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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 97(5): 691-695 (2025)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2025.970691

みにれびゅうMini Review

セレンの代謝に関与するメチルトランスフェラーゼINMTとTPMTの基質特異性と基質認識機構の解析Substrate specificities and recognition mechanisms of the methyltransferases, INMT and TPMT in selenium metabolism

千葉大学大学院薬学研究院Graduate School of Pharmaceutical Sciences, Chiba University ◇ 〒260–8675 千葉市中央区亥鼻1–8–1 ◇ 1–8–1 Inohana, Chuo-ku, Chiba-shi, Chiba 260–8675, Japan

発行日:2025年10月25日Published: October 25, 2025
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1. はじめに

セレン(Se)は動物にとって必須の微量元素であり,硫黄やテルル(Te)と同じ16族(カルコゲン)元素に属する.適正な所要量を逸脱したことによる致命的な欠乏症や過剰症が世界的に報告されている1).わが国の食事摂取基準において,Seの推奨量は30 µg/日程度ときわめて微量であり,また耐容上限量も400 µg/日程度と微量であるため,生体はSeに対して厳密な恒常性維持機構を有している.

食事から適正所要量が摂取されている状態では,Seは体内で代謝され,尿中にN-アセチルガラクトサミンによる糖抱合体(セレン糖)として排出される2).一方,適正所要量を超えた摂取時にはメチル化反応による代謝が起こり,主としてトリメチルセレノニウムイオン(TMSe)などの単純メチル化代謝物が生成され,尿中へ排泄される.我々は以前にTMSeの生成に2種類のメチルトランスフェラーゼ,すなわちチオプリンS-メチルトランスフェラーゼ(TPMT)とインドールエチルアミンN-メチルトランスフェラーゼ(INMT)が協働的に作用することを明らかにした3).しかしながら,この発見はなぜ2種類のメチルトランスフェラーゼが必要なのか,という新たな疑問ももたらした.本稿では,Seの代謝機構に焦点を当て,特にTPMTとINMTの基質認識機構と基質特異性について,分子レベルの知見を元に考察した4)

2. INMTを中心としたSeメチル化反応の生化学的・計算科学的解析

1)TPMTとINMTによるSeの段階的メチル化

メチル基転移反応は,生体構成分子,生体機能分子および生体異物等を基質とするが,ヒ素やSeの解毒反応としても機能しうる.SeはTPMTとINMTによって3段階のメチル化を受けることを我々は明らかにした.第一段階はTPMTによってのみ触媒され,HSeを基質としてモノメチル化体であるメタンセレノール(MeSeH)を生成する.第二段階はTPMTとINMTのいずれによっても触媒され,MeSe/MeSeHを基質としてジメチル化体であるジメチルセレニド(DMSe)が生成される(図1A, B).第三段階はINMTによってのみ触媒され,DMSeを基質として尿中排出形態であるトリメチル化体のTMSeが生成される.発現部位の解析の結果,TPMTは肝臓で発現が高く,INMTは肺において高い発現が認められた.したがって,経口摂取されたSeは肝臓においてモノメチル化体およびジメチル化体に変換された後に,肺においてトリメチル化体に変換され,その後尿中に排泄されると考えられた3).一連のSe-メチル化代謝物の化学形態を明らかにするため,高速液体クロマトグラフィー(HPLC)と誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)をオンラインで接続したLC–ICP-MS法を用いた5)

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図1 TPMTとINMTによるSeメチル化と基質認識機構

(A, B)TPMTとINMTによるSe-メチル化反応.(C)ヒトINMTとDMSeの相互作用エネルギー.文献4より改変した.(D, E)ヒトINMT,マウスTPMTの活性中心の構造(PDB 2A14, 2GB4).

TPMTはほかにシステインアナログのセレノシステインをメチル化することも報告されている.また,先にあげた尿中代謝物であるセレン糖,海棲生物特異的に検出されるセレノネインあるいは医薬品として開発されているエブセレンといった化合物もメチル化代謝を受けることが知られているため,メチル化のSe代謝への普遍的な関与が示唆される.

2)INMT, NNMT, PNMTのSe代謝におけるメチル化能の比較

ヒトゲノムにはINMTのパラログとして,ニコチンアミドN-メチルトランスフェラーゼ(NNMT)およびフェニルエタノールアミンN-メチルトランスフェラーゼ(PNMT)が存在し,INMTファミリーとして脊椎動物において保存されている.特にヒトNNMTはヒトINMTに対して53%もの配列の同一性を示した.そこでNNMTおよびPNMTのSe-メチルトランスフェラーゼ活性を検討したが,NNMTおよびPNMTの組換えタンパク質はいずれもINMT様のSe-メチル化活性は示さなかった.したがって,INMTファミリーは高い配列同一性を示すものの,Se-メチルトランスフェラーゼ活性を有するのはINMTのみであることが明らかとなった.

3)MDシミュレーションによるINMT, NNMT, PNMTの比較

in vitroでの結果に基づいて,分子動力学(MD)シミュレーションとフラグメント分子軌道(FMO)法を組み合わせた計算科学的解析を行った.まず,INMT, NNMT, PNMTそれぞれについてin vitroでの酵素活性と一致するMDシミュレーションの系を構築し,続いてその過程をFMO法を用いて詳細に解析することでSe-メチル化活性に必要な酵素の構造的要因を明らかにすることを試みた.

MDシミュレーションを用いてINMTファミリーの活性中心とDMSeとの相互作用を評価した.その結果,INMTではDMSeが活性中心に強く結合し,S-アデノシルメチオニン(SAM)との距離が最も短く,メチル化反応に適したコンフォメーションを形成していた.一方,NNMTではDMSeは活性中心に保持されるものの,SAMとの距離がINMTより長く,基質親和性の低下が示唆された.PNMTではDMSeが活性中心から乖離し,基質として保持されないことが示された.MDシミュレーションの過程を平均化した構造を作製し,FMO法を用いてDMSeの結合エネルギーを算出した.その結果,INMTにおいて最も高い結合エネルギーが得られ,NNMTではやや低下し,PNMTでは著しく低下した.これらの計算結果は,実験で得られた酵素活性の差異とよく一致しており,INMTの高い基質親和性を構造的に裏づけるものとなった.

4)FMO法によるINMTの基質認識に関わるアミノ酸残基の推定

INMTとDMSeとの相互作用に関与するアミノ酸残基を明らかにするため,FMO法によりペア相互作用エネルギーを算出し,DMSeとINMTの各アミノ酸残基との相互作用を解析した.その結果,SAMがDMSeに対して最も高い結合エネルギーを示した(図1C, D).特にSAMの硫黄原子周辺の正電荷が,DMSeの双極子モーメントと静電的に強く相互作用することが,相互作用エネルギー成分分割解析により明らかとなった.ほかにはY24, L164, Y204, Y242が主に分散相互作用に由来する結合エネルギーを示した.特にINMTのL164およびY204はDMSeとの距離が最も短く,安定した結合を形成し,これらの残基が基質認識において中心的な役割を果たすことが推定された.

5)INMTの活性中心の構造について

in silicoにおいて基質認識に関わると推定されたINMTのアミノ酸残基のうち,DMSeとの相互作用エネルギー・結合安定性・結合距離と進化的保存性に基づいて,特にINMT-L164に着目して生化学的解析を行った.L164の各種点変異体は,Seのモノメチル化およびジメチル化,さらにトリプタミンのメチル化のいずれにおいても酵素活性を示さず,L164残基がINMTの活性に重要であることが明らかとなった.反応速度論的解析においては,Kmの上昇とVmaxの低下が観察された.

INMTファミリーの活性中心はタンパク質内部に位置する(PDB 2A14, 5YJI, 3HCB).MDシミュレーションの過程で,活性中心とタンパク質表面を結ぶチャネル構造の存在が明らかとなった.さらにこのチャネルを通じて水分子が活性中心とタンパク質表面との間を移動する様子が観察され,基質輸送経路として機能する可能性が示された.特にINMT-L164残基は活性中心と水チャネルの接合部付近に位置し,L164R変異体では水分子の通過が著しく制限された.したがって,このチャネルにおいてL164が構造的に重要な役割を果たすことが示された.これらの結果から,INMTはこのチャネルを利用して基質の取り込みや放出を行い,取り込んだ分子をL164残基によって活性中心に結合する機構が考えられた4)

6)TPMTの基質認識機構

INMTとは対照的に,TPMTの活性中心は溶媒に露出しており,疎水性残基に加えて塩基性残基も配置されている(PDB 2GB4)6).INMTとTPMTの活性中心の構造を比較したところ,マウスTPMTのR147残基(ヒトではR152に相当)が,INMTのL164残基に相当する位置を占めていた(図1D, E).実際に,ヒトTPMT-R152の点変異体ではSe-メチル化活性が低下し,この残基の基質認識への関与が示された4).さらにMDシミュレーションとFMO法による解析においてもR152の基質結合への寄与が示された(福本,未発表データ).R152の点変異体は6-メルカプトプリン(6-MP)に対するメチル化活性も低下することが報告されている6).以上より,TPMTは活性中心の塩基性残基を介して,主に負電荷を帯びた基質を認識すると考えられた.

7)INMT, TPMTそれぞれの基質と基質認識機構の差異

以上の解析から,INMTとTPMTはそれぞれ異なる基質認識機構を有することが明らかとなった.Se-およびN-メチル化反応においてINMTは活性中心のL164などの疎水性残基を介して電気的に中性な基質を認識することが示された.一方,TPMTではR152がSe-メチル化活性に重要な役割を果たし,TPMTは負電荷を帯びた基質を認識すると考えられた.セレノール基とセレン化水素のpKaはそれぞれ5.4および3.9である.そのため,INMTはDMSeやプロトン化したメタンセレノール(CH3SeH)など電気的に中性な化学種を基質とし,TPMTはセレン化水素,グルタチオニルセレニド(GSSe),脱プロトン化したメタンセレノール(CH3Se)などの陰イオン種を基質とすると考えられた.

これらの知見により,Seのメチル化に2種類のメチルトランスフェラーゼが関与する理由が説明できる.すなわち,第一段階では基質は負電荷を帯びた分子種のみであるためTPMTが必要であり(図1A),第三段階では電気的に中性な基質のみが関与するためINMTが必要となる(図1B).Seの3段階のメチル化過程において,基質の電気的性質に応じてTPMTとINMTが使い分けられると考えられた.

最近の我々の速度論的解析でTPMTによるCH3Seのメチル化反応ではVmax/Kmが著しく低いことが明らかとなった(福本,未発表データ).すなわち,生体内では2段階目のメチル化は主にINMTが担っている可能性が高いと考えられた.

3. INMT遺伝子のSNPsの分布と解析

INMTの機能の重要性は,ヒトにおける遺伝的多様性からもうかがえる.ゲノムワイド関連解析(GWAS)により,INMTのエキソン近傍に位置する一塩基多型(SNP)が尿中TMSeの量に影響を与えることが明らかとなり一連の研究の端緒となった.これは生理学的条件下におけるINMTのTMSe生成への関与を示す根拠となっている7)

INMTのコーディング領域におけるSNPによる変異としてV/M205, E/G219, F/C254なども報告されているが,これらはINMTの酵素活性には影響せず,その頻度は11~41%程度とされている8–10).対照的に,活性に致命的な影響を及ぼすと思われる活性中心での変異では,Y24C, L164P, Y204Cなどの頻度はいずれも0.1%未満である9).実際にL164P変異体はSe-およびN-メチルトランスフェラーゼ活性を完全に欠いていた4).活性中心以外の部位での変異についても報告があり,H46P変異体はSe-メチルトランスフェラーゼ活性を欠いており10),その頻度は0.8%とされている9).これらの結果により,INMTの酵素活性が生体の恒常性維持に不可欠であることが示唆される.

4. 同族元素であるテルルのメチル化

Seと同族元素であるTeは,生物に対する必須性は確かめられていないものの,さまざまな工業的用途に使用されるレアメタルの一つである.ラットに投与すると尿中の主要な代謝物としてトリメチルテルロニウムイオン(TMTe)が検出される11)Se-メチル化反応と同じく,in vitroにおいてTPMTはTeのモノメチル化とジメチル化反応を触媒し,INMTはジメチル化とトリメチル化反応を触媒した.したがって,Teの場合にもTPMTとINMTが協働して代謝と排泄に関与すると考えられた12)

5. おわりに

一連の解析により,TPMTは負電荷を帯びた基質を認識する一方,INMTはタンパク質内部の疎水性の活性中心を用いて電気的に中性な基質を認識することが示された.これによりTMSeやTMTeの産生に2種類のメチルトランスフェラーゼが必要とされる背景が明らかとなった.特にLC–ICP-MSによる化学形態分析に生化学的手法と計算科学的手法を組み合わせたアプローチによって,基質認識機構がアミノ酸残基レベルで解明された3, 4, 12)

DMSeの毒性はセレニドやメタンセレノールよりも大幅に低下しており,肝臓におけるTPMTによるメチル化のみでもSeの解毒と呼気中へのDMSeとしての排出が可能と推定される.しかし,哺乳類を含む陸棲の動物は肺においてINMTを利用してDMSeをTMSeに変換し,尿中へ排出する仕組みを有している.第三段階のメチル化の意義はいまだ明確ではないが,INMTの基質結合部位におけるSNPの頻度が低いことは,この段階が生理的に重要である可能性を示唆している.

TPMTの内因性基質は長らく未同定であった.既知の基質としては,抗がん剤である6-メルカプトプリン(6-MP)のチオール基のメチル化がよく知られており,TPMTの名称の由来にもなっている.そのため,TPMTの生理的役割は薬物代謝,特に6-MPによる化学療法の有効性や副作用発現の観点から議論されてきた.しかし,これまでの一連の解析から,ヒトTPMTがSeをメチル化し,代謝と排泄を促進することが示された3, 4).さらに,細菌由来のTPMTもSeをメチル化し,土壌や水中に存在する環境中のSeの解毒を促進することが報告されている13).これらの知見は,必須栄養素であるSeがTPMTの内因性基質であることを強く示唆している.そのため,我々はTPMTとINMTについてそれぞれselenium methyltransferase 1および2(SeMT1およびSeMT2)と命名することが適切と考えている.さらに,Seと同族である硫黄のメチル化にも注目し,内在性の硫黄化合物についてもTPMTやINMTによるメチル化代謝が起こるのか,現在引き続き検討を進めている.

TPMTは6-MPなどのチオプリン系薬剤をメチル化し解毒する.TPMTは欧米人において多型がよく知られており,チオプリン系薬剤による化学療法に対する耐性に関わる因子としてTPMTの遺伝子多型は重要である14).日本人においても人口の約1%程度はTPMTの活性を欠くと報告されている15).一方,Seを含む化合物はその特徴的な性質のために種々の疾患の治療薬として検討されている.また,認可された医薬品としては中心静脈栄養,経腸栄養時のSe補充療法に使用される亜セレン酸ナトリウム(商品名アセレンド)がある.さらにサプリメントとしてもSeが配合された食品が販売されているが,食事由来のSe摂取量が適切な範囲にあるとされる日本では過剰摂取となるリスクが懸念される.TPMTの多型はこれらのSe含有医薬品やサプリメントなどに対する感受性を左右する可能性があり,個別化医療や栄養管理におけるバイオマーカーとしての活用が期待される.

引用文献References

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著者紹介Author Profile

福本 泰典(ふくもと やすのり)

千葉大学 大学院薬学研究院 講師.博士(薬学).

略歴

1978年岡山県生まれ.2001年大阪大学薬学部卒業.06年同大学院薬学研究科博士後期課程修了.06年千葉大学薬学部助手・助教を経て12年現職.

研究テーマと抱負

セレンのメチル化代謝を中心に,セレンやテルルを含む化合物の代謝機構を生化学・分子生物学的側面から解析している.その分子基盤の解明を通じて,創薬や個別化医療への応用を目指している.

ウェブサイト

https://www.p.chiba-u.jp/lab/yobou/index.html

趣味

IT・デジタル全般.

小椋 康光(おぐら やすみつ)

千葉大学大学院薬学研究院 教授.博士(薬学).

その他については本誌85巻7号(2013),p. 519をご参照ください.

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