小胞体Ca2+放出の分子構築Molecular constitution of store Ca2+ release
京都大学大学院薬学研究科Graduate School of Pharmaceutical Sciences, Kyoto University ◇ 〒606–8501 京都市左京区吉田下阿達町 ◇ Yoshida-shimoadachi, Sakyo-ku, Kyoto 606–8501, Japan
リアノジン受容体は興奮性細胞に分布し,一般的には細胞膜の電位依存性Ca2+チャネルと連動して開口し,小胞体からCa2+を放出する.このチャネル機能共役には,小胞体膜タンパク質ジャンクトフィリンが形成する結合膜構造に両Ca2+チャネルが共局在することが必須となる.一方,微小閉鎖空間である小胞体からの生理的なCa2+放出が成立するためには,カウンターイオンによる膜電位の安定化が必要とされる.TRICチャネルは小胞体や核膜に分布する一価陽イオン透過性チャネルであり,さまざまな細胞系でカウンターK+動態の一翼を担うことで小胞体Ca2+放出を支援する.リアノジン受容体,ジャンクトフィリンおよびTRICチャネルの遺伝子変異は,小胞体Ca2+ストア機能障害に起因する疾患を引き起こす.
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細胞質Ca2+濃度の上昇は筋収縮,内外分泌,神経伝達物質放出,遺伝子発現,細胞増殖や細胞死など重要な細胞機能を制御する.動物個体の細胞外液のCa2+濃度は1.2 mM程度に厳格に制御されている.各細胞においては細胞質Ca2+濃度は約100 nMときわめて低く保持されている一方で,細胞内Ca2+ストアとして機能する小胞体の内腔には0.3~1 mMのCa2+が蓄えられている.さまざまな刺激に応答して細胞内Ca2+濃度が上昇する際には,圧倒的な濃度勾配により駆動する細胞膜を透過する細胞外液からの流入と小胞体からの放出の二つの主要経路よりCa2+が細胞質に供給される.Ca2+流入機構は電位依存性チャネル,リガンド依存性チャネルや代謝共役型チャネルなどの多種のCa2+透過性チャネル群により形成されており,それらの発現様式は細胞種間で多様性に富んでいる.一方,小胞体Ca2+放出チャネルとしてはイノシトール1,4,5-三リン酸(IP3)受容体とリアノジン受容体が知られている.細胞種普遍的に分布するIP3受容体は,ホスホリパーゼCがイノシトールリン脂質に作用して遊離するIP3に応答して開口するため,Gタンパク質共役型受容体や受容体型チロシンキナーゼの活性化などにより小胞体Ca2+放出を引き起こす.興奮性細胞に分布するリアノジン受容体は,一般的には細胞膜の電位依存性Ca2+チャネルの活性化に同調したCa2+放出を引き起こす.本稿では主にリアノジン受容体による小胞体Ca2+放出に着眼し,その成立機序,生理機能やヒト疾患に関する現状の理解について著者らの研究成果を中心に概説するとともに,独自に筋小胞体から分子同定した数種の膜タンパク質についても簡潔に紹介する.
リアノジン受容体の研究史を知ることは,その構造と機能の理解を深めることになるので手短に解説する.1882年にRinger(英国)が細胞外液中のCa2+が心臓拍動に必須であることを発見し,Ca2+と筋収縮の関連が生理学上の重要課題となった.1965年に江橋(東大医)によりトロポニン-トロポミオシンを介したCa2+による横紋筋収縮の制御機構が解明されて以降は,脱分極から細胞内Ca2+上昇へのシグナル変換が興奮収縮連関の中心課題となった.骨格筋では細胞表層膜(サルコレンマ)から細胞内部に貫入したtransverse tubule(T管)が形成され(図1A),巨大な筋細胞においても神経筋接合部で発生する脱分極は細胞中心部に至るまで電位依存性Na+チャネルにより瞬時に伝達される.筋細胞内部には細胞内Ca2+ストア機能に特化した筋小胞体が筋原線維を取り巻くように分布している.哺乳動物骨格筋ではT管は筋原線維のA帯(ミオシン繊維が分布する暗帯)とI帯(アクチン繊維のみが走行する明帯)の接合部に沿って走行しており,筋小胞体終末部が両側からT管に近接した結合膜構造であるtriadが形成される(図1B).1970年に遠藤(東大医)はサルコレンマを除去したスキンド骨格筋試料を用いた実験で,細胞質Ca2+上昇が筋小胞体からのCa2+放出を誘導する現象,Ca2+-induced Ca2+ release(CICR)を発見した1).同年にはFranzini-Armstrong(米国)が電子顕微鏡観察から,triadに“foot”と名づけた筋小胞体とT管の間隙に配列する構造物を報告した2).その後の生化学的解析で,筋小胞体の終末部にはCa2+放出活性が,縦走部にはCa2+取り込み活性が偏在していることが判明し,終末部とT管が形成するtriadは脱分極からCa2+放出へのシグナル変換装置として機能することが推定された.一方,植物抽出物に含まれる殺虫アルカロイド化合物としてリアノジンが単離され,薬理学的検討から筋小胞体Ca2+放出を不可逆的に活性化する作用が示された3).RI標識リアノジンが筋小胞体膜に特異的に高親和性結合することが報告されると,その結合タンパク質であるリアノジン受容体の生化学的精製が複数の研究グループにより遂行された.精製リアノジン受容体は巨大タンパク質複合体で,その電子顕微鏡像ではfoot構造が観察され,人工脂質二重膜再構成系ではCICRチャネル活性が観察された4).したがって,生理学的に知られるCICRチャネル,解剖学的に記載されるfoot構造,そして生化学的に同定されたリアノジン受容体は同一タンパク質に帰結することが判明した.さらに,著者らによるcDNAクローニングの結果,リアノジン受容体は約5000アミノ酸残基の膜タンパク質サブユニットのホモ四量体により構成され(図2A),哺乳動物では3種のリアノジン受容体サブタイプ(RyR1~3)が存在することが明らかになった5, 6).
(A)骨格筋細胞の膜構成.骨格筋の細胞膜はサルコレンマとT管に大別される.哺乳動物では筋原線維のA帯とI帯の接合部を走行するT管は筋小胞体と断続的に近接して,triadを形成する.(B)興奮性細胞の結合膜構造.骨格筋のtriadと心筋のdiadはT管と筋小胞体が形成する結合膜構造であり,両膜の約12 nmの隙間にはfoot構造(リアノジン受容体)が観察される.平滑筋,T管未形成の胎生期心筋と骨格筋で観察されるperipheral couplingと神経細胞のsubsurface cisternも約12 nmの隙間で細胞膜と小胞体が近接した結合膜構造である.
(A)RyR1の分子構造.モチーフ配列とクライオ電子顕微鏡解析による立体構造に基づき,RyR1の分子内にはN末端領域(NTD),SPRY領域(SPRY1~3),handle領域(handle),helical領域(HD1, HD2)や小胞体膜貫通領域(TMD)などの部分構造が提唱されている.SPRY2とSPRY3はCav1.1と相互作用に寄与し,TMDは6本の膜貫通セグメントによりCa2+透過性チャンネルポアを形成する.悪性高熱症を引き起こすRyR1のアミノ酸点変異は多数報告されているが,MH hotspot1~3の領域に集中する.(B)筋細胞興奮収縮連関の分子構築.骨格筋の脱分極ではStac3が介在するCav1.1とRyR1の直接相互作用により小胞体Ca2+放出が誘導される.心筋の脱分極ではCav1.2経由の流入Ca2+がRyR2開口による小胞体Ca2+放出を引き起こす.筋小胞体終末部にはカルセクエストリン(骨格筋ではCsq1,心筋ではCsq2)が主要なCa2+結合タンパク質として分布する.(C)RyR欠損triad.野生型マウス骨格筋の三つ組構造では,foot構造(矢印)がT管膜と筋小胞体膜の隙間に配置されていることが電子顕微鏡で観察される(上図,スケール:100 nm).RyR1とRyR3同時欠損骨格筋においてはCa2+過剰負荷により筋小胞体の膨潤化とCsq1の終末部凝集が観察されるが,foot構造が欠失したtriadがほぼ正常に形成される(下図)(文献22より改変).
骨格筋と心筋の収縮反応はリアノジン受容体を介するCa2+放出により直接制御されるため,そのチャネル活性の調節については多岐にわたり検討されている.細胞質領域側では免疫抑制薬結合タンパク質FKBPやカルモジュリンの結合による調節,各種リン酸化酵素と脱リン酸化酵素による調節,一酸化窒素によるCys残基修飾による調節,小胞体では膜タンパク質トライアジンや内腔側のCa2+結合タンパク質カルセクエストリンの相互作用による活性調節などが検討されている.リアノジン受容体のチャネル活性調節については本稿では省略するため,他の総説7, 8)を参照いただきたい.
RyR1は骨格筋に高発現しており,中枢系にも小脳や海馬などの神経細胞に限局して分布している.骨格筋の興奮収縮連関はvoltage-induced Ca2+ release(VICR)とも称され,細胞外からのCa2+流入を必要とせずに脱分極に応答して筋小胞体からCa2+が放出される(図2B).RyR1は細胞質側のCa2+上昇に応答して開口するCICRチャネルとしても機能するが,通常時の骨格筋におけるVICRではT管の骨格筋型電位依存性L-タイプCa2+チャネル(Cav1.1)が電位センサーとして脱分極を感知して,その構造変化が直接相互作用により細胞質側のfoot領域に伝わりRyR1チャネルが開口する.Cav1.1はα1, α2, β, γおよびδサブユニットにより構成され,脱分極に応答した遅延型Ca2+透過性チャネルとしても機能すると同時に,骨格筋では主にRyR1開口を制御する電位センサーとして機能している.さらに,VICRを構築するためのCav1.1とRyR1の直接相互作用にはアダプタータンパク質Stac3が必須であることも判明している9).したがって,Cav1.1-α1, RyR1,およびStac3のいずれかをノックアウトしたマウスは共通に全身性の骨格筋収縮不全を示し,出生時に横隔膜の収縮不全による呼吸障害で致死となる10–12).
RyR1のアミノ酸変異は悪性高熱症(MH)とコアミオパチーを引き起こす13, 14).吸入麻酔薬は弱いRyR1活性化作用を持つ.MHではCICRを引き起こすCa2+感受性が亢進した変異型RyR1が発現しており,吸入麻酔薬に過敏に応答し,強力なCa2+放出を誘発する.その結果,全身の骨格筋が拘縮し,体温が急上昇する.報告されている多数のMH点変異は,RyR1分子内において主に三つの部位に集中しており(MH hotspot1~3),それらの領域はチャネル開口を制御する機能を有すると考えられる(図2A).全身麻酔時のMH発症者に対してはRyR1を阻害する薬物であるダントロレンを静脈投与することで,致死的な体温上昇を抑制する.一方,コアミオパチーは全身性の筋収縮の低下を主症状とする疾患で,その筋細胞内には生成機序不明な堆積体(コア)が観察される.コアの形状や細胞内分布によりセントラルコア病(CCD)やマルチミニコア病などに分類され,RyR1を含む複数の原因遺伝子が知られている.MHとCCDを同時に引き起こすgain-of-functionのRyR1変異が報告されているものの,loss-of-functionのRyR1変異によるCCDも知られており,コアミオパチーの発症機序の詳細は不明である.
RyR2は心筋に高発現しており,平滑筋と中枢系にも広範囲に分布している.心筋ではT管は筋原線維のZ線に沿って走行しており,一方向より近接する小胞体とともに結合膜構造diadを形成する(図1B).脱分極からCa2+上昇へのシグナル転換装置として機能するdiadでは,T管の心筋型電位依存性L-タイプCa2+チャネル(Cav1.2)が脱分極により開口し,細胞外から流入した少量のCa2+が小胞体側のRyR2をCICRモードで開口させる(図2B).このCICRではRyR2はCa2+増幅装置として機能し,動物種に依存してCav1.2による流入Ca2+量の5~20倍のCa2+が小胞体より放出されると算出されている.RyR2はほかのサブタイプと比較してCa2+感受性が最も高いCICRチャネルであり15),ストア過剰負荷誘導Ca2+放出(store overload-induced Ca2+ release:SOICR)を容易に引き起こす.具体的な事例としては,強心配糖体ジギタリス投薬や虚血再灌流により心筋小胞体にCa2+が過剰に負荷された場合にSOICRが発生することが知られている.過剰Ca2+負荷状態の筋小胞体でRyR2が偶発的に開口すると,その局所的なCa2+上昇が近隣のRyR2をCICRにより連続的に活性化し,Ca2+ウエーブを伴い細胞全体にCa2+上昇が拡大する.このCa2+上昇はCav1.2の開口と連動しないため,期外収縮を介した不整脈を引き起こす.一方,胎仔心筋細胞では筋小胞体が未発達であり,結合膜構造であるperipheral coupling(図1B)におけるRyR2の発現も低く,その収縮はほぼCav1.2のCa2+流入のみで制御される.しかしながら,RyR2欠損マウスは心不全により胎生致死となる.RyR2欠損胎仔心筋細胞の小胞体ではCa2+過剰負荷と形態上の膨潤化が観察され,発達段階の心筋小胞体におけるRyR2にはCav1.2と連動するCICRにより筋小胞体Ca2+過剰負荷を解消する生理機能が考察される16).また,後述するように,平滑筋や神経細胞の小胞体においてもRyR2は重要なCICRチャネルとして機能する.
カテコラミン誘発多形性心室頻拍(CPVT)は運動やストレスによる交感神経活性化時に突然死を伴う心室頻拍や心室細動を発症する遺伝子疾患であり,その大半の症例ではRyR2点変異が見いだされる17).CPVTの原因となるRyR2点変異は,RyR1のMH変異と相同な分子内の三つの領域に集中して分布しており,チャネル機能に与える変化もMH変異と同様にRyR2のチャネル開口を亢進する.CPVTの治療ではβアドレナリン受容体遮断薬が一般に用いられているが,CPVT患者の大半は失神経験者であり,約30%は心停止を経験しているとされる.有効なCPVP薬物療法開発の試みは多角的に進行中であり,RyR2チャネル安定化作用薬ARM210(RyCarm社)やCa2+/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼII阻害薬CRD-4730(Cardurion Pharmaceuticals社)が臨床治験に進んでいる.
RyR3は骨格筋に低発現しており,中枢系では海馬や線条体などの神経細胞に限定的に分布している.他のサブタイプと比較してRyR3は最もCa2+感受性が低いCICRチャネルを形成する.骨格筋の興奮収縮連関では,まずVICRを介してRyR1からCa2+が放出される.その際,RyR3はCICRによってこのCa2+シグナルを軽度に増幅すると考えられている.RyR3欠損マウスはほぼ正常に発育・繁殖するが,記憶学習や自発運動などの中枢依存的試験で異常が認められ,代表的な神経可塑性である海馬の長期増強の形成も抑制される18–20).観察される中枢系の異常は,RyR3欠損が神経興奮後の再分極と過分極を障害することに起因すると考えられる(3節3項参照).一方,RyR3点変異は近位筋の筋力低下を特徴とするCMYO20ミオバチーおよびてんかん発作を伴う脳障害を引き起こすとの報告があるが21),この希少症例の発症機序は不明である.
骨格筋VICRにおけるCav1.1とRyR1の直接相互作用は,両チャネルが結合膜構造中で共局在することにより成立する.タンパク質や有機化合物のカルボキシ基が大量に存在する細胞質では強い緩衝作用のためCa2+動態は制限されるため,心筋や平滑筋の効率的なCICRにおいてもCav1.2とRyR2の結合膜構造内での共局在が必須であると考えられる.骨格筋triadと心筋diadは,細胞膜T管と筋小胞体膜が近接した結合膜構造である.細胞膜に小胞体が近接した構造は,未成熟横紋筋細胞や平滑筋細胞ではperipheral coupling,神経細胞ではsubsurface cisternと呼称される(図1B).これら興奮性細胞の結合膜構造では細胞膜と小胞体膜の間隔は約12 nmと共通しており,類似の分子機構により構築されることが推定される.上述のようにtriadのfoot構造は主にRyR1であり,diadで観察されるfoot構造はRyR2により形成される(図2B).RyR1とRyR2の特徴的な局在から,RyRサブタイプは細胞膜と筋小胞体を架橋することで結合膜構造の形成や形状維持に寄与することが想定された.しかしながら,RyR1とRyR3同時欠損マウス骨格筋においてfoot構造は欠失しているものの,triadはほぼ正常に形成されるという,予想外の結果を著者らは観察した(図2C).この結果は従来の想定を否定するとともに,未知の因子による結合膜構造の形成を明確に示していた22).
結合膜構造形成因子の同定を目指して,著者らはウサギ骨格筋膜試料をマウスに免疫することにより単クローン抗体ライブラリーを調製し,免疫組織染色法によりtriadに分布する抗原タンパク質を認識する抗体を収集した.イムノブロットで確認される分子量に基づいて未知抗原タンパク質と推定された場合には,抗体カラムによるアフィニティー精製を行い,精製タンパク質の部分アミノ酸配列を分析した後,cDNAクローニングによる分子同定を遂行した.この検索で見いだされた膜タンパク質に結合膜形成活性が見出されたため,その新規タンパク質は1型ジャンクトフィリン(JP1)と命名され,さらにそのサブタイプも分子同定された23).JPサブタイプはC末端に小胞体膜貫通セグメントを有するが,それ以外の部位は細胞質側に存在する親水性領域を形成する(図3A).JPサブタイプのN末端側には8回繰り返し現れる14アミノ酸残基の類似配列が配置されており,著者はそれらのコンセンサス配列をMORNモチーフと命名した.反復するMORNモチーフは動植物界のさまざまなタンパク質で分子間相互作用ドメインを形成することが現在では判明しているが,JP1のMORNモチーフはイノシトールリン脂質に選択的に結合する.この脂質結合によりJP1は細胞膜に接合するとともに,小胞体膜を貫通することで結合膜構造を形成することがcDNA発現実験で確認された(図3B).
(A)ジャンクトフィリンの分子構造.JPサブタイプはMORNモチーフ領域,joining領域,αヘリックス領域,divergent領域および膜貫通セグメント(TM)より構成される.JP2のdivergent領域には核移行シグナル配列(NLS)とカルパイン切断部位(Capn)が存在する.(B)ジャンクトフィリンによる結合膜構造の形成.MORNモチーフのイノシトールリン脂質結合を介した細胞膜結合とC末端の小胞体膜貫通により,JPサブタイプは結合膜構造を形成する.(C)ジャンクトフィリンによる結合膜構造の機能.興奮性細胞におけるJPサブタイプによる結合膜構造は,電位依存性Ca2+チャネル(Cav)と小胞体のリアノジン受容体(RyR)の機能共役のためのCa2+マイクロドメインとして機能する.平滑筋細胞ではCav1.2経由の流入Ca2+はカルモジュリン(CaM)を介して筋収縮を誘導するとともに,RyR2の放出Ca2+を介した大コンダクタンスCa2+依存性K+チャネル(BK Ch)によるランダムな過分極を引き起こす.神経細胞ではCav2.1やCav2.2経由の流入Ca2+はRyRサブタイプと小・中コンダクタンスCa2+依存性K+チャネル(SK/IK Ch)を連続的に開口させて脱分極に引き続く後過分極相を形成する.横紋筋細胞ではCav1.2またはCav1.1と連動したRyR2またはRyR1開口による放出Ca2+はトロポニン(TnC)に作用して筋収縮を引き起こす.(D)JP3/4同時欠損マウスの海馬CA1神経細胞の機能異常.CA1細胞の電流固定モードでのパッチクランプ測定(左図).SKチャネル阻害ペプチドのアパミンに感受性の後過分極相が,JP3/4-DKO細胞では欠失している.CA1興奮性シナプス後電位の測定(右図).CA3神経終末を時間0で高頻度刺激し,その前後のCA1細胞の興奮性シナプス後電位を細胞外記録法にて測定した.JP3/4-DKO細胞では,通常であれば誘導される長期増強の形成が顕著に抑制される(文献31より改変).
著者らの相同性クローニングにより見出された4種のJPサブタイプ(JP1~JP4)は興奮性細胞に分布していることも判明した.さらに,遺伝子欠損マウスの解析などから,JPサブタイプは興奮性細胞全般において結合膜構造を形成し,RyRサブタイプが生理機能を発揮するための必要不可欠なプラットホームを提供することが明らかになった.すなわち,JPサブタイプが形成する骨格筋triadと心筋diadではそれぞれRyR1とRyR2が筋収縮のCa2+シグナルを発生するのに対して,以下に解説するように,平滑筋や神経細胞の結合膜構造においてはRyRサブタイプが細胞膜のCa2+依存性K+チャネルと共役して過分極シグナルを発生する(図3C).平滑筋は最も原始的な興奮性細胞であり,下等生物において個体内外の化学物質の感知,伝達物質やイオンなどの内外分泌や収縮による組織運動を含む多彩な生物機能を発揮する事例が知られている.細胞間情報伝達に特化した神経細胞や細胞収縮に専任する横紋筋は,進化論的には平滑筋より派生した興奮性細胞群と考えられる.興奮性細胞の機能特化の工程で,結合膜構造内チャネル機能共役の分子構成と生理的役割も特殊化した可能性が示唆される.
JP1は骨格筋特異的に発現しており,生後の骨格筋発達におけるtriad形成過程で発現上昇する.骨格筋triadではJP1とJP2が共発現しているが,triad形成におけるJP1とJP2の機能的相違については未解決である.JP1欠損マウスは生後まもなく哺乳障害で死亡し,その骨格筋ではtriadの形成不全と収縮能の低下が観察される24).JP1欠損筋はtriad形成障害によりCav1.1とRyR1の共役による興奮収縮連関の効率が低下し,哺乳機能が障害されることが推定される.一方,JP1の重篤なloss-of-function変異のホモ接合型の4症例が報告されており,患者は骨格筋においてtriad形成不全と筋小胞体形状不良が共通しており,顔面筋や眼球筋の張力低下が顕著な全身性ミオパチーを発症する25).また,筋ジストロフィーモデルmdxマウス骨格筋では静止Ca2+濃度が上昇しており,Ca2+依存性タンパク質分解酵素カルパインが活性化してJP1を切断することで,興奮収縮連関効率を低下させる26).さらに,数種の病態モデルにおいてJP1の発現低下や分解亢進が報告されており,骨格筋の脆弱化とJP1の関連が注目されている.
JP2は筋細胞普遍的に発現しており,骨格筋triad,心筋diadおよび平滑筋peripheral couplingを構築する.未成熟な胎仔心筋細胞ではT管は未形成で,通常の細胞膜に小胞体が近接したperipheral couplingでCav1.2とRyR2が機能共役している.JP2欠損マウスは胎生期に心不全のため死亡し,その胎仔心臓ではCav1.2とRyR2の機能共役が破綻しており,RyR2はCav1.2と共役しないSOICRモードで開口するようになり,各心筋細胞でランダムなCa2+放出が観察される23).心疾患家系解析からはJP2アミノ酸点変異が肥大型心筋症,拡張型心筋症や不整脈の原因であることが判明しており,JP2変異による結合膜構造の部分的変容と興奮収縮連関効率の低下による病態メカニズムが推定されている27).また,心不全患者や心疾患モデル動物におけるJP2発現の低下も観察されており,カルパインによるJP2の限定分解とマイクロRNAによるJP2翻訳抑制が推定されている.心不全モデルマウスではカルパイン活性化により切断されるJP2細胞質側フラグメントが核内移行して,心不全改善に資する転写調節因子として機能することも示されている28).一方,平滑筋細胞におけるJP2による結合膜構造は,Cav1.2, RyR2とBK(big-conductance Ca2+-dependent K+)チャネルの機能共役による過分極シグナルの発生装置として機能する29).この際のRyR2の開口はCav1.2と連動するCICRモードでの開口とともに,筋小胞体内腔Ca2+上昇によるSOICRモードでの開口が混在すると考えられ,RyR2のCa2+放出により活性化されるBKチャネル開口はランダムに誘発される(図3C).さらに,JPサブタイプが非興奮性細胞においてもCa2+動態に寄与するとの報告に加えて,小胞体–ミトコンドリア,あるいは小胞体–細胞内油滴との接合も仲介するとの報告も散見され,小胞体と細胞膜以外のオルガネラ間の機能共役への寄与も示唆される.
中枢系ではJP3とJP4が神経細胞全般に共発現しており,細胞体と樹状突起に観察されるsubsurface cisternを形成すると考えられる30).遺伝子欠損マウスにおいては,JP3とJP4の単独欠損では顕著な異常はないが,JP3/4同時欠損(JP3/4-DKO)マウスは通常飼育時には離乳期に死亡する.この致死性は練り餌による飼育により回避されるが,生育したJP3/4-DKOマウスでは後肢反射の異常,運動協調性の障害や記憶学習の低下など中枢障害に起因する行動学的異常が観察される31, 32).JP3/4-DKOマウスの電気生理学実験では,海馬錐体細胞と小脳プルキンエ細胞において脱分極直後に発生する後過分極(afterhyperpolarization)が欠失しており,それぞれの神経可塑性である長期増強と長期抑圧の形成異常が確認される.海馬のCA3神経細胞からCA1神経細胞へのシナプス伝達は記憶学習における可塑性と密接に関連するために盛んに研究されてきた.CA1細胞の脱分極後の再分極と後過分極ではハチ毒由来SK(small-conductance Ca2+-dependent K+)チャネル阻害ペプチドであるアパミン感受性電流が明瞭に観察されるのに対して,JP3/4-DKOマウスのCA1細胞の再分極相ではアパミンの作用は欠失している(図3D左図).さらに,CA3神経終末への刺激で誘導されるCA1シナプス後膜電位の測定では,JP3/4-DKOマウスはほぼ正常なテタヌス後増強(post-tetanic potentiation)を示したが,その後60分以上にわたり継続する長期増強の形成が障害されていた(図3D右図).したがって,神経細胞の結合膜構造の欠損は基本的な神経伝達には影響しないが,神経細胞の膜興奮性の調節とシナプス伝達の可塑的変化を障害する.遺伝子発現パターンとcDNA発現実験からは,海馬錐体細胞の結合膜構造ではCav2.2, RyR2/RyR3とSKチャネルの機能共役が想定される.小脳プルキンエ細胞ではJP3/4により構築される結合膜でCav2.1, RyR1/RyR2とSKチャネルが機能共役することで,後過分極相が形成すると考察される33).
ハンチントン病は舞踏様の不随意運動,情動不安定などの精神症状,さらに認知障害を示す疾患である.大多数の症例では,ハンチンチン遺伝子におけるポリグルタミン伸長変異が原因となり,その病因遺伝子から生じた変異タンパク質が神経細胞内で繊維状の凝集体を形成する.ハンチントン病と類似の病状を示す症例で,JP3遺伝子へのCTG繰り返し配列の挿入変異により発症するHuntington disease-like 2(HDL-2)が見いだされた.JP3変異によるHDL-2発症機序の詳細は不明であるが,変異JP3タンパク質の凝集のみでは説明不可能とされている34).
著者らによるJP1の検索工程においては,数種の機能不明な新規膜タンパク質も副産物として同定された.TRIC-A膜タンパク質は約300アミノ酸残基より構成され,筋小胞体と核膜に局在する.TRIC-Aと相同クローニングにより同定されたTRIC-Bはファミリー分子としてそれぞれ独自の様式で組織分布し,両サブタイプ分子内にはN末端内腔領域,チャネル形成領域とC末端細胞質領域(CTT)が想定される(図4A).TRICサブタイプは化学架橋剤を用いた検討でホモ三量体を形成することが判明し,人工脂質二重膜再構成系では一価陽イオン透過性チャネルとして機能した35, 36).TRICチャネルはtrimeric intracellular cation channelからの命名である.細胞内環境の一価陽イオンとしてはK+が圧倒的であるため,TRICチャネルは細胞内K+チャネルとして機能すると考察される.CTT領域を欠失した精製タンパク質のX線結晶解析が複数グループにより報告されており37),TRICホモ三量体の各サブユニットは7本の膜貫通セグメントを有し,リン脂質分子に裏打ちされたチャネルポアを形成することが示された(図4B).
(A)TRICチャネルの一次構造.TRICチャネルはN末端内腔領域(NTD),膜貫通チャネル領域(TMD)とC末端細胞質領域(CTT)より構成される.C末端にはゴルジ体から小胞体への逆行輸送の識別シグナル配列dilysineモチーフ(KK)が存在する.約300アミノ酸残基よりなる哺乳動物TRIC-Aを事例に示している.(B)TRICチャネルの立体構造.TRICチャネルの結晶構造は数種の動物で解明されており,ここでは線虫TRICチャンネルのNTD+TMD領域の膜貫通トポロジー(左図)とホモ三量体の四次元構造(右図)を示している.TRICチャネルの各サブユニットはリン脂質が強固に結合したチャネルポアを形成し,線虫TRICチャンネルではPIP2が配位している(文献37より改変).(C)TRICチャネルの生理機能.Tric欠損マウスでは,機能障害がみられる細胞種において,小胞体Ca2+放出の減弱と小胞体Ca2+過剰負荷が共通して観察される.これらの結果から,TRICチャネルは小胞体Ca2+放出と連動してカウンターK+を小胞体に供給する役割を担うことが推定される.TRICチャネル以外の膜輸送体によるカウンターイオン供給や漏出も想定され,それらの発現は細胞系に応じた多様性が推定される(文献35より改変).(D)TRIC-AによるRyR2選択的活性化:cDNA発現培養HEK細胞のFura-2イメージングによる解析.RyR2 cDNAを発現させた細胞では,細胞外液Ca2+添加により小胞体内のCa2+含量が徐々に上昇し,RyR2のSOICRモード開口により発生するCa2+オシレーションが観察される.RyR2を阻害するテトラカイン(Tet)の添加でオシレーションは抑制され,RyR2を活性するカフェイン(Caf)により小胞体Ca2+が放出される.TRIC-Aの共発現細胞ではRyR2は活性化されて,より低い小胞体Ca2+濃度でチャネル開口するためオシレーションのCa2+振幅が極端に低下する.一方,TRIC-B共発現によるオシレーションへの影響は観察されず,TRIC-AのRyR2活性化作用はサブタイプ特異的作用であることが示される(文献39より改変).(E)TRIC-B欠損骨芽細胞の機能障害.TRIC-B欠損マウスは骨形成不全症モデルであり,骨基質コラーゲン減少による骨ミネラル化の低下を示す.Fura-2イメージングにおいて,TRIC-B欠損骨芽細胞ではATP刺激によるIP3受容体経由のCa2+放出が減弱しており,増強したイオノマイシン(IM)応答から小胞体Ca2+の過剰負荷が示される(上図).免疫染色で示されているように,小胞体内腔のCa2+濃度上昇によりコラーゲンプロセッシング酵素群の活性が低下し,小胞体は膨潤化してプロコラーゲンが過剰に蓄積する(下図,矢頭).このような小胞体異常の結果,TRIC-B欠損骨芽細胞では骨基質の合成と分泌が障害される(文献45より改変).
閉鎖微小空間である小胞体からCa2+が放出されると,二価陽イオンの急激な流出により,小胞体内腔側が負に帯電することになる.このイオン動態の変化により,小胞体膜は瞬時にCa2+の逆転電位(Ca2+が流入から流出へと転じる境界電位)に近い状態に分極することが理論上算出される.数十ミリ秒間持続する生理的Ca2+放出が成立するためには,小胞体膜内外の電位差を速やかに解消する必要があると推定され,Ca2+放出と並行したカウンターイオンの流入や流出が古くから予見されていた.TRIC-AとTRIC-Bの同時欠損(TRIC-DKO)マウスは胎生初期に心不全により致死となるが,いずれかの単独欠損マウスでは胎生心不全は観察されない.したがって,胎仔心筋細胞において両TRICサブタイプは相補的なハウスキーピング機能を共有すると考えられる.さらに,TRIC-DKO心筋細胞では,小胞体内腔にCa2+が過剰に貯留していることも観察された.このことから,CICRモードによるRyR2の小胞体Ca2+放出が抑制されていると考えられ,TRICチャネルは小胞体Ca2+放出と連動するカウンターK+動態に関与すると著者らは推定した35).カウンターイオン動態を担うチャネルやトランスポーターの実体はほぼ不明であるが,複数のイオン種とそれらの輸送体が関与すること,さらに各輸送体の分布様式と発現量は細胞種間で多様化していることが想定される(図4C).後述のTRIC欠損マウスで機能障害を示す細胞種においては,Ca2+放出に協調するカウンターK+の小胞体内流入に対してTRICチャネルが大きく寄与していると想定される.
TRIC-Aは神経・筋細胞に高発現するが,TRIC-A欠損マウスはほぼ正常に発育・繁殖する.TRIC-A欠損骨格筋ではRyR1によるCa2+放出活性の低下と筋小胞体の過剰Ca2+負荷に起因する収縮応答の不安定化が観察される38).TRIC-A欠損心筋ではRyR2のCa2+放出活性が低下しており,TRIC-A欠損心臓はβ作動薬刺激時に筋小胞体Ca2+放出が不安定となり不整脈が観察される39).TRIC-A欠損血管平滑筋ではRyR2を介したCa2+放出に伴う過分極シグナルが減弱し,Cav1.2を介するCa2+流入が増強するために収縮性が亢進する結果,TRIC-A欠損マウスは高血圧となる40).一方,培養細胞cDNA発現実験系ではTRIC-Aの相互作用でRyR2が活性化し,SOICRによるCa2+オシレーションの振幅が低下することが示された(図4D).TRIC-AはCa2+放出と連関するカウンターK+を小胞体内に流入させる機能に加えて,CTT領域を介した直接相互作用によりRyRの開口を促進する機能も併せ持つことも明らかになった39).
国立循環器病研究センターで実施された遺伝子多型解析から,本邦集団のTRIC-A遺伝子は約7割を占める多数型と約3割の少数型に大別されることが示された.少数型TRIC-A遺伝子のホモ接合体群では高血圧発症率の上昇と降圧薬作用対する抵抗性が検出され,変異マウスでの観察結果を考慮するとTRIC-A遺伝子発現低下は高血圧リスクであると考察される40).一方,Emery–Dreifuss筋ジストロフィー(EDMD)は関節拘縮を伴う筋力低下を特徴とし,心筋症による不整脈も高頻度で併発する疾患である.核膜に分布するタンパク質のラミンA/Cとエメリンが代表的なEDMD原因遺伝子であり,その患者筋試料では核膜におけるTRIC-Aの分布量の低下が報告されている41).また,EDMDと診断された稀少症例においてTRIC-AのCTT領域における点変異も報告されている42).しかしながら,EDMD病態とTRIC-Aの関連機序は不明である.
TRIC-Bは組織普遍的に発現しており,非興奮性細胞のIP3受容体の小胞体Ca2+放出を主に支援することが想定される.TRIC-B欠損マウスは肺胞の拡張不全を呈し,新生時に呼吸不全により死亡する43).この病態はヒト早産時の呼吸窮迫症候群と酷似し,肺胞分泌上皮細胞によるサーファクタント分泌不全が原因である.TRIC-B欠損肺胞分泌細胞ではIP3受容体Ca2+放出の減弱と小胞体Ca2+過剰負荷により,サーファクタント合成と分泌が阻害される.
骨密度低下による頻回骨折を特徴とする骨形成不全症(OI)の家系で,null変異と想定される複数のTRIC-B遺伝子変異が報告された.OIの主な原因遺伝子はコラーゲンの生合成関連遺伝子であり,OI患者の骨組織ではI型コラーゲンを主成分とする骨基質の脆弱化がミネラル化を低下させる.一般的なOI症例とは異なり,TRIC-B変異OI患者では骨密度に加えて低身長症も示し,高頻度で心臓異常も併発する44).TRIC-B欠損マウスは全身性に骨密度低下を示し,OIモデル動物となる45).その骨密度低下の原因は,骨芽細胞における小胞体Ca2+ハンドリングの破綻とプロコラーゲンの細胞内貯留による骨基質合成の減弱である(図4E).また,TRIC-B欠損マウスでは骨格伸長障害も観察され,その原因は成長骨組織の成長板軟骨細胞における小胞体Ca2+ハンドリングの破綻とプロコラーゲンの細胞内貯留によるII型コラーゲンを主成分とする軟骨基質の合成の減弱である46).したがって,TRIC-B変異OI患者での骨密度低下と低身長は,それぞれ骨芽細胞と軟骨細胞の機能低下に起因すると考えられる.
著者らのJP1単離に向けた検索過程においては,TRICチャネル以外にも新規膜タンパク質が見いだされた.Ca2+シグナリングへの直接的な関与が示唆されなかったために十分な検討に手が回らず,生理機能の詳細は不明である膜タンパク質が大半ではあるが,以下に示すように重要な細胞機能への関与が判明している事例もある.
ミツグミン53(MG53)は骨格筋と心筋に発現しており,細胞膜直下の小胞の表面に接着して分布しており,細胞膜-エンドソーム-リサイクリングエンドソーム間の小胞輸送を促進する47).MG53はN末端側にRing, B-box, coiled-coilモチーフから構成されるRBCC/TRIMドメインを,C末端側に分子間相互作用が想定されるSPRYドメインを有する.TRIMファミリー分子群はユビキチンE3リガーゼ活性を共有しているが,MG53については数種の候補分子は報告されているものの,基質分子は確定していない.MG53欠損マウスの骨格筋は物理的に脆弱で,表層膜損傷時の膜修復機構が破綻している48).MG53はホスファチジルセリン結合を示すC末端側で細胞膜直下に分布する小胞に接着しており,細胞膜損傷部位への小胞融合によるパッチ修復機構の鍵分子として機能することが判明した.さらに,細胞外に添加した組換えMG53タンパク質は多様な細胞系での細胞膜修復を促進して,細胞保護作用を示す.その後の研究進展で,運動負荷により骨格筋から血中へ放出されるMG53は種々の組織で細胞保護作用を発揮するため,筋組織由来の善玉myokineと考えられるに至っている49).さまざまな疾患モデル系でMG53投与による病態改善効果も報告されており,組換えMG53タンパク質の投与やアデノ随伴ウイルスベクターを用いたMG53機能発現を基盤に,医療応用を展望するベンチャー企業がトランスレーショナル研究を展開している.
カルミンは組織普遍的に分布する約440アミノ酸残基よりなる小胞体膜1回貫通の膜タンパク質である.カルミン内腔領域は酸性残基に富み,大容量Ca2+結合能を有すが,約330残基より構成される細胞質領域にはC末端コイルドコイル以外には既存モチーフがない.カルミン欠損マウスは胎生初期に致死となり50),ヒトカルミン遺伝子変異は発達障害,肝機能障害,全身性筋脱力や縮毛などを特徴とするtrichohepatoneurodevelopmental症を引き起こすため51),カルミンは重要なハウスキーピング機能を有すると示唆される.カルミンは膜貫通タンパク質の折りたたみを担当する小胞体膜内在型シャペロンのPAT複合体の構成因子であるとの仮説が提示されているが52),上記の変異マウスや疾患患者由来細胞での顕著な小胞体タンパク質貯留は観察されず,PAT複合体形成に寄与するとの仮説についてはさらなる検証が必要とされる.
神経細胞のシナプス小胞に共局在するsynaptophysinとsynaptogyrinは相同性の高い4回膜貫通タンパク質であり,小胞のシナプス前膜への融合反応において抑制調節することが示唆されている.ミツグミン29(MG29)は骨格筋T管膜に局在するsynaptophysinファミリーの新規メンバーとして同定された.MG29欠損マウス骨格筋ではT管の蛇行や分岐が観察され,T管走行の異常が発生する53).この膜構造異常の間接的な影響と推定される異常として,MG29骨格筋細胞はRyR1のCa2+放出や小胞体枯渇が誘導するCa2+流入を含めた広範囲なCa2+ハンドリング障害も観察される54).加齢や代謝疾患によりMG29は発現低下するため,そのサルコペニア病態や筋代謝不良などへの寄与が注目される.
膜結合型O-アシルトランスフェラーゼ(MBOAT)ファミリーは生物種普遍的に分布する膜貫通型脂肪酸転移酵素群で構成され,脊椎動物のMBOAT分子群はグリセロ脂質合成反応や分泌タンパク質の脂肪酸修飾反応を触媒する.ミツグミン56(MG56)は骨格筋と心筋の筋小胞体に特異的に発現する新規MBOATメンバーとして同定され,構造類似性からは分泌または小胞体内在タンパク質に対する脂肪酸転移活性が推定されるが,その生理的基質は不明である.MG56欠損マウスは生後7日以降に哺乳不全により死亡する55).MG56欠損骨格筋では小胞体膨潤化と小胞体ストレス応答の活性化が観察されるため,筋力低下による哺乳障害が推定される.MG56が触媒する反応,その欠失により筋小胞体機能が破綻するメカニズムの解明が望まれる.
ミツグミン23(MG23)は広範囲の細胞種の小胞体と核膜に分布する膜貫通タンパク質である.精製MG23はホモ多量体形成によるお椀様の形状を示し56),脂質膜再構成系ではZn2+により活性化する陽イオン透過イオンチャネルを形成する57).MG23欠損骨格筋と心筋では筋小胞体のCa2+漏出の低下が観察され58, 59),MG23の小胞体Ca2+ハンドリングへの関与の実体解明が今後の研究で期待される.
著者の学生時代には日本人はエコノミックアニマルと国際的には揶揄されたようだが,学術,文化や芸術面での国際貢献をとの国内機運は高まっていた.社畜生活に入るまでの献身的なモラトリアムと発起して大学院博士課程に進学した著者は,在学中にCav1.1とRyR1のcDNAクローニングに参画し,興奮収縮連関やCa2+シグナルの重要性を知ることになった.さらに奇しくも,その後も国内外の研究者と連携しながらCa2+シグナル関連研究を30年以上も継続することになった.遺伝子工学手法や遺伝子ノックアウト法が興隆した時代背景も伴い,他の多くの同世代研究者と同様に,生物を形成する個々のタンパク質部品に着目した還元論的方法論により生命の理解が可能であると考えた.RyR1やCav1.1はなぜtriadに集積するのか? 筋小胞体の縦走部で取り込まれたCa2+はどのように機序で終末部に濃縮されるのか? 哺乳動物筋ではT管はA-I接合部を走行するが,両生類骨格筋や心筋ではZ線上を走行するのはなぜなのか?などの素朴な疑問について国内外の同業者とかなり以前に意見交換したことが回想される.これらの問題については試験管内仮説検証系を確立することが困難であり,類似した基礎学術命題については現在でも大多数が未解決のままである.本稿からも明らかなようにCa2+シグナル研究において筋細胞は有用な実験系を提供し続け,本邦のCa2+シグナル関連研究はトロポニン(江橋)やカルモジュリン(垣内)の発見をはじめとする輝かしい伝統に彩られている.国内外で実学応用に資金や人材が集中するようになり,近年では衰退傾向にある筋細胞Ca2+シグナル研究領域ではあるが,基礎生物学の発展に資する画期的な成果が本邦研究者から報告されることを祈念する.
多数の膜タンパク質を取り扱った本稿では,同様の報告が複数ある場合には代表論文または総説を引用した.同時期に発表された類似論文やユニークな研究成果を含む論文も多数解説できなかったことを,最後にお詫びする.
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