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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 98(1): 47-55 (2026)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2026.980047

総説Review

フェロトーシス誘導起点としてのリソソームLysosomes as a key organelle for ferroptosis induction

九州大学大学院薬学研究院Faculty of Pharmaceutical Sciences, Kyushu University ◇ 〒812–8582 福岡市東区馬出3–1–1 ◇ 3–1–1 Maidashi, Higashi-ku, Fukuoka 812–8582, Japan

発行日:2026年2月25日Published: February 25, 2026
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フェロトーシスは鉄依存的な脂質過酸化反応を起因とする細胞死であり,がんの新たな治療標的として注目されている.この脂質過酸化反応の誘導,抑制機序は徐々に解明され,最終的に形質膜で細孔が形成されることが指摘された.しかし,細胞内のどこで脂質過酸化反応が生じ,どのように鉄を利用して細胞死を誘導するのかは不明であり,この理解は疾患治療の応用法提案につながる.本稿では,蛍光検出プローブが脂質過酸化の抑制剤として機能することに着目し,フェロトーシス誘導起点としてリソソームを同定したことを紹介する.また,リソソーム膜透過性亢進を介した鉄の漏出がフェロトーシス誘導に重要であり,その利用は,細胞株間のフェロトーシス感受性差も克服できる可能性を示す.

1. はじめに

フェロトーシスは,鉄依存的な脂質過酸化反応が起点となり引き起こされる細胞死として,2012年に提唱された1).この脂質過酸化反応によって生じる脂質過酸化物は,通常glutathione peroxidase 4(GPX4)によって無害な脂質アルコールへと還元される.しかし,GPX4の阻害剤であるRSL3や細胞内へのシスチン取り込みを阻害するエラスチンで細胞を処理すると,脂質過酸化物が蓄積し,フェロトーシスが誘導される2)図1).フェロトーシス誘導剤は腫瘍抑制効果を有し3),特に上皮間葉転換後のがん細胞や抗腫瘍剤耐性がん細胞に対してより効果的に細胞死を誘導することが報告されている4, 5).一方で,正常細胞におけるフェロトーシスは,神経変性疾患や肝疾患,腎障害などさまざまな疾患の発症・進展に関与することが指摘されている6).このように,フェロトーシスの誘導と阻害は,がんや神経変性疾患,臓器障害の新しい治療法としての可能性が注目されており,ますますその誘導メカニズムの解明が重要となっている.

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図1 フェロトーシス誘導メカニズム

GPX4:glutathione peroxidase 4, GSH:glutathione, GSSG:glutathione disulfide, xCT:cystine/glutamic acid transporter.

近年,フェロトーシスを誘導・抑制する因子の同定と理解が進み,細胞死の最終段階で形質膜に細孔が形成されることが明らかにされた7–9).しかし,フェロトーシスの直接的な原因となる脂質過酸化反応の発生起源については,現在も議論が続いている.特に,脂質過酸化物の生成部位と鉄の細胞内分布の特定は,フェロトーシス誘導のメカニズムを理解する上できわめて重要である.さらに,そうした知見は,がん細胞株間でのフェロトーシス感受性のばらつきも説明でき,フェロトーシスを基盤としたがん治療への応用に大きく貢献する可能性を持っている.

そこで本稿では,脂質過酸化連鎖反応の中心である脂質ラジカルや脂質過酸化物をターゲットとした検出プローブに着目し,フェロトーシス誘導起点の特定,ならびに細胞株間のフェロトーシス感受性差などについて,最近の研究成果を中心に紹介する.

2. 蛍光プローブ利用によるフェロトーシス誘導起点の特定

これまで,フェロトーシス誘導細胞での脂質過酸化物生成部位を特定するために,蛍光プローブが多く利用されてきた(図2).たとえば,Kaganらは,脂質過酸化物に対する蛍光検出プローブLiperfluoを用い,脂質過酸化物が小胞体で生じていることを報告した10).また,他の研究者らは,蛍光プローブC11-BODIPYを用いて,ヒト線維肉腫細胞株HT1080にてミトコンドリア,あるいは形質膜がフェロトーシス誘導起点であるとしている11–13).さらに最近では,アルキンタグをつけたFerrostatin-1(脂質ラジカル阻害剤)や重水素標識した多価不飽和脂肪酸のラマン顕微鏡観察を利用することで,これら分子が主に小胞体に分布することが報告されている14, 15).このように,フェロトーシス誘導時にさまざまな細胞小器官(オルガネラ)で脂質過酸化反応が観察されているものの,これらが細胞死の直接的な原因であるかは実験的に示されていない.

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図2 脂質ラジカル,脂質過酸化物検出蛍光プローブ

LOH:lipid alcohol. Saimoto Y, et al., Nat. Commun., 16, 3554(2025)の図を改変.

一方,我々は,脂質ラジカルと反応する蛍光検出プローブNBD-Penを開発してきた16).NBD-PenとC11-BODIPYは脂質ラジカルと反応し,またLiperfluoは脂質過酸化物を還元し蛍光発光する16–18).すなわち,これら蛍光プローブがフェロトーシス誘導に関与する分子を捕捉するのであれば,プローブ剤自身が阻害剤として作用し,細胞死誘導を抑制するはずである.さらに,この条件下で観察されるオルガネラは,フェロトーシス誘導の起点である可能性が高い.そこで,非小細胞肺がん(non-small cell lung cancer:NSCLC)細胞株であるCalu-1をRSL3と同時に3種類の蛍光プローブで処理し,その細胞生存率を解析した19).その結果,C11-BODIPYは10 µMでRSL3誘導フェロトーシスを抑制したものの,Liperfluoは10 µM以下では抑制効果を示さなかった.一方,NBD-Penは2 µMでRSL3誘導フェロトーシスを完全に阻害した.この2 µMという濃度は,細胞イメージングによく利用される濃度である.また,他のGPX4阻害剤ML162やエラスチン刺激,あるいはNSCLC細胞H661や線維肉腫細胞株HT1080でも同様の結果であった.さらに,NBD-Penは,脂質ラジカルとラジカル–ラジカル反応し付加物を形成することから,結合した脂質ラジカル分子を解析できる.加えて,結合した脂質由来ラジカル分子種から,その解離様式なども推定可能である20).解析の結果,フェロトーシス誘導時には,RSL3処理Calu-1細胞において·C5H11や·C8H15を含む6種の断片化アルキルラジカルが生成していた.これら分子は,おそらく鉄が関与するβ切断により生成したものと思われる.

NBD-Penがフェロトーシス誘導を抑制できることから,Calu-1細胞をRSL3とNBD-Penで同時処理し3時間後に細胞イメージングを行った.その結果,RSL3処理群でNBD-Pen由来の蛍光輝点が観察され,この輝点はフェロトーシス阻害剤liproxstatin-1(Lip-1)で消失した(図3A, B).このような結果は,他のフェロトーシス誘導剤(ML162,エラスチン)や,細胞株(H661, HT1080)でも同様であった.さらにこの輝点は,Lyso-Trackerと共局在し,ER-Tracker(小胞体)やCellMask(形質膜),Mito-Tracker(ミトコンドリア)とは共局在しなかった(図3C).また,リソソームマーカー(LAMP1)や,初期エンドソームマーカー(Rab5),後期エンドソームマーカー(Rab7)の一部とも共局在していた.

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図3 NBD-Penによる細胞蛍光画像

(A)Calu-1細胞はRSL3とNBD-Penで3時間共処理し,その後撮影.NBD-Pen:2 µM, RSL3:0.1 µM, Lip-1:1 µM. (B)同条件下でのNBD-Penの起点数.(C)NBD-Penと各オルガネラマーカーとの共染色画像.Saimoto Y, et al., Nat. Commun., 16, 3554(2025)の図を改変.

フェロトーシスの誘導起点がリソソームである可能性が示唆されたことから,NBD-Penにモルホリノ基を結合させたリソソーム標的NBD-Pen(Lyso-NBD-Pen)を新たに合成した(図4A).興味深いことに,Lyso-NBD-Penは,RSL3やML162,エラスチンによって誘導されたフェロトーシスをNBD-Penよりも低濃度で抑制した(図4B).このLyso-NBD-Penでの細胞イメージングは,リソソーム特異的な局在を示し(図4C),Lip-1処理でLyso-NBD-Penの輝点は消失した.以上の結果は,蛍光イメージングプローブが原因分子と反応しているのであれば阻害剤としての利用できるのではないかという観点から研究を進めることで,フェロトーシス誘導時にリソソームで生じる脂質ラジカルが重要であることを見いだすことができたといえる.

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図4 Lyso-NBD-Penによるフェロトーシス抑制

(A)Lyso-NBD-Penの構造.(B)RSL3 (0.1 µM)+Lyso-NBD-PenまたはNBD-Pen処理24時間後のCalu-1細胞生存率.(C)Lyso-NBD-Penとリソソームマーカーとの共染色画像.Saimoto Y, et al., Nat. Commun., 16, 3554(2025)の図を改変.

では,なぜNBD-Penが効果的にフェロトーシス誘導を抑制したのか? 我々は,次の3点,(1)プローブと反応する分子種,(2)二次反応速度定数,および(3)プローブの細胞内分布,について考察した.まず,NBD-Penは,脂質由来炭素中心ラジカルと反応し,ラジカル–ラジカル反応によりアルコキシアミン体を生成する16).これまで,フェロトーシス誘導時には,ホスファチジルエタノールアミン由来のアラキドン酸酸化体の蓄積が報告されてきた10, 21, 22).一方,フェロトーシス時にはFe2+が関与することから,脂質ラジカルが生成する可能性が指摘されている22).今回,NBD-Penと·C5H11などの脂質由来アルキルラジカルが検出されたが,これは脂質ヒドロペルオキシドがFe2+誘導β切断された結果アルキルラジカルが生成したと考えている.これらのアルキルラジカルは,脂質過酸化連鎖反応の中心となる分子である.

次に,蛍光プローブと反応分子間の二次反応速度定数であるが,NBD-Penを構成するニトロキシドと炭素中心ラジカルの二次反応速度定数は,一般に108~109 M−1 s−1であり23),一方C11-BODIPYとペルオキシルラジカルは104 M−1 s−1である24).このきわめて速い二次反応速度定数が,脂質過酸化連鎖反応の原因分子である脂質ラジカルを効果的に捕捉し,細胞死誘導の抑制に寄与した可能性が考えられる.

三つ目にプローブの細胞内局在であるが,NBD-Penは細胞全体に広く分布することがわかっている19).この細胞全体にわたる分布は,特定のオルガネラを除外することなく,細胞死抑制効果を評価できることを示唆している.一方,フェロトーシス抑制を示した10 µMのC11-BODIPYはリソソームで蛍光輝点を検出できなかったことから,リソソームへの移行性は低いことが予想される.この局在性の違いがフェロトーシス抑制能に影響した可能性が考えられる.以上を踏まえると,細胞全体に分布し,かつ原因分子に対して高い反応性を示す蛍光プローブは,単にイメージングプローブとして利用されるだけでなく,効果的な阻害剤としても機能することを示唆している.後述するように,Fe2+を反応性の低いFe3+に酸化するFerroOrangeもフェロトーシス誘導を抑制できる.

3. リソソームと膜障害

では,リソソーム内で生じた脂質ラジカルが,どのようにしてフェロトーシスを誘導するのだろうか.これまで,分子動力学シミュレーションや実験により,脂質膜が酸化されると,膜の透過性が亢進することが報告されている25–27).また,最近,フェロトーシスを誘導するFIN56やdisulfiramで処理すると,細胞内の活性酸素レベルが上昇し,リソソーム膜透過性(lysosomal membrane permeabilization:LMP)28)が亢進することが示されている29, 30).さらに,salinomycinは細胞内鉄をリソソームに集積させ,リソソーム内の活性酸素発生とLMP誘導を促し,最終的にフェロトーシスを引き起こすとされている31).これらLMP誘導の原因分子として,活性酸素種の関与が長い間指摘されてきたが28, 32),その膜障害発生メカニズムについて明確に報告した研究はほとんどなかった.そこで我々は,リソソームで生じた脂質ラジカルがLMPを亢進するのではないかと考えた.LMP誘導剤である過酸化水素と同様に,RSL3を3時間以上処理するとpH指示薬であるアクリジンオレンジの蛍光強度が低下し,リソソーム内pHが上昇した.このpH上昇はLip-1やNBD-Pen, Lyso-NBD-Pen処理で有意に抑制された.さらに,エンドサイトーシスを介してリソソームに蓄積したFITC-dextran(40 kDa)は,RSL3処理4時間後に漏出し,細胞質へと拡散した.加えて,乳酸デヒドロゲナーゼの細胞外への放出は,RSL3処理5時間後以降に観察された.以上の結果は,フェロトーシスでは形質膜損傷に先立ってLMPが生じている可能性を示唆する.

リソソームには,トランスフェリン受容体やCD44によるエンドサイトーシス経路を介した細胞外鉄の取り込み,また鉄貯蔵タンパク質フェリチン選択的なオートファジーであるフェリチノファジーなどにより,鉄が豊富に存在している33–35).このため,LMPが生じると,リソソーム鉄が細胞質へ拡散し,細胞死のトリガーとなるのではないかと考えた.RSL3処理3時間後,Fe2+を検出する蛍光プローブFerroOrangeの蛍光強度が増加し,これはLip-1, NBD-Pen, Lyso-NBD-Pen処理によって抑制された(図5A).さらに,リソソームFe2+の細胞質内への拡散は,細胞全体にわたって脂質過酸化反応を誘導することが予想される.実際に,Calu-1細胞をRSL3で3時間処理後にNBD-Penを添加し解析すると,NBD-Penの蛍光はER-Trackerと共局在し,処理5時間後にはCellMaskとも共局在した(図5B).興味深いことに,Fe2+を反応性の低いFe3+に酸化するFerroOrangeを添加すると,フェロトーシスは有意に抑制される.以上の点は,LMPによりリソソーム内Fe2+が細胞質内に漏出し,細胞全体へ脂質過酸化反応が拡大することが,フェロトーシス実行に重要な役割を担っていると考えられる(図5C).

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図5 LMP誘導によるFe2+および脂質ラジカルの細胞内への拡散

(A)FerroOrangeによる細胞内Fe2+画像.Calu-1細胞をRSL3で処理3時間後の画像.Lyso-NP:Lyso-NBD-Pen. (B)Calu-1細胞をRSL3(0.1 µM)で処理し,3あるいは5時間後にNBD-Penを添加した際の蛍光画像.(C)リソソームでの脂質ラジカルの蓄積とLMPの誘導,その後のFe2+の細胞質内への移行が,小胞体(ER)や形質膜(PM)への脂質過酸化反応を誘導する.Saimoto Y, et al., Nat. Commun., 16, 3554(2025)の図を改変.

今回用いたフェロトーシス誘導の条件では,リソソームを起点とした脂質過酸化反応が,小胞体や形質膜へと段階的に広がっていた.最近,von Krusenstiernらは,オレイン酸がフェロトーシス抑制効果を持つことを利用し,小胞体がフェロトーシス時の脂質過酸化反応の重要な生成部位であることを報告している15).我々も,オレイン酸を添加したところ細胞死が抑制されたものの,リソソーム内で脂質ラジカルは生成していた.このことから,オレイン酸の添加では,リソソームへの移行は乏しいようである.実際,外因性脂肪酸はリソソーム膜にはほとんど取り込まれないとの報告もある15).また,先行研究でのC11-BODIPYやLiperfluoを用いた実験は,リソソームでの脂質ラジカルが起点となり,その後,脂質過酸化反応が拡散している様子を捉えているのかもしれない.これらのことは,リソソームがフェロトーシス誘導の起点となることをさらに裏づけるものである.

しかし,実際に脂質過酸化反応がリソソーム内でどのようにLMPを誘導しているのかは未解決のままである.これまで分子動力学シミュレーションの計算結果によると,脂質二重層膜が酸化されると疎水性尾部が水相に向かって折れ曲がるため,膜の安定性が失われ膜透過性が亢進することが予測されている25, 26, 36).さらに,脂質過酸化物が断片化し生成した脂質由来アルキルラジカルは,脂質連鎖反応の中心分子であるため持続的に反応が進行するであろう.これらの点を考慮すると,リソソームで検出された脂質由来アルキルラジカルがLMPを誘導している可能性は十分考えられる.

4. フェロトーシスに対する感受性差

フェロトーシスに対する感受性は,がん細胞の性質や種類に依存する.たとえば,上皮系のNSCLCでは,HARAやH460, A549, KNS62, PC9はCalu-1よりもRSL3誘導細胞死に対する感受性が低い(図6).このことから,フェロトーシスを利用したNSCLC細胞に対する治療法の適用が制限されるため,感受性差の理解は解決すべき重要な課題である.そこで我々は,まず,NBD-Penを用いた細胞イメージングを行った.その結果,低感受性細胞であるPC9やHARA, H460細胞を,細胞死を誘導するには十分でない濃度のRSL3(1 µM:Calu-1細胞では細胞死を誘導する濃度)で処理した場合,リソソームでNBD-Penの蛍光輝点が観察され,Lip-1の処理で完全に阻害された.しかし,これらの条件下ではRSL3処理時にリソソームのpHは上昇せず,FITC-dextranもリソソーム内に集積したままであった.以上の結果は,フェロトーシス低感受性細胞では,RSL3処理により,リソソームで脂質ラジカルが生成しているものの,LMPは引き起こさないことを示している.

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図6 RSL3刺激24時間後のNSCLC細胞の生存率

Saimoto Y, et al., Nat. Commun., 16, 3554(2025)の図を改変.

そこで我々は,フェロトーシス低感受性細胞にLMPを促進すればよいのではないかと考えた.クロロキン(CQ)や塩化アンモニウム,メチルアミンのようなリソソーム指向性薬剤は,酸性環境中に蓄積することで浸透圧差によるリソソーム膨張を誘発し,それに伴うpH上昇とリソソーム機能障害を引き起こす37–39).また,膨張したリソソームは膜破壊の影響を受けやすい40).そのため,リソソーム指向性薬剤とフェロトーシス誘導剤の併用処理によってLMP誘導を促し,フェロトーシスを引き起こすことができるだろう.実際に,これらのリソソーム指向性薬剤を併用処理すると,低感受性細胞に対してRSL3によるフェロトーシス誘導が亢進した(図7).またCQの濃度依存的にフェロトーシスは亢進し,異なるGPX4阻害剤であるML162でも同様の結果が得られた.対照的に,リソソーム蓄積性を示さず,液胞型プロトンポンプを阻害しリソソームpHを上昇させるbafilomycin A1は,リソソーム膨張を引き起こさず,RSL3誘導フェロトーシスを増強しなかった.さらに,リソソーム指向性薬剤によって亢進した細胞死は,Lip-1やNBD-Penで効果的に抑制された.これらのことは,他のNSCLC細胞株やSH-SY5Y細胞でも同様であった.また,RSL3とCQの共処理によって細胞質のFe2+レベルが増加し,FITC-dextranも漏出していた.以上の結果から,リソソーム指向性薬剤はリソソームからのFe2+漏出を促し,細胞全体の脂質過酸化反応を増加することで,フェロトーシスを亢進させたといえる.

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図7 低感受性細胞であるPC9細胞をRSL3およびクロロキン(CQ),NH4Cl, あるいはメチルアミンで刺激した際の24時間後の細胞生存率

****p<0.0001. Saimoto Y, et al., Nat. Commun., 16, 3554(2025)の図を改変.

最後に,動物腫瘍モデルにおいて,CQがフェロトーシス低感受性細胞の腫瘍増殖に与える影響を調べるため,GPX4ノックアウト(GPX4KO)細胞を用いて評価した.GPX4KO H460細胞はLip-1非存在下でも生存可能であったが,CQ処理によりLMPとフェロトーシスが誘導された.同様に,腫瘍移植モデルにおいても,CQ投与はGPX4KO H460の腫瘍増殖と腫瘍重量を減少させた.また,CQ投与時には,脂質過酸化反応も亢進していた.以上の結果は,フェロトーシス低感受性がん細胞に対して,GPX4阻害とCQ処理との併用の治療戦略が効果的である可能性を示している.

5. おわりに

本稿では,脂質ラジカルや脂質過酸化物検出プローブがフェロトーシス誘導の原因分子を捉えているのであれば,阻害剤として利用できることを示し,リソソームで生じる脂質ラジカルが細胞死誘導に重要であることを紹介した(図8).また,脂質由来アルキルラジカルが細胞死誘導の原因分子であり,LMP誘導,リソソームから細胞内へのFe2+漏出,小胞体および形質膜への脂質過酸化反応の拡散を引き起こすことで,最終的に細胞死へと至ることを示した.一方,フェロトーシスに対する感受性が低い細胞では,リソソームで脂質ラジカルは生じるものの,LMPは誘導されない.そこで,LMPを促進させると,低感受性細胞でもフェロトーシスによる抗腫瘍効果が増強することをin vitroおよびin vivoの両方で示した19)

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図8 フェロトーシス誘導の起点としてのリソソームとLMP

これまで,フェロトーシス誘導が困難な細胞種の存在が報告されてきた.たとえば,GPX4とは独立した経路で脂質過酸化物を消去するferroptosis suppressor protein 1(FSP1)やGTP cyclohydrolase 1(GCH1)を高発現する細胞は,フェロトーシス感受性が低い41–43).そのため,GPX4に加えこれら酵素の同時阻害が,フェロトーシス耐性を克服するための主要な戦略として提案されてきた.しかしながら,細胞種によって抑制酵素の発現量が異なるため,GPX4との併用阻害は一部の細胞タイプに限定される41, 43).今回,我々は,細胞死の原因となる脂質ラジカル生成部位とフェロトーシス誘導に重要なFe2+拡散メカニズムを明らかにすることで,脂質過酸化抑制酵素の併用阻害とはまったく異なる手段で,フェロトーシス低感受性がん細胞に対する抗腫瘍効果を高めることを可能とした.

リソソームは細胞内鉄の恒常性維持に重要な役割を持つことが知られている.たとえば,エンドサイトーシス経路による細胞外鉄の取り込みやフェリチノファジーを介して,エンドソームやリソソームに遊離Fe3+が蓄積される33–35).また,このFe3+はエンドソーム/リソソームに存在するsix-transmembrane epithelial antigen of prostate 3やCYB561A3によってFe2+に還元される33, 44).このため,リソソームはフェロトーシス誘導に必須であるFe2+の供給源である可能性が指摘されてきた.特に近年,CYB561A3のノックアウト,またはリソソーム内Fe2+を減少させる化合物の処理がフェロトーシスを抑制することが報告され45, 46),フェロトーシスにおけるリソソーム鉄の関与が注目されている.最近,Cañequeらは,フェロトーシス阻害剤であるLip-1をアルキンラベルし,クリック標識にて蛍光イメージングすることで,膜脂質の酸化は主にリソソームで生じており,リソソーム鉄の活性化がフェロトーシス誘導に重要であることを報告している47).さらに,ごく最近,老化細胞がフェロトーシス抵抗性を示す原因として,リソソーム機能不全が原因であることも報告された48).また,今回の我々の研究において,フェロトーシス感受性が低いNSCLC細胞株では,リソソーム内でLPOが観察されたものの,LMPは誘導されなかった.このことは,フェロトーシス感受性差にリソソームが関与している可能性が大いに考えられる.

以上,フェロトーシスの誘導起点を特定することにより,その誘導メカニズムも説明できつつあるとともに,たとえば,フェロトーシス誘導とリソソーム指向性薬剤の組合わせは,細胞種にとらわれない低感受性克服のための有効な戦略になる可能性がある.また,今回,蛍光イメージングプローブの特性をうまく利用することで,フェロトーシスの誘導起点を特定することにつながったが,やはり異分野の融合が重要であることをあらためて実感した.今後,細胞株間によるLMP誘導の違いなど,さらに研究を進めていきたいと思う.

謝辞Acknowledgments

本稿は,著者の研究室の研究成果を中心にまとめたものです.これまで一緒に研究を進めていただいた研究室メンバー,ならびに共同研究者の方々に深く感謝いたします.

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著者紹介Author Profile

山田 健一(やまだ けんいち)

九州大学大学院薬学研究院 教授.博士(薬学).

略歴

1994年九州大学薬学部卒業.99年同大学院薬学研究科博士課程修了,博士(薬学).99~2002年米国NCI-NIH博士研究員,02年九州大学大学院薬学研究院助手,05年同助教授(後准教授).13~17年JSTさきがけ「疾患代謝」.16年同大学教授.17~23年AMED-CREST「脂質」研究開発代表者,23年九州大学主幹教授.

研究テーマと抱負

酸化脂質が,疾患にどのように関わっているか,またその創薬研究に興味を持ち研究を進めている.

ウェブサイト

http://bukka.phar.kyushu-u.ac.jp/

趣味

スポーツ観戦,旅行.

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