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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 98(1): 102-106 (2026)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2026.980102

みにれびゅうMini Review

PCNAのユビキチン化が制御するDNA損傷トレランス機構DNA damage tolerance pathways regulated by PCNA ubiquitination

1名古屋大学環境医学研究所ゲノム動態制御分野Department of Genome Dynamics, Research Institute of Environmental Medicine, Nagoya University ◇ 〒464–8601 愛知県名古屋市千種区不老町 ◇ Furo-cho, Chikusa-ku, Nagoya, Aichi 464–8601, Japan

2名古屋大学大学院医学系研究科分子機能薬学Department of Molecular Pharmaco-Biology, Nagoya University Graduate School of Medicine ◇ 〒464–8601 愛知県名古屋市千種区不老町 ◇ Furo-cho, Chikusa-ku, Nagoya, Aichi 464–8601, Japan

発行日:2026年2月25日Published: February 25, 2026
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1. はじめに

ゲノムDNAは,紫外線,電離放射線,活性酸素種などのさまざまな外的・内的要因によって常に損傷を受けている.これらのDNA損傷はDNA複製の進行を妨げ,ゲノム不安定化を引き起こすことで,細胞のがん化や細胞死につながる可能性がある.

細胞には,ゲノム安定性を維持するための多様なDNA損傷応答機構が備わっている.その中でも,DNA損傷によって生じる複製阻害を解消する機構は,損傷を残したまま複製の継続を優先することから「DNA損傷トレランス(DNA damage tolerance)」と呼ばれている.DNA損傷トレランスには複数の経路が存在し,PCNA(proliferating cell nuclear antigen)のユビキチン化がその制御に重要であると考えられている.本稿では,DNA損傷トレランス機構について筆者らの研究成果を中心に概説する.

2. 損傷乗り越えDNA合成とモノユビキチン化PCNA

DNA損傷トレランスには損傷乗り越えDNA合成(translesion synthesis:TLS)や相同組換え反応を伴う経路(homology-dependent repair:HDR)など複数の経路があると考えられているが,その研究はTLSの解析を中心に進展してきた.日光過敏症,高頻度の皮膚がんを主症状とする遺伝性疾患の色素性乾皮症(xeroderma pigmentosum:XP)の遺伝的相補性群の一つであるXPバリアント群(XP-V)の患者由来細胞では,紫外線によって損傷が生じたDNAの複製に問題があることが古くから知られていた.1999年,XP-Vの責任遺伝子産物として,紫外線によって生じる主要な損傷であるシクロブタン型ピリミジン二量体(cyclobutane pyrimidine dimer:CPD)を鋳型としてDNA合成を行えるDNAポリメラーゼである,DNAポリメラーゼ・イータ(Polη)が報告され1, 2),TLSの実態が明らかとなった.

DNAポリメラーゼは一次配列の相同性に基づき四つのファミリー(A,B,X,Yファミリー)に分類される.ゲノム全体の複製を担う複製型のDNAポリメラーゼ・アルファ(Polα),DNAポリメラーゼ・デルタ(Polδ),DNAポリメラーゼ・イプシロン(Polε)はBファミリーに分類されている.Polηは,Yファミリーに分類されており,Yファミリーに属する他のDNAポリメラーゼ[DNAポリメラーゼ・イオタ(Polι),DNAポリメラーゼ・カッパ(Polκ),REV1]もTLS活性を有する.PolηはCPDに対して正しいヌクレオチドを重合できるが,TLS活性を持つDNAポリメラーゼ(TLSポリメラーゼ)は本質的には誤りがちなDNAポリメラーゼであり,変異を誘発する性質を持つ.そのため,TLSの制御機構の解明が次なる重要課題となった.

PCNAはホモ三量体からなるリング構造を形成し,その中心にDNAを通すことで,複製に必須のスライディングクランプとして機能する.2002年にPCNAの164番目のリシン残基(K164)が複製阻害に応答してユビキチン化されることが報告され,ユビキチン化PCNAがDNA損傷トレランスに重要な役割を果たすことが示された3).PCNA K164のユビキチン化には,モノユビキチン化とK63リンクのポリユビキチン化がある.タンパク質のK63ポリユビキチン鎖修飾は,DNA修復やシグナル伝達などに関与することが知られている.モノユビキチン化PCNAはYファミリーDNAポリメラーゼと相互作用し,この相互作用を介して損傷部位における複製型DNAポリメラーゼとのスイッチングが起こると考えられている(図1A).

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図1 モノユビキチン化PCNAとの相互作用を介した損傷乗り越えDNA合成(TLS)の分子機構とヒトPolηの構造

(A)DNA損傷があると,ゲノム全体の複製を担う複製型DNAポリメラーゼ(複製型Pol)の進行が阻害される.複製阻害に応答してPCNAがモノユビキチン(Ub)化されると,TLSポリメラーゼ(TLS Pol)との相互作用を介して複製型PolからTLS Polへのスイッチングが起こり,TLS Polが損傷部位を鋳型としてDNA合成を行う.(B)ヒトDNAポリメラーゼ・イータ(Polη)は全長713アミノ酸からなるタンパク質であり,N末端側にポリメラーゼドメインを有する.さらに3か所のPCNA結合モチーフ(PCNA-interacting peptide:PIP),ユビキチン結合モチーフ(ubiquitin-binding zinc finger:UBZ),および核移行シグナル(nuclear localization signal:NLS)を持つ.

YファミリーDNAポリメラーゼは,PCNA結合モチーフ(PCNA-interacting peptide:PIP)およびユビキチン結合モチーフ(ubiquitin-binding zinc finger:UBZ, ubiquitin-binding motif:UBM)を介してモノユビキチン化PCNAと相互作用する.ヒトPolηには3か所のPIPと1か所のUBZが存在する(図1B).筆者らのグループは,Polηの3か所のPIPがPCNAによるPolηのDNA合成活性の促進,PCNAのモノユビキチン化の促進およびPolηの集積に関与することを報告した.三つのPIPのうち活性中心に近いPIP1およびPIP3はDNA合成の促進に対する寄与が大きく,C末端に位置するPIP2はPCNAユビキチン化の促進とPolηの集積に対する寄与が大きいことを明らかにし,さらにPolηの三つのPIPとUBZが細胞内で相補的に機能することも示した4).これらの結果から,PolηはPCNAおよびモノユビキチン化PCNAと,三つのPIPとUBZを介して相互作用し,その機能が制御されていることが明らかとなった.

3. TLS以外のDNA損傷トレランス経路とPCNAのユビキチン化

DNA損傷トレランスにはTLSに加えて,相同組換え反応を伴う経路(homology-dependent repair:HDR)が知られており3, 5),HDRのモデルとして,テンプレートスイッチ(template switching:TS)と複製フォークの構造変換を伴うフォークリバーサルが提唱されている(図2).酵母細胞では,ポリユビキチン化PCNAがTSに重要であることが示されており3),ヒト細胞では,DNAトランスロカーゼ活性を持つZRANB3がポリユビキチン化PCNAと相互作用し,フォークリバーサルを促進することが示唆されている6).しかし,HDR経路による複製阻害解消機構の分子メカニズムにはまだ未解明な点が多く残されている.また近年,損傷部分のDNA合成を後回しにして,複製フォークを進行させるリプライミングの役割が注目されている.新たなプライマーゼとしてPRIMPOLが報告され,リーディング鎖のDNA合成が阻害された場合,PRIMPOLが損傷部位の下流に新たなプライマーを合成することで,損傷部位のDNA合成を回避し,複製を進行させることが示された7).その結果生じる新生鎖のギャップは,TLSやHDRにより修復されると考えられているが,そのメカニズムはまだ明らかになっていない.

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図2 PCNAのユビキチン化状態とDNA損傷トレランス経路

PCNAのユビキチン化および脱ユビキチン化反応に関与する酵素群と,それぞれのユビキチン化状態に応じて制御されるDNA損傷トレランス経路を示した.

ヒト細胞におけるDNA損傷トレランスの研究は紫外線損傷を中心に展開されていたが,紫外線損傷に対してはPolηによるTLSが主要なDNA損傷トレランス経路である.TLS以外の経路を解析するため,筆者らはイルジンSおよびその誘導体イロフルベンをDNA損傷剤として用いた研究を開始した.イルジンSはツキヨタケ由来の天然セスキテルペン化合物で,抗がん作用があり,イロフルベンはその細胞毒性を低減した誘導体である.両化合物はプリン塩基をアルキル化し,DNA付加体となる.このDNA付加体は細胞内で複製および転写を阻害する.イルジンSおよびイロフルベンで誘導される損傷は転写と共役したヌクレオチド除去修復によって修復されると考えられているが,その他の修復機構の関与は報告されていない.また,どのDNA損傷トレランス経路が複製阻害の解消に関与するかも不明であったが,ニワトリDT40細胞では,PCNAをユビキチン化するE3リガーゼRAD18の欠損によりイルジンS感受性が上昇することが報告されていた8)

筆者らは,ヒト細胞においてPCNAのユビキチン化がイルジンS損傷による複製阻害の解消に重要であることを明らかにした.これは,PCNAのユビキチン化に依存するDNA損傷トレランス経路の解析にイルジンSが有用であることを示している.解析の結果,TLSポリメラーゼの一つであるDNAポリメラーゼ・カッパ(Polκ)がイルジンS損傷の複製阻害解消に関与することを明らかにした.しかし,内在性PCNAをK164R変異体PCNAで置換し,PCNAユビキチン化を著しく減弱させた細胞は,Polκノックアウト細胞よりも高いイルジンS感受性を示した.この結果は,Polκ以外にもPCNAのユビキチン化に依存するDNA損傷トレランス経路が存在することを示唆している.

そこで,筆者らはDNA損傷応答因子群のsiRNAライブラリーを用いて,イロフルベン感受性を指標としたスクリーニングを実施した.その結果,ユビキチンE3リガーゼであるRFWD3の発現抑制により,イルジンSおよびイロフルベン感受性が亢進することを見いだした.さらに,RFWD3の発現抑制によりイルジンS処理後のS期進行の遅延やDNA合成の低下が観察され,RFWD3がヒト細胞のDNA損傷トレランスに関与する新規因子であると結論づけた.RFWD3はPCNAのユビキチン化に依存するが,Polκとは独立して複製阻害の解消に関与する.また,紫外線損傷に対してもPolηとは独立して複製阻害の解消に関与することを明らかにした.これらの結果から,RFWD3は損傷特異的TLSポリメラーゼによるTLSとは異なる経路を担う重要な因子であることが強く示唆された9)図3).

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図3 筆者らの報告したPCNAのユビキチン化を必要とするDNA損傷トレランス経路

ヒト細胞では,損傷の種類に応じたTLSポリメラーゼが機能するTLS経路(イルジンS損傷にはPolκ,紫外線損傷にはPolη),およびRFWD3が関与する経路がPCNAのユビキチン化依存的に働いている.

RFWD3は,遺伝性骨髄不全症候群であるファンコニ貧血(Fanconi anemia:FA)の責任遺伝子産物であることが報告されている10).FAの責任遺伝子は20以上同定されており,これらの責任遺伝子産物はDNA二本鎖間架橋(interstrand crosslink:ICL)の修復に関与する.RFWD3は,ICL修復の重要なステップである相同組換え反応を,複製因子である一本鎖DNA結合タンパク質RPAと相互作用し,RPAをユビキチン化することで促進し,ICL修復に貢献することが報告されている11).筆者らは,ICL修復に重要なFANCD2の欠損細胞を用いた解析により,RFWD3がFANCD2非依存的にDNA損傷トレランスに関与することを示した.さらに,DNA損傷トレランスにおいてRPAのユビキチン化は重要ではないことが示唆された.一方,RFWD3の変異体を用いた解析により,ユビキチンリガーゼ活性およびRPAとの相互作用がDNA損傷トレランスに重要であることが明らかとなった9).これらの結果は,RFWD3には,未同定のユビキチン化基質および新規の機能が存在する可能性を示唆している.

アフリカツメガエル卵抽出液を用いた研究では,RFWD3がTLSを促進することが示唆されており,一方でヒト細胞ではフォークリバーサルに関与する可能性も示されている.RFWD3のDNA損傷トレランスにおける機能は現在も議論の途上にあり,その解明はDNA損傷トレランス機構の理解に大きく貢献すると考えられる.

4. PCNAのユビキチン化状態によるDNA損傷トレランスの経路選択

PCNAはホモ三量体であり,一つのPCNAリング上にユビキチン化されるK164残基が3か所存在する.PCNAは,E2–E3複合体であるRAD6-RAD18によってモノユビキチン化され,モノユビキチン化PCNAはTLSを促進する.筆者らは,RAD6–RAD18によるPCNAのモノユビキチン化は,K164が0か所よりも1か所,1か所よりも2か所モノユビキチン化されたPCNAを基質とした場合の方がより効率的であることを示した12).さらに,PCNA三量体のすべてのK164残基がモノユビキチン化された状態(マルチモノユビキチン化)では,紫外線損傷に対してPolηによるTLSに加えて,別の未同定の経路が促進されることも報告している12)図2).

PCNAは,Ubc13–Mms2–Rad5複合体によってポリユビキチン化されることが知られている.ヒトでは,Rad5のホモログとしてHLTFおよびSHPRHの二つが同定されている.筆者らのグループは,HLTFをE3リガーゼとして用いた生化学的解析により,PCNAのポリユビキチン化には少なくとも二つの経路が存在することを明らかにした.一つは未修飾のPCNAがポリユビキチン化される経路であり,もう一つはマルチモノユビキチン化PCNAがポリユビキチン化される経路である13, 14)図2).PCNAの脱ユビキチン化酵素としてはUSP1が知られていたが,著者らのグループは新たにUSP7がPCNAの脱ユビキチン化に関与することを明らかにした15).USP1は主にS期においてPCNAの脱ユビキチン化に関与する一方,USP7は細胞周期に依存せずPCNAの脱ユビキチン化に関与することを明らかにした.さらに最近の報告では,USP1によるポリユビキチン化PCNAからモノユビキチン化PCNAへの変換経路の存在が示唆されている(図2).

筆者らは,RFWD3が寄与するDNA損傷トレランス経路にはPCNAのユビキチン化が重要であることを報告したが,どのユビキチン化状態(モノ/ポリ/マルチモノ)が関与しているかは未解明である(図3).細胞内において多様なPCNAのユビキチン化状態がどのようなDNA損傷トレランス経路を制御しているのか,またユビキチン化状態がどのように決定され,DNA損傷トレランス経路が選択されているかについては今後の研究課題である.

5. おわりに

DNA損傷トレランスは,ゲノム安定性の維持にきわめて重要な機構であり,その分子機構の解明は,細胞のがん化や老化のメカニズムの理解に不可欠である.近年,TLS以外のDNA損傷トレランス経路についても徐々にその実態が明らかになりつつあり,今後さらなる進展が期待される.また,DNA損傷トレランスは,がん化した細胞の増殖にも関与することから,抗がん剤の標的としても注目されている.今後,DNA損傷トレランスの分子機構の理解がさらに深まることで,新たな抗がん剤の開発への展望が開かれると期待される.

謝辞Acknowledgments

名古屋大学環境医学研究所ゲノム動態制御分野の益谷央豪教授に原稿の執筆にあたり,アドバイスをいただきました.この場をお借りして御礼申し上げます.

引用文献References

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2) Masutani, C., Araki, M., Yamada, A., Kusumoto, R., Nogimori, T., Maekawa, T., Iwai, S., & Hanaoka, F. (1999) Xeroderma pigmentosum variant (XP-V) correcting protein from HeLa cells has a thymine dimer bypass DNA polymerase activity. EMBO J., 18, 3491–3501.

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著者紹介Author Profile

金尾 梨絵(かなお りえ)

名古屋大学環境医学研究所 助教.博士(薬学).

略歴

大阪大学薬学部卒業.同大学院薬学研究科博士後期課程修了.大阪大学大学院生命機能研究科特任研究員,名古屋大学環境医学研究所研究員を経て2010年より現職.

研究テーマと抱負

ヒト細胞のゲノム安定性を維持するメカニズムを解明し,がんや老化などのゲノム不安定性疾患の予防や治療につなげていきたい.

ウェブサイト

https://www.riem.nagoya-u.ac.jp/4/genome/home.html

趣味

観劇,読書.

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