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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 97(6): 854-857 (2025)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2025.970854

みにれびゅうMini Review

細胞内セレン運搬タンパク質PRDX6によるフェロトーシス感受性の制御機構PRDX6 identified as an intracellular selenium carrier

東北大学大学院農学研究科食品機能分析学分野Laboratory of Food Function Analysis, Graduate School of Agricultural Science, Tohoku University ◇ 〒980–8572 宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉468–1 農学系総合研究棟N509 ◇ 468–1 Aoba, Aramaki-aza, Aoba-ku, Sendai, Miyagi 980–8572, Japan

発行日:2025年12月25日Published: December 25, 2025
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1. はじめに

フェロトーシスは,酸化ストレスに関連して生じる脂質過酸化により誘導される細胞死である1).近年,がん細胞の抗がん薬感受性や,アルツハイマー病をはじめとする神経変性疾患の病態に関わることが知られており(図1),これらの病気の治療標的としても世界的に大きな注目を集めている生命事象でもある2–4).たとえば,がん細胞にフェロトーシスを誘発することで,がん細胞死を誘導できることから,がん治療の有望な治療標的となることが期待されている.一方,神経変性疾患では,神経細胞のフェロトーシスによる細胞死が病態に関わることが報告されているため,フェロトーシスを有効に抑制することは疾患の進行抑制のための治療戦略として期待されている.そのため,細胞のフェロトーシスの感受性を制御する仕組みのさらなる解明が望まれている.

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図1 フェロトーシスが関与するさまざまな疾患

フェロトーシスは神経変性疾患をはじめとしたさまざまな疾患に関与し,創薬のターゲットとして注目されている.本図は文献4を改変し,BioRender.comにて作成した.

フェロトーシスの制御機構に関してはいくつかの経路が明らかになっており,その中でも必須微量元素であるセレン(Se)を細胞内で有効に利用する仕組みは,重要な役割を果たしている.セレンは周期表第16族カルコゲン元素で,酸素や硫黄の同族体である.その名称はギリシャ神話の「月の女神Selene(セレーネ)」に由来し,工業的には半導体性や光電特性が知られている.食品では魚介類や肉類,全粒穀物,ナッツ類に含まれ,セレン欠乏は克山病やカシン・ベック病などの地方病,さらには心筋症や免疫低下と関連することが知られている.一方で,過剰摂取はセレノーシスを引き起こし,吐き気や脱毛などの症状を呈する5).このように,セレンは生体においてきわめて重要な元素である.生体内におけるセレンの重要な点としては,酸化ストレスの制御に関わるさまざまなセレンタンパク質の合成に使用されることがあげられる.セレンタンパク質は,セレノシステイン(Sec)と呼ばれるアミノ酸を構成要素として含むタンパク質の総称である.セレノシステインは「21番目のアミノ酸」とも呼ばれ,その化学的性質はシステインに類似するが,硫黄の代わりにセレンを含み,システインよりも求核性と酸化還元反応性が高いため,生体内の酸化還元反応において非常に高い活性を発揮する.ヒトでは,25種類のセレンタンパク質が同定されており,これらは酸化還元制御,抗酸化防御,甲状腺ホルモン代謝,カルシウム恒常性維持,セレン輸送など,多様な生命現象に関与する.セレンタンパク質の中でも,グルタチオンペルオキシダーゼ4(GPX4)は,酸化ストレスにより細胞内で生じる酸化脂質の解毒に関わる酵素(ペルオキシダーゼ)であり,フェロトーシスを抑制するための重要な酵素である.ペルオキシダーゼにはいくつかの種類が知られているが,GPX4は酸化ストレスによって生じる過酸化脂質,特に膜リン脂質の過酸化物であるリン脂質ヒドロペルオキシド(PLOOH)を特異的に代謝する機能を有している6)

筆者は,生体や食品における脂質酸化に関して,質量分析(LC-MS/MS)を用いた解析を基盤として研究に取り組んできた7, 8).その中でフェロトーシス研究にも取り組んできており,ドイツ・ヘルムホルツセンターミュンヘンのConrad研究室との共同研究の機会をいただき,食品機能成分であるビタミンKが,フェロトーシスを強力に防ぐ作用を有することを新たに発見し9),これまで50年以上その正体が不明であったビタミンKの還元酵素(フェロトーシスの抑制に関わる還元型ビタミンKを生成)の同定に携わることができた.そのような共同研究のご縁もあり,2023~2024年にConrad研究室へ留学し,細胞内の過酸化脂質代謝について研究する機会を得ることができた.筆者は生体の脂質酸化とフェロトーシスの関わりに興味を持っており,最初はそれに関するプロジェクトに取り組んでいたが,そこで得られた結果が意外なことに,フェロトーシス制御に関わるセレンタンパク質の合成に関わる可能性へとたどり着いた.具体的には,GPX4と同様に,細胞内のペルオキシダーゼとして知られていたペルオキシレドキシン6(PRDX6)が,自身のペルオキシダーゼ活性部位をセレンとの結合部位に利用することで,細胞内のセレン運搬タンパク質として働いていることを明らかにした.このセレン運搬タンパク質は,セレン代謝研究が開始されて以来,その存在が想定されているにもかかわらず同定がなされていなかった分子であった.このように,留学前には思いもよらないプロジェクトに携わることができたため,本稿では本研究について概説したい.

2. PRDX6がフェロトーシス感受性に影響を与えるメカニズムの解明

1)GPX4とPRDX6のリン脂質ヒドロペルオキシド還元活性の比較(LC-MS/MS)

はじめに,GPX4とPRDX6のタンパク質とPLOOH(過酸化リン脂質:リン脂質ヒドロペルオキシド)標品を用いてそれぞれのペルオキシダーゼ活性を比較した.哺乳類培養細胞から精製したGPX410)(大腸菌ではセレン組込みが不可能なためリコンビナントGPX4では正確な評価ができない)と大腸菌由来リコンビナントPRDX6を用い,それぞれをPLOOHとインキュベートした後,LC-MS/MSによりPLOOHの残存量を定量した.その結果,PRDX6もGPX4と同様にPLOOHを還元したが,その活性はきわめて低く,同程度の還元反応を達成するにはGPX4の約5000倍の酵素量を要することが明らかとなった.このことから,PRDX6は脂質過酸化抑制を主経路とせず,フェロトーシス感受性にほかの機構を介して関与している可能性が示唆された.

2)PRDX6欠損がセレンタンパク質であるGPX4の発現を抑制する

上述のように,PRDX6のペルオキシダーゼ活性はGPX4のそれよりもはるかに小さいことがわかった.一方で,PRDX6欠損はフェロトーシスの感受性を増加させることが以前から知られており,PRDX6欠損がフェロトーシス感受性を増加させるメカニズムは何か?という疑問が浮かんだ.そこで,PRDX6欠損細胞と野生型細胞におけるGPX4およびその他のセレンタンパク質の発現量をウェスタンブロッティングで比較することとした.その結果,PRDX6欠損によりGPX4の発現が顕著に低下し,この現象は特定の細胞株に限らず複数のがん細胞系で確認された.これにより,PRDX6がGPX4の生合成過程に関与する可能性が示唆された.

3)PRDX6欠損がフェロトーシス感受性を増加させる

ヒト線維肉腫細胞(HT-1080)に対してPRDX6遺伝子欠損を導入し,RSL3(GPX4阻害剤),erastin(システイントランスポーター阻害剤),BSO(グルタチオン合成阻害剤),FSP1阻害剤などの各種フェロトーシス誘導剤を処理した.その結果,すべての誘導剤においてPRDX6欠損細胞の生存率は野生型よりも有意に低下し,フェロトーシス感受性が著しく増加することが確認された.この感受性増加はGPX4発現低下と一致しており,PRDX6のフェロトーシス耐性への寄与はGPX4の発現制御,すなわちセレンタンパク質の生合成やセレン代謝にあると考えられた.その中で,上述のようにセレン代謝における重要因子として,正体が不明であったセレン運搬タンパク質である可能性を考え,実際にセレンと結合するかについて検証することとした.

4)PRDX6は確かにセレンと結合する(ICP-MS, LC-MSによる評価)

リコンビナントPRDX6をセレンおよびグルタチオンとインキュベートし,ICP-MSおよびLC-MSでセレンとの結合を解析した.その結果,PRDX6はセレンと実際に結合すること,その結合部位はペルオキシダーゼ活性部位であるシステイン残基(C47)であることが明らかになった.この残基を変異させるとGPX4発現が低下したことから,PRDX6はC47を介して細胞内セレンの輸送に関与し,セレンタンパク質生合成を制御していることが示された.さらに興味深いことに,このセレンとの結合は,グルタチオン存在下で強化されることが判明した.実際の細胞内では数mM以上のグルタチオンが存在しており,グルタチオンの存在で結合が増加するのは生理的にも重要であると考えられた.実際に,我々はセレン源である亜セレン酸とグルタチオンをインキュベートして生じる化合物(セレノジグルタチオン)も合成し,PRDX6と結合することも確認した.これらの結果から,PRDX6は長年その存在が探し求められていたセレン運搬タンパク質であることが示され(図2),GPX4をはじめとしたセレンタンパク質の発現制御に大きく寄与することが明らかとなった11).この発見は同時期に我々を含む三つの研究グループから発表され12, 13),セレン研究が大きく前進する契機となった.

Journal of Japanese Biochemical Society 97(6): 854-857 (2025)

図2 PRDX6とセレンタンパク質の合成

PRDX6は細胞内でセレン運搬タンパク質として働き,GPX4をはじめとしたセレンタンパク質の合成に寄与し,フェロトーシスの制御に関わる.

5)PRDX6欠損が生体に与える影響(腫瘍移植モデル/PRDX6欠損マウス解析)

ここまで細胞レベルでの実験によりPRDX6がセレン運搬タンパク質として重要な役割を担っていることを示してきた.そこで個体レベルでの本機構の役割を評価することとした.最初に,ヌードマウスにPRDX6欠損細胞を移植し腫瘍形成に与える影響を評価した.その結果,PRDX6欠損により腫瘍形成は顕著に抑制され,さらにフェロトーシス誘導剤との併用で抑制効果は増強された.これはPRDX6がin vivoにおいてもがん治療の標的候補となりうることを示唆する結果であった.GPX4の欠損ではより強い効果が期待されるが,GPX4欠損は胎生致死となることから,PRDX6を介してフェロトーシス感受性を制御することにより,がん治療の新たな戦略につながることが期待できる.

次に,in vivoにおいてPRDX6がGPX4の発現に影響を与えるのかを検証するために,PRDX6欠損マウスの各臓器におけるGPX4発現を解析した.その結果,肝臓や腎臓では大きな変化が生じなかった一方で,脳においてGPX4発現が著しく減少した.さらに,GPX1などほかのセレンタンパク質の発現も脳で減少しており,in vivoではPRDX6が脳におけるセレン代謝に重要な役割を果たすことが示された11).フェロトーシスが神経変性疾患の進行にも関与することを踏まえると,PRDX6は神経疾患治療の新たな分子標的となる可能性が期待できる.

3. おわりに

本研究では,長年探し求められていたセレン運搬タンパク質としてPRDX6を同定し,未解明の部分の多いセレンタンパク質の合成に重要なセレン代謝の理解を大きく前進させた.セレン代謝の制御はフェロトーシスの感受性に大きく影響を与えるが,フェロトーシスの誘導は,新規がん治療戦略として期待されているため,PRDX6の阻害でがん細胞のフェロトーシス感受性を高めることで,新たな抗がん薬の開発につながることが期待される.また,PRDX6は脳内のセレンタンパク質の発現維持に重要な役割を果たしていることから,アルツハイマー病などの神経変性疾患の病態の解明や治療法の開発においても重要な標的分子となることが今後期待される(図2).

謝辞Acknowledgments

このような実りある留学生活を送るなかで,常に暖かくご指導いただいたヘルムホルツセンターミュンヘンのMarcus Conrad先生,三島英換先生をはじめとしたConrad研の皆様,留学へ送り出してくださった仲川清隆先生をはじめとした東北大学大学院農学研究科食品機能分析学のスタッフ・学生の皆様,そして,背中を押してくれた家族にこの場をかりて厚く御礼を申し上げます.本研究は,日本学術振興会(JSPS)による科研費 国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(A))にて実施されました.

引用文献References

1) Dixon, S.J., Lemberg, K.M., Lamprecht, M.R., Skouta, R., Zaitsev, E.M., Gleason, C.E., Patel, D.N., Bauer, A.J., Cantley, A.M., Yang, W.S., et al. (2012) Ferroptosis: An iron-dependent form of nonapoptotic cell death. Cell, 149, 1060–1072.

2) Mishima, E. & Conrad, M. (2022) Nutritional and metabolic control of ferroptosis. Annu. Rev. Nutr., 42, 275–309.

3) Dixon, S.J. & Olzmann, J.A. (2024) The cell biology of ferroptosis. Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 25, 424–442.

4) Conrad, M. & Pratt, D. (2019) The chemical basis of ferroptosis. Nat. Chem. Biol., 15, 1137–1147.

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13) Fujita, H., Tanaka, Y.K., Ogata, S., Suzuki, N., Kuno, S., Barayeu, U., Akaike, T., Ogra, Y., & Iwai, K. (2024) PRDX6 augments selenium utilization to limit iron toxicity and ferroptosis. Nat. Struct. Mol. Biol., 31, 1277–1285.

著者紹介Author Profile

伊藤 隼哉(いとう じゅんや)

東北大学大学院農学研究科 助教.博士(農学).

略歴

2011年東北大学農学部卒業.16年同大学院農学研究科博士課程修了.16年東北大学大学院農学研究科博士研究員.18年東北大学大学院農学研究科助教.現在に至る.

研究テーマと抱負

生体・食品における脂質分子のレドックス制御とその意義の解明に向け,質量分析を用い,生体や食品における脂質酸化の重要性の解明や制御方法の構築を目指して研究を行っています.

趣味

(ドイツで始めた)山登り,ビール.

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