「人は血管とともに老いる」といわれるように血管の老化と人の老化は密接に関わると考えられてきた.本稿では血管老化と個体の老化に関するこれまでの知見に加えて,血管内皮細胞の老化と老化関連疾患の関わりについて筆者らの研究成果を紹介する.
体温調節は動物の基本的な生体調節機能である.本稿では哺乳類の体温調節を担う中枢神経回路メカニズムを提示するとともに,その神経回路が感染,心理,飢餓などのさまざまな環境ストレスから生命を守るために機能するメカニズムを解説する.
腸球菌V型ATPアーゼは,ATP駆動型のナトリウムポンプである.我々は,その全体構造および本酵素が示す六つの反応過程の構造をクライオ電子顕微鏡法を用いて解析した.結果,本酵素特有の構造変化を明らかにすることができたので紹介する.
タンパク質の合成途上での翻訳停止は遺伝子産物の機能に重大な欠損を示すため,複数の品質管理機構で排除される.翻訳品質管理RQCが異常翻訳の実体である衝突リボソームを認識する分子機構と生理機能の理解が急速に進んでおり,最新の研究成果を紹介する.
近年,メガベーススケールの超長鎖ゲノム配列を,「切る・つなぐ・移す」染色体工学技術の開発が進み,ヒトやマウスの人工染色体も作製された.これらの技術と,別種の細胞に染色体を付与できる微小核細胞融合法を組み合わせた,染色体工学研究を紹介する.
脂質の三大機能として生体膜形成,エネルギー源,および脂質メディエーターが広く知られているが,筆者らは脂質が皮膚や涙液のバリア機能を担うことを報告してきた.今回,口腔バリア機能に長い炭素鎖を有するセラミドが重要であることを明らかにした.
神経細胞では局所翻訳と呼ばれる転写後制御機構によって,mRNAが翻訳される場所や時期が厳密に制御されている.本稿では,嗅神経細胞の軸索投射と神経成熟に必要とされることがわかったRNA結合タンパク質,hnRNPA/Bの働きについて概説する.
GPCRシグナル経路の光操作ツールとして利用される動物オプシンは,複数のシグナル経路を駆動するため,実験結果の解釈を困難にすることがある.本稿では,特定のシグナル経路を選択的に活性化する「精密バイアスツール」の特性を紹介する.
がん細胞に応答した線維芽細胞はリプログラムにより,CAFと呼ばれるがん増殖や遊走を促進するサブタイプへと分化する.CAFからがん細胞へ向けられるこのフィードバックシグナルが,正常な線維芽細胞のリプログラムにも働くことは盲点であった.
卵形成は,個体の状態や環境からの影響を大きく受ける.本稿では,栄養状態,交尾刺激,あるいは低温といった要因が卵形成にもたらす影響とそれに関わる分子機構について,生殖幹細胞への制御を中心に概説する.
著者らのPRMTsに関するさまざまな研究成果を概説し,胎生期および生後発達から脳の成熟後にまでタンパク質のアルギニン残基のメチル化が適切に制御を受け,神経細胞やオリゴデンドロサイトの発達・成熟に多彩で重要な役割を果たす内容を明らかにする.
腸内細菌叢は消化管を超えて宿主の生理機能を制御しているが,宿主の抗酸化能に対する寄与は,まだほとんど研究されていない.本稿では,生体内抗酸化物質である超硫黄分子の新たな供給源としての腸内細菌叢の役割と宿主の抗酸化能に対する寄与について概説する.
我々はイネ科植物が分泌するキレート剤(ムギネ酸)と鉄との錯体を輸送するYS1トランスポーターの基質認識と運搬の機構をクライオ電子顕微鏡と分子動力学計算の組合わせにより明らかにし,人為的ムギネ酸類縁体がムギネ酸と同様に機能することを示した.
細胞に対する機械的ストレスなどによって引き起こされる核膜の破壊について,核ラミナの主要な構造タンパク質であるラミンの核膜修復機構への関与が示唆されている.本稿では核膜修復におけるラミンA,CとBAF,およびcGASの動態について概説する.
COVID-19に対するmRNAワクチンに代表されるmRNA医薬は現在注目を集めている.しかし,その純度の低さから副作用が懸念されている.我々は高純度キャップ化mRNAの調製を可能とするPureCap法を開発したのでその手法を報告する.
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