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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 98(1): 142-146 (2026)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2026.980142

みにれびゅうMini Review

T細胞によるセルフとネオセルフの識別能がもたらす免疫寛容の破綻Breaking immune tolerance: self and neoself discrimination by T cells in autoimmune disease

大阪大学微生物病研究所免疫化学分野Department of Immunochemistry, Research Institute for Microbial Diseases, The University of Osaka, 5th Floor, Integrated Life Science Building Department of Immunochemistry Resarch Institute for Microbial Diseases, The University of Osaka ◇ 〒565–0871 大阪府吹田市山田丘3–1 大阪大学微生物病研究所融合型生命科学総合研究棟5階 ◇ 3–1 Yamadaoka, Suita, Osaka 565–0871

発行日:2026年2月25日Published: February 25, 2026
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1. はじめに

これまで免疫学は「自己(セルフ)と非自己(ノンセルフ)の識別」が基本概念であったが,この考え方だけでは,自己免疫疾患において自己に対する免疫応答がなぜ引き起こされるかを十分に説明できない.主要組織適合遺伝子複合体(major histocompatibility complex:MHC)は自己(セルフ)と非自己(ノンセルフ)の認識に関与し,免疫応答において中心的な役割を担っている.近年のゲノムワイド関連解析(genome wide association study:GWAS)により,MHCクラスII遺伝子が自己抗体の産生を認めるほとんどの自己免疫疾患の疾患感受性に最も強く影響を与える宿主遺伝子であることが明らかになってきた1).一方で,MHCクラスIIの疾患リスクアリルを有していても多くの人は自己免疫疾患を発症しないことから,何らかの環境要因が重要な役割を果たしていると考えられる.すなわち,特定のMHCアリルにおいて,自己抗原の抗原提示異常を引き起こす要因が,自己免疫疾患の発症に関与している可能性が示唆される.

インバリアント鎖は,MHCクラスIIが適切な抗原ペプチドを提示できるように調整する補助タンパク質で,主に抗原提示細胞(樹状細胞,マクロファージ,B細胞など)で発現する.MHCクラスII分子の正常なペプチド抗原提示においては,インバリアント鎖が小胞体内で新たに合成されたMHCクラスII分子のペプチド結合部位に結合する.小胞体では,膜タンパク質や細胞外に分泌されるタンパク質のフォールディング(正しい立体構造への折りたたみ)が行われているが,インバリアント鎖は小胞体におけるミスフォールド(タンパク質の折りたたみ異常)した内因性のタンパク質などの自己抗原が誤ってMHCクラスII分子に結合するのを防いでいる2).また,インバリアント鎖にはリソソームへのターゲットシグナルがあり,MHCクラスII分子をリソソームへ輸送する.輸送されたMHCクラスII分子はリソソーム内でペプチドに分解された抗原と結合し細胞表面にペプチド抗原を提示する.このように,インバリアント鎖はMHCクラスII分子が適切にペプチド抗原を提示する上で,必要不可欠な分子である.一方,インバリアント鎖の発現量が低下すると,小胞体内のミスフォールドしたタンパク質や本来結合しない自己ペプチドがMHCクラスII分子と結合しリソソームでペプチドに分解されることなく細胞表面に提示される3, 4).このように提示された自己抗原は自己分子由来であるにもかかわらず,通常提示される自己ペプチド(セルフ)とは異なる抗原性を持つため,「ネオセルフ」と総称される.筆者らの研究により,ネオセルフは関節リウマチ,抗リン脂質抗体症候群,ANCA関連血管炎,バセドウ病や全身性エリテマトーデス(SLE)などのさまざまな自己免疫疾患で産生されている自己抗体の標的となっていることが判明した5–8)図1).しかし,自己抗体の産生に必要であるT細胞とネオセルフの関与は不明であり,ネオセルフがMHCクラスII分子に提示されることが免疫系にどのような影響を与えるかを明らかにする必要があった.

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図1 MHCクラスII分子によるネオセルフの提示

小胞体内で新たに生成されたMHCクラスII分子のペプチド結合部位にはインバリアント鎖が結合する.インバリアント鎖にはMHCクラスII分子をリソソーム内に輸送する機能があり,MHCクラスII分子はリソソーム内でペプチド抗原と結合し,T細胞にペプチド抗原を提示する.インバリアント鎖の発現量が低下すると,小胞体内のミスフォールドタンパク質がMHCクラスII分子のペプチド結合部位に結合し,リソソームを経ないためペプチドに分解されることなく,「ネオセルフ」として細胞表面に提示される.通常提示される自己抗原ペプチドとは異なる抗原性を持つネオセルフは,さまざまな自己免疫疾患で産生される自己抗体の標的となっている.(臨床とウイルス,Vol.53, No.4より転載.)

2. 後天的インバリアント鎖低下によるネオセルフ発現マウスの樹立

我々はまず,インバリアント鎖がMHCクラスII分子の抗原提示にどのような影響を与えるかを,マウスモデルを用いて検証した.インバリアント鎖は MHC クラス II 分子によるペプチド抗原提示に必須である.そこで,インバリアント鎖欠損マウスの脾臓細胞を用い,MHC クラス II 分子に対する抗体で免疫沈降を行い,MHC クラス II に結合したペプチドを質量分析により解析した.その結果,インバリアント鎖が正常に発現している野生型マウスと比較して,検出されるペプチド数は著しく減少していた.一方,このマウスのMHCクラスII分子には多様なタンパク質が結合しており,ネオセルフがMHCクラスII分子に提示されていることが示唆された.

次に,我々は,ネオセルフが免疫系に与える影響を明らかにするため,インバリアント鎖の遺伝子であるCD74の両側にloxp配列とエストロゲン受容体変異型(ERT2)Creリコンビナーゼを持つマウスを交配させ,タモキシフェン誘導性に後天的にインバリアント鎖を低下させることでネオセルフを誘導できるマウスを樹立した.驚くことに,成熟したマウスにおいてインバリアント鎖を低下させネオセルフを誘導すると,ペプチド抗原提示が著しく障害されているにもかかわらずT細胞の活性化が認められた.さらに,脾腫や脾臓における胚中心の形成,および抗核抗体(抗DNA抗体,抗Sm/RNP抗体,抗ヒストン抗体など)の産生が確認された.また,腎臓糸球体にIgG, C3, C1qの沈着を特徴とするループス腎炎様の病変を呈し,SLEによく似た全身性自己免疫疾患を発症することが明らかになった.

3. T細胞によるセルフとネオセルフの識別がもたらす自己免疫応答

後天的インバリアント鎖低下マウスが発症する自己免疫疾患の病態を明らかにするため,次世代シークエンサーを用いたシングルセルT細胞受容体(TCR)解析を実施した.その結果,後天的インバリアント鎖低下マウスでは,B細胞の活性化と自己抗体の産生に関与する濾胞性ヘルパーT細胞(TFH細胞)において,T細胞がクローン性に増殖していることが判明した.我々は,NFAT(nuclear factor of activated T cells)の下流に緑色蛍光タンパク質(GFP)を融合させたレポーター細胞に任意のT細胞受容体(TCR)を発現させることにより,TCRを介した抗原認識によりGFPが発現するシステムを作製した9).このシステムを用いてT細胞の抗原特異性を解析したところ,驚くべきことに,後天的インバリアント鎖低下マウスのTFH細胞ではネオセルフに特異的に反応するT細胞がクローン性に増殖していることが明らかになった.

一方,インバリアント鎖先天的欠損マウスではネオセルフを提示しているにもかかわらず,自己免疫疾患を発症しなかった.シングルセルTCR解析の結果,このマウスのTCRはネオセルフに反応しないことが判明した.このことから,先天的インバリアント鎖欠損マウスでは,T細胞の成熟段階でネオセルフ反応性T細胞が負の選択を受け,除去されることでネオセルフに対する免疫寛容が成立し,自己免疫が発症しないと考えられる.

一方,先天的インバリアント鎖欠損マウスのTCRの中には,ネオセルフではなく野生型マウスが提示する自己ペプチド抗原に特異的に反応するものが存在していた.これらの結果から,野生型マウスのT細胞はネオセルフを,先天的インバリアント鎖欠損マウスのT細胞は野生型マウスの提示する自己ペプチド抗原をそれぞれ異物として認識していることが示唆された.

さらに,先天的インバリアント鎖欠損マウスに,ネオセルフ反応性TCRを強制発現させたマウスCD4 T細胞を移植したところ,抗DNA抗体の産生が認められ,自己免疫の症状を呈することが判明した.以上の結果から,T細胞はセルフとネオセルフを識別しており,後天的に誘導されたネオセルフに対して免疫寛容が成立していないため異物として認識され,自己免疫が誘導されると考えられた.

4. SLEの自己応答性T細胞はネオセルフを主要な標的抗原とする

では,実際のSLE患者ではどうだろうか.我々は,シングルセルTCR解析を用いてSLE患者および健常人の活性化CD4 T細胞を解析し,得られたTCR配列をライブラリー化することで,その抗原特異性を網羅的に解析した.その結果,SLE患者では活性化CD4 T細胞の約10%がネオセルフ反応性であることが判明した(図2).一方,健常人ではネオセルフに反応するT細胞は検出されなかった.

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図2 SLE患者の自己応答性T細胞の主要な標的抗原はネオセルフである

SLE患者のCD4 T細胞をシングルセルTCR解析することにより得られたTCR配列からTCRライブラリーを作製し,網羅的な解析を行った.その結果,SLE患者の活性化CD4 T細胞の約10%がネオセルフ反応性であり,SLEの自己応答性T細胞の主要な標的抗原がネオセルフであることが判明した.(文献16より改変)

興味深いことに,SLE患者のネオセルフ反応性T細胞は,TFH細胞やMx1遺伝子発現T細胞,活性化制御性T細胞など,SLEに特徴的な細胞集団10)に特に分布している傾向が認められた.通常,ヒトは無菌環境下で飼育されたマウスとは異なり,ウイルスや細菌などの多種多様な抗原に曝露されるため,非常に多様な抗原特異的T細胞レパートリーを持つと考えられる.また,COVID-19に対するmRNAワクチン接種後でも,COVID-19に特異的なT細胞の割合は1%以下である11).これらの点を考慮すると,SLE患者の活性化T細胞の約10%がネオセルフ反応性であることは,驚くほど高い割合であり,ネオセルフがSLEの自己応答性T細胞の主要な標的抗原であることが示唆された.

さらに,我々は,EBウイルスが再活性化したB細胞ではインバリアント鎖の発現量が低下し,それに伴いネオセルフが誘導されることを発見した.さらに,誘導されたネオセルフはSLE患者由来の自己応答性T細胞を活性化することが明らかとなり,この機序によってEBウイルスの再活性化がSLEの病態に関与していることが示された.

5. おわりに

これまで免疫学は「自己(セルフ)と非自己(ノンセルフ)の識別」という基本概念に基づいて研究されてきた.しかし,この概念だけでは,なぜ自己免疫疾患において自己に対する免疫応答が引き起こされるのかを十分に説明することはできない.また,自己免疫疾患の種類によって標的抗原が異なるが,なぜ多様な自己免疫疾患が発症するのかについても説明が困難である.

我々の研究により,同じ自己分子であっても,MHCクラスII分子による提示のされ方によって「セルフ」と「ネオセルフ」に分類され,T細胞がそれを識別することが判明した.ネオセルフは正常細胞のMHCクラスII分子には提示されないため,T細胞はネオセルフに対して免疫寛容を獲得していない.そのため,インバリアント鎖の発現が低下し,ネオセルフがMHCクラスII分子に提示されると,ネオセルフ反応性T細胞が活性化される.このように,自己由来の分子であるにもかかわらず免疫寛容を獲得していないネオセルフに対して免疫応答が誘導されることが,自己免疫疾患の主要な病態であると考えられる(図312)

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図3 T細胞の新たな認識機構:セルフとネオセルフの識別

従来の基本概念として,T細胞はセルフとノンセルフを識別し,ウイルスなど外来抗原に対して特異的な免疫反応を起こす.それに加え,今回の研究にて,T細胞はセルフとネオセルフの識別能も有することが明らかになった.通常の抗原提示で提示される自己抗原ペプチド(セルフ)では免疫寛容が成立しているため,T細胞は反応しない.一方で,EBウイルスの再活性化などによって誘導されたネオセルフは自己の分子由来にもかかわらず免疫寛容ではないため,T細胞に異物として認識され自己免疫応答が引き起こされる.また,ネオセルフは免疫系の制御に関わっている可能性もあり,ネオセルフ本来の機能について明らかにしていくことが求められる.(臨床とウイルス,Vol.53, No.4より転載.)

また,MHCクラスIIは通常,B細胞や樹状細胞などの免疫細胞に主に発現しているが,IFN-γなどのサイトカイン刺激によって,ほとんどの細胞がMHCクラスIIを発現することが知られている.実際,自己免疫疾患の標的組織では異所性にMHCクラスIIが発現することが確認されている.したがって,ネオセルフがどの組織でMHCクラスII分子に提示されるかによって,組織特異的な自己免疫疾患が発症する可能性が考えられる.現在,当研究室では,関節リウマチ,抗リン脂質抗体症候群,シェーグレン症候群,SLEなどの疾患において,疾患特異的なネオセルフに反応するT細胞を同定し,各自己免疫疾患の病態解明に取り組んでいる.

近年,抗サイトカイン抗体など,自己免疫疾患の症状を抑える薬剤が開発されている.しかし,これらの薬剤は根治的な治療薬ではないため,長期あるいは生涯にわたる投薬が必要となり,患者の身体的および経済的な負担が課題となる.

自己免疫疾患の原因となるネオセルフの発現機構や,それを認識する自己応答性T細胞を制御する新たな薬剤,EBウイルス等の再活性化を抑える薬剤やワクチンを開発することで,自己免疫疾患の原因そのものを修復する根治的な治療薬の創出につながることが期待される.また,ネオセルフはT細胞の恒常性維持にも関与している可能性があり,今後,ネオセルフが免疫応答にどのように関与しているのかをさらに解明することが重要である.

謝辞Acknowledgments

本研究の遂行にあたり,大阪大学免疫化学分野の荒瀬教授には,ご指導および貴重なご助言を賜りました.

また,実験にご協力いただいた免疫化学分野の皆様,データ解析にご助力いただいた安水先生をはじめ,多くの共同著者の皆様に深く感謝いたします.

本研究は,日本学術振興会科学研究費助成事業(JSPS科研費)(課題番号:25052344, 25117446)および,日本医療研究開発機構(AMED)(課題番号:25144191)の支援を受けて実施されました.

引用文献References

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著者紹介Author Profile

森 俊輔(もり しゅんすけ)

大阪大学微生物病研究所免疫化学分野 助教.博士(医学,大阪大学).

略歴

2013年九州大学医学部医学科を卒業.国立病院機構九州医療センターにて初期研修医を経て,リウマチ専門医として診療・臨床研究に従事.19年より大阪大学免疫学フロンティア研究センターリサーチアシスタント.20年日本学術振興会特別研究員(DC1)に採用.24年に大阪大学医学博士を取得.25年3月より大阪大学微生物病研究所助教(現職).

研究テーマと抱負

免疫系がどのように自己と非自己を認識し,その識別が生体に与える影響について研究中.将来的には自己免疫疾患の発症機序を解き明かし,特異的かつ根治的な治療法を開発したいと考える.

趣味

温泉巡り.

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