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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 97(4): 534-538 (2025)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2025.970534

みにれびゅうMini Review

耐塩性を支える植物NaトランスポーターSodium transporters confer salt tolerance in plants

東北大学大学院工学研究科Department of Biomolecular Engineering, Graduate School of Engineering,Tohoku University ◇ 〒980–8579 宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉6–6–7 ◇ 6–6–07 Aoba, Aramaki-aza, Aoba-ku, Sendai, Miyagi 980–8579, Japan

発行日:2025年8月25日Published: August 25, 2025
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1. はじめに

ナトリウム(Na)は動物にとって必須な元素であるにもかかわらず,植物は必要としない.それどころか,0.9%の生理食塩水は植物シロイヌナズナを枯らすことが知られている.塩害は,乾燥・脱水・高浸透圧ストレスと関係する物理現象であることから,干ばつ,津波,化学肥料の蓄積などで土壌の塩分濃度の上昇により作物の生育は阻害され,収量低下をもたらす.世界の総陸地面積の表土4.4%以上,下層土8.7%以上が塩害土壌であると推定され,その塩害地域は毎年10%ずつ増加していると報告されている1).塩害によって土壌の砂漠化が進行するなかで,増大が続く世界人口の食糧需要を満たすためには,植物の耐塩性メカニズムを理解し,塩環境における植物の生産性向上の対応策が喫緊の課題である.

塩ストレスによる植物の生育阻害のメカニズムは,大きく分けて浸透圧ストレスとイオンストレスに分類される.浸透圧ストレスは,土壌の水ポテンシャル(水の移動しようとする力)の低下により植物の吸水が阻害され,脱水や細胞の膨圧が維持できなくなり枯死に至る.さらに,葉へのNa蓄積により脱水が進み,植物は水分損失を防ぐために気孔を閉じるが,それに伴いガス交換や光合成が阻害される.一方,イオンストレスは細胞内に蓄積したNaやClが細胞の分裂や伸長,恒常性の維持に必要なほかの無機イオンの吸収を阻害し,結果として細胞死や生育阻害を引き起こす.また,塩の蓄積は酵素の活性を阻害し,光合成におけるエネルギー生産や炭素固定に機能障害を与えることが報告されている2).以上のように塩ストレスは浸透圧ストレスとイオンストレスが複合的に働いているが,初期の塩ストレスでは浸透圧ストレスの寄与が大きく,植物内への塩の蓄積が進むにつれてイオンストレスによる寄与が大きくなることが報告されている3)

浸透圧ストレスに対する応答は多くの研究報告があり,微生物や動物細胞と類似しており,プロリンなどの適合溶質(細胞が浸透圧に耐えるために生成する有機物質)が生産され細胞内の浸透圧が調節される.イオンストレスへの応答においては,動物とは異なり植物に特徴的な細胞膜や液胞膜に発現するNa輸送体が重要な役割を果たしている.

植物の耐塩性に関与するNa輸送体として,液胞膜に発現するNa/HアンチポーターNa/H exchanger(NHX)ファミリーとHKT1の2種類が知られている.前者に属するSOS1(SALTOVERLY SENSITIVE 1:NHX7)は細胞膜で機能して細胞外にNaを排出すると説明されてきた4).しかし,2025年にSOS1は液胞膜で機能することが報告された13).また,NHX1およびNHX2は液胞へNaを輸送して,液胞にNaを隔離することで耐塩性を向上させる機能が報告されている5).後者に属するシロイヌナズナのHKT1は強いNa輸送活性を持ち,細胞膜で機能して,細胞内にNaを取り込む活性が示されている6)

塩分ストレスに対する植物の感受性のレベルは,幼植物,栄養成長期,生殖成長期などの植物の生育段階によって異なる.イネやヒヨコマメ(Cicer arietinum L.)では,生殖成長期において,栄養成長期よりも塩分に対してより敏感であることが報告されている.高濃度のNaが柱頭の生存能力,花粉の発芽,花粉管の成長に悪影響を及ぼし,これらは花から鞘への変遷中にさらに深刻になる7)

植物を成長させる発芽から花芽形成前までの成長期における耐塩性の研究の報告は数多くあるが,次世代に種子を残す生殖成長期における分子レベルの耐塩性の報告は少ない.本稿では,最近明らかになった生殖成長期におけるNa輸送体の役割と耐塩性メカニズムについて概説する.

2. 植物HKT1の耐塩性機能

上記のHKT1は,最初にコムギから高親和性Kトランスポーターhigh affinity K transporter 1として発見された.しかし,そのホモログであるモデル植物シロイヌナズナのHKT1(AtHKT1;1)のK輸送活性はきわめて小さく,Na輸送活性が強いことが明らかになった6).両者のイオン選択性の違いは,一つのアミノ酸の違いであることが明らかになっている8).AtHKT1は,根や葉の道管に隣接する木部柔組織の細胞膜に発現する.AtHKT1欠損株(athkt1)が塩ストレスに高い感受性を示すことから,AtHKT1はNaを道管から回収してNaが地上部に移行することを抑制する役割を担っている9).これにより,AtHKT1が花芽(生殖器官)を塩害から守っている.このように,AtHKT1の機能はこれまで主に道管を介したNa輸送に注目されてきたが,AtHKT1は葉の篩管においても発現が観察されており,道管以外での発現部位や機能が示唆されている10).加えて,次世代に子孫を残す生殖成長期において,生殖器(蕾,花,鞘)の発育や種子生産に対するAtHKT1の機能は調べられていなかった.筆者らは,AtHKT1の種子形成における耐塩性機能の解明を目指して検討した.生殖成長期におけるAtHKT1;1の耐塩性を評価するために,水耕栽培で生育させた生殖成長期の野生株(WT)とathkt1をNaCl処理して生育を比較した11).塩環境下において,athkt1はWTと比べて地上部の伸長が抑制され,枯死に至った.根長や形成された蕾と花の数に差はなかったが,athkt1の鞘の形成数と種子収量は著しく減少した.これらはAtHKT1が高塩環境において花が鞘へ発達する過程の耐塩性に重要であることを示している.花から鞘への移行に伴う形態変化を調べたところ,NaCl環境下においてathkt1の雄蕊はWTよりも短く,雄性不稔を引き起こしていた(図1A).これは,塩ストレスにより雄蕊の伸長が阻害され矮小化し,雄蕊の花粉が雌蕊に到達できず受粉が正常に行われず種子が形成されないことを示唆している.

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図1 雄蕊で機能するNa輸送体AtHKT1

Na輸送体AtHKT1の欠損株(athkt1)は,高濃度NaCl環境において雄性不稔を示した.赤矢印はNaストレスによって短くなったathkt1の雄しべを示す(A).AtHKT1は雄蕊の葯基部および花糸の維管束に発現しており(B),高濃度NaClで処理するとathkt1の雄蕊の花糸にNa(青色)が蓄積した(C).AtHKT1が塩ストレス環境で花糸のNaを除去することで,雄蕊を塩害から守り,雄蕊の伸長を保護していることがわかった.葯:雄しべの先端に位置し,花粉を形成・蓄積したのちに放出する器官.花糸:葯を支え,花粉が効率的に放出・受粉できるように位置を調整する細長い構造組織.

3. AtHKT1;1の組織局在性と機能

上述の機構をより詳細に明らかにするために,生殖成長期の植物の各器官におけるAtHKT1の発現を検討した.これまでに報告されたように根において高い発現が確認されたが,さらに花においてもほかの器官と比べて高い発現が認められた6)AtHKT1の花芽組織における発現をGUS染色により解析した結果,雄蕊において葯の基部と花糸の維管束で染色が観察され,特に花糸の篩部伴細胞で強い染色が認められた(図1B).さらに,NaCl処理した植物の花糸を免疫電子顕微鏡で観察したところ,AtHKT1に伴細胞の細胞膜および道管柔細胞の細胞膜に存在していた.以上の結果から,AtHKT1は従来のNaの道管柔細胞への取り込みに加え,伴細胞を介した篩部へのNa転流にも関与している可能性がある.また,AtHKT1遺伝子はNaClの有無に影響なく発現していた.よって,AtHKT1は塩ストレスの備えとして常時発現しているか,あるいは未知のほかの役割を担っている可能性がある.

4. HKT1による生殖成長期のNa動態

athkt1変異株は高塩ストレスにより雄蕊の伸長が阻害された.NaとAtHKT1の関係を理解するために,放射性同位体およびMicro-Particle Induced X-ray Emission(Micro-PIXE)を用いて元素イメージングによる植物体におけるNa動態を解析した.Micro-PIXEは加速器で生成したプロトンビームを試料に照射し,各元素に固有の特性X線を検出することで,組織や細胞スケールのイメージングを可能とする多元素分析手法である.

放射性同位体ナトリウム22Naを用いたトレーサー試験により,athkt1変異株はWTと比較して鞘,花,蕾,茎,茎成葉,ロゼッタ葉の先端の組織に22Naを多く蓄積することがわかった.一方,茎と根における22Naの蓄積は低かった.さらに,Micro-PIXE分析では,athkt1の雄蕊の花糸全体にNaのシグナルが観察されたが,WTでは観察されなかった(図1C).athkt1変異株が地上部の先端組織に22Naを多く蓄積し,茎と根では少なかったことから,AtHKT1が根でNaを取り込み,地上部への移行を抑制するという先行研究と結果が一致した.本研究で新たにわかったことは,AtHKT1が塩ストレス環境で花糸のNaを除去することで,雄蕊を塩害から守り,雄蕊の伸長を保護していることである.

5. HKT1による耐塩性向上戦略

Na輸送体を応用した耐塩性植物の創製例として,シロイヌナズナでは,SOS1やNHX1を35Sプロモーターで植物体全体に過剰発現させることで耐塩性が向上することが報告されている.しかし,耐塩性を獲得した理由ははっきりせず,詳細な解析もなされていない12).SOS1とNHX1は両者ともに液胞膜で機能することから,Naの液胞隔離が耐塩性の原因であると推定される13).一方,AtHKT1を35Sプロモーターで過剰発現させた場合は,地上部にNaが高蓄積し,塩感受性が高まることが報告されている5, 12, 14).しかし,AtHKT1を根の中心柱のみで特異的に過剰発現させると,地上部のNa蓄積が抑制され,耐塩性が向上した9).これらの知見から,AtHKT1による耐塩性の向上には,組織・細胞特異的な遺伝子発現制御が重要であることが明らかとなった.

筆者らは,AtHKT1は花糸の篩管伴細胞に発現して,高塩環境において雄蕊の伸長を保護することを明らかにした11).篩管で発現するAtHKT1は,道管を通じて地上部に到達したNaを篩部に転流させることで,篩管流に積み下ろす役割を担うと考えられた(図2).この篩管におけるNa転流を強化するために,SUC2プロモーターを用いてWTの篩管伴細胞にAtHKT1を特異的に発現させた「篩管伴細胞過剰発現株」を作製した15).高濃度のNaCl環境において,篩管過剰発現株はWTと比較して地上部の長さや鞘の形成数が増加し,成長量は2.1~2.2倍に達した.また,種子収量もWTの1.5倍に増加し,耐塩性の向上が認められた(図3).植物の22Na含量はWTと篩管過剰発現株で同程度であったが,athkt1変異株は有意に高かった.WTのロゼッタ葉の全体に22Naが均一に分布していたのに対して,篩管過剰発現株では維管束とその周辺のみに22Naが集中していた(図3).この結果は,篩管過剰発現株において篩管のNa移動が促進され,維管束にNaを抑留することで他組織へのNa拡散を防ぎ,結果的に耐塩性が向上したことが示唆された.一方,この耐塩性機構におけるNaの最終的な行き先は根であると考えられ,Naの再吸収,蓄積とSOS1による植物体外へのNa排出が考えられるが,実際の挙動についてはさらなる追究が必要である.

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図2 AtHKT1の植物内における発現と機能の概念図

AtHKT1は,花の雄蕊にある道管を通じて地上部に到達したNaを篩部に転流させ,篩管流に積み下ろして根へ送り返すことで,雄蕊のNaの過剰蓄積が抑,種子形成が保護している.

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図3 AtHKT1と植物の耐塩性の相関関係

篩部特異的にAtHKT1の発現量を増やした篩管伴細胞過剰発現株は,NaCl環境において地上部における道管と篩管以外の組織へのNaの拡散を抑え,植物の成長はWTより向上した.

6. おわりに

本稿では,生殖成長期におけるNa輸送体による耐塩性のメカニズムについて概説した(図3).次世代に種子を残す生殖成長期には,既知の耐塩性とは異なるNa輸送体の新規の耐塩性機構が存在することが明らかになりつつある.今後,さらに生殖組織におけるNa輸送体の機能解析や,Na輸送体間の相互作用の解明が進むことで,将来的な高耐塩性の植物の開発が進み,耕作地の拡大や海水の一部利用など,食糧確保に関わる植物生産性の向上が期待される.

引用文献References

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著者紹介Author Profile

内山 剛志(うちやま たけし)

東北大学大学院工学研究科 学術研究員.博士(工学).

略歴

2019年山形大学工学部卒業.21年東北大学大学院工学研究科博士課程前期修了.24年同大学院工学研究科博士課程後期修了.24年より現職.

ウェブサイト

https://www.biophyschem.com/

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