じると考えられる(Sekine et al., Nat. Commun., 20246)より一部改変).

次に,アクチンナノクラスター様の集合体が形成された条件に,ミオシンを加えてシミュレーションを行ったところ,集合体どうしの融合が促進された.さらに異方性を与えるために,アクチンへかかる摩擦を周方向>長軸方向(1.5倍)としたところ,ナノクラスターは周方向へ融合し,最終的に気管でみられた周方向・等間隔のアクチンパターンに似たパターンを再現できた(図2右上).この一連のシミュレーション結果から,アクチン・クロスリンカー・ミオシンの3種類の分子と弱い異方性を与えるだけで,分子間の自然な相互作用により,アクチンナノクラスターの形成およびそれらの融合に基づく周方向・等間隔のアクチンパターンが自己組織化されうることが示された.それぞれの分子に対応する要素をシミュレーション上で減弱させたときに現れるパターンは,RNAiにより発現を減弱させたときに気管細胞で生じる表現型と類似しており,このモデルの妥当性を強く支持するものであった.

最後に,アクチン繊維に異方的な摩擦がかかる場合,分子集合体の動態はどう見えるのかを検証するため,シミュレーション上の分子集合体の動きを詳細に観察した.その結果,分子集合体は長軸方向よりも周方向に大きく微小運動を行うことが明らかとなった.周方向には強い摩擦がかかっているため,個々のアクチン繊維は長軸方向に大きな運動量を持つ.しかし,集合体としての動きを観察するために時間スケールを少し遅くすると,個々のアクチン繊維の速い動きが緩和され,集合体として見たときの動きは周方向優位に見えるようになったと考察された.

この現象が,気管細胞のアクチンナノクラスターにおいても起こるかどうかを確かめたところ,気管拡張期の初期にはランダム方向だった微小運動が,徐々に周方向優位に変化することが確認された.0.32ミリ秒毎フレームの撮影は,集合体の動きを捉える少し遅い時間スケールに相当すると考えられる.さらに,フォルミンDAAMのRNAiを発現させた場合,この微小運動の異方性も損なわれており,やはりDAAMが管状組織構造への応答に必須であることが示された.また意外なことに,クロスリンカーα-Actininの相互作用分子であるZasp52/CypherのRNAiを発現させた場合にも,微小運動の異方性は失われた.Zasp52/Cypherの機能が不十分であると,アクチンナノクラスター形成が未熟となり,異方性に応答できなくなると考えられる.これらの結果は,アクチンはナノクラスターを形成することで,組織構造に対しより敏感に応答する可能性があることを示唆している.

4. おわりに

以上の成果により,気管細胞において内腔膜直下に自己組織化されるアクチンナノクラスターが,内腔の拡張に伴い,高次のパターンを形成する機能的なユニットであることが示された.さらに実験およびシミュレーションによる検証により,クロスリンカーはアクチンナノクラスターの形成,ミオシンはアクチンナノクラスターの融合,そしてフォルミンは周方向優位な動態に機能することが示唆された(図2下).顕微鏡技術の向上により生体内でも取得可能となった高解像度・高速画像と,エージェント・ベース・モデルを組み合わせることで,分子動態の実体により高い精度で迫ることができるのではないかと考えられる.

組織構造の変形による機械刺激の感知と応答は,細胞境界に局在する比較的安定した分子複合体によって担われる例が数多く報告されているが,本研究のように細胞膜下全体で,確率的に生じる不安定な分子集合体が応答する例はまれである.ただしこの柔軟なボトムアップ型システムのおかげで,細胞境界や細胞形状に捉われることなく,組織スケールで規則的な細胞骨格パターニングが実現されているのではないかと考えている.

本研究は,生物が体内で管状組織を支えるメカニズムの一端を明らかにした.今後,血管や心臓など,より複雑な管状組織における細胞骨格のパターン形成において,アクチンナノクラスターを基軸とした理解が進むことが期待される.

謝辞Acknowledgments

この研究は,理化学研究所生命機能科学研究センター形態形成シグナル研究チームの林茂生チームリーダーのご指導・ご協力のもと行われたものです.また,理論モデルの構築およびシミュレーションを行った九州大学理学研究院物理学部門の多羅間充輔助教をはじめ,本研究に携わっていただいた多くの研究者の方々に,この場を借りて厚く御礼申し上げます.

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著者紹介Author Profile

関根 清薫(せきね さやか)

東京科学大学総合研究院細胞制御工学研究センター 学振特別研究員,JST創発研究者.博士(薬学).

略歴

2012年東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了.13~16年カリフォルニア大学サンフランシスコ校博士研究員,16~20年理化学研究所博士研究員,21~25年東北大学大学院生命科学研究科助教を経て,25年より現職.

研究テーマと抱負

組織形成において刻々と変化する組織全体の3次元構造がいかに細胞や分子へ働きかけるのかに興味を持ち研究を進めてきました.今後は心臓が拍動を開始する仕組みに注目していきたいと考えています.

趣味

子供と公園散策,パン屋巡り.

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