骨格筋は,日常生活における労作や運動に伴い,常に微細な損傷を受けている.しかし,そのつど再生を繰り返すことで恒常性を維持している.筋肉の恒常性が保たれるためには,筋損傷と再生のバランスがきわめて重要である.損傷の度合いが強く,再生が追いつかなくなると,いわゆる「再生不全」の状態に陥り,炎症が遷延して筋力の維持が困難となる.このような状態は,筋ジストロフィーや多発筋炎といった難治性の筋疾患に限らず,加齢に伴うサルコペニアやフレイルにおいても観察される.したがって,これらの病態では,筋再生不全が筋量および筋力の低下を引き起こし,病態の進行に寄与していると考えられる.
骨格筋は,直径約20~100 µmの筋線維が束状に集まって構成されている.筋線維は多核細胞であり,その周囲を基底膜が覆っている.基底膜と筋線維の間隙には,骨格筋特異的幹細胞[筋衛星細胞(muscle satellite cells)]が存在する.筋衛星細胞は,筋線維へと分化する能力を持つ細胞であり,骨格筋の再生において中心的な役割を果たしている.激しい運動や外的な損傷によって骨格筋が傷害されると,筋衛星細胞が活性化され,再生筋線維へと分化することで損傷部位が修復される.同時に,活性化された筋衛星細胞の一部は再び未分化な状態に戻り,次なる傷害に備える.この過程を通じて,骨格筋の恒常性が維持されている.
しかし,筋損傷後の再生と組織修復が正常に進行するためには,筋衛星細胞だけでは不十分であることが知られている.マウスを用いた筋傷害モデルの解析では,損傷前にクロドロネートリポソームを投与して単球やマクロファージを除去すると,筋損傷後の再生と組織修復が著しく遅延することが示されている1).このことから,筋損傷後の再生には,単球やマクロファージをはじめとする免疫細胞の存在が必須であることがわかる.
骨格筋が傷害されると,損傷を受けた筋線維は壊死し,これがトリガーとなって免疫細胞が活性化され,血管を介して損傷部位へと遊走する.最近の研究から,免疫細胞の活性化と同時に,損傷した筋線維から漏出する成分,すなわち「損傷筋線維由来因子(damaged myofiber-derived factors:DMDFs)」が筋衛星細胞を活性化し,筋再生を開始することが明らかとなっている.さらに,DMDFsとして同定されたタンパク質の多くは代謝酵素であり,グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)などの解糖系酵素が含まれる2).
筋損傷後,最初に損傷部位に集結する免疫細胞は好中球である(図1).カルジオトキシン(蛇毒成分)などを用いたマウス筋傷害モデルでは,損傷後12時間をピークとして好中球が損傷部位にリクルートされることが示されている3).好中球は,壊死した筋線維を貪食して除去する役割を担っている.また,好中球はTNF-α, IL-1, IL-8などの炎症促進型サイトカインや活性酸素種(reactive oxygen species:ROS)を分泌し,組織炎症を進行させる.さらに,好中球は単球やマクロファージの遊走に必須のケモカインであるCcl2を分泌する4–7).これにより,次に続く免疫細胞のリクルートメントが促進される.
好中球の数は,筋損傷後2日目には減少に転じ,次第にマクロファージが多数を占めるようになる.マクロファージの数は損傷後3日目にピークを迎える(図1,図2).マクロファージは,Ly6Cという表面マーカーの発現レベルに基づき,Ly6Chi(M1様)マクロファージとLy6Clo(M2様)マクロファージの2種類に大別される.損傷後1~2日目には,好中球に続いて血液中から炎症性単球が損傷部位にリクルートされ,Ly6Chiマクロファージへと分化する.このマクロファージは,Ly6Cのほか,F4/80を発現するが,Cx3cr1の発現は低い集団である(CD45+CD11b+F4/80+Cx3cr1lo).炎症性単球の損傷部位への遊走には,単球表面のケモカイン受容体Ccr2が必須である.全身でCcr2を欠損すると,筋損傷後のLy6Chiマクロファージの遊走が障害され,壊死線維が残存するとともに再生が著しく抑制される.このことから,Ccr2を介したマクロファージのリクルートメントが筋損傷後の再生に必須であることがわかる8, 9).
Ly6Chiマクロファージは,壊死線維や死細胞を貪食して除去する役割を担うとともに,insulin-like growth factor-1(IGF-1)を産生し,筋衛星細胞の増殖をサポートして筋再生を促進する.また,筋衛星細胞の活性化と筋線維への分化には,細胞外基質(extracellular matrix)の適切な存在が必須である.間葉系前駆細胞(fibro adipogenic progenitor:FAP)は,コラーゲン6aやフィブロネクチンなど細胞外基質の主要な産生源であり,筋衛星細胞の分化をサポートするが,その異常活性化は骨格筋の線維化や脂肪化を促す10, 11).Ly6ChiマクロファージはTNF-αを産生し,FAPにアポトーシスを誘導することでその増殖を調節し12, 13),筋損傷後の再生を協調して制御する.
損傷後3日目の筋組織には,最も多くのマクロファージが集積し,その数は損傷後7~14日目にかけて徐々に減少する.この時期のマクロファージの約8割は,表面マーカーとしてCD11b+Ly6C−F4/80+を示し,炎症収束および組織修復能を持つと考えられている.
4. 脂質による免疫細胞の機能制御が筋再生と組織修復に必須である
筋損傷後の再生過程において,主役を担うのは筋線維へと分化する能力を備えた筋衛星細胞である.しかし,筆者らの最近の研究から,好中球や単球・マクロファージが適切に機能することが,再生と組織修復プロセスに必須であることが明らかとなっている.マクロファージは多彩な機能を持つ自然免疫をつかさどる細胞集団であるが,中でも再生や修復をつかさどるマクロファージ機能の制御に脂質代謝が重要であることが示されている.
sterol regulatory element-binding protein(SREBP)1は,脂質代謝を制御する転写因子であり,肝臓をはじめとした全身の臓器に広く発現している.SREBP1にはSREBP1aとSREBP1cの二つのアイソフォームが存在するが,マクロファージにおいてはSREBP1aが主要なアイソフォームである.
Toll-like receptor 4(TLR4)の活性化によって誘導される炎症応答の過程で,マクロファージは自律的に炎症促進型(M1様)から炎症収束型(M2様)へと,機能と表現型を変化させ,炎症応答を自律的に収束させる.この炎症応答のプログラムと,SREBP1依存的な脂肪酸代謝とが連携すること,加えてこの過程には,細胞時計も影響を及ぼすことが明らかとなっている14, 15).
具体的な分子機序として,定常状態においては,脂肪酸代謝に関連する遺伝子群の多くはliver X receptor(LXR)によって発現が保たれている.ところが,TLR4の活性化により,LXRの機能が一過的に抑制され,代わってSREBP1が活性化される.活性化されたSREBP1はエピゲノムの変化を伴いながら,stearoyl-CoA desaturase 2(Scd2)など脂肪酸の不飽和化に関与する遺伝子群の発現を促進する.その結果,細胞内のエイコサペンタエン酸[eicosapentaenoic acid:EPA, (C20:5 n-3)]をはじめとする長鎖不飽和脂肪酸の細胞内の含有量が増加すると考えられる.このような脂肪酸代謝の変化が,マクロファージの炎症応答の適切な収束のみならず,個体レベルでの炎症応答の収束にも必須であることが明らかとなっている16).
筋再生におけるマクロファージのSREBP1の役割を明らかにするため,筆者らは,SREBP1aを,マクロファージを含む骨髄球系細胞選択的に欠損するマウスモデル(Lyz2-Cre:Srebf1a−/−)を作製し,筋損傷後の再生を評価した.その結果,骨髄球系におけるSREBP1aを欠損すると筋損傷部位への単球・マクロファージのリクルートが著しく抑制され,筋再生と組織修復が有意に遅延することが明らかとなった(図3).SREBP1欠損マクロファージはミトコンドリアの形態異常および機能低下を示し,マクロファージの遊走に関連するCx3Cr1タンパク質の発現が有意に低下していた.
脂質の網羅的解析の結果,SREBP1欠損マクロファージでは,EPA含有リン脂質を含む主要なリン脂質種の低下が認められた.興味深いことに,全身でSREBP1を欠損するマウス(Srebf1−/−)に対し,食餌としてEPAを補充すると,マクロファージの損傷部位へのリクルートが正常化し,筋損傷後の再生も回復した(図4)17).
EPAを含む長鎖不飽和脂肪酸は,魚油に豊富に含まれ,古くから抗炎症作用を有することが知られている.また,EPA製剤は,脂質代謝改善薬として臨床でも広く使われている.これらの知見は,EPAをはじめとする多価不飽和脂肪酸(polyunsaturated fatty acid:PUFA)が,単なる脂質代謝改善薬としてだけでなく,食餌性脂質を介してマクロファージ機能を調節することで,筋損傷後の再生を制御できる可能性を示している.
機能性脂質,特に脂質メディエーターは,マクロファージなどの免疫細胞の機能を制御するだけでなく,筋衛星細胞にも直接作用して筋再生を促進することが報告されている.Markworthらは,筋線維傷害後の筋肉内の脂質メディエーターを液体クロマトグラフィータンデム質量分析法(LC-MS)に基づくリピドミクスでプロファイリングし,傷害後の筋組織では炎症を誘発するエイコサノイド(プロスタグランジンE2等)とともに,炎症抑制性のレゾルビン等(specialized proresolving mediators:SPMs)が増加することを報告している18).
レゾルビンD1は,リポキシン,プロテクチン,マレシンとともに必須脂肪酸の代謝活性物質ファミリーの一つであり19),マクロファージ機能を調節することが知られている.レゾルビンD1は筋損傷後,マクロファージの活性化を促進し,筋衛星細胞の分化には直接影響を与えないが,分化後の筋線維からのサイトカイン分泌に影響を与え,傷害後組織の炎症の持続を抑制し,筋恒常性の回復を促進する.このように,筋再生・修復を制御する炎症細胞と筋衛星細胞の相互連携において,活性化脂質がきわめて重要な役割を果たしている.
また,PUFAsが筋細胞内のミトコンドリア機能や酸化ストレス応答を改善することも報告されており,筋細胞の生存性や再生効率の向上につながる可能性がある.
PUFAsの生理作用は免疫細胞にとどまらず,骨格筋の再生に直接関与する細胞である筋衛星細胞にも多面的な影響を与えることが明らかになってきている.筋衛星細胞は,損傷後の筋組織において活性化され,増殖・分化して新たな筋線維を形成する重要な幹細胞様細胞である.EPAおよびドコサヘキサエン酸[docosahexaenoic acid:DHA, (C22:5)]といったω-3系PUFAsは,これらの筋衛星細胞において,筋分化に関わる転写因子(Myf5, MyoD, Myogeninなど)の発現を促進し,筋分化プログラムを加速させることが報告されている.また,これらの脂肪酸は細胞膜の流動性を高めることにより,細胞外シグナルへの応答性を増強し,筋再生に必要な成長因子(例:IGF-1)への感受性を高めることが示唆されている20).
加えて,PUFAsは筋細胞のミトコンドリア代謝を改善し,酸化的リン酸化(OXPHOS)機能を高めることも知られている.これは再生時に高エネルギーを要求される筋細胞において,細胞生存率や回復速度を高める重要な要素となる.さらに,PUFAsにはNrf2経路を活性化することで抗酸化応答を促進する作用があり,損傷部位で生じるROSによる二次的な細胞障害を抑制する効果も期待される21, 22).
一方で,筋損傷後の再生過程では,過剰な線維芽細胞活性やコラーゲン沈着による線維化がしばしば問題となる.これは筋組織の柔軟性や収縮性を低下させ,機能回復を妨げる主因となる.肝臓における研究では,ω-3系PUFAsにはこの線維化の進行を抑制する抗線維化作用が報告されており,そのメカニズムの一つとして,TGF-β/Smad経路の抑制があげられる23).TGF-βは線維芽細胞の分化やコラーゲン産生を促進する中心的なサイトカインであるが,PUFAsはその下流シグナルを阻害することで,組織における過剰な結合組織の蓄積を抑える.また,PUFAsはマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)群の発現を促進し,過剰な細胞外基質の分解を助けることで,組織リモデリングと再生のバランスをとる働きもあると考えられている.
また,体内でn-3 PUFAが常時高レベルなFat-1遺伝子導入マウスでは,カルジオトキシン投与による筋損傷後7日および14日目の筋繊維サイズが大きく(=再生促進),筋組織内の線維化が有意に低減し,血清レベルでの炎症マーカー低下と筋衛星細胞活性化が観察されることが報告されている24).
このように,PUFAsはマクロファージを介した免疫調節だけでなく,筋衛星細胞の機能活性化,ミトコンドリア代謝の改善,酸化ストレスの抑制,および線維化の制御といった複数のレベルで筋再生を促進している.この多面的な作用は,PUFAsを単なる抗炎症性脂肪酸という枠にとどまらせず,再生医学や筋疾患の栄養療法に向けた介入手段として有望である可能性を示唆する.
本稿では,筋損傷を契機とする炎症応答から組織再生・修復に至る過程において,免疫細胞,特に単球・マクロファージの機能を調節する脂質の役割を概観した.最近の研究から,骨格筋のリン脂質組成が運動機能に与える影響も次第に明らかになりつつある.たとえば,Gpcpd1(別名GDE5)はリン脂質の組成を調節するリン脂質代謝酵素である.骨格筋でのリン脂質内のDHA量は筋収縮力に影響する.Gpcpd1欠損マウスは骨格筋内のグリセロホスホコリンが蓄積し,DHAを含有するホスファチジルコリンが低下,リノール酸を含有するホスファチジルコリンが増加するなど,坐骨神経切除マウスや遺伝性のmdxマウスなどの骨格筋量が低下する筋萎縮モデルマウスと類似したリン脂質組成を示し,筋量が低下することが報告されている25).
さらに近年,シングルセルトランスクリプトームやリピドミクスなどマルチオミクス手法による筋再生・修復における脂質機能の研究も盛んに行われており,再生・修復を担う細胞間相互作用と脂質の役割も明らかになりつつある.今後の研究の展開がますます期待される.