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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 97(5): 661-665 (2025)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2025.970661

みにれびゅうMini Review

転写因子SoxCとメタロプロテアーゼMmpRegのヤマトヒメミミズ再生芽形成における役割SoxC and MmpReg promote blastema formation of potworms Enchytraeus japonensis

帝京大学薬学部Faculty of Pharmaceutical Sciences, Teikyo University ◇ 〒173–8605 東京都板橋区加賀2–11–1 ◇ 2–11–1 Kaga, Itabashi-ku, Tokyo 173–8605, Japan

発行日:2025年10月25日Published: October 25, 2025
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1. はじめに

ヒトは,事故や怪我などで失われた器官を再生することができない.一方,小さな断片から全身を再生できるほど高い再生能力を持つ動物も存在する.なぜ動物種によって再生能力に大きな違いがあるのか——その答えは,現時点では「わかっていない」というのが実情である.さまざまな動物における再生現象について,その細胞・分子基盤を解明することで,動物間の再生能力の違いが何に起因するのかを浮き彫りにできると考えられる.

筆者らは,高い再生能力を持つヒメミミズ(potworm)に着目した.一般に「ミミズ」と聞くと,雨の後に地表に現れる,数センチ程度の大きさのフトミミズを思い浮かべるかもしれない.一方,ヒメミミズは,大きさは1 cmほど(図1A)で,鉢植えによくみられる小型のミミズ類である.ヒメミミズ属を示す学名Enchytraeusは,ギリシャ語のen(=“in”)とchytra(=“pot”)に由来する1).ヒメミミズを含む環形動物は,一般に優れた再生能力を持つことが古くから知られており,輪切りにされると,その切断端には「再生芽」と呼ばれる未分化な増殖細胞の塊が形成され,失われた器官を再生する材料として利用される2)図1B).再生芽の形成は,器官再生においてきわめて重要な初期イベントの一つである.およそ130年前に行われたオヨギミミズの仲間を使った研究から,切断端には細胞が集まり,再生芽が形成されると考えられてきた3)が,「どのような細胞がどこから再生芽に集まってくるのか?」は,不明のままであった.本稿では,筆者らが国産のヒメミミズを用いて,この130年来の謎に取り組み,明らかにした最近の研究成果4)について紹介する.

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図1 ヤマトヒメミミズと再生芽形成

(A)ヤマトヒメミミズ写真.全長約1 cm.(B)ヤマトヒメミミズの再生.ナイフで切断することにより,体の断片から全身を再生する.切断後,傷口は速やかに塞がり,増殖の盛んな未分化細胞の塊(「再生芽」)が形成される.「再生芽」は,再生器官の材料となる.

2. 再生モデル動物としてのヤマトヒメミミズ

ヤマトヒメミミズ(Enchytraeus japonensis Nakamura 1993)5)は,1993年に日本で報告されたヒメミミズの一種である.その後,本邦で再生研究の実験モデルとして開発されてきた6, 7).実験室では,24°Cに保たれた寒天プレート上で,オートミール粉末をエサとして容易に飼育することができる.体長は約1 cmと小型で,取り扱いやすいのが特徴である.成長すると,体をいくつかの断片に分ける無性生殖によって増殖する.また,飼育条件によっては有性生殖を行わせることもできる.体表は白っぽく,半透明であるため,内部の脳・咽頭・精巣・卵巣・腸・神経索などの複雑な構造が観察できる.ヤマトヒメミミズは輪切りにされると,24時間で再生芽の形成を完了し,4日間で完全な再生を遂げる(図1B).このような特徴から,ヤマトヒメミミズは再生芽形成の細胞・分子基盤を研究する上で,きわめて優れたモデル動物であるといえる.

3. ヤマトヒメミミズ再生芽形成で発現上昇する遺伝子の同定

ヤマトヒメミミズの再生芽形成過程における細胞・分子基盤を理解するために,再生芽で発現上昇する遺伝子の同定を試みた.再生芽を解剖により分離することは困難であるため,ヒメミミズを多くの断片に切断することにより,サンプル中の再生芽を濃縮する方法を考案した.具体的には,八つの断片に分けたグループ,三つの断片に分けたグループ,および切断していないグループを用いて,de novoトランスクリプトーム解析を行った.その結果,三つの断片に分けたグループよりも,八つの断片に分けたグループで発現上昇していた278個の遺伝子[differentially expressed gene(DEG)リスト]を特定した.これらの中から二つの遺伝子に注目した解析結果を,以下に記す.

4. soxCの再生芽形成における機能解析

まず,筆者らは,細胞のアイデンティティの確立や維持に関与することが多い転写因子に注目した.DEGリストのうち,最も発現上昇していた転写因子は,SOXCサブファミリーに属していたことから,この遺伝子をEj-soxCと名づけた(以下soxCと呼ぶ).soxCが再生芽形成に関与しているかどうかを調べるために,RNA干渉を用いた機能解析系を確立した.ヒメミミズを96穴プレートに入ったdsRNA溶液に24時間浸した後,切断し,定量PCR解析を行った(図2A).soxC dsRNAで処理した個体は,陰性対照であるGFP dsRNAで処理した個体と比べ,soxC発現のレベルが40%減少した.このようなsoxC RNA干渉により,切断後6, 24時間で再生芽の大きさと再生芽の細胞数を検討したところ,再生芽が小さくなり,細胞数は大幅に減少した(図2B).この結果は,soxCが再生芽形成に必要であることを示している.

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図2 ヤマトヒメミミズsoxCmmpRegは再生芽形成を促進する

(A)RNA干渉のスキーム.96穴プレートに入ったdsRNA溶液にヒメミミズを24時間浸した後,切断し,定量PCR解析,表現型の解析を行う.餌に混ぜて食べさせることでもRNA干渉を行うことができる.(B)soxC RNA干渉による再生芽形成への影響.切断24時間後.再生芽が小さくなった.(C)再生断片を用いたISHによるsoxC発現解析.(C′)図Cの囲み部分を拡大した.(D)mmpReg RNA干渉による再生芽形成への影響.切断24時間後.再生芽が小さくなった.(E)再生断片を用いたISHによるmmpReg発現解析.(F)再生芽形成と細胞増殖.(G)アフリカツメガエル幼生の尾の再生におけるsoxC.(B~E)破線で切断端を示した.(B, D)ブラケットは再生芽の大きさを示した.(A~E)文献4より改変.

次に,再生芽形成過程において,soxCの役割を理解するために,再生断片の切片を作製し,in situ hybridization(ISH)を用いて発現パターンを解析した.切断直後にはsoxC発現細胞は検出されず,切断3時間後から,切断端近くの体壁近傍でsoxC発現細胞が検出された.切断5時間後,soxC発現細胞が前後の再生芽でともに検出され,徐々に再生芽に蓄積するようにみえた.切断24時間後では,soxC発現細胞の占める領域は,再生芽の大部分に相当した(図2C).さらに,体壁近傍でみられたsoxC発現細胞の形は広がって平らであった(図2C′).本形状は,移動する細胞に典型的なものであり,体壁近傍のsoxC発現細胞は遊走細胞である可能性がある.

5. メタロプロテアーゼmmpRegの再生芽形成における機能解析

次に,再生芽形成を支える分子基盤を理解するため,再生芽で発現上昇した遺伝子のpathway解析を行った.その結果,ECMリモデリングの再生芽形成への関与が示唆された.そこで,DEGリスト中から見いだされた発現上昇35.8倍のマトリックスメタロプロテアーゼ(Mmp)の遺伝子に注目した.以下に述べるように,再生(regeneration)に必要なことから,このmmpmmpRegと命名した.再生断片の切片を作製し,mmpRegの発現パターンを解析したところ,切断後1時間では発現細胞は検出されなかったが,5時間後から再生芽で発現が検出された(図2E).次に,mmpRegが再生芽形成と関わるかどうか,RNA干渉を用いて検討したところ,切断後6, 24時間で再生芽のサイズが小さくなり,細胞数が減少した(図2D).この結果は,mmpRegが再生芽形成に必要であることを示している.mmpRegsoxCのRNA干渉による表現型が似ていたため,soxCmmpRegの間に遺伝子発現の相互作用があるかどうかRNA干渉を用いて検討した.その結果,soxCmmpRegは互いに遺伝子発現の相互作用は検出されず,独立の再生イベントに関わっていると考えられた.今後は,MmpRegが分解する生体内の基質タンパク質を同定することで,再生における機能をより具体的に明らかにできると考えられる.

6. 再生芽形成と細胞増殖

再生芽は,増殖が盛んな未分化細胞の塊である2).次に,ヤマトヒメミミズの再生芽形成の過程を明らかにするため,DAPIによる細胞数のカウントと,核酸アナログEdUを使用したパルスチェイスを組み合わせた解析を行った.切断後8時間までは,切断端に一定量の細胞が検出されたが,増殖細胞はほとんど検出されなかった.切断24時間後では,切断端に多くの細胞が検出され,そのうち60%の細胞にEdUが取り込まれたことから,大部分の細胞が増殖していることが確認され,再生芽形成が完了したことが示された.この結果から,切断後8時間では,切断端に存在する細胞は増殖ではなく,どこかから供給されることで賄われたことを強く示唆している(図2F).一方,soxC発現細胞は,切断後3時間もしくは5時間で再生芽において検出され始めたことから,soxC発現細胞が,切断後8時間までは,再生芽にどこからか供給され,蓄積したことを強く示唆している(図2F).そこで,soxCの機能が細胞増殖と関わっているのか,RNA干渉により検討した.切断後8時間後では,再生芽の細胞数は減少したが,EdUを取り込んだ増殖細胞数に影響はなく,切断24時間後では,再生芽の細胞数,増殖細胞数ともに減少していた.これらの結果は,切断後8時間までは,soxCは細胞増殖に必要ではなく,再生芽に細胞がどこからか供給され蓄積するのに必要であることを示している.また,その後24時間まで,細胞増殖にも関わっていることを示している(図2F).

7. アフリカツメガエル幼生の尾(しっぽ)の再生におけるsoxC

ヤマトヒメミミズで得られた結果から,再生芽形成におけるsoxCの必要性が明らかとなった.これはほかの動物ではどうなのか? soxCは動物種を超えて広く保存されている8)soxCファミリーは多くの無脊椎動物ではsoxCのみから構成されており,多くの脊椎動物ではsox4, 11, 12の三つの遺伝子がファミリーを構成している9).脊椎動物の再生芽形成でsoxCファミリーの発現が上昇しているかどうかを知るために,アフリカツメガエルのオタマジャクシの尾の再生に注目した.オタマジャクシの尾では,切断後48時間以内に再生芽が形成される10).切断後,24時間,48時間で再生芽を含む先端組織を集め,定量PCR解析を行ったところ,sox4, 11の発現は再生過程で上昇していた(図2G).そこで,再生芽におけるISH発現解析を行ったところsox4, 11ともに切断後24時間では,創傷上皮とその基部に発現が検出され,切断後48時間では再生芽に検出された.これらの発現パターンと定量PCR解析の結果から,カエルでもsoxC発現細胞は,再生芽に蓄積すると考えられる(図2G).この結果は,無脊椎動物だけでなく脊椎動物でもsoxC発現細胞が再生芽形成に関与することを示している.今後は,ほかのモデル動物の再生過程にsoxC発現細胞が関わるか検討することで,再生芽形成の一般性がより明らかとなると考えられる.

8. soxCの再生芽形成における役割

ヤマトヒメミミズ再生芽形成における発現解析から,soxC発現細胞は切断直後には検出されず,その後,体壁の近くで検出され,徐々に再生芽に蓄積するようにみえた.また,細胞増殖の解析からsoxC発現細胞が,切断後8時間までは,再生芽にどこからか供給され,蓄積したことが示唆された.さらに,RNA干渉によりsoxCが再生芽形成に必要であることがわかった.これらの結果から,筆者らは,soxC発現細胞は再生芽へ遊走する再生芽の「前駆細胞」なのではないかと考えている(図3).発生過程では,soxCが細胞遊走と関連することを示した多くの報告が知られている.たとえば,ゼブラフィッシュの網膜では,sox11bがミュラーグリア由来前駆細胞の遊走を制御していることが示され11),マウス胎仔の大脳発達中,sox11が皮質ニューロンの放射状遊走に関わることが示されている12).今後,このような発生過程と再生芽形成におけるsoxC発現細胞の性質の共通点および相違点を明らかにすることは,興味深い課題である.

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図3 ヤマトヒメミミズ再生芽形成のモデル

発現解析から,soxC発現細胞は切断直後には検出されず,その後,体壁の近くで検出され,徐々に再生芽に蓄積するようにみえた.また,細胞増殖の解析からsoxC発現細胞が,切断後8時間までは,再生芽にどこからか供給され,蓄積したことが示唆された.さらに,RNA干渉によりsoxCが再生芽形成に必要であることがわかった.これらの結果から,筆者らはsoxC発現細胞が,再生芽へ遊走する再生芽の「前駆細胞」なのではないかと考えている.文献4より改変.

9. 今後の展望

本研究により,筆者らはヤマトヒメミミズの再生芽形成の細胞・分子基盤として,soxC発現細胞とmmpRegの関与を明らかとした.soxC発現細胞は,130年来の再生芽形成に関する大きな謎の一つである「どのような細胞が再生芽に集まってくるのか?」という問いに対する新たな答えを提示するものである.今後,「それらの細胞がどこから再生芽に集まってくるのか?」という点を明らかにする必要がある.

謝辞Acknowledgments

本研究は,日本学術振興会(科学研究補助金(25K09943)),薬学奨励財団研究助成金,帝京大学先端総研チーム研究助成金などの助成により行われた.ここに感謝申し上げる.

引用文献References

1) Henle, F.G.J. (1837) Ueber Enchytraeus, eine neue Anneliden-Gattung. Müllers Archiv für Anatomie. Physiologie und Wissenschaftliche Medizin, Berlin, 1837, 74–90.

2) Barresi, M. & Gilbert, S.(2019) Developmental Biology (12th edition), Oxford University Press.

3) Randolph, H. (1892) The regeneration of the tail in Lumbriculus. J. Morphol., 7, 317–344.

4) Fujita, T., Aoki, N., Mori, C., Homma, K.J., & Yamaguchi, S. (2024) SoxC and MmpReg promote blastema formation in whole-body regeneration of fragmenting potworms Enchytraeus japonensis. Nat. Commun., 15, 6659.

5) Nakamura, Y. (1993) A new fragmenting enchytraeid species, Enchytraeus japonensis from a cropped Kuroboku soil in Fukushima, Northern Japan (enchytraeids in Japan 5). Edaphologia, 50, 37–39.

6) Myohara, M., Yoshida-Noro, C., Kobari, F., & Tochinai, S. (1999) Fragmenting oligochaete Enchytraeus japonensis: a new material for regeneration study. Dev. Growth Differ., 41, 549–555.

7) Yoshida-Noro, C. & Tochinai, S. (2010) Stem cell system in asexual and sexual reproduction of Enchytraeus japonensis (Oligochaeta, Annelida). Dev. Growth Differ., 52, 43–55.

8) Heenan, P., Zondag, L., & Wilson, M.J. (2016) Evolution of the Sox gene family within the chordate phylum. Gene, 575, 385–392.

9) Angelozzi, M. & Lefebvre, V. (2019) SOXopathies: Growing family of developmental disorders due to SOX mutations. Trends Genet., 35, 658–671.

10) Tsujioka, H., Kunieda, T., Katou, Y., Shirahige, K., & Kubo, T. (2015) Unique gene expression profile of the proliferating Xenopus tadpole tail blastema cells deciphered by RNA-sequencing analysis. PLoS One, 10, e0111655.

11) Song, K., Lin, Z., Cao, L., Lu, B., Chen, Y., Zhang, S., Lu, J., & Xu, H. (2023) Sox11b regulates the migration and fate determination of Muller glia-derived progenitors during retina regeneration in zebrafish. Neural Regen. Res., 18, 445–450.

12) Hoshiba, Y., Toda, T., Ebisu, H., Wakimoto, M., Yanagi, S., & Kawasaki, H. (2016) Sox11 balances dendritic morphogenesis with neuronal migration in the developing cerebral cortex. J. Neurosci., 36, 5775–5784.

著者紹介Author Profile

藤田 俊之(ふじた としゆき)

帝京大学薬学部 助教.博士(理学).

略歴

1982年北海道苫小牧市に生る.2008年早稲田大学人間科学部卒業.13年東京大学大学院理学系研究科博士課程修了.同年東京女子医科大学統合医科学研究所助教,18年より現職.

研究テーマと抱負

ヒメミミズ再生能の細胞・分子基盤の解明と,ニワトリの進化精神医学.

ウェブサイト

http://www.pharm.teikyo-u.ac.jp/

趣味

魚釣り,イカ釣り,酒蔵巡り.

山口 真二(やまぐち しんじ)

帝京大学薬学部生命薬学講座基礎生物学研究室 教授.博士(薬学).

略歴

1995年東京大学薬学部卒業.2000年同大学院薬学系研究科博士課程修了.00~04年University of PittsburghおよびNorthwestern Universityにて博士後研究員(Carthew lab.).04~18年帝京大学薬学部で助手,助教,准教授.18年より現職.

研究テーマと抱負

ヤマトヒメミミズの高い再生能に魅力を感じ,再生研究を始めました.高い再生能を支える細胞・分子基盤を理解することで,ヒトの再生能向上に資する知見を得ることを目指しています.熱意ある若い方の参加をお待ちしております.

ウェブサイト

https://www3.med.teikyo-u.ac.jp/profile/ja.86e069743b0dd0ca.html

趣味

卓球.

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