神経シナプス小胞よりはるかに遅い分泌反応を示す,内分泌細胞分泌顆粒の開口放出については,神経シナプス小胞とは異なる律速段階,分子機序があるはずであるが,未解明な点が多い.本稿では,歴史的な研究経緯を含め,現時点での知見を概説する.
四つのサポシン(SAP)A,B,C,Dはリソソーム内でプロサポシン(PSAP)から生成される.ヒトではPSAP欠損症に加え,SAP-A,B,Cの各単独欠損症の報告があり,それぞれ,クラッベ病,異染性白質ジストロフィー,ゴーシェ病に類似した病像を呈する.
神経回路の多様性を拡張するための進化的に保存された発生戦略inter-progenitor pool wiring について,哺乳類とショウジョウバエの脳に着目して比較議論する.
上皮細胞は隣り合う細胞と接着することで上皮細胞シートを形成している.上皮細胞接着装置の機能は多細胞生物が成り立つための基本原理であることから多くの研究者の興味を引いてきた.本稿では,本研究分野のこれまでと最新の知見を交えて概説する.
痛みには体内外のさまざまな刺激を識別する感覚受容の側面と不安,恐怖,過去の記憶などに影響される情動認知の側面がある.本稿では,痛みに関係する機能分子と生体の精緻な仕組みに焦点を当てて最近20年間の痛みの研究の進歩について紹介する.
神経伝達物質の小胞充填機構の研究は,これまで単離小胞等を用いた生化学的解析が主であった.本稿では,生細胞の小胞内pHライブイメージングによって明らかとなった最新の知見を紹介する.
SSLはスーパー抗原と共通の立体構造を持ちながらスーパー抗原活性を示さない黄色ブドウ球菌の分泌毒素ファミリーである.生理機能は不明であったが,SSLファミリーは宿主の免疫系を標的とし,黄色ブドウ球菌の免疫回避に関わることが明らかになってきた.
ある種の常在細菌や病原細菌は,宿主動物に対して共生や感染する際,宿主の細胞外マトリックスであるグリコサミノグリカンを定着や分解の標的とする.本稿では,病原細菌によるグリコサミノグリカンの断片化・輸送・分解・代謝に関わる分子機構を概説する.
膜タンパク質は疎水性ドメインを生体膜に挿入して機能するタンパク質である.しかし疎水性ドメインが細胞質に露出すると,不適切な相互作用を引き起こし,凝集体形成の原因となる.本稿では細胞質に露出した膜タンパク質の品質管理システムについて概説する.
多種のがんでがん細胞の増殖,浸潤,転移に関わるがん抑制遺伝子NDRG2は,ストレス応答因子としてPTENを含むさまざまな重要な情報伝達物質と結合し,PP2Aアダプター分子としてリン酸化シグナルを負に制御する,ストレスと発がんの鍵分子である.
乳児の健康な発育のために,母乳中には多量の亜鉛が分泌される.本稿では,亜鉛を供給する亜鉛トランスポーターの遺伝子変異により母親が低亜鉛母乳を分泌した結果,母乳哺育児が発症した亜鉛欠乏症について概説し,乳児栄養における亜鉛の重要性を紹介する.
適切なタンパク質分解機能の維持のため,プロテアソームは多様な活性制御を受けることが知られている.本稿ではプロテアソーム転写因子Nrf1の活性制御に着目し,最近明らかとなったNrf1を介したプロテアソーム発現制御機構について概説する.
膜タンパク質PGRMC1がヘムと結合して新規の二量体構造(heme stacking dimer)を形成することにより,がん増殖や耐性に関わることを解明した.
ペプチドホルモンをはじめとする生理活性ペプチドは,細胞間で働く重要な調節因子で,新規ペプチドの発見はさまざまな波及効果をもたらす.質量分析法の進歩に着目し,内分泌細胞の分泌ペプチドプロファイルから生理活性ペプチドの発見に至った研究を紹介する.
間期の接着形態が細胞分裂方向を決めることが報告されたが,分子機構は10年来不明であった.間期細胞が分裂期に球状化する過程でコレステロールリッチな膜が形成され,紡錘体の牽引する分子複合体の足場となり,細胞分裂方向が決定することを明らかにした.
多能性幹細胞は分化細胞とは異なる代謝機構を有し,その特殊な代謝状態は未分化性の維持や自己複製能などに深く関与している.本稿では,ヒト多能性幹細胞の維持および分化制御におけるメチオニン代謝の役割について解説する.
マクロファージは病原体の感染に対する防御だけでなく,肥満・糖尿病など生活習慣病の発症につながる「慢性炎症」の制御にも重要である.最近,マクロファージの細胞機能としての炎症応答は,細胞内の脂肪酸代謝と密接に関連していることが明らかとなった.
近年,高度な技術発展と先人たちによる知見の蓄積により,長年の謎であった睡眠のメカニズムとその意義が徐々に明らかになってきている.本稿では我々の研究を中心に,睡眠が我々にもたらすものとは何か,最近の知見を交えて概説する.
褐色脂肪細胞とベージュ脂肪細胞はともに,代謝的熱産生を行う特殊な脂肪細胞であり,肥満予防のための刺激標的として期待が持たれている.本稿では,両脂肪細胞の発生起源や制御機構,抗肥満効果の有無について,最新知見を解説する.
膵β細胞からのインスリン顆粒の開口放出にはSNAREタンパク質が重要な役割を果たす.本稿ではSNAREタンパク質の一つであるSNAP23の膵β細胞における機能と,我々が同定したSNAP23結合化合物のインスリン分泌に対する効果を紹介する.
抗原刺激で活性化されたBリンパ球は形質細胞への分化,IgM抗体から他のアイソタイプへ変換するクラススイッチおよび,記憶B細胞への分化から運命を選択する.この選択をつかさどる転写抑制因子Bach2の役割とBach2が調節される機構を紹介する.
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