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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 97(5): 705-709 (2025)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2025.970705

みにれびゅうMini Review

オートファジー制御におけるS-パルミトイル化の役割Regulatory role of S-palmitoylation in autophagy

1大阪大学大学院生命機能研究科細胞内動態研究室Osaka University, Graduate School of Frontier Biosciences ◇ 〒565–0871 大阪府吹田市山田丘2–2 ◇ 2–2 Yamadaoka, Suita-shi, Osaka 565–0871, Japan

2大阪大学大学院医学系研究科遺伝学講座Osaka University, Graduate School of Medicine ◇ 〒565–0871 大阪府吹田市山田丘2–2 ◇ 2–2 Yamadaoka, Suita-shi, Osaka 565–0871, Japan

3順天堂大学大学院医学研究科器官・細胞生理学講座Juntendo University, Graduate School of Medicine ◇ 〒113–8421 東京都文京区本郷2–1–1 ◇ 2–1–1 Hongo Bunkyo-ku, Tokyo 113–8421, Japan

発行日:2025年10月25日Published: October 25, 2025
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1. はじめに

マクロオートファジー(以下,オートファジー)は,細胞質成分や損傷オルガネラをリソソームへ運び分解する,細胞恒常性の維持に不可欠な機構である.特に栄養飢餓時には,ATGタンパク質群が協調してオートファゴソームの形成を促進し,細胞が生き延びるために必要なエネルギーや材料を提供する.近年,オートファジーの異常が神経変性疾患やがんなどのさまざまな疾患の発症や進行に関与することが明らかとなり,その分子メカニズムの解明は医学的にも大きな注目を集めている.

オートファジーの制御には,タンパク質の翻訳後修飾が重要な役割を果たす.なかでもS-パルミトイル化と呼ばれる脂質による可逆的な修飾は,タンパク質の膜への局在やほかのタンパク質との相互作用を動的に変化させ,オートファジーの新たな制御メカニズムとして注目を集めている.

本稿では,オートファジーにおけるS-パルミトイル化の機能的意義を概説するとともに,オートファジー開始キナーゼであるULK1のS-パルミトイル化が,オートファゴソーム形成の初期段階をどのように駆動するのかについて,我々の最新の研究成果を紹介する1)

2. オートファゴソーム形成の分子機構

オートファゴソームの形成は,栄養飢餓時のエネルギー供給や細胞内の不要な成分や損傷したオルガネラを除去するための中核的なプロセスであり,オートファジーの開始には複数のタンパク質群が段階的に関与する2).平常時には,mTOR(mechanistic target of rapamycin)が活性化しており,下流因子のリン酸化を介してオートファジーを抑制している.しかし,細胞が栄養飢餓などのストレスを受けると,mTORは不活性化し,これによりオートファゴソーム形成が誘導される.オートファゴソーム形成の初期段階では,「隔離膜」と呼ばれるカップ状の脂質膜が細胞質中に出現する.この膜は伸長しながら標的成分を取り囲み,最終的に二重膜構造を持つオートファゴソームが形成される.この過程では,ULK1複合体(ULK1, ATG13, FIP200, ATG101)が形成部位にリクルートされ,ULK1のキナーゼ活性により下流因子がリン酸化されることで,隔離膜の形成が促進される(図1).続いて,ATG14Lを含むクラスIII PI3キナーゼ複合体(class III PI3K complex I:PI3KC3-C1)複合体がホスファチジルイノシトール3-リン酸(PI3P)を産生し3),これによりWIPI2やATG5-ATG12-ATG16L1複合体が隔離膜形成部位に集積する.これらのタンパク質群が集積し,そこへ脂質輸送を担うATG2-ATG9複合体が動的に出入りしながら脂質供給することにより,隔離膜の伸長と成熟が進行し,オートファゴソーム形成が推進される4).これまでの研究により,オートファゴソームの形成が小胞体–ミトコンドリア接触部位から開始されることも明らかとなった5)

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図1 オートファゴソーム形成開始のモデル

ZDHHC13によるULK1のパルミトイル化は,ULK1複合体のオートファゴソーム形成部位へのリクルートを促進する.そこで,PI3K複合体の構成タンパク質であるATG14Lがリン酸化され活性化されることにより,オートファゴソーム形成が促進される(Tabata et al., Nat. Commun., 20241)より一部改変).

形成されたオートファゴソームはリソソームと融合し,内部に取り込まれた内容物は加水分解酵素により分解される.この融合過程にはSNAREタンパク質やRabタンパク質が関与しており,分解されたアミノ酸や脂肪酸は再び細胞内で利用される.これら一連のプロセスを通じて,細胞は恒常性の維持およびエネルギーの供給を達成している.

3. S-パルミトイル化によるオートファジー制御機構

S-パルミトイル化(以降,パルミトイル化と記述)とは,アシル化の一種であり,パルミチン酸(C16:0)と呼ばれる長鎖脂肪酸がタンパク質のシステイン残基にチオエステル結合する可逆的な翻訳後修飾である.この修飾は,タンパク質の膜局在,安定性,タンパク質間相互作用に大きく関与する.パルミトイル化は,パルミトイルトランスフェラーゼによる付加とAPT(acyl-protein thioesterase)による脱パルミトイル化によって制御されており,細胞内のシグナル伝達経路や膜動態の調整において重要な役割を果たしている.パルミトイルトランスフェラーゼとして,哺乳動物では23種類のzinc finger DHHC(D:アスパラギン酸,H:ヒスチジン,C:システインをそれぞれ示す)(ZDHHC)ファミリータンパク質が同定されている.

オートファジーにおいても,パルミトイル化は重要な制御機構として機能している.パルミトイル化の標的となるタンパク質は多岐にわたり,オートファジー開始複合体の構成因子ULK1やBECN1,膜動態に関与するATG2AやATG16L1,さらに選択的オートファジー受容体であるp62/SQSTM1などが含まれる.飢餓状態では,ATG2がAPT1により脱パルミトイル化され,小胞体に局在するATG2のC末端が隔離膜上のATG9と結合して複合体を形成し,オルガネラ膜間での脂質輸送が促進される.これに対し,栄養が豊富な状態では,ZDHHC11によりATG2のC末端がパルミトイル化され,ATG9との結合が阻害される.その結果,ATG2は小胞体に係留され,ATG2-ATG9複合体による小胞体から隔離膜への脂質輸送が抑制される6).すなわち,ATG2Aにおけるパルミトイル化と脱パルミトイル化のバランスは,オートファジー過程全体の膜動態を精密に制御する重要な仕組みである.

さらに,ZDHHC5によるBECN1のパルミトイル化は,オートファジー制御に関与していることが報告されている7).BECN1がパルミトイル化されると,オートファゴソーム形成を担うPI3KC3-C1複合体の形成およびPI3キナーゼ活性が促進される.この修飾により,BECN1はATG14LやVPS15などのアダプタータンパク質との疎水的相互作用を強め,効率的なオートファジー誘導に寄与するとされている.

また,ZDHHC7によるATG16L1のCys153残基へのパルミトイル化も報告されている8).この修飾により,ATG16L1はWIPI2BおよびRAB33Bとの複合体形成を促進し,LC3の脂質化とそれに伴うオートファゴソーム形成に貢献すると考えられている.

さらに,選択的オートファジーに関与する受容体タンパク質であるp62/SQSTM1も,ZDHHC19およびAPT1によるパルミトイル化制御を受けることが示されている9).パルミトイル化されたp62はLC3陽性膜との親和性が高まり,相分離構造であるp62 bodyの形成を介して,選択的オートファジーによる効率的な分解が促進されると考えられている9)

4. ULK1パルミトイル化酵素の発見

オートファゴソーム形成の最上流では,セリン・トレオニンキナーゼであるULK1が中心的な役割を果たす.ULK1はオートファジー誘導に必須であり,下流のエフェクターをリン酸化することでオートファジーを開始させる.また,自身もリン酸化修飾を受け,その活性が制御されると考えられている10).さらに,ULK1はATG13, FIP200, ATG101などのオートファジー関連タンパク質と複合体(ULK1複合体)を形成し,これらと協調して機能する.これまでの研究により,ULK1はサイトゾルからオートファゴソーム形成部位である小胞体膜上へリクルートされ,その局在の変化がオートファジー開始の鍵を握ることが示唆されてきたが11),その分子機構は長らく不明であった.

最近の研究において,我々はオートファジー開始に関与する新規制御因子の同定を目的として,EMBLのPepperkok博士らとの共同研究により,234遺伝子を対象としたsiRNAスクリーニングを実施した1).その結果,オートファジー活性を阻害する因子としてZDHHC13を同定した.ZDHHC13をノックダウンした細胞では,オートファジーによる基質分解が著しく抑制され,ULK1複合体の膜リクルートも顕著に減少した.ZDHHC13は,広範な臓器で発現する膜貫通型タンパク質であり,細胞内におけるS-パルミトイル化酵素の一つである12).実際にULK1がパルミトイル化されるかを検証した結果,ULK1のパルミトイル化が確認され,その修飾量は飢餓処理によりオートファジーを誘導することで増加した(図2A).さらに,ZDHHC13のノックダウンによりULK1のパルミトイル化が抑制されたことから,ZDHHC13がULK1のパルミトイル化酵素であることが示された(図2B).加えて,ULK1のC末端領域にあるシステイン残基(C927, C1003)に変異を導入するとパルミトイル化が減弱したことから,これらの部位がパルミトイル化の修飾部位であると考えられる.AlphaFold2による構造予測では,これらのアミノ酸はタンパク質の表面上で近接していた(図2C).また,これらのシステイン残基は酵母からヒトまで進化的に保存されていることが確認された.以上の結果から,ZDHHC13がULK1の小胞体への膜局在を制御することが明らかになった.

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図2 ZDHHC13によるULK1のパルミトイル化修飾とその調整

(A)クリックケミストリー法を用いてULK1のパルミトイル化を検出した.飢餓処理によってその量は増加した(赤矢印).(B) ZDHHC13ノックダウン細胞ではULK1のパルミトイル化が著しく低下し(赤矢印),主要なパルミトイル化酵素であることが示された.(C) ULK1パルミトイル化部位としてC927とC1003が同定された(赤線).赤四角内で黄色ハイライトで示すC927およびC1003は酵母ATG1にも保存されている(Tabata et al., Nat. Commun., 20241)より一部改変).

5. オートファゴソーム形成におけるULK1パルミトイル化の意義

オートファジーにおけるULK1パルミトイル化の意義を明らかにするため,以下の三点から検討を行った.第一に,ULK1複合体のオートファゴソーム形成部位へのリクルートにパルミトイル化が関与するかどうか,第二に,最終的なオートファジー分解活性に必須であるかどうか,第三に,オートファゴソーム形成におけるULK1の下流イベントにおいてどのように機能するか,である.

まず,ULK1のC末端領域はATG13やFIP200との結合に重要であることが知られているが,パルミトイル化変異体においても複合体形成はまったく影響が認められなかった.このことから,ULK1のパルミトイル化は複合体形成には不要であり,むしろ複合体中のULK1がパルミトイル化されることによって,オートファゴソーム形成部位である膜へのリクルートが促進される可能性が示唆された.実際に,パルミトイル化不能変異体やパルミトイル化阻害剤処理では,オートファジー誘導時のULK1のオートファゴソーム局在が減少したことから,ULK1のパルミトイル化が複合体のオートファゴソーム膜局在化に寄与していると考えられる.

次に,オートファジー分解活性におけるパルミトイル化の重要性を検証するため,ULK1およびULK2を欠損したダブルノックアウト細胞に,ULK1の野生型またはパルミトイル化不能変異体を安定的に再発現させ,オートファジー活性を評価した.野生型発現細胞に比べ不能変異体発現細胞ではオートファジー分解活性が有意に低下しており,ULK1のパルミトイル化がオートファジー分解に必要であることが明らかとなった.

さらに,ULK1の下流に位置する分子イベントとの関係を明らかにするため,ATG14Lのリン酸化に着目した.ATG14LはULK1の基質であり,そのリン酸化はPI3KC3-C1複合体によるPI3P産生を促進することが報告されている13).ULK1のパルミトイル化がATG14Lのリン酸化に寄与するかを検討するため,ULK1/ULK2ダブルノックアウト細胞に野生型またはパルミトイル化不能変異体を再発現させ,ATG14Lのリン酸化レベルを解析した.パルミトイル化不能変異体発現細胞ではATG14Lのリン酸化が低下し,飢餓処理によるリン酸化の亢進も認められなかった.このことから,ULK1のパルミトイル化はATG14Lリン酸化に不可欠であると考えられる.

以上の結果から,オートファジー開始時にULK1のC末端システイン残基がZDHHC13によりパルミトイル化され,それによりULK1複合体は小胞体膜上へリクルートされた後,ULK1のキナーゼ活性によりATG14Lがリン酸化され,PI3KC3-C1複合体によるPI3P産生が促進されることが明らかとなった.これら一連の反応がオートファゴソームの形成を駆動し,最終的にオートファジー分解活性の発揮につながると考えられる.

6. ULK1パルミトイル化反応はどこで起こるか?

次に生じる重要な問いは,ZDHHC13が細胞内のどこからどのようにULK1にアクセスし,どの場所でパルミトイル化反応を行うのか,という点である.ZDHHC13は,これまでに主としてゴルジ体に局在することが知られていたが,一部はゴルジ体以外の細胞内構造にもドット状に分布していることが観察された.

オートファジー関連タンパク質との共局在解析を行った結果,ZDHHC13はULK1に加えて,オートファゴソーム形成部位のマーカーであるATG5とも共局在していることが判明した.さらに,ゴルジ体とオートファゴソーム形成部位の間をシャトル輸送することが知られているATG9AとZDHHC13が,細胞内をともに移動する様子もライブセルイメージングにより確認された.ZDHHC13およびATG9Aはともに膜貫通型のタンパク質であることから,両者は同一の小胞上に共局在し,この小胞を介してZDHHC13がオートファゴソーム形成部位へ輸送される可能性が示唆された.

以上の観察結果から,ULK1のパルミトイル化は,ゴルジ体由来のZDHHC13がATG9Aを含む輸送小胞に搭載されてオートファゴソーム形成部位に到達し,そこでULK1を修飾するというモデルが導かれた.この動態解析に基づき,ULK1のパルミトイル化反応は,単なる局所的な修飾ではなく,小胞輸送という細胞内動態に依存した空間的に制御されたイベントであると考えられる.

上述の我々の結果から,ZDHHC13がULK1をパルミトイル化し,ULK1複合体をオートファゴソーム形成部位である小胞体膜上へリクルートすることによって,オートファゴソーム形成が促進されることが明らかとなった(図1).S-パルミトイル化は,オートファジー関連タンパク質の膜局在,機能,さらにはタンパク質間相互作用を制御する修飾であり,オートファジーの時空間的な進行において中心的な役割を果たしている.したがって,パルミトイル化は単なる補助的な修飾ではなく,オートファジー開始を制御する主要なメカニズムの一つであると考えられる.

7. おわりに

オートファジーは細胞の恒常性維持やストレス応答において不可欠な機構であり,神経変性疾患,がん,感染症など多くの疾患に深く関与している14).また,老化や寿命の制御にも密接に関連していることが近年の研究から示されている.今後,オートファジーの分子基盤に関する理解がさらに深まることで,新たな疾患治療法や予防戦略の開発,さらには健康寿命の延伸への応用が期待される.

謝辞Acknowledgments

本稿で取り上げた研究は,大阪大学大学院生命機能研究科細胞内動態研究室において行われ,共同研究者の皆様のご尽力により成し遂げられたものです.ここに深く感謝の意を表します.

引用文献References

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2) Nakatogawa, H. (2020) Mechanisms governing autophagosome biogenesis. Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 21, 439–458.

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著者紹介Author Profile

田端 桂介(たばた けいすけ)

順天堂大学大学院医学研究科器官・細胞生理学講座 准教授.博士(理学).

略歴

2009年大阪大学大学院生命機能研究科博士課程修了.大阪大学微生物病研究所特任助教,ドイツハイデルベルク大学博士研究員,大阪大学大学院生命機能研究科助教を経て,24年より現職.

研究テーマと抱負

オートファゴソームやウイルス誘導性オルガネラのように,細胞内外の環境変化や感染によって新たに形成されるオルガネラに着目し,その形成の分子機構の解明と生理的役割の解明を目指している.

趣味

映画鑑賞,ランニング,筋肉トレーニング,登山,キャンプ.

濱崎 万穂(はまさき まほ)

大阪大学大学院生命機能研究科・医学系研究科 准教授.博士(理学).

略歴

カナダ・ビクトリア大学卒.九大理学部で修士,総研大博士課程修了.EMBLへ電顕技術習得留学後,阪大生命機能研究科・医学系研究科の助教を経て現職.

研究テーマと抱負

オートファジーを中心とする細胞内分解機構の分子機構を中心に研究.基礎から応用・病態研究へ橋渡す成果を目指す.

ウェブサイト

https://yoshimori-lab.com/member/?co-creation

趣味

冬の欧州旅行でリフレッシュ,美術館巡り.

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