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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 97(6): 849-853 (2025)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2025.970849

みにれびゅうMini Review

フェロトーシスを制御する新規セレンタンパク質合成因子PRDX6の同定Identification of PRDX6 as a key regulator of selenoprotein biosynthesis and ferroptosis

京都大学大学院医学研究科細胞機能制御学Department of Molecular and Cellular Physiology, Graduate School of Medicine, Kyoto University ◇ 〒606–8501 京都市左京区吉田近衛町 ◇ Yoshida Konoe-cho, Sakyo-ku, Kyoto 606–8501, Japan

発行日:2025年12月25日Published: December 25, 2025
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1. はじめに

セレンは,酸素や硫黄などと同じ周期表の16族に属する,ヒトを含め多くの生命の生存に必須の微量元素である.セレンは,21番目のアミノ酸として知られるセレノシステインの構成元素として,特殊な翻訳機構を介して主に抗酸化タンパク質の活性中心に組み込まれ,細胞内のレドックス環境の維持をはじめ重要な役割を担っている.特に,近年報告された鉄依存性細胞死「フェロトーシス」の重要な抑制因子であるグルタチオンペルオキシダーゼ4(GPX4)もセレノシステイン含有タンパク質(セレンタンパク質)であり,フェロトーシスとの関連からセレン研究は新たな局面を迎えつつある.本稿では,セレノシステインおよびセレンタンパク質の概要を示すとともに,我々が見いだした新規セレン代謝制御因子,ペルオキシレドキシン6(PRDX6)について紹介したい.

2. 生命必須元素セレンとセレノシステイン

我々は効率のよいエネルギー産生のために酸素を必要とする一方で,常に酸化ストレスの危険にさらされてきた.そのためさまざまな酸化ストレス除去系を有しており,なかでも酸素と同族元素である硫黄やセレンは抗酸化機能を担う重要な元素として知られている.セレンは毒性の強い元素というイメージを持たれがちであるが,実際はきわめて微量ながら必須元素として機能する.たとえば,無血清培地における細胞培養では,インスリンやトランスフェリンと並んでセレンの添加が不可欠であることからも,その重要性がうかがえる.

セレンは21番目のアミノ酸であるセレノシステインとして主な機能を発揮する.セレノシステインはシステインの硫黄がセレンに置き換わった構造をしたアミノ酸であり(図1A),セレノール基(–SeH)は,システインのチオール基(pKa=8.2)と比較してpKaが5.2と低く,高い反応性を示す.大腸菌からヒトを含む多くの生物は,このセレノシステインをタンパク質の特定の部位に,特異的に組み込む翻訳機構を備えており(後述),システインでは効率の悪い反応を,セレノシステインで代行させる.近年,注目を集めている鉄依存性細胞死「フェロトーシス」の重要な抑制因子であるGPX4は46番目のアミノ酸(活性中心)がセレノシステインであり,フェロトーシスとの関連からセレン研究は新たな局面を迎えつつある.

フェロトーシスは鉄によって細胞膜を構成するリン脂質中の多価不飽和脂肪酸が酸化,傷害されることで細胞膜の形態維持ができなくなり惹起されるネクローシス様の細胞死である.GPX4は活性中心のセレノシステイン残基でフェロトーシスを惹起する過酸化脂質を無毒化する(図1B1).酸化されたセレノシステイン残基はグルタチオン(GSH)系により還元され,次の反応サイクルに備える.セレノシステイン残基の重要性を示す報告として,GPX4活性中心のセレノシステイン残基をセリンやシステインに置換したマウスが知られている.セリンに変異したマウスはGPX4活性が消失し,GPX4欠損マウスと同様に胎生致死(E7.5)となる2).一方,システインに変異したマウスも機能が大幅に減少しフェロトーシスが亢進すること,さらに胎生致死は免れるものの,生後2~3週間でマウスが死亡することが報告されており,セレノシステインの重要性が示されている3)

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図1 セレノシステインとフェロトーシス

(A)セレノシステインのアミノ酸構造.(B)鉄依存性の細胞死フェロトーシスは鉄による細胞膜脂質の過酸化,傷害によって惹起される.GPX4は活性中心のセレノシステイン残基で過酸化脂質(Lipid-OOH)を還元し無毒化することで,フェロトーシスを抑制する.

ヒトではセレンタンパク質は25種類知られており,GPX4をはじめとした抗酸化タンパク質以外にも,甲状腺ホルモンの脱ヨード化反応を行う酵素群(DIO1~3)など多様である4).基本的にセレンタンパク質はセレノシステインを一つ保持するが,10残基もセレノシステインを含むタンパク質としてセレノプロテインPが知られている.セレノプロテインPは分泌タンパク質であり,血中へと放出され,全身の臓器にセレンを運搬する.セレノプロテインPには低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質8(LRP8)などの受容体が存在し,それら受容体に結合した後にエンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれ,リソソームで分解される.その後,セレノシステインが細胞質へと輸送され,セレンタンパク質合成に使用される5)

3. セレンタンパク質合成系

セレノシステインがセレンタンパク質の特定の位置に取り込まれ,21番目のアミノ酸といわれるゆえんは,対応する特異的なtRNAが存在し,コドンでコードされているためである6, 7).コドン表では64種類あるコドンに20種類のアミノ酸が対応しておりセレノシステインは見当たらないが,面白いことにセレノシステインは終止コドンであるUGAによりコードされている.セレンタンパク質のmRNA 3′非翻訳領域にはセレノシステイン挿入配列(SECIS)と呼ばれる特殊な二次構造配列があり,SECISがある場合にUGAにセレノシステインが挿入される.SECISはSECIS結合タンパク質(SBP2)により認識され,セレノシステインが付加されたtRNAsec(Sec-tRNAsec),およびSec-tRNAsec特異的な翻訳伸長因子(eEFSec)と協調してUGAにセレノシステインが挿入される(図2A).

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図2 セレンタンパク質合成系

(A) UGAコドンへのセレノシステイン挿入機構.(B) Sec-tRNAsec合成機構.

またSec-tRNAsec合成経路もユニークである.通常の20種類のアミノ酸ではアミノアシルtRNA合成酵素によって対応するtRNAに直接付加されるが,Sec-tRNAsecはtRNAsec上で段階的な酵素反応を経て合成される(図2B).tRNAsecにはまずセリンが付加され,その後,セリンがリン酸化された後にセレンが挿入されセレノシステインとなる.

原料となるセレンは,無機セレン(セレンオキシアニオン)と,セレノシステインなどの有機セレンからなる.セレンは(−2, 0, +2, +4, +6)と多様な酸化状態をとりうる元素であり,セレナイト(+4価)などの無機セレンは細胞内でグルタチオンやチオレドキシン系によって還元され,−2価のセレニド(HSe)へと代謝される.

有機セレンであるセレノシステインもtRNAsecに直接付加されず,セレノシステインリアーゼ(SCLY)によって分解され,セレニドが生成される.セレニドは次に,セレニド特異的なリン酸化酵素であるセレノリン酸合成酵素(SEPHS2)によってリン酸化され,その後Sec-tRNAsecへと組み込まれる(図2B).面白いことにSEPHS2自身もセレンタンパク質であり,SEPHS2のセレノシステイン残基は基質であるセレニドの捕捉に関与し8),酵素活性に必須である.tRNAsecなどセレンタンパク質の合成に関与する因子の欠損マウスは胎生致死であり9),生命に必須の制御系として機能する.

4. 新たなセレンタンパク質合成因子PRDX6の発見

セレンタンパク質合成系は,生命に必須のシステムであるが,解析の困難さから2000年以来,解析が進んでこなかった.筆者らは細胞に鉄を添加するだけでフェロトーシス様の細胞死を誘発できる新たな系を構築し,その系を用いたCRISPRスクリーニングによって新規セレンタンパク質合成因子PRDX6を同定した.以降,我々が行った研究について紹介したい10)

これまでのフェロトーシス研究はGPX4阻害剤などのフェロトーシス誘導剤(化合物)によって細胞死が誘導されてきた.そのため,フェロトーシスの名称である「フェロ=鉄」に相反してこれまでのフェロトーシス研究はGPX4阻害下での解析が中心であり,鉄の側面からの解析はほぼ行われていなかった.そこで鉄の側面からフェロトーシスを再解析するため,従来のフェロトーシス誘導剤ではなく,細胞に鉄を添加するだけで細胞内鉄が過剰となり,フェロトーシス様の細胞死を誘導できる細胞をCRISPR/Cas9システムを用いて作製した.さらにその細胞を用いたCRISPRスクリーニングにより,鉄によって惹起される細胞死の制御因子を探索した.その結果,鉄や脂質の代謝制御因子,既知のフェロトーシス制御因子を含む多種多様な制御因子の同定に成功した.中でも,GPX4阻害下では取得困難と考えられる既知のセレンタンパク質合成因子がすべて,細胞死抑制因子としてヒットしており,鉄毒性の回避にもセレンタンパク質が重要であることが明らかとなった.さらに,本スクリーニング結果より新たなセレンタンパク質合成因子を探索し,PRDX6を同定した.PRDX6欠損細胞ではGPX4を含むセレンタンパク質の発現が著減し,その結果,鉄やフェロトーシス誘導剤による細胞死が著増することを見いだした(図3A, B).

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図3 PRDX6欠失細胞の表現型

(A) PRDX6欠損細胞ではセレンタンパク質の発現が著減する.(B) PRDX6欠損細胞では鉄添加で細胞死が誘導される.(C) PRDX6はセレンの利用効率に関与する.(D) PRDX6はセレニド輸送因子としてセレンタンパク質合成に関与する.

PRDX6は,抗酸化機能を担うPRDXファミリー(PRDX1~PRDX6)に属する酵素で,活性中心のシステイン残基で過酸化物を除去すると考えられてきた11).面白いことにPRDX6は,他のファミリーメンバーとは異なる特徴を有する.PRDX1~PRDX5は,進化的に保存されたシステイン残基が二つ存在し,酸化された活性中心のシステインともう一方のシステインがジスルフィド結合を形成した後,チオレドキシン系によって還元されることが知られていた.一方,PRDX6は進化的に保存されたシステイン残基が一つのみであり,酸化されたシステインはグルタチオン系によって還元されるGPX様活性を有すると考えられてきた.さらに注目すべき点として,PRDX6は過酸化物の除去に加え,リン脂質から脂肪酸を除去するリパーゼ活性,リン脂質に脂肪酸を挿入する活性も併せ持つ多機能酵素であることが示唆されていた.

我々は,PRDX6欠損細胞に各種酵素活性を消失させた変異体を再導入する実験を行ったところ,PRDX6活性中心のシステイン残基がセレンタンパク質の発現に重要であることを見いだした.PRDX6活性中心のシステイン残基はGPX活性を有すると考えられてきたが,一方でGPX活性を否定する報告もあり,明確なコンセンサスには至っていなかった.そこで,精製したPRDX6タンパク質を用いてGPX活性の有無を検証したところ,驚いたことに,PRDX6にGPX活性はまったく認められなかった.よってPRDX6は従来考えられていた抗酸化タンパク質ではなく,セレンタンパク質合成を介して間接的に抗酸化能を発揮することが示唆された.

さらにPRDX6によるセレンタンパク質合成メカニズムを探索したところ,PRDX6はセレンタンパク質の原材料となるセレンの細胞内利用効率を上昇させ(図3C),セレンタンパク質合成を促進することを見いだした.上述のとおり,細胞内でセレンはセレニドへと代謝され,その後SEPHS2によりリン酸化され,セレンタンパク質合成へと使用される(図2B).セレニドは非常に反応性が高いため毒性が強く,細胞内量もきわめて少ない代謝産物である.そのため,細胞内にはセレニド輸送タンパク質が存在し,輸送タンパク質のシステイン残基によってセレニドは捕捉され,安全かつ効率的にSEPHS2へと運ばれると考えられてきた12).我々が見いだしたPRDX6は活性中心のシステイン残基でセレンの利用効率に関与することから,未同定のセレニド輸送タンパク質ではないかと考え解析を行った.その結果,PRDX6活性中心システイン残基にセレニドが結合すること,さらにPRDX6がSEPHS2とも結合することを明らかにした.さらにPRDX6がセレン過剰によって惹起される毒性回避にも関与することも見いだした.よってPRDX6は未同定のセレニド輸送タンパク質であり(図3D),セレニド毒性回避に加え,セレンの利用効率を上昇させることでセレンタンパク質の合成を促進し,フェロトーシスを抑制することを明らかにした.

セレンタンパク質はがん細胞で発現が上昇し,重要な抗酸化系として機能することが示唆されていた.そこでPRDX6とがんとの関連についても解析を行った.データベース解析よりPRDX6はがん細胞で発現が高い傾向にあり,PRDX6高発現のがん患者は予後が悪いことが明らかとなった.また膵臓がんを含む細胞株でPRDX6欠損細胞を作製した結果,セレンタンパク質の発現減少だけでなく,フェロトーシスが誘導されることを見いだし,PRDX6が新たな抗がんターゲットとなる可能性を明らかにした.これまで使用されてきたGPX4阻害剤はGPX4欠損マウスが胎生致死となることから,副作用の高さが懸念されていた.一方,PRDX6欠損マウスは生存可能であることから,PRDX6阻害剤は副作用の少ない新たな抗がん剤となる可能性が考えられ,今後の展望が望まれる.

5. おわりに

フェロトーシスはがんや神経変性疾患,虚血性疾患,肝疾患などさまざまな疾患との関連から精力的に解析されている.PRDX6がセレニド輸送タンパク質として機能することは,海外の二つの研究グループからも報告されており13, 14),フェロトーシスとセレン代謝に密接な関係が存在することを考えると,今後もフェロトーシス研究を通じて新たなセレンタンパク質合成制御因子が同定される可能性は十分ある.一方,セレンがユビキノンを還元することでセレンタンパク質の発現を介さずフェロトーシスを制御する経路も報告されており15),セレンとフェロトーシスの関連がさらに進展するものと考えられる.

謝辞Acknowledgments

京都大学細胞機能制御学の岩井一宏教授はじめ,教室員のメンバー,また本研究に携わっていただいた共同研究者の方々に深く感謝致します.

引用文献References

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著者紹介Author Profile

藤田 宏明(ふじた ひろあき)

京都大学大学院医学研究科細胞機能制御学 特定講師.理学(博士).

略歴

2014年大阪大学大学院生命機能研究科博士課程終了・博士(理学).14~24年京都大学大学院医学研究科細胞機能制御学助教.24年より現職.

研究テーマと抱負

フェロトーシスを軸に,セレンや鉄,ヘムの動態など未解明な課題に挑戦していきたい.

ウェブサイト

https://www.mcp-kyoto-u.jp/

趣味

料理,音楽.

岩井 一宏(いわい かずひろ)

京都大学 理事・副学長.博士(医学).

略歴

1985年京都大学医学部卒業.92年京都大学大学院医学研究科博士課程修了.米国NIH研究員,京都大学大学院医学研究科助手・助教授,大阪市立大学大学院医学研究科教授,大阪大学大学院生命機能研究科/医学系研究科教授を経て2012年より25年まで京都大学大学院医学研究科教授.22年より現職.

研究テーマと抱負

刺激伝達に関わるユビキチン修飾系(直鎖状ユビキチン鎖)の研究に従事してきたが,8年ほど前から,自らをユビキチン研究に誘った鉄の研究に取り組んでいます.鉄は我々に必須な微量元素ですが,一方で過剰量存在すれば毒性を発揮します.現在は鉄毒性としてのフェロトーシス,鉄と老化を中心に,研究を推進しています.

ウェブサイト

https://www.mcp-kyoto-u.jp

趣味

色々なことを深く考えること.

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