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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 98(1): 107-110 (2026)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2026.980107

みにれびゅうMini Review

造血幹細胞の発生研究を支える前駆細胞培養技術の進展Advances in progenitor cell culture systems supporting studies on hematopoietic stem cell development

熊本大学発生医学研究所組織幹細胞分野Department of Cell Differentiation, Institute of Molecular Embryology and Genetics, Kumamoto University ◇ 〒860–0811 熊本県熊本市中央区本荘2–2–1 ◇ 2–2–1 Honjo, Chuo-ku, Kumamoto 860–0811, Japan

発行日:2026年2月25日Published: February 25, 2026
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1. はじめに

造血幹細胞は骨髄に存在する組織幹細胞であり,多様な血液細胞を生涯にわたり供給する.その発生は胎児期にまでさかのぼり,時空間的にダイナミックに変化することが知られている1).起源は中胚葉にあり,そこからまず血管内皮細胞へと分化する.血管内皮細胞は血管の最内層を構成し,胎生中期にはその一部が内皮–造血転換を経て血球様細胞になる.この血球様細胞の一部が肝臓にて造血幹細胞へと分化し,さらに骨髄へと移行して造血を担うようになる.これまで,造血幹細胞の発生過程をより精緻に解明するために多くの研究が行われ,その機序が徐々に明らかになってきた.中でも大きな転換期となったのは,単離した前駆細胞集団を試験管内で造血幹細胞へと分化できるか検証する培養技術の開発である.本稿では,培養技術の進展とそれによって明らかになった造血幹細胞の発生機序,さらに筆者らの最新の知見について概説する.

2. 造血幹細胞の発生機序

造血幹細胞は胎生期に発生する.中胚葉から分化した血管内皮細胞の多くは血管形成へと向かうが,マウスでは胎生9~11日目にかけて,一部の血管内皮細胞が内皮–造血転換を起こし,血管内腔に血球クラスターを形成する2, 3).このような転換を起こす血管内皮細胞は,造血性内皮細胞と呼ばれる.造血性内皮細胞から生じる血球クラスターには,造血幹細胞へと分化できるプレ造血幹細胞と,造血幹細胞への分化能を持たない造血前駆細胞が含まれる.血球クラスター内の多くの細胞は造血前駆細胞であることがわかっている4)図1).造血前駆細胞は肝臓へと運ばれ,造血幹細胞を介さずに造血を行う.胎生中期から出生直前までの胎児期の造血はこれら造血前駆細胞によって担われ,胎児の成長を支えている.一方で,胎生12日目にはプレ造血幹細胞も血流に乗って肝臓へ移行し,造血幹細胞へと分化する5).胎生16日ごろには造血幹細胞が骨髄へと移動して,骨髄造血を開始する.

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図1 造血幹細胞の発生

胎生期において,血管内皮細胞の一部は一過性に造血性内皮細胞へと分化する.造血性内皮細胞は内皮–造血転換を経て血管内腔に血球クラスターを形成する.血球クラスターには,プレ造血幹細胞および造血前駆細胞が含まれる.

3. 造血幹細胞の前駆細胞の同定

造血幹細胞の起源である血管内皮細胞は,大動脈–生殖隆起–中腎(aorta–gonad–mesonephros:AGM)領域に存在する.AGM領域の組織培養により,造血幹細胞の発生を促進するさまざまなシグナル因子が報告されてきた.しかし,血管内皮細胞や血球クラスター内のどの細胞が造血幹細胞への分化能を持つのか詳細に解明することは困難であった.この問題を克服するために,AGM領域を一度解離して再凝集させる再凝集培養法が開発された.その培養環境にFACSを用いて単離した細胞集団を混入させることで,混入させた細胞集団が造血幹細胞への分化能を持つのか評価できるようになった.その結果,血管内皮マーカーVE-cadherinと血球マーカーCD45を共発現する細胞の中に,造血幹細胞の前駆細胞が存在することが明らかとなり,胎生11日目のVE-cadherinCD45細胞はプレ造血幹細胞と定義された6).その後,この培養技術は改良され,AGM再凝集環境をストローマ細胞株OP9に置き換えることができた.この改良法により,プレ造血幹細胞の前段階にあたるVE-cadherinCD45細胞が同定された.これらの前駆細胞は内皮的特徴を示さず,血球マーカーCD41を発現する血球様細胞であった.このことから,より未熟なVE-cadherinCD41CD45細胞はプレ造血幹細胞-I,発生が進んだVE-cadherinCD41CD45細胞はプレ造血幹細胞-IIと再定義された7).さらに,血清存在下ではあるが,シグナル因子の一つであるステムセルファクター(stem cell factor:SCF)が造血幹細胞の発生に重要であることも明らかになった8)

4. 培養環境として必要なフィーダー細胞の役割

造血幹細胞は血管内皮細胞に由来し,その中でも造血性内皮細胞が内皮–造血転換を経てプレ造血幹細胞へと分化する.これまでのストローマ細胞を用いた培養技術により,内皮–造血転換後のプレ造血幹細胞から造血幹細胞を誘導することは可能となったが,転換前の造血性内皮細胞から試験管内で造血幹細胞を誘導することは困難であった.そこで,造血性内皮細胞の分化には周囲の血管微小環境からのシグナルが必要なのではないかという仮説に基づき,AGM領域由来の血管内皮細胞にAKT serine/threonine kinase (AKT)を恒常的に発現させることで長期培養を可能にしたAGM AKT-EC (endothelial cell)をフィーダーとして用いた検討が行われた.その結果,CD41を発現していない胎生9日目および10日目のVE-cadherinCD41CD45細胞から,無血清条件下で造血幹細胞を誘導することができた9).VE-cadherinCD41CD45細胞は造血性内皮細胞を含む内皮細胞集団であり,AGM AKT-ECに発現しているNotchリガンドがこの分化誘導に重要であることも示された.さらに,AGM AKT-ECの影響を検討した結果,造血幹細胞の誘導にはNotchシグナルに加えて,CXCL12など複数のシグナルが関与することが示唆された10)

5. 発生過程を模倣した培養技術

1)発生に必要なシグナル因子の同定

これまでに,血清存在下でストローマ細胞と共培養することで造血幹細胞の前駆細胞が同定され,SCFが必要であることが示された.また,無血清条件下でのAGM AKT-ECとの共培養によって,フィーダー細胞としての内皮細胞の役割が明らかになり,NotchシグナルやCXCL12シグナルが重要であることも報告された.しかし,これらの培養技術には複数のシグナル因子が同時に添加されており,造血幹細胞の発生過程において本質的に必要なシグナル因子は特定されていなかった.そこで筆者らは,プレ造血幹細胞に発現するシグナル受容体を網羅的に探索した結果,SCFの受容体KITとトロンボポエチン(thrombopoietin:TPO)の受容体MPLを同定した.胎生11日目のマウス胎仔からプレ造血幹細胞-I(VE-cadherinCD41CD45)を単離し,無血清条件下でSCFおよびTPOを添加したところ,両者を同時に添加した場合にのみ造血幹細胞への分化が誘導された11).一方,胎生10日目のマウス胎仔由来のプレ造血幹細胞-Iは,SCFとTPOのみでは造血幹細胞へと分化しなかった.このことから,胎生10日目と11日目のプレ造血幹細胞-Iは発生段階の異なる細胞集団であることが示唆された.以前の報告により,造血幹細胞の発生には血管微小環境が必要であることが示されていたため,筆者らは2種類の内皮細胞株をフィーダーとして用いた検討を行った.その結果,いずれの内皮細胞株を用いた場合でも,胎生10日目のプレ造血幹細胞-Iは造血幹細胞へと分化可能であった.さらに,胎生10日目の造血性内皮細胞を含むVE-cadherinCD41CD45細胞からも造血幹細胞を誘導できた.したがって,胎生10日目のプレ造血幹細胞-Iおよび造血性内皮細胞が造血幹細胞へと分化するためには,SCFとTPOに加えて,内皮細胞をフィーダーとして用いる必要があることが明らかとなった11)

一方,胎生9日目の造血性内皮細胞(VE-cadherinCD41CD45)は,SCF,TPO,内皮細胞を組み合わせた培養条件でも造血幹細胞には分化しなかった.受容体発現解析の結果,これらの細胞ではbone morphogenetic protein 4(BMP4)の受容体であるBMP receptor type 1A (BMPR1A)およびBMP receptor type 2 (BMPR2)の発現が高いことがわかった.そこで,培養中にBMP4を添加したところ,胎生9日目の造血性内皮細胞から造血幹細胞を誘導することに成功した12).興味深いことに,BMP4は培養後半で除去する必要があった.これは,胎生10~11日目のAGM領域でBMP阻害分子が血管周囲細胞から供給されており,BMPシグナルの抑制が造血幹細胞の発生を促進するという既報と一致していた13).実際,筆者らの培養技術においても,胎生10日目の前駆細胞から造血幹細胞を誘導する際にはBMP4が不要であり,BMP4シグナルは胎生9日目に必要であることが示唆された.

2)シグナル因子に対する受容体の発現

造血幹細胞の発生過程において,BMP4, SCF, TPOが重要であることが明らかになり,これらの受容体遺伝子が前駆細胞で発現していることも示した.しかし,実際にこれらの受容体が細胞膜上でタンパク質として発現しているかどうかは不明であった.そこで,FACS解析により膜表面での受容体発現を調べたところ,胎生9日目の造血性内皮細胞ではBMPR1Aの発現が確認された12).胎生10日目の造血性内皮細胞では,KITの発現が徐々に認められ,胎生10日目以降のプレ造血幹細胞-Iでは高レベルで維持されていた.一方,MPLの発現は造血性内皮細胞では検出されず,胎生10日目のプレ造血幹細胞-Iでわずかに発現が始まったものの,その発現量は低かった.胎生11日目のプレ造血幹細胞-Iでは,MPLの発現量が上昇した.さらに,胎生11日目のプレ造血幹細胞-Iを無血清条件下でSCFおよびTPOを添加して培養したところ,生成されたプレ造血幹細胞-II(VE-cadherinCD41CD45)はすべてKITとMPLを共発現していた11).これらの結果から,BMP4, SCF, TPOのシグナルを必要とするタイミングに応じて,造血幹細胞の前駆細胞はそれぞれの受容体を発現していることが明らかとなった.すなわち,発生段階ごとにシグナル受容体の発現が精緻に制御され,シグナルを的確に受容できる状態が形成されていることが示された(図2).

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図2 造血性内皮細胞から造血幹細胞への分化

胎生9日目の造血性内皮細胞は,BMP4および内皮細胞由来因子によって活性化される.胎生10日目にはKITの発現が認められ,プレ造血幹細胞へと分化しながらSCFシグナルが活性化する.胎生11日目にはMPLの発現が開始され,胎生12日目には肝臓へと移行してTPOシグナルが活性化し,造血幹細胞へと分化する.VE-cadherin(VEcad),CD41,CD45は前駆細胞の分類に用いられるマーカー分子である(薄く表示).

3)発生環境におけるシグナル因子の供給源

マウス胎仔において,胎生9日目から12日目にかけてBMP4,SCF,TPOがどのように存在しているのかを明らかにするため,筆者らは各発生段階での発現解析を行った.胎生9日目のマウス胎仔を用いたシングルセルRNAシーケンス(scRNA-seq)解析の結果,AGM領域では血管内皮細胞の周囲に位置する間葉系細胞がBMP4を強く発現していることが示された12).このことから,BMP4シグナルは,内皮周囲の間葉系細胞に由来することが明らかとなった.胎生10~11日目のマウス胎仔を用いたscRNA-seq解析では,SCFが複数の組織で発現しており,血管内皮細胞および肝臓を構成する肝細胞の前駆細胞(肝芽細胞)でもその発現が強く認められた11).また,AGM領域の免疫染色でも,内皮細胞およびその周辺細胞においてSCFの発現が高いことが報告されている14).これらの結果から,SCFはAGM領域および肝臓の両方で供給されており,造血幹細胞の発生後期に持続的に関与していると考えられる.一方,TPOの発現は非常に限局的であり,肝芽細胞のみで強く発現していることが明らかとなった11).したがって,造血幹細胞がTPOシグナルを受容するためには,AGM領域から肝臓へと移行する必要があると考えられる.これまで,胎生11日目のAGM領域でわずかに造血幹細胞が観察される一方,ほとんどの造血幹細胞は胎生12日目以降の肝臓で検出されることが知られていた.筆者らの解析結果はこれを裏づけており,造血幹細胞の最終的な発生には肝臓への移行が重要であることを明らかにした.

6. おわりに

胎生9日目以降の造血幹細胞の前駆細胞が同定され,それらが造血幹細胞へと分化するために必要なシグナル因子や環境因子が徐々に明らかになってきた.これらの成果により,造血幹細胞発生の理解は大きく前進しているが,現在の培養条件はまだ改良の余地があると考えられる.無血清培養が主流となってきたため,今後さらに造血幹細胞発生の分子機序が詳細に解明されることが期待される.一方で,胎生8日目の前駆細胞はいまだ同定されていない.したがって,造血幹細胞発生の全容を理解するためには,この初期段階の解析が今後の重要な課題となる.

引用文献References

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著者紹介Author Profile

古賀 沙緒里(こが さおり)

熊本大学発生医学研究所組織幹細胞分野 助教.博士(薬学).

略歴

2004年熊本大学薬学部薬科学科を卒業し,09年同大学院薬学教育部博士課程修了.九州大学大学院医学研究院にて博士研究員,助教を経て,17年より現職.

研究テーマと抱負

造血幹細胞の発生機構を中心に,胎児期における造血発生の全容解明に取り組んでいる.将来的には,その知見を応用し,造血発生過程を再現するin vitro培養技術の構築を目指している.

ウェブサイト

https://www.imeg.kumamoto-u.ac.jp/bunya_top/cell_differentiation/

趣味

子どもたちのスポーツの応援,プチ旅行.

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