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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 97(6): 824-833 (2025)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2025.970824

総説Review

有糸分裂紡錘体の形成を駆動する中心体分離の分子機序Molecular mechanisms of centrosome separation driving mitotic spindle assembly

東京大学大学院薬学系研究科Pharmaceutical Sciences, Faculty of Pharmaceutical Sciences, The University of Tokyo ◇ 〒113–0033 東京都文京区本郷7–3–1 ◇ 7–3–1 Hongo, Bunkyo, Tokyo 113–0033, Japan

発行日:2025年12月25日Published: December 25, 2025
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有糸分裂は,親細胞のゲノム情報を娘細胞へ正確に伝達し,遺伝的に同一な細胞を生み出す,真核細胞の増殖における根幹的なプロセスの一つである.この過程の中心をなすのが,微小管から構築される有糸分裂紡錘体であり,その形成の起点として中心体が機能する.多くの動物細胞において,間期には接着した状態にある二つの中心体は,分裂期に入ると互いに分離して核の両極へと移動し,双極性の紡錘体を形成する.中心体分離は,細胞周期と緻密に同期した高度に制御されたプロセスであり,キナーゼ,モータータンパク質,細胞骨格からなる複雑な分子ネットワークによって駆動される.この制御の破綻は,がんや発生異常といった疾患の主要な要因となる染色体不安定性につながる.本稿では,ヒト細胞における中心体分離の分子メカニズムとその制御原理を体系的に整理し,この生命現象の新たな理解を提示する.

1. はじめに

有糸分裂は,親細胞が保有する全ゲノム情報を娘細胞へ正確に継承させ、遺伝的に同一な二つの娘細胞を生み出す,真核生物にとって根源的な細胞増殖プロセスである1).このプロセスの核心を担う有糸分裂紡錘体は,無数の微小管によって構成される,複製・凝縮された染色体を娘細胞へ分配するための高次構造であり,その形成と機能の厳密な制御は,個体の発生や組織の恒常性維持に不可欠である.多くの動物細胞において,この紡錘体の形成の空間的な起点,すなわち主要な微小管形成中心として機能するのが中心体である(図1).間期には通常,単一のユニットとして細胞質内に存在する二つの中心体は,有糸分裂期へと移行する際,互いに分離を開始する.この分離した中心体は核の両極へと移動し,それぞれが紡錘体の極として機能することで,双極性の紡錘体の形成を駆動する.したがって,この中心体分離こそが紡錘体形成の最初のステップであり,それに続く染色体分離を含む有糸分裂全体の成功を左右する,重要なプロセスである.

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図1 中心体分離が駆動する有糸分裂紡錘体の形成

間期と分裂期では微小管ネットワークの構造と機能が異なっている.微小管形成中心として機能する二つの中心体は間期では接着しているが,これらが分離することで,分裂期の微小管ネットワークである有糸分裂紡錘体の形成が駆動される.

中心体分離は,単なる二つの細胞内構造の受動的な解離ではなく,時空間的に高度に制御されたプロセスである2).このプロセスは,細胞周期の進行と精緻に同調し,複数のキナーゼ,モータータンパク質,および細胞骨格が織りなす複雑な分子制御ネットワークによって駆動される.その根幹には,二つの中心体をつなぎとめる接着メカニズムと,これらを能動的に引き離す分離メカニズム間の,動的なバランス制御が存在する.この絶妙なバランスが破綻すると,中心体は適切なタイミングで分離できず,結果として紡錘体の形成や機能に異常を来し,染色体不安定性を引き起こす.染色体不安定性は,がんの発生と悪性化を促進する主要な駆動要因の一つであり,また発生異常などの原因ともなる1).したがって,中心体分離の分子機序を包括的に理解することは,細胞生物学における根源的な問いに答えるだけでなく,これらの病態の病理学的基盤を解明し,有効な治療戦略を開発する上でも重要である.

本稿では,この中心体分離という有糸分裂の最初のプロセスに焦点を当て,ヒト細胞におけるその分子機序と制御に関する現在の理解を体系的に概説する.本稿が,有糸分裂の正確性を保証する,この巧妙かつダイナミックな生命現象の理解を深める一助となることを期待する.

2. 細胞周期を通じて厳密に維持される「二つの中心体」

中心体は動物細胞に存在する細胞小器官であり,中心小体とそれを取り囲む中心小体周辺物質(pericentriolar material:PCM)からなる3)図2).中心小体は3連微小管が9回対称に配置された筒状の構造体であり,中心体の構造基盤として機能する安定な細胞内構造である4).従来,中心小体を取り囲むPCMは不定形なマトリクス状の構造体と考えられていたが,近年の超解像顕微鏡による解析により,PCMを構成する各タンパク質が同心円状に配置され,階層的な層構造を持つ秩序だった配向を形成していることが明らかとなっている5–7).このPCMは,微小管形成のテンプレートとして機能するγ-チューブリン複合体を集積しており,この複合体から微小管が新たに重合することで,中心体は動物細胞における主要な微小管形成中心としての役割を担っている8).中心体は,微小管ネットワークの起点として,間期の細胞では細胞形態,細胞遊走,細胞内輸送などを制御し,分裂期には微小管が収束する紡錘体極を規定することで,紡錘体形成に中心的な機能を果たしている(図1).

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図2 ヒト体細胞における中心体サイクル

中心体は一つの母中心小体とそれを取り囲むPCMによって構成されている.細胞内には細胞周期を通じて常に二つの中心体が存在している.間期を通して,これらの中心体は中心体リンカーにより接着している.S期からG2期にかけて,母中心小体の側面から娘中心小体が複製される.G2後期から分裂期前期にかけて,接着していた二つの中心体は分離して有糸分裂紡錘体を形成する.染色体分配後に娘細胞は一つの中心体を受け継ぐが,その娘中心小体が母中心小体から解離してPCMを獲得することで,中心体(母中心小体)へと変換される.この一連の複製メカニズムにより,細胞あたりの中心体の数は常に二つに保たれる.

細胞分裂の際に,各紡錘体極に位置する中心体は,それぞれ新たに生じる娘細胞へと分配される.この分配に伴う中心体数の減少を防ぐため,細胞は中心体を細胞周期ごとに1回だけ複製することで,細胞あたりの中心体数を一定に維持している3).従来,G1期の細胞には一対の中心小体から構成される一つの中心体が存在し,S期からG2期にかけて既存の中心小体(母中心小体)から新たな中心小体(娘中心小体)が複製されることで二つの中心体となり(中心体複製),それらによって双極性紡錘体が形成されると考えられていた9, 10).しかし,近年の研究により,細胞内には細胞周期を通じて常に二つの中心体が存在しており,それぞれが娘細胞へ分配される分裂後期に新たな複製が生じることで,中心体数は安定的に維持されることが明らかとなっている11–13)図2).したがって,現在の理解ではG1期の細胞にもすでに二つの中心体が存在し,それぞれは一つの中心小体とそれを取り囲むPCMによって構成されている.S期からG2期にかけて,各母中心小体の側面に一つずつ娘中心小体が複製されるが,この娘中心小体は微小管形成能を持たないため紡錘体形成には寄与しない.染色体が紡錘体によって分離された後,娘中心小体は母中心小体から物理的に解離し,周囲にPCMを獲得することで構造的および機能的な成熟を遂げる11, 13).この結果,娘中心小体は新たな母中心小体としての微小管形成能を獲得し,次の細胞周期において中心体の核として機能するよう変換される.このように,一連の中心体複製サイクルの最終段階である中心小体の解離と中心体への変換が,細胞質分裂による娘細胞の形成タイミングと同期することで,細胞あたり二つの中心体数が常に維持されている.

したがって,G1期の細胞には,新たに複製された中心体を構成する新しい母中心小体と,前回の細胞周期から引き継がれた中心体を構成している古い母中心小体の二つが存在する3).古い母中心小体には,頂端部にディスタル・アペンデージとサブディスタル・アペンデージという2種類の構造が備わっており,新しい母中心小体には存在しない特徴的な機能を担っている.古い母中心小体は,ディスタル・アペンデージを介して形質膜にドッキングし,頂端側から自身を構成する微小管を伸長させることで,形質膜が外側に向けて突出した不動性の一次繊毛を形成することができる14, 15).この一次繊毛は,ヘッジホッグなど多様な細胞外シグナルを受容するアンテナとして機能する.一方,サブディスタル・アペンデージは複数の微小管を係留する役割を持ち,それらの微小管を安定化することで,間期の細胞における微小菅ネットワークの構築および維持に寄与している16)

3. 中心体リンカーによる「二つの中心体」の強固な接着

間期の細胞に存在する二つの中心体は,物理的に接着することで近接した位置に保持されている.この中心体接着は,中心体リンカーと呼ばれる線維状の構造体によって担われている2)図2).中心体リンカーは,染色体が分離する分裂後期に,母中心小体と解離した娘中心小体の間で形成される.解離した娘中心小体は,新たな母中心小体へと変換される過程で,PCMに加えてC-Nap1をその基底部に獲得する.古い母中心小体と新しい母中心小体の双方の基底部のC-Nap1を起点として,線維状タンパク質であるRootletinやLRRC45に加えて,CEP68, centlein, CCDC102B, Nineinといったさまざまな分子が集積することで,中心体リンカーが形成される17–24).これら分子のうち,C-Nap1, Rootletin, CEP68およびNineinが中心体リンカーの主要構成分子とみなされているが25),細胞種ごとに主要構成分子が使い分けられていることも明らかとなっている24).近年の筆者らの超解像顕微鏡を用いた解析により,Rootletinがオリゴマー化して形成する細いフィラメントが,CEP68によって束ねられて太い線維となっており,この太い繊維がC-Nap1のリング構造を起点として放射状に複数形成されていることが明らかとなった26).さらに,それらの線維が網目状のネットワークを構築することで,二つの中心体を柔軟かつ強固に結びつけていることが示された26, 27).中心体リンカーによる中心体どうしの接着は,間期において各中心体から放射状に伸びる独立した微小管ネットワークを統合し,細胞内構造や細胞極性の正確な制御を可能にすると考えられている.実際に,C-Nap1欠損によるリンカー形成不全を示す細胞では,細胞遊走などの微小管依存的な細胞機能に異常が生じることが筆者らの研究で明らかとなっている28).また,中心体接着は,一次繊毛の空間配置の制御にも重要なことが示されている29)

4. ホモ四量体型の逆行性キネシンKIFC3による動的な中心体接着

従来,間期の細胞における中心体接着は中心体リンカーにのみ依存していると考えられてきたが30),筆者らの近年の研究により,リンカーとは独立した微小管依存的な中心体接着機構の存在が明らかとなった28).中心体リンカーの形成不全を示すヒト細胞では強固な中心体接着は失われているものの接着状態が動的に生じており,この動的な接着は微小管重合阻害剤ノコダゾールの処理によって消失した.この観察は,2000年ごろに報告された,「微小管の重合阻害によって中心体接着が減弱する」という知見とも一致するが31),当時はリンカーの解体を制御するキナーゼとホスファターゼのバランス異常として理解されており,微小管依存的な接着機構の存在は想定されていなかった32).したがって,微小管による中心体接着機構の詳細は不明であったものの,紡錘体極どうしの距離を近づける制御という観点では,微小管上をマイナス端方向へ移動するkinesin-14ファミリーに属する逆行性キネシンや,ダイニン分子モーターの関与が数多く報告されていた.分裂酵母では,kinesin-14ファミリーのPkl1とKlp2が,それぞれ独立したメカニズムで二つの紡錘体極構造であるspindle pole body(SPB)の距離を狭めることが知られている33, 34).さらに,出芽酵母のKar3も,SPB間の距離の制御を通じて紡錘体長を短縮させる35, 36).哺乳動物細胞においても,同様にkinesin-14分子のHSET/KIFC1が,双極性紡錘体の極間距離を狭めることが示されている37).しかし,哺乳動物細胞のKIFC1は間期には主に核内に局在し,核膜崩壊が生じた後の分裂前中期以降にのみ紡錘体極に局在して,その極間の距離を制御する.また,ヒト紡錘体の極間距離の制御には,逆行性の微小管モーターであるダイニンの関与も示唆されている38–41).このため,間期細胞における微小管依存的な中心体接着機構には,KIFC1以外の逆行性キネシンやダイニンの関与が推察された.

そこで,筆者らは,中心体リンカーを欠失した細胞を用いて,逆行性キネシンやダイニンの発現抑制および過剰発現によるスクリーニングを実施した.その結果,KIFC3逆行性キネシンが,そのモーター活性を介して,微小管依存的に二つの中心体を接着させることを見いだした42).では,KIFC3はどのようにして二つの中心体を接着させているのだろうか.分裂酵母Pkl1や出芽酵母Kar3はSPBに局在し,もう一方のSPBから伸びる微小管を補足してその微小管上をSPB方向(微小管マイナス端)に滑走することで,二つのSPBを引き寄せる力を発生させる33, 43).KIFC3の場合も中心体のサブディスタル・アペンデージに局在しており,KIFC3による中心体接着にはサブディスタル・アペンデージの存在が必要であった42).このため,この中心体構造に局在したKIFC3が,もう一つの中心体から伸びる微小管を補足して引き寄せる可能性が示唆される.また,KIFC3はサブディスタル・アペンデージに係留された微小管上を移動しうることから42),この係留された微小管上において,もう片方の中心体から伸びる微小管を捕捉し,それぞれの微小管を架橋してマイナス端方向にスライドさせることによって,二つの中心体を接着させている可能性もある.分裂酵母のKlp2は,モータードメインペアとC末端微小管結合ドメインの両方で2本の微小管を架橋・スライドさせることで,SPB間の距離を短縮する働きを持つことが示されている33, 44).興味深いことに,精製したKIFC3タンパク質を電子顕微鏡によるネガティブ染色法で解析した結果,KIFC3は一般的なホモ二量体型キネシンとは異なり,ヒト逆行性キネシンとしては初めてホモ四量体を形成することが明らかとなった42)図3A).この四量体構造により,それぞれのモータードメインペアが2本の微小管を架橋してマイナス端側へスライドさせ,二つの中心体の間に内向きの接着させる力を生み出している可能性がある(図3B).KIFC3がどちらのメカニズムで中心体を接着させる力を創発しているのかは未解明であるが,これらのメカニズムは共存しうるものである.

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図3 ホモ四量体型の逆行性キネシンKIFC3による微小管依存的な中心体接着

(A)精製リコンビナントKIFC3タンパクの電子顕微鏡画像(ネガティブ染色).スケールバー: 30 nm. (B) KIFC3による微小管依存的な中心体接着メカニズムのモデル.Hata, S., et al. (2019) Nat. Cell Biol., 21, 1138–1151より改変.

5. 中心体分離の引き金となる中心体リンカーの解体

細胞周期において,間期と分裂期の細胞内構造で最も顕著に異なるものの一つが,微小管ネットワークの構築様式である.その最大の違いの一つは,起点となる二つの中心体の空間的な配置にある.間期では二つの中心体が接着して単一の微小管形成中心ユニットとして機能しているのに対し,分裂期に入ると二つの中心体は空間的に離れて配置され,その間の空間に紡錘体と呼ばれる微小管ネットワークが構築される.この空間配置の変化は,有糸分裂における最初期のイベントである「中心体分離」と呼ばれる現象によってもたらされる.G2後期に始まるこの中心体分離は,さまざまなメカニズムによって制御された多段階のプロセスからなる.まずG2後期から分裂前期にかけて,二つの中心体を強固に接着する中心体リンカーの解体が起こる(図4).この中心体リンカーの解体に中心的な役割を果たすのが,分裂期にかけて活性化するNEK2キナーゼである.NEK2はC-Nap1, Rootletin, CEP68などのリンカー構成分子をリン酸化し,それらの分子間相互作用を弱めることでリンカーの解体を誘導する19, 20, 23, 45, 46).NEK2は間期を通じて中心体リンカーに局在しており46, 47),G2後期になるとそのキナーゼ活性が上昇することで,リンカーの解体が誘導される.NEK2活性の制御には分裂期キナーゼPLK1の働きが深く関与しており,PLK1はNEK2の不活性化因子であるCEP85をリン酸化してNEK2から解離させるほか48),PP1γホスファターゼとNEK2の結合を阻害することでNEK2基質のリン酸化レベルを上昇させると考えられている49, 50).実際に,PLK1を阻害すると分裂期におけるC-Nap1やRootletinの中心体からの消失が抑制される49, 51).しかし,NEK2活性の詳細な制御機構については未解明な点も多く残されており,今後のさらなる研究が求められている.

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図4 二つのホモ四量体型キネシンKIFC3とEg5による中心体分離の拮抗的制御

間期では中心体リンカーにより,二つの中心体が強固に接着している.G2後期にNEK2が中心体リンカーを解体すると,ホモ四量体型の逆行性キネシンKIFC3による微小管依存的な中心体接着機構が中心体接着の主要メカニズムになる.相反するホモ四量体型キネシンKIFC3とEg5が生み出す中心体間の内向きと外向きの力のバランスによって,中心体分離のタイミングが決定される.これには,NEK2によるKIFC3経路の抑制などが寄与し,最終的に中心体が分離して,有糸分裂紡錘体の形成が駆動される.Hata, S., et al. (2019) Nat. Cell Biol., 21, 1138–1151より改変.

6. ホモ四量体型の順行性キネシンEg5が創発する中心体を分離させる力

中心体リンカーが解体されると,二つの中心体は互いから離れるように移動をすることで分離する.この中心体が分離する動きは,kinesin-5ファミリーの順行性キネシンであるEg5/KIF11によってもたらされる(図4).Eg5は初めて同定されたホモ四量体型順行性キネシンであり,それぞれの中心体から伸びる微小菅を逆平行に架橋しプラス端方向にスライドさせることで,二つの中心体の間に外向きの押し出す力を創発する52, 53).このため,Eg5を阻害すると中心体分離が抑制され,核膜崩壊後には二つの極が離れない単極性の紡錘体が形成され,有糸分裂は停止する54, 55).Eg5の中心体への局在や微小管への結合は,CDK1またはCDK2によるリン酸化によって促進されている51, 55, 56).また,PLK1とNEK9のキナーゼカスケードによって活性化されるNEK6/7によるリン酸化も,Eg5の中心体局在ならびに中心体分離に必要である57).また,NEK9が誘導するEg5の中心体局在には,Eg5と相互作用するTPX2のリン酸化を介した経路やPTENを介した経路も存在することが報告されている58, 59).このようにEg5は中心体分離に不可欠なモーター分子である一方,興味深いことに,Eg5が阻害された場合でもダイニンモーター分子が相補的に機能することで中心体分離が生じる例も報告されている60).このダイニンによる中心体分離は,核膜上に存在するBICD2がPLK1によってリン酸化されることでダイニンを核膜上に局在化させ,ダイニンが中心体から伸びる微小管を引き寄せることで生じている61)

7. KIFC3とEg5が創発する力のバランスによる中心体分離のタイミング制御

中心体分離のタイミングはきわめて厳密に制御されており,このタイミングは,従来,中心体リンカーの解体とそれに続くEg5の活性化によって決定されると考えられてきた30).しかし,リンカー自体の強固な性質ゆえに,解体が適切なタイミングで迅速に遂行できるのかという疑問が残っていた.筆者らの最近の研究により,G2後期には中心体接着の主なメカニズムが,中心体リンカーから微小管依存的な機構へと移行することが明らかになった42).G2期から分裂前期に進行する過程で中心体リンカーが徐々に解体され,それに伴い中心体どうしの接着がより動的な様式へと変化する.微小管依存的な中心体接着を担うKIFC3を欠損させると中心体分離のタイミングが異常に早期になり,この異常分離はEg5阻害によって抑制された.これにより,中心体リンカーの解体後,KIFC3による接着とEg5による分離とのバランスが,最終的な中心体分離のタイミングを決定していることが明らかとなった(図4).紡錘体の極間における,逆行性キネシンが生み出す接着する力と順行性キネシンによる分離する力のバランスは,出芽酵母(Kar3とCin8),分裂酵母(Pkl1とCut7)および真菌(KlpAとBimC4)における有糸分裂紡錘体の形成メカニズムとしても知られている33–36, 62).ショウジョウバエにおいても,逆行性キネシンとダイニン間の同様のバランスが中心体間の距離を制御することが知られている63).したがって,相反するモータータンパク質が駆動する中心体や紡錘体極間の接着する力と分離する力の間のバランスは,酵母からヒトまで進化的に保存された,有糸分裂紡錘体の普遍的な制御原理であるといえる.

中心体分離のタイミングでは,KIFC3の中心体局在が抑制されることで中心体接着が適切に弱められており,この抑制はNEK2によって引き起こされていた42).すなわち,NEK2は,中心体リンカーと微小管依存的な機構という二つの独立した接着機構を段階的に解除することで,適切なタイミングでの中心体分離を駆動していることが判明した(図4).ただし,NEK2がどのようにして二つの接着機構を異なるタイミングで解除しているのか,またKIFC3を抑制する具体的なメカニズムについては依然として未解明であり,今後の研究による解明が期待される.このように,静的で強固な中心体リンカーから動的かつ迅速に制御可能な微小管依存的な機構へと接着機構を切り替え,KIFC3とEg5が生み出す接着と分離の力のバランスをNEK2, CDK1, PLK1などの分裂期キナーゼが協調的に調節することで,タイムリーな中心体分離が実現していると考えられる.

8. 分離した中心体の動態と核膜崩壊時の中心体配置制御

間期の細胞では,接着した二つの中心体は,自身から放射状に伸びる微小管や細胞内のアクトミオシンネットワークの作用によって,細胞の中心付近に位置する64–66).一方,中心体分離が生じる際には,二つの中心体は核の真下かつ中央に配置されており,この配置の変換はG2期に核膜に局在するダイニンによって中心体が核側へと引き寄せられることで誘導される67, 68).核の真下中央で分離した二つの中心体は,それぞれが核縁へと移動し,最終的に扁平な楕円球状の核の最短軸上の核縁に整列した状態で核膜崩壊を迎える68, 69)図5A).こうした中心体動態は,時期特異的に形成される核縁のアクチンネットワークと中心体から伸びる微小管との相互作用や,LINC複合体を介して核膜に結合するダイニンとの協調によって制御されていることが示唆されている68–70).このような中心体配置は,核の最短軸上の核縁に整列されない場合に比べて,核膜崩壊後における紡錘体形成の迅速性や染色体分離の正確性が高い69).この理由として,核膜崩壊後の中心体と各染色体の距離が全体として近く,中心体極から伸びる微小管が染色体動原体へ効率的に到達できる点があげられる.一方で,分離したそれぞれの中心体は核の両極ではなく,核の真下中央と真上中央に位置して核膜崩壊を迎えるという報告もあり71),この時期の中心体配置やその制御メカニズムには今後さらなる解析が必要である.

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図5 双極性紡錘体の形成を保証する頑健なメカニズム

(A)中心体分離には前期経路と前中期経路が存在する.前期経路が機能しなくても,前中期経路によって双極性紡錘体が形成される.両経路の阻害により中心体が分離されなくても,非中心体性の紡錘体極を形成することで,双極性紡錘体が形成される.(B)中心体分離の前期経路が働かないNEK2欠損細胞に,前中期経路であるAurora-Aの阻害剤を処理すると,片方の極に二つの中心体が存在し,もう片方の極には中心体が存在しない異常な双極性紡錘体が形成される.Hata, S., et al. (2019) Nat. Cell Biol., 21, 1138–1151より改変.

9. 中心体分離のタイミング異常により生じる染色体分配異常と発がん

中心体分離は,適切な有糸分裂に不可欠なプロセスであるだけでなく,そのタイミングが正常に行われることも正確な染色体分配に必要であることが知られている.中心体分離のタイミングが遅延すると,核膜崩壊後に微小管が染色体動原体へ不適切に接着しやすくなり,染色体分配異常を引き起こすことが報告されている59, 72–75).中心体に局在する脱ユビキチン化酵素USP44は,中心体分離の遅延と染色体分配異常を抑制する役割を果たしており,USP44欠損マウスでは染色体数の異常や腫瘍の発生が増加することが示されている73).また,腫瘍抑制分子PTENに存在するEg5の中心体局在に必要な部位を欠損すると,中心体分離の遅延が生じ,この変異を持つマウスではPI(3)Kシグナルが正常であっても染色体数異常や腫瘍発生頻度が増加する59).さらに,中心体分離のタイミングが早期化することでも,紡錘体や染色体分配の異常を引き起こすことが知られている76).これらの知見は,中心体分離のタイミング異常が,染色体動原体と紡錘体微小管の接着エラーなどを誘発し,染色体不安定性を介して腫瘍形成につながる可能性を強く示唆している.一方で,筆者らの最近の研究では,中心体の分離遅延や早期分離が観察されるNEK2やKIFC3を欠損した正常二倍体細胞株においては,染色体分配の異常は認められなかった42).このことから,染色体安定性の高い正常細胞には,中心体分離のタイミング異常が染色体分配異常に発展しないような未知の制御機構が存在することが示唆される.また,中心体の早期分離が染色体分配異常につながるメカニズムについても未解明であり,今後の研究によるこれらの解明が期待される.

10. 中心体分離の異常に対する代替メカニズム

NEK2を欠損した細胞では中心体接着機構の解除ができないため,G2後期から分裂前期にかけて本来起こるべき中心体分離が生じない.しかし,分裂前中期への進行過程,すなわち核膜崩壊の直前には,中心体の分離が観察される42).これは,G2後期から分裂前期に機能する中心体分離の前期経路が十分に働かない場合,バックアップ機構である中心体分離の前中期経路が代替的に作用するためである72)図5A).この前中期経路には,Eg5に加えてAurora AやKIF15が関与していることが知られている77, 78).Aurora Aは中心体性微小管の形成やEg5の制御,中心体リンカーの解体を促して,中心体分離を駆動すると考えられている49, 79).KIF15は微小管の架橋機能を介し,Eg5による中心体分離を部分的に代替できる80–83).また,動原体に結合した微小管を介して紡錘体極の中心体を押し出す機構も,分裂前中期の中心体分離に寄与することが報告されている77)

驚くべきことに,前期経路を担うNEK2を欠損した細胞で前中期経路のAurora Aを阻害すると,中心体分離が生じないまま分裂中期に進行し,双極性紡錘体が形成されることが明らかとなった42).この紡錘体は,片方の極に二つの中心体が存在し,もう一方の極には中心体が存在しないという異常な極構造を示していた(図5B).これは,非中心体性の紡錘体極を形成させるメカニズムが作動した結果であると考えられる.実際に,中心体を持たない卵母細胞や中心体を欠失させた体細胞においても,非中心体性の紡錘体極によって紡錘体形成と染色体分配は可能である84, 85).では,中心体分離に必須なEg5を阻害した場合,こうした異常な双極性紡錘体ではなく,単極性紡錘体が形成されて有糸分裂プロセスの停止に至るのはなぜだろうか54, 55).これは,非中心体性の紡錘体極による双極性紡錘体の形成過程においても,Eg5が極を分離する力を生み出しているためだと考えられる86).すなわち,Eg5は,中心体分離のみならず,非中心体性極の分離にも不可欠であるため,Eg5が阻害されると双極性の紡錘体が形成されないのだろう.一般に,非中心体性の紡錘体極を持つ紡錘体では染色体分配の正確性が低いことが知られており87),中心体分離の両経路が阻害されて形成された異常紡錘体でも,染色体分配異常が著しく増加していた.これらの知見は,中心体分離が正確な染色体分配に不可欠であることを示すとともに,中心体分離によって生じる「空間的に離れた二つの紡錘体極の創出」というプロセスそのものが有糸分裂の根幹をなしており,細胞はこの頑健性を確保するために,冗長かつ多様な代替メカニズムを進化させてきたことを示唆している.

11. おわりに

本稿では,有糸分裂紡錘体の形成を駆動するプロセスである中心体分離について,その分子メカニズムと制御,そして異常がもたらす疾患発症について包括的に概説した.間期において二つの中心体を強固に接着させる中心体リンカー,そして微小管依存的な動的接着を担う逆行性キネシンKIFC3による接着機構が,分裂期キナーゼであるNEK2によって段階的に解除され,同時に順行性キネシンEg5による分離の力が創発されることで,タイムリーな中心体分離が実現されるという,巧妙かつダイナミックな制御機構が明らかになってきた.中心体分離のタイミングは,染色体分配の正確性に直接影響を及ぼし,その異常はがんなどの疾患発症につながる可能性が示唆されている.しかし,正常細胞において中心体分離のタイミング異常が必ずしも染色体分配異常に結びつかないケースも存在し,細胞が持つ未知の補償メカニズムの存在が示唆される.また,中心体分離の前期経路が機能しない場合でも,前中期経路が代替的に働き,あるいは非中心体性の紡錘体極形成というバックアップ機構が発動するなど,細胞が有糸分裂の遂行を担保するための多層的な防御システムを備えていることも明らかになった.しかし,NEK2が異なるタイミングで接着機構を解除する詳細なメカニズム,KIFC3の抑制メカニズム,さらには中心体の早期分離が染色体分配異常を引き起こす具体的な機序など,依然として多くの未解明な点が残されている.また,多様な細胞背景や生理的条件における中心体分離の動態や,それが個体発生や疾患にどのように影響するのかについても,さらなる研究が求められる.本稿で提示した知見が,中心体分離という生命現象に対する理解を深める一助となり,有糸分裂の根源的なメカニズムの解明,ひいては染色体不安定性に関連する疾患の新たな診断・治療戦略の開発へとつながることを期待する.

謝辞Acknowledgments

本稿は,2024年度日本生化学会奨励賞の受賞に際し,寄稿させていただいたものです.これまでご指導くださった東京薬科大学生命科学研究科・深見希代子先生,東京医科歯科大学(現・東京科学大学)難治疾患研究所・仁科博史先生,東京大学薬学系研究科・堅田利明先生,ハイデルベルク大学分子生物学研究所・Elmar Schiebel先生,東京大学薬学系研究科・北川大樹先生,そして共に研究に励んでくださったすべての皆様に,心より感謝申し上げます.

本総説は2024年度奨励賞を受賞した.

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著者紹介Author Profile

畠 星治(はた しょうじ)

東京大学大学院薬学系研究科 特任講師.博士(理学).

略歴

2011年東京医科歯科大学博士修了(仁科博史教授).特任助教,学振PD(堅田利明教授)を経て,15年ハイデルベルク大学ポスドク(Elmar Schiebel教授).19年より現職(北川大樹教授).21年さきがけ研究者.

研究テーマと抱負

ヒト疾患の理解に資する中心体研究をメインに,細胞内構造体の物性変化から上皮組織の構築まで多岐にわたる研究を学生とともに展開している.

ウェブサイト

https://researchmap.jp/Shoji-Hata

趣味

ホットヨガ,サウナ.

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