
第95回日本生化学会大会(2022年)の思い出Learning from the history—2022 Nagoya
1 糖鎖生命コア研究所所長
2 東海国立大学機構理事
3 名古屋大学副総長
© 2026 公益社団法人日本生化学会© 2026 The Japanese Biochemical Society
本稿を草するにあたり,準備委員会メンバーの総務委員長,プログラム委員長,幹事,幹事補佐に大会の思い出を聞いた.本稿はこのメンバーに私を加えた14名の回顧録でもある.尤も,将来像などについては私見を記したので記述全般の責任は当然のことながら私にある.
第95回日本生化学会大会は2022年11月9日~11日の期間に名古屋国際会議場で開催された.思い起こせば,この時期は日本にとってコロナ禍から日常への本格的な移行期であった.すなわち,社会的には「出口が見えた」と感じられていた時期である.行動制限は行わないという政府方針が定着し,マスク着用は事実上継続していたものの,社会活動・経済活動はほぼ通常運転へ移行した.制度的には2022年10月に入国制限が大幅に緩和され(個人観光再開,ビザ免除再開),2023年5月に感染症法上の位置づけが5類へ移行した.国民感覚としては「コロナは続いているが,非常事態ではない」というものであった.
一方で,医療・感染状況としては第8波の入口で,11月頃から感染者数は再び増加傾向にあった.大会の準備は1年前から始まるのであり,準備委員会をオンラインで何度も行ったが,委員が直接に顔を合わせることはなかった.夏頃まで感染状況を見ながらハイブリッドか完全対面かのギリギリの判断,現地参加は敬遠されるのではないかという不安,十分な企業協賛が得られないのではないかという危機感など,いろいろと思い出される.この大会を対面で行う決断をして,結果として成功裡に終えられたのは,今更ながら奇跡のように思えるのである.当時の写真を見返すと,参加者が久しぶりに対面で会う研究者仲間と楽しく歓談している様子がうかがえる.ただし,皆,マスク越しに,あるいは手にはマスクを持って(図1).コロナ禍に入学した大学院生たちが初めての対面学会に刺激を受けて活き活きとした光景も印象深かった.斯くして,我々を含め日本の社会は「もう止めない」選択をしたのであった.
第95回日本生化学会大会の参加人数は3006名.プログラム数は,特別講演3,ポスター1244,口頭発表503,シンポジウム80,高校生発表(ポスター16,口頭発表9),バイオインダストリーセミナー2であった.「波及」をテーマに,融合,新分野を意識したプログラムを編成した.三つの特別講演(山本雅之先生,森和俊先生,Carolyn R. Bertozzi先生)はいずれも素晴らしく,会場は聴衆であふれ,急遽追加会場も設けたほどであった(図2).各々の個性的な研究スタイルと成果を聴衆は存分に楽しんだ.中でもBertozzi先生はその年のノーベル化学賞受賞が決まったばかりで,生化学会にとっても歴史的なイベントとなった.
特別講演と同じくらいに上記14名が口を揃えて回顧したのが高校生発表であった.事務局にも確認したが,高校生による発表会は生化学会としては初めての試みとのことだった.次世代のサイエンティストを育む高校生発表セッションの熱気は予想をはるかに超えるものであった(図3).以下に載せるのは上記14名の率直な感想だが,このセッションの熱さを実感させる.「受験そっちのけで『どうしてもこの学会で発表したい』と意気込んでいた女子高校生の笑顔は,今でも忘れられません.発表内容も実に多彩で,『さぼてんの針の並びの法則性』の研究など,学生さんが数年かけて積み上げてこられた成果が披露されていて,大変印象的でした.また同伴されていた高校の先生方の温かい笑顔も心に残っています.」「個人的に特に印象深かったのは,本大会で初めて試みられた高校生のポスター発表です.高校生ならではの新鮮な視点や発表内容に刺激を受けました.また,審査員として関わった高校生の一人とは,その後共同研究へと発展し,昨年には論文発表にまで至りました.その学生は現在大学生となり,今も一緒に研究を続けています.学会での出会いがこのような形で実を結んだことは,大会の意義を象徴するエピソードの一つではないかと感じております.」「きらきらと目を輝かせて発表する高校生の姿をみて,『指導者としては高校の先生に負けている』と実感したのを覚えています.」
2025年の第98回大会では2回目の高校生発表が行われた.分子生物学会や物理学会など日本の学術学会では長年,高校生の発表や招待の努力を重ねており,物理学会等はホームページに高校生向け,小中学生向けイベントも掲載し,若者の関心喚起に熱心である.私には,これらの活動は,科学者集団として日本の基礎科学を推進する義務にも思える.生化学会も日本の科学を支える一員として,未来を真剣に考えるべきである.
大会の名古屋開催は1998年第71回(永津俊治会頭)から24年ぶりとなった.確かあの時も会場は名古屋国際会議場であった.同会場も2025年2月から2年間の長い改修工事に入っており,旧館での開催としては最後の生化学会大会となった.本大会のテーマは「波及する生化学~生命科学の革新へ~」.「波及」というパワーワードとそれを表したポスターは印象的だった.その「水滴が滴り落ちて水面に広がるイメージ」は好評で,大会テーマとマッチしていて重厚感のあるものに仕上がった(図4).これも準備委員会メンバーからの提案であった.
最後に,全国から参集いただいた会員の皆さまに改めて感謝申し上げたい.また,大会の企画運営を担っていただいた下記の方々に重ねてお礼を申し上げる.そして,日本生化学会の今後の益々の発展をこころから祈念して,稿を閉じる.
This page was created on 2026-03-09T16:38:23.189+09:00
This page was last modified on 2026-04-17T13:18:04.000+09:00
このサイトは(株)国際文献社によって運用されています。