Online ISSN: 2189-0544 Print ISSN: 0037-1017
公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 97(6): 763-770 (2025)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2025.970763

特集Special Review

肥満病態の進展に重要な脂肪組織の血管新生機構Angiogenesis and adipose tissue dysfunction: Insights into obesity pathophysiology

富山大学病態制御薬理学Department of Clinical Pharmacology, University of Toyama ◇ 〒930–0194 富山市杉谷2630 ◇ 2630 Sugitani, Toyama 930–0194, Japan

発行日:2025年12月25日Published: December 25, 2025
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肥満は老化を加速する要因であり,その病態には共通する点が多い.過剰に摂取された栄養は主に脂肪組織に蓄積されるが,その際に脂肪組織はその体積を数倍に増大させる.このきわめて高い組織可塑性は,脂肪組織の血管新生能により成立する.本稿では,肥満に伴う脂肪組織の血管新生進展機構について解説し,その際に重要な低酸素シグナル,主要な血管新生因子である血管内皮増殖因子(VEGF)の役割について紹介する.また,脂肪組織血管新生と全身のエネルギー代謝との関連性について,現在複数の一見矛盾する報告がなされているため,これに対する考察を述べる.さらに,肥満で増加する血管新生因子の血小板由来増殖因子B(PDGF-B)による血管からのペリサイト脱離を介した血管新生機構について,著者らの研究成果を中心に紹介する.

1. はじめに

世界保健機関(WHO)によると,2022年現在,世界の18歳以上の人口のうち25億人が過体重,8億9千万人が肥満とされている1).肥満と細胞老化は密接に関連しており,老化細胞は加齢と独立して肥満や糖尿病,代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease:MASLD)などの代謝疾患で増加する.加齢はこれら代謝疾患に加え,心血管疾患やがんなどの主要なリスク因子である2).また老化の特徴である慢性炎症,前駆細胞の枯渇,細胞間相互作用の変化,エピゲノム変化,ミトコンドリア機能障害などは肥満病態の悪化にも寄与する.実際に老化細胞の除去は,加齢に伴う臓器障害だけでなく高脂肪食(high fat diet:HFD)負荷マウスの肥満病態を改善することが示されている3)

脂肪組織は単に脂肪細胞の集団ではなく,脂肪幹細胞,血管を構築する細胞に加え,さまざまな免疫細胞によりその機能を担っている.脂肪細胞の表面は毛細血管と神経線維で覆われており,神経の支配を受け,また表面に存在する多種の受容体によりその機能が制御されている4).また脂肪細胞は栄養素の貯蔵だけでなく,さまざまなアディポカインを産生する.さらに脂肪組織は循環miRNAの主要な供給臓器であることも報告されている5).したがって,脂肪組織は全身の恒常性維持に重要であり,肥満における脂肪組織の機能障害は細胞老化や代謝障害に関連する疾患の発症・進展に強く影響する.

2. 低酸素とHIF1α活性化に伴う肥満病態進展

内臓脂肪組織の肥大化は肥満の基盤病態であるインスリン抵抗性の主要な誘導機構であることから,脂肪組織の肥大化機構の解明は肥満関連疾患の病態理解と治療戦略の開発に重要である.脂肪組織の増大に伴い,過度に肥大化した脂肪細胞は血管からの酸素の供給が不足し,低酸素状態を呈する.さらに,肥大化脂肪細胞による毛細血管の圧排は,循環不全による低酸素状態の進展を助長する.その結果,低酸素応答性転写因子が活性化され,血管新生因子が誘導される.しかし多くの場合,血管新生が不十分なため脂肪組織の低酸素は改善されず,肥満病態が増悪する6, 7).低酸素シグナルの亢進は代謝恒常性維持に重要なアディポネクチンを減少させレプチンを増加するなど,さまざまなアディポカイン産生に影響する.また,細胞外基質の構成を変化させるマトリックスメタロプロテアーゼ,IL6などの炎症性サイトカインを誘導することで肥満病態を悪化させる8)

肥満病態進展における代表的な低酸素応答性転写因子として,低酸素誘導因子(hypoxia inducible factor:HIF)が存在する.HIFはαとβの両サブユニットから構成され,HIFαにはHIF1α, HIF2α, HIF3αの三つのアイソフォームが存在する8).主要なアイソフォームであるHIF1αとHIF2αはその標的となる転写物に差異を認め,また低酸素の早期にはHIF1αがシグナルを担い,その後の慢性的な低酸素に対しHIF2αがスイッチして機能する,差時的な作用特性を示す9).肥満病態における脂肪組織でのHIFの重要性が,さまざまな遺伝子改変モデルマウスにより示されてきた.脂肪細胞HIF1α活性化マウスは,白色脂肪の線維化に伴う慢性炎症の亢進を示し,褐色脂肪細胞の減少により肥満を示す10, 11).これらの知見と一致し,脂肪細胞特異的HIF1α欠損マウスはHFD負荷に際し脂肪細胞からのケモカインの放出が抑制され,脂肪組織の慢性炎症とインスリン抵抗性が軽減する12).しかし,熱産生に対するHIF1αの役割には相反する報告がされている.脂肪特異的ドミナントネガティブHIF1α変異マウスは褐色脂肪組織の血管新生の減少を示し,褐色脂肪の白色脂肪化により肥満と耐糖能障害の悪化を招く13).また脂肪細胞特異的にm6A脱メチル化酵素であるFTOを欠損するマウスではその基質であるHIF1αのタンパク質量が増加し,HIF1α依存的に熱産生遺伝子Ppargc1a, Prdm16, Ppargの発現が誘導され熱産生が亢進する14).さらに,脂肪特異的HIF2α欠損マウスは体重増加,耐糖能とインスリン抵抗性の悪化,脂肪組織血管新生の低下を来す12, 15).しかしその後,鼠径部白色脂肪と褐色脂肪では低温曝露によりHIF1αとHIF2αの発現が増加すること,脂肪細胞特異的HIF1α欠損マウス,HIF2α欠損マウス,両欠損マウスのいずれも低温曝露時に高い熱産生能を示すことが報告された16).このように,マウスの表現型は各研究間で矛盾するため,その解釈は困難である.各遺伝子改変マウスの表現型には,「HIF1αによる脂肪細胞への直接的な作用」と「血管新生を介した間接的な影響」の両者が反映する程度の違いがあり,実験間で差異が生じていると考えられる.

肥満進展過程において,脂肪間質細胞は血管内皮増殖因子(vascular endothelia growth factor:VEGF)をはじめとするさまざまな血管新生因子や増殖因子の産生源となる6).脂肪間質細胞に含まれるPdgfrβ脂肪前駆細胞特異的なHIF1α欠損マウスは肥満に伴う内臓脂肪の線維化が抑制され糖代謝が好転するのに対し17),HIF2α欠損マウスでは肥満病態に影響しないことが報告されている18)

肥満に伴う内臓脂肪組織の慢性炎症はインスリン抵抗性の要因として重要である.この際の慢性炎症はマクロファージを主体とするが,HIFはその機能にも影響する.マクロファージにおけるHIF1α欠損マウスは炎症活性の低下,血管新生の増加に伴い耐糖能とインスリン感受性の改善を示す19, 20).一方で,マクロファージおよび内皮細胞におけるHIF2α欠損マウスは肥満病態に明らかな影響を示さないことが報告されている16)

以上の知見をまとめると,肥満に伴う内臓脂肪の低酸素状態は,主にHIF1αを介して脂肪組織の炎症と線維化,マクロファージの炎症活性,ならびに血管新生を制御し,肥満病態の進展と糖代謝の悪化に寄与すると考えられる.

3. 肥満に伴う内臓脂肪の血管新生とVEGF

脂肪組織は生育後の個体において,他の組織に比べきわめて高い可塑性を示し,顕著な肥満患者ではその体積が数倍にも増加する.脂肪組織の肥大化は,個々の脂肪細胞の肥大化(hypertrophy),脂肪幹細胞からの分化による脂肪細胞数の増加(hyperplasia)を伴う.しかし組織の顕著な拡大には,これらに加えて新たに増大した脂肪組織を支持するための血管新生(angiogenesis)が不可欠である6, 7)

脂肪組織はエネルギー貯蔵臓器であり,健全な脂肪組織の肥大化には血管新生による低酸素状態の抑止が重要である.しかしこの事実に反し,血管新生を標的とした脂肪組織の肥大化抑止が代謝に及ぼす影響が検討され,これを改善する可能性が報告されている.はじめに,血管新生阻害剤のTNP-450投与がレプチン欠損により肥満を呈するob/obマウスの体重増加を抑制することが示されたが,本薬剤の投与により摂食の低下も認められたことでその効果の解釈は困難とされた21).その後の研究で,HFD負荷C57BL/6マウスに対するTNP-450投与は,摂食量の減少とエネルギー消費量の増加により体重が抑制されるが糖代謝は改善しないことが報告された22).一方で,白色脂肪組織血管のprohibitinに結合するペプチドにアポトーシス促進ペプチドを融合させて肥満マウスに投与すると,摂食量に影響せずにエネルギー消費を増大させることでマウスの白色脂肪組織を顕著に減少した23).さらに近年では,内皮細胞の増殖を抑制するmethionine aminopeptidase 2(MetAP2)の阻害剤が肥満マウスの体重を抑制すること24),その機構として直接褐色脂肪細胞に作用してエネルギー消費を増加させることが示された25).通常,摂取したエネルギーを適切に脂肪組織に貯蔵できない場合,これらの余剰エネルギーは異所性脂肪蓄積として肝臓や骨格筋,心臓周囲などに蓄積される.これらは代謝を悪化させるだけでなく,心血管リスクの増大につながる17).したがって,これらの報告は脂肪組織の血管新生抑止が脂肪組織のエネルギー蓄積を阻害するだけでなく,全身のエネルギー代謝に影響する機構が存在する可能性を示唆する.その機序として血管新生因子による直接作用,低酸素シグナル,白色脂肪細胞のベージュ化,褐色脂肪細胞の活性化や,脂肪組織へエネルギー蓄積ができない際の中枢神経系を介した代償性のエネルギー消費亢進機構などが想定されるが,その詳細には未解明な点が多い.

全身の血管の新生や維持に,VEGFが中心的役割を果たすことが知られており,脂肪組織においてもその重要性が明らかとされている.しかし腫瘍における血管新生では,低酸素状態により安定化したHIF1によりVEGFの転写と産生が活性化され血管新生が進展するのに対し,VEGFは肥満病態の脂肪組織では十分に誘導されない可能性が指摘されている26).実際に,Emontらが行ったHFD負荷マウスおよびbody mass index(BMI)が40を上回るヒトの脂肪組織のsingle nucleus RNA-sequencing(snRNA-Seq)解析において,肥満状態では脂肪細胞のVEGF-Aの発現が低下する7, 27).この不十分なVEGF-Aの誘導のため肥満病態の内臓脂肪では血管新生が不足し,低酸素シグナル亢進により肥満病態が持続すると考えられる.

VEGFが脂肪組織の血管新生に寄与する根拠となる多くの研究が報告されている.VEGFファミリーの主要な機能を示すのはVEGF-A(以前はVEGFと呼称された)であるが,他にVEGF-B, -C, -D, -E(ウイルスコード),および胎盤成長因子(placental growth factor:PIGF)などのいくつかの関連因子が存在する.VEGF-Aは主に内皮細胞を標的とするが,VEGF-CおよびVEGF-Dは主にリンパ管形成の調節に寄与する.またその受容体にはVEGFR1(Flt-1),VEGFR2(Flk-1/KDR),VEGFR3(Flt-4)が存在する.VEGFR1にはVEGF-A, -B,およびPIGFが,VEGFR2にはVEGF-A, -C, -D, -Eが,VEGFR3にはVEGF-CとDが結合する(図128).脂肪組織血管新生におけるVEGF-Aの機能を明らかにした成績を紹介する.HFD負荷を行ったドキシサイクリン誘導性脂肪細胞特異的VEGF-A過剰発現マウスの内臓脂肪では血管新生に伴い低酸素が抑制され,白色脂肪細胞のベージュ化や褐色脂肪組織の機能改善により糖代謝が改善する29,30).またHFD負荷を行った脂肪細胞特異的VEGF-A欠損マウスは脂肪血管の減少,内臓脂肪組織の肥大化抑制を示すが,低酸素状態の悪化によるアポトーシスと炎症の亢進を生じ,糖代謝は悪化する29).一方で,通常食飼育下でVEGF-Aをテトラサイクリン誘導性に発現低下させると,白色脂肪のベージュ化と褐色脂肪の熱産生遺伝子発現が増加し体重増加が抑制される報告も認める31)

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図1 VEGF, PDGFアイソフォームと結合受容体

VEGF/PDGFファミリーのアイソフォームと各受容体との結合特異性の組合わせを示す図28, 35).VEGF:vascular endothelia growth factor, PIGF:placental growth factor, VEGFR:VEGF receptor, PDGF:platelet derived growth factor, PDGFR:PDGF receptor.

脂肪組織の血管新生にVEGF-Bの関与を検討した成績として,VEGF-B欠損マウスは血管新生が進まないため脂肪組織が小さく,褐色脂肪細胞の熱産生遺伝子発現の低下に伴い白色脂肪細胞サイズの拡大と脂肪の蓄積を示すことが報告されている31).一方で,HFD負荷を行った脂肪細胞特異的VEGF-B過剰発現マウスでは,VEGF-Bが血中に存在するデコイ受容体の可溶化VEGFR1と結合する結果,内在性のVEGF-AがVEGFR2に効率的に作用して脂肪組織血管新生が亢進し,エネルギー代謝の向上と糖代謝の改善を示す32).また,内皮細胞特異的VEGFR1欠損マウスおよび薬理学的VEGFR1阻害は,ともに皮下脂肪のベージュ化に伴う熱産生の亢進によりHFD負荷による肥満が抑制され,糖代謝の改善を認める33).さらに,肥満で増加する皮下脂肪組織のVEGF-Cをマウスの皮下脂肪組織で過剰発現すると,通常食飼育にもかかわらずエネルギー代謝に影響せずに皮下脂肪細胞が肥大化し肥満を呈して糖代謝が悪化すること,VEGF-CとDの中和が肥満病態での糖代謝を改善することも報告されたが34),これらの知見は内臓脂肪の血管新生とは関連しないと考えられる.以上をまとめると,VEGF-Aシグナルは肥満の際の脂肪組織血管新生に中心的役割を果たすが,肥満に伴う内臓脂肪のVEGF-A誘導は不十分である結果,脂肪組織の低酸素状態が進展し肥満病態が持続すると考えられる.

4. 脂肪組織における血管新生因子PDGF-Bの役割

血小板由来成長因子(platelet derived growth factor:PDGF)はVEGF/PDGFに属する増殖因子であり,細胞増殖や分化,神経系の成熟,血管新生に関与する.PDGFはA~Dの四つのアイソフォームの単量体とPDGF-ABのヘテロ二量体により構成される.各アイソフォームと受容体には結合特異性が存在し,PDGFRααにはPDGF-AA, -AB, -BBと-CCが,PDGFRββにはPDGF-BBと-DDが,またPDGFRαβにはPDGF-AB, -BBと-CCが結合する(図135).PDGFRαは神経,肺,消化管,皮膚,筋,骨格系などの間葉系幹細胞に発現し,組織の機能維持や損傷時の組織修復などに寄与する.一方でPDGFRβは血管平滑筋およびペリサイトを中心に線維芽細胞や一部の神経系細胞に発現する.特に,血管内皮細胞が産生するPDGF-BBはペリサイトを未成熟血管へ動員し接着させることで,血管の成熟を促す36)

肥満に伴う脂肪組織の肥大化には血管新生が重要であることから,我々はVEGF以外の血管新生因子としてPDGFRβシグナルも脂肪組織の血管新生に関与すると仮説を立て,検証を行った.PDGFRβ欠損マウスは血管系の発達障害により胎生致死に至るため,タモキシフェン誘導性PDGFRβ欠損マウス(PDGFRβKO)を用いて検証した.PDGFRβKOはHFD負荷に対し体重増加が抑制され,内臓脂肪組織では血管密度が低下していた.したがって,PDGFRβシグナルは肥満に伴う内臓脂肪組織の血管新生に寄与すると考えられる.HFD負荷PDGFRβKOは,内臓脂肪蓄積が抑制されたことに伴いインスリン感受性が亢進し糖代謝が改善した37).したがって,VEGFシグナル阻害による脂肪組織での血管新生の抑止が肥満病態を悪化するのに対し29, 30),PDGF-Bシグナル阻害による血管新生の抑止は肥満病態を改善するため,両者は相反する代謝表現型を示すことになる.

次に,PDGFRβシグナルによる脂肪組織の血管新生機構について検討した.内皮細胞をPECAM1(CD31)抗体で赤に,ペリサイトをCD31抗体で緑に染色し,whole-mount蛍光免疫染色を行った.通常食飼育のマウスでは,内臓脂肪組織の血管はほかの臓器と同様にペリサイトにより強固に被覆され,その領域は両染色のmergeした黄色で示された.興味深いことに,肥満マウスの内臓脂肪血管を観察するとペリサイトによる被覆が減少し,ペリサイトが肥満に伴い血管から脱離することが示された.さらに,ペリサイトの脱離した領域にある血管内皮では増殖マーカーのKi67の染色が認められた.一方で,PDGFRβKOの内臓脂肪組織血管では肥満状態でもペリサイトの血管脱離が抑制された.さらに,Ki67内皮細胞も対照マウスに比べ有意に低かった.また,器官培養した内臓脂肪組織において,PDGF-B刺激はペリサイトの脱離を誘導した.内皮細胞に接着したペリサイトは内皮細胞の増殖を抑制して血管を安定化させている.また内臓脂肪組織ではHFD負荷に伴いPDGF-Bの発現は増加する.したがって,肥満に伴い増加するPDGF-BがペリサイトのPDGFRβに作用することで,内皮細胞の産生するPDGF-Bに拮抗してペリサイトを血管から脱離させた結果,内皮細胞が増殖して血管新生が進展すると考えられる37)

我々は次に,肥満の脂肪組織でPDGF-Bを産生する細胞を探索した.肥満マウスの内臓脂肪組織を解析した結果,PdgfbのmRNA発現は肥満に伴い脂肪組織に浸潤する炎症性のCD11cCD206-マクロファージにおいて高発現した37).マウスにHFD負荷を行い経時的に解析すると,本マクロファージはHFD負荷6週以降に内臓脂肪に浸潤が増加する.そこでHFD負荷6週の時点からマウスにマクロファージ除去薬であるクロドロン酸リポソームを投与したところ,コントロール群と比べ脂肪組織のPdgfbは減少し,血管からのペリサイト脱離は抑制され,脂肪組織の血管面積も低下した38).したがって,肥満に伴い脂肪組織に浸潤する炎症性マクロファージはPDGF-Bを高発現し,その濃度勾配に誘引されたペリサイトが内皮細胞から脱離した結果,内皮細胞が増殖し血管新生が進むと考えられる37, 38)

5. SDF1による血管新生調節機構

PDGF-B/PDGFRβシグナルによるペリサイトの血管内皮からの脱離は肥満に伴う脂肪組織の血管新生が開始される最初のステップと考えられるが,血管新生はほかのさまざまな因子の連携により緻密に制御されると考えられる.stromal cell-derived factor 1[SDF1;別名C-X-C motif ligand 12(CXCL12)]は,骨髄から虚血部など血管新生領域に血管前駆細胞を誘導する血管新生因子であり39),脂肪組織血管新生への寄与も想定される.そこで,PDGF-Bによるペリサイト脱離に対するSDF1の影響を検討した.器官培養したマウス脂肪細胞において,生理的濃度のSDF1は単独ではペリサイトの接着に影響しなかった.しかしSDF1はPDGF-Bによる血管からのペリサイトの脱離をほぼ完全に抑制した40)

dipeptidyl peptidase 4(DPP4)は摂食後に消化管から分泌され膵臓のインスリン分泌を増強するインクレチンのglucagon-like peptide-1(GLP1)およびgastric inhibitory polypeptide(GIP)を分解することから,この分解活性を抑制するDPP4阻害剤は経口血糖降下剤として広く臨床的に使用されている.しかしDPP4はペプチドのN末端から2番目のプロリンおよびアラニンに対して切断活性を有するため,インクレチン以外にSDF1をはじめとするさまざまな生理活性物質を基質とする41).ヒトおよびマウスにおいて,肥満の脂肪組織では,DPP4の発現が増加する42).我々もHFD負荷肥満マウスの内臓脂肪において,DPP4活性の上昇に伴うSDF1タンパク質量の低下を確認した.しかしマウスにDPP4阻害剤アナグリプチンを経口投与すると,DPP4による分解を受けないために脂肪組織のSDF1が増加した.さらに,HFD負荷により血管から脱離するペリサイトはアナグリプチン投与により抑制され,脂肪組織の肥大化も抑制された.このアナグリプチンによるペリサイト脱離抑制は,SDF1の受容体であるCXC motif chemokine receptor 4(CXCR4)アンタゴニストAMD3100のマウスへの投与により消失した.したがって,SDF1は肥満の際に生じるPDGF-Bによるペリサイト脱離を抑制する因子であるが,肥満病態の内臓脂肪組織では増加するDPP4により分解を受けることでそのペリサイト脱離抑止能を発揮できない.しかしDPP4阻害剤の投与はこのSDF1の分解を抑制することで,SDF1によるPDGF-B依存性の血管新生を抑止し,脂肪組織の肥大化を抑えると考えられる(図240)

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図2 PDGF-Bによる脂肪血管新生機構に関わる研究成果のまとめ

内臓脂肪組織の毛細血管はPDGFRβを発現するペリサイトに被覆され血管構造は安定化している.肥満に伴い脂肪細胞が産生するケモカインなどにより炎症性マクロファージが浸潤しPDGF-Bを産生すると,その濃度勾配により内皮細胞に接着していたペリサイトは血管から脱離する.その結果,内皮細胞は増殖し,血管新生が開始される37, 38).肥満状態の内臓脂肪では低酸素にかかわらずVEGFの産生不全を生じ,血管新生の進展不全による低酸素の悪化が持続する.SDF1はPDGF-Bによるペリサイトの血管からの脱離を抑制するが,肥満病態では増加するDPP4により分解されている.DPP4阻害剤の投与はこのSDF1の分解を抑制することでPDGF-Bによるペリサイトの脱離を抑制し,脂肪組織の血管新生抑制により組織の肥大化を抑制する40).Mϕ:マクロファージ,TNFα:tumor necrosis factor α, SDF1:stromal cell-derived factor 1, DPP4:dipeptidyl peptidase 4.

PDGF-Bは血管新生の開始点であるペリサイト脱離により脂肪組織の血管新生を駆動するのに対し,VEGFシグナルはその後の内皮細胞の増殖により血管新生を促し,脂肪組織の低酸素状態を改善する.肥満進展過程において,ペリサイト脱離後に両血管新生因子の協調的作用による十分な血管新生を誘導できないと低酸素状態が改善できず,肥満病態が進展する.PDGFRβKOマウスはHFD負荷に対し,血管新生の最初のステップの阻害により脂肪組織の肥大化が抑止され,肥満を呈さずに糖代謝が維持された.しかし,一般的に脂肪組織に貯蔵できないエネルギーは異所性脂肪蓄積として肝臓や骨格筋,心臓周囲などに蓄積し,代謝を悪化させるとともに心血管リスクの増大につながる43).よって,HFD負荷PDGFRβKOマウスが示す代謝維持効果には,単なる脂肪組織の肥大化抑制だけでなく,前述の血管新生阻害やVEGF-Aの作用と同様にエネルギー代謝に影響する可能性が考えられた.実際に,HFDを3か月負荷した際のPDGFRβKOマウスの酸素消費量は対照マウスより高かった37).しかし,この週齢ではPDGFRβKOマウスの体重増加が抑制された結果,顕著な体重差が酸素消費量に影響した可能性も否定できなかった.

6. 視床下部ペリサイトのPDGFRβシグナルによるエネルギー代謝破綻機構

視床下部は末梢組織から血液を介した液性および神経性の代謝シグナルを受容し,全身の糖・エネルギー代謝を制御する44).しかし,高脂肪食摂取により視床下部ではミクログリアが活性化し,また慢性的な肥満病態では浸潤マクロファージも加わることで慢性炎症が進展する.視床下部の慢性炎症はエネルギー調節機構を障害し,食事摂取量の増加とエネルギー消費の低下を誘導する45–47).PDGFRβKOマウスはHFD負荷に際し,脂肪組織血管新生の低下に伴い肥満が抑制され,その糖代謝は改善すると考えられたが37),本マウスは視床下部のペリサイトにおいてもPDGFRβが欠損しているため,HFD負荷に伴う視床下部でのエネルギー代謝制御機能に対するPDGFRβ欠損の影響を解析した48)

PDGFRβKOマウスは通常食飼育下では体重やエネルギー代謝に影響がなかったが,内臓脂肪に炎症を来さない比較的短期間とされる4週間のHFD負荷後には摂食量に影響せずに体重増加が抑制された.その機序として,PDGFRβKOマウスの視床下部ではミクログリアの活性化が抑制され,視床下部のpro-opiomelanocortin(POMC)ニューロンの活性化と褐色脂肪組織の熱産生に関わるuncoupling protein 1(UCP1)の発現増加に伴うエネルギー消費量の増大が認められた.PDGFRβはペリサイト以外にも一部のニューロンやその前駆細胞にも発現することから,calmodulin-dependent protein kinase II(CamKII)ニューロン特異的PDGFRβ欠損マウスを作製した.しかし,本マウスはHFD負荷時の体重およびエネルギー代謝に変化を示さなかったため,全身性のPDGFRβ欠損マウスが示す肥満抵抗性にはペリサイトのPDGFRβシグナルが重要と考えられた.慢性炎症に対するPDGFシグナルの関与を解析した結果,高脂肪食負荷早期にペリサイトがPDGFRβシグナル依存的に応答し,C-X-C motif chemokine ligand 5(CXCL5)などの液性因子を分泌すること,これらの液性因子がミクログリアの炎症性極性化を誘導することで慢性炎症が進展することが明らかとなった48).本機構は視床下部ペリサイトが肥満の早期にミクログリアを活性化する新たな視床下部慢性炎症進展機構と考えられる.

7. 糖尿病に伴うMASHモデルマウスの腫瘍形成におけるPDGFRβの重要性

肝臓がんはがん関連死の原因の4位にあげられる重大疾患であり,B型およびC型肝炎ウイルスに対する抗ウイルス治療が普及した現在,その発生基盤として代謝機能障害関連脂肪肝炎(metabolic dysfunction-associated steatohepatitis:MASH)が着目されている49).これまでさまざまなMASHモデルマウスが報告されてきたが,その多くは腫瘍形成まで1年近くの長期間を要する50).MASHは糖尿病の合併率が高いことから,近年streptozotocin(STZ)投与により膵臓のインスリン分泌能を枯渇に近い状況にしてHFD負荷を行うMASHモデルが発表された51).本マウスは8週齢で肝臓の線維化を,20週齢でほぼすべてのマウスに腫瘍を形成するため,比較的短期間でMASHによる腫瘍形成を観察できる優れたモデルである.

ペリサイトは臓器特異的な機能を示すことが知られており,肝臓では線維化に重要な星細胞がペリサイトに該当する.PDGFは肝臓の線維化,肝硬変の進展における代表的な増殖因子であり,その進展にはPDGFRαとPDGFRβの両者の関与が示唆されてきた.一方で,肝細胞がんの増殖進展には主にPDGFRαが重要であること,PDGFRβの関与は否定的であることが報告されている52, 53).そこで我々はPDGFRβKOマウスを用いて糖尿病性MASHモデルマウスを作製し,線維化と腫瘍形成の各病態進展に及ぼすPDGFRβシグナルの重要性を探索した54).PDGFRβKOマウスは12週齢では炎症と線維化が抑制され,20週齢では腫瘍サイズの顕著な抑制と腫瘍数の減少を示した.さらにmiRNAの網羅的解析のネットワーク解析により示唆された経路を検証し,PDGFRβKOマウスの肝臓で最も増加するmiR-1291の標的であるGpr55の発現が減少することを確認した.Gpr55はMASH進展因子であり,miR-1291–Gpr55経路はPDGFRβ依存的なMASH進展機構の一因である可能性が示された54)

本研究は,糖尿病を背景とするMASH病態の腫瘍形成と増殖にPDGFRβシグナルが促進的に機能する可能性を提唱する.現在の肝細胞がんの薬物治療においてファーストラインで使用されているソラフェニブはPDGFRαおよびβ, VEGFR1-3を含む複数のキナーゼを阻害するマルチキナーゼ阻害薬であり,がんの増殖と血管新生の阻害によりその抗腫瘍効果を示す55).本成績はそのメカニズムの根拠の一つとして,PDGFRβシグナルによる肝腫瘍の発生と増殖抑制機構を示した.

8. おわりに

血管が老化による影響を受けやすいことは動脈硬化性疾患などによりイメージしやすく広く認知されている.また肥満や糖尿病などの代謝疾患は全身の老化を促進する因子と考えられる.本稿では脂肪組織の血管新生による肥満進展のメカニズムを,低酸素シグナルと血管新生因子VEGFおよびPDGFの観点から解説した.肥満病態の脂肪組織ではVEGF-Aの産生が不十分なことから低酸素の改善が進まずに肥満病態が進展する.肥満に伴う脂肪組織の低酸素状態は慢性炎症を誘導し,脂肪組織の線維化を促進することで肥満病態を進展する.一方で,これらの血管新生因子は血管新生による低酸素状態の改善に加え,直接的あるいは間接的に脂肪細胞のベージュ化や褐色脂肪細胞機能の向上を介してエネルギー代謝に影響する.脂肪組織での血管新生の阻害は内臓脂肪の肥大化を抑制するが,この現象は単なる肥満改善にとどまらず,脂肪組織に貯蔵できないエネルギーが肝臓などに異所性に蓄積すると代謝の悪化を導き,エネルギー消費の増加を伴えば糖脂質代謝状態を改善する.特に脂肪組織のVEGF-AシグナルとPDGF-Bシグナルの阻害はともに血管新生を抑制するが,前者は代謝を悪化させ,後者は改善する.肥満を呈するにもかかわらず肥満に伴うインスリン抵抗性や代謝異常を生じない,metabolically healthy obesity(健全な肥満)が知られており,この状態にはVEGF-Aの産生量や脂肪組織の血管新生能,低酸素状態などの関与が想定されるが,その詳細は不明である.肥満を呈しても肥満関連疾患に進行しないメカニズムは多くの肥満患者に福音をもたらす可能性があり,今後の研究の進展が期待される.

謝辞Acknowledgments

本稿で紹介した研究成果は,多くの先生方のご協力や大学院生,学部学生の尽力により得られたものであり,研究に関わったすべての方々に感謝を申し上げます.

引用文献References

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55) 一般社団法人日本肝臓学会編(2021)肝癌診療ガイドライン2021年度版,金原出版.

著者紹介Author Profile

和田 努(わだ つとむ)

富山大学学術研究部薬学・和漢系病態制御薬理学 講師.博士(医学).

略歴

兵庫県生まれ.1995年富山医科薬科大学医学部医学科卒業.同大学第一内科に入局.2001年同大学院医学研究科修了.05年同大学臨床薬理学助手.大学が富山大学に統合され,富山大学病態制御薬理学助手を経て13年より現職.

研究テーマと抱負

これまでホルモンによる代謝への影響,インスリン抵抗性の成因について研究してきました.近年は脂肪組織の肥大化機構,および肥満疾患の“未病”を科学的・数理学的に捉えることを目標として研究しています.

ウェブサイト

http://www.pha.u-toyama.ac.jp/clinphar/index-j.html

趣味

音楽.

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