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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 97(3): 334-337 (2025)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2025.970334

みにれびゅうMini Review

げっ歯類の脳において生涯維持される核内RNAの機能Long-lived RNAs in the rodent brain

エアランゲン大学医学部/マックスプランク医学物理学研究センターFriedrich-Alexander Universität Erlangen-Nürnberg/Max-Planck-Zentrum für Physik und Medizin ◇ Kussmaulallee 2, 91054 Erlangen, Germany ◇ Kussmaulallee 2, 91054 Erlangen, Germany

発行日:2025年6月25日Published: June 25, 2025
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1. はじめに

哺乳類の脳高次機能の基盤として精緻な神経回路が発生・発達期に構築される.その複雑な神経回路の構築には神経系細胞種の多様性が貢献している.近年のシークエンス技術やイメージング技術,AIを用いた解析方法の進歩により,今や哺乳類脳に存在する神経系細胞の種類は数千以上ともいわれている.重要な点として,脳機能を維持するにはこの細胞多様性を生み出すだけでなく,その多様性を生涯にわたって維持する必要があげられる.神経系細胞の多様性は,神経幹細胞/神経前駆細胞の増殖・分化の過程から産み出される.従来の研究から,神経系細胞の多様性を産み出し細胞個性を決定する転写調節やエピゲノム制御のメカニズムが明らかになってきている1, 2).しかしながら,脳発生期に得られた細胞個性をいかに生涯にわたって維持し,神経系細胞の多様性を維持しているのか,いまだにそのメカニズムには不明な点が多い.特にニューロンのように産生されてから生涯入れ替わることのない長寿細胞種では,細胞個性維持の頑強性は必須である.この問題に答える一つの方向性として,神経細胞のような長寿細胞には安定的に遺伝情報が蓄えられたDNAに加えて,長寿タンパク質が着目されてきた3).長寿タンパク質の多くは核内に存在するヒストンやラミン,あるいは核膜孔複合体タンパク質であり,これらの核内構造タンパク質が安定的な神経系細胞のエピゲノム制御,ひいては細胞個性の長期維持に重要であることが我々のグループを含めた最新の報告で明らかになってきている4–6).従来,細胞の恒常性を維持するには,タンパク質などの細胞構成要素が常に入れ替わる必要があると考えられてきた.しかしながらこのドグマに反して,一部の入れ替わらないタンパク質が細胞個性の長期維持に重要であることが示唆されたわけである.それでは,他に長寿の細胞構成要素も存在するのだろうか? それらの要素の生理的機能は何であろうか?

2. 長寿RNAの探索

分子生物学では,DNAは構造的に非常に安定的であるが,一方でRNAは不安定であることが広く知られている.これは,我々の日々の実験過程でも実感するところである.細胞内でのRNAの半減期を測った研究では,古典的な生化学的方法でも近年のRNAメタボリックラベリングと次世代シークエンサーを組み合わせた方法でも,mRNAの半減期は~10時間程度と一致している7, 8).このRNAの半減期の短さがトランスクリプトームのダイナミクスに必須であり,細胞周期や環境変化に対する細胞応答に重要な役割を果たすと考えられてきた.しかしながら,これらのRNAの半減期は胚性幹細胞や線維芽細胞など分裂細胞で測定されている.当然,細胞周期が回るにつれて,転写されたRNAは分解および希釈される.それゆえに,ほとんどの細胞が非分裂細胞もしくは休眠細胞である神経系細胞にこのRNAのダイナミクスは当てはまらないのではと考えられた.また,過去の文献をひもとくと,植物の種子やカエルの卵の中のRNAは1年以上もの期間保持されることが知られている9, 10).これらの種子・卵母細胞も休眠細胞であり,条件さえ整えばRNAも細胞内で長期維持されうることが示唆されている.このことから,神経系細胞でRNAが長期維持されている可能性を考え,実験的に検証するに至った.

まず,RNAの寿命を計測するために,転写されたRNAを細胞内で5-ethynyl uridine(EU)により標識する方法を用いた11).EU標識されたRNAはclick chemistryにより蛍光分子を結合させることで空間分布を計測できるだけでなく,代わりにビオチンを結合させることでEU標識RNAのみを単離でき,その後の分子生物学・ゲノミクスを用いた解析に用いることが可能になる.前述のように,脳は多様な細胞種で構成されているため,まずはRNAの寿命と神経細胞種の同定をイメージングと組み合わせて行った.マウス脳の発生・発達期のさまざまなタイミングでEUを投与し,脳サンプルをさまざまなタイミングで採取し,脳切片でのEUシグナルを観察した.出生後3~5日齢のマウスにEUを投与したところ(図1A),驚くべきことにEUシグナルはEU投与1か月後から2年後まで観察された(図1B12).面白いことに,EUのシグナルは海馬歯状回や小脳分子層など,特定の脳領域にのみ限局していた.細胞種マーカーとの共染色から,海馬顆粒細胞や小脳顆粒細胞などのニューロンのみならず,海馬成体神経幹細胞や一部のグリア細胞もEUシグナルを保持していることが明らかになった.他の脳領域(大脳皮質や視床)の細胞もEU投与の1時間後ではすべての細胞がEUシグナルを保持していたが,投与4時間後にはほとんどのシグナルが消失していた.つまり,脳細胞のほとんどすべての細胞はEUを代謝し転写に用いる能力を有するが,特定の細胞種のみRNAを長期維持できるメカニズムを保持していることが示唆された.これらの結果から,脳領域・神経系細胞種特異的に長寿RNAが存在することが明らかになった.

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図1 長寿RNAの検出

(A)実験パラダイム.EU投与後,脳のサンプルを矢印で示された時期に収集した.(B)EU投与2年後の海馬歯状回におけるEUシグナルの検出.神経細胞種同定のためにそれぞれ以下のマーカーを使用:NeuN(緑):ニューロン,Sox2(緑)/GFAP(白):成体神経幹細胞,Hoechst(青):DNA(文献12より引用).

3. 長寿RNA分子的実体およびその機能的意義

上記の結果から,長寿RNAが特定の神経系細胞種に存在することが示唆されたので,続いて長寿RNAの単離,および実体の解明を試みた.特定の細胞種からの長寿RNAを単離するため,成体神経幹細胞を単離した培養細胞系を用いた.培養神経幹細胞は培養条件下で休眠状態に誘導することができ,休眠状態の成体神経幹細胞の特性を模倣する方法がすでに確立されている13).我々の観察結果から,海馬成体神経幹細胞に長寿RNAの維持能があることが示唆されていたので,培養系でも同様の特性を示すか検討した(図2A).休眠誘導時にEUを加えた後,EUシグナルの維持能を検討したところ,休眠状態の神経幹細胞では培養条件下においても2週間までEUシグナルを保持していた.このEUシグナルはRNase処理で消失し,DNase処理にはほとんど影響を受けなかったことから,EUシグナルがRNAから由来していることが支持された.一方,分裂条件下で培養中の神経幹細胞ではEUシグナルが保持されなかったことから,長期RNAの維持能は細胞状態選択的であることが示唆された.この系を用いて,EU標識1週間後の休眠神経幹細胞から,EU標識されたRNAをclick chemistryを用いて単離し,次世代シークエンサーを使って単離されたRNAの配列を特定した.その結果,長寿RNAは遺伝子をコードした配列のみならず,long non-coding RNA(lncRNA)や繰り返し配列由来のRNAが多く検出され,長寿RNAを構成するRNA分子はさまざまなゲノム領域に由来することが明らかになった(図2B).面白いことに,長寿RNAになる割合を,個々のRNA構造のカテゴリーに分けて計算したところ,lnc RNAの割合が多いことが判明した.このことから,lncRNAの配列もしくは構造に長寿RNAとなる分子特性が含まれている可能性が示唆され,現在その同定を進めている.

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図2 長寿RNAの同定

(A)培養神経幹細胞における長寿RNAの検出.休眠細胞ではEU投与8日後でもEUシグナルを保持していた.一方,分裂細胞ではEUシグナルは消失した.(B)休眠神経幹細胞における長寿RNAの同定.EUを保持しているRNAを精製し,RNA-seqにて同定した.ユニークな遺伝子領域由来の長寿RNAのカテゴリーの分類(文献12より引用).

それではこの長寿RNAの生理学的機能はなんであろうか? 我々は長寿RNAの分布と次世代シークエンスから得られた情報から,major satellite RNAに着目した.長寿RNAは脳切片内でも培養神経幹細胞内でも,核内に局在し,クロマチン周辺に集積していたことから,クロマチン結合RNAとしてクロマチンの維持やエピゲノム制御に重要なのではないかと考えた.過去の文献から,major satellite RNAはヘテロクロマチンに結合し,他の細胞種のヘテロクロマチンの安定性に寄与することも知られていたことから14, 15),長寿RNAに含まれるmajor satellite RNAが長寿細胞におけるクロマチン制御に寄与している可能性を考えた.機能欠失/機能付与実験から,major satellite RNAがヘテロクロマチンマーカーH3K9Me3の維持,ゲノムの安定性,および神経幹細胞能の維持に重要であることを見いだした12)図3).この結果から,長寿RNAの生理的機能の一端として体性幹細胞の維持に重要なことが明らかになった.

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図3 長寿RNAの生理的機能

(A)海馬歯状回顆粒細胞の核内における長寿RNAの分布.EUシグナルは核内に集積し,ヘテロクロマチンを取り囲んでいる.(B)休眠神経幹細胞において,長寿RNAの一部であるmajor satellite RNAの発現を低下させた.ヘテロクロマチンマーカーH3K9Me3の低下および,分布の変化が観察された.(C)模式図.長寿RNAはクロマチンに結合し構造的基盤として機能している可能性が示唆された(文献12より引用).

4. おわりに

長寿RNAの発見により,神経系細胞個性の長期維持の研究のみならず,さまざまな研究分野において新たな方向性が開拓されたと考えている.今後はRNA維持のメカニズムや,未解明の生理機能,さらには脳老化や神経変性疾患・がんなどの病態における寄与に関する研究の展開が待ち望まれる.また脳神経系以外においても長寿RNAの探索や進化過程での長寿RNAなど,学際的研究を進めることで,既知の分子生物学では説明されなかった現象に長寿RNAがどのように新しい知見をもたらしてくれるのか,ワクワクしている.我々もその先鞭の一端を担うべく,日々研究に励みたい.現在,mRNAやtRNA/rRNAに加えて,microRNA, circular RNA, enhancer RNAなど,多様なRNAが多次元なレベルで細胞機能に寄与していることがわかってきており,長寿RNAを介した新たな細胞生理機能研究の展開に期待したい.

引用文献References

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著者紹介Author Profile

戸田 智久(とだ ともひさ)

Friedrich-Alexander Universität Erlangen-Nürnberg教授.Max-Planck-Zentrum für Physik und Medizinグループリーダー.博士(医学).

略歴

1982年徳島県生まれ.2005年名古屋大学理学部卒業.11年東京大学大学院医学部博士課程修了.14年まで東京大学医学部附属病院博士研究員,19年まで米国ソーク研究所博士研究員,2019年よりドイツ神経変性疾患研究センター(DZNE)グループリーダー,22年より現職.

研究テーマと抱負

発生・発達から老化に至る脳機能維持の時間制御メカニズムに興味を持ち研究を進めている.長寿分子による長期的エピジェネティック制御に着目し,分子生物学,生化学,ゲノミクス,生物物理学を用いて脳の老化,および老化に起因する神経変性疾患の原因の理解に迫ろうとしている.分野にこだわらずに新しい技術,アイデアを取り込んでいきたい.

ウェブサイト

https://mpzpm.mpg.de/

https://todalab.com/home

趣味

旅行,ラグビー鑑賞,読書,旅行,ビール,たまに息子と遊ぶ.

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