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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 97(6): 834-837 (2025)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2025.970834

みにれびゅうMini Review

PNPO-PLP制御軸による酸素感知・応答機構A novel oxygen-sensing and response mechanism mediated by the PNPO–PLP Axis

山形大学大学院医学系研究科生化学・細胞生物学講座Department of Biochemistry and Molecular Biology, Yamagata University Graduate School of Medical Science Major of Innovative Medical Science Research ◇ 〒990–9585 山形市飯田西2–2–2 ◇ 2–2–2 Iida-Nishi, Yamagata-shi, Yamagata 990–9585, Japan

発行日:2025年12月25日Published: December 25, 2025
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1. はじめに

酸素は多くの生物にとって必須の分子であり,低下すると細胞や個体は死に至る.そのため細胞には酸素濃度の変化を感知する分子機構が備わっている.低酸素誘導因子(hypoxia-inducible factor:HIF)は低酸素に応答して活性化される転写因子であり,解糖系酵素群,血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)やエリスロポエチン(erythropoietin:EPO)といった遺伝子群を標的とする.HIFはHIFα(HIF1α, HIF2α, HIF3α)とHIFβ(HIF1β/Arnt, HIF2β/Arnt2)がヘテロ二量体を形成し,標的遺伝子の転写を活性化する1).HIFβタンパク質は安定して発現しているが,HIFαタンパク質は通常酸素下では,プロリン水酸化酵素(prolyl hydroxylase domain:PHDs)によって特定のプロリン残基が水酸化され,その水酸化プロリンを目印にユビキチンE3リガーゼであるvon Hippel-Lindau tumor suppressorタンパク質(pVHL)と結合し,プロテアソーム系で分解される2, 3).細胞が低酸素に陥ると,PHDsの基質である分子状酸素が減少するため,HIFαの水酸化が抑制され,結果としてタンパク質が安定化し,標的遺伝子の転写が活性化する.これら一連の酸素感知機構の発見に対して,2019年にノーベル生理学・医学賞が授与された.

24時間以内の比較的短時間の低酸素状態(本稿では「急性低酸素」と呼ぶ)では,このPHD-HIF経路が主要な応答機構であることが知られている.一方で24時間以上,数日間にわたる長期間の低酸素(「慢性低酸素」)では,HIFの活性が低下することが報告されている4).しかし,慢性低酸素下での細胞の応答や適応機構については,これまで十分に研究されていなかった.本稿では,我々が最近明らかにした慢性低酸素における新たな細胞応答・適応の分子機構を紹介し5),従来の酸素感知機構との比較および今後の展望などについて述べる.

2. 生体における慢性低酸素と炎症応答

我々は慢性低酸素と炎症の関係を調べるために,腎性貧血を示すトランスジェニックマウスであるinherited super-anaemic mice(ISAM)6)を利用した.ISAMは腎臓におけるEPO発現が低下しており,大腸を含む全身のさまざまな組織で慢性的な低酸素を呈する.このマウスに,デキストラン硫酸ナトリウム(dextran sulfate sodium:DSS)によって腸炎を誘導し,炎症と慢性低酸素との関連を検討した.

その結果,ISAMではコントロールマウスと比較して,各種炎症スコアが上昇していた.そこでDSS腸炎モデルにおいて重要な役割を果たすマクロファージに注目した.腹腔内マクロファージではISAMで炎症反応が亢進していたのに対して,骨髄由来マクロファージではその差がみられなかった.腹腔マクロファージは生体内で分化したマクロファージであるのに対して,骨髄由来マクロファージは,マクロファージコロニー刺激因子(macrophage colony-stimulating factor:M-CSF)の存在下で,インキュベータ内にて1週間かけて分化させたものである.この結果から,両者の違いはマクロファージの分化過程における酸素濃度に起因すると仮定し,酸素濃度を制御したマクロファージ分化系でさらなる解析を行った.

3. マクロファージが分化する際の酸素濃度変動による炎症反応の変化

骨髄由来マクロファージを分化・培養する条件を,①大気中の酸素濃度の「通常酸素」,②通常酸素で分化させたのちに12時間1%酸素で培養する「急性低酸素」,③1%酸素濃度で分化させる「慢性低酸素」の3種類の条件のマクロファージを準備し,酸素環境によるマクロファージ炎症応答を調べた.これらのマクロファージにリポ多糖(lipopolysaccharide:LPS)を添加したのち,RNA-sequencing(RNA-seq)で遺伝子の転写活性を網羅的に解析したところ,慢性低酸素条件で分化したマクロファージにおいて,炎症性サイトカイン遺伝子の転写活性化が顕著に亢進していることがわかった.

この現象が従来の低酸素応答経路であるPHD-HIF制御系を介しているかどうかを調べるため,HIF1αおよびHIF2αのノックアウトマウス由来の骨髄由来マクロファージを用いて同様の実験を行った.その結果,野生型と同様に慢性低酸素下で炎症性サイトカイン遺伝子の発現亢進が観察され,HIF経路とは独立したメカニズムである可能性が示された.

さらに原因を探るため,RNA-seqの結果から,通常酸素と比較して慢性および急性低酸素で特異的な発現変動を示す遺伝子群のパスウェイ解析を行った.その結果,慢性低酸素ではリソソーム関連遺伝子群の発現低下が認められ,通常は酸性に保たれているリソソームpHが上昇していること,すなわちリソソーム活性の低下が明らかになった.

4. リソソーム活性の低下による下流因子の変動

リソソームはオートファジーなど細胞内の不要物の分解を担うなど,多機能な細胞小器官である.我々はその機能の中でも,細胞内Fe2+濃度の調節機能に着目した7).Fe2+を特異的に検出する蛍光プローブを用いた解析により,慢性低酸素下ではリソソーム活性の低下に伴い,細胞内Fe2+濃度が減少していることが確認された.

また,この現象はHIF経路には依存しないことがわかった.そこで,PHDと同様の活性部位を持つ脱メチル化酵素の細胞内タンパク質量を調べたところ,ten eleven translocation-2(TET2)の量が,慢性低酸素で顕著に低下していることが明らかになった.このTET2の低下がFe2+不足に起因するかを検証するため,細胞内Fe2+を補充する目的でクエン酸鉄を添加したところ,TET2タンパク質量は回復した.TET2は通常,DNA脱メチル化酵素として機能するが,先行研究から,LPS刺激下のマクロファージではヒストン脱アセチル化酵素(histone deacetylase:HDAC)と結合し,炎症性サイトカインの転写を後期に抑制する働きを持つこと報告されている8)

以上をまとめると,慢性低酸素下では,リソソーム活性低下によりFe2+濃度が低下し,それに伴ってTET2タンパク質が蓄積できず,炎症応答後期における転写抑制機構が破綻する.実際,慢性低酸素条件下のマクロファージでは,TET2-HDACの標的であるインターロイキン-6(interleukin-6:Il6)遺伝子プロモーター付近のヒストンアセチル化が持続的に高い状態に保たれており,これが炎症性サイトカイン遺伝子の異常な転写亢進を説明する分子機構であると考えられた.

5. 酸素濃度応答性代謝物としての活性型ビタミンB6(PLP)と酸素依存性酵素PNPO

慢性低酸素によるリソソーム活性低下の原因を探るために,マクロファージにおける網羅的代謝物解析を行った.その結果,活性型ビタミンB6として知られるピリドキサール5′-リン酸(pyridoxal 5′-phosphate:PLP)およびピリドキサール(pyridoxal:PL)が著しく減少していることが明らかになった.一方で,これらの代謝物の前駆体であるピリドキシン(pyridoxine:PN)の量には変化が認められなかった.この結果からPLP合成に必須の酵素であるピリドキサミン5′-リン酸オキシダーゼ(pyridoxamine 5′-phosphate oxidase:PNPO)の活性が,慢性低酸素により低下している可能性が示された.すなわちPNPOが酸素濃度に依存して機能する酵素であると考えられた(図1).

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図1 ビタミンB6代謝物と変換酵素

脱リン酸化体であるPN, PL, PMから,キナーゼによりリン酸化体のPNP, PLP, PMPとなる.さらにPNP, PMPはPNPOにより酸化されPLPとなり,さまざまな酵素の補酵素として機能する.

この仮説を検証するために,慢性低酸素下で培養したマクロファージに再酸素化処理を行った.その結果,低下していたPLPは再酸素化後に40分ほどの急速で通常酸素レベルにまで回復し,PNPOをノックダウンした細胞ではこのPLPの回復が著しく抑制された.これらの結果から,PNPOは酸素応答性の代謝酵素であることが実証された.

次に,PLPがリソソーム活性の維持に関与しているかを検討するために,PNPOノックアウトマウス由来マクロファージを用いてリソソーム活性を調べたところ,コントロールと比較して明らかに活性が低下していることがわかった.さらに,これらのマクロファージでは炎症性サイトカイン遺伝子の転写活性が慢性低酸素時と同様に亢進していたことから,慢性低酸素で観察された表現型はPNPOの機能低下によって説明できると考えられた.

6. PLP依存性代謝物としてのポリスルフィドの重要性

PLPはアミノ基転移反応や脱炭酸反応など,さまざまな酵素反応に関与する必須の補酵素である.我々は,慢性低酸素で観察されたマクロファージの炎症反応の亢進に関与するPLP依存性代謝物の候補として,硫黄代謝に着目した.近年,ポリスルフィドのような硫黄原子が複数連なった分子種(例:グルタチオン過硫化物など)が,細胞内で抗酸化や抗炎症などに重要な役割を果たすことが明らかになっている9, 10).ポリスルフィドの生合成にはPLPが必須であることから,サルフェン硫黄を特異的に検出できる蛍光プローブSSP4を用いて評価した.その結果,慢性低酸素下ではポリスルフィド分子種の減少が確認された.次に代表的なポリスルフィド分子であるグルタチオン三硫化物(GSSSG)を慢性低酸素マクロファージに添加したところ,リソソーム活性の回復とともに,亢進した炎症性サイトカインの転写活性化が抑制された.

以上の結果をまとめると,慢性低酸素によるPNPOの活性低下がPLPの減少を引き起こし,その結果としてPLP依存性に合成されるポリスルフィド分子種の低下が生じる.この一連の変化により,リソソーム活性の低下と細胞内Fe2+の減少が起こり,TET2タンパク質の蓄積が阻害される.その結果,炎症性サイトカイン遺伝子のプロモーター付近におけるヒストンアセチル化が過剰に持続し,炎症反応の遷延化が引き起こされると考えられた(図2).

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図2 慢性低酸素でのマクロファージの炎症応答亢進の分子機構

マクロファージが慢性低酸素に陥ると①PNPO活性が低下し,細胞内PLP濃度が低下する.②PLP依存性に産生される細胞内ポリスルフィドの低下に伴い,リソソーム活性が低下する.③リソソーム活性低下に伴う細胞内Fe2+低下でTET2タンパク質の蓄積が減弱し,IL6遺伝子などのアセチル化が高止まりすることで,サイトカイン遺伝子の発現が増強,あるいは発現状態が持続するなどして炎症応答が亢進する.

7. 従来のPHDなどによる低酸素応答系とPNPO-PLP制御軸の比較

PHDは酵素活性部位に2-オキソグルタル酸を必要とする酵素群の一つである.PHDと同様の反応機構を持つ酵素として,ヒストンおよびDNAの脱メチル化に関与するリシン脱メチル化酵素(lysine demethylase:KDM)ファミリーやTETファミリーなどがあげられる.これらの一部は,酸素濃度によって活性調節されることがすでに報告されている.ただし,これらすべての酵素が酸素感受性を持つわけではない.酸素による制御を受けるかどうかは酵素ごとの酸素に対するKm値に依存している.たとえば酸素感受性が報告されているKDM6Aや2-aminoethanethiol dioxygenase(ADO)などは,酸素に対しておよそ200 μMのKm値を持つことが知られており,これはPHDのそれと同等である11–13).今回,酸素濃度に応じて活性が変動すると示されたPNPOについても,既報において,およそ180 μMのKm値が報告されており,我々の実験結果とよく一致している14)

酸素を基質とする酵素は,大きくオキシダーゼとオキシゲナーゼに分けられる.オキシダーゼは酸化酵素と呼ばれ,基質から奪った電子や水素を酸素に受け渡すことで水や過酸化水素を生成する.一方,オキシゲナーゼは酸素添加酵素と総称され,酸素分子から酸素原子を基質に直接導入する酵素である.この酸素添加反応の存在は,早石修先生によって初めて証明されたものであり,日本生化学会会誌の本稿において明記すべき歴史的発見である.さらにオキシゲナーゼは,酸素原子を一つ基質に導入するモノオキシゲナーゼと,二つ導入するジオキシゲナーゼに細分される.これまでに酸素感受性が知られているPHD, KDM6A, ADOなどはいずれもジオキシゲナーゼに属する.これに対して,酸素濃度によって活性が制御されるオキシダーゼとして本研究で同定されたPNPOは初めての例であり,PNPO-PLP制御軸は従来の低酸素応答経路とは異なる新たな酸素感知メカニズムとして注目される.

8. 今後のPNPO-PLP制御軸の研究の方向性

これまで,低酸素環境下での分子応答の多くはHIFを中心に研究されてきた.特に腫瘍微小環境においては,低酸素が予後不良と強く関連しており,治療標的としての重要性が指摘されている15).しかしながら,HIFだけでは腫瘍環境下における低酸素応答をすべて説明することはできず,未解明の分子機構が存在することが考えられる.腫瘍組織では,低酸素が慢性的かつ持続的に存在することが多いため,こうした条件下ではPNPO-PLP制御軸が新たな酸素応答の鍵を握っている可能性がある.さらにPNPO-PLP制御軸は,がんのみならず,細胞老化,分化,組織再生といったほかの酸素依存的な生物現象にも関与している可能性が考えられる.今回示した炎症制御機構に加え,PNPO-PLP制御軸はより広範な生物現象の制御因子として注目され,今後の研究における重要なテーマになることが期待される.

謝辞Acknowledgments

これまでにご指導いただいた先生方,一緒に研究を進めてくださった学生,スタッフ,共同研究者の方々にこの場を借りて感謝申し上げます.

引用文献References

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著者紹介Author Profile

関根 弘樹(せきね ひろき)

山形大学大学院医学系研究科生化学・細胞生物学講座 教授.博士(医学).

略歴

北海道札幌市出身.2001年東北大学理学部化学科卒業,03年同大学院理学研究科博士課程前期修了,07年筑波大学大学院人間総合科学研究科博士課程修了,07年筑波大学TARAセンター博士研究員,09年東京大学分子細胞生物学研究所博士研究員,12年東北大学大学院医学系研究科助教,15年東北大学加齢医学研究所助教・講師,24年東北大学大学院医学系研究科准教授,25年より現職.

研究テーマと抱負

酸素をはじめとした外部環境の変化による細胞・生体の応答分子機構の解析.新たな分子機構を解き明かして,生命の理解,医療の向上に貢献したい.専門は生化学・分子生物学.

趣味

スポーツ(観戦が主).

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