ケガをすると血が出る。この現象は太古から人類の関心事であり、血液を生命そのものと考えたり、儀式に使ったりといった形で、多くの民族が文化の一部として取り入れた。関心の高さゆえ、血液や血管に関する研究の歴史は長く、病気と直結する成果も数多く生み出されてきた。現代においても、血液・血管生物学は基礎研究と臨床応用を頻繁に行き来しながら発展している。血液や血管には、まだ多くの謎と人類に貢献しえる可能性が秘められている。このような分野の最近のトピックを紹介したく、本特集を企画した。血漿に含まれる血液凝固因子に関する話題から、血小板や赤血球などの血液細胞や血管壁細胞、血管とその周囲に至る話題まで、ここで紹介できるのはごく一部であるが、基礎と臨床をつなぐ研究分野を感じていただければ幸いである。
血液凝固第VIII因子の欠乏に起因する血友病Aにおける未解決の治療課題を克服すべく,抗体工学技術を駆使し第VIII因子機能を代替するヒト化バイスペシフィック抗体“エミシズマブ”を創出した.本稿では本剤の基礎研究を臨床応用につなぐ道のりを概説する.
血栓形成機序では,従来から知られる血液凝固因子と血小板に加え,好中球や単球も積極的に関わることが最近明らかになってきた.これらを紹介するとともに,出血リスクの増加を伴わずに動静脈血栓を抑制する新しい戦略を紹介したい.
VWF切断酵素ADAMTS13はVWFとの相互作用によりコンホメーションを変化させ,血流によるずり応力でアンフォールディングしたVWFを切断する.ADAMTS13とVWFの質的・量的欠損はTTPとVWDの病因である.
発作性夜間ヘモグロビン尿症は,GPIアンカー型の補体制御因子を欠損した赤血球集団が後天性に出現し,補体で溶血する血液疾患である.X染色体遺伝子のPIGAに造血幹細胞で体細胞突然変異が起き,生じたGPIアンカー欠損クローンが拡大して発症する.
哺乳類に特有な赤芽球の脱核の分子機構は解明されつつあるも,なぜ哺乳類だけが無核の赤血球を持つに至ったのか,その生物学的意義は諸説紛々である.本稿では,赤芽球脱核の分子機構と環境適応(生物進化)の視点から生物学的意義を考察する.
内皮細胞は,vascular endothelial(VE)-cadherinを介して細胞間接着を形成し血管透過性を調節する.本稿では,VE-cadherinに着目し,血管透過性のダイナミックかつ巧妙な制御機構について,最近の知見を紹介する.
血小板受容体C-type lectin-like receptor(CLEC-2)とさまざまな細胞の膜タンパク質ポドプラニンとの結合は,胎生期のリンパ管と血管の分離,正常な脳血管の発生,成体での高内皮静脈や毛細血管の統合性保持に必要である.
血管はすべての組織・臓器の形成に必須であると認識されつつあり,各々の組織・臓器の発生と分化において「血管化」が重要な役割を果たすことが注目されている.本稿では,神経と血管の連携がもたらす発生・分化の制御機構について,最新の知見を概説する.
GATA2遺伝子は,ゲノム上に広範囲に分布する組織特異的エンハンサーによって制御されている.本稿では,GATA2遺伝子の制御機構とエンハンサーの異常による疾患の発症機構について解説する.
骨を作る因子として発見命名されたBMPは実は発生のさまざまな局面でさまざまな役割を果たすスーパーマルチタレントであった.筆者が行ってきた変異動物モデルの研究を通してその素顔に迫る.
新規なガス状分子受容体,可溶性グアニル酸シクラーゼの選択的NO感知機構を支える分子的基盤の解析.
真菌からヒトまで保存されているStripは機能未知タンパク質であった.ショウジョウバエStripがさまざまな分子と複合体形成をすることにより神経形態形成を多様な角度から制御していることが明らかとなったので,その分子機能を紹介する.
間葉系幹細胞は再生医療に役立つ細胞として知られているが,その医療応用にあたりex vivoで大量培養をするには,培養後もその幹細胞性が維持されることが必要となる.我々は,間葉系幹細胞の幹細胞性の維持に働く分子機構の一部を解明したので紹介する.
還元力を利用したタンパク質の機能制御系であるレドックス制御は,植物葉緑体でどのように働いているのだろうか.我々は,高度に組織化された還元力経路によって構成される反応分子基盤と,それが植物の生存戦略にもたらす生理意義を明らかにした.
一つの防御機構を克服するための変異が, もう一つ別の防御機構による制御をより強く受けるトレードオフを強いることで, 進化の速い病原ウイルスに対抗する植物の防御戦略を概説する.
クロマチン構造はエピジェネティックな遺伝子機能の制御の基盤となる.最近,クロマチン構造を規定するヒストン修飾は転写装置を介して転写と共役して起こることが明らかになってきた.そこで,特にRNAポリメラーゼⅡを中心にその分子機構を解説する.
プロスタグランジンは生理・病理において多彩な作用を発揮する一群の脂質メディエーターである.本稿では第三のモデル生物として注目を集めるゼブラフィッシュに焦点をあて,プロスタグランジンとその受容体における筆者らの研究成果を中心に概説する.
ジペプチジルペプチダーゼIIIがアンジオテンシンIIを分解する酵素学的特性と,高血圧モデルマウスにおける降圧作用および臓器保護効果を示した.今後,難治性高血圧の治療において同酵素を臨床応用できる可能性がある.
ミトコンドリアへのCa2+の取り込みは種々の生命現象に関与する.このCa2+取り込みはカルシウムユニポーターというタンパク質複合体によって行われる.本稿では,この複合体のサブユニットの一つであるEMREについて,Ca2+取り込み機能に果たす役割を紹介する.
普遍的な情報伝達物質であるcAMPの産生を光で制御できるタンパク質,OaPACの構造・機能を解明するとともに,ヒト培養細胞やマウス海馬神経細胞に対する光遺伝学的手法の適用に成功した.今後,生体内での光スイッチとして医学的な応用が期待される.
脂質メディエーターの一種であるスフィンゴシン1−リン酸(S1P)は,発生・分化に重要なNotchシグナルと相互作用することを見いだした.本稿では,S1P-Notch のクロストークによるがん幹細胞の新たな増殖機構および創薬への展望を概説する.
炭水化物から中性脂肪への合成・変換は食後に顕著に増加し,逆に空腹時にはOFFとなる.最近我々は,このON-OFF機構の主体が,KLF15-LXR/RXR-RIP140転写複合体であるという新たな知見を見いだした.
PAタグシステムは,目的タンパク質を高純度かつ一段階で精製可能な優れたアフィニティータグシステムである.本稿では,実際のタンパク質の精製結果に加え,構造生物学的な見地から明らかとなった本システムの発展的利用法について解説する.
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