生化学 SEIKAGAKU
Journal of Japanese Biochemical Society

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Journal of Japanese Biochemical Society 89(4): 551-554 (2017)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890551

みにれびゅうMini Review

細菌小分子RNAの機能構造と生合成Functional structure and biogenesis of bacterial small RNA

鈴鹿医療科学大学薬学部薬学科Faculty of Pharmaceutical Sciences, Suzuka University of Medical Sciences ◇ 〒513–8670 三重県鈴鹿市南玉垣町3500–3 ◇ 3500–3 Minamitamagaki, Suzuka, Mie 513–8670

発行日:2017年8月25日Published: August 25, 2017
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1. はじめに

遺伝子からmRNAを経てタンパク質へと情報変換される過程(遺伝子発現)は,細胞を取り巻く環境,あるいは細胞の状態の変化に応答して制御される.代表的な遺伝子発現の制御因子は,転写開始の制御を担う転写因子(タンパク質)である.その一方で,近年の研究から,RNAも制御因子として機能し,遺伝子発現を制御することが明らかになった.小分子RNA(small RNA:sRNA)は代表的な遺伝子発現の制御因子であり,原核生物から高等真核生物に至るまで,ほとんどの生物においてその存在が確認されている.このため,転写因子による制御と同様に,sRNAによる制御は普遍的な遺伝子発現制御であると考えられる.

主にグラム陰性菌において,Hfqタンパク質を介して機能するsRNAが存在する(これより以下,sRNAはHfq結合型sRNAを示す).sRNAによる遺伝子発現制御のメカニズムは,主に大腸菌,サルモネラ菌において解析が進められてきた.sRNAは,Hfqの補助により標的にするmRNAと塩基対を形成し,mRNAの翻訳,および安定性を調節することにより遺伝子発現を制御する.また,mRNAの安定性調節には,Hfqと結合するエンドリボヌクレアーゼであるRNase Eが必要である.sRNA/Hfq/RNase Eの三者複合体が標的mRNAに協調的に作用することにより,大半の標的遺伝子の発現は抑制され,一部の標的遺伝子の発現は促進される1, 2).また,このような制御メカニズムの研究と並行して,sRNAの性質についての研究も大腸菌,サルモネラ菌において活発に行われている.本稿では,sRNAの性質,特にHfq結合領域,および生合成過程(3′末端の形成,5′-プロセシング)に関する最近の報告を紹介する.

2. Hfq結合領域はsRNAの3′領域に存在する

Hfqは,1960年代にRNAファージQβの複製に必要な宿主(大腸菌)因子(host factor Qβ phage)として同定されたタンパク質である.その後の解析により,sRNA/標的mRNA間の塩基対の形成を促進させる機能を持つことが明らかになり,ファージ感染にとどまらず,Hfqは細胞内でのsRNA制御に必要なタンパク質因子であると位置づけられている3).断片化したRNAを用いて行われたin vitro実験系により,HfqがAUに富むRNAに優先的に結合することが示されていたが,制御に必要なsRNA上のHfq結合領域は不明であった.筆者らは,大腸菌を用いて,代表的なsRNAの一つであるSgrSの機能解析を進めることにより,Hfqとの機能的結合に十分なSgrS領域を突き止めた4, 5).Hfq結合領域はSgrSの3′領域に位置し,3′末端の7塩基以上のポリU鎖(①),および一つ,あるいは二つのRNAヘアピン構造の直前に位置するUに富む配列(②)により構成される(図1A).これらの要素は,ほとんどのsRNAに存在するものであり,sRNAの一般的な要素と考えることができる5).時を同じくして,Sauerらは生物物理学的な解析により,①,②の要素が,Hfqの近位面,および側面(リム)にそれぞれ結合することを示した6, 7)図1B).その一方で,標的mRNA上の要素はA-R-N(Rはプリン残基,Nはすべての残基)の繰り返し配列(③)であり,③はHfqの遠位面に優先的に結合する8)図1B).また,一部のsRNAは②の代わりに③を保持しており,その場合には,標的mRNAには③の代わりに②が備わっている.それらは,Hfqの遠位面とリムを使い分けることで,Hfqによる対形成促進作用を受ける8)

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図1 sRNAの機能構造とHfq/sRNA/標的mRNAの結合様式

(A)sRNAは,標的mRNAと塩基対を形成する領域,Hfq結合領域,およびRho非依存型転写終結領域(ターミネーター)により構成される.塩基対形成領域は,~数十塩基の塩基対形成が予測される配列を保持し,その中に塩基対形成の核となる領域(シード領域)が存在する3).(B)Hfqには,近位面,遠位面,および側面(リム)のそれぞれに,RNA結合部位が存在する.

3. sRNAの発現とその制御

sRNA遺伝子は独自のプロモーターを持ち,主にストレス下において,特異的な転写因子によりそれぞれ発現が誘導される3).グルコースリン酸の細胞内蓄積により合成が誘導されるSgrSは,グルコーストランスポーターをコードするptsG mRNAを含むいくつかのmRNAを標的にして,グルコースリン酸の蓄積を緩和させるように遺伝子発現を制御する9)

タンパク質をコードする多くの遺伝子と同様に,sRNA遺伝子は,末尾にRho非依存転写終結領域(以下,ターミネーター)を持つ.ターミネーターは,タンパク質因子であるRho非依存的に,すなわちDNA上の配列依存的に転写を終結させる領域であり,GCに富む回文配列,およびそれに続くポリTストレッチにより構成される.回文配列の転写により合成された新生RNA鎖がヘアピン構造を形成すると,ヘアピン構造はRNAポリメラーゼの転写伸長を阻害し,ポリTストレッチ上で鋳型DNA鎖,および新生RNA鎖からRNAポリメラーゼを解離させる.

sRNAの3′領域に存在するHfq結合領域がターミネーターと重複していることから,sRNAの生合成と転写終結反応には密接な関係があると考えられる(図1A).そこで,筆者らはsRNA遺伝子における転写終結の解析を目的として,sgrS遺伝子の直後にリボソームタンパク質をコードするrplL遺伝子のターミネーターを配置したダブルターミネーター遺伝子を構築した.これにより,一般的に検出が困難であるリードスルー産物を比較的安定に検出することが可能になる.このダブルターミネーター遺伝子を用いて解析した結果,リードスルー産物がHfqと結合しないことを確認した10).これは,3′末端の伸長によりSgrSのHfq結合領域の位置が3′末端ではなくなったためであると考えられる(図2A).

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図2 sRNAの生合成

sRNA遺伝子は,一般的な転写終結領域であるターミネーターを保持する.ターミネーターは,GCに富む回文配列(灰),およびポリTストレッチ(黒)により構成される.(A)ターミネーターを読み飛ばしたリードスルー産物はHfqと結合しないため,sRNAの機能を持たない.(B)強固なヘアピン構造を形成する回文配列の場合(濃灰)には,3′末端のポリU鎖が短い転写産物が合成される.このような転写産物はHfqと結合しないため,sRNAの機能を持たない.(C)ArcZでは,5′領域がHfq/RNase Eによるプロセシングにより取り除かれる.

また,アラビノースの添加によりダブルターミネーター遺伝子の転写を誘導させるように設計し,通常下,およびストレス下における転写終結効率の比較を行ったところ,通常下に比べ,ストレス下において転写終結効率が大幅に上昇していた10).これは,転写開始制御に加えて,sRNAの発現が転写終結においても制御されていることを示している.ゲノム上のsgrS遺伝子の下流には,糖排出トランスポーターファミリーに属するSetAタンパク質をコードするsetA遺伝子が存在し,その転写はsgrS遺伝子と同一のプロモーターで起こることが確認されている11).その一方で,sgrS変異とは異なり,グルコースリン酸の蓄積ストレスに対するsetA変異の影響が限定的であること,またSetAがグルコースリン酸を基質にしないことが示された11).これらのことから,ストレス下におけるsgrS遺伝子の転写終結効率の上昇には,ストレス応答に対しより効果的であるSgrSの合成量を増加させるという生物学的な意義があると考えられる.

4. 3′末端の位置決定におけるターミネーターヘアピンの役割

3′末端が伸長したリードスルー産物がsRNAとして機能しないことが明らかになった一方で,何らかの原因で3′末端が短くなった転写産物はどうだろうか.3′末端の7塩基以上のポリU鎖は,Hfqとの機能的結合に必要なsRNA領域であり,そのためほとんどのsRNA遺伝子のターミネーターには,7塩基以上のポリTストレッチが存在する5).加えて,転写終結時に,ポリTストレッチは十分な長さのポリU鎖へと転写される必要がある.もし転写終結が早期に起こった場合には,短いポリU鎖を3′末端に持つ転写産物が合成され,これらはHfqと結合しないためsRNAとして機能しないと考えられる.

筆者らは,この可能性を検証するために,ターミネーターのヘアピン構造の熱安定性に着目し,ヘアピン構造を安定化させるように挿入変異を導入した変異sgrS遺伝子から合成される転写産物の3′末端を解析した.その結果,野生型sgrS遺伝子では,3′末端に8塩基のポリU鎖(8U)を保持する転写産物が多数合成されていたのに対して,変異sgrS遺伝子では,8Uを保持する少数の転写産物に加えて,6塩基以下のポリU鎖を保持する転写産物が多数合成されていた.また,変異sgrS遺伝子から合成されたこれらの3′末端が異常なRNAは,Hfqと結合しなかった.以上の結果は,ターミネーターのヘアピン構造の熱安定性が3′末端の位置の決定に重要な要素であることを示すとともに,sRNA遺伝子のターミネーターが,3′末端に7塩基以上のポリU鎖を備えたRNAを合成するのに適した構造を持つことを示している(図2B, Morita, T., Nishino, R., & Aiba, H., 印刷中).

5. 5′-プロセシングにより生合成されるsRNA

一般的には転写産物がsRNAとして機能すると考えられているが,近年これらに加えて,転写産物がプロセシングされた後に,その3′領域がsRNAとして機能する例が報告されている.Chaoらは,サルモネラ菌において,転写産物の5′領域がプロセシングにより除去され,56塩基長の機能的なArcZ sRNAが合成されることを明らかにした12)図2C).興味深いことに,この5′-プロセシングにはHfq/RNase Eが必要である.このことから,プロセシングにより生じたsRNAがHfq/RNase Eと複合体を形成し標的mRNAを分解するという,sRNAの成熟とmRNA抑制が連動したsRNA制御機構の存在が想起される12).この他にも,5′-プロセシングにより切り出された転写産物の3′領域がsRNAとして機能する例がいくつか報告されている13).その一方で,3′-プロセシングにより成熟するsRNAは現在のところ見つかっていない.このことは,Hfq結合領域がターミネーターと重複する3′領域に存在することによると考えることができる.

6. おわりに

本稿において一部を紹介したように,sRNAの制御機構,および性質の大部分が明らかになりつつある.また最近では,それらをもとに解析が進められ,生物現象に関わるsRNA制御の研究は広がりを見せている.中でも,宿主(ショウジョウバエ)貪食作用に対する細菌(大腸菌)抵抗性におけるHfqの必要性を示す研究14)のように,感染症に関わるsRNA制御は医学的にも重要な意義を持つ.また,Hfqホモログが存在するにも関わらず,グラム陽性菌においてはHfqに依存したsRNA制御はほとんど確認されないことも興味深い.最近,Hfqのリムを構成するアミノ酸の違いがsRNA制御の有無に関係するという報告がなされた15).これらに加え,sRNAの要素(3′領域の配列)に着目した細菌種間での比較解析は取り組みたい研究課題である.

謝辞Acknowledgments

本稿で紹介した筆者が携わった研究は,名古屋大学大学院理学研究科,および鈴鹿医療科学大学薬学部において,饗場弘二教授のもとで行われました.共同研究者の方々に心より御礼申し上げます.

著者紹介Author Profile

森田 鉄兵(もりた てっぺい)

鈴鹿医療科学大学薬学部薬学科助教.博士(理学).

略歴

2002年名古屋大学理学部卒業,06年同大学大学院理学研究科修了,同年同助手,09年鈴鹿医療科学大学薬学部助手,16年より現職.

研究テーマと抱負

細菌小分子RNAによる遺伝子発現制御機構.

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