植物のフェレドキシン(Fd)は,葉緑体および非光合成色素体のストロマに局在する低分子量の可溶性電子キャリアタンパク質である.酸化還元中心は鉄硫黄クラスター[2Fe–2S]であり,高度に保存された四つのシステイン残基に配位する.FdはさまざまなFd依存酵素を介して,カルビン・ベンソン回路における炭素固定をはじめ,窒素・硫黄同化や脂肪酸・クロロフィル・発色団・イソプレノイド前駆体の合成,さらにはチオレドキシン系を介したレドックス制御など,多様な経路に電子を供給する1).Fd依存酵素の中でも代表的なものが,フェレドキシン:NADP(H)酸化還元酵素(FNR)である.FNRはフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)を補因子とするフラボタンパク質であり,FADの酸化型(キノン)・半還元型(セミキノン)・還元型(ヒドロキノン)の変換を介して,一電子キャリアであるFdと二電子キャリアであるNADP(H)の間の電子移動を可逆的に触媒する2).光照射下の光合成組織では,FNRは光化学系I(PSI)により還元されたFdからNADP+への電子移動を触媒する(図1A).この反応により生成したNADPHがカルビン・ベンソン回路を駆動することは,光合成の基本原理である.一方,暗条件の光合成組織や非光合成組織では,FNRは酸化的ペントースリン酸経路から供給されるNADPHからFdへの電子移動を触媒し,Fd依存経路を駆動すると考えられている3)(図1B).このように,FdとFNRはレドックス代謝のハブとして植物の独立栄養性を支えている.
植物のFdとFNRには,それぞれ葉型(LFd, LFNR)と根型(RFd, RFNR)と呼ばれる,物理化学性質,立体構造,タンパク質間相互作用,組織特異的発現パターンなどが異なるアイソフォームが存在する1, 3).このような特性の違いにより,葉型アイソフォームは光照射下の光合成組織におけるNADPHの産生に,根型アイソフォームは暗条件下の光合成組織または非光合成組織における還元型Fdの産生に,それぞれ特異的に機能すると考えられている(図1).しかし,葉型に比べて根型アイソフォームの生理機能に関する知見は限定的であり,多くはin vitroのデータに基づく推論にとどまる.本稿では,FdとFNRの両アイソフォーム間の特性の違いを概説したのち,LFdとLFNR,さらに解明途上にあるRFNRの生理機能について,著者らの研究成果を中心に議論する.
2. Fd–FNR電子伝達における葉型と根型のアイソフォーム特性の違い
遺伝子組換え技術とタンパク質精製技法の進歩により,精製度の高いFdとFNRが簡便に取得できるようになると,これらを用いた反応速度論的解析が精力的に進められた.Ondaら4)は,トウモロコシのFdとFNRの各アイソフォームの組換えタンパク質を用いて,さまざまなFd濃度のもとでFNRを介したNADPHからFdへの電子伝達活性を測定した.その結果,RFNRの代謝回転数(kcat)はLFdとRFdで同程度であるのに対して,ミカエリス定数(Km)はLFdと比べてRFdで1/10程度と低く,RFNRがRFdに高い親和性を示すことが示唆された.一方,LFNRはLFdとRFdに対して同程度のKmとkcatを示し,アイソフォームを区別しなかった.また,LFdとRFdのいずれに対しても,RFNRのkcatはLFNRよりも高かった.結果として,Fd–FNR複合体の触媒効率(kcat/Km)は,RFd–RFNRで最も高く,次にLFd–LFNRとRFd–LFNR,最後にLFd–RFNRの順であった.シロイヌナズナでも同様の傾向が報告されている5).これらの所見はNADPHを電子供与体としたFdの還元において,RFd–RFNRが主要な役割を果たすことを示唆する.一方,Hankeら5)は,シロイヌナズナの組換えタンパク質を用いて,さまざまなFd濃度のもとで,光照射下におけるFdとLFNRを介したPSIからNADP+への電子伝達活性を測定した.その結果,最大反応速度(Vmax)はLFdとRFdで同程度であるのに対して,KmはRFdと比べてLFdで1/20以下と低く,光照射下の光合成組織におけるNADPHの供給にLFd–LFNRが寄与することが示唆された.
3. Fd–FNR電子伝達におけるアイソフォーム特性の違いが生じる要因
タンパク質間の電子移動の効率や方向は,タンパク質間相互作用やタンパク質の酸化還元電位に依存する.したがって,前節で紹介した,異なるFd–FNR複合体どうしの反応速度論的パラメータの違いは,葉型と根型アイソフォームにおけるタンパク質間相互作用や酸化還元電位の違いに起因すると考えられる.実際に,トウモロコシのFd–FNR複合体の結晶構造解析により,分子間塩橋の数や複合体の相対配置角度,[2Fe–2S]とFAD間の電子移動経路,複合体形成に伴う塩橋構造の変化などが,LFd–LFNRとRFd–RFNRの間で異なることが解明されている6).また,これまでに,トウモロコシ,シロイヌナズナ,ペパーミントなどの複数の植物種でFdとFNRの酸化還元電位が決定されている7).酸化還元電位とは電子の授受のしやすさを示す物理量で,電位が低いほど電子を与えやすく,高いほど電子を受け取りやすい性質を有する.一般に,LFdの電位(−433~−401 mV)はLFNRの電位(−356~−338 mV)やNADP(H)の電位(−320 mV)よりも低く,光照射下の光合成組織におけるLFNRを介したLFdからNADP+への電子移動に適する7).一方,RFdの電位(−346~−321 mV)はRFNRの電位(−337~−324 mV)やNADP(H)の電位と同程度であり,RFNRを介したNADPHからRFdへの電子移動に適する.
タンパク質間相互作用におけるアイソフォーム特性の違いは,アイソフォーム特異的に保存されたアミノ酸残基に起因すると考えられる.これを検証するために,FdとFNRの多重アラインメントに基づいて該当アミノ酸残基が抽出された.さらに,部位特異的変異導入により葉型残基を根型に,根型残基を葉型に置換した変異タンパク質が作製され,これらを用いて解析が進められた.前節で述べたとおり,トウモロコシのRFNRはLFdよりもRFdに高い親和性を示すのに対して,LFNRは両Fdに同程度の高い親和性を示す.そこでShinoharaら6)は,Fdとの界面に位置するRFNRの特異的残基をLFNR型に置換することで,Fdの選択性の違いを引き起こす残基の同定を試みた.RFNRにP85N/A87K/N90K, D300F,あるいはA304Kの置換を導入したところ,いずれもLFdとRFdに対するKmを低下させたが,その傾向はLFdでより顕著であった.さらに,P85N/A87K/N90K/S154V/I157E/D300F/K310Dの七重置換RFNRは,両Fdに対して同程度のKmを与えた.したがって,これらのアミノ酸残基がFNRによるLFdとRFdの選択性の違いに関与すると考えられる.一方,FNRとの界面に位置するLFdの特異的残基をRFd型に変換したD34S/S43A/S46T/Q61G/T96Y/ΔG97/ΔA98では,RFNRに対してRFdと同程度のKmを示した.ゆえに,これらのアミノ酸残基がRFNRによるLFdとRFdの選別部位であることが示唆される.このように,タンパク質間相互作用におけるアイソフォーム特性が,アミノ酸残基スケールで明らかになっている.
これまで述べてきたように,精力的なin vitro解析により,FdとFNRの各アイソフォームの特性が解明されてきた.これらの知見は各アイソフォームの生理機能を推定する強力な手がかりとなるが,その実証にはin vivo解析が不可欠である.このため,モデル植物シロイヌナズナを中心に,LFdとLFNRの変異株や形質転換株を用いた表現型解析が進められた.その結果,LFd–LFNRが光合成の直線的電子伝達経路におけるPSIからNADP+への電子伝達を担うことが実証された8)(図1A).さらに近年,膜係留タンパク質であるTROLとTic62が光環境やストロマpHの変化に応じてLFNRの局在を制御し,直線的電子伝達経路と循環的電子伝達経路の間の電子分配を調節することも明らかになった9)(図1A).このことは,光合成組織におけるFd依存経路とNADPH依存経路が,環境に応じて動的に制御される可能性を示唆する.
一方,根型アイソフォームの逆遺伝学的解析については,これまでにRFNRに関する報告がわずか4件あるのみで,RFdに関しては報告例がない.以下,シロイヌナズナを用いた我々の研究を中心に,RFNRの生理機能研究の現状を解説する.シロイヌナズナのゲノムには,RFNRをコードする二つの遺伝子[AtRFNR1(AT4G05390),AtRFNR2(AT1G30510)]が存在する.両遺伝子のmRNAとタンパク質は根で強く発現し,いずれも色素体内の可溶性画分に局在する3, 10, 11).RFd[AtFd3(AT2G27510)]も主に根で発現するが,LFNR[AtLFNR1(AT5G66190),AtLFNR2(AT1G20020)]とLFd[AtFd1(AT1G10960),AtFd2(AT1G60950)]の発現は根でほとんど検出されない3, 10).このことから,AtRFNR1/2とAtFd3が根におけるFd依存経路に電子を供給すると考えられる.しかし,AtRFNR1とAtRFNR2の各単独破壊株は標準的な土耕および培地栽培において明確な表現型を示さない10, 11).この原因として,両遺伝子が冗長的に機能する可能性が考えられる.
そこで我々は,AtRFNR1/2の二重破壊株の取得を目指し,単独破壊株の交配によりF2世代を取得し,表現型を観察したところ,根の成長が著しく阻害された個体を見いだした12).遺伝子型解析から,この個体が二重破壊株であることが判明したものの,深刻な生育阻害のために栄養成長途上で枯死し,種子を取得することができなかった.我々は生育阻害が根に起因すると考え,無菌微小接木技術を用いて,穂木を二重破壊株,台木を野生株とする接木植物を作製した.予想どおり,この植物は健全に生育し,穂木の遺伝子型に由来する二重破壊株の種子を回収することができた.得られた二重破壊株からはAtRFNR1/2のmRNAおよびタンパク質のいずれも検出されず,世界初となるRFNRのヌル変異株の確立に成功した(図2A).我々の報告以前に,海外の研究グループが我々と同じ単独破壊株ペアを用いて二重破壊株の作製を試みたが,配偶体致死により取得不可能,との結論を発表していた11).そこで我々は,先述のF2世代の遺伝子型の分離比を統計解析したところ,メンデルの法則から予測される分離比と有意差はなく,配偶体致死の可能性は支持されなかった12).両グループで異なる結果が得られた原因は不明であるが,栽培環境の違いなどが影響した可能性がある.
次に,AtRFNR1とAtRFNR2の遺伝学的相互作用を解析するために,F2世代の遺伝子型と主根の伸長との相関を精査した.その結果,AtRFNR1と2がいずれもホモ接合で破壊されている場合にのみ顕著な伸長阻害が生じ,それ以外の株では野生株と同等の伸長を示した.さらに,両遺伝子が強い共発現性を示すことや,AtRFNR2の破壊株でAtRFNR1の遺伝子発現が相補的に誘導されることもわかった10).これらの所見は,AtRFNR1とAtRFNR2が冗長的に機能することを支持する.一方,野生株とAtRFNRヌル変異株を用いた相互接木実験の結果,地上部の遺伝子型に関係なく,ヌル変異株を台木とした場合にのみ主根の伸長が阻害された10).注目すべきことに,穂木をヌル変異株,台木を野生株とする接木植物は,野生株どうしの接木植物と同様の栄養成長を維持した.以上の結果から,AtRFNR1/2は主に根で機能することが強く示唆された.
最後に,AtRFNR1/2が関与する生物学的プロセスを探索するために,十分量の栄養塩を含む半濃度のムラシゲ・スクーグ培地で栽培した野生株と2系統のヌル変異株の根を用いて,RNAシーケンス解析を実施した12).その結果,野生株と比べてヌル変異株において,AtFd3および色素体局在型の酸化的ペントースリン酸経路のNADPH産生酵素遺伝子(AtG6PD2, AtG6PD3, PGD3),Fd依存酵素をコードする亜硝酸還元酵素遺伝子(AtNiR),亜硫酸還元酵素遺伝子(AtSiR),モノデヒドロアスコルビン酸還元酵素遺伝子(AtMDAR5),脂肪酸不飽和化酵素遺伝子(AtFAD5)などの発現が誘導された(図2B).さらに,発現変動遺伝子群のエンリッチメント解析の結果,イソプレノイド前駆体合成に寄与するFd依存経路であるMEP経路と関連する“Diterpenoid biosynthesis”や“Zeatin biosynthesis”などのKEGG termが濃縮された(図2C, D).以上の結果は,AtRFNR1/2がNADPHからAtFd3に電子を供給し,根における広範なFd依存経路に寄与することを示唆する(図2E).今後はメタボロームや代謝フラックスの解析により,AtRFNR1/2のFd依存経路への寄与を直接的に評価する必要がある.
標準的な栽培環境下ではAtRFNR1と2が冗長的に機能するのに対して,後述するように,ストレス環境下では単一のRFNR遺伝子が特異的な生理機能を担う例も報告されている.窒素同化経路では,亜硝酸還元酵素NiRとFd依存型グルタミン酸合成酵素Fd-GOGATの2種類のFd依存酵素が機能する.そこで我々は,硝酸イオン,亜硝酸イオン,アンモニウムイオンのいずれかを唯一の窒素源とする培地で,AtRFNR1と2の単独破壊株を栽培し,表現型を精査した10).その結果,亜硝酸イオンを含む培地でのみ,AtRFNR2破壊株の根の成長が強く抑制された.このときAtRFNR2破壊株の根では,毒性のある亜硝酸イオンが蓄積するとともに,AtFd3やAtNiR,酸化的ペントースリン酸経路の酵素遺伝子の発現が誘導された.さらに,AtRFNR2の発現自体も亜硝酸イオンにより誘導されることがわかった.以上の所見から,土壌中に亜硝酸イオンが存在する環境では,AtRFNR2がAtFd3の還元を介してAtNiRの反応を促進し,亜硝酸イオンの毒性を軽減すると考えられる.一方,硝酸イオンは主に地上部で同化され,アンモニウムイオンは主に根のNADH依存型グルタミン酸合成酵素を介して同化されることが知られている10, 13).したがって,これらの窒素源の根における同化過程では,還元型Fdの需要は相対的に低いと考えられる.また,近年の研究から,リンゴのMdRFNR1-1が乾燥ストレスによって発現誘導され,乾燥耐性を亢進することも報告されている14).この耐性亢進には,MdRFNR1-1によるNADPH消費を介したレドックス恒常性の維持が関与すると考えられている.RFNRの発現は亜硝酸イオンや乾燥ストレスだけでなく,オゾンや低温ストレスなどによっても誘導される10, 11, 14)ことから,今後は多様なストレス応答におけるRFNRの関与が解明されるだろう.
本稿では,FdとFNRの葉型と根型アイソフォームの特性および機能が,相互補完的に解明されつつある現状を概説した.各アイソフォームの特性は光合成組織と非光合成組織での役割に特化することで,異なる生理機能を実現している.一方,反応速度論解析と発現解析から,光合成組織ではLFd–LFNRに加え,RFd–LFNRとRFd–RFNRを含む3種類の複合体が機能する可能性が示唆されている3–5, 15)(図2E).これらの複合体ではFdとFNRの親和性のpH依存性およびNADPH濃度依存性が互いに異なるため15),光照射に伴うストロマのpHや還元状態の変動に応じて,複合体ペアの使い分けが生じる可能性がある.しかし,3種類の複合体が単一の葉緑体中に共存するかどうかは未解明であり,シングルオルガネラスケールでの解析が待たれる.また,光合成組織におけるRFd–LFNRとRFd–RFNRの生理機能を解明するためには,RFdまたはRFNRを「地上部特異的」に欠損させた接木植物の利用が有効であろう.