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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 98(1): 97-101 (2026)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2026.980097

みにれびゅうMini Review

コリン/エタノールアミンリン脂質のde novo合成における新知見基質特異性・輸送機構・構造基盤New insights into the de novo synthesis of choline/ethanolamine phospholipids: Substrate specificity, transport mechanisms, and structural basis

獨協医科大学医学部生化学講座Department of Biochemistry, Dokkyo Medical University School of Medicine ◇ 〒321–0293 栃木県下都賀郡壬生町北小林880 ◇ 880 Kitakobayashi, Mibu, Tochigi, Japan

発行日:2026年2月25日Published: February 25, 2026
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1. はじめに

細胞やオルガネラを構成する生体膜は,コリン/エタノールアミンリン脂質を主成分とする脂質二重層で形成されている.これらのリン脂質は,コリン/エタノールアミンから始まるKennedy経路を介してde novo合成される1)図1A).この経路の最終段階では,choline phosphotransferase(CPTまたはCHPT)とethanolamine phosphotransferase (EPT)がCDP-コリン/エタノールアミンと,これらの受容体であるジアシルグリセロール(DAG)やアルキルアシルグリセロール(AAG)から各リン脂質を合成する.哺乳動物におけるこれらの酵素は,CHPT1, CEPT1(choline/ethanolamine phosphotransferase),およびEPT1の3種類が知られている2–4).一方,酵母ではyCPT1とyEPT1の2種類が報告されている5).CHPT1とyCPT1はCDP-コリンに特異的に作用し,コリンリン脂質を合成する(図1B).CEPT1とyEPT1はCDP-コリンとCDP-エタノールアミンの両方を基質とし,両リン脂質を合成する.一方,EPT1はCDP-エタノールアミンに特異的に作用し,エタノールアミンリン脂質を合成する.受容体がDAGの場合,ホスファチジルコリン(PC)やホスファチジルエタノールアミン(PE)などのエステル型リン脂質が合成される.これに対し,受容体がAAGの場合は,plasmanyl-PCやplasmanyl-PEなどのエーテル型リン脂質が合成されるが,後者は速やかに不飽和化酵素の作用を受け,plasmenyl-PE(プラスマローゲン)へと変換される.

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図1 コリン/エタノールアミンリン脂質の新規合成経路(Kennedy経路)とCPT/EPTの基質特異性

(A) CPT/CHPTおよびEPTは,それぞれCDP-コリンまたはCDP-エタノールアミンと,それらの受容体となる脂質からリン脂質を合成する.受容体がDAGの場合はPCやPEなどのエステル型リン脂質が,AAGの場合はplasmanyl-PCやplasmenyl-PEなどのエーテル型リン脂質が生成される.ヒトではhCHPT1, hCEPT1, hEPT1の3種類,酵母ではyCPT1およびyEPT1の2種類が発現している.(B)これらの酵素は,CDP-コリンおよびエタノールアミンに対する基質特異性が異なる.

これまで我々は哺乳動物のEPT1の発見を契機に,Kennedy経路により合成されるリン脂質の脂肪酸分子種を解析してきた.その過程でエーテル型リン脂質の合成に関わるAAGの輸送機構を見いだした.さらに最近,yCPT1の立体構造を解析し,CDP-コリン/エタノールアミン,そしてDAGの脂肪酸分子種に対する基質特異性の構造基盤を明らかにした.本稿ではこれらリン脂質新規合成酵素の新知見を概説する.

2. エタノールアミンリン脂質のde novo合成と基質特異性

1980年代に酵母yCPT1とyEPT1の遺伝子が変異体とゲノムライブラリーを用いた解析により同定され,1990年代にはホモロジー検索によりヒトhCHPT1およびhCEPT1が同定された.これらはすべてCDP-alcohol phosphotransferase (CDP-AP)ファミリーに属し,活性中心に保存されたCDP-AP motifを有する.2007年,我々はこのモチーフを指標に機能が未同定なタンパク質を再検索し,Selenoprotein Iと注釈されていたヒトタンパク質を見いだした.大腸菌での発現解析の結果,このタンパク質はCDP-エタノールアミン依存的にPEを合成する酵素であることが判明し,hEPT1として報告した4)

この研究により,ヒトはエタノールアミンリン脂質を新規合成する酵素として,hCEPT1とhEPT1の2種類を発現していることが明らかになった.では,両者の役割の違いは何であろうか.解析の出発点となったのが,hEPT1遺伝子に変異を有し,中枢神経障害を呈する患者の報告であった6).この患者ではhCEPT1は正常であることから,hCEPT1はhEPT1の機能を代償できず,両酵素が異なる生理的役割を担っていることが考えられた.この報告とは別個に我々が見いだしたhEPT1変異患者の皮膚由来の線維芽細胞を用いてリン脂質を解析した結果,特にエーテル型リン脂質であるplasmenyl-PEが著しく減少し,代わりにplasmanyl-PCが増加していた7).plasmenyl-PEは中枢神経系に豊富に存在し,活性酸素種の除去やミエリン形成に関与することが知られている8).また最近,脳特異的EPT1欠損マウスではミエリン形成不全を起こすことが報告された9).以上から,hEPT1変異による中枢神経障害は,ミエリン形成不全と酸化ストレス脆弱性の双方が相乗的に関与する複合的な病態であると考えられる.

続いて,hCEPT1とhEPT1が合成するエタノールアミンリン脂質の相違を再検討するため,それぞれ欠損させたHEK293細胞株を樹立し,内在性のエタノールアミンリン脂質および重水素エタノールアミンから合成されるエタノールアミンリン脂質をLC-MS/MSを用いて比較解析した.その結果,hEPT1がplasmenyl-PEの合成に重要であることが再確認された.一方,hCEPT1はhEPT1よりも脂肪酸鎖長の短いPEの合成に寄与していることが明らかとなった.両酵素の細胞内局在を調べたところ,hCEPT1は小胞体(ER)に,hEPT1はゴルジ体に局在していた.以上から,エーテル型リン脂質であるplasmenyl-PEの合成は,主にゴルジ体に局在するhEPT1によって行われ,ERに局在するhCEPT1の関与は限定的であることが示唆された10)

3. エーテル型リン脂質合成における脂質中間体の輸送機構

エーテル型リン脂質の脂質骨格であるAAGは,ペルオキシソームでジヒドロキシアセトンリン酸(DHAP)に脂肪酸が結合してアシル-DHAPが形成され,その後アシル基がアルキル基に置き換わることで合成が開始される.生成したアルキル-DHAPは還元を受けて1-アルキル-グリセロール-3-リン酸となり,ERにおいて2位に脂肪酸が転移することで完成する11).続いてplasmenyl-PEが合成されるには,AAGはERからhEPT1が局在するゴルジ体へ輸送される必要がある.我々はAAGがセラミドと構造的に類似している点に着目し,セラミド輸送タンパク質CERTがAAGの輸送に関わるのではと考えた.CERTは,ERで合成されたセラミドをゴルジ体へと輸送し,スフィンゴミエリンの合成に関与するタンパク質である12).CERTによるセラミドおよびAAGの輸送活性を比較するため,これらの脂質を含むドナーリポソームから含まないアクセプターリポソームへの輸送を測定した結果,CERTはセラミドの約10%の効率でAAGを輸送した.さらに,hEPT1を欠失したHEK293細胞においてCERTの機能を抑制したところ,合成酵素の活性上昇を伴うことなくplasmanyl-PCの増加が認められた.この結果は,CERTの抑制によりER内にAAGが蓄積し,これがERのhCEPT1によってplasmanyl-PCに変換された可能性を示唆している.以上から,ER内で合成されたAAGはCERTを介してゴルジ体へ輸送され,hEPT1によってplasmanyl-PE,さらにplasmenyl-PEに変換されるという,エーテル型リン脂質合成の新しい代謝経路が推定された13)

4. 酵母yCPT1の構造解析と基質特異性の構造基盤

前述のように,CPTおよびEPTはいずれも活性部位に高度に保存されたCDP-AP motifを有している.それにもかかわらず,CDP-コリンやエタノールアミンに対して異なる特異性を示す.さらにDAGやAAG,そしてこれらの脂肪酸分子種に対しても異なる特異性を示す.hCEPT1とアフリカツメガエルのCHPT1の立体構造は明らかにされていたが,基質特異性の構造基盤は未解明であった14).そこで,酵母yCPT1の立体構造解析を行い,基質特異性を決定する構造要因の解明を試みた15).昆虫細胞発現系を用いてyCPT1を発現・精製した.また,構造解析を容易にする最小の抗体断片(nanobody)を酵母表面ディスプレイ法により取得し,yCPT1との複合体をクライオ電子顕微鏡で解析した.その結果,yCPT1の立体構造を2.9~3.2 Åの分解能で明らかにした(図2A).yCPT1は10本の膜貫通領域(TM)を持つ二量体構造で,TM1~TM6にはDAGと結合するcatalytic motifが,TM2後半からTM3前半までの細胞質側にはCDP-コリンと結合するCDP-AP motifが認められた.また,TM7~TM10は二量体の形成に関与するdimerization motifがみられた.TM1の前にはJuxtamembrane helix (JMH)と名づけた膜近傍ヘリックスが存在し,CDP-コリン結合部位を外側から取り囲んでいた.

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図2 yCPT1の立体構造と基質特異性に関与するアミノ酸残基(文献15より引用)

(A) yCPT1の全体構造.10本のTMからなり,DAGと結合するcatalytic motif,CDP-コリンと結合するCDP-AP motif,二量体形成に関与するdimerization motifを有する.TM1の前方にはCDP-AP motifを外側から囲むJMHが存在する.二量体の界面には脂質が存在し(図ではPCとして描かれている),二量体の安定化に寄与している.(B) CDP-コリン/エタノールアミンに対する基質特異性に関与するTrp35の空間配置と,それを規定するAla97.このAlaをyEPT1で保存されているGlyに置換すると,Trpが内側に移動するとともに,新たにCDP-エタノールアミンに対する特異性を獲得した.(C) DAGの脂肪酸分子種に対する特異性に関与するPhe146.DAGのsn-1鎖の末端は,channel 1出口にあるPhe146の側鎖によって塞がれている.これをyEPT1で保存されているより側鎖の小さいLeuに置換すると,脂肪酸鎖長18のDAGに対する特異性が上昇し,yEPT1と類似した基質選択性を示した.

CDP-コリン結合型の構造を解析した結果,CDP-AP motifを形成するアミノ酸(D(x)2DG(x)2AR(x)7,8G(x)3D(x)3D)とCDPとの結合が確認された.さらに,JMH内部のTrp35とコリンとの相互作用が見いだされた.このTrpはほかのCDP-APファミリーにも保存されており,コリンやエタノールアミンの認識に重要であると考えられる.そこでyCPT1とAlphaFold2によって予測されたyEPT1を比較したところ,Trpの空間配置に差異がみられた(図2B).yCPT1ではTM2のAla97が対向することでTrp35が外側にシフトしているのに対し,yEPT1ではGlyに置換されており,Trpが内側に最大2.2 Å移動し,JMHも内側にシフトしていた.興味深いことに,このAlaはCDP-コリンを基質とするCPT群(yCPT1, hCHPT1, hCEPT1)において保存されている一方で,CDP-エタノールアミンを基質とするEPT群(yEPT1, hEPT1)ではGlyに置換されていた.そこで,Ala97をGlyに置換したA97G変異体を作製し,基質特異性を解析した.その結果,この変異体は野生型にはみられない,CDP-エタノールアミンを基質にするEPT活性を獲得していた.これらの結果は,TM2上のAla/Glyによって決まるTrpの空間配置が,CDP-コリン/エタノールアミンに対する基質特異性の決定に関与することを示唆している.おそらく,AlaによってTrpが外側にシフトすると結合ポケットが広がり,大きなコリンを受け入れやすくなる.対照的に,GlyではTrpが内側にシフトしてポケットが狭くなり,より小さなエタノールアミンに適した構造となると思われる.

次に,DAG結合型の構造を解析した.DAGは酵素内部(TM3~TM6)の疎水性チャネルに結合していた(図2C).sn-2の脂肪酸鎖は,TM5とTM6の間のchannel 2を通り,末端は脂質膜環境へと解放されていた.一方,sn-1の脂肪酸鎖はchannel 1に沿って配置し,その末端はTM4のPhe146の側鎖によって塞がれていた.ところで,yCPT1とyEPT1はそれぞれ脂肪酸鎖長16と18のDAGを好むことが報告されている.先ほどのPhe146はyEPT1ではより側鎖の小さいLeuに置換されている.そこで,Phe146をLeuに変異したF146L変異体を作製し,DAGの脂肪酸分子種に対する特異性を調べた.その結果,この変異体はyEPT1様に脂肪酸鎖長18のDAGに対する選択性が高まった.また,精製酵素に結合している内在性のDAGを解析したところ,F146L変異体は脂肪酸鎖長18のDAGとより多く結合していることが明らかとなった.以上の結果から,DAGの脂肪酸鎖長に対する選択性は,sn-1の脂肪酸鎖が結合するchannel 1の出口にあるアミノ酸側鎖の大きさに影響される可能性が示唆された.

酵素阻害剤は,反応機構や基質結合様式を明らかにする上で構造解析においてきわめて有用なツールである.以前,hCEPT1がプロテインキナーゼ阻害剤であるchelerythrineによって阻害(IC50=40 μM)されることが報告されていた.今回,同薬剤のyCPT1に対する影響を検討したところ,より強い阻害作用(IC50=0.44 μM)を示すことを見いだした.chelerythrine結合型酵素の構造解析を行った結果,ベンズジオキソロ基とフェナントリジン骨格がそれぞれDAG結合部位のchannel 1と2に入り込んでいた.さらにイミニウム基はCys225とイオン結合を形成し,酵素との結合を安定化させると考えられた.以上から,本薬剤はDAGと結合部位を奪い合う競合阻害剤であることが示唆された.

今回,三つの異なる基質結合状態のyCPT1を解析し,触媒モデルを提案した.CDP-AP motif内に存在するHis118は反応中心で,DAGの3位ヒドロキシ基を脱プロトン化し,生成されたOがCDP-コリンのβ-リン酸を求核攻撃することで,PCとCMPが生成されると考えられた.また,Glu114はプロトン化されたHis118の安定化に寄与すると考えられた.これは,Hisが求核基の活性化を担い,隣接する酸性アミノ酸がそのプロトン化状態を安定化するという点で,セリンプロテアーゼなどの触媒トライアドと類似する.

5. おわりに

リン脂質合成酵素の多くはすでに同定され,いわば“古い酵素”の部類に入る.しかし,それらの立体構造や細胞内での動態,調節機構,生理機能,および疾患との関連などの全容は明らかにされていない.今後は未同定な酵素も視野に入れつつ,リン脂質代謝や輸送の包括的な理解に向けた研究を推進していきたい.

謝辞Acknowledgments

本研究を遂行するにあたり,ミシガン大学の前田将司先生(現Xaira Therapeutics)には多大なるご尽力を賜りました.この場を借りて御礼申し上げます.また共同研究者の皆様にも深く感謝申し上げます.

引用文献References

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著者紹介Author Profile

堀端 康博(ほりばた やすひろ)

獨協医科大学医学部生化学講座 准教授.博士(農学).

略歴

1999年九州大学農学部卒業.2004年同大学院生物資源環境科学府博士課程修了.日本学術振興会特別研究員DC2,理化学研究所基礎科学特別研究員,獨協医科大学助教,UCLA客員研究員を経て20年より現職.

研究テーマと抱負

主にリン脂質の代謝・輸送に関わるタンパク質の機能を分子レベルで解析し,その破綻が引き起こす疾患の発症機構の解明を目指しています.

ウェブサイト

https://researchmap.jp/read0106338

趣味

小料理,シーフード.

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