Online ISSN: 2189-0544 Print ISSN: 0037-1017
公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 97(5): 584-590 (2025)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2025.970584

総説Review

微生物が作る菌体外多糖が宿主の腸内環境に及ぼす影響Effects of extracellular polysaccharides produced by microorganisms on the intestinal environment of the host

1京都大学大学院生命科学研究科Graduate School of Biostudies, Kyoto University ◇ 〒606–8501 京都市左京区吉田近衛町 ◇ Yoshidakonoe-cho, Sakyo-ku, Kyoto 606–8501, Japan

2東京農工大学大学院農学研究院Graduate School of Agriculture, Tokyo University of Agriculture and Technology ◇ 〒183–8509 東京都府中市幸町3–5–8 ◇ 3–5–8 Saiwai-cho, Fuchu-shi, Tokyo 183–8509, Japan

発行日:2025年10月25日Published: October 25, 2025
HTMLPDFEPUB3

食物繊維である難消化性多糖は,腸内環境を良好に保つプレバイオティクスとして知られている.腸内細菌は難消化性多糖を単糖に分解し,短鎖脂肪酸(SCFAs)に変換する.これらSCFAsは,細胞膜上受容体を介して宿主の生体恒常性維持に重要な役割を果たしている.一方,一部の腸内細菌により分解され生じた単糖は,糖転移酵素によって難消化性多糖(EPS)に変換される.EPSを構成する糖の種類や数,結合様式は腸内細菌の種類によって異なり,腸内で合成されたEPSは,他の腸内細菌に利用されることでSCFAsを産生し,宿主の代謝的利益に貢献している可能性が考えられる.本稿では,過剰に摂取した糖が,腸内細菌によってEPSへと変換され,このEPSがプレバイオティクスとして機能することで宿主の腸内環境に及ぼす影響,さらに腸内細菌代謝産物が宿主の健康に与える分子機序について,我々の研究成果とともに概説する.

1. はじめに

日々の食事は栄養摂取において最も重要な要素であるが,糖分や脂肪の過剰摂取は,宿主のエネルギー恒常性を破綻させ,肥満を引き起こす.特に,欧米諸国ではスクロース(ショ糖:砂糖の主成分)の摂取量が増加しており,これに伴い,スクロースの過剰摂取が肥満症や2型糖尿病などの代謝性疾患の重要な健康問題の一つとされている.近年は,解析技術の発展により,肥満症や2型糖尿病などの代謝性疾患の予防や改善において,腸内細菌が注目されている.2006年にGordonらの研究グループが,腸内細菌の変化が肥満症に直接影響を与えることを報告して以降1),腸内環境の乱れが肥満症や2型糖尿病などの代謝性疾患の発症に関与する可能性が科学的に証明され始めている2, 3).食物繊維などの難消化性多糖は,腸内細菌の増殖を促し,短鎖脂肪酸(short-chain fatty acids:SCFAs)を産生することで腸内環境を良好に保つことが知られており,肥満症や2型糖尿病などの代謝性疾患の予防や改善に貢献する可能性が示唆されている4).最近我々は,一部の腸内細菌がスクロースを基質として食物繊維様の物質である菌体外多糖を産生すること,これがプレバイオティクス成分として腸内環境を改善し,宿主の糖代謝に重要な役割を果たしていることを明らかにした.本稿では,腸内環境と宿主の相互作用がつくりだす健康サイクルの全体像と,それを分子レベルで解き明かしてきた筆者らの研究について概説し,肥満症や2型糖尿病などの代謝疾患の予防や治療への道を拓く,新たな知見と応用への展望を示したい.

2. プレバイオティクスとして働く食物繊維,難消化性多糖

ヒトは日々の食事から多様な栄養素を摂取しており,主要な栄養素である炭水化物,タンパク質,脂質は宿主の消化酵素によって分解される.たとえば,炭水化物はアミラーゼによって単糖類に,タンパク質はペプシンやトリプシンによってアミノ酸に,脂質はリパーゼによって脂肪酸とグリセロールに分解され,小腸から効率的に吸収される.一方,食物繊維はこれらの消化酵素の作用を受けずに小腸を通過し大腸に到達する.このような食物繊維は「人の消化酵素で消化されない食物中の難消化性成分」の総称であり,主に水溶性食物繊維と不溶性食物繊維の二つに大別される.水溶性食物繊維としては,ペクチン,グルコマンナン,グアーガム,不溶性食物繊維としては,寒天,セルロース,キチンなどがあり,近年ではこれら食物繊維の摂取がさまざまな疾患リスクの低減に貢献していることが報告されている.

Reynoldsらの研究グループは,観察研究において,食物繊維摂取量の多いヒトは,摂取量の少ないヒトと比較して,心血管疾患,冠動脈疾患,脳卒中,2型糖尿病や大腸がんなどの発症率が15~30%低下することを報告している5).また,ニュージーランドで行われた臨床試験では,食物繊維摂取量の多い被験者は,摂取量の少ない被験者と比較して,体重,収縮期血圧および総コレステロール値が大幅に減少すること,さらに,心血管疾患,2型糖尿病,大腸がん,乳がんなどの疾病リスクの低減効果は,食事による食物繊維の1日あたりの摂取量が25~29 gの範囲で最も高いことが報告されている5).一方,日本では18歳以上の日本人の食物繊維摂取量の中央値は1日あたり約13.7 gであり,上述した疾患の発症リスクを下げるためには,1日あたりの食物繊維の摂取量を10 g以上増やす必要があるといわれている6).国立がん研究センターの研究チームは,45~74歳の約9万人の日本人の男女を対象に約17年間の観察研究を行った結果,性別にかかわらず,食物繊維の摂取量が多いヒトほど死亡リスクが低いことを報告しており7),食物繊維は,食事療法を中心とした精密栄養学や先制医療の観点からも,非常に重要な栄養成分の一つといえる.これら食物繊維のうち,近年では難消化性多糖が注目されている.難消化性多糖は,食物繊維と同様に小腸で消化されない糖質であり,難消化性デンプンであるレジスタントスターチ,難消化性デキストリン,難消化性オリゴ糖,イヌリンなどが含まれる.従来,これらの難消化性多糖は,プレバイオティクス成分として腸内細菌の増殖を促し,腸管バリア機能や免疫機能調節の改善に貢献することで,腸内環境を良好に保つことが知られていたが8, 9),近年では,腸内細菌に代謝されることでSCFAsを生成し,さまざまな生体調節機能に関与することが報告されている.

3. 腸内細菌,短鎖脂肪酸とその受容体

腸内細菌は,ヒト腸管に約1000種類,100兆個以上存在し,互いに共生・拮抗関係を築きながら腸内環境を形成しており,多種多様な細菌が集団を形成し腸内に生息する様子を「お花畑」に例えて,腸内細菌叢と呼ぶ.腸内細菌叢の構成変化は,腸内の代謝産物の種類や産生量に影響を与える.これまでに腸内細菌由来のさまざまな代謝産物が同定されているが,主要な代謝産物の一つであるSCFAsは,大腸上皮細胞のエネルギー源として利用されるほか,肝臓の脂肪合成の基質となることで全身のエネルギー恒常性の維持に関与している10).また,筆者らのグループが,SCFAsを天然リガンドとする受容体として細胞膜上のGタンパク質共役型受容体(G-protein coupled receptors:GPCRs)ファミリーを同定したことを一大契機として,SCFAsは単なるエネルギー源としてだけでなく,GPCRsを介したシグナル伝達物質として宿主のエネルギー恒常性維持に重要な役割を果たすことが明らかになった(図111)

Journal of Japanese Biochemical Society 97(5): 584-590 (2025)

図1 腸内細菌由来短鎖脂肪酸(SCFAs)によるGPCRsを介した生体調節機能

SCFAsをリガンドとする代表的なGPCRsとしては,主にGPR41およびGPR43が知られている.GPR41は主に腸管と交感神経節に発現しており,プロピオン酸や酪酸などのSCFAsによって活性化される11).我々は,GPR41が交感神経節に高発現していることを見いだし,Gi/oシグナルを介したMAPK(mitogen-activated protein kinase)経路の活性化により,交感神経細胞からのノルアドレナリン分泌を促進することでエネルギー消費のバランスを調節していることを明らかにしている12).一方,GPR43は脂肪組織,腸管,膵臓や免疫系細胞に高発現し,酢酸やプロピオン酸によって活性化される11).我々は,成熟脂肪細胞や白色脂肪組織に高発現しているGPR43が脂肪組織特異的にインスリンシグナルを抑制することで脂肪細胞への過剰なエネルギーの蓄積を防ぎ,宿主の肥満抑制に貢献することを明らかにした13).さらに,妊娠中の母体の腸内細菌叢由来SCFAsが,胎仔のGPR41およびGPR43を介して,出生後の肥満予防に貢献することも明らかにした14).腸管内を無菌状態にしたマウス(無菌マウス),もしくは低食物繊維食を与えて腸内細菌叢のバランスを乱した妊娠マウスから出生した仔は,低体温および心拍数の減少を示し,高脂肪食の摂取により著しい体重増加が認められたのに対し,高食物繊維食を与えてSCFAsを産生する腸内細菌を増加させた妊娠マウスから出生した仔では,高脂肪食の摂取による肥満が抑制された.高食物繊維食による肥満抑制作用は,食物繊維を基質とする腸内細菌の代謝により生じたSCFAsによると考えられ,母体由来のSCFAsが胎仔の交感神経,腸管,膵臓のGPR41およびGPR43を活性化し,神経細胞,腸内分泌細胞,膵β細胞の分化を促進することで内分泌機能を整えエネルギー代謝系を調節し,肥満になりにくい体質をつくることを明らかにしている.このほか,SCFAsをリガンドとする新たなGPCRsとして,Olfr78やGPR109Aが同定され機能解析が行われている.嗅覚受容体であるOlfr78は血管でも発現しており,酢酸やプロピオン酸はOlfr78を介してレニン分泌を促進し血圧調節に貢献している15).また,GPR109Aは,ナイアシンやケトン体であるβ-ヒドロキシ酪酸を内因性リガンドとするが,酪酸によっても活性化される.GPR109Aが酪酸を介して小腸での免疫寛容誘導能を強化することで粘膜環境を維持し,さらには経口免疫寛容による抗食物アレルギー作用を示すことが報告されている16).このように,SCFAsをリガンドとするGPCRsの受容機構およびそれらの受容体を介した多面的な生体調節作用に関する詳細な分子機序が明らかになりつつある.

4. 微生物による多糖合成と多糖の種類・機能

腸内細菌は,食物繊維などの難消化性多糖類を糖分解酵素によって単糖に分解し,解糖系を経て,ピルビン酸に代謝した後,酢酸,プロピオン酸,酪酸などのSCFAsに変換する.このような異化反応によって腸内細菌はエネルギーを獲得する17).一方,腸内細菌による分解産物である単糖は,糖転移酵素によって重合し多糖類にも変換される.このような同化反応によって合成された多糖は,菌体外多糖(exopolysaccharide:EPS)として菌体表面に分泌される.構成糖の種類や数,結合様式によって多種多様な構造を持つEPSは,菌体外にマトリクスを形成することで環境ストレスから自身を保護している18).微生物が合成するEPSは,1種類の単糖から構成されるホモ多糖と2種類以上の異なる単糖から構成されるヘテロ多糖の二つに大別される.ホモ多糖は,糖転移酵素によって菌体外の細胞表面で重合して合成されるのに対し,ヘテロ多糖は菌体内に取り込まれた単糖が糖転移酵素によって複数の単糖からなるオリゴ糖に合成され,菌体外に分泌された後に重合して合成される.

EPSを合成する微生物のうち,酢酸菌の一種であるGluconacetobacter xylinusは,ココナッツミルクを供給源としてセルロースを合成する19).酢酸菌由来のセルロースは,植物由来セルロースと比較して,微細な網目構造を有し,リグニンなどを含まないことから,工業用素材としても利用されている.また,ヨーグルトの製造に用いられるStreptococcus thermophilusLactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricusが発酵の過程で産生するEPSは,ヨーグルトに粘性を持たせることで分離を防ぎ,まろやかな食感を与えることが知られている20).興味深いことに,L. delbrueckii subsp. bulgaricusに属する細菌種のうち,特定の菌株が産生するEPSは,インターフェロンγ(IFN-γ)の産生を高めることで免疫系細胞の一種であるナチュラルキラー細胞の活性を増強し,免疫機能を調節している21).このように,微生物の菌種間だけでなく菌株間においても,EPSの性質は異なることが報告されている.食品の発酵等に利用されている乳酸菌は,これまでの長い食経験から,安全性の高いプロバイオティクスとして知られており,これら乳酸菌のうち,Leuconostoc属,Weissella属,Streptococcus属に属する一部の菌種は,EPSとしてグルカンやフルクタンなどの難消化性多糖を菌体表面に産生する22).難消化性多糖であるグルカンやフルクタン,フラクトオリゴ糖,ガラクトオリゴ糖などは,プレバイオティクスとして腸内ビフィズス菌の増殖促進,SCFAs産生の増加,免疫機能の調節作用などを有していることから23, 24),上述した一部の乳酸菌が作り出すEPSは,プレバイオティクスとして腸内環境を起点とした生体機能調節に貢献することが期待される.

5. EPSによるプレバイオティクス作用

発酵食品は,微生物の働きを利用して食材を変化させた食品であり,日本では味噌,醤油,納豆などが古くから親しまれている.また,ヨーグルト,ザワークラウト,キムチ,ピクルスなどの発酵食品は,乳酸菌などのプロバイオティクスが豊富に含まれているため,これら発酵食品の摂取により,腸管内における有害細菌の増殖が抑制され,腸管運動の促進による便通改善などの効果が期待される.また,難消化性多糖であるグルカンやフルクタンなどのプレバイオティクスは,腸内ビフィズス菌の増殖促進,SCFAs産生の増加,免疫機能の調節作用を有している23, 24).したがって,プロバイオティクスとプレバイオティクス,これら二つを組み合わせたシンバイオティクスによる介入は,腸内環境を良好に保つことで,宿主の健康に有益な効果をもたらすことが期待される.

Leuconostoc mesenteroidesは,漬物やキムチなどの発酵食品の製造に用いられる乳酸菌であり,特徴としてEPSを高産生することが知られている.L. mesenteroidesが産生するEPS(LmEPS)は,腸管内のIgA産生を促すことで,病原体やウイルスなどに対する感染予防に貢献していることが知られている25).一方,発酵食品中に含まれるEPSが,宿主の生理機能や腸内細菌叢に与える影響については,いまだ明らかになっていない.食物繊維などの難消化性多糖類は,宿主の消化酵素による作用を受けずに小腸を通過し,大腸に移行することで腸内細菌により資化され,最終代謝産物としてSCFAsを産生する.このSCFAsは,宿主側の受容体を介して,肥満や2型糖尿病などの代謝性疾患などの改善に貢献することから,発酵食品としての機能性,特にLmEPSのプレバイオティクス効果によるSCFAs産生が代謝性疾患において重要な役割を果たす可能性が期待される.

LmEPSは,L. mesenteroidesがグルコースやフルクトースではなく,スクロースを基質として産生される.LmEPSをエタノール沈殿処理により精製後,1H NMRにて構造解析を行ったところ,その構造は主にα1-6結合のグルカンであったため,宿主の消化酵素で消化できない難消化性多糖であることが確認された.腸内細菌の種類によって資化できる難消化性多糖類の種類は異なることから26, 27),LmEPSを基質としてSCFAsを産生する腸内細菌の探索を行ったところ,Bacteroides属(B. ovatus, B. stercoris, B. thetaiotaomicron)やBacteroidales S24-7 group(Muribaculum intestinale, Paramuribaculum intestinale, Duncaniell muris)に属する腸内細菌種であることがわかった.SCFAsはGPR41やGPR43などのSCFAs受容体の活性化を介してグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)の分泌を促し,宿主の糖代謝機能を改善することが知られている11).そこで,糖代謝におけるLmEPSの影響について検討したところ,LmEPS摂取マウスでは,インスリンやGLP-1の分泌促進を介して糖負荷における血糖値の上昇が抑制されたのに対し,Gpr41/Gpr43両遺伝子欠損マウスや無菌マウスでは,LmEPSによる糖代謝の改善効果が消失した.また,LmEPSを長期間摂取したマウスでは,対照群と比較して,宿主の腸内細環境が変化し,Bacteroidota門に属するBacteroides属やBacteroidales S24-7 group, Verrucomicrobiota門に属するAkkermansia muciniphilaなどの腸内細菌種の増加に伴うSCFAsの増加,高脂肪食負荷による体重や脂肪重量の増加が抑制された.これらの効果は,Gpr41/Gpr43両遺両伝子欠損マウスでは消失したことから,LmEPSにおける代謝機能の改善効果は,腸内細菌の資化により産生されるSCFAsがGRP41およびGRP43を介して起こることが確認された.LmEPSの摂取はSCFAsの中でも,特にプロピオン酸を顕著に増加させたことから,特定の腸内細菌を移植したノトバイオートマウスを作出し,プロピオン酸産生に関与する腸内細菌種を同定した.その結果,無菌マウスにBacteroides属(B. ovatus, B. stercoris, B. thetaiotaomicron)やBacteroidales S24-7 group(M. intestinale, P. intestinale, D. muris)とA. muciniphilaを定着させたノトバイオートマウスは,無菌マウスと比較して,LmEPS摂取により顕著にプロピオン酸の産生が亢進した.このことから,食餌として摂取したLmEPSはBacteroides属による資化,Bacteroidales S24-7 groupに属する腸内細菌によりLmEPSを資化することで得られた糖類をA. muciniphilaが利用することでSCFAs(特にプロピオン酸)を産生し,GPR41やGPR43を活性化することで宿主の糖代謝機能およびエネルギー代謝機能を改善することを明らかにした28)

6. ヒトにおける腸内細菌由来EPSが宿主に及ぼす影響

我々はまた,ヒト腸内に存在する高EPS産生菌を探索し,宿主が摂取した糖を基質として腸内細菌が合成するEPSのプレバイオティクス効果について,さらに腸内細菌由来の代謝産物が宿主に及ぼす影響についても検討した(図229).約500名のヒト糞便を用いてヒト由来EPS産生菌の探索を行い,5菌種47株を単離し菌種を同定した(Weissella cibaria, Weissella confusa, L. mesenteroides, Lactococcus lactis, Streptococcus salivarius).興味深いことに,これら5菌種のうち,W. cibaria, W. confusa, L. mesenteroides, L. lactisの4菌種は,発酵食品等からの検出が認められたのに対し,S. salivariusは検出されなかった.また,S. salivariusはほとんどのヒト糞便から検出されたのに対し,マウス糞便からは検出されなかった.さらに,BMI(Body Mass Index)が高いヒトでは,糞便中に含まれるS. salivariusの割合が低く,EPS量やSCFAs量も低値を示したことから,ヒト由来EPS産生菌としてS. salivariusに着目した.スクロース,グルコース,フルクトースをそれぞれ15%ずつ添加した条件,グルコースとフルクトースを7.5%ずつ添加した条件の,合計4種の異なる条件でS. salivariusを培養した結果,スクロース添加時のみEPSの産生が認められた.S. salivariusが産生するEPS(SsEPS)をエタノール沈殿・透析処理により精製後,1H NMRにて構造解析を行ったところ,フルクトースがβ2–6結合で連なったレバン型フルクタンとグルコースがα1–6結合で連なったグルカンの混合物であることがわかった.このことから,SsEPSは宿主の消化酵素では消化できない難消化性多糖であることを確認した.次に,SsEPS産生に関わる酵素を特定するため,15%スクロース,あるいは15%グルコースを添加し培養したS. salivariusを用いてRNA-seq解析を行った.その結果,15%グルコース添加時と比較して,15%スクロース添加時では5種の糖転移酵素遺伝子のmRNA発現が有意に増加した.これら5種の糖転移酵素の遺伝子配列からプライマーを作製し,定量PCR解析を行ったところ,15%グルコース添加時と比較して,糖転移酵素であるレバンスクラーゼと2種のグリコシルトランスフェラーゼの発現レベルが15%スクロース添加時に上昇することを確認し,SsEPSの合成に関わる3種の糖転移酵素を明らかにした.また,SsEPSを資化するヒト腸内細菌の種類を特定するため,さまざまな腸内細菌種の単一菌培養培地にSsEPSを添加し,SsEPSの資化性を確認した.その結果,ヒト腸内細菌のうち,主要な構成菌種であるB. ovatusおよびB. thetaiotaomicronが特異的にSsEPSを資化することで増殖し,SCFAsを産生することを確認した.

Journal of Japanese Biochemical Society 97(5): 584-590 (2025)

図2 菌体外多糖(EPS)による宿主代謝機能制御

次に,SsEPSが宿主のエネルギー代謝や糖代謝に与える影響について肥満モデルマウスを用いて検討したところ,SsEPSを長期間摂取したマウスでは,対照群と比較して,食物繊維摂取時に観察されるような体重増加の抑制が認められ,宿主の腸内環境が変化し,SsEPSを利用可能なB. ovatus, B. thetaiotaomicronおよび糞便や血液中のSCFAsの増加,血糖値等の代謝パラメーターが改善した.これらの効果は,Gpr41/Gpr43両遺伝子欠損マウスでは消失したことから,SsEPSはSCFAsによるGPR41やGPR43の活性化を介して,宿主のエネルギー代謝や糖代謝機能を改善することが明らかになった.さらに,無菌マウスにSsEPS産生菌あるいは非産生菌を移植したノトバイオートマウスを用いて,スクロースを長期的に摂取させた結果,SsEPS産生菌ノトバイオートマウスでは,非産生菌ノトバイオートマウスと比較して,腸内のEPS産生が認められた.一方,SsEPS産生菌+資化菌(B. ovatusおよびB. thetaiotaomicron)ノトバイオートマウスでは,SsEPS産生菌や資化菌を単独に移植したノトバイオートマウスやSsEPS非産生菌+資化菌ノトバイオートマウスと比較して,高スクロース食による体重増加の抑制,糞便中のSCFAs濃度の増加,血糖値等の代謝パラメーターの改善が認められた.以上の結果から,SsEPS産生菌がスクロースを基質として腸内でEPSを産生することで宿主の糖吸収を抑えるだけでなく,SsEPS産生菌により合成されたSsEPSをB. ovatusB. thetaiotaomicronなどのEPS資化菌が利用しSCFAsを産生することで,スクロース誘発性の肥満を防ぐ一連のメカニズムが明らかになった.

最後に,ヒト糞便に含まれるS. salivariusが宿主の代謝機能に与える影響について検討した.S. salivariusの占有率が異なるヒトの糞便を無菌マウスに移植し,それぞれのヒト腸内細菌叢の状態を再現したヒトフローラマウスを作製した30).このヒトフローラマウスに,スクロース,グルコース,あるいはフルクトースを含む高脂肪食を負荷した結果,S. salivariusを多く含むヒト糞便を移植したマウスでは,グルコースやフルクトースではなく,スクロースを同時に摂取したときにのみ,高脂肪食負荷による体重増加の抑制が認められた.これは,我々の食生活において,炭水化物や果物に含まれるグルコースやフルクトースに比べて,清涼飲料水や菓子類に大量に含まれるスクロースが原因となる肥満をヒト常在細菌S. salivariusが選択的に抑制するという,食(糖質)–菌体外多糖(腸内細菌合成物)–SCFAs(腸内細菌代謝産物)–宿主受容体(SCFAs受容体)における腸内細菌の糖代謝相互作用が宿主に与える影響についての一端を明らかにした.摂取したスクロースは,小腸にて消化酵素であるスクラーゼによってグルコースとフルクトースに分解され,グルコースはナトリウム依存性グルコース輸送体(sodium-glucose linked transporter 1:SGLT1)を介して能動輸送される.一方,フルクトースはグルコース輸送体(glucose transporter 5:GLUT5)を介して受動輸送される.吸収されたグルコースは血液を介して全身の組織に運ばれ,エネルギー源として利用されるのに対し,フルクトースは主に肝臓で代謝され,脂肪酸やグルコースに変換されるため,過剰なフルクトース摂取は,脂肪肝や肝臓の炎症を引き起こすことが考えられる31)S. salivariusは,小腸内で過剰なスクロースを基質として,フルクトースからレバン型のフルクタンであるEPSを合成することから,本研究は,スクロース誘発性肥満症や2型糖尿病だけでなく,脂肪肝などの代謝性疾患の新規予防や治療に対する有効性や可能性を提示するものであり,今後の応用が期待される.

7. おわりに

食の欧米化に伴い,さまざまな代謝性疾患が社会問題となる中,肥満症や2型糖尿病,脂肪肝などの代謝性疾患に対する腸内細菌の関与が科学的根拠に基づいて明らかにされつつある.腸内細菌の変化や代謝産物の産生に大きな影響を与える日々の食事の質や種類の重要性が再認識されている.特に,EPSは漬物やキムチなどの発酵食品やヒト常在菌中に含まれる乳酸菌によって産生され,食物繊維と同様に腸内細菌によってSCFAsに代謝されることで代謝性疾患の改善に貢献する.本研究成果は,新たなプロバイオティクスやプレバイオティクス,さらに両者を組み合わせたシンバオティクスなどの機能性表示食品や特定保健用食品の開発につながる重要な知見を提供するものと考えられる.今後,さらなる検討を重ねることで,腸内細菌とその代謝産物を含めた腸内環境の網羅的な解析と宿主側の受容体を指標とした腸内細菌–宿主臓器ネットワークの解明が進むことにより,新たな生体エネルギー代謝制御機構の理解が深まるだけでなく,肥満症や2型糖尿病,脂肪肝といった代謝性疾患の新規予防や治療法の開発にもつながることが期待される.

引用文献References

1) Turnbaugh, P.J., Ley, R.E., Mahowald, M.A., Magrini, V., Mardis, E.R., & Gordon, J.I. (2006) An obesity-associated gut microbiome with increased capacity for energy harvest. Nature, 444, 1027–1031.

2) Karlsson, F.H., Tremaroli, V., Nookaew, I., Bergström, G., Behre, C.J., Fagerberg, B., Nielsen, J., & Bäckhed, F. (2013) Gut metagenome in European women with normal, impaired and diabetic glucose control. Nature, 498, 99–103.

3) Qin, J., Li, Y., Cai, Z., Li, S., Zhu, J., Zhang, F., Liang, S., Zhang, W., Guan, Y., Shen, D., et al. (2012) A metagenome-wide association study of gut microbiota in type 2 diabetes. Nature, 490, 55–60.

4) Zhao, L., Zhang, F., Ding, X., Wu, G., Lam, Y.Y., Wang, X., Fu, H., Xue, X., Lu, C., Ma, J., et al. (2018) Gut bacteria selectively promoted by dietary fibers alleviate type 2 diabetes. Science, 359, 1151–1156.

5) Reynolds, A., Mann, J., Cummings, J., Winter, N., Mete, E., & Te Morenga, L. (2019) Carbohydrate quality and human health: A series of systematic reviews and meta-analyses. Lancet, 393, 434–445.

6) 日本人の食事摂取基準2020年版,厚生労働省.

7) Katagiri, R., Goto, A., Sawada, N., Yamaji, T., Iwasaki, M., Noda, M., Iso, H., & Tsugane, S. (2020) Dietary fiber intake and total and cause-specific mortality: The Japan Public Health Center-based prospective study. Am. J. Clin. Nutr., 111, 1027–1035.

8) Desai, M.S., Seekatz, A.M., Koropatkin, N.M., Kamada, N., Hickey, C.A., Wolter, M., Pudlo, N.A., Kitamoto, S., Terrapon, N., Muller, A., et al. (2016) A dietary fiber-deprived gut microbiota degrades the colonic mucus barrier and enhances pathogen susceptibility. Cell, 167, 1339–1353.

9) Trompette, A., Gollwitzer, E.S., Pattaroni, C., Lopez-Mejia, I.C., Riva, E., Pernot, J., Ubags, N., Fajas, L., Nicod, L.P., & Marsland, B.J. (2018) Dietary fiber confers protection against flu by shaping Ly6c patrolling monocyte hematopoiesis and CD8+ T cell metabolism. Immunity, 48, 992–1005.

10) Byrne, C.S., Chambers, E.S., Morrison, D.J., & Frost, G. (2015) The role of short chain fatty acids in appetite regulation and energy homeostasis. Int. J. Obes. (Lond.), 39, 1331–1338.

11) Kimura, I., Ichimura, A., Ohue-Kitano, R., & Igarashi, M. (2020) Free fatty acid receptors in health and disease. Physiol. Rev., 100, 171–210.

12) Kimura, I., Inoue, D., Maeda, T., Hara, T., Ichimura, A., Miyauchi, S., Kobayashi, M., Hirasawa, A., & Tsujimoto, G. (2011) Short-chain fatty acids and ketones directly regulate sympathetic nervous system via G protein-coupled receptor 41 (GPR41). Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 108, 8030–8035.

13) Kimura, I., Ozawa, K., Inoue, D., Imamura, T., Kimura, K., Maeda, T., Terasawa, K., Kashihara, D., Hirano, K., Tani, T., et al. (2013) The gut microbiota suppresses insulin-mediated fat accumulation via the short-chain fatty acid receptor GPR43. Nat. Commun., 4, 1829.

14) Kimura, I., Miyamoto, J., Ohue-Kitano, R., Watanabe, K., Yamada, T., Onuki, M., Aoki, R., Isobe, Y., Kashihara, D., Inoue, D., et al. (2020) Maternal gut microbiota in pregnancy influences offspring metabolic phenotype in mice. Science, 367, eaaw8429.

15) Pluznick, J.L., Protzko, R.J., Gevorgyan, H., Peterlin, Z., Sipos, A., Han, J., Brunet, I., Wan, L.X., Rey, F., Wang, T., et al. (2013) Olfactory receptor responding to gut microbiota-derived signals plays a role in renin secretion and blood pressure regulation. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 110, 4410–4415.

16) Macia, L., Tan, J., Vieira, A.T., Leach, K., Stanley, D., Luong, S., Maruya, M., Ian McKenzie, C., Hijikata, A., Wong, C., et al. (2015) Metabolite-sensing receptors GPR43 and GPR109A facilitate dietary fibre-induced gut homeostasis through regulation of the inflammasome. Nat. Commun., 6, 6734.

17) Mora-Flores, L.P., Casildo, R.M.-T., Fuentes-Cabrera, J., Pérez-Vicente, H.A., de Anda-Jáuregui, G., & Neri-Torres, E.E. (2023) The role of carbohydrate intake on the gut microbiome: A weight of evidence systematic review. Microorganisms, 11, 1728.

18) Moradali, M.F. & Rehm, B.H.A. (2020) Bacterial biopolymers: From pathogenesis to advanced materials. Nat. Rev. Microbiol., 18, 195–210.

19) Jozala, A.F., Pértile, R.A.N., dos Santos, C.A., de Carvalho Santos-Ebinuma, V., Seckler, M.M., Gama, F.M., & Pessoa A. Jr. (2015) Bacterial cellulose production by Gluconacetobacter xylinus by employing alternative culture media. Appl. Microbiol. Biotechnol., 99, 1181–1190.

20) Nishimura, J., Kawai, Y., Aritomo, R., Ito, Y., Makino, S., Ikegami, S., Isogai, E., & Saito, T. (2013) Effect of formic acid on exopolysaccharide production in skim milk fermentation by Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL1073R-1. Biosci. Microbiota Food Health, 32, 23–32.

21) Makino, S., Ikegami, S., Kano, H., Sashihara, T., Sugano, H., Horiuchi, H., Saito, T., & Oda, M. (2006) Immunomodulatory effects of polysaccharides produced by Lactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricus OLL1073R-1. J. Dairy Sci., 89, 2873–2881.

22) Monsan, P., Bozonnet, S., Albenne, C., Joucla, G., Willemot, R.-M., & Remaud-Siméon, M. (2001) Homopolysaccharides from lactic acid bacteria. Int. Dairy J., 11, 675–685.

23) So, D., Whelan, K., Rossi, M., Morrison, M., Holtmann, G., Kelly, J.T., Shanahan, E.R., Staudacher, H.M., & Campbell, K.L. (2018) Dietary fiber intervention on gut microbiota composition in healthy adults: A systematic review and meta-analysis. Am. J. Clin. Nutr., 107, 965–983.

24) Gourbeyre, P., Desbuards, N., Gremy, G., Le Gall, S., Champ, M., Denery-Papini, S., & Bodinier, M. (2012) Exposure to a galactooligosaccharides/inulin prebiotic mix at different developmental time points differentially modulates immune responses in mice. J. Agric. Food Chem., 60, 11942–11951.

25) Matsuzaki, C., Matsumoto, K., Katoh, T., Yamamoto, K., & Hisa, K. (2016) Comparison of activity to stimulate mucosal IgA production between Leuconostoc mesenteroides strain NTM048 and type strain JCM6124 in mice. Biosci. Microbiota Food Health, 35, 51–55.

26) Sonnenburg, E.D., Zheng, H., Joglekar, P., Higginbottom, S.K., Firbank, S.J., Bolam, D.N., & Sonnenburg, J.L. (2010) Specificity of polysaccharide use in intestinal bacteroides species determines diet-induced microbiota alterations. Cell, 141, 1241–1252.

27) Briggs, J.A., Grondin, J.M., & Brumer, H. (2021) Communal living: glycan utilization by the human gut microbiota. Environ. Microbiol., 23, 15–35.

28) Miyamoto, J., Shimizu, H., Hisa, K., Matsuzaki, C., Inuki, S., Ando, Y., Nishida, A., Izumi, A., Yamano, M., Ushiroda, C., et al. (2023) Host metabolic benefits of prebiotic exopolysaccharides produced by Leuconostoc mesenteroides. Gut Microbes, 15, 2161271.

29) Shimizu, H., Miyamoto, J., Hisa, K., Ohue-Kitano, R., Takada, H., Yamano, M., Nishida, A., Sasahara, D., Masujima, Y., Watanabe, K., et al. (2025) Sucrose-preferring gut microbes prevent host obesity by producing exopolysaccharides. Nat. Commun., 16, 1145.

30) Tanoue, T., Morita, S., Plichta, D.R., Skelly, A.N., Suda, W., Sugiura, Y., Narushima, S., Vlamakis, H., Motoo, I., Sugita, K., et al. (2019) A defined commensal consortium elicits CD8 T cells and anti-cancer immunity. Nature, 565, 600–605.

31) Zhao, S., Jang, C., Liu, J., Uehara, K., Gilbert, M., Izzo, L., Zeng, X., Trefely, S., Fernandez, S., Carrer, A., et al. (2020) Dietary fructose feeds hepatic lipogenesis via microbiota-derived acetate. Nature, 579, 586–591.

著者紹介Author Profile

清水 秀憲(しみず ひでのり)

京都大学大学院生命科学研究科 共同研究員.博士(薬学).

略歴

2006年神戸薬科大学卒業.2023年同大学院薬学研究科博士課程修了.18年より東京農工大学大学院農学研究院を経て2020年より現所属機関にて,食と腸内細菌代謝産物による短鎖脂肪酸受容体を介した宿主恒常性制御機構について研究中.

研究テーマと抱負

腸内細菌や腸内細菌が作り出す代謝産物に着目し,肥満や2型糖尿病に代表される生活習慣病に対する新たな機能性食品の開発や宿主の受容体を標的とした創薬応用に展開できるよう,日々研究を進めている.

ウェブサイト

https://www.biosystem.lif.kyoto-u.ac.jp/index.html

趣味

旅行,スポーツ観戦

This page was created on 2025-08-28T13:41:11.144+09:00
This page was last modified on 2025-10-06T14:09:00.000+09:00


このサイトは(株)国際文献社によって運用されています。