Online ISSN: 2189-0544 Print ISSN: 0037-1017
公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 97(4): 539-544 (2025)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2025.970539

みにれびゅうMini Review

肥満を調節する細胞外リン脂質代謝酵素Secreted phospholipase A2 regulating obesity

1東京大学大学院医学系研究科疾患生命工学センター健康環境医工学部門Laboratory of Microenvironmental Metabolic Health Sciences Center for Disease Biology and Integrative Medicine Graduate School of Medicine The University of Tokyo ◇ 〒113–8655 東京都文京区本郷7–3–1 ◇ 7–3–1 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo 113–8655, Japan

2国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED-CREST)Japan Agency for Medical Research and Development (AMED-CREST) ◇ 〒100–0004 東京都千代田区大手町1丁目7番1号 ◇ 1–7–1 Otemachi, Chiyoda-ku, Tokyo 100–0004, Japan

発行日:2025年8月25日Published: August 25, 2025
HTMLPDFEPUB3

1. はじめに

脂質は,生体内でエネルギー源として利用されるだけでなく,生体膜の構成成分,シグナル分子,生体バリアとしての機能を果たし,生命応答において重要である.脂質の代謝異常はさまざまな疾患と関連するが,誰しもがまず思い浮かべるのは肥満症,糖尿病,脂質代謝異常,脂肪肝,高血圧等のいわゆる代謝性疾患である.ホスホリパーゼA2(phospholipase A2:PLA2)は,定義上はグリセロリン脂質の2位のアシル鎖を加水分解し,脂肪酸(主に不飽和)とリゾリン脂質を産生する酵素群であるが,広義にはPLA2反応以外の酵素反応を触媒する関連酵素も含まれる.哺乳動物には50種類以上のPLA2または関連酵素が同定されており,その構造,酵素学的性質,進化的な関係から,細胞外に放出される分泌性PLA2群(secreted PLA2s:sPLA2s)および細胞内に存在するCa2+依存性PLA2群(calcium-dependent PLA2s:cPLA2s)とCa2+非依存性またはパタチン様PLA2群(calcium-independent PLA2s or patatin-like PLA2s:iPLA2s or PNPLAs)の三大ファミリーに分類され,さらに加えて,血小板活性化因子アセチルヒドロラーゼ群(platelet-activating factor acetylhydrolases:PAF-AHs),PLA/アシルトランスフェラーゼ群(PLA/acyltransferases:PLAATs),リソソーム型PLA2(lysosomal PLA2),α/βヒドロラーゼ群(α/β hydrolases:ABHDs)などがある(図1).従来,PLA2の機能は脂質メディエーターの産生を中心に議論されてきた.すなわち,PLA2は膜リン脂質からアラキドン酸(arachidonic acid:AA)などの多価不飽和脂肪酸(polyunsaturated fatty acid:PUFA)を遊離し,これらが下流の特異的代謝酵素によってプロスタグランジンやロイコトリエンなどの脂質メディエーターに代謝され,さまざまな生命現象に関わるものと理解されてきた.しかしながら,遺伝子改変疾患モデル動物やゲノムワイド関連解析,さらに脂質メタボロームなどの解析技術の発展により,PLA2分子群の関与する生命応答はPUFA代謝物やリゾリン脂質などの脂質メディエーターの産生にとどまらず,多岐にわたることが明らかとなってきた.

Journal of Japanese Biochemical Society 97(4): 539-544 (2025)

図1 PLA2ファミリー

PLA2はグリセロリン脂質[極性基(X:コリン,エタノールアミン,セリン,イノシトールなど)の違いによってさまざまな種類が存在する]の2位のアシル鎖を加水分解し,脂肪酸(主に不飽和)とリゾリン脂質を産生する.この産物が下流の代謝酵素を介して多彩な脂質メディエーターへ代謝される.哺乳動物のゲノム上には50種類以上のPLA2もしくはその類縁酵素がコードされており,複数のサブグループに分類され,脂質の四代機能に密接に関連する.本稿では,細胞外酵素であるsPLA2による代謝調節に焦点を当てている.

PLA2ファミリーのうち,sPLA2は11種類のアイソザイム(IB, IIA, IIC, IID, IIE, IIF, V, X, III, XIIA, XIIB)が存在し,構造的にグループI/II/V/X, III, XIIに細分化される.各sPLA2アイソザイムは,組織や細胞での分布や酵素の性質に特徴があり,それぞれ異なる生物学的役割を担っている.また,sPLA2の基質特異性は同一ではなくリン脂質の極性基と脂肪酸の長さや不飽和度をある程度識別する.リン脂質極性基に関しては,グループIIサブファミリーのsPLA2(sPLA2-IIA, -IIC, -IID, -IIE, -IIF)はホスファチジルコリン(phosphatidylcholine:PC)よりもホスファチジルエタノールアミン(phosphatidylethanolamine:PE)を効率よく加水分解するが,sPLA2-IB, III, -V, -XはPCとPEの両方に活性を示す.sPLA2-IB, -IIA, -IIEは脂肪酸種を識別せず,sPLA2-Vはオレイン酸(oleic acid:OA)やリノール酸(linoleic acid:LA)など不飽和度の低い脂肪酸を好む傾向があり,sPLA2-IID, -IIF, -III, -Xはω6(AA),ω3[エイコサペンタエン酸(eicosapentaenoic acid:EPA),ドコサヘキサエン酸(docosahexaenoic acid:DHA)]等のPUFAを切り出す.sPLA2は分泌酵素であることから,その標的基質となるリン脂質は細胞外に存在し,それぞれの分子種が固有に発現している組織微小環境細胞環境において,活性化細胞あるいは損傷細胞の形質膜,微生物膜,食事中の外来リン脂質,リポタンパク質,肺サーファクタント,細胞外小胞などの細胞外リン脂質に作用することによって特異的機能を発揮し,さまざまな生命応答を引き起こす.本稿では,特に肥満や糖尿病を含む代謝性疾患に関連するsPLA2の役割について,筆者らのこれまでの知見を交えながら概説する.

2. sPLA2-IB

sPLA2-IBは膵腺房細胞からプロ体として膵液中に分泌され,十二指腸内でトリプシンによりN末端のプロペプチドが除かれて活性型になり,食餌中や胆汁中のPCを分解する機能を持つ.消化管内において,脂質は中央にトリグリセリド(triglyceride:TG),その周りを両親媒性のリン脂質とコレステロールが取り囲む形をとるため,sPLA2-IBによるリン脂質の消化が起こらなければ膵リパーゼによるTGの分解が起こりにくく,脂質の消化吸収が減少する.sPLA2-IB欠損マウスは食餌リン脂質の消化が低下するため,高脂肪食負荷により体脂肪が蓄積しにくくなり,肥満,脂肪肝,高脂血症が改善する1).またsPLA2-IBによってPCから生成されるリゾホスファチジルコリン(lysophosphatidylcholine:LPC)は門脈を経て肝臓でβ酸化を抑制するとともに,超低密度リポタンパク質(very low-density lipoprotein:VLDL)の分泌を促進し,脂肪組織や骨格筋への脂肪蓄積の亢進により,肥満やインスリン抵抗性が増悪する(図2A1).これと合致して,野生型マウスにsPLA2阻害剤を経口投与すると,sPLA2-IBによる消化管内でのLPCの産生が低下することにより高脂肪食負荷による肥満や耐糖能異常,さらに動脈硬化が改善される.ヒトを対象としたゲノムワイド関連解析でも,sPLA2-IB遺伝子(PLA2G1B)の一塩基多型(SNPs)が肥満と相関することが示されている1).これらの知見から,sPLA2-IBは新規の肥満治療に向けた有望な分子標的と考えられる.

Journal of Japanese Biochemical Society 97(4): 539-544 (2025)

図2 sPLA2が動員する脂質代謝と肥満

(A)sPLA2-IBは膵腺房細胞から分泌され食餌中のPCを分解し,LPCが増えることで脂肪組織や骨格筋への脂肪蓄積を亢進させ,肥満に対して促進的に作用する.(B)sPLA2-IIDはM2マクロファージから分泌され,白色脂肪組織中の細胞外小胞を基質としてω3 PUFAを動員し,GPR120を介して脂肪組織の慢性炎症を軽減するとともに,脂肪細胞のベージュ化を促進してエネルギー消費を高めることで,肥満に対して防御的に働く.(C)sPLA2-Vは肥満に伴い脂肪細胞から分泌されリポタンパク質に作用し,リポタンパク質のPCからOA, LAを遊離させ,抗炎症性のM2マクロファージへの形質転換を促進することで,肥満に対して防御的に働く.一方sPLA2-IIEはリポタンパク質のPEとPSを選択的に分解し,脂肪組織や肝臓への脂質の蓄積を促進させ,肥満に対して促進的に作用する.(D)sPLA2-Xは大腸上皮細胞から分泌されω3 PUFAを遊離し,大腸の慢性炎症を軽減する.これに伴って腸内細菌叢中でクロストリジウム属が増え,SCFAが増加することで,肥満が抑制される(文献15を改変).

3. sPLA2-IIA

sPLA2-IIAは炎症性刺激によりさまざまな細胞・組織で発現が強く誘導されることから,炎症性sPLA2とも呼ばれ,ヒトを含む多くの動物種で最も主要な分子種である.sPLA2-IIAは細胞外小胞内のリン脂質に作用して脂質メディエーターを産生し,炎症の増悪に関与する.また,sPLA2-IIAは細菌膜を効率的に分解することから,細菌感染に対して防御的な役割を担う2).マウスにおけるsPLA2-IIAの発現はヒトやラットなどほかの動物種と大きく異なっており,遺伝子改変マウスで一般的に使用される系統(C57BL/6, 129)ではPla2g2a遺伝子座にフレームシフト変異により,先天的にsPLA2-IIAが欠損している2).このため,遺伝子欠損のストラテジーにより本酵素の機能を解析することには制約があり,もっぱら本酵素を人為的に過剰発現させたトランスジェニックマウスが解析に用いられてきた.sPLA2-IIA過剰発現マウスは皮膚において表皮肥厚や脱毛といった異常がみられるほか,高脂肪食による体重増加やインスリン抵抗性が抑制される3, 4).さらに,脂肪組織では熱産生に関連する遺伝子の発現が上昇し,白色脂肪細胞のベージュ化が促進されることからエネルギー消費が増加する.この要因として,sPLA2-IIA過剰発現マウスでは褐色脂肪細胞が活性化されるためであると報告されているが5),脱毛により体表からの熱放散が増加することも要因の一つと考えられる.実際,同じく脱毛を発症するsPLA2-IIFやsPLA2-Xの過剰発現マウスも体脂肪が減少する2)

4. sPLA2-IID

sPLA2-IIDはリンパ組織の樹状細胞に高発現しているほか,白色脂肪組織ではM2マクロファージに構成的に発現しており,肥満によって生じる脂肪組織の慢性炎症の進行に伴い発現が低下する.全身およびマクロファージ特異的sPLA2-IID欠損マウスでは,白色脂肪細胞のベージュ化が抑制されてエネルギー消費や熱産生が減少するため,肥満やインスリン抵抗性,白色脂肪組織の炎症が増悪する.sPLA2-IID欠損マウスでは脂肪組織とリンパ節においてEPAやDHAなどのω3 PUFAが選択的に減少する.ω3 PUFAには脂肪組織の慢性炎症を抑制するとともに,ω3脂肪酸受容体であるGPR120を介して白色脂肪細胞のベージュ化を促進する作用がある.魚油含有食をsPLA2-IID欠損マウスに与えてω3 PUFAを補充すると,白色脂肪細胞のベージュ化の低下および肥満増悪の表現型が消失する6).以上のことから,M2マクロファージから分泌されるsPLA2-IIDは白色脂肪組織中でω3 PUFAを供給し,GPR120を介して脂肪組織の慢性炎症を抑えるとともに,脂肪細胞のベージュ化を促進することで,肥満に対する保護的な効果を示すものと考えられる(図2B6).加えてごく最近,sPLA2-IIDが血管周囲の脂肪組織に存在するPodoplanin(Pdpn)陽性マクロファージから分泌され,脂肪組織由来の細胞外小胞を標的基質としてω3 PUFAを遊離し,GPR120を介したPI3K/Akt経路の活性化とNF-κB経路の抑制を通じて血管周囲脂肪組織の炎症を抑えることにより,糖尿病性血管病変に対して保護効果を発揮することが報告された7).この知見は,我々のこれまでの研究結果をさらに支持するものである.

5. sPLA2-IIE

sPLA2-IIEは構造的にsPLA2-IIAに最も類縁である.双方の発現は動物種によって異なり,マウスではsPLA2-IIE,ヒトではsPLA2-IIAが優位である.マウスにおいてsPLA2-IIEは肥満の白色脂肪細胞で強く発現誘導され,低密度リポタンパク質(low-density lipoprotein:LDL)や高密度リポタンパク質(high-density lipoprotein:HDL)の微量リン脂質であるPE,ホスファチジルセリン(phosphatidylserine:PS)を脂肪酸非選択的に分解して性質を変化させ,脂肪蓄積を促進させる(図2C8).sPLA2-IIEによるリポタンパク質の微量リン脂質の加水分解がどのようなメカニズムで代謝調節と結びついているのかは不明であるが,sPLA2-IIE欠損によるリポタンパク質中のアニオン性リン脂質(たとえばPS)の増加が粒子径を大きくして脂質運搬量を増やす,あるいはsPLA2-IIEによって遊離される脂肪酸やリゾリン脂質の中に代謝調節機能を持つものが存在する可能性が想定される.一方で,sPLA2-IIE欠損マウスでは脂肪細胞において脂肪分解が低下するため,加齢に伴い体脂肪が増加することが報告されている9).これと関連して,我々はsPLA2-IIEが寒冷刺激により褐色脂肪細胞やベージュ脂肪細胞に発現誘導され,熱産生に影響を及ぼすことを見いだしている(未発表).

6. sPLA2-V

sPLA2-Vは肥満により肥大化した白色脂肪細胞に発現が誘導され,LDLに含まれる主要なリン脂質であるPCを分解し,OAやLAなどの不飽和脂肪酸を遊離する.不飽和脂肪酸には飽和脂肪酸(パルミチン酸)による炎症ストレス応答を緩和する作用がある.実際,肥満に伴って脂肪細胞から遊離されるパルミチン酸はストレス応答を誘発して脂肪組織の慢性炎症を促進するが,sPLA2-Vにより遊離された不飽和脂肪酸はこれに拮抗的に作用し,M2マクロファージ優位な抗炎症状態を保つ8).ヒトにおいてもsPLA2-V遺伝子(PLA2G5)のSNPsは2型糖尿病患者の血漿LDL濃度と相関し,また内臓脂肪組織のsPLA2-Vの発現と血漿LDL濃度は逆相関する2).このことから,sPLA2-VはLDLのPCから不飽和脂肪酸を動員することで脂肪組織の慢性炎症を抑制し,肥満の進展に対して防御的に作用するものと考えられる(図2C8).さらに,sPLA2-VはIL-4やIL-13などのTh2サイトカインによってM2マクロファージに発現誘導され,Th2型免疫応答の亢進に関わる.一般に,Th1優位な免疫応答は肥満に対して促進的に,Th2優位な免疫応答は肥満に対して抑制的に働く8).そのため,sPLA2-V欠損マウスではTh1/Th2免疫バランスがTh1優位にシフトしていることも肥満の増悪に寄与しているものと考えられる.このことは,sPLA2-V欠損マウスがTh2優位な喘息などのアレルギー疾患に対して抵抗性を示すこととも関連がある2)

7. sPLA2-X

sPLA2-Xは脂肪細胞や免疫細胞にほとんど発現がみられず,胃から腸全体にわたって粘膜上皮に強い発現が認められ,ω3 PUFAを動員して大腸の炎症を抑制する.過栄養状態が続くと,腸内細菌叢の変容(いわゆる「悪玉菌」の増加と「善玉菌」の減少)を引き金として腸管上皮組織に慢性炎症を生じ,腸管上皮バリアの破綻,さらには全身性の炎症へと波及することで,肥満や2型糖尿病が悪化する原因となる.高脂肪食を与えたsPLA2-X欠損マウスは肥満,インスリン抵抗性,脂肪組織の炎症が増悪し,大腸上皮バリアが低下する.この表現型は,抗生物質投与や野生型マウスとの同居飼育,あるいはよりクリーンな飼育施設に移すことにより消失することから,腸内細菌叢の関与が示唆される.sPLA2-Xは大腸においてPUFA(特にω3)を遊離し,大腸の炎症を抑える.これに伴い,sPLA2-X欠損マウスの大腸では善玉菌であるクロストリジウム属の一部が減少する.クロストリジウム属は食物繊維を代謝して抗炎症作用や代謝改善作用を有する短鎖脂肪酸(short-chain fatty acid:SCFA)を産生することが知られており10),sPLA2-X欠損マウスでは糞便および血液中のSCFAが減少する.sPLA2-X欠損マウスにω3 PUFAまたはSCFAを添加するとsPLA2-X欠損マウスの肥満増悪の表現型は消失する11).以上のことから,sPLA2-Xは大腸においてリン脂質からω3 PUFAを遊離して大腸の慢性炎症を抑えるとともに,腸内細菌叢中の善玉菌であるクロストリジウム属を増やし,クロストリジウ属が産生するSCFAの抗炎症・代謝改善作用により肥満を抑制する(図2D11).またこのことは,sPLA2-X欠損マウスの表現型に関する相矛盾する報告2)を説明するものである.

8. sPLA2-XIIA

sPLA2-XIIAは幅広い組織に分布しており,他のsPLA2と比べユニークな構造を持つ.最近,ヒトにおいてsPLA2-XIIA遺伝子(PLA2G12A)のSNPsがインスリン抵抗性の簡便な指標であるTG/HDL比の増加と相関することが報告され12),sPLA2-XIIAがインスリン感受性を高める可能性が示唆されている.アデノウイルスを用いて肝臓特異的にsPLA2-XIIAを過剰発現させたトランスジェニックマウスは肥満・インスリン抵抗性・高脂血症が改善し,全身性sPLA2-XIIA欠損マウスでは血清中の脂質レベルが有意に増加する13).このことから,sPLA2-XIIAは血中の脂質恒常性維持に関わることが想定されるが,この報告ではsPLA2-XIIAの酵素活性は必要ないと論じられており,後述のsPLA2-XIIBと類似の作用機序を介する可能性もある.以上より,sPLA2-XIIAはインスリン抵抗性の新たな治療標的またはバイオマーカーとして期待できる.

9. sPLA2-XIIB

sPLA2-XIIBは肝臓に高発現しており,活性中心のヒスチジンがロイシンに置換されているため酵素活性を持たない.肝臓においてsPLA2-XIIBの発現は転写因子HNF-4αとその活性化因子PGC-1α,さらにエストロゲン関連受容体ERRγによって誘導され2),胆汁酸の代謝調節に関わる核内受容体FXR(farnesoid X receptor)により抑制される2).sPLA2-XIIB欠損マウスではVLDL分泌が低下するが,酵素活性を持たないsPLA2-XIIBがどのような機序で作用しているのかは不明であった.ごく最近,sPLA2-XIIBは小胞体内腔で脂質を新生VLDLに移行させる脂質シャペロンとして働き,これにより肝細胞内のVLDL脂質の滞留を防ぎ,血中へのTG供給を制御することが明らかとなった14).それゆえ,エチルニトロソウレア(N-ethyl-N-nitrosourea:ENU)によって誘発したsPLA2-XIIB変異(C129Y)マウスはアテローム性動脈硬化症に対する顕著な耐性を示す14)

10. おわりに

本稿では,遺伝子改変マウスやヒト遺伝子変異の解析,さらに脂質メタボローム解析により明らかとなった代謝性疾患におけるsPLA2の役割についてこれまでに明らかとなっている知見を概説した.従来sPLA2は産生細胞から分泌された後,オートクリン,パラクリン作用によって,産生細胞自身または隣接細胞の膜リン脂質を分解すると考えられてきた.現在では,sPLA2は細胞外に存在するリン脂質を標的基質とすることが明らかとなってきている.たとえば,腸内細菌叢や食事中のリン脂質,細胞外微粒子である細胞外小胞(エクソソーム)やリポタンパク質などはsPLA2のよい標的基質である.一方,sPLA2の産物の作用様式として,既存概念である脂質メディエーターの産生に加えて組織微小環境の脂肪酸バランスの調節,脂肪酸受容体へのリガンド供給が想定される.さらにsPLA2による代謝制御に関するもう一つの新しい視点として,遠隔臓器変容がある.代謝関連組織に固有に生じる変容に加えて,遠隔臓器の変容から二次的にメタボリックシンドロームの病態が生じることが提唱されている.この遠隔臓器変容には,局所から他臓器への免疫細胞の遊走のほか,リポタンパク質や細胞外小胞による脂質やマイクロRNA(miRNA)の組織間運搬,腸内細菌叢やそれが産生する代謝物の変化,自律神経を介した中枢・末梢組織連関,等のメカニズムが想定される.今後はさらなる解析によりsPLA2アイソザイムを起点とした肥満の新規制御機構の全貌を明らかにし,新しい視点からの肥満,2型糖尿病の新規予防治療法の開発につなげたい.

引用文献References

1) Hui, D.Y. (2019) Group 1B phospholipase A2 in metabolic and inflammatory disease modulation. Biochim. Biophys. Acta Mol. Cell Biol. Lipids, 1864, 784–788.

2) Murakami, M., Sato, H., & Taketomi, Y. (2020) Updating Phospholipase A2 Biology. Biomolecules, 10, 1457.

3) Grass, D.S., Felkner, R.H., Chiang, M.Y., Wallace, R.E., Nevalainen, T.J., Bennett, C.F., & Swanson, M.E. (1996) Expression of human group II PLA2 in transgenic mice results in epidermal hyperplasia in the absence of inflammatory infiltrate. J. Clin. Invest., 97, 2233–2241.

4) Kuefner, M.S., Deng, X., Stephenson, E.J., Pham, K., & Park, E.A. (2019) Secretory phospholipase A2 group IIA enhances the metabolic rate and increases glucose utilization in response to thyroid hormone. FASEB J., 33, 738–749.

5) Kuefner, M.S., Stephenson, E., Savikj, M., Smallwood, H.S., Dong, Q., Payré, C., Lambeau, G., & Park, E.A. (2021) Group IIA secreted phospholipase A2 (PLA2G2A) augments adipose tissue thermogenesis. FASEB J., 35, e21881.

6) Sato, H., Taketomi, Y., Miki, Y., Murase, R., Yamamoto, K., & Murakami, M. (2020) Secreted phospholipase PLA2G2D contributes to metabolic health by mobilizing ω3 polyunsaturated fatty acids in WAT. Cell Rep., 31, 107579.

7) Li, J., Tian, Z., Zhang, T., Jin, J., Zhang, X., Xie, P., Lin, H., Gu, J., Wu, Y., Wang, X., et al. (2024) Single-cell view and a novel protective macrophage subset in perivascular adipose tissue in T2DM. Cell. Mol. Biol. Lett., 29, 148.

8) Sato, H., Taketomi, Y., Ushida, A., Isogai, Y., Kojima, T., Hirabayashi, T., Miki, Y., Yamamoto, K., Nishito, Y., Kobayashi, T., et al. (2014) The adipocyte-inducible secreted phospholipases PLA2G5 and PLA2G2E play distinct roles in obesity. Cell Metab., 20, 119–132.

9) Zhi, H., Qu, L., Wu, F., Chen, L., & Tao, J. (2015) Group IIE secretory phospholipase A2 regulates lipolysis in adipocytes. Obesity (Silver Spring), 23, 760–768.

10) Ghislain, J. & Poitout, V. (2021) Targeting lipid GPCRs to treat type 2 diabetes mellitus-Progress and challenges. Nat. Rev. Endocrinol., 17, 162–175.

11) Sato, H., Taketomi, Y., Murase, R., Park, J., Hosomi, K., Sanada, T.J., Mizuguchi, K., Arita, M., Kunisawa, J., & Murakami, M. (2024) Group X phospholipase A2 links colonic lipid homeostasis to systemic metabolism via host-microbiota interaction. Cell Rep., 43, 114752.

12) DeForest, N., Wang, Y., Zhu, Z., Dron, J.S., Koesterer, R., Natarajan, P., Flannick, J., Amariuta, T., Peloso, G.M., & Majithia, A.R. (2024) Genome-wide discovery and integrative genomic characterization of insulin resistance loci using serum triglycerides to HDL-cholesterol ratio as a proxy. Nat. Commun., 15, 8068.

13) Wu, M., Wang, Q., Li, H., Tao, J., Wang, Z., Zhang, S., Chen, L., Li, P., Chen, L., & Qu, L. (2024) PLA2G12A protects against diet-induced obesity and insulin resistance by enhancing energy expenditure and clearance of circulating triglycerides. FASEB J., 38, e23643.

14) Thierer, J.H., Foresti, O., Yadav, P.K., Wilson, M.H., Moll, T.O.C., Shen, M.C., Busch-Nentwich, E.M., Morash, M., Mohlke, K.L., Rawls, J.F., et al. (2024) Publisher correction: Pla2g12b drives expansion of triglyceride-rich lipoproteins. Nat. Commun., 15, 2572.

15) Murakami, M., Sato, H., & Taketomi, Y. (2023) Modulation of immunity by the secreted phospholipase A2 family. Immunol. Rev., 317, 42–70.

著者紹介Author Profile

佐藤 弘泰(さとう ひろやす)

東京大学大学院医学系研究科疾患生命工学センター健康環境医工学部門 助教.博士(薬学).

略歴

2004年昭和大学薬学部卒業,09年同大学院薬学系研究科博士課程修了,東京都臨床医学総合研究所研究員,東京都医学総合研究所主任研究員,東京大学大学院医学系研究科疾患生命工学センター健康環境医工学部門特任助教を経て,19年より現職.

研究テーマと抱負

細胞外リン脂質代謝を基盤とした全身性代謝疾患の制御機構の解明.

ウェブサイト

https://lmmhs.m.u-tokyo.ac.jp/home_j.html

趣味

野球観戦.

This page was created on 2025-07-16T17:15:21.521+09:00
This page was last modified on 2025-08-14T07:47:35.000+09:00


このサイトは(株)国際文献社によって運用されています。