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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 91(2): 250-254 (2019)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2019.910250

みにれびゅうMini Review

リボソームのユビキチン化による翻訳の強制終了が新生ペプチド鎖の分解を誘導するRibosome ubiquitination triggers co-translational quality control

東北大学大学院薬学研究科遺伝子制御薬学分野Graduate School of Pharmaceutical Sciences, Tohoku University ◇ 〒980–8578 宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉6–3 C305 ◇ 6–3 Aoba, Aoba-Ku, Sendai 980–8578 Japan

発行日:2019年4月25日Published: April 25, 2019
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1. はじめに

リボソームはタンパク質を合成する分子マシーンであり,遺伝子発現の核となる装置の一つである.これまで,リボソームの機能は,mRNAに示された遺伝情報をタンパク質へ変換するという機械的なものとして認識されていたが,近年の研究では,リボソーム自身の分子修飾によって翻訳が制御される例が相次いで報告されている.

翻訳停滞に起因する品質管理機構はその一例であり,翻訳伸長の停滞を異常と認識し,その産物を分解する機構である.翻訳停滞とは,翻訳の伸長速度が著しく低下した状態をさし,連続したレアコドンや,合成された新生ペプチド鎖中の塩基性アミノ酸とリボソームトンネル内の強い相互作用などによって生じる.この状況下では,一定の割合で翻訳の強制終了を意味するリボソームのサブユニット解離が起こり,途中まで合成された新生ペプチド鎖はプロテアソームによって速やかに分解される.この一連の反応誘導にはリボソーム自身のユビキチン化が密接に関わっており,本稿ではその分子機構と今後の課題について議論する.

2. 翻訳停滞に起因する品質管理機構

翻訳の伸長速度はmRNAにコードされるコドンの最適化に加え,合成された新生鎖とリボソームの相互作用によって決定される.近年,同じアミノ酸をコードする同義コドンの最適化によって,タンパク質の正確なフォールディングやmRNAの寿命が決定されることが報告されており1, 2),翻訳の伸長速度が遺伝子発現において非常に重要な意味を持つことが明らかになっている.

mRNAとその翻訳産物の品質管理も翻訳と共役して行われており,翻訳伸長過程の異常を認識している.異常な翻訳の代表として,ポリA鎖の翻訳が知られている3).ポリA鎖はmRNAの転写後修飾の一つであり,非翻訳領域である3′末端に付加され,mRNAの安定化や翻訳開始の促進などに関与している.しかし,細胞内では,ORF中に誤ってポリA鎖が付加されるケースが一定の割合で存在しており,それらは品質管理機構によって除去されている.通常,翻訳されえないポリA鎖が翻訳された場合には,ポリリシンの新生ペプチド鎖が合成される.ポリリシンは強い塩基性を示すため,RNAを主な構成成分とするリボソームトンネルとの相互作用によって,強い翻訳停滞を引き起こす.細胞はこの翻訳停滞を異常と認識し,翻訳中のmRNAとその翻訳産物を分解する品質管理機構を誘導させる4)

図1に翻訳停滞に起因する品質管理機構の概略図を示す.リボソームが,ポリA鎖などの連続した塩基性配列(アレスト配列)を合成すると,新生ペプチド鎖とリボソームトンネル内の相互作用によって翻訳の伸長が阻害される(図1①)4).その結果,mRNAは未同定のエンドヌクレアーゼによって切断され,切断された3′末端側のmRNAはエキソリボヌクレアーゼのXrn1によって分解される(no go decay:NGD,図1②)5).一方,5′末端側のmRNAは終止コドンを持たないnon stop mRNAとなるため,後続のリボソームによって翻訳され,3′末端上で再びリボソームの翻訳停止を引き起こす(図1③)6).翻訳終結因子と相同性を持つDom34/Hbs1は3′末端で停止したリボソームの空のAサイトに結合し,ATPaseであるABCE1と協調して,サブユニット解離を引き起こす(図1④)6).最終的に3′末端が露出したmRNAはエキソソームによって分解される(non stop decay:NSD)6).一方,5′末端側のmRNA上で停滞するリボソームのAサイトには,まだmRNAが残っているため,Dom34/Hbs1がアクセスできず,non stop mRNAとは異なる機構によってリボソームのサブユニット解離が引き起こされる(図1⑤)7–9).二つの経路からペプチジルtRNAを含む異常な60Sサブユニットが産生されるわけだが,品質管理因子であるRqc2は60Sサブユニット上に存在するtRNAを認識し結合することで,E3ユビキチンリガーゼであるLtn1を呼び込み,RQC複合体を形成する(ribosome quality control:RQC,図1⑥)10).RQC複合体上の新生ペプチド鎖はLtn1によってユビキチン化され,プロテアソームによって分解される11)

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図1 翻訳停滞に起因する品質管理機構

なお,リボソームの解離後に誘導される新生ペプチド鎖の分解機構は,ribosome-associated quality control(RQC)と呼ばれている.

3. リボソームタンパク質uS10のユビキチン化が品質管理機構RQCの誘導を惹起する

翻訳の伸長速度は,mRNAの安定性や新生ペプチド鎖の折りたたみとも密接に関わっており,翻訳伸長速度の低下が必ずしも異常な翻訳というわけではない.したがって,細胞は正常と異常を区別する指標,また異常な翻訳を品質管理機構へ導く機構を保持しているはずである.筆者らは,この問いに答えるべく解析を進めてきた結果,品質管理機構の誘導にE3ユビキチンリガーゼであるRqt1(ribosome quality control trigger factor 1)によるリボソームタンパク質uS10(40Sサブユニットの構成因子)のユビキチン化が必須であることを明らかにした7)

先にも述べたように,ポリリシンやポリアルギニン配列などの塩基性を示すペプチドは,強い翻訳停滞を引き起こすアレスト配列として認識されている.したがって,翻訳停滞は,人工的に設計したアレスト配列をレポーター遺伝子中に配置することで誘導させることが可能であり,翻訳停滞に起因する品質管理機構の解析は,アレスト配列を含むレポーター遺伝子から産生される全長タンパク質と,翻訳停滞の結果生じるアレスト配列までの翻訳産物(アレスト産物)の観察によって進められてきた(図2).野生株では,アレスト配列を持つレポーター遺伝子の発現は強く抑えられ,アレスト産物もプロテアソーム系により分解されるため観察することができないが,アレスト産物をユビキチン化するLtn1の欠損下では観察が可能となる(図2A).一方で,Ltn1の欠損にRqt1の欠損やuS10のユビキチン化部位への変異を加えると,アレスト産物の消失と全長タンパク質の増加が観察された(図2A).この結果は,アレスト配列上で起こっていたリボソームの解離が,Rqt1の欠損やuS10のユビキチン化を止めることで完全に阻害されることを示している.つまり,細胞はサブユニット解離させるべきリボソームにユビキチン化という目印をつけ,積極的に翻訳を強制終了させていることがわかる(図2C7)

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図2 翻訳停滞に起因する品質管理機構の誘導メカニズム

(A)アレスト配列R(CGN)12をコードするGFP-R12-FLAG-HIS3レポーター解析(Matsuo et al. 2017 Nat commun.より改変).(B)無細胞タンパク質合成系を用いた翻訳停滞リボソームの解析(Ikeuchi et al. 2019 EMBO J.より改変).(C)翻訳停滞に起因する品質管理機構の認識メカニズム.

では,解離させるべきリボソームを識別する際に,細胞はどのようにして正常と異常を区別しているのだろうか.細胞内のmRNA上では,複数のリボソームが同時に翻訳を行っており,この状態で先頭のリボソームが長時間停滞すると,後続のリボソームが追いつき,いわゆる交通渋滞のような状況に陥る.そこで筆者らは,これを無細胞タンパク質合成系で再現し,Rqt1によるuS10のユビキチン化を観察した.その結果,リボソームが衝突した“collided ribosomes”は,単独で停滞したリボソームに比べ効率よくユビキチン化されていた(図2B).これは,強い翻訳停滞によって引き起こされるリボソームの交通渋滞が,翻訳の異常を示す一つの指標になりうることを示している(図2C12, 13)

なお,本稿では述べないが,翻訳停滞によって引き起こされるmRNAの分子内切断(NGD)も,Rqt1の欠損によって完全に阻害される.しかし,uS10のユビキチン化部位への変異ではそのような阻害はみられないため,mRNAの分子内切断は,Rqt1による異なるリボソームタンパク質へのユビキチン化が関与していることがうかがえる.

また,ここで述べた結果は,出芽酵母を材料に筆者らが行ったものであるが,哺乳類細胞でもほぼ同様の結果が,MRCのHegdeらのグループによって報告されている8, 13).つまり,リボソームのユビキチン化を引き金とした品質管理機構の誘導は,真核生物で広く保存されたシステムであることを示している.

4. ユビキチン化に依存したリボソームのサブユニット解離

先にも述べたように,途中まで合成された新生ペプチド鎖は,60Sサブユニット上で認識され,ユビキチン–プロテアソーム系によって分解される.一方,Rqt1によるuS10のユビキチン化はタンパク質分解のシグナルにはならず,停滞したリボソームの解離を誘導する印になるわけだが,終止コドン非依存のサブユニット解離の分子機構はほとんど明らかになっていない.

non stop mRNAでは,翻訳中のリボソームがmRNAの3′末端で完全に停止し,空のAサイトに翻訳終結因子と相同性を持つDom34/Hbs1が結合することでリボソームの解離が誘導される.一方,ORF中で翻訳停滞したリボソームのAサイトには,まだmRNAが残っており,Aサイトのコドンに対応するtRNAがアクセス可能であるため,Dom34/Hbs1との結合が阻害される可能性が高い.実際にDom34の欠損は,Rqt1によるuS10のユビキチン化によって誘導される品質管理機構の効率に影響を与えない.また,リボソーム自身のユビキチン化がサブユニット解離の引き金になっていることからも,通常の翻訳終結とは異なる新たな分子機構が存在する可能性が高い.

筆者らは,これまでに,Rqt1に加え,品質管理機構の誘導に関与する3種類の新規RQT因子(Rqt2:RNAヘリカーゼ,Rqt3:ユビキチン結合タンパク質,Rqt4:機能未知)を見いだしている(図2A7).これらの因子は三者複合体(RQT複合体)を形成し,いずれも品質管理機構の誘導に必須である.さらに,Rqt2のATPase活性とRqt3のユビキチン結合能がリボソームの解離誘導に重要であることもわかっているが,その機能は不明である.

現在考えられうる仮説としては,1)Rqt1によるuS10のユビキチン化をRqt3が認識し,Rqt2がATPのエネルギーを利用してリボソームを直接解離させる可能性,もしくは,2)同一mRNA上で衝突したリボソームの構造変換を誘導し,サブユニット解離に関与する因子のリクルートを促している可能性があげられる(図3).いずれにせよRQT複合体の機能解明が,ユビキチン化に依存したリボソームのサブユニット解離の分子機構の解明につながるはずである.

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図3 ユビキチンに依存したリボソームの解離モデル

5. おわりに

近年,中枢神経系に特異的なtRNAの変異によって引き起こされる翻訳停滞がGTPBP2によって解消されること,またこの翻訳停滞の解消が阻害されることで神経細胞死を引き起こすことが報告された14).また,RQC複合体上の新生ペプチド鎖をユビキチン化するLtn1のホモログであるListerinも神経変性疾患マウスlisterの原因遺伝子として同定されており15),翻訳停滞に起因する品質管理機構の破綻が神経細胞死の引き金になりうる可能性が示唆されている.そのため,同機構の標的となる内在性因子の同定は,神経変性疾患の原因を理解する上で重要な基礎知識になることが期待されているが,現在のところ同機構の標的となる内在性因子に関する報告は,ポリA鎖だけである.したがって,翻訳停滞に起因する品質管理機構の生理学的意義を明らかにするためにも,内在の標的を同定することが今後の最も大きな課題である.

謝辞Acknowledgments

本稿で紹介した“リボソームのユビキチン化による翻訳の強制終了が新生ペプチド鎖の分解を誘導する”の研究は東北大学の稲田利文教授のもとで行ったものです.関係者の皆様に感謝いたします.

引用文献References

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著者紹介Author Profile

松尾 芳隆(まつお よしたか)

東北大学大学院薬学研究科助教.理学博士.

略歴

2006年奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科修了(理学博士),同年同COE研究員,08年Heidelberg大学BZHポスドク研究員,14年より現職.

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