
第98回日本生化学会大会・日本生化学会創立100周年記念式典を終えてLearning from the history—2025 Kyoto
1 京都大学プロポスト・理事・副学長
2 京都大学名誉教授
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日本生化学会創立100周年,ならびに「生化学」誌の創刊100周年,大変おめでとうございます.葛藤を抱えながら創立100周年にあたる昨年の第98回大会の会頭を務めた者として,一筆したためたいと思います.
2021年だったと記憶しておりますが,当時の日本生化学会の会長でおられた菊池章先生から2025年の第98回大会の会頭をお願いしたいとの連絡を受けました.「2025年は日本生化学会の創立100周年にあたります.京都の研究者が日本生化学会の発展に果たされた役割が大きいので」京都の研究者に京都での開催をお願いしたい,とのご依頼でした.正直なところ,私はいくつかの事情で躊躇いたしました.2025年の秋ですと,私は京大医学研究科教授をすでに退職していること,私は生化学・医化学の教授ではなく,伝統のある医化学教室とは何の縁もない生理学の教授であることなども理由ではありましたが,最も大きかったのは,生化学のアマチュアである私で良いのか?という点でした.
私は1985年に大学を卒業した後は臨床医を指向しており免疫の医者をしておりました.市中病院での初期研修の後に大学院に入学しましたが,臨床の研究室で自己免疫疾患の研究に従事しました.私が生化学と関わりを持つようになったのは,単なる偶然で,1993年に米国NIHに留学したときです.実は免疫の研究をするつもりで留学先を選んだのですが,私が留学したときに免疫の研究を止めることになったと告げられました.留学先を変更することも考えたのですが,種々の理由で変更できず,研究テーマを免疫から鉄に変えることになりました.留学先では鉄とそれから波及したユビキチンの研究に従事しました.免疫の医者が鉄,ユビキチンの研究??(免疫を研究していない免疫のお医者さんに診てもらいたくないですよね)という事実や,これまた種々の理由があって帰国後は免疫の臨床医は諦めて研究者となることを選択し,1996年に大学卒業後11年を経て日本生化学会の会員になりました.私は海外留学中も含め生化学の基礎トレーニングを受けたことが全くありません.
そのように,生化学のアマチュアである私が日本生化学会創立100周年を記念する大会の会頭を務めてよいのか,という点が最大の悩みでした.しかし,菊池章先生は私が大阪大学在籍時には隣の研究室を主宰しておられた生化学の大先輩です.一緒にセミナーをさせていただいたりで非常に懇意にしていただいておりましたので,その申し出をお断りすることはできず,お引き受けすることといたしました.菊池先生の御意向を踏まえ,会場は京都の国立京都国際会館,開催日時は2025年11月3~5日といたしました.大会のメインテーマは,日本生化学会創立100周年を意識して「生命の根源としての生化学——100年の時空を超えて未来へ——」にしました(写真1).
また,生化学のアマチュアである私が貢献できることは何か?を意識して企画を進めることにしました.日本生化学会の大きな特徴は理工医薬農など異なるバックグラウンドを持った研究者からなる学会である点です.そこで,色々な分野の研究者にとって面白いと思ってもらえる企画を考えられるように,京都大学の様々な研究科で生化学の研究をされておられる先生方を中心に幹事をお願いして,多彩な分野から構成される日本生化学会の会員に楽しんで頂ける企画を考えることにしました(写真2).
さて,第98回日本生化学会大会の期間中に日本生化学会創立100周年記念式典を執り行うとのことですので,日程は通常の大会とは異なります.初日の11月3日の午後はずっと100周年記念式典のみで他のセッションは行わず,シンポジウム,ポスター発表,口演などは3日の午前と4日,5日に割り振りました.そのため,同一時間に20のシンポジウムを開催せざるをえませんでしたので,腐心してプログラムを編成いたしましたが,参加した研究者の方には聞きたいシンポジウムが重なっていて聞けなかったなどのご不便をおかけしたかと存じます.
まずは,100周年記念式典に触れたいと思います.第1部の来賓のご挨拶の後,第2部として100周年記念特別講演会を催しました.特別講演では,生化学のこれまで100年の輝かしい歴史と,その歴史への日本人の貢献を意識して講演者を依頼いたしました.とりわけ,1)生化学を標榜する学会の100周年であること,2)当時の菊池会長のお言葉,「京都の研究者の生化学会への貢献」を考慮して3名の先生にお願いいたしました.1人は分子生物学を一切用いず,生化学のみで「ユビキチン依存性タンパク質分解系」を発見されてノーベル化学賞を受賞された私の畏友であるAaron Ciechanover博士.もう1人は現在の京都を代表する生化学者であるノーベル生理学・医学賞受賞者である本庶佑先生にお願いすることに致しました.海外からのもう1名の招聘を考えておりましたが,少し頭をひねりました.京都大学に在籍された日本の生化学の泰斗で,酸素添加酵素の発見者である早石修先生のご業績を考慮して,酸素センシングでノーベル生理学・医学賞を受賞されたWilliam Kaelin Jr.博士にお願いいたしました.特別講演をしてくださった3名のノーベル賞受賞者はいずれも生化学的な手法を用いて人類に貢献する卓越した成果を挙げてこられましたので,これまで100年の生化学の輝かしい歴史を振り返るに相応しいですし,生理学・医学賞だけではなく化学賞を受賞された先生がおられることも日本生化学会らしい人選だったと思っています.また,3名の講演者ともに素晴らしい講演をしていただき心から感謝申し上げております.講演者の先生方のご厚意で,本大会の特別講演は日本生化学会のウェブサイトで公開させていただいておりますので,会場においでいただけなかった会員の皆様におかれましては,是非拝聴していただければと存じます.
第3部は今後の生化学・生命科学を議論する場にいたしました.生成AIの登場は今後のサイエンスのあり方を大きく変え,生化学・生命科学の方法論も大きく変貌することは間違いありません.そのようなAI for Scienceの時代の到来を踏まえてAIを活用されている気鋭の若手PI研究者との討論会を企画するとともに,大学院学生さんや,若手の助教のみなさんなど若手研究者が考える「未来の生化学」像をビデオで募集し,優れた企画を表彰・上映することにしました.さらに,11月3日が祝日であることを活かし,将来の生化学・生命科学を担う高校生のポスタープレゼンテーションを午前中に行っていただき,100周年記念事業の一環として研究発表の表彰式を執り行いました.創立100周年記念式典にはメインホールを使用しました.京都賞の授賞式なども執り行われる格調高い大きなホールなので心配しましたが,満席になるほどの方にご参加いただき感謝申し上げます.
加えて,記念式典にふさわしいエンディングを考えました.会場である国立京都国際会館は京都市内北部の自然が豊かなエリアにあり,すぐ南には宝ヶ池があります.実は私,国際会館からそれほど遠くないところに住んでいるのですが,時々ドーンと言う大きな音が国際会館の方から聞こえてくることがあり,宝ヶ池から花火を打ち上げることができることを知りました.せっかくの日本生化学会創立100周年記念式典ですので,京都開催のメリットを活かし記念式典終了後に花火を打ち上げました.おそらく日本生化学会大会での花火は初めてかと存じております.11月でしたので,少し肌寒かったかとは存じますが,天候にも恵まれ,多くの方々に堪能していただけたのではと思っています(写真3).
創立100周年記念式典のことばかり書いてしまいましたが,日本生化学会大会の本来の目的は研究成果の発表とネットワーク作りです.初日の午後をすべて記念式典にいたしましたので,シンポジウム,ポスター,一般口演は大会初日の午前,2~3日目に配置しました.やや窮屈な日程ではありましたが,第98回大会では108のシンポジウム,1380題のポスター発表,ポスター演題から選んだ222題の口演など数多くの先生方に研究成果を発表していただき,本大会は異分野の研究者との有意義なネットワーキングの場になったのではと愚考いたしております.また,FEBS Open Bio誌の御好意でFEBS Open Bio口頭発表賞を2名の若手研究者に授与し,3日目のポスター発表の時間に表彰式を行いましたが,多くの方にご参加いただき受賞した若手研究者の大きな刺激になったかと存じます.審査,表彰式に参加くださったFEBS Open Bio誌のeditorの方々に感謝申し上げます.
本大会はお陰様で盛会裏に終えることができたと思っておりますが,それはひとえに3574名を数えました参加してくださった先生方がサイエンスを議論していただき,ネットワーキングをしてくださったお陰であると存じます.心から感謝申し上げます.
また,本大会の期間中に色々な発表を聞いていて,ヒト,個体レベルの研究も生化学でアプローチすることが可能な時代になってきたことを実感しました.生成AI,フィジカルAIの登場で今後の生化学のあり方は大きく変貌すると思います.第98回大会が,日本生化学会の会員の方々が今後の生化学のあり方を考えるきっかけになれば,生化学のアマチュアにもかかわらず,会頭を務めた者として少しは安堵できるかと思います.今後は若い会員の皆様が,日本生化学会をより一層発展させてくださることを祈念して筆を擱きたいと思います.
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