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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 97(5): 671-676 (2025)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2025.970671

みにれびゅうMini Review

マウス胚全細胞ライブイメージングライトシート顕微鏡開発と光毒性低減手法In toto live imaging of mouse embryo development: Lightsheet microscopy development and phototoxicity reduction methods

理化学研究所生命機能科学研究センターRIKEN Center for Biosystems Dynamics Research ◇ 〒650–0047 兵庫県神戸市中央区港島南町2–2–3 ◇ 2–2–3 Minatojimaminami-machi, Chuou-ku, Kobe 650–0047, Japan

発行日:2025年10月25日Published: October 25, 2025
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1. はじめに

近年,生物学研究で頻繁に使われるようになったライトシート顕微鏡は,1903年にRichard Zsigmondyにより直交光学系として原理発明された.それから約100年後の2004年,Ernst Stelzerらが蛍光技術と組み合わせて初めて生物学に応用し,ショウジョウバエ胚まるごとの発生過程を観察した1).2008年,同じくStelzerらがゼブラフィッシュ胚まるごとの発生過程を観察し,その撮像データを基に全細胞トラッキングに成功した2).2013年には,野中茂紀らが初めて哺乳類のマウス胚の4次元培養観察に成功し3),その後,ライトシート顕微鏡の応用はオルガノイドなどさまざまな試料を対象に拡がっている.

しかし,ライトシート顕微鏡はその光学特性から,利用が難しい側面がある.その理由の一つに,サンプルプレパレーションが難しいことがあげられる.試料側面から励起光を入射し,垂直方向から撮影する直交光学系のため,一般的に使われるガラスボトムディッシュが使えないからである.同時に,ガラスボトムディッシュを想定している既存のステージトップ型培養装置が使えない.これらのことが,哺乳類試料の培養観察を難しくしているのである.

その問題を克服するためにさまざまな工夫がなされているが4, 5),他にも問題がある.サンプルプレパレーションの容易さと観察の高度な要求はトレードオフの関係にあり,観察の簡便さを求めれば培養スペックが犠牲になる.一方,生きているサンプルをより健全な状態で培養するためには,培養装置のスペックをできるだけ高くすることが求められる.また,ライトシート顕微鏡は撮影面だけを光照射するため,共焦点顕微鏡などに比べて光毒性が少ないといわれているが,高速撮影が可能なため撮影枚数が増えることで,実際には,無視できない光毒性が発生してしまう6)

そこで筆者らは,培養スペックを妥協することなく高め,必要十分な撮影スペックを満たす顕微鏡を独自開発し,同時に,光毒性を低減する工夫を行い,長時間のマウス初期胚のライブイメージングに成功した7).しかし,特殊材料や新技術を開発したわけではない.過去に開発された要素技術を巧みに組み合わせ,それぞれのスペックが最大限になるように工夫することで,これまで不可能だった培養撮影を可能にしたのである.本稿では,その達成に至るまでの技術的工夫と検証結果を紹介する.

2. 培養環境を最大限に整える

培養環境の不安定性は,胚や組織にシビアな影響を与えることがわかっている.培養環境を安定に保つことは長時間ライブイメージングに必須であるが,顕微鏡上で整えることは容易でない.なぜなら,顕微鏡に使われる光学素子や電子機器などの部品は20°C台前半,かつ,低湿度が適しているのに対し,哺乳類の胚や細胞は37°C,かつ,高湿度を好むため,最適条件がまったく異なるからである.この場合,培養するためには培養環境を優先するしかない.しかし,装置が故障しても困る.そこで,影響を受ける光学素子や電子機器をできるだけ減らす設計を行った.

まず,37°C,かつ,高湿度に設定する部分を可能な限り小さくすることで,両方の要求の妥協点を探すことにした.しかし,小さな空間は大きな空間に比べ,温度安定性が低く,周囲変化の影響を受けやすい.培養チャンバーが空調などの風にさらされると,内部の温度低下や結露の発生により培養環境は悪化する.それを防ぐため,培養チャンバーをさらに覆うような保温箱を設計した(図1A, C).いわば「二重窓構造」の発想である.室温変化に対する緩衝構造を持たせて,チャンバー内部に温度変化が伝わりにくくした(図1D).温度が安定すれば,湿度の微調整が可能になる.培養サンプルに対する湿度の影響は非常に大きく,湿度が低ければ培地は蒸発し,高すぎれば吸水し培地濃度が下がる.培地量が安定するように加湿量を微調整することで,一般的に実験室で使用される汎用インキュベーターと同等以上の培養性能を得ることができた(図1E).

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図1 筆者らが開発したインキュベーター型ライトシート顕微鏡

(A)コンピューター支援設計(CAD)図.(B)直交2軸撮影の概念図.(C)実機写真とチャンバーのCAD図.(D)保温箱の有無によるサンプルホルダー内部の温度変化.(E)培地蒸発量の比較.図は引用文献7より改変して示した.

3. 光毒性を低減する撮影条件

光毒性を低減できているかどうかを判断するためには,光毒性の定量化が不可欠である.まず,胚やオルガノイドなど多細胞体に対する光毒性を定量化するために,ES細胞から胚様体(EB)を形成させ,その成長率で評価するアッセイ系を新しく考案した(図2A).光毒性を低減するためには,極力レーザーパワーを弱めるのがよい(図2B).しかし,撮像を作るためには最低限の蛍光強度を得る必要があるので限度がある.そこで,レーザーパワーの調整以外に光毒性を軽減できる方法がないか検討した.

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図2 光毒性の定量アッセイ,および,光照射によるROS産生と発熱

(A)胚様体(EB)を用いた光毒性のアッセイ系.(B)レーザーパワーによる光毒性の違い.(C)レーザー走査速度による光毒性の違い.各条件で総光照射量は同じである.(D)タイムインターバルによる光毒性の違い.各条件で総光照射量は異なる.(E)光照射時のROS産生.レーザーパワー10%で走査速度を変えたときのデータを青および橙の2本で示した.(F)光照射時のEB内温度変化.(G)42°Cで培養したときのEBの成長率.図は引用文献7より改変して示した.

開発したライトシート顕微鏡では,レーザー光線を高速で走査することにより撮影面全体を光照射する.撮像の蛍光強度を同じにするためには,総光照射量が同じになればよい.たとえば,「走査速度を速くし,かつ,走査回数を増やす」,あるいは,「走査速度を遅くし,かつ,走査回数を減らす」ことをすればよい.この原理により総光照射量を同じになるような条件下で,さまざまな走査速度による光毒性の差を調べた.そうしたところ,走査速度を速めれば速めるほど,光毒性が少なくなるという結果になった(図2C).つまり,光毒性を抑えつつ,高シグナル画像を得たい場合は,「走査速度を速くし,かつ,走査回数を増やす」ことをすればよい.

次に,撮影インターバルの影響を調べた.細胞が移動や増殖・変形する様子をデータ化したい場合,一定時間ごとに撮影することにより(タイムラプス撮影),経時的変化の情報を取得できる.次の撮影まで光照射しない時間(タイムインターバル)が長ければ長いほど,同一時間内に細胞が受ける総光照射量は小さくなる.加えて,細胞は光ダメージから回復する時間を稼げると予想される.逆に,タイムインターバルが短ければ短いほど,総光照射量が増え,かつ,回復時間は短くなり,光ダメージの蓄積が大きくなると予想される.さまざまなタイムインターバルを設定し調べたところ,5分間以上のタイムインターバルにしても,大きく光毒性が低減することはなかった.一方,タイムインターバルを5分間より短くすると,顕著に光ダメージの影響が現れた(図2D).これらの結果は,5分間のタイムインターバルを設ければ,光ダメージの蓄積を免れることを意味する.この時間は細胞種に依存する可能性があるが,一定以上のタイムインターバルを設ければ光毒性は変わらないという法則は他細胞種に適用できると期待される.

この実験の過程で,興味深い発見があった.1回のみ光照射したEBの成長率は,一度も光照射しなかったEBよりも成長率がよい傾向にあった.医療においては,光刺激によるリハビリや早期治癒などが盛んに行われており,皮膚科,整形外科,口腔外科,精神科などでさまざまな治療に取り入れられている.それぞれの効果原理は同じとは限らないが,光による刺激が細胞分裂を促進したり,細胞を活性化させたりするなどの効果があるものと考えられる.

4. 光毒性の原因を探る

一般に,光毒性の原因は活性酸素(ROS)の産生が関係しているといわれている.ROSによる悪影響を防ぐため,抗酸化物質であるビタミンCやグルタチオン,β-メルカプトエタノールなどを培地に添加したり,あるいは,低酸素条件下で培養したりすることで,ROSの発生そのものを抑える工夫がなされてきた.そのような努力を重ねたとしても,ライブイメージングでは光照射によるダメージがつきまとう.考慮すべき原因はROSだけでないかもしれない.そこで,まずはROSの産生について,光毒性との相関を調べることにした.

レーザーパワーを強くすると光毒性が増すのは上述したとおりである.実際のところ,レーザーパワーの強度を上げるとROS産生量は増えていた(図2E).ところが,光毒性を下げる効果のある走査速度の上昇によっても,ROS産生量は減少するどころか,むしろ,増加した(図2E).これらの結果は,光毒性はROSに起因している可能性はあるが,他にも原因があると考えないと説明がつかないことを示している.

次に,光照射による熱上昇でダメージが現れる可能性を検討した.蛍光物質の温度プローブを用いて,光照射時のEB内部の温度変化を調べたところ,十分な光毒性が表れる条件であっても,わずかにしか温度上昇しなかった(図2F).EBは42°Cで1時間培養しても成長率に変化はなく(図2G),熱上昇が光毒性の原因になっている可能性はきわめて低いと考えられる.

上記のように,光毒性の原因としてROS産生と発熱を検討したが,光毒性のメカニズムは単純ではなく,複数の要因が複雑に関与していると考えられる.原因の特定にはさらなる研究が必要であり,多角的な視点からの検討が求められる.

5. 直交2軸撮影によるz軸分解能の向上

多細胞組織において,個々の細胞を区別するためには,撮影する顕微鏡に十分な分解能が必要である.細胞核の周りに十分な体積の細胞質があり,細胞核どうしが離れていれば,分解能が数µmであっても,個々の細胞は核標識により容易に区別できる.しかし,細胞が平べったい形態で多細胞層を形成していたり,細胞質に厚みがなかったりすると,隣り合った細胞どうしの核が隣接するようになるため,個々の細胞を識別することが困難になる.xy平面方向の分解能は多くの場合十分だが,z軸方向(深さ方向)の識別には課題が残る.z軸方向の分解能を上げるために,zセクションの間隔を細かくし画像枚数を増やすという手法もあるが,それでは光照射量が増え,光毒性も高まる.光毒性を増やすことなくz軸分解能を上げるためにはどうすればよいか?検討を重ねた結果,着想を得たのは,2方向からの撮影である(図1B).つまり「前からも横からも撮影する」ことにしたのである.直交2軸撮影により,一方向のz軸は,もう一方向からのxy平面になる.z軸分解能がxy平面分解能になるのである.一方向からz情報の多い画像セットを得るためには,たとえば,全部で100枚必要になるとする.これに対し,2軸で撮影する場合は,もう一方向の画像で情報が補完されるので,たとえば,z切片10枚の画像セットを2方向分撮影すれば(合計20枚),十分なz情報が得られる.画像を80枚減らせるわけである.2軸撮影を可能な光学設計にしたことにより,たくさんのz-stack画像を撮影することを避けて光毒性を減らしながら,個々の細胞を区別するのに十分な分解能を得ることに成功した.

6. 着床後マウス胚の1細胞トラッキングに成功

以上の開発により,従来は90分間しかタイムラプス撮影できなかった胎生5.5日目のマウス胚を24時間撮影することに成功した(図3A, B).直交2軸撮影で向上したz軸分解能のおかげで,胚半分の1細胞トラッキングに成功することができた(図3C).これまで細胞追跡が困難であった,将来の胚体になる細胞の動きが明らかになり,組織内の細胞シャッフリングが盛んであることがわかった.また,胚全体を撮影することで,胚が成長途中で急激な収縮を繰り返し起こすこと,個々の細胞を追跡することで,その収縮中心を特定できるなど(図3D, E),新たな知見が得られた.

Journal of Japanese Biochemical Society 97(5): 671-676 (2025)

図3 マウス胎生5.5日胚の長期ライブイメージング画像と細胞トラッキング解析

(A)開発したライトシート顕微鏡で撮影したマウス胚の画像.胎生5.5日胚(上段)は光学切片画像,矢印は原始羊膜腔を示す.胎生6.5日胚(下段)は最大値投影法画像.(B)マウス胎生5.5日胚を垂直方向,および,水平方向から撮影したライブイメージング画像(最大値投影法).(C)胚体部分の細胞トラッキング図.(D)胚が急激な収縮を示したときの直前直後の画像を重ね合わせた.それぞれの細胞核に印を付けてある(左図).右は胚の外側輪郭と各部位の収縮方向を矢印で示した図.(E)胚の成長曲線(左図)と胚体積差分グラフ(右図).胚#1で収縮が起きているときを矢印で示した.スケールバーはそれぞれA, Bが100 µm, C,Dが50 µm. 図は引用文献7より改変して示した.

7. おわりに

本稿では,筆者らのライトシート顕微鏡の開発経験をもとに,培養装置の開発観点や光毒性の低減方法について紹介した.培養装置の温度安定化のために,二重構造にするだけなら特に高い部品を用意する必要はない.ビニル袋で覆うだけでも効果がある.光毒性の低減方法は,ライトシート顕微鏡以外のタイプの顕微鏡にも応用可能だ.一般的なレーザー走査型共焦点顕微鏡はもちろん,スピニングディスク型共焦点顕微鏡にも応用できる.また,最近,生きたままの組織の透明度を上げる技術が報告された8).光を吸収散乱する物質が減れば光毒性は下がるので,こちらの技術にも注目している.他にもさまざまなアイデアが思いつく.ライブイメージングでお困りの方は,ぜひ,身近な工夫から試してほしい.ご相談はいつでも承っているので,どうぞお気軽にお声掛けください.また,共同研究のご提案も歓迎します.

引用文献References

1) Huisken, J., Swoger, J., Del Bene, F., Wittbrodt, J., & Stelzer, E.H. (2004) Optical sectioning deep inside live embryos by selective plane illumination microscopy. Science, 305, 1007–1009.

2) Keller, P.J., Schmidt, A.D., Wittbrodt, J., & Stelzer, E.H. (2008) Reconstruction of zebrafish early embryonic development by scanned light sheet microscopy. Science, 322, 1065–1069.

3) Ichikawa, T., Nakazato, K., Keller, P.J., Kajiura-Kobayashi, H., Stelzer, E.H., Mochizuki, A., & Nonaka, S. (2013) Live imaging of whole mouse embryos during gastrulation: migration analyses of epiblast and mesodermal cells. PLoS One, 8, e64506.

4) Udan, R.S., Piazza, V.G., Hsu, C.W., Hadjantonakis, A.K., & Dickinson, M.E. (2014) Quantitative imaging of cell dynamics in mouse embryos using light-sheet microscopy. Development, 141, 4406–4414.

5) Strnad, P., Gunther, S., Reichmann, J., Krzic, U., Balazs, B., de Medeiros, G., Norlin, N., Hiiragi, T., Hufnagel, L., & Ellenberg, J. (2016) Inverted light-sheet microscope for imaging mouse pre-implantation development. Nat. Methods, 13, 139–142.

6) Ichikawa, T., Nakazato, K., Keller, P.J., Kajiura-Kobayashi, H., Stelzer, E.H., Mochizuki, A., & Nonaka, S. (2014) Live imaging and quantitative analysis of gastrulation in mouse embryos using light-sheet microscopy and 3D tracking tools. Nat. Protoc., 9, 575–585. doi: 10.1038/nprot.2014.035

7) Shioi, G., Watanabe, T.M., Kaneshiro, J., Azuma, Y., & Onami, S. (2025) Trans-scale live-imaging of an E5.5 mouse embryo using incubator-type biaxial light-sheet microscopy. Life Sci. Alliance, 8, e202402839.

8) Inagaki, S., Nakagawa-Tamagawa, N., Huynh, N., Kambe, Y., Yagasaki, R., Manita, S., Fujimoto, S., Noda, T., Mori, M., Teranishi, A., et al. (2024) Isotonic and minimally invasive optical clearing media for live cell imaging ex vivo and in vivo. bioRxiv, 2024.09.13.612584.

著者紹介Author Profile

塩井 剛(しおい ごう)

理化学研究所生命機能科学研究センター 技師.博士(理学).

略歴

1973年三重県生まれ,95年名古屋大学理学部卒業,99年同大学院理学研究科博士課程修了,2001年より理化学研究所所属.

研究テーマと抱負

マウス胚に体軸が生まれるメカニズムに取り組んでいます.対称から非対称に遷移する過程を,ライブイメージングを駆使した細胞動態解析や遺伝子ネットワーク解析など様々な手法で包括的に記述したいです.

ウェブサイト

https://www.riken.jp/research/labs/bdr/compr_bioimg/index.html

趣味

サイクリング.

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