2. 両親媒性αヘリックスを含むタンパク質の代表的なドメイン構造
では,どのようなタンパク質に両親媒性αヘリックスが存在するのか? これまでの研究報告を調べると,短いペプチドから膜タンパク質まで,さまざまなタンパク質に両親媒性αヘリックスが存在する(図2).以下に,タンパク質のドメイン構造パターンに従い,グループごとに分けて概説する(表1).
表1 代表的な両親媒性αヘリックス |
| これまでに報告のある両親媒性αヘリックスのうち,代表的なものを局在するオルガネラごとにまとめたもの.全電荷,PheとTrpの合計数,(GlyとSer, Thrの合計数)/アミノ酸鎖の長さなどのパラメーター値は,両親媒性αヘリックスの配列情報をもとにPythonを使って算出した25).グループによっては,いくつかのパラメーター値に特徴があることがわかる.たとえば,抗菌ペプチド関連やミトコンドリアターゲット配列関連,形質膜関連は,全電荷が正に帯電しているものが多い.ALPSモチーフは(GlyとSer, Thrの合計数)/アミノ酸鎖の長さの値が大きく,過去の報告どおり,これらのアミノ酸残基が多く含まれることを反映している6).リソソームの膜損傷を感知する両親媒性αヘリックスは,ほかのものと比べて配列が非常に長く,連続した両親媒性αヘリックスから構成される.ヒトATG3の両親媒性αヘリックスはオートファジー関連の中でも,全電荷が0であり,PheとTrpの合計数が少ないというユニークな特徴があることがわかる25).AH:両親媒性αヘリックス,PM:形質膜,ER:小胞体,LD:脂肪滴,MTS:ミトコンドリアターゲット配列,11/3ヘリックス:11アミノ酸あたり3回転するタイプの両親媒性αヘリックス,AIM:Atg8-interacting motif, LIR:LC3-interacting region, PS:ホスファチジルセリン,PA:ホスファチジン酸,PI:ホスファチジルイノシトール,PIPs:ホスホイノシチド,CL:カルジオリピン,DAG:ジアシルグリセロール,CDP-DAG:CDP-ジアシルグリセロール,TG-rich LDs:トリグリセリドが豊富に存在する脂肪滴,CD:円二色性スペクトル,NMR:核磁気共鳴,GUV:giant unilamellar vesicle, SLB:supported lipid bilayer, AH置換:AH部分を他のAHに置換したキメラ作製による機能解析実験. |
1)両親媒性αヘリックスのみ
ハチ毒主成分のMelittinや抗菌ペプチドLL-37などの膜障害性ペプチドは,両親媒性αヘリックスのみからなる単純な構造である(図2左).大量のペプチドが膜と結合して深部まで入り込むことで,小さな穴を形成する.その結果,膜透過性が上昇し,致死的な膜損傷を引き起こす10, 15).これらの膜障害性ペプチドの多くは正に帯電していることから(表1,「抗菌ペプチド関連」を参照),細胞表面が負に帯電している細菌の細胞膜に優先的に作用することが知られている(Shai-Matsuzaki-Huangモデル)16).
2)可溶性タンパク質
膜損傷型の両親媒性αヘリックスを除くと,可溶性タンパク質の両親媒性αヘリックスは単独ではなく,ほとんどがほかのドメインやモジュールと連動して機能する.実際,可溶性タンパク質の多くは両親媒性αヘリックスを介して膜と結合すると同時に,他の分子と複合体を形成したり,またヘテロ/ホモ二量体や多量体を形成したりする(表1,「ドメイン構造」の列を参照)17–19).Atg8-interacting motif(AIM)やLC3-interacting region(LIR),FFATモチーフといった膜上に存在する分子と結合するドメインやモチーフを持つものも存在する20–22).これらの分子では,両親媒性αヘリックスを介した膜結合が,複合体の形成や多量体化により増強されたり,タンパク質間の相互作用と協調的に機能したりしていることが多い.
また,脂質代謝や脂質化反応に関わる酵素などでは,両親媒性αヘリックスが基質認識部位の近傍に位置している.膜上で生じる基質認識と酵素反応が密接に連動することで,基質依存的な酵素活性の制御や生成物/最終産物によるネガティブフィードバックなどが可能になっている23–26).両親媒性αヘリックス領域が翻訳後修飾を受けるものもあり,ミリストイル化やパルミトイル化,アセチル化などにより膜結合能が促進される(表1,「翻訳後修飾」の列を参照)27–31).一部の両親媒性αヘリックスでは,リン酸化により膜結合能が負に制御されることも明らかになっている32, 33).
3)膜貫通タンパク質
膜貫通タンパク質にも両親媒性αヘリックスを有するものが多く存在する(表1,「ドメイン構造」の列を参照).ヘアピン型膜貫通タンパク質Reticulonや2回膜貫通タンパク質Atlastinは小胞体膜に局在する分子であるが,いずれもC末側に両親媒性αヘリックスを有しており,小胞体膜の細胞質側(cytosolic face)と結合している(図2下)34, 35).形質膜に局在する2回膜貫通タンパク質であるNINJ1の場合はN末側に両親媒性αヘリックスを有しており,細胞膜の外層(extracellular face)と結合している(図2上)36).1回膜貫通タンパク質でも両親媒性αヘリックスを有しているものが存在する.たとえば,核膜タンパク質Sun2は核内膜(inner nuclear envelope)に局在し,膜貫通領域のN末側にある両親媒性αヘリックスが核質側(nuclear face)と結合する(図2左下)37).酵母Ire1の場合は,両親媒性αヘリックスが膜貫通領域と一部重なるユニークなタイプであるが,その領域を介して小胞体膜の内腔側(luminal face)と結合している(図2下)38).このように膜タンパク質では,自身が局在する膜と結合する場合が多い.ただし,結合する膜は必ずしも細胞質側に限定されず,内腔側や細胞膜外層など,さまざまな面から膜と結合する.
一方で,自身が局在する膜とは異なる膜構造と結合する両親媒性αヘリックスを有している膜タンパク質も存在する.小胞体膜に局在するIce2やMOSPD2は,両親媒性αヘリックスを介して脂肪滴と結合する39, 40).Atg39は核外膜(outer nuclear membrane)に局在する1回膜貫通タンパク質であり,その両親媒性αヘリックスは核内膜(inner nuclear membrane)の内腔側(luminal face)と結合する(図2左下)41).これらの分子は両親媒性αヘリックス依存的な膜結合を介して,オルガネラ膜が近接したコンタクトサイト領域で機能しているものと考えられる.
4)ミトコンドリア移行シグナル
ミトコンドリアマトリクスに輸送されるシグナル配列MTS(mitochondrial targeting signal)も両親媒性αヘリックスの性質を有しており,親水性側領域には正に帯電したアミノ酸残基が多い(表1,「ミトコンドリア関連」を参照)42–44).MTSはミトコンドリア外膜の膜透過装置であるTOM(translocator of the outer membrane)複合体の受容体であるTom20と相互作用し,ミトコンドリアへと標的化される.MTSをもつ前駆体タンパク質はその後,マトリクスへと到達し,MPP(mitochondrial processing peptidase)によってMTS部分が切断され,最終的に成熟タンパク質となる.MTSの正電化アミノ酸はTom20の近傍に位置するTOM複合体のサブユニットTom22によって認識されると考えられている.このように,これらの両親媒性αヘリックスは膜ではなく,Tom20/Tom22複合体と結合するシグナル配列として機能する45, 46).一方で,MTSがミトコンドリア外膜に直接結合することで前駆体タンパク質のアンフォールディングを促進するという報告もある47).
5)球状タンパク質とイオンチャネル
ミオグロビンやヘモグロビンなどの球状タンパク質は主にαヘリックスから構成される分子であるが,そのほとんどが両親媒性であることが知られている48).親水面を外側に,疎水面を内側に向けることで,エネルギー的に安定な構造をとっているものと考えられる.またアセチルコリン受容体などのイオンチャネルも両親媒性αヘリックスを有しており,疎水面を介して膜を構成する脂質分子と疎水性相互作用をしつつ,親水面を中心に向けることで,水溶性のイオン分子が通過するポアを形成する49, 50).最近では,両親媒性αヘリックスの領域を人工的に改変したイオンチャネルやナノポア技術への応用に関する報告もあり,注目されている51–53).
両親媒性αヘリックスを解析する代表的な手法を概説する.まず最も簡便な手法として,Gautierらによって開発されたHELIQUEST webserver54)に対象のアミノ酸配列をクエリとして入力し,両親媒性αヘリックスの候補領域を探索する方法がある.もし解析したいクエリ配列が多数存在する場合は,公開されているPython codeを利用すると解析を短縮できる25, 55).候補領域を絞ったら,次に実験に基づく検証を行う.一般的には,両親媒性αヘリックスの候補領域のペプチドを化学合成し,in vitroで実際に膜と結合するかどうか解析する.多くの両親媒性αヘリックスは水溶液中では構造をとらず,膜結合依存的にαヘリックス構造をとるため,リポソーム共存によるαヘリックス構造の増加を円二色性(circular dichroism:CD)スペクトルや核磁気共鳴(nuclear magnetic resonance:NMR)により解析する.また,αヘリックスの構造情報は得られないが,疎水環境依存的なトリプトファン蛍光特性の変化や蛍光色素NBDの蛍光強度の増加を利用したメソッドは定量性が高く,膜結合能の評価方法としては非常に有用な手法である6, 56).異なる炭素位にドキシル基を持つPCを用いたトリプトファン蛍光の消光実験により,両親媒性αヘリックスが膜結合時に,どの程度の深さまで挿入されているかを評価することもできる35, 57).合成ペプチドが凝集してしまい,可溶化できないこともあるので,そのような場合はタンパク質ドメインの全長を用いた解析が行われる.両親媒性αヘリックス領域を含むリコンビナントタンパク質を精製し,リポソーム共存下でのco-sedimentation(リポソーム共沈実験)やmembrane flotation(フローテーション法)などにより,膜結合画分を生化学的に解析することで評価する6, 56).giant unilamellar vesicle(GUV)やsupported lipid bilayer(SLB)を用いた手法もあり,GFPなどの蛍光タンパク質を付加したリコンビナントタンパク質とインキュベートし,光学顕微鏡により観察する.これらの手法では膜結合能だけでなく,膜変形作用なども評価することができる58–60).また,トリオレインで作製した人工脂肪滴と両親媒性αヘリックスとの結合を解析する手法も開発されている61–64).
一方で,これらは人工膜や人工脂肪滴を使ったin vitroでの解析であり,生体内に存在する複雑な膜脂質環境を完全には反映していない可能性がある.そこで,細胞内での膜局在を指標にするというアプローチも頻繁に用いられる.具体的には,両親媒性αヘリックスを含むタンパク質(野生型)と,その両親媒性αヘリックスの疎水性側領域にアラニン(Ala)や親水性アミノ酸を導入したもの(変異体)をGFP融合タンパク質として発現させて,両親媒性αヘリックス依存的な膜局在への影響を調べる65, 66).解析対象によっては,両親媒性αヘリックス領域のみで解析する場合,その膜結合能が弱く,十分な膜局在能が観察されないこともある.そのような場合はコイルドコイル領域を付加し,人工的に二量体化させるという方法も有用である24, 67).
分子動力学(molecular dynamics:MD)シミュレーションによる両親媒性αヘリックスの解析も盛んに行われており,膜上でのダイナミックな挙動や,脂質分子と結合するアミノ酸残基の予測など,詳細な情報が得られるようになってきている14, 24, 38, 68, 69).計算に基づくin silico解析ではあるが,特定の脂質分子とアミノ酸残基との距離に関する情報やその時間依存的な変化を解析できるという点は,他の手法にはない強みである(図3A, B).
最近では,機械学習を用いた両親媒性αヘリックスの解析も進んでいる.両親媒性αヘリックスはアミノ酸鎖の長さが比較的短いものが多いため,ホモログ分子でも生物種が異なると配列類似性が著しく下がってしまい,共通した特徴を見いだしにくい.そのような場合には,主成分分析などの教師なし機械学習が効果的であり,特定の分子の両親媒性αヘリックスに共通して保存されている特徴量を見いだすことができる(図3C, D)25).また,深層学習を用いた両親媒性αヘリックスの予測アルゴリズムも開発が進んでおり70, 71),最近報告されたMemBrain(http://www.csbio.sjtu.edu.cn/bioinf/MemBrain/)などを使うことで,以前よりも効率的に両親媒性αヘリックスの候補領域を絞ることも可能になってきている72).
両親媒性αヘリックスが果たす役割は多岐にわたるが,基本的な機能はいずれも膜結合に起因する(図1).しかし,その膜結合が生じる分子メカニズムの違いや結合強度の強弱によって,膜への影響はさまざまである.ここでは,これまでに報告されている生理機能をいくつかの代表的なグループに分けて概説する.
1)電荷依存的な膜結合
膜融合に関わるSNARE分子の一つであるSpo20やエンドサイトーシスに関与するEpsin1, N-BARドメイン(Amphiphysin, Endophilin A1),オーキシン初期応答因子SAUR63などの両親媒性αヘリックスは,いずれも形質膜と結合するが,疎水度が低く,正に強く帯電しているという特徴がある(表1,「形質膜関連」を参照).形質膜の細胞質側にはホスファチジルセリン(PS)やPA,ホスファチジルイノシトール4,5-ビスリン酸(PI4,5P2)など,負電荷を帯びた酸性リン脂質分子が多いため,電荷依存的な静電相互作用を介して膜と結合していると考えられる17, 67, 73–79).
2)膜曲率依存的な膜結合
膜曲率センサーとして機能する両親媒性αヘリックスは非常に多くのものが存在し,AntonnyとDrinらの先駆的研究により,その重要な役割が明らかにされてきた7, 80).COPI小胞のコートマータンパク質の膜からの解離には,ArfGAP1の膜曲率依存的なArf1-GTPに対するGTPase活性が関与しており81),ArfGAP1が有する両親媒性αヘリックスが膜曲率を感知し,GTPase活性に膜曲率依存性があることが明らかになった56).その後の解析から,GMAP210やKes1, Nup133など,他の分子にも膜曲率を感知する両親媒性αヘリックスが存在することが報告され,ALPS(ArfGAP1 lipid packing sensor)モチーフと命名された(図2上).これらのALPSモチーフはほかの両親媒性αヘリックスと比較して,親水面側に位置する塩基性アミノ酸の数が非常に少なく,その代わりにグリシン(Gly),セリン(Ser),トレオニン(Thr)の割合が多い(表1,「(GlyとSer, Thrの合計数)/アミノ酸鎖の長さ」の列を参照).その物理化学的な特徴から,静電相互作用ではなく,疎水面による疎水性相互作用に依存した弱い膜結合を示す.このような状況下においては,膜が曲がることによって形成されるpacking defectが結合に必要なエネルギー障壁を下げ,膜結合を促進しているものと考えられる6, 82).α-シヌクレインが有する両親媒性αヘリックスも同様に膜曲率依存的な膜結合を示すが,ALPSモチーフとは異なる性質を示し,膜との結合にはPSなどの負電荷を帯びた酸性リン脂質が必須である83).これはα-シヌクレインの両親媒性αヘリックスの親水面が弱く正に帯電しており,かつ疎水面領域のかさが小さいという物理化学的な特徴に起因するものと考えられる(表1,「α-シヌクレイン」を参照)84).一方で,曲率が低い膜構造と結合するものも存在し,Septin分子(SEPT6, Cdc12 etc)やSpoVMなどの両親媒性αヘリックスは直径がマイクロメートルサイズの膜と優先的に結合することが知られている18, 85–87).しかしながら,これらの両親媒性αヘリックスが曲率の低い膜に対して,どのように選択性を示しているのか,詳細な分子メカニズムはまだよくわかっていない.
3)脂質環境感知
脂質組成の変化を感知するセンサーとして機能する両親媒性αヘリックスもさまざまなものが存在する.酵母Opi1はFFATモチーフを介して小胞体膜タンパク質Scs2との結合により小胞体膜に局在しているが,両親媒性αヘリックスが小胞体膜の細胞質側に分布するPAの量を感知する脂質センサーとしての機能を果たしている68).Spo20の両親媒性αヘリックスは,選択的にPAと結合するという知見から78),PAに対する脂質プローブとして利用されることがある88, 89).最近では,ミトコンドリアの外膜に局在するNME3や内膜に局在するTam41由来の両親媒性αヘリックスがPAと優先的に結合することが報告されている90, 91).しかしながら,これらのPAと結合する両親媒性αヘリックスはin vitroではほかの酸性リン脂質とも結合する可能性があることから,選択的なPAプローブとしての利用には慎重な検討が必要と考えられる67).
生体膜上のpacking defectを感知する両親媒性αヘリックスも多く存在する.たとえば,核膜タンパク質Sun2の両親媒性αヘリックスはDAGの量依存的に生じるpacking defectを感知することで核膜と結合する.これによりSun2が核膜にとどまることが可能となり,プロテアーゼ依存的な分解を回避している37).また,小胞体ストレス応答に関与する酵母のIre1では,膜貫通領域の直前に位置する両親媒性αヘリックスが脂肪酸鎖の不飽和度の変化を感知することで,飽和脂質依存的な小胞体ストレス応答を誘導する38).前述のALPSモチーフも曲率依存的な膜結合だけでなく,packing defect依存的な膜結合を示すことも報告されている12, 14, 92).
コレステロールは主要な生体膜構成脂質成分の一つであるが,コレステロールが増加するとリン脂質分子間の隙間が埋まり,lipid packingが促進することが知られている93).このlipid packingの変化を利用して,小胞体膜上のコレステロール量の増加を感知する両親媒性αヘリックスも存在する26).その一方で,一部の両親媒性αヘリックスでは,ステロール依存的な膜結合能の増強が報告されている.たとえば,抗ウイルス作用を有するIFITM394, 95)やインフルエンザウイルスのM2タンパク質96, 97)が有する両親媒性αヘリックスはステロールとの直接的な結合が示されている.ホスファチジルイノシトールリン脂質キナーゼPIP5Kの両親媒性αヘリックスに関しては,PSやホスファチジルイノシトール4-リン酸(PI4P)などのほかの酸性リン脂質とともに,形質膜上のステロール量を感知している(図3A, B)24).これらの両親媒性αヘリックスでは,フェニルアラニン(Phe)やトリプトファン(Trp)などのアミノ酸残基とステロールの結合が示唆されており,これらが膜上での両親媒性αヘリックスを安定化しているものと考えられる.
興味深いことに,両親媒性αヘリックスが脂肪滴表面のリン脂質層に存在するpacking defectだけでなく,中性脂質から構成される脂肪滴内部の脂質組成の違いを感知している可能性も報告されている.具体的には,脂肪滴に局在するトリグリセリド分解酵素であるTld1の両親媒性αヘリックスは,脂肪滴表面のpacking defectの差異から,脂肪滴内部の脂質組成の違いを感知し,ステロールエステルが豊富に存在する脂肪滴(SE-rich LDs)に比べて,トリグリセリドが豊富に存在する脂肪滴(TG-rich LDs)に優先的に結合すると考えられる61, 98).
4)膜変形作用
両親媒性αヘリックスの中には,膜変形作用を示すものも多く存在する.これらの両親媒性αヘリックスは膜と結合する際に,くさびのように脂質分子の間に深く入り込む7, 99, 100).in vitro系の実験では,脂質に対するタンパク質の割合を増加することで,その効果が増強されることから,微小領域にどのくらいの量の両親媒性αヘリックスが結合するかという点も,膜構造の変形に重要なパラメーターの一つであると考えられる.代表的なものとして,Endophilin A1やAmphiphysinなどのN-BARドメイン,Epsin, Sar1に存在する両親媒性αヘリックスなどがあげられる73–77, 101).これらはいずれも小胞輸送に関与する分子であり,曲率の高い膜構造を形成したり,くびれを切断したりすることが重要な役割を果たしていると考えられる.インフルエンザウイルスのM2タンパク質(IAV-M2)やブロムモザイクウイルスの1a replicase(BMV1a)などのウイルス関連タンパク質に存在する両親媒性αヘリックスも膜変形作用があることが知られており,ウイルスのゲノム複製や出芽に関与する(表1,「ウイルス関連」を参照)96, 102–105).最近では,タンパク質間の相互作用に関与するAnkyrin repeat(ANK)domainの近傍に位置する両親媒性αヘリックスによる膜変形作用も報告されている106, 107).
小胞体の膜構造形成に関与する分子も機能的な両親媒性αヘリックスを有している(表1,「小胞体関連」を参照).たとえば,Reticulonでは小胞体膜のチューブ構造形成が促進され34, 108, 109),REEP1ではER由来の小胞形成110),Yop1(REEP5の酵母ホモログ)ではチューブルやミセル形成が誘導され111),またAtlastinでは脂質二重膜環境を不安定化することで,小胞体膜の膜融合が促進されると考えられている35, 112).ペルオキシソームの分裂に関与するPex11も膜のチューブ構造形成を促進する両親媒性質αヘリックスを有している(表1,「ペルオキシソーム関連」を参照)113).
5)膜/脂肪滴保護作用
オルガネラ膜を安定化させる両親媒性αヘリックスに関する報告もある.酵母細胞では熱ストレス条件下において,熱ショックタンパク質の一つであるHsp12の発現が誘導される.このHsp12は両親媒性αヘリックスを有しており,その領域を介して形質膜に局在化することで,膜を安定化させていると考えられる114).
脂肪滴の表面は,主にホスファチジルコリン(PC)やPEなどのリン脂質から構成される単層で覆われており,脂質二重層であるほかのオルガネラ膜に比べてpacking defectが多い膜脂質環境である115–117).そのため,PerilipinやCIDEAなどの一部の分子は,両親媒性αヘリックスを介して脂肪滴表面に局在する(図2右;表1,「脂肪滴関連」を参照)118–120).中でも,Perilipin3やPerilipin4はリン脂質不足により脂質単層が不足している領域をカバーすることで,脂肪滴を安定化しているものと考えられている121, 122).構造の類似性から,リポタンパク質の構成因子であるアポリポタンパク質も同様の機能があることが予想されるが,今後の詳細な検証が必要であると考えられる5, 123).また,Perilipin分子は五つ存在するが,必ずしも同一の脂肪滴ではなく,分子によって異なる脂肪滴に局在することが以前から知られていた.最近の研究から,この局在の違いはPerilipin分子に存在する両親媒性αヘリックスの疎水面側のアミノ酸組成の違いに起因することも明らかになってきた124).
一般的な両親媒性αヘリックスが3.6アミノ酸残基で1回転(すなわち,18残基で5回転)するのに対し,脂肪滴に局在する両親媒性αヘリックスやアポリポタンパク質は,3.67アミノ酸残基で1回転(すなわち,11残基で3回転)する11/3ヘリックスのものが多いという特徴がある(表1,「AHの特徴」の列を参照).
6)膜損傷作用
膜損傷作用を示すペプチドは,その膜損傷活性を指標に生化学的手法で単離されてきた.Melittinはミツバチの毒,Magaininはアフリカツメガエルの皮膚,Mastoparanはスズメバチの毒,LL-37はヒト由来の細胞から単離されたものであり,膜結合依存的に両親媒性αへリックスを形成し,膜に小孔を形成することで,膜透過性を上昇させる16).膜脂質組成への感受性は,少しずつペプチドによって異なっており,膜損傷メカニズムの分子メカニズムに関してもいくつか異なる分子モデルが提案されている10).細胞溶解性プログラム細胞死であるパイロトーシスに必要な分子NINJ1は2回膜貫通タンパク質であり,刺激に依存してオリゴマーを形成し,細胞膜に穴を開けるが,その際に両親媒性αヘリックス領域が必要であることが示されている36).しかしながら,ここで両親媒性αヘリックスがどのように機能しているのかについては不明な点が多く,今後さらなる詳細な解析が必要であると考えられる125, 126).
7)膜損傷感知
膜損傷を感知する両親媒性αヘリックスが存在することも報告されている(表1,「リソソーム関連」を参照).リソソーム膜の膜損傷を誘導した条件下において,Bridge-like lipid-transport protein familyに属する脂質輸送タンパク質であるATG2AとVPS13Cは損傷リソソームに局在する(図2右下)127, 128).これらの分子はC末側にATG2Cドメインと呼ばれる四つの連続した両親媒性αヘリックスからなる領域を有しており129),その領域を介して損傷リソソーム膜に局在し,脂質を供給することで膜損傷の修復に寄与しているものと考えられる127, 128).ATG2Aの場合は,リソソーム膜の膜損傷依存的に引き起こされたPSの増加を両親媒性αヘリックスが感知することでATG2Aをリソソーム膜へリクルートしているというモデルが出されているが127),VPS13Cに関しては,ターゲットとなる膜脂質分子はまだよくわかっていない128).ATG2AとVPS13Cのいずれも両親媒性αヘリックスを介した膜局在であることから,膜損傷によって引き起こされたpacking defectなどの脂質環境の変化を直接感知しているものと考えられる.また最近,脂肪滴の代謝に関与するSPG20/Spartin130, 131)も損傷リソソームに局在することが報告された.興味深いことに,このSPG20の膜局在にも四つの連続した両親媒性αヘリックスからなる領域が必要であることが示されている132).ATG2AとVPS13C, SPG20による損傷リソソーム膜局在は,いずれも連続した両親媒性αヘリックスからなる領域を介したものであり,かつ脂肪滴にも局在する類似した特徴があることから65, 131, 133),これらの損傷リソソーム膜への局在が共通した分子機構であるのかどうか,今後の詳細な検証が待たれる.
オートファジーは代表的な細胞内分解機構の一つであり,ダイナミックな膜動態を伴う生命現象である.直径50 nm程度のATG9小胞が種となり,扁平な隔離膜構造を介して,最終的には0.5~1 µm程度の二重膜構造であるオートファゴソームになるが,その形成過程では脂質輸送や脂質化反応,膜変形など,膜上でさまざまな現象が生じている134–136).これまでの研究から,オートファジーに関係する多くの分子に両親媒性αヘリックスが存在することが明らかになっている(表1,「オートファジー関連」を参照).オートファゴソーム形成において重要なATG8脂質化反応に関わるATG3137)やATG16L119, 138),ホスファチジルイノシトールリン脂質PI3キナーゼ複合体の構成因子であるVPS34139, 140)やATG14L141, 142),小胞体からオートファゴソームへの脂質輸送に関与するATG2A65)やWIPI2B33)などが両親媒性αヘリックスを有している.Atg14を除くすべての分子の酵母ホモログにおいて同様の両親媒性αヘリックスが存在していることも示されており,生物種を超えて保存されている66, 143–145).in vitroでのリポソームを用いた実験から,ほとんどの分子が膜曲率の高い,直径の小さなリポソームほど結合しやすく,かつ高い酵素活性を示すことから,いずれも膜曲率センサーとして機能しているものと考えられる.
その一方で,ATG3が有する両親媒性αヘリックスは,ユニークな特徴があることも明らかになってきた.ATG3はATG8タンパク質脂質化の最終ステップに関与する分子であり,ATG8タンパク質をオートファゴソーム膜上のPEに受け渡すことで,ATG8-PEの形成を促進する分子である.このATG3はN末端の両親媒性αヘリックスを介してオートファゴソーム膜と相互作用するが,他のATG分子由来の両親媒性αヘリックスと置換したキメラATG3分子を作製したところ,ATG8-PEの形成が著しく阻害されてしまうことがわかってきた.それに対し,酵母などのほかの生物種ATG3分子由来の両親媒性αヘリックスを有するキメラATG3分子ではATG8-PEが形成されることから,ATG3に存在する両親媒性αヘリックスはATG3分子に特有の機能を持っており,それが生物種を超えて保存されていることが示された.教師なし機械学習などを用いたその後の詳細な解析から,一般的な両親媒性αヘリックスと比べて,ATG3の両親媒性αヘリックスはかさが小さく(表1,「PheとTrpの合計数」の列を参照),かつ疎水性が低いという特徴を有していることが明らかになった(図3C, D).おそらく,この“弱い膜結合”が効率的なATG8脂質化反応サイクルに寄与しているのだろうと考えられる25).
また最近の研究から,選択的オートファジーにおいて機能する分子も両親媒性αヘリックスを有していることがわかってきており,FAM134B69),Atg20146),Atg3941),Atg44147, 148),Atg45149),Yep1150),Hab120)などに関する報告がある.これらの分子の多くが,チューブル化や膜切断などの膜変形作用や,エッジ部分の膜安定化作用151)などを示しており,両親媒性αヘリックスが重要な役割を果たしている.