脳の層構造や神経核形成には神経細胞が正しい経路,方向に移動し,停止する必要がある.経路の決定には物理的基質や誘引,反発性分子の分布が,方向には長距離作動性誘引性分子の分布やそれに対する反応性制御が,移動終了には内在的機構が重要な役割を果たす.
遊離ヘムの代謝はヒト体内の鉄動態や酸化ストレス応答に大きく関わる.植物などでは光合成や光応答に関する色素の合成系でもある.この代謝系の主要な酵素であるHO,CPR,およびPcyAについて,筆者らの立体構造に基づく生化学研究を中心に紹介する.
最近N型糖鎖およびその前駆体から遊離される,構造上N型糖鎖と類似性を持つ遊離の糖鎖(遊離N型糖鎖:FNG)がさまざまな生物種で生成することが示されてきている.その多様な生成,分解機構について最新の知見を紹介する.
一酸化窒素(NO)は生理的および病理的な諸過程を制御する細胞内・細胞間情報伝達系因子として働くことが,動植物において知られている.本稿では,植物において病原菌の攻撃に対する防御応答時に生成されるNOの機能について概説する.
オプトジェネティクスという名の技術が脳科学を席巻しているが,本技術は生化学,細胞生物学にも開かれた技術であることをご存じだろうか.本技術は細胞内,細胞小器官内のpHを操作しうるツールであり,さまざまな応用が可能である.
アストロサイトは灰白質で最も数の多いグリア細胞である.その機能として,神経細胞の支持という古典的役割に加え,「シナプス可塑性の促進」と「微小循環の調節」の二つが提起されている.これらについて最近10年の間に発表された研究を紹介する.
がん抑制遺伝子産物ARFの新規結合タンパク質p68/DDX5の機能解析により得られた結果を中心に,ARFによるp53非依存的な発がん抑制機構について紹介する.
老化に伴うプロテアソーム活性低下とミトコンドリア障害は,神経変性疾患への関与が示唆されている.筆者らは,プロテアソーム阻害における細胞内局所のレドックス状態解析に基づき,プロテアソーム阻害がミトコンドリア障害を引き起こす機構を明らかにした.
膜内切断プロテアーゼは1回膜貫通タンパク質の膜貫通領域を限定分解する.膜内での切断機構は,アルツハイマー病との関連から解析され,理解が進んできた.本稿では,筆者らが開発した酵母発現系を用いたγセクレターゼの研究を紹介する.
筆者らは,成体期でも常時新生されている嗅球介在ニューロンにおいて,神経活動依存的に発現する転写因子Npas4遺伝子がダブルコルチン(微小管結合タンパク質)の量を調節することで,シナプス形成の度合いを制御するという新規の分子メカニズムを解明した.
炎症は多くの疾患と関連する生体反応であり,重要な研究対象となっている.ゆえに炎症の実態を検出できる技術の開発は必要不可欠である.最近,我々はIL-1βの2段階制御を利用して炎症を生体レベルで可視化できる技術を確立したので紹介したい.
脊髄後角神経回路は体性感覚の情報処理に重要な役割を果たす.本稿では脊髄後角にみられる局所神経回路とその意義についての最近の知見を解説するとともに,脊髄後角ニューロンのin vivoカルシウムイメージングによる神経回路網解明のアプローチについて紹介する.
さまざまな造血器腫瘍の病態に深く関わるPU.1発現低下の意義を明らかにするため,PU.1標的遺伝子の同定を試み,明らかとなったアネキシン1,メタロチオネイン(MT)を紹介する.そしてMTの骨髄球系細胞分化における役割について概説する.
TRPA1は刺激性物質やROSによる痛みの発生に関与する.筆者らは抗がん剤による末梢神経障害および正座後に経験するしびれの分子機構を解析し,いずれもプロリン水酸化酵素抑制によるTRPA1のROSに対する過敏化が関与することを見いだした.
N-アシルエタノールアミンは抗炎症や鎮痛,食欲抑制といった生物作用を示す一群の脂質メディエーターである.本稿では,N-アシルエタノールアミンとリゾホスファチジン酸(LPA)を生合成する新規リゾホスホリパーゼD型酵素について紹介する.
RNA結合タンパク質FUSは,筋委縮性側索硬化症で遺伝子変異集積が同定され,その機能,病態への関与について,大きな注目を集めている.本稿では,次世代シークエンサー解析の発展により見いだされたFUSによるRNAプロセシング制御機構の詳細を紹介する.
leucine rich-repeat kinase 2(LRRK2)は,常染色体優性パーキンソン病の原因分子である.本稿では,近年明らかとなってきたLRRK2によるTauの異常リン酸化機構について紹介する.
細菌はストレスにさらされるとリボソームを二量体化し,タンパク質合成活性を持たない100Sリボソームを形成する.この機構は細菌が自然環境を生き延びる上で非常に重要である.本稿ではこのリボソームの休眠段階を組み込んだリボソームサイクルを紹介する.
構造異常糖タンパク質はマンノースの刈り込みを経て分解へと導かれる.我々は最近,このマンノーストリミングの実行酵素を特定した.また,重度な構造異常を持つ糖タンパク質は,マンノーストリミングに依存せず強制分解されることも見いだした.
細胞内にユビキチン鎖結合タンパク質を発現させることで,ポリユビキチン化した状態の基質タンパク質を安定に保つという発想に基づき,ユビキチンリガーゼの基質の同定法TR-TUBE法を開発したので紹介する.
国産のマイクロチップ型セルソーター“On-chip Sort”を用いた,がん患者の血液中に微量に存在する血中循環腫瘍細胞(circulating tumor cells:CTCs)の検出・単離方法について紹介する.
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