2. マスト細胞内アラキドン酸代謝が制御する2型炎症応答
細胞質型PLA2α(cPLA2α)は,マスト細胞におけるアラキドン酸代謝の起点酵素として脂質メディエーター産生の中核を担う.アレルゲン刺激などにより細胞内Ca2+濃度が上昇すると,cPLA2αは核膜やゴルジ体へ移行し,リン酸化および脂質との相互作用を介して活性化され,膜リン脂質からアラキドン酸を遊離する.これにより産生されるロイコトリエン(LTB4やシステイニルLTs)やプロスタグランジンD2(PGD2)は,2型免疫細胞を活性化して2型炎症を誘導する.実際,cPLA2α阻害剤の投与やcPLA2α欠損によりアラキドン酸代謝物の産生が低下し,喘息などの2型炎症が顕著に抑制されることが報告されている1).
PGE2はマスト細胞周囲の線維芽細胞などから供給され,4種類のPGE2受容体(EP1~EP4)のうち,EP2やEP3を介して2型炎症を制御する.マスト細胞と線維芽細胞のクロストークにおいては,マスト細胞内のcPLA2αによって遊離されたアラキドン酸が隣接する線維芽細胞に取り込まれ,膜結合型PGE合成酵素-1(mPGES-1)依存的に代謝されてPGE2が産生される.このPGE2がマスト細胞に作用し,その機能を抑制する“負のフィードバック機構”が報告されている2).さらに,EP2作動薬はマスト細胞のアレルゲン依存的脱顆粒を抑制し,EP3欠損マウスではアレルゲン依存的アナフィラキシー反応が増悪することが報告されている3).したがって,PGE2によるマスト細胞抑制作用にはEP2およびEP3が寄与すると考えられる.加えて,PGE2はEP2を介してILC2(2型自然リンパ球)やTh2細胞の活性化,上皮由来サイトカイン(TSLP)産生,血管リモデリングにも作用し,アスピリン喘息を含む2型炎症の制御に寄与する4).これに対し,マスト細胞におけるEP3はPGE2直接刺激による活性化の促進に関与することが報告されており,刺激様式依存的に抑制と促進の両面を担う可能性がある.このように,cPLA2αは炎症促進性と制御性の双方の脂質メディエーターの産生を統括し,免疫応答の“舵取り役”として機能している(図2).
3. ω3エポキシドを介したマスト細胞機能と微小環境の制御
PAF-AH2は通常のリン脂質には選択性を示さず,酸化リン脂質を特異的に加水分解する酵素学的特徴を持ち,肝臓や腎臓の酸化ストレス誘発性障害や炎症を抑える“生体防御酵素”として知られてきた5, 6).データベース解析により,PAF-AH2 mRNAが肝臓,腎臓およびマスト細胞に高発現し,特にマスト細胞ではPLA2分子群の中でも際立って高い発現を示すことが明らかとなったが,その機能的意義は不明であった.近年,PAF-AH2は刺激非依存的に恒常的な活性を保ち,膜リン脂質に貯蔵された17,18-EpETEや19,20-EpDPEといったω3エポキシドを持続的に切り出すことが明らかとなった(図3A)7).これらは,一般に期待されるω3脂肪酸の抗炎症作用とは対照的に,FcεRIシグナルを増強し,マスト細胞の活性化感受性を高める“アレルギー増感因子”として作用する.実際,PAF-AH2の阻害や欠損ではこれらの脂質が減少し,IgE依存的なマスト細胞活性化やアナフィラキシー反応が抑制される.分子機構として,ω3エポキシドはFynやLynなどのSrcチロシンキナーゼを抑制する足場タンパク質Srcin1の発現を低下させ,IgE依存的活性化を促進する.また,Srcin1発現の制御には核内受容体PPARγの関与も示唆されている.マスト細胞は寄生虫感染やハチ毒などの外来侵襲に対する即時防御に重要で,脱顆粒によるヒスタミンやプロテアーゼ放出は病原体排除や毒素中和に寄与する.PAF-AH2–ω3エポキシド経路による感受性増強は,本来こうした生体防御反応への適応として進化した可能性が高い.しかし現代の清潔な環境では,この経路が過剰に作動し,アレルギー反応を助長する一因となりうる.進化的観点からもPAF-AH2経路は注目される.
PAF-AH2により産生されるω3エポキシドは,マスト細胞と線維芽細胞のクロストークを介して組織恒常性の維持にも寄与する(図3B).肺高血圧症モデルでは,PAF-AH2欠損によりω3エポキシドの産生と分泌が低下し,線維芽細胞に対する抑制作用が弱まる.その結果,TGF-β/Smad2経路が過剰に活性化し,血管周囲の線維化が進行して右心不全を引き起こす8).ヒトにおけるPAFAH2の病原性変異も,この経路の破綻と血管リモデリングとの関連を示唆している.代表的なω3エポキシドである17,18-EpETEは,GPR40(脂肪酸受容体)を介して接触性皮膚炎を抑制するなど,状況依存的に多様な生理活性を示す.以上より,PAF–AH2–ω3エポキシド経路は,マスト細胞と微小環境の連携を通じて多様な病態に関与することから,有望な治療標的として注目される.
4. 細胞外脂質代謝によるマスト細胞機能の時空間制御
分泌性PLA2(sPLA2)は,構造上の特徴に基づきI/II/V/X型,III型,XII型の3群に分類される11種類の酵素群であり,それぞれ異なる基質特異性や組織発現パターンを示す.我々はこれまで,sPLA2が細胞外小胞,損傷細胞膜,リポタンパク質,肺サーファクタント,食餌脂質,微生物膜といった細胞外基質に作用し,脂質メディエーター依存的あるいは非依存的に,組織恒常性や病態形成を制御することを明らかにしてきた9).従来は,過剰発現や外因性添加などの非生理的条件に基づく解析が主流であったが,全sPLA2欠損マウスを用いた網羅的解析により,複数のsPLA2がマスト細胞の分化・成熟・機能に関与することが明確となってきた.本節では,特にsPLA2-IIIおよびsPLA2-IIAに焦点を当て,マスト細胞機能におけるその生理的意義を概説する.
1)sPLA2-IIIによる細胞外小胞膜の分解とマスト細胞成熟
マスト細胞の成熟度は,放出されるメディエーターの種類や量に影響し,アレルギー応答の強度を左右する.その分化・成熟は,線維芽細胞とのクロストークなど微小環境により段階的に調節される.中でも,線維芽細胞由来の幹細胞増殖因子(SCF)とマスト細胞のKit受容体との結合は,分化・成熟・生存を支える主要なシグナル経路として機能するが,これだけでは不十分で,ヒスタミン,ヘパリン,サイトカイン,接着因子など複数因子の協調が不可欠である.こうした複雑なネットワークは近年になってようやく解明が進んでいる.
ハチ刺傷によるアナフィラキシーは,IgE依存性だけでなく,毒成分によるIgE非依存性経路でも誘発される.ハチ毒には大量のsPLA2(III型)が含まれており,これはマスト細胞の細胞膜を直接障害して大量のリゾリン脂質を生成する.その結果,膜透過性が上昇し,脱顆粒や炎症性メディエーター放出を引き起こしてアナフィラキシーを誘発する.哺乳類ではsPLA2-IIIが唯一のホモログである.sPLA2-IIIはマスト細胞の分泌顆粒に局在し,IgE/アレルゲンやSCFの刺激で分泌される10).sPLA2-IIIの過剰投与はアナフィラキシー様反応を誘発し,欠損マウスではIgE依存性・非依存性の応答がともに低下する.この欠損マウスではマスト細胞数は正常であるが,顆粒の未熟化,ヒスタミン・プロテアーゼ・FcεRI発現の低下が認められる.さらに,SCF存在下で線維芽細胞と共培養した骨髄由来マスト細胞(BMMC)は通常成熟するが,sPLA2-III欠損BMMCでは成熟マーカーの発現やPGD2産生が著しく低下する.
PGD2合成酵素L-PGDSや受容体DP1の欠損は,いずれもsPLA2-III欠損と同様にマスト細胞の成熟不全とアナフィラキシー応答の減弱を引き起こす10).L-PGDSは線維芽細胞に,DP1はマスト細胞に発現しており,いずれかを欠損または阻害すると共培養系での成熟が阻害される.これらの結果から,sPLA2-III依存的に産生されたPGD2によるパラクリン制御の存在が示唆される.
PGD2以外の脂質メディエーターの関与やsPLA2-IIIの標的膜,他の成熟因子との連携については未解明な点が多い.そこで我々は,脂質代謝関連因子の欠損マウスを網羅的に解析した.その結果,sPLA2-III, L-PGDS, DP1に加え,LPA受容体LPA1の欠損もマスト細胞の成熟不全およびアナフィラキシー応答の低下を引き起こすことが明らかとなった11).共培養実験では,LPA1がマスト細胞成熟に必須であり,特に線維芽細胞側での欠損によりヒスタミン合成,脱顆粒,PGD2産生,およびサイトカイン誘導が著しく低下した.さらに,LPA1欠損環境では野生型マスト細胞も成熟できず,LPA1が成熟に適した微小環境形成に不可欠であることが示唆された.
網羅的遺伝子発現解析により,マスト細胞成熟には線維芽細胞との接着が不可欠であり,LPA1は接着分子群の発現制御に関与することが示された.実際,LPA1欠損ではマスト細胞側のインテグリンβ2/β3および線維芽細胞側のそのリガンドVCAM-1の発現が低下し,成熟が阻害された11).以上より,LPA1依存的に誘導されるVCAM-1とインテグリンの相互作用が,マスト細胞成熟を支える主要機構の一端であると考えられる.
LPAは,PLA1またはPLA2に由来するリゾリン脂質が,リゾホスホリパーゼD活性を持つ酵素オートタキシン(ATX)によって代謝されることで産生される.LPA1欠損では,共培養系において線維芽細胞に誘導されるATXおよびIL-33の発現が低下し,さらにATXの阻害やノックダウンによってもマスト細胞の成熟が抑制された11).また,阻害剤処理によりATXやLPA1の発現誘導自体が低下したことから,LPA1シグナルがATXやLPA1の発現を促し,LPA産生と受容体シグナルをさらに高めるフィードフォワードループ(自己増幅的)として機能すると考えられる.さらに,シングルセルRNAシーケンスおよびRNA in situハイブリダイゼーション解析により,ATXとLPA1はいずれもマスト細胞周囲の線維芽細胞に発現しており,共培養でみられたクロストーク機構がin vivoでも作動している可能性が示された.
IL-33は接着,成熟,活性化,サイトカイン産生など多面的にマスト細胞を調節する.従来は壊死に伴う受動的放出が主とされてきたが,近年ではガスダーミン依存的膜孔形成や細胞外小胞を介した能動的放出も報告されている.共培養系では,IL-33は線維芽細胞から放出され,LPA1欠損下でその分泌が著しく低下した11).さらに,線維芽細胞におけるIL-33欠損やマスト細胞IL-33/ST2受容体遮断でも成熟が抑制され,IL-33欠損マウスもLPA1欠損と類似の表現型を示した.これらの結果から,LPA1シグナルは線維芽細胞におけるIL-33の発現・放出を促し,IL-33/ST2経路を介してマスト細胞成熟を制御すると考えられる.
さらに,LPA1シグナルはアラキドン酸代謝経路の活性化にも関与する.アラキドン酸はシクロオキシゲナーゼ(COX-1/2)により各種プロスタノイドに代謝される.マイクロアレイ解析では,共培養後の線維芽細胞においてLPA1欠損によりPG合成経路が特に低下していた11).プロスタノイド受容体阻害剤を用いたマスト細胞成熟の阻害スクリーニングでは,L-PGDSやDP1の阻害がマスト細胞の成熟を抑制し,PGD2の関与が示唆された.実際,LPA1依存的に線維芽細胞でL-PGDS発現とPGD2産生が促進され,LPA1欠損下ではこれらが減少した.また,線維芽細胞におけるCOX-1のノックダウンもPGD2産生と成熟を阻害した.これらの結果から,sPLA2-IIIによって細胞外リン脂質から切り出されたアラキドン酸が線維芽細胞に供給され,COX-1–L-PGDS経路がLPA1シグナルにより活性化されることでPGD2産生が高まり,マスト細胞成熟を促進すると考えられる.
マスト細胞のsPLA2-IIIおよび線維芽細胞のLPA1の欠損は,成熟関連遺伝子の約8割に共通する発現変動を引き起こし,sPLA2-IIIがLPA産生に関与する可能性が示唆された11).リピドミクス解析により,sPLA2-IIIは共培養中に放出される細胞外小胞の膜リン脂質[主にホスファチジルコリン(PC)やホスファチジルエタノールアミン(PE)]を加水分解し,その結果,LPAの前駆体となるリゾリン脂質[リゾホスファチジルコリン(LPC)やリゾホスファチジルエタノールアミン(LPE)]およびアラキドン酸を遊離することが明らかとなった.生成されたリゾリン脂質は,線維芽細胞から分泌されるATXによってLPAに変換される.実際,sPLA2-III欠損マスト細胞との共培養系や欠損マウスの皮膚ではLPAおよび関連因子の発現が低下し,この成熟・機能異常はLPAまたは野生型細胞外小胞の補充により回復した.さらに,この経路はヒトでも機能的に保存され,阻害実験によりその生理的意義が確認された.
以上より,sPLA2-IIIとATXの協調により,細胞外小胞のリン脂質二重層が酵素反応の基質となり,そこから産生されるLPAがマスト細胞と線維芽細胞間のクロストークを仲介し,成熟関連因子の発現を段階的に制御することが明らかとなった(図4A)11).この細胞外脂質ネットワークは,マスト細胞の機能を根幹から制御する新たな原理を提示し,アレルギー治療の新たな標的となりうる.特に本研究は,従来は細胞外小胞の“内部”に含まれるタンパク質や核酸が情報伝達の主役とみなされてきた中で,小胞の脂質二重膜そのものが脂質シグナル分子の供給源として機能するという新たな概念を示した点で意義深い.この発見は,細胞外膜を動的な情報ハブとして捉え,免疫制御の新たな理解の枠組みを提示するものである.
2)sPLA2-IIAによる腸内細菌叢の制御と皮膚マスト細胞の遠隔活性化
sPLA2-IIA(PLA2G2A)は,関節リウマチ,敗血症,COVID-19などの炎症性疾患で強く誘導される“炎症性sPLA2”であり,脂質メディエーターやDAMPを介して無菌性炎症を増幅する一方,細菌膜を分解する“抗菌性sPLA2”として自然免疫にも関与する12).ヒトやラットでは広範な組織で発現するが,マウスでは系統によって発現パターンが大きく異なる.C57BL/6系など一部の系統では,自然発生的な遺伝子変異によりPla2g2a遺伝子が不活性化しており,機能解析に制約がある.これに対し,BALB/c系などでは遺伝子変異がなく,機能を持つ正常なPla2g2a遺伝子を有するが,その発現は腸管パネート細胞に限局している.BALB/c系の欠損マウスを用いた解析から,腸内細菌叢を介して皮膚マスト細胞を遠隔制御する機構が明らかにされている.
sPLA2-IIA欠損マウスでは,皮膚がんモデルにおける腫瘍形成が減弱し,さらにマスト細胞の脱顆粒やIgE依存的アナフィラキシー反応も弱まることから,この酵素がマスト細胞の機能発揮に関与している可能性が示唆されている13, 14).興味深いことに,こうした「反応が弱まる」という表現型は,飼育施設によって強さが異なり,欠損マウスと野生型マウスを同じケージで飼う(共飼する)と消失する.これは,腸内環境,特に腸内細菌叢の違いがマスト細胞応答の強さに影響していることを示唆している.実際,糞便メタゲノム解析の結果,sPLA2-IIA欠損や飼育条件の違いに応じて腸内細菌叢の組成が変化しており,その中でもRuminococcaceae科の細菌の割合が,皮膚でのIgE依存的アナフィラキシー反応の強度と強く相関していた14).この結果は,Firmicutes門に属するRuminococcaceaeやLachnospiraceaeがアレルギーの重症度に関与するという先行報告とも一致する.また,喘息との関連が示唆されるMucispirillum属も,欠損マウスのアレルギー応答性に影響している可能性がある.これらの知見から,腸管に発現するsPLA2-IIAは,腸内微生物叢を介して皮膚のマスト細胞機能を間接的に制御していると考えられる.このように,腸内の酵素や細菌の変化が,遠く離れた皮膚の免疫反応を左右するという仕組みは,“腸–皮膚–免疫連関”という新しい概念で説明できる(図4B).さらに,この腸内環境の変化は,乾癬や関節炎などほかの免疫疾患にも影響することが報告されており13, 15),sPLA2-IIAは全身の免疫恒常性や炎症応答を調整する重要な宿主–微生物間の制御因子と位置づけられる.
一方,sPLA2-IIAは腸管パネート細胞だけでなくマスト細胞からも分泌される.実験的にマスト細胞でこの酵素を強制発現させたり,外因性添加したりすると,マスト細胞の脱顆粒やアラキドン酸代謝を介したエイコサノイド産生が促進されることが示されている.さらに近年,線維症やがんの病態では,sPLA2-IIAがマスト細胞のみならず線維芽細胞からも分泌される可能性が示唆されており,どの細胞由来のsPLA2-IIAがどのような機能を担っているのかを明らかにすることが今後の課題である.治療的観点からは,sPLA2阻害剤(varespladib)が動物モデルで炎症や組織障害を抑える,いわゆる病態抑制効果を示すことも報告されている.ただし,varespladibは複数のsPLA2アイソザイムを同時に阻害するため,特定のアイソザイムを標的にした場合の効果や副作用を区別する必要がある.また,sPLA2-IIAは,酵素としての作用に加えて,いくつかのsPLA2に結合する膜受容体(PLA2R1)を介して炎症や免疫応答に関与する分子として再評価されている16).