Online ISSN: 2189-0544 Print ISSN: 0037-1017
公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 97(6): 771-777 (2025)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2025.970771

特集Special Review

代謝とエピゲノムによる細胞老化の制御機構Regulation of cellular senescence by metabolism and epigenome

熊本大学発生医学研究所細胞医学分野Department of Medical Cell Biology, Institute of Molecular Embryology and Genetics, Kumamoto University ◇ 〒860–0811 熊本県熊本市中央区本荘2–2–1 ◇ 2–2–1 Honjo, Chuo-ku, Kumamoto 860–0811, Japan

*1

現所属:九州大学大学院医学研究院生体機能学分野(〒812–8582 福岡県福岡市東区馬出3–1–1)Present address: Department of Molecular Cell Biology, Faculty of Medical Sciences, Kyushu University, 3–1–1 Maidashi, Higashi-ku, Fukuoka 812–8582, Japan

発行日:2025年12月25日Published: December 25, 2025
HTMLPDFEPUB3

細胞老化とは環境ストレスや加齢などの要因により持続的に細胞周期が停止する現象である.老化細胞は加齢に伴い組織中に蓄積し,細胞老化に付随する分泌現象であるSASPを介して慢性炎症を引き起こす.老化細胞の特徴として細胞内代謝やエピゲノムのリプログラミングが報告されており,これが炎症性SASPの形成に重要であることが明らかとなっている.本稿では,老化細胞におけるエピゲノムと細胞内代謝の連関について,SASPやDNA損傷応答(DDR),ミトコンドリア機能障害など細胞老化表現型との関係性に着目して,最新知見を包括的にレビューする.

1. 序章

1)細胞老化について

細胞老化(cellular senescence)は,細胞が持続的な増殖停止状態に陥る生物学的プロセスであり,がん抑制,組織恒常性,老化関連疾患の発症に深く関与する現象である1).老化細胞は,細胞周期の停止に加えて,DNA損傷応答(DNA damage response:DDR),プロテオスタシスの崩壊,ミトコンドリア機能異常,老化細胞に付随する分泌現象senescence-associated secretory phenotype(SASP)を特徴とする.特にSASPは,炎症性サイトカインやケモカイン,成長因子,細胞外基質分解酵素など多様な因子を分泌することで,周囲の細胞の状態や組織環境に影響を及ぼし,慢性炎症やがん促進性ニッチの形成に寄与することが報告されている.細胞老化はその本質的な意義として発がん抑制や組織恒常性を維持する側面を有する一方で,老化個体における組織機能の低下や疾患発症を促進する二面性を持ち,その分子基盤の理解は老化制御や健康寿命延伸に向けた戦略構築においてきわめて重要である.

細胞老化はいわゆる個体の老化(aging)とは異なる概念である.細胞老化は個体の年齢にかかわらずストレスに応答して生じる.ただ,老化細胞は若齢の個体においては速やかに除去される傾向にあるのに対して,老齢の個体では組織中に長くとどまってしまうことが知られている.若齢の個体においては,老化細胞は傷を負うと発生し,成長因子などを分泌することで創傷治癒を促進する役割を持つことが報告されている.その一方で,老齢の個体においては炎症性サイトカインを分泌し続けることで慢性炎症を惹起する.以上のように,老化細胞は生体内において外因性および内因性の環境依存的に異なる作用を発揮する.

2)細胞内代謝とエピゲノムの連関について

細胞内代謝とエピゲノムは,双方向的に連携しながら細胞の状態や運命を制御する.代謝産物はエピゲノム修飾酵素の基質や補因子として機能し,一方でエピゲノムの変化は代謝関連遺伝子の発現を制御する.このクロストークは,細胞老化表現型の形成において中核的な役割を果たす(図1).たとえば,細胞老化誘導の初期過程において,がん抑制遺伝子p16はヒストンH3の27番目リシン残基のトリメチル化(H3K27me3)やヒストンH4の20番目リシン残基のモノメチル化(H4K20me)といった抑制性のエピゲノム修飾が低下することで発現誘導され,がん抑制遺伝子Rbの活性化を介して細胞周期を停止する2, 3).この活性化されたRbは細胞周期の停止だけでなく,代謝関連遺伝子の発現誘導を介して細胞内代謝を変化させる4, 5).このことから,エピゲノムの変化は細胞老化表現型(細胞周期の停止)と細胞内代謝の変化を誘導する駆動力を持つことがわかる.その一方で,細胞内代謝がエピゲノムの変化を誘導し,その結果として細胞老化表現型を制御することも明らかとなっている.老化細胞の誘導過程では,ミトコンドリア内で産生したクエン酸を細胞質でアセチルCoAに代謝する経路が活性化しており,この経路に依存してエピゲノムの変化(エンハンサーの活性化)が生じて炎症性SASPが形成される(詳細は後述)6).以上のように,老化細胞における細胞内代謝やエピゲノムの変化を知ることは,細胞老化表現型の分子基盤の理解につながる.本稿では,最新の知見に基づいて,細胞老化における細胞内代謝やエピゲノムの特徴をまとめる.

Journal of Japanese Biochemical Society 97(6): 771-777 (2025)

図1 老化細胞における代謝——エピゲノム連関

2. 老化細胞の代謝変化

1)老化細胞の代謝の多様性

老化細胞ではエネルギー産生や代謝経路に大きな変化が生じる.増殖能を喪失した老化細胞は細胞周期関連の代謝需要が減少する一方,SASP因子の産生・分泌など新たな需要が生じるため,代謝バランスが若齢の細胞とは異なる状態に再調節される.しかし,その代謝の特徴は細胞老化誘導の引き金となったストレスに応じて異なるプロファイルを呈する.たとえば,がん遺伝子誘導性細胞老化(oncogene-induced senescence)では,解糖系やクエン酸回路が活性化し,ATP産生が上昇する4).mTOR経路も持続的に活性化され,タンパク質合成が亢進する7).これは老化細胞が炎症性SASP因子を大量に分泌するために,タンパク質の翻訳や分泌経路が活性化していると考えられる.その一方で,ミトコンドリア機能の低下(mtDNA変異,電子伝達系の破綻,ATP産生低下など)により誘導される細胞老化では,ATP低下によりAMPKが強く活性化され,mTOR経路やNF-κB経路を抑制する8).その結果として,典型的な炎症性SASP因子(IL-1A/B, IL-6, IL8など)は誘導されず,抗炎症性サイトカインIL-10やTNF-αなどほかの分子を分泌する.このように,ミトコンドリアの活性状態に応じて細胞老化の表現型は大きく変化することが明らかとなっている.また,老化細胞の表現型は誘導初期と後期で大きく変化することも報告されている9).老化細胞誘導初期においてはRbが活性化されるため細胞内代謝が活性化される傾向にあるが,後期になるとRbの発現が抑制されて細胞内代謝が低下する.また,Rbの機能低下はレトロトランスポゾンLINE-1の脱抑制を引き起こし,インターフェロン応答を活性化する.これに伴い,SASPの構成因子が細胞老化後期ではインターフェロン(IFN)αやIFNβに変化すると考えられている.このLINE-1の発現を阻害することで慢性炎症が抑制され,結果として加齢性疾患の遅延効果が発揮されることが報告されている.

2)ミトコンドリアの機能障害とDNA損傷応答(DDR)

老化細胞では,ミトコンドリアの質的・量的異常が報告されており,形態異常,代謝活性の変化,活性酸素種(reactive oxygen species:ROS)産生の亢進などが生じる.これらの異常は,DDRの慢性化やSASPの誘導に寄与することが知られている10).電子伝達系の機能障害により生じる過剰なROSは核DNAに酸化損傷を与え,持続的なDNA損傷のシグナル[ヒストンH2A.XのS139のリン酸化(γH2A.X)など]を活性化し,DDRを慢性化する.また,ROSはミトコンドリアDNA(mtDNA)を損傷し,これが細胞質に漏れ出すことでcGAS-STING経路を介して炎症性SASPを活性化する.さらに,ミトコンドリアの機能不全によりニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)が減少すると,NADを補因子として機能するDNA修復関連酵素(DNA一本鎖切断の修復に関わるPARP1やヒストン脱アセチル化酵素SIRT1/SIRT6など)の活性低下につながる.これはDNA損傷の蓄積を招き,細胞質クロマチン断片の形成を促進し,cGAS-STING経路を介した炎症性SASPの誘導にもつながる可能性がある.一方で,DDRの慢性化もミトコンドリアの機能障害を引き起こす原因となる11).PARP1によるDNA修復はNADを大量に消費するため,長期にわたるとNAD枯渇を引き起こす.NAD枯渇はミトコンドリア内の脱アセチル化酵素SIRT3の活性を低下し,ミトコンドリアタンパク質の過剰アセチル化の原因となりミトコンドリア機能が障害される(図2上).実際,PARP抑制によりNADレベルが回復し,ミトコンドリア機能が改善されることが報告されている12)

Journal of Japanese Biochemical Society 97(6): 771-777 (2025)

図2 細胞老化誘導の引き金となりうる加齢に伴う代謝物の変動

3)NAD代謝

NAD代謝の変化も老化に深く関与することがよく知られている.補因子NADはDNA修復酵素PARPや長寿遺伝子Sirtuinなど多くの酵素反応に必須であり,その細胞内濃度は加齢とともに低下する13).このNADの低下は細胞老化の誘導前後で表現型への影響が大きく異なることが明らかとなっている.NADに依存するSirtuin(SIRT1など)は遺伝子発現やDNA修復,抗炎症作用を通じて老化抑制や寿命延長に関与するため,NADは正常細胞において細胞老化の進行を抑制する効果を持つ.実際,ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)やニコチンアミドリボシド(NR)などのNAD前駆体を投与することで,モデル生物において加齢に伴う生理機能低下の改善や寿命・健康寿命の延長が複数報告されている14).その一方で,細胞老化が誘導された後においてはむしろ炎症性SASP因子や腫瘍促進因子を誘導する燃料となってしまうことも報告されている15).老化細胞では,細胞内NAD/NADH比が高く保たれるとAMPKシグナルが抑制され,p53経路の働きも低下する.結果としてp38 MAPKおよび転写因子NF-κBが過剰に活性化され,炎症性SASP因子が強く発現誘導される.実際,モデルマウスを用いた実験により,NAD合成酵素であるNAMPTの阻害剤投与により炎症性サイトカインの発現低下や組織の線維化軽減,免疫細胞浸潤の減少が観察され,組織の炎症状態が改善する傾向が示されている15).以上のように,NADは老化に伴う機能低下を改善しうる有益な分子である一方で,老化細胞や腫瘍細胞においては有害な現象を助長しうる分子であることが示唆されている.

4)グリセロール3-リン酸(G3P)とホスホエタノールアミン(pEtN)代謝

また,近年の研究により,老化細胞に共通する代謝の特徴としてα-ケトグルタル酸(αKG),乳酸,グリセロール3-リン酸(G3P),ホスホエタノールアミン(pEtN)の蓄積が同定されている16).特にトリアシルグリセロール(中性脂肪)とリン脂質合成の交差点であるG3P・pEtN代謝経路の変化は,細胞老化を誘導する鍵であることが明らかとなっている.具体的には,細胞老化誘導過程では,グリセロールキナーゼ(GK)の発現・活性がp53依存的に上昇し,同時にホスホエタノールアミンシチジル基転移酵素(PCYT2)が脱リン酸化によって失活する.GKはグリセロールをリン酸化してG3Pを生成する酵素であり,老化細胞ではこれが過剰に働くためG3Pが蓄積する.一方,PCYT2はpEtNからシチジン二リン酸(CDP)-エタノールアミンを合成する酵素で,これが不活性化されることでpEtNの代謝が滞り細胞内に蓄積する.すなわち,老化細胞ではGK亢進とPCYT2抑制というスイッチが入り,G3PとpEtNが細胞内に蓄積する.この変化は脂質合成の流れを大きく変え,細胞内で中性脂肪の蓄積を促進するとともに,炎症性SASP因子の発現を誘導する.実際,GKを人為的に活性化または過剰発現させるだけで,培養細胞の増殖が停止して細胞老化が誘導されることが確認されている.これらの結果は,代謝酵素活性の変化のみで細胞老化が引き起こされうることを示しており,細胞老化が単にDNA損傷の結果ではなく代謝恒常性の破綻によっても誘導される可能性を裏づけている.

5)αKG代謝

クエン酸回路の中間産物であるαKGは,前述したとおり老化細胞に蓄積する代謝産物の一つであるが,個体レベルにおいては加齢に伴い血中のαKG濃度は減少することが知られており,αKGを投与することで抗加齢効果を発揮することが報告されている17, 18).幹細胞の自己複製能や分化能は加齢依存的に低下し,組織の再生能力が損なわれるが,αKGの投与はこの幹細胞の老化現象を緩和し,再生能を維持する効果を持つことが報告されている(図2下)19).具体的には,老週齢マウスの骨髄由来の間葉系幹細胞(MSC)にαKGを加えて継代培養することで増殖能が長く維持されることが示されている.また,このαKG処理により細胞老化マーカーである細胞周期抑制因子p16, p21および炎症性SASP因子であるIL-6の発現が有意に減少し,老化細胞に特徴的な核膜の異常形態も正常化することが確認されている.また,DNA損傷の指標であるγH2A.Xも減少し,ROSレベルの低減も認められた.さらに,過酸化水素処理による細胞老化促進モデルにおいても,αKG存在下では老化細胞の誘導が抑制されることが確認されている.これらの結果は,αKGが幹細胞の細胞老化を抑制しうることを示している.加齢による骨髄由来のMSCの枯渇は骨粗鬆症の原因となるが,マウスモデルを用いた実験で老週齢マウスにαKGを投与することで骨粗鬆症様の表現型を緩和できることが報告されている.

αKGはヒストン脱メチル化酵素[Jumonji-C型脱メチル化酵素(JMJC-KDM)]やDNA脱メチル化酵素(TETファミリータンパク質)の補因子と働くため,エピゲノム修飾においても重要な役割を果たす.ヒストンH3の9番目リシン残基や27番目リシン残基のメチル化(H3K9me3, H3K27me3)は細胞老化や年齢に伴う組織変化と密接に関連する抑制的ヒストン修飾で,MSCなどの複数種の細胞で加齢に伴い増加することが報告されている19, 20).興味深いことに,この加齢依存的なH3K27me3などの増加はαKGの投与により低下することが示されている.すなわち,αKGは老化に伴い蓄積するH3K27me3を減少させ,エピゲノム状態を若年型にシフトさせる可能性がある.DNAメチル化に関しては,エピゲノム老化時計(年齢と相関する特定部位のDNAメチル化変化)への影響が報告されている.ヒトにおいて,αKGを主成分とするサプリメントがDNAメチル化年齢の低下効果を持つか検証されている21).健常中年成人42名が平均7か月間にわたりカルシウム塩形態のαKG(Ca-AKG)を含むサプリメントを摂取した解析では,DNAメチル化に基づくエピゲノム年齢が平均で8歳若返るという結果が報告されている.マウスを用いた実験では,αKG投与により全身の炎症状態が低減し,健康寿命の増進効果が確認されている20).以上のことから,動物実験に加えてヒトにおいてもαKGによる加齢性疾患の予防・遅延効果が期待されている.

3. 老化細胞のエピゲノム変化

老化細胞ではゲノム配列は変化しないものの,そのエピゲノム状態は大きく再編成される.具体的には,クロマチン構造の変化(ヘテロクロマチンとユークロマチン領域の変化),DNAメチル化パターンの変化,各種ヒストン修飾の変動,ヒストンバリアントの入れ替えなど,複数の階層的な制御機構が関与している22).これらの変化は,細胞周期停止の維持,SASP因子の発現調節,ゲノム安定性の制御といった老化細胞の表現型の確立に密接に関わっている.

まず,クロマチン構造においては,老化細胞で観察される代表的な現象として,細胞老化特異的ヘテロクロマチン構造(senescence-associated heterochromatin foci:SAHF)の形成がある.SAHFは凝集したヘテロクロマチン構造であり,E2Fターゲット遺伝子などの増殖関連遺伝子をサイレンシングすることで,細胞周期の恒常的な停止に寄与する23).SAHFの形成には,H3K9me3やそのリーダータンパク質HP1,核内因子HMGA1の関与が知られており,さらに核ラミナ構成因子Lamin B1の発現低下もその形成に必要とされる24, 25).Lamin B1の顕著な減少は,Lamin-associated domain(LAD)の構造的・機能的破綻を引き起こす.LADとは,核ラミナに接着するヘテロクロマチン領域のことであり,遺伝子発現の抑制やゲノムの三次元構造の安定化に寄与している.Lamin B1の減少はLADにおけるクロマチンの係留を弱め,核辺縁に局在していた抑制性クロマチンの核内への再配置を引き起こすことが知られている.老化細胞ではLADの崩壊とともに,その境界付近に存在する遺伝子群の脱抑制が観察されており,これはSASP因子の一部の発現誘導と関連する可能性がある.

DNAメチル化においても,老化細胞では特徴的な変化が生じる.老化細胞ではグローバルな低メチル化(hypomethylation)と特定遺伝子のプロモーター領域での過剰メチル化(hypermethylation)が同時に生じることが知られている.複製老化(replicative senescence)ではゲノム全体のメチル化減少とエピゲノム老化時計の進行が観察されるが,一方でがん遺伝子誘導性細胞老化やDNA損傷誘導性細胞老化では同程度のメチル化変化が観察されず,この差は複製老化でDNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT1)活性が低下するためと考えられている26).DNAメチル化減少に伴い,サテライト反復配列やレトロトランスポゾンの抑制が解かれ,不安定な転写産物の増加や内在性レトロウイルスの再活性化が起こる.老化細胞では内在性レトロウイルス由来配列の脱メチル化と発現が報告されており,それらから産生された逆転写産物(DNA断片)が細胞質に蓄積してcGAS-STING経路を活性化し,炎症性SASP因子を促進する機構が提唱されている22)

ヒストン修飾に関しては,エンハンサーマークであるH3K27Acの再編成(後述)や抑制性マークであるH3K27me3の変化が報告されている.H3K27me3に関しては,細胞種や細胞の状態に応じて異なる変化を示す.前述のとおり,幹細胞に関しては,老化に伴いH3K27me3は増加することが報告されている.たとえば筋幹細胞やMSCなどは,若齢マウス由来と老齢マウス由来で比較するとH3K27me3の増加が報告されている19, 27).対照的に,早老症や細胞老化モデルによってはH3K27me3の減少が観察される.たとえば,Hutchinson-Gilfordプロジェリア症候群は早老症の代表であり,原因遺伝子Lamin Aの変異産物(プロジェリン)が核ラミナを障害するが,核の形態異常に先立ってヘテロクロマチンの消失・H3K27me3の顕著な減少が起こる28, 29).これはH3K27me3を触媒するメチル基転移酵素EZH2の発現低下によると考えられている.同様にヒト正常線維芽細胞の複数の細胞老化モデル系においてもH3K27me3の減少が報告されている.細胞老化が誘導されるとEZH2遺伝子の発現が減少し,H3K27me3は時間差を持って徐々に減少することが示されている.このH3K27me3の減少によるサイレンシングの解除はp16の発現誘導に寄与すると考えられている.

さらに,老化細胞ではヒストンバリアントの入れ替えも生じる.たとえば,macroH2Aといったバリアントは,細胞老化特異的クロマチン構造において特定の領域に集積することが報告されており,クロマチンの安定性や転写活性の制御に寄与している30).H2A.Jは老化細胞の誘導とともに蓄積し,炎症性SASPの発現に関与することが報告されている31)

以上のように,老化細胞においてはエピゲノムレベルで多層的かつ動的な再編成が生じており,これが細胞老化表現型の確立および機能的多様性の形成に深く寄与している.エピゲノムは細胞の運命や機能状態を規定する根幹的な仕組みであり,老化細胞に特有の形質や恒常性破綻の分子的基盤も,こうしたエピゲノム変容に起因する可能性が高い.したがって,老化細胞特異的なエピゲノムの特徴を包括的に理解することは,老化細胞を標的とした選択的な介入法の開発,すなわち加齢関連疾患の予防・治療に資する新たな戦略の創出につながると期待される.

4. 細胞内代謝変化が駆動するエンハンサー活性化を介した炎症性SASPの制御機構

本節では,我々のグループの最新の知見を紹介する.老化細胞に特徴的な代謝経路に着目し,細胞老化表現型を決定する分子機構の解明を目指して研究を行った.老化細胞に関して多面的なオミクス解析を実施したところ,一般的なミトコンドリア内のクエン酸回路ではなく,ミトコンドリアと細胞質にまたがった非典型的なクエン酸回路が活性化していることを見いだした(図3左).この非典型的なクエン酸回路は,ATPクエン酸リアーゼ(ATP citrate lyase:ACLY)という代謝酵素を介して細胞内においてクエン酸からアセチルCoAを産生する役割を持つことが知られる.この経路は特定の分化過程で重要な役割を持つことが報告されているが,老化細胞における役割は十分に明らかでなかった.そこで我々は,ACLYに着目し,老化細胞におけるACLYを介したクエン酸代謝の重要性を解析した.その結果として,老化細胞においてACLYの機能欠損により炎症性SASPが劇的に抑制されることを見いだした.その一方で,細胞周期の停止は維持されたままで,また細胞死も誘導されなかった.このことから,ACLYは細胞老化表現型の中でも炎症性SASPを特異的に制御することが明らかとなった.次に,ACLYにより産生されたアセチルCoAがどのようにして炎症性SASPを制御するか明らかにするために,下流の経路に着目した解析を行った.その結果,エンハンサーマークとして知られるヒストンH3の27番目リシン残基のアセチル化(H3K27Ac)の基質として利用されることが明らかとなった.炎症性SASP制御において本当にH3K27Acが必須であるか明らかにするために,H3K27のアセチル化に必須のアセチル基転移酵素p300/CBPの機能欠損実験を行ったところ,細胞老化の誘導は抑制せずに炎症性SASPを劇的に抑制することを突き止めた.さらに,H3K27Acの下流の分子機構を明らかにするために,クロマチン免疫沈降シーケンス(ChIP-seq)によりACLY依存的に形成されるH3K27Acのゲノム領域を探索した.その結果を用いて下流の核内因子を予測したところ,アセチル化ヒストンのリーダータンパク質であるBRD4がACLY経路の下流で働く因子であることがわかった.老化細胞の誘導過程では,「ACLYによるアセチルCoAの産生の活性化」,「H3K27のアセチル化(エンハンサーの活性化)」,「炎症性SASP遺伝子のエンハンサー領域へのBRD4リクルートメント」,「BRD4による遺伝子発現の活性化」,という分子カスケードが存在することが明らかとなった(図3).最後に,ACLY-BRD4経路が炎症性SASPのパラクライン作用に必要であるかを検証するために,老化細胞の培養液を正常細胞に処理する実験を行った.レシピエントとなる老化細胞のACLYやBRD4の機能欠損により,ドナーの細胞の炎症応答への影響を評価した.その結果,野生型の老化細胞の培養液を正常細胞に処理すると炎症応答が強く誘導されたが,そのパラクライン作用はレシピエントの老化細胞のACLYやBRD4の機能欠損により劇的に抑制された.また,ACLY-BRD4経路の生理的意義を明らかにするために老週齢マウスに阻害剤を投与する実験を行った.その結果,1か月間の阻害剤投与により,腎臓や肝臓における加齢依存的なインターフェロン応答の活性化が抑制された.以上のことから,ACLY-BRD4経路は加齢による臓器の慢性炎症に貢献することが示唆された.

Journal of Japanese Biochemical Society 97(6): 771-777 (2025)

図3 ACLYを介したクエン酸代謝によるエンハンサー活性化機構

最近,他グループから我々の研究内容を補完する論文が発表されている32).我々の結果と一致して,非典型的なTCA回路に必須であるミトコンドリア上のクエン酸トランスポーターSLC25A1やACLYが老化細胞で活性化し,H3K27Acが炎症性SASP遺伝子の制御領域で増加することが示されている.また,SLC25A1やACLYを阻害すると老化細胞の増殖停止には影響を与えずにSASP因子の発現だけを選択的に低下させることも確認されている.さらに,SLC25A1阻害剤を老週齢マウスに投与すると,全身性炎症の低減と健康寿命の延長効果が認められた.以上のことから,両者の研究は「ミトコンドリア代謝–エピゲノム連関が炎症性SASP制御の中枢にある」ことを示している.老化細胞は個体にとって悪影響をもたらすと考えられるため,老化細胞を特異的に除去する薬剤であるセノリティクスの研究・開発が世界的に活発に行われている.しかし,近年の研究では,老化細胞にも組織の恒常性維持や組織修復において重要な役割があることが明らかとなっているため,老化細胞を除去せずに炎症性SASPのみを抑制する手段の確立が重要と考えられる.そこで,本知見に基づいた老化細胞に特徴的な慢性炎症を代謝経路から抑制する新たな介入法「SASP抑制剤(senostatics)」の創薬発展が今後期待される.

5. まとめ

本稿では,老化細胞におけるエピゲノムと細胞内代謝のクロストークを中心に,SASPの発現制御機構や加齢性疾患との関連性について最新の知見を概説した.特に,ミトコンドリア代謝から派生する代謝産物がエピゲノム修飾に関与し,炎症性SASPを駆動する分子メカニズムが明らかとなりつつあることは,老化研究における大きな進展である.今後は,老化細胞の有害な側面を抑制しつつ,その有益な機能を温存する選択的な介入法の開発が重要となる.代謝–エピゲノム連関に着目したsenostaticsの開発は,老化関連疾患の予防や健康寿命の延伸を実現するための有望な戦略となるだろう.細胞老化という複雑な現象を多階層的に理解し,その制御法を確立することは,今後の老化研究および加齢性疾患治療においてきわめて重要な課題である.

引用文献References

1) Tsherniak, A., Vazquez, F., Montgomery, P.G., Weir, B.A., Kryukov, G., Cowley, G.S., Gill, S., Harrington, W.F., Pantel, S., Krill-Burger, J.M., et al. (2017) Defining a cancer dependency Map. Cell, 170, 564–576.e16.

2) Ito, T., Teo, Y.V., Evans, S.A., Neretti, N., & Sedivy, J.M. (2018) Regulation of cellular senescence by polycomb chromatin modifiers through distinct DNA Damage- and histone methylation-dependent pathways. Cell Rep., 22, 3480–3492.

3) Tanaka, H., Takebayashi, S.I., Sakamoto, A., Igata, T., Nakatsu, Y., Saitoh, N., Hino, S., & Nakao, M. (2017) The SETD8/PR-Set7 methyltransferase functions as a barrier to prevent senescence-associated metabolic remodeling. Cell Rep., 18, 2148–2161.

4) Takebayashi, S., Tanaka, H., Hino, S., Nakatsu, Y., Igata, T., Sakamoto, A., Narita, M., & Nakao, M. (2015) Retinoblastoma protein promotes oxidative phosphorylation through upregulation of glycolytic genes in oncogene-induced senescent cells. Aging Cell, 14, 689–697.

5) Nakao, M., Tanaka, H., & Koga, T. (2020) Cellular senescence variation by metabolic and epigenomic remodeling. Trends Cell Biol., 12, 919–922.

6) Etoh, K., Araki, H., Koga, T., Hino, Y., Kuribayashi, K., Hino, S., & Nakao, M. (2024) Citrate metabolism controls the senescent microenvironment via the remodeling of pro-inflammatory enhancers. Cell Rep., 43, 114496.

7) Herranz, N., Gallage, S., Mellone, M., Wuestefeld, T., Klotz, S., Hanley, C.J., Raguz, S., Acosta, J.C., Innes, A.J., Banito, A., et al. (2015) mTOR regulates MAPKAPK2 translation to control the senescence-associated secretory phenotype. Nat. Cell Biol., 17, 1205–1217.

8) Wiley, C.D., Velarde, M.C., Lecot, P., Liu, S., Sarnoski, E.A., Freund, A., Shirakawa, K., Lim, H.W., Davis, S.S., Ramanathan, A., et al. (2016) Mitochondrial dysfunction induces senescence with a distinct secretory phenotype. Cell Metab., 23, 303–314.

9) De Cecco, M., Ito, T., Petrashen, A.P., Elias, A.E., Skvir, N.J., Criscione, S.W., Caligiana, A., Brocculi, G., Adney, E.M., Boeke, J.D., et al. (2019) L1 drives IFN in senescent cells and promotes age-associated inflammation. Nature, 566, 73–78.

10) Vizioli, M.G., Liu, T., Miller, K.N., Robertson, N.A., Gilroy, K., Lagnado, A.B., Perez-Garcia, A., Kiourtis, C., Dasgupta, N., Lei, X., et al. (2020) Mitochondria-to-nucleus retrograde signaling drives formation of cytoplasmic chromatin and inflammation in senescence. Genes Dev., 34, 428–445.

11) Lauritzen, K.H., Olsen, M.B., Ahmed, M.S., Yang, K., Rinholm, J.E., Bergersen, L.H., Esbensen, Q.Y., Sverkeli, L.J., Ziegler, M., Attramadal, H., et al. (2021) Instability in NAD+ metabolism leads to impaired cardiac mitochondrial function and communication. eLife, 10, e59828.

12) Bai, P., Cantó, C., Oudart, H., Brunyánszki, A., Cen, Y., Thomas, C., Yamamoto, H., Huber, A., Kiss, B., Houtkooper, R.H., et al. (2011) PARP-1 inhibition increases mitochondrial metabolism through SIRT1 activation. Cell Metab., 13, 461–468.

13) Langley, E., Pearson, M., Faretta, M., Bauer, U.M., Frye, R.A., Minucci, S., Pelicci, P.G., & Kouzarides, T. (2002) Human SIR2 deacetylates p53 and antagonizes PML/p53-induced cellular senescence. EMBO J., 21, 2383–2396.

14) Yoshino, J., Baur, J.A., & Imai, S.I. (2018) NAD+ intermediates: The biology and therapeutic potential of NMN and NR. Cell Metab., 27, 513–528.

15) Nacarelli, T., Lau, L., Fukumoto, T., Zundll, J., Fatkhutdinov, N., Wu, S., Aird, K.M., Iwasaki, O., Kossenkov, A.V., Schultz, D., et al. (2019) NAD+ metabolism governs the proinflammatory senescence-associated secretome. Nat. Cell Biol., 21, 397–407.

16) Tighanimine, K., Nabuco Leva Ferreira Freitas, J.A., Nemazanyy, I., Bankolé, A., Benarroch-Popivker, D., Brodesser, S., Doré, G., Robinson, L., Benit, P., Ladraa, S., et al. (2024) A homoeostatic switch causing glycerol-3-phosphate and phosphoethanolamine accumulation triggers senescence by rewiring lipid metabolism. Nat. Metab., 6, 323–342.

17) Tian, Q., Zhao, J., Yang, Q., Wang, B., Deavila, J.M., Zhu, M.J., & Du, M. (2020) Dietary alpha-ketoglutarate promotes beige adipogenesis and prevents obesity in middle-aged mice. Aging Cell, 19, e13059.

18) Naeini, S.H., Mavaddatiyan, L., Kalkhoran, Z.R., Taherkhani, S., & Talkhabi, M. (2023) Alpha-ketoglutarate as a potent regulator for lifespan and healthspan: Evidences and perspectives. Exp. Gerontol., 175, 112154.

19) Wang, Y., Deng, P., Liu, Y., Wu, Y., Chen, Y., Guo, Y., Zhang, S., Zheng, X., Zhou, L., Liu, W., et al. (2020) Alpha-ketoglutarate ameliorates age-related osteoporosis via regulating histone methylations Nature Communications, 11(1), 5596.

20) Asadi Shahmirzadi, A., Edgar, D., Liao, C.Y., Hsu, Y.M., Lucanic, M., Asadi Shahmirzadi, A., Wiley, C.D., Gan, G., Kim, D.E., Kasler, H.G., et al. (2020) Alpha-ketoglutarate, an endogenous metabolite, extends lifespan and compresses morbidity in aging mice. Cell Metab., 32, 447–456.e6.

21) Demidenko, O., Barardo, D., Budovskii, V., Finnemore, R., Palmer, F.R. III, Kennedy, B.K., & Budovskaya, Y.V. (2021) Rejuvant®, a potential life-extending compound formulation with alpha-ketoglutarate and vitamins, conferred an average 8 year reduction in biological aging, after an average of 7 months of use, in the TruAge DNA methylation test. Aging (Albany NY), 13, 24485–24499.

22) Dasgupta, N., Arnold, R., Equey, A., Gandhi, A., & Adams, P.D. (2024) The role of the dynamic epigenetic landscape in senescence: Orchestrating SASP expression. NPJ Aging, 10, 48.

23) Narita, M., Nũnez, S., Heard, E., Narita, M., Lin, A.W., Hearn, S.A., Spector, D.L., Hannon, G.J., & Lowe, S.W. (2003) Rb-mediated heterochromatin formation and silencing of E2F target genes during cellular senescence. Cell, 113, 703–716.

24) Shah, P.P., Donahue, G., Otte, G.L., Capell, B.C., Nelson, D.M., Cao, K., Aggarwala, V., Cruickshanks, H.A., Rai, T.S., McBryan, T., et al. (2013) Lamin B1 depletion in senescent cells triggers large-scale changes in gene expression and the chromatin landscape. Genes Dev., 27, 1787–1799.

25) Narita, M., Narita, M., Krizhanovsky, V., Nuñez, S., Chicas, A., Hearn, S.A., Myers, M.P., & Lowe, S.W. (2006) A novel role for high-mobility group a proteins in cellular senescence and heterochromatin formation. Cell, 126, 503–514.

26) Sati, S., Bonev, B., Szabo, Q., Jost, D., Bensadoun, P., Serra, F., Loubiere, V., Papadopoulos, G.L., Rivera-Mulia, J.C., Fritsch, L., et al. (2020) 4D genome rewiring during oncogene-induced and replicative senescence. Mol. Cell, 78, 522–538.e9.

27) Liu, L., Cheung, T.H., Charville, G.W., Hurgo, B.M., Leavitt, T., Shih, J., Brunet, A., & Rando, T.A. (2013) Chromatin modifications as determinants of muscle stem cell quiescence and chronological aging. Cell Rep., 4, 189–204.

28) Dechat, T., Pfleghaar, K., Sengupta, K., Shimi, T., Shumaker, D.K., Solimando, L., & Goldman, R.D. (2008) Nuclear lamins: Major factors in the structural organization and function of the nucleus and chromatin. Genes Dev., 22, 832–853.

29) Stephens, A.D., Liu, P.Z., Banigan, E.J., Almassalha, L.M., Backman, V., Adam, S.A., Goldman, R.D., & Marko, J.F. (2018) Chromatin histone modifications and rigidity affect nuclear morphology independent of lamins. Mol. Biol. Cell, 29, 220–233.

30) Zhang, R., Poustovoitov, M.V., Ye, X., Santos, H.A., Chen, W., Daganzo, S.M., Erzberger, J.P., Serebriiskii, I.G., Canutescu, A.A., Dunbrack, R.L., et al. (2005) Formation of MacroH2A-containing senescence-associated heterochromatin foci and senescence driven by ASF1a and HIRA. Dev. Cell, 8, 19–30.

31) Contrepois, K., Coudereau, C., Benayoun, B.A., Schuler, N., Roux, P.F., Bischof, O., Courbeyrette, R., Carvalho, C., Thuret, J.Y., Ma, Z., et al. (2017) Histone variant H2A.J accumulates in senescent cells and promotes inflammatory gene expression. Nat. Commun., 8, 14995.

32) Martini, H., Birch, J., Marques, F., Victorelli, S., Lagnado, A., Pirius, N., Franco, A., Lee, G., Han, Y., Rowsey, J., et al. (2024) Mitochondrial metabolism and epigenetic crosstalk drive the SASP. Res. Sq. [Preprint], rs.3.rs-5278203.

著者紹介Author Profile

衞藤 貫(えとう かん)

九州大学大学院医学研究院生体機能学分野 助教.博士(生命科学).

略歴

2014年東北大学理学部生物学科卒業,19年同大学院生命科学研究科博士課程修了,25年3月まで熊本大学発生医学研究所細胞医学分野で研究員(学振PD,特任助教).25年4月より現職.

研究テーマと抱負

細胞老化特異的なエンハンサー形成機構の解明を目指す.2025年4月より水晶体オルガネラ全分解過程におけるエピゲノム制御機構の解明も目指す.

ウェブサイト

Researchmap (https://researchmap.jp/kaneto)

RNAseqChef (http://imeg-ku.shinyapps.io/RNAseqChef_imeg/)

趣味

子供と遊ぶ,グルメ巡り,アプリ開発.

This page was created on 2025-11-12T14:28:43.418+09:00
This page was last modified on 2025-12-12T14:27:31.000+09:00


このサイトは(株)国際文献社によって運用されています。