1)エネルギー代謝の概説
我々生体はATPの高エネルギー結合から必要なエネルギーを取り出すシステムが発達しており,エネルギー代謝を語る上でATPの産生経路は重要な意義を持つ.進化史上古くから生体に備わっている解糖系代謝はグルコース1分子から正味2分子のATPしか産生できない.しかし,解糖系によりグルコースから生成したピルビン酸がアセチルCoAを経て,ミトコンドリアでさらに代謝されると,完全酸化でグルコース1分子から正味30~38分子のATPが産生される.このことは,ミトコンドリアでのATP産生がいかに効率がよいかを示している.ミトコンドリアでのATP産生は電子伝達系に大きく依存しており,適切な電子の流れがATP産生の駆動力を生み出している.
よって電子・還元当量がエネルギーの大元であるともいえるが,この還元当量のキャリアとなっているのがNADHを代表とする補酵素である.NADPHも同様に還元性を有しているが,リン酸基をリボースに一つ加えただけで(図1,緑囲み部分),その役割はエネルギーキャリアよりも同化反応の促進が中心になっており,これに関しては別途記載したい.両者ともピリジンヌクレオチドの部位に還元性を保つことができる(図1,赤囲み部分).脂肪酸CoAもそのミトコンドリアでの酸化から還元当量を取り出すことができ,エネルギーキャリアの役割を持つ(図1,赤囲み部分).興味深いことにNADH/NAD+,NADPH/NADP+,ATP,脂肪酸CoAのいずれもがアデノシン骨格を有し,これら代謝が潜在的な共通項を持ち合わせていることを示唆している(図1,青囲み部分).
こうした代謝とともに生命が複雑化してきた背景もあり,エネルギー代謝の二極である解糖系代謝とミトコンドリアでの酸化的な代謝のバランスは免疫細胞の極性,腫瘍細胞の増殖など多くの生命現象,病態に利用されており,以下に述べる狭義の代謝疾患(肥満,糖尿病など)以外にも幅広い生命現象,病態を調節している.よって本稿では肥満病態を中心に記述するが,エネルギー代謝は非常に幅広い生命現象に影響を与えている.
2)肥満・過食とエネルギー代謝
肥満などの過栄養状態では解糖系にグルコースが過剰に流入し,NADHも過剰に産生される.これらがミトコンドリアに電子受容能を超えて流入すると,過剰な還元当量は酸素に渡されるなどして活性酸素となる.こうした状態は還元ストレスと呼ばれ,さまざまな肥満関連疾患の病態に関与することが報告されている1).過栄養状態では余剰なエネルギー基質は同化反応により脂肪酸CoAなどの合成に使われ,こうした脂質の過剰な蓄積(脂肪毒性と呼ばれる)も,さまざまな形で病態に寄与することが知られている.肥満・過栄養の病態はこうしてエネルギーキャリア,還元当量の過剰な状態によって惹起されているともいえる.逆にいえば,これらに対する容量を増加させる戦略やこれらを消費させる戦略は,肥満やその関連疾患の治療標的となる可能性がある.
逆に絶食やカロリー制限ではNADHが減少しNAD+が増加した状態になる.適度なカロリー制限は寿命の延伸作用や健康状態の改善作用があることが知られ,NAD+によって活性が調節されるSirtuinファミリーがカロリー制限によって得られるbenefitsを説明するものとして多くの知見が得られている.近年肥満やそれによるメタボリックシンドロームの治療に,カロリーロスを一つの薬効としたsodium glucose co-transporter 2 (SGLT2)阻害剤(腎尿細管での糖の再吸収を阻害し,尿糖排泄後進によるカロリーロスを促す)や,glucagon like peptide 1 (GLP-1)受容体作動薬(食欲抑制によるカロリーロス)が,多面的な薬効で多くの症例に処方されているのもこうした観点から興味深い.NAD+を中心とした研究が盛んに行われてきた一方で,NADHによって活性化される分子の代表例であるC-terminal binding proteins (CtBPs)の肥満・過栄養などでの役割はほとんど検証されていなかった2).
2. 代謝産物センサーCtBP2の肥満・過栄養での役割
1)代謝産物センサー機能を有する転写共因子CtBPs
我々は近年NADHやNAD+によって活性化されるが,NAD+よりもNADHにより親和性が高い代謝産物センサーCtBPsについて,とりわけ肥満・代謝異常に関する研究を行っており,肥満病態と同時に概説してみたい.CtBPsはアデノウイルスEIAタンパク質のC末端に結合することから命名されており,哺乳類ではCtBP1とCtBP2の二つのアイソフォームがある.基本的には転写共因子として機能し,標的転写因子に結合し,そこにエピゲノムの修飾因子をリクルートすることで転写調節を行っている.CtBP2のN末端には核移行シグナルがあり,CtBP1はそれを欠いている.Rossmann foldと呼ばれる代謝産物収容ポケット構造があり,NADHやNAD+を収容すると多量体化する.多くの場合,多量体化することで活性化され,標的転写因子との結合能を得る.CtBPsそのものにDNA結合能はないため,転写因子との結合によって初めて転写修飾に寄与することができる.よって代謝変動をエピゲノム変化に伝える重要な中継因子である.NADHに親和性が高いことからNADHが増加するような代謝によって活性化されると報告されたが3),NADH/NAD+比を認識できる程度の親和性の差異があるかに関しては議論もある.CtBP2はその核移行シグナルによってほぼ核内の局在を示し,CtBP1はCtBP2とヘテロ二量体を形成することで核にも移行,細胞質と核内の両方の局在を示すとされる.全身性の欠損マウスに関しては両遺伝子とも胎内発達異常を来すが,CtBP2の欠損マウスは胎生致死であるが,CtBP1の欠損マウスは胎内発達異常を呈するものの一定数の仔を得ることができる.こうした全身欠損の生体への影響などからCtBP2の方がより種々の生命現象への寄与が大きい可能性がある.その代謝産物センシングに関してはNADHやNAD+に親和性を示すものの,NADPHやNADP+になると極端に親和性が低下する2).上述のとおり,還元性を示すNADH, NADPHの中でNADHに親和性を示すことは,同化反応よりエネルギー代謝との連動性が強いことが示唆される.
ここで少しNADHやNAD+の代謝を詳しくみてみると,NAD+のミトコンドリアへのトランスポーターは同定されているが,NADHはトランスポーターがなく,また極性も高い分子であるためミトコンドリア膜を通過できず,細胞質とミトコンドリアでNADHの量的制御は区分けされた形で行われている.細胞質において解糖系などで産生されたNADHをミトコンドリアでの酸化的なエネルギー産生に連動させるには,リンゴ酸アスパラギン酸シャトルやグリセロールリン酸シャトルのような間接的な代謝を利用する必要がある.ミトコンドリアではケトン体産生に寄与するβ-ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼ(BDH1)によるアセト酢酸からβ-ヒドロキシ酪酸への変換反応がNADH, NAD+の酸化還元反応と平衡状態になっており,ミトコンドリア内のNADHバランスの制御に重要な反応となっている(図2).細胞質では解糖系のグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼもNADH供給源となっているが,乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)による乳酸とピルビン酸の変換反応がNADH, NAD+の酸化還元反応と平衡状態にあり,こうした代謝が細胞内のNADH/NAD+バランスの制御に大きな役割を果たしている(図2).細胞内局在からCtBPsは細胞質・核画分のNADH/NAD+比に反応することになる.少し補足すると,こうしたNADH/NAD+比と平衡反応にある酵素反応は遊離のNADH/NAD+比と平衡にある.メタボロームやNADHあるいはNAD+の測定キットなどの定量では種々のタンパク質に結合したNADHあるいはNAD+も含めて測定されており,酵素反応の平衡状態を議論するときには遊離のNADH/NAD+比を評価しなくてはならないが,現状これを直接定量する方法はなく,乳酸・ピルビン酸比などから推定する必要がある.
上述のとおり,還元性を有するNADHとNADPHでは前者がエネルギー代謝に,後者が同化反応に使われることが多いが,CtBPsはNADHに高い親和性を示すが,リン酸基が付加されたNADPHになると極端に親和性が低下する.構造上非常に類似性の高いNADHとNADPHであるが,代謝における役割は大きく変化し,CtBPsのような分子がこうした明確な役割分担の一部を担っていると思われる.
2)CtBP2の肥満病態での役割
我々は肥満病態でのCtBPsの役割を明らかにする上で,初期のスクリーニング実験でもCtBP1よりもCtBP2の方が代謝病態への寄与が大きいという感触を得ていたため,主としてCtBP2に注力する形で研究を進めてきた.肥満病態との関わりを見いだす一つの手がかりになったのは脂肪酸CoAのセンシング機能である.CtBP2のRossmann foldポケットにはNADHやNAD+が収容されるが,構造的にはアデノシン骨格がポケットに入り,ピリジンヌクレオチドの部分はポケットからはみ出るような形になっている.脂肪酸CoAもCoA部分にアデノシン骨格があり(図1,青囲み部分),検証の結果CoA部分がRossmann foldポケットに,脂肪酸のアシル基がCtBP2の二量体の界面に疎水性に相互作用する形で,CtBP2は脂肪酸CoAとも結合することが明らかになった.活性化に必要な二量体の界面に疎水性のアシル基が位置する形となり,またRossmann foldポケットはCoAがNADHと競合する形となるため,脂肪酸CoAが結合するとCtBP2は単量体となり,転写因子との結合性を失う(図3).
臓器としては肝臓から解析を開始した.肥満の肝臓では糖新生が亢進し糖尿病の発症につながり,脂質合成が亢進し脂肪肝になるが,これは従来のインスリンシグナルを中心とした分子基盤ではやや説明が難しかった.インスリンシグナルは絶食時,摂食時の糖新生,脂質合成をきれいに説明する.摂食時にはインスリンが分泌されるが,エネルギー不足はなく,低血糖になる危険性はないため,インスリンシグナルは転写因子Forkhead box O1 (FoxO1)のリン酸化を介して糖新生を遮断する.さらにインスリンシグナルは転写因子sterol regulatory-element binding protein 1 (SREBP1)などを活性化し,余剰エネルギーを脂質にして蓄積する.逆に絶食時はインスリンの分泌が低下し,低血糖を防止すべくFoxO1が活性化し,エネルギーを糖新生に優先的に使い,SREBP1は抑制される.ただ,肥満になると全身的なインスリン抵抗性が惹起されることは周知のとおりであるが,このインスリンシグナルが遮断されると素直に考えると肥満の肝臓における糖新生の亢進は説明されるが,脂質合成の亢進は説明がつかず,糖新生経路のみインスリン抵抗性になるとする選択的インスリン抵抗性4)の概念が提唱されたが,議論もある状況であった(図4).
我々の同定したCtBP2を中心とする代謝システムは,こうした肥満の肝臓にみられる代謝異常を説明することができた.CtBP2はFoxO1やSREBP1と相互作用し,これらに抑制的に働いていることが明らかになった.さらに詳細は今後の課題であるが,炎症も抑制した.健常ではこれら転写因子を抑制することで糖新生や脂質合成による糖尿病や脂肪肝の病態に抑制的に働き,肥満で不活性化されると糖新生や脂質合成が脱抑制により活性化し,病態発症に寄与する.逆に肥満の肝臓でCtBP2を活性化すると糖尿病や脂肪肝に著明な改善効果が認められた(図4)5).肥満の肝臓では脂肪酸の燃焼障害も脂肪肝の病態に大きな役割があるが,肥満の肝臓で単量体化したCtBP2は脂肪酸燃焼をつかさどる転写因子PPARαに結合しその機能を抑制して,こうした病態に寄与することも明らかになった6).
肥満病態では膵β細胞も重要な役割を果たしている.肥満病態ではまずインスリン抵抗性が誘導されるが,耐糖能を維持すべく膵β細胞は病初期はインスリンの過分泌を行う.ただ,この病初期から膵β細胞機能は経時的に低下しているとされ,インスリンの過分泌ができなくなった時点でインスリン抵抗性を代償することができなくなり,糖尿病が発症するとされる(図5).CtBP2はこうした肥満の膵β細胞機能低下にも重要な役割を果たしていることを見いだした.健常ではCtBP2は転写因子neurogenic differentiation 1 (NEUROD1)を中心とした転写因子複合体を形成し,インスリン遺伝子など膵β細胞の機能維持に重要な遺伝子群の発現を維持している.膵β細胞は酸化ストレスの消去能が脆弱で,肥満では各組織で酸化ストレスが誘導されるが,膵β細胞は他臓器と比べてとりわけ高い酸化ストレスが誘導されることが知られている.CtBP2は強い酸化ストレスにさらされるとポリユビキチン化されタンパク質レベルで分解されてしまうことが明らかになり,これによりβ細胞の広範な機能低下につながることが明らかになった.興味深いことにCtBP1は酸化ストレスで分解されず,詳しい機序はこれからの課題であるが,肥満病態にCtBP2がCtBP1よりも強く寄与することを裏づける一つの知見でもある.実際にヒトもマウスも肥満ではCtBP2タンパク質が減少しており,膵β細胞特異的CtBP2欠損マウスではインスリン分泌不全型の糖尿病を呈した(図6)7).
また我々はCtBP2が転写因子NRF1/2を介して酸化ストレス消去に働くことも報告しており,これら知見を合わせると,酸化ストレス誘導の初期にはCtBP2がその抑制に働くが,この処理能を超えるストレスにさらされるとCtBP2タンパク質そのものが分解されてしまい,酸化ストレスに打ち勝つことができなくなるものと考えられた8).
CtBP2は幅広い組織に発現しており,肥満病態は全臓器的に広がりがあるため,現在その他の組織での機能解析も行っている.肝臓での糖新生・脂質合成の同時亢進や脂肪酸燃焼障害,膵β細胞の機能低下など肥満の中核的な病態を説明しており,他の臓器でも役割があると思われる.また冒頭記載のとおり,代謝はさまざまな生命現象を調節しているため,肥満病態以外の病態での役割も検討している.CtBP2の機能喪失が肥満病態につながり,その機能回復は新しい形での肥満病態,メタボリックシンドロームの治療戦略になる可能性がある.
3. CtBP2を中心とする研究からみえるNADHやNAD+代謝の意義
上述のとおり,NADHの過剰は還元ストレスの発生を促しさまざまな病態につながると考えられている.一方でNADHによって活性化されるCtBP2の活性化はさまざまなmetabolic benefitsがある.我々は投稿中の知見も含めて考えると,これらはhormeticな反応をみているものと考えている.hormesisとは生体毒などが低用量では防御反応などの誘導から生体にbenefitsをもたらし,高用量になると障害性に働くというものであるが,NADHも増加した初期にはCtBP2を活性化し生体防御能を高めるが,こうした効果を上回る程度の増加になると酸化ストレスの亢進などの形で生体に悪影響を及ぼす.先述のとおり乳酸デヒドロゲナーゼは乳酸・ピルビン酸の産生がNADH/NAD+の酸化還元と共役しており平衡反応となっているため,乳酸刺激は細胞内の遊離NADHを増加させる.乳酸も病態に防御的に働くこともあれば病態促進的に働くこともあり,NADH/NAD+のバランスの影響のみではないと思われるが,NADHのhormeticな効果も関連があるのかもしれない.昨今NAD+が寿命延伸効果など生体機能を向上させるとの期待が高まっており,ヒトへの応用も期待されているが,NAD+そのものを投与することはできないため,その前駆体(NMNなど)を投与してNAD+を増加させる戦略が広く用いられている.ただ増加したNAD+はNADHと常にそのときの代謝状態を反映して平衡反応になっていることが想定され,NAD+を増加させたときにNADHがどのように調節されているかも考慮する必要がありそうである.またNADH/NAD+をリン酸化する形でNADPH/NADP+に代謝するNADキナーゼも同定されており,NAD+の増加を中心とした健康増進戦略においてはこうしたピリジンヌクレオチドの全容を考慮しつつ,治療応用を考えていく必要があると思われる.実際にCtBP2もこれまでと異なる機序で老化と関わることがみえてきている.CtBP2は代謝性に活性化されるとエクソソームを介して細胞外に分泌され,これを受け取る細胞でNADH依存性還元酵素であるCYB5R3と結合し活性化,受容細胞を還元状態に傾ける.これによって受容細胞のCtBP2が活性化され,転写因子FoxM1が活性化されると代謝酵素PAICSの発現が増加する.PAICSは酵素活性により代謝産物AICARを増加させ,これによってAMPKが活性化される.CYB5R3, FoxM1, AMPKのいずれもが活性化されると抗老化作用を示すことが知られており,実際にエクソソームCtBP2には抗老化作用があることが明らかになった9)(図7).
また従来はNADHとNAD+,NADP(H)とNAD(H)のバランスなどが代謝の理解に議論されることが多かったが,NADHと脂肪酸CoAのバランスが代謝に与える影響というのは議論されることがほぼなかった.CtBP2の研究により,この二つの代謝産物のバランスも代謝制御に重要であり,一見共通項のなさそうなこの二つの代謝産物もアデノシン骨格を共有し,還元性を有している点で,生体レベルでバランスを保つ必要があることが示唆される.肥満病態はよく進化論的な観点から,我々哺乳類は飢餓に備えるシステムを発達させているが飽食に対するシステムが脆弱であることから発生していると論じられる.脂肪酸CoAのような脂質も飽食によって増加するが,CtBP2を過度に不活性化してしまうレベルに増加する状況に我々の生体は準備ができていないのかもしれない.
エネルギー代謝は冒頭記載のとおり酸化還元代謝(レドックス)がその大元にあり,そうした代謝の理解が重要である.我々が注目しているCtBP2を切り口にこうした代謝の新しくみえてきた部分を議論してきたが,今回本稿で取り上げられなかった代謝も含め,まだまだ新しい代謝の理解が期待できる領域である.代謝は昨今のnon-target metabolomicsなどの発展もあり,機能性を有する新しい代謝産物が数多く同定され主要雑誌に報告されており今後こうした研究の展開がこうしたエネルギー代謝,レドックスなどの基礎知見を切り開き,新しい医療に応用されることを期待している.