植物細胞壁は,セルロース,ヘミセルロース,ペクチンなど,さまざまな多糖類からなる複雑なネットワーク構造を形成している.主成分であるセルロースは,β-1,4-グルカン鎖が束ねられてミクロフィブリルを構成し,その表面にはヘミセルロースが相互作用している.ヘミセルロースは,主鎖にβ-1,4結合を持つ非セルロース性の多糖類の総称で,その主鎖構造によってキシラン,グルコマンナン,キシログルカン,β-グルカンに分類される.これらの主鎖は,単糖やオリゴ糖による側鎖修飾やアセチル化などの化学修飾を受けるため,糖鎖構造は非常に多様である.いずれの植物種においても細胞壁には複数種のヘミセルロースが含まれており,その種類や割合,さらに各ヘミセルロースの糖鎖構造は,植物種や器官・組織によって大きく異なる.ヘミセルロースはセルロースと相互作用することで細胞壁の高次構造形成に寄与すると考えられているが,その生化学的な役割は十分に解明されていない.また,ヘミセルロースの多様な糖鎖構造がセルロースとの相互作用に及ぼす影響についても,未解明な点が多い.本稿では,近年明らかになってきたキシランおよびグルコマンナンの糖鎖構造と,セルロースとの相互作用の関係性について最新の知見を概説する.
2. キシランの糖鎖構造がセルロースとの相互作用に与える影響
キシランは,地球上で最も豊富に存在するヘミセルロースの一つであり,特に広葉樹などの二次細胞壁に多く含まれている.広葉樹を含む双子葉植物の二次細胞壁キシランは,キシロース(Xyl)がβ-1,4結合した主鎖に,グルクロン酸(GlcA)または4-O-メチルグルクロン酸がXylのC2位に,さらにアセチル基がC2位またはC3位に修飾された構造を有する.近年,キシラン上の修飾の種類に加えて,その修飾頻度や分布パターンに着目した研究が進展している.たとえば,モデル植物シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)の二次細胞壁キシランでは,GlcA修飾が主鎖のXyl残基に対して6, 8, 10残基間隔(偶数パターン)あるいは5, 6, 7残基間隔(奇数パターン)で付加されており,偶数パターンが優勢であることが示されている.さらに,シロイヌナズナのキシラングルクロノシル転移酵素であるAtGUX1およびAtGUX2が,それぞれ偶数パターンおよび奇数パターンを形成することが明らかにされた1).一方,アセチル基修飾の分布パターンについては,シロイヌナズナのgux1 gux2二重変異体からDMSOで抽出したアセチル化キシランの解析により,アセチル基が1残基ごとに付加していることが示された2).これらの知見から,二次細胞壁キシランには偶数残基間隔を基本とする規則的な修飾パターンが存在することが示唆された.
キシランの修飾分布に加えて,キシラン分子の立体構造もセルロースとの相互作用メカニズムを理解する上で重要である.水溶液中におけるキシランは,Xyl残基がグリコシド結合を介して120°回転する3回らせん構造をとる(図1)3).一方,分子動力学(MD)シミュレーションでは,キシランがセルロースミクロフィブリル表面に吸着すると,3回らせん構造から2回らせん構造(Xyl残基間が180°回転)へと変化することが示唆されている(図1)2).これらのシミュレーション結果から,キシラン分子が2回らせん構造を形成する場合,GlcAおよびアセチル基修飾はキシラン主鎖の片側に偏在し,キシラン分子が立体障害を受けずにセルロース表面と安定に相互作用できる可能性が示唆された(図1).
上述のようなキシランの立体構造の変化は,細胞壁中でも生じていることが,二次元固体核磁気共鳴(固体NMR)解析によって裏づけられている.固体NMRでは,分子の立体構造が化学シフトに反映されるため,キシランの2種類の立体構造を異なるピークとして識別できる.また,測定手法を工夫することで,分子の運動性の違いを区別して観測することも可能であり,単体では運動性の高いヘミセルロースがセルロースと相互作用することで運動性が低下する現象を検出できる.実際に,固体NMR解析により,シロイヌナズナの二次細胞壁中にキシランの2回らせん構造が存在すること,さらにこの構造がセルロースとの相互作用に依存的であることが明らかにされた4, 5).さらに,アセチル基転移酵素ESKIMO1の欠損によりGlcA修飾の偶数パターンが乱されると,2回らせん構造に対応するキシランのピークが顕著に減少し,代わりに3回らせん構造のピークが増加することが示された6).これらの研究は,キシランの修飾分布パターン,立体構造の変化,およびセルロースとの相互作用の三者が密接に関連していることを示し,ヘミセルロース修飾の分布パターンの生化学的意義が新たに提唱された.
3. マンナン多糖類の糖鎖構造とセルロース相互作用の関係
マンナン(本稿では真菌類が持つα-マンナンは扱わない)は,植物界に広く分布する代表的なヘミセルロースである.自然界に存在するマンナンの糖鎖構造は多様であり,その構造的特徴により細かく分類される(図2).ホモマンナンは,β-1,4結合のマンノース(Man)のみからなる単純構造を持ち,グルコマンナンは主鎖のManの一部がβ-1,4結合のグルコース(Glc)に置き換わった構造を持つ.これらのマンナン主鎖のMan残基は,α-1,6結合のガラクトース(Gal)残基による修飾を受ける場合があり,それぞれガラクトマンナンやガラクトグルコマンナンと呼ばれる.また,多くのマンナンではMan残基のC2位やC3位はアセチル化されている.キシランとは異なり,これらのマンナン多糖類においては主鎖の配列や修飾に特定のパターン構造は確認されていない.一方で,筆者らは近年,主鎖がManとGlcの繰り返し配列で構成され,側鎖にα-Galやβ-Gal-(1→2)-α-Galの二糖を有するβ-ガラクトグルコマンナン(β-GGM)という新規構造が,双子葉植物の一次細胞壁に広く分布することを発見した(図2)7).これらの多様なマンナン多糖類は,in vitroの吸着実験や固体NMRによって,セルロースと相互作用することが示唆されている7–10).また,分子動力学(MD)シミュレーションによって,マンナン多糖類の糖鎖構造が主鎖の立体構造に影響を与えることが示されている11, 12).したがって,マンナン多糖類の糖鎖構造がセルロースとの相互作用に影響を与えると考えられる.しかしながら,マンナンにみられる多様なGal修飾がセルロースとの相互作用にどのように影響を及ぼすかについては,体系的な研究はこれまで行われていなかった.筆者らは,植物細胞壁中のグルコマンナンのGal修飾頻度や分布パターンを改変することにより,Gal修飾とグルコマンナン-セルロース間相互作用の関係の解明を試みた13).
1)マンナンα-ガラクトシル転移酵素の基質特異性とグルコマンナン糖鎖構造改変
グルコマンナンのGal側鎖構造の合成は,マンナンα-ガラクトシル転移酵素(MAGT)によって触媒される.自然界におけるマンナンのGal修飾頻度には植物種間で違いがみられることから,筆者らは植物種によってMAGTの基質特異性や活性に差があると考えた.これまでに,MAGT活性はマメ科のグアー豆(Cyamopsis tetragonoloba)およびシロイヌナズナで検出されていたが14, 15),MAGTのグルコマンナン主鎖の認識機構に関しては未解明であった.そこで筆者らは,異なるグルコマンナン糖鎖構造を有する植物種由来のMAGTを対象に活性評価を行った13).
In vitroでのMAGT活性評価には,テーダマツ(PtMAGT),グアー豆(CtMAGT),シロイヌナズナ由来(AtMAGT1およびAtMAGT2)の4種類を用い,さまざまなマンナン主鎖構造に対する活性を比較した.興味深いことに,CtMAGTを除く3種はホモマンナンに対して活性を示さず,グルコマンナンに特異的に活性を示した(図3).また,Gal転移産物の詳細な構造解析により,PtMAGTはほかの3種のMAGTとは異なるパターンでGalをグルコマンナンに転移することが明らかになった.さらに,Man-Glc繰り返しグルコマンナンに対しては,AtMAGT1, AtMAGT2, CtMAGTの3種類が活性を示し,その中でもAtMAGT2はすべてのMan残基にGalを転移した(図3).これらのin vitroでの基質特異性の違いは,由来植物が持つマンナンの構造的特徴をよく反映しているだけでなく,植物種間で異なるグルコマンナンのGal側鎖の頻度やパターンはMAGTの基質特異性を反映していることが示された.すなわち,MAGTの基質特異性が自然界におけるマンナン多糖類の構造的多様性を生み出す一因であることが示された.
次に,上述の知見が植物細胞壁中でのグルコマンナンの構造改変に応用できるかを検証するため,MAGT遺伝子を野生型シロイヌナズナの二次細胞壁で異所的に発現させた.得られたMAGT発現シロイヌナズナのグルコマンナン構造を解析した結果,野生型グルコマンナンでは検出されないGal修飾パターンが確認された.さらに,その修飾パターンはMAGTごとの基質特異性を反映しており,AtMAGT1およびPtMAGTの発現体ではGal修飾頻度の低い(低Gal)グルコマンナンが,AtMAGT2およびCtMAGTの発現体ではGal修飾頻度の高い(高Gal)グルコマンナンが形成されることが明らかになった(図3)13).
2)改変グルコマンナンとセルロースの相互作用の解析
植物細胞壁中のグルコマンナンにおけるGal修飾頻度の改変する系を用いて,Gal修飾の程度が異なるグルコマンナンがセルロースとの相互作用性にどのような違いを示すか調べた.細胞壁試料を熱水処理し,グルコマンナンの抽出性を比較すると,野生型シロイヌナズナのグルコマンナンおよび低Gal修飾型グルコマンナン(Gal/Man=<0.1)は熱水ではほとんど抽出されなかったのに対し,高Gal修飾型グルコマンナン(Gal/Man=0.13~0.15)では抽出性が顕著に高まることがわかった13).この傾向は,抽出したグルコマンナンと市販のセルロースを用いたin vitroでの吸着実験でも再現され,高Gal修飾型のグルコマンナンはセルロース1 mgあたりの最大吸着量(Bmax)が20~50%減少した.興味深いことに,低Gal修飾グルコマンナンは,Gal修飾をほとんど持たない野生型のグルコマンナンよりもBmaxが30~70%増加した.これらの結果から,グルコマンナンのGal修飾は,低頻度ではセルロース相互作用を強める一方,高頻度では相互作用を阻害するという二面的な機能を持つことが明らかになった.
細胞壁中でのグルコマンナンとセルロースの相互作用を解析するために,野生型シロイヌナズナと高Gal修飾グルコマンナンを持つAtMAGT2発現シロイヌナズナを固体NMRで比較解析した.その結果,野生型のグルコマンナンは運動性の低い分子として検出されたのに対し,AtMAGT2により高Gal修飾を受けたグルコマンナンは運動性の高い分子として観測された.このことから,Gal修飾の増加によりグルコマンナンとセルロースの相互作用が弱まっていることが支持された.このようなグルコマンナンの運動性の変化は,乾燥・再水和処理したマツ(Pinus radiata)木材でも観察されている10).
なぜGal側鎖の頻度によってセルロースとの相互作用の度合いが変化するのだろうか.他研究グループによるMDシミュレーションでは,Gal側鎖の付加が主鎖の立体構造を3回らせんから2回らせん構造へ変化させることが示唆されている11).セルロースミクロフィブリルを構成するβ-1,4-グルカンも2回らせん構造を有しており,ヘミセルロースの主鎖が2回らせん構造を形成するとセルロースミクロフィブリル表面との親和性が高まると考えられる.低頻度のGal修飾はグルコマンナンでは,Gal側鎖の主鎖に対する2回らせん構造の安定化の影響が大きく,セルロースとの相互作用を促進すると考えられる.一方,高頻度のGal修飾グルコマンナンでは,主鎖の連続したMan残基へのGal修飾なども検出された.この場合,主鎖が2回らせん構造を有してもGal残基が主鎖の両側に配位するため,グルコマンナンのセルロースとの相互作用を阻害すると考えられる.
総じて,グルコマンナンのGal側鎖の頻度や分布パターンはセルロース相互作用に大きく影響し,Gal修飾の頻度に応じてセルロースとの親和性が変化することが明らかになった.この知見は,自然界にみられるマンナンの構造多様性が,植物の生育環境に適応した細胞壁構築のために最適化されたことを示しているのかもしれない.