ゲノム・エピゲノム情報を安定に維持しながら増殖することは,真核生物の生命維持に必須である.これらシステムの破綻は,がん,あるいは老化などの増殖異常症のみならず,生活習慣病などのさまざまな疾患の病因となることが最近の研究から明らかになってきた.
転写因子FOXO1は肝臓,膵臓,腸管,視床下部,骨格筋,脂肪組織,血管など種々の臓器において重要な代謝作用を担っている.これらの臓器におけるFOXO1作用をうまく制御することが,糖尿病やメタボリック症候群といった代謝疾患の新しい治療戦略につながることが期待される.
近年,肥満は喫煙と並ぶ重要な発がんリスクの一つであることが明らかになりつつある.しかし,その分子メカニズムについては不明な点が多い.本稿では肥満に伴う発がん原因の一つとして腸内細菌の代謝産物とそれが引き起こす細胞老化に着目した.
トロンボモジュリン(TM)は血管内皮細胞上でトロンビンを凝固酵素から抗凝固酵素へと変換する膜タンパク質である.現在遺伝子組換え体のTMが全身性の血栓症:播種性血管内凝固症候群(DIC)の治療薬として開発され,救命的効果を発揮しつつある.
タンパク質のフォールディングはいつも「理想」的に進むとは限らず,多くのタンパク質が「現実」には凝集を形成する.本稿では,我々の凝集形成の網羅解析などを紹介することでタンパク質ワールドにおけるシャペロンの役割について考察する.
生物は外界からのストレスに対する防御・適応機構(ストレス応答)を持っている.その機能障害はがん,神経変性疾患,免疫疾患,動脈硬化・代謝疾患,精神疾患などの疾患や老化と関連するが,最近,大脳皮質形成との関連性が注目されている.
植物の葉緑体とシアノバクテリアが持つガラクト脂質の合成経路はそれぞれ異なり,シアノバクテリアではグルコ脂質の異性化により作られる.真核光合成生物を生み出す細胞内共生の過程で糖脂質合成系が入れ替わったという謎の解明はこれからである.
DNAミスマッチ修復系は,複製の誤りとして生じたミスマッチ塩基対を修復する反応系である.この反応系では,MutLタンパク質がエラーを含むDNA鎖を切断する.MutLのDNA切断活性にミスマッチ特異性を付与する巧妙な制御機構を概説する.
硫化水素の産生経路としては,L-システインから産生されるものが知られていたが,新たにD-システインから産生される経路が明らかとなった.D-システイン経路を利用すれば,効果的な細胞保護効果を期待できる.
昆虫は多様な興味深い生得的行動を示す.幅広い昆虫種で保存された神経活動のマーカー遺伝子Hr38を同定し,昆虫の脳で性行動時に活動した神経細胞の包括的分布を明らかにした.多様な昆虫の生得的行動の理解に重要なツールとなることが期待される.
最近,さまざまな組織透明化法が開発され,簡便に組織の3次元蛍光像が得られるようになりつつある.本稿では近年開発された組織透明化法について解説するとともに,「結局どの方法がよいの?」というよくある質問にも答える.
近年,長鎖非コードRNAが細胞運命決定において重要な役割を担っていることがわかってきた.本稿では,ANRILによる細胞増殖制御機構と,PANDAによるアポトーシス制御機構について,筆者らの研究成果を中心に,最新情報をあわせて概説する.
バクテリオクロロフィルbは天然色素類の中で最も長波長帯の光(近赤外光)を吸収できることから産業利用が期待される.本稿では,近年明らかとなった光合成細菌内での本色素の生合成経路,および生合成系改変による本色素の大量産生へ向けた取り組みを紹介する.
近年,NAD+合成系とサーチュインに代表されるNAD+消費酵素に関する研究が爆発的な勢いで展開され,多彩な生物学的局面におけるNAD+の病態生理学的重要性が明らかにされてきた.ここでは.老化関連疾患における,哺乳類NAD+合成系の役割と治療標的としての可能性を最新の知見をもとに紹介する.
神経幹細胞は,発生期から成体に至るまで脳の中に存在し,脳の形成と可塑性の維持に必須の役割を担っている.神経幹細胞の維持・増殖・分化を制御するメカニズムおよび,生後脳・成体脳でのニューロン新生の生理的意義について最新の知見を紹介する.
アフリカツメガエル胚は背側と腹側で半割にすると,背側の半割胚から半分サイズの相似形を保ったオタマジャクシが発生する.このような,胚サイズの擾乱に対する頑強性は,濃度勾配が胚サイズ依存的にスケーリングされることにより保証されている.
脱ユビキチン化酵素CYLDは,炎症応答やがん化に関連するシグナル伝達経路を制 御する重要な分子であるが,CYLD自身の詳細な発現調節機構は不明であった.本 稿では,最近明らかになったCYLDの新たな発現調節機構やCYLDを標的とした新 規治療戦略について紹介する.
転写抑制補因子SHARPとSMRTの複合体形成において,ユビキタスなキナーゼであるCK2によるSMRTのリン酸化が,親和性を劇的に増大させ,転写調節の分子スイッチとして働くことを見いだし,リン酸化の分子認識機構を構造解析によって明らかにした.
This page was created on 2023-12-19T07:25:03.118+09:00
This page was last modified on 2023-12-19T07:59:28.155+09:00