細胞競合という現象において,異常とみなされた細胞は組織から排除されるが,同時に異常細胞の周辺に存在する細胞は,その状況に応じて補償的に増殖や肥大成長することにより排除された異常細胞を補う.これによって細胞競合は組織恒常性の維持に貢献している.
Shootin1はクラッチ分子として重合・脱重合を繰り返すアクチン線維と細胞接着分子を連結することで細胞と細胞外基質の間に牽引力を生み出す.さらに,この力の発生はシグナル伝達によって調節を受ける.本稿では,最近のShootin1の解析を通じて明らかとなりつつある神経細胞の極性形成,軸索ガイダンス,細胞移動そして新たな細胞内分子輸送機構アクチン波の分子メカニクスを解説する.
食物消化時の胃はpH 1という強酸性状態になる.胃酸分泌を担う胃プロトンポンプの結晶構造から,このイオンポンプが強酸性環境を作り出す分子メカニズムの一端が明らかになってきた.
近年の研究で,生後の脳にも神経幹細胞が存在し,新しいニューロンが産生されることが明らかになった.本稿では,この新生ニューロンが脳内の目的地へ向かって長距離を移動し,脳の可塑性や傷害後の再生に関与するメカニズムや意義について概説する.
典型的カルパイン分子中に見いだされたpenta-EF-hand(PEF)ドメインを持つALG-2は,ESCRTシステムや小胞体-ゴルジ体間小胞輸送調節に働いている.相互作用因子認識機構と機能について他の関連タンパク質と併せて紹介する.
NaVチャネルは,神経インパルスを生み出す分子である.したがってNaVチャネルは,神経系を持つ動物の起源と進化に重要な役割を果たしたと考えられる.本稿は,ヒトに至る動物の系統進化に沿ったNaV チャネルの分子進化史を概説する.
マイトファジーは,ミトコンドリアをオートファジーによって選択的に分解するミトコンドリアの品質管理機構である.最近の研究から,マイトファジーを制御しているマイトファジー受容体Atg32のリン酸化分子機構が明らかになってきた.
心臓のK+チャネルKCNQ1は,KCNEと呼ばれる補助サブユニットによって大きく開閉の性質が変化する.KCNEによるKCNQ1チャネルの機能調節メカニズムと,KCNQ1-KCNE複合体の多様な分子構成(ストイキオメトリー)について紹介する.
異なるオルガネラ間で,膜間コンタクトサイト(CS)が次々に見つかってきている.酵母の小胞体-ミトコンドリア間CSのERMESを例に,SMPドメインを持つCS構成因子が,リン脂質の膜間輸送を行う仕組みと,今後の課題について考察する.
がん細胞内におけるATP産生は細胞質内の解糖系により担われていると長らく信じられてきたが,筆者らの最近の研究よりHER2陽性乳がんの場合ではミトコンドリアで産生されたATPがクレアチンシャトルを介して効率よく細胞質内へと運ばれていることが明らかになった.
膜結合型プロテオグリカンであるグリピカン‒6は,常染色体劣性骨格異形成症の原因遺伝子として報告された.本稿では,この病気の原因と考えられるグリピカン‒6によるヘッジホッグシグナル伝達制御機構について紹介する.
多くの生物において,配偶子形成過程は,個体内外の環境状態の影響を受ける.本稿では,ショウジョウバエのメス生殖幹細胞の研究から近年明らかになった,環境依存的に生殖幹細胞を制御する仕組み,中でも交尾刺激を伝達する神経内分泌系の役割を概説する.
最近の研究では,リボソームが分子修飾されることで遺伝子発現に影響を与える例が報告されている.本稿では,翻訳停滞したリボソームのユビキチン化が翻訳の強制終了,ならびに途中まで合成された新生ペプチド鎖の分解を誘導する機構について議論する.
多くの生命活動に関わるタンパク質複合体の人工的デザインを目指して,タンパク質の対称性および自己組織化能力を活かした人工タンパク質ナノブロックを設計開発し,多様なナノ構造のタンパク質複合体を創出してきた例を紹介する.
ピリドキサールリン酸は,アミノ基転移,ラセミ化,脱炭酸などの多彩な触媒反応に関わるが,どの反応を引き出すのかを決定するのは酵素であり,補酵素を取り巻くアミノ酸残基群である.その仕組みが量子化学計算によって解き明かされつつある.
RIPK3は新規炎症性細胞死ネクロプトーシスの誘導に必須のキナーゼであるが,近年それ以外にも多様な機能を持つことが明らかとなってきた.本稿ではRIPK3の分子機能と炎症性疾患との関わりについて概説したい.
ミトコンドリアの融合と分裂は,その品質管理に関与することが明らかになり,大きく注目されている.本稿では,哺乳動物におけるミトコンドリアの融合,特にOPA1とリン脂質カルジオリピンによる内膜融合の制御機構に関して我々の知見を踏まえ概説する.
近年,生体膜を実装したマイクロチップは,膜タンパク質の超高感度な機能解析を実現するだけでなく,ナノポアDNAシークエンサーなどの革新的なバイオ分析装置へと発展しつつある.本稿では,我々が開発したチップとともに,それらが実現した脂質輸送体の1 分子計測について紹介する.
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